E, VCT, 3.5mm2)、
上から2芯、3芯、4芯ケーブル
注意1: 3線式Pt100センサの温度計でケーブルが長い場合、検定は全ケーブル
を接続した状態で行なうこと(次項の実験を参照)。
注意2: 抵抗値が大きいPt1000センサの場合は、ケーブル内の温度ムラの
観測精度に及ぼす影響は微少になる。それでも、観測条件の厳しい野外では、ケーブルは
図135.6に示すように縄構造(より線)のキャプタイヤケーブルを使用すること。
(3B) センサケーブルが長いときの誤差
原理図(図135.1)で示したように、3線式ではケーブルの抵抗r1=r2ならば誤差に
ならない。しかし、多芯ケーブルでは、各芯の抵抗は厳密には等しくないために、
温度測定の誤差となる。
電線メーカ(富士電機工業(株)技術第一課 藤本政志氏)に問い合わせすると、
多芯ケーブルの各芯間では最大1%ほどの品質誤差があるとのことである。
たとえば、VCTF 4×0.5mm2(素線構成20/0.18mm)では36.2~36.5Ω/kmの
範囲に入っている。
実験5(ケーブルを30m延長した場合)
各芯の長さ30m当たりの電気抵抗≒1.1Ω、被覆線の外径=7mm、銅線の
素線数/素線直径は20本/0.18mm、断面積=0.5mm2のキャプタイヤ
ケーブル(FUJI E.W.C. 2016)を使用する。30mの価格(切り売り価格)は
税込み3,175円である。
センサと延長ケーブルの導線端はビス止めで固く接続し、接触抵抗が無視できる
ようにした。
指示温度の記録は「おんどとり」(T&D社製、TR-55i-Pt, Ptモジュール付き)
で行なう。基準の温度として熱電対温度計2台の平均値を用いる。いずれも指示温度
は0.1℃の単位であるので、室温変化は小さからず大きからず、3時間に2.5℃
(30.5℃~33℃)の割合でゆっくり上昇させ、乱流的な室温変動を含む条件で実験する。
この実験時間における室内温度の時間変動の標準偏差=0.11℃(平均化時間=30分間)
である。
温度は多数のサンプル数が必要であるので、20秒間隔で記録し、1時間ごとに30m長
のケーブルを延長したときと延長しないときを繰り返し、そのときの温度差を調べた。
3つのセンサの受感部は床上1.2m高度に設置し、室内空気は2台の扇風機で撹拌した。
Pt100温度計と熱伝対温度計の追従性は異なる。3つのセンサの各受感部の距離は
近づけて15mmとしたが、各瞬間の指示温度は同じにはならない。
図135.7は10時~16時までの6時間の温度差(=Pt100センサの指示値-基準センサの
指示値)の時間変化である。プロットは200秒間(サンプル数=11)の移動平均値、緑丸印は
延長ケーブルを用いないときの温度差、赤丸印は延長ケーブルを接続したときの
温度差である。
再実験の結果は図135.8に示してある。
延長ケーブルを接続していないときの
温度差がゼロでないのは、これら3センサは未検定であることと、追従性が異なる
こと、空間的温度ムラが存在すること、データロガーの表示が0.1℃の単位である
ことの4要因による。
図135.7 センサケーブルを延長したときのPtセンサの示度の変化、だだし、
1芯あたりの電気抵抗=1.1Ωのケーブル(長さ=30m)の場合。Ptセンサと基準センサ
は共に未検定のままで実験したため、縦軸が概略-0.1℃ほどずれている。
赤丸印:30mを延長したとき
緑丸印:延長しないとき
図135.8 前図の図135.7に同じ、ただし再実験の結果。
延長ケーブルを接続したときは(赤丸印)、接続しないとき(緑丸印)に比べて温度差
の平均値≒0.005℃ほど高温側にずれている。ただし、温度変動が大きいので相当の誤差を
含む。
Pt100センサの抵抗は温度1℃の変化に対して抵抗変化率=0.39Ω/℃であるので、0.005℃の
温度差は0.39Ω/℃×0.005℃=0.002Ωに相当する。したがって、ケーブルの品質誤差は
0.20%(0.002/1.1=0.002)。
