41. 宮崎・鹿児島・熊本の観測所

近藤 純正

地球温暖化の資料収集と観測所周辺環境の視察を目的として、今回2005年 4月17日から23日にかけて宮崎県、鹿児島県、熊本県内の各地方気象台とアメダス のほか、九州沖縄農業研究センターなどの気象観測露場を見てまわった。 同時に古い気象資料を入手することができた。 前もって国土地理院の地図から、グローバルな気候変動の観測所として 適当と思われるアメダスに見当をつけてから出発し、現地で最終的な判断を 行うことにした。
今回とくに感じた点は、(1)農業研究センターにおける観測露場は広くて よいこと、(2)観測露場周辺の空き地を不要とみなしてすぐ売払ってしまおう とする財務局(政治・社会)の貧しい現状、(3)地球環境問題に対して 一般人(市役所や役場の人々を含む)がよく知っており、気象観測の重要性 についての私の話し掛けに理解を示してくれたことである。
(2005年5月5日完成)

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  	  もくじ
		(1)宮崎地方気象台
		(2)都城アメダス
		(3)宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場(都城市横市町)
		(4)九州沖縄農業研究センター畑作部(都城市月之原台地)
		(5)小林アメダス

		(6)鹿児島地方気象台
		(7)熊本地方気象台
		(8)三角アメダス
		(9)九州沖縄農業研究センター(熊本県西合志町)	
(1)宮崎地方気象台
4月23日(日)の午後1時ころ宮崎空港に到着。その午後はJR宮崎駅構内の 観光案内所で教えてもらって、「鬼の洗濯板」で有名な青島方面へ観光に 出かけた。
24日の朝、宮崎地方気象台を訪問した。前もって連絡してあったところ、 防災業務課の竹内憲一郎さんに玄関で迎えてくれて、気象台長・鈴木和史 さんに紹介していただいた。午後3時ころまでに古い気象資料の書き写しが 終了した。

宮崎気象台
(左)宮崎地方気象台全景、左方に地上気象観測露場。 (右)風力塔から見下ろした地上気象観測露場。

宮崎気象台の周辺
(左から)宮崎地方気象台の風力塔から眺めた北方向、東方向、南方向、 西方向の風景。東と南の隣接空き地は旧宮崎公立大学跡地。

気象台は市街中心部に近い宮崎市和知川原町にあったが、2000年5月24日 に現在地の宮崎市霧島5丁目に移転している。移転当時は、気象台前の道路 は狭かったが、その後拡幅された。ここは、元の宮崎公立大学があった 場所で、気象台の東側と南側の跡地には建物は無く、現在までのところ緑地と なっている。

(2)都城アメダス
タクシーに乗って行ってみると、都城市にあった元の都城測候所は、無人の アメダスとなっていた。 ここは都市域内であり、周辺には学校、運動公園、住宅地がある。

都城アメダスの周辺
都城アメダスの周辺。(左から時計まわりの方向へ)総合運動公園、 旧測候所庁舎跡地(売払予定地の看板が立つ)、風力塔と露場、東方向、 南方向の風景。

アメダスの風力塔と気温などの観測露場はフェンスで囲まれ、それ以外の 旧測候所庁舎跡は整地され、道路脇に「売払予定地(九州財務局 宮崎財務事務所管財課)」の立て看板があった。

この跡地に、たとえば住宅が建設されると露場の周辺は風通りが悪くなり、 気象観測値、とくに気温はごく局地の値しか代表しなくなる。アメダスは 約20km間隔で配置されているので、1地点は10~20km範囲の 気象が代表できれば理想的である。

私はこの看板を見たとき、日本の政治・社会の貧困さを感じた。アメダスの 敷地はせめて売払予定地の広さが確保されればよいのに、使用されなく なったからといって、すぐ売払ってしまう現状は悲しむべきことだ。 みんなで「広域の気候変動・環境モニターを行う気象観測露場は 広さが必要である」という認識を持つべきだろう。このことを財務局にも 訴えなければならない。

(3)宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場(都城市横市町)
タクシーで都城市月之原台地の観測露場に向かう途中、日の丸の旗が掲げられ た新しい庁舎と広い農場が見えたので、これが九州沖縄農業研究センター 畑作部だと思って立ち寄った。庁舎とビニールハウス群に囲まれた場所に 気象観測露場があった。畑は広大なのに、庁舎近くに露場を設置したのは 管理等の便宜からであろうが、露場は風通りが悪い状態になっている。

宮崎県農試
宮崎県農業試験場の気象観測露場。

状況を尋ねようとして管理・研究棟に入ると特別研究員・平木永二さんが 対応してくださった。いろいろ質問しているうちに、ここは県の試験場 であり、国の施設・月之原台地の露場は向かいの方向だと教えられた。 当初の目的地ではなく、間違っていたことにやっと気づいた。でも、 ここの観測露場も見学できてよかった。

(4)九州沖縄農業研究センター畑作部(都城市月之原台地)
月之原台地の気象観測露場に登ってみると、そこは広々としており、気象観測 の適地だと思った。

月之原台地観測露場
月之原台地の気象観測露場。

当地における気象データについては、前もって連絡してある熊本県西合志町 にある九州沖縄農業研究センター気象特性研究室の研究室長・大場和彦さん から入手できることになっている。

当初の予定では、ここから小林アメダスまではJRで行き、今夜中に鹿児島到着、 明日は鹿児島地方気象台訪問のつもりであった。 熊本の気象台でのデータ書き写しに要する時間が不明で、2日間ほど掛かる かもしれず、鹿児島地方気象台の見学を今日中に終えておきたいと考えた。 都城~小林方面へのJR吉都線は日中は2時間間隔の運転なので、そのままタクシー で小林まで行ってもらうことにした。

(5)小林アメダス
小林アメダスは街外れの丘陵地にある陸上競技場と野球場の近くにあった。 見晴らしがよく、市街地を遠くに見ることができる。アメダス付近から見下ろ すと、この運動公園一帯を取り巻く道路があり、その下方には 農地が広がり、散在する人家もある。

小林アメダス
小林アメダス。(左から)北東方向、南東方向(後方は陸上競技場)、北東 方向を見下ろした風景。

私が小林のJR駅で下車すれば、タクシーは小林から都城まで空車で帰ること になる。そこで交渉によって、ここまでの運賃1万3千円を支払うことにして 都城までの引き返しは運賃無料のサービスをしてもらった。そのため、 時間が短縮できて鹿児島地方気象台への到着はこの日の午後3時ころと なった。

(6)鹿児島地方気象台
鹿児島地方気象台は新しい合同庁舎へ移転し、観測露場も新しく なっていた。総務課を経て気象台長室へ案内されると下山紀夫台長がおられて 驚いた。昨年(2004年)11月に長野地方気象台の台長室でお会いしたばかり だったからである。

私が鹿児島地方気象台を訪問した目的は、数年前に観測を中止した 蒸発計蒸発量(パン蒸発量)の観測が露場のどの位置で行われていたか、 そのごく近傍の環境(家の建てこみ具合など)を知ることであった。 パン蒸発量は世界的に見ると、時代とともに減少しているという説があり、 他方では、一部の地域では増加しているという説もある。これを広域の気候 変動・水循環と関わった大問題だと考えている研究者が存在する。

しかし私は、パン蒸発量の長期変動は気象観測露場のごく局地的な環境変化 による影響が大きいと考えている(「研究の指針」の 「10.都市化の判定基準」の10.4節を参照)。つまり、気象台周辺が 建てこんでくると、露場の蒸発計付近の風速が弱まりパン蒸発量は減少 することになる。一方、都市化によって周辺が温暖化すればパン蒸発量 は増加する。これら両方の効果の大小関係に依存して、パン蒸発量は長期的 に減少傾向となるところと増加傾向となるところができる。

旧気象台時代のことに詳しい主任予報官・高橋隆三さんの 話によれば、旧気象台の周辺は時代とともに都市化されてきた。パン蒸発 量の観測は旧庁舎から新合同庁舎に移転する際に中止した。旧観測露場 の跡地には新しい建物が建てられており、以前の名残はない。 このことを知り、私は旧気象台跡を見に行くことをあきらめた。