つまり、原理図(図135.1)で示すケーブルの抵抗r1とr2には0.2%±2%程度の違いがある。
筆者の用いたケーブルの各芯には0.2%±2%程度(目安)の品質誤差があることがわかった。
しかし、全重量が重くなる長いケーブルを張り、不注意な取扱いで移動させたりすると、
悪い品質のケーブルは途中で断線することもある。また後の実験6で示す中古品ケーブル
による結果では3%の品質誤差がある。
これらを考慮すれば、10%程度の品質誤差も想定しておくべきだろう。
したがって、0.01℃の桁まで高精度観測を行う場合は、延長ケーブルを接続した状態で
検定しておく必要がある。
実験6(気温とケーブルの温度が異なる場合)
晴天日の野外観測では、例えば気温=30℃で地面温度=60℃、あるいは観測塔表面の
温度が高温になる条件はしばしば生じる。長いケーブルを地面に張った場合、気温と
ケーブルの温度差=30℃になる条件を想定する。
通常、銅線や錫メッキ銅線がケーブルとして用いられている。錫の抵抗変化率
=0.45Ω/℃であり、Ptや銅の温度係数に近い。
ケーブルの各芯の純度にもばらつきがあり、成分温度係数も一定とは限らないが、
仮に温度係数が同じとし、前記実験で用いた新品の30m長ケーブル(銅線、各芯の
抵抗≒1.1Ω)を用いる場合、気温とケーブルの温度差=30℃の条件では、1.1Ωの
抵抗は13%(0.14Ω)変化する。各芯間の抵抗の品質誤差を1%とすれば0.0014Ω
の差となり、これをPt100センサに換算すれば、気温観測の誤差=0.0036℃となる。
Pt100センサの3芯ケーブルの各芯の抵抗=1.1Ωのとき、
品質誤差=0.5%・・・気温観測誤差=0.0018℃
品質誤差= 1%・・・ 気温観測誤差=0.0036℃
品質誤差=10%・・・ 気温観測誤差=0.036℃
これを実験によって確かめておきたい。
長さ30mのうち27mを氷水に浸したときの指示温度と室温の差、室温状態にしたとき
の指示温度と室温の差を測定する。前記と同じ方法で実験する。
データロガーは0.1℃単位で指示されるので、室温変動は小さからず大きからずの
適当な幅、0.1℃<1時間の変動幅<1℃の条件の場合のデータを採用する。ケーブル
を30分間ごとに氷水(水温=0~3℃)と室温の水(30~33℃)に浸けた。ケーブルの温度
が氷水または室温の水になじんだとみなされる30分間の最後の13分間の指示温度の平均値
を比較する。
表135.2に実験結果を示した。温度差の差(気温に対してケーブルの温度が約30℃異なる
ときの指示温度の差)の9回の平均値は表の最下段に示すように、
0.002℃±0.018℃
であり、実験誤差(実験回数、各実験のサンプル数の不足による誤差)の範囲内で
理論的に予想された値と矛盾していない。ただし、これは今回の実験で用いた
新品の30mケーブル(各芯の抵抗≒1.1Ω)の場合である。
表135.2 30m長のケーブル(各芯の抵抗≒1.1Ω)のうち、
27mを室温の水(30~33℃)に入れたときのPt100センサの指示温度と基準温度計の指示温度
の温度差と、氷水の温度にしたときの温度差。
実験番号は2016年8月19日(番号1~3)、20日(番号4~6)、21日(番号7~9)。
室温前:氷水に浸す前のセンサの指示温度と基準温度計の指示温度の温度差(℃)
室温後:氷水から出したときのセンサの指示温度と基準温度計の指示温度の温度差(℃)
氷水時:氷水に浸したときの温度差(℃)
温度差の差=(室温前と室温後の平均)-(氷水時)(℃)
実験番号 室温前 室温後 氷水時 温度差の差
1 -0.07 -0.12 -0.09 0.01
2 -0.12 -0.14 -0.14 -0.01
3 -0.14 -0.15 -0.13 0.02
4 -0.08 -0.12 -0.09 0.01
5 -0.09 -0.14 -0.10 0.02
6 -0.14 -0.13 -0.11 0.03