鹿児島気象台
(左)南鹿児島駅から気象台へ向かう途中の風景(屋上に白色ドームのある 建物は気象台が入っている合同庁舎、(右)気象台屋上から見下ろした 観測露場と駐車場。

鹿児島気象台屋上からの眺め
鹿児島地方気象台屋上からの眺め。(左から)北方向、東方向(遠くの山は 桜島)、南方向、西方向の眺め。

観測予報課長・横田茂樹さんの案内で合同庁舎屋上に上り、周辺を見渡した。 東の方向に桜島を見ることができた。

(7)熊本地方気象台
翌日(4月20日)の朝、鹿児島中央駅から新幹線で新八代を経て熊本へ 向かった。熊本地方気象台へは午前9時ころ着く予定である。ところが、 当日朝の福岡付近で発生した大きな地震の影響により、新八代からの乗り継ぎ 連絡の特急列車が動かなくなっており、やむなく普通列車で熊本へ向かった。 予定より40分程度遅れて熊本地方気象台に着いた。

熊本での仕事は古い気象データの書き写し作業である。前もって 西本洋相台長を経て防災業務課課長・衛籐幸夫さんに連絡してあったところ、 必要な資料は準備されてあった。累年気象表の形式で整理された資料が あり、午前中に仕事は終った。古い気象資料の整理方法は気象台ごとに 違っていた。

熊本気象台の露場
熊本気象台風力塔から見下ろした露場。

熊本気象台屋上からの眺め
熊本地方気象台風力塔からの眺め。(左から)北方向、東方向、南方向 (遠方に熊本城:赤の矢印)、西方向の眺め。

風力塔に登り、周辺を観察した。南の方向に熊本城が見えた。この気象台は 古い建物であり、近年中に都市中心部に近い所に建設予定の合同庁舎に 移転するという。

(8)三角アメダス
熊本地方気象台での仕事が予想外に早く終ったので、三角 アメダスの見学はその日(20日)の午後にできた。

JR三角線の終点・三角駅で下車し、気象台でもらった地図を頼りに 三角中学校へ向かって歩き始めると、タクシーの運転手が近づいてきて 「どちらまで行かれますか?」と問うので、「三角中学校まで」と答えた。 「三角中学校は相当遠いですよ!」と言うので、私は「三角中学校はあの 山の上にあり、この地図には歩いて15分と書いてあります」と応答した。 「元の三角中学校は最近廃校になり新中学校は遠方にできた・・・・」 と教えられたが、アメダスは移転していないはずなので、歩いて行く ことにした。

坂道を登っていくと、人家はほとんどなくなり、標高60mほどの 山の尾根部分に広い運動場、大きな校舎、体育館などがあった。 校門の右手にアメダスがある。 アメダスの南側には道路を挟んで墓地がある。墓地からは三角東港と 市街域を見下ろすことができ、気象観測所としては適地である。

しかし残念なことに、アメダスを囲むフェンスから1~2mの範囲内 には小さな植木8本、3m離れて桜の木があった。桜はのびて、切り落と したと思われる枝の切り口がいくつもある。 東側には2m離れて8m×5mの壊れかかったプレハブ物置がある。 物置の壊れた壁面から中を覗くと現在は利用されていないようだ。

南西側には2mほど離れて門柱とブロック塀(4段×10列)がある。 北東側は広い運動場があり広域的には適地であるが、ごく近傍における これら物置と桜と小さな植木が気象観測には邪魔と思う。桜のほか小さな 植木の生長が気掛かりである。

植木が生長してくると露場の風通りが悪くなり、陽だま り効果を生む可能性があり、気温の観測値は10m程度の範囲しか 代表しなくなる。植木は小さいうちに他所へ移植することが望ましい。

私が三角支所(旧三角町役場は市町村合併により2005年1月15日から宇城市 三角支所となる)の総務課長・永木 伸さんを訪ね、今回三角アメダスを視察 することとなった目的を話すと、地球温暖化問題のことはよくご存知であった。 広域の温暖化を監視する気象観測所の中で、三角アメダスのような適地に 設置されているものは少なく、しかも三角では明治時代から気象観測が 行われており、三角のデータは貴重であることについてよく理解 していただけた。

気象台から、気象観測に不都合となっているアメダス周辺の桜の木などの 伐採の御願いが出されれば、市でも検討しますとの回答を得た。

桜の木の伐採と植木の他所への移植、さらにプレハブ物置の撤去を行い 風通りがよくなれば、理想に近い気象観測所になると思った。

三角で気象観測が開始されたのは三角小学校であり、そこは現在のアメダスが 設置されている山の続きにあり、標高は若干低いが周辺は人家がほとんど なかった場所だと教えていただいた。その意味で、三角は適地で気象観測 が行われてきた。

旧三角中学校への道
(左)旧三角中学校校門への道から見たアメダス(正面中央の桜の木の向 こう側)、(右)その道のガードレールから右方を見ると建設中の新道がある (新道はふもとの病院へ通じる。電柱の左側は旧三角中学校の運動場)。

旧三角中学校運動場
旧三角中学校の校舎から南方を眺めた運動場。運動場の南西隅にアメダスが ある。右手にプール(見えない)、その手前が体育館。

運動場から見たアメダス
運動場から見たアメダス周辺の近接写真。左から、壊れかけたプレハブ物置、 アメダス、校門。

墓地と港
(左)南側の墓地から見たアメダス、(右)墓地から南方向を見下ろした 三角東港。

総務課長・永木 伸さんによれば、旧三角中学校校舎の跡地については 地元の病院のリハビリセンターとしての利用案があったが、病院側にとって 校舎内部の改装費用の負担が大きいという問題があり、現在は白紙の状態 であるとのことである。

(9)九州沖縄農業研究センター(熊本県西合志町)
4月21日の朝、JR上熊本駅にて熊本電鉄に乗換え、北熊本駅を経て電波高専 前駅で下車。その向かい(西)側の広い敷地が農業研究センターであった。 本館5階の気象特性研究室を訪ねると研究室長・大場和彦さんが必要な気象 資料を揃えてくれてあった。

都城の月之原台地については1961年から、この西合志については 1952年からの気象観測データがある。最近は自動連続気象観測となり、 日平均気温、最高・最低気温などが整理されているが、それ以前 は毎日の最高・最低気温のみの観測であった。以前の最高・最低気温データ を日平均気温に補正・変換するに必要な約10年間のデータのみ書き写し、 それ以外は印刷物とプリントしたものを頂いた。

研究員の丸山篤志さんの案内で観測露場を視察した。露場内にはデータ収録室 があり、ここで自動記録されているという。次いで、CO2フラックスの 観測場を視察した。ちょうど器械による草刈り中であったので接近できず、 超音波風速計などは望遠写真で観察した。さらに、本館屋上から眺めると、 このセンターの敷地は広大であると感じた。

航空写真を見せていただくと、試験場敷地の南西部分の形状は欠けて いるが、敷地は東西1,200m、南北約1,500mのほぼ四角形である。 敷地の東側を南北に走る道路をはさんで、熊本電波高専、養護学校、国立病院 などがある。北方には住宅地が広がっている。 なお、写真後方(南方)にある熊本市街部と西合志町の間は緑地と住宅地 などが散在した地域となっている。

西合志観測露場
西合志の観測露場。(左)北から見た露場、(中)南から見た 露場、(右)研究センター本館屋上から東方向に見た露場の望遠写真。

西合志観測露場周辺
南方向から撮影した観測露場周辺の航空写真、赤色の2つの矢印で挟まれた 範囲が観測露場、黄色の矢印はデータ収録室。 なお、農業研究センターの周辺域も含む航空写真は「研究の指針」の 「11.温暖化は進んでいるか(2)」の図11.10に掲載してある (写真は九州沖縄農業研究センターの提供)

フラックス観測装置
二酸化炭素フラックスの観測装置。(左)遠景、(右)望遠写真。

西合志試験場の気象観測露場:
緯度=北 緯 32度52分52秒
経度=東経130度44分19秒
標高=87m

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