7 -0.07 -0.11 -0.10 -0.01
8 -0.11 -0.14 -0.16 -0.04
9 -0.09 -0.05 -0.08 -0.01
平均(標準偏差) 0.002(±0.018℃)
野外観測ではケーブルを張るときの曲げや張力により多少とも伸びて品質が変わる。
現実的には、各芯の抵抗値と温度係数を含めて品質に10%程度の差があることを予想
しておかねばならない。その場合は、理論的に0.036℃の誤差が生じる。
これは、ケーブルの各芯の抵抗≒1.1Ωの場合である。
備考2(Pt100センサの3芯ケーブルの各芯の抵抗=3Ωのとき)
品質誤差=0.5%・・・気温観測誤差=0.005℃
品質誤差= 1%・・・ 気温観測誤差=0.010℃
品質誤差=10%・・・ 気温観測誤差=0.098℃
注意3:3線式Pt100センサで高精度観測を行う場合は、ケーブルの長さや
取扱いに細心の注意を払わなければならない。Pt100に比べてPt1000センサは少し
高価(立山科学工業製:税込み18,000~20,000円)であるが、筆者は安心して使用
できる3線式Pt1000センサを利用している。3線式のデータロガー(T&D社製:
TR-55i-Pt, Ptモジュール付き)は100Ωと1000Ωの両方に設定可能であり安価である。
長期間使った経験から安定している。
実験7(中古ケーブルを使用した場合)
野外で使用した中古ケーブルを東北大学の山崎剛准教授から借りて試験した。
室温は単調に上昇または下降する条件で行なった。図135.9~135.11はそれぞれ
3種類のケーブルについての結果である。実験ではPt100センサを用いた。
各図は、中古品ケーブルを繋いで延長したときと、延長しないときの温度差
(=Ptセンサの示度-基準温度計の示度)の時間変化である。赤丸印と緑丸印で
記号分けしてある。データロガーの表示は0.1℃単位であるため、各プロットに
含まれる誤差が大きいので、数回の丸印の平均値の差で比較する。
図135.9 中古品ケーブル(1)を延長したときのPtセンサの示度の変化、だだし、
1芯あたりの電気抵抗=3Ωのケーブル(外径=5mmシールド線、長さ≒40m)の場合。
赤線:40mを延長したとき
緑線:延長しないとき
図135.10 中古品ケーブル(2)を延長したときのPtセンサの示度の変化、だだし、
1芯あたりの電気抵抗=3Ωのケーブル(外径=5mmシールド線、長さ≒40m)の場合。
赤線:40mを延長したとき
緑線:延長しないとき
図135.11 中古品ケーブル(3)を延長したときのPtセンサの示度の変化、だだし、
1芯あたりの電気抵抗=2.4Ωのケーブル(外径=7mm、長さ≒65m)の場合。
赤線:65mを延長したとき
緑線:延長しないとき
表135.3に示すように、中古品ケーブル(3)では多芯の中の各芯の電気抵抗値に3%の
品質誤差がある。前記したように、ケーブルの品質に10%の差があれば、Pt100センサ
では、理論的に0.036℃の誤差が生じる。
通常は、観測時にケーブルを張った状態で、このような微少な品質誤差を確かめる
ことはできないので、センサとして電気抵抗の大きいPt1000センサを用いれば
誤差は1桁小さくなり安心である。
表135.3 中古品の延長ケーブルを繋いだときの温度の示度差と、
繋がないときの示度差の実験。
延長時温度差:延長ケーブルを繋いだときの指示温度の差
なし時温度差:延長ケーブルを繋がないときの指示温度の差
差 : 上記2つの温度差の差
相当抵抗: 差をセンサ抵抗値に換算したときの抵抗値
品質誤差:延長ケーブルの各芯間の抵抗値の違い
ケーブル 室温 延長ケーブル 延長時 なし時 差 相当抵抗 品質誤差
番号 抵抗 R 温度差 温度差 r r/R
℃ Ω ℃ ℃ ℃ Ω %
(1) 27.2~32.0 3 -0.101 -0.084 -0.017 0.0066 0.2
(2) 26.5~29.5 3 -0.128 -0.114 -0.014 0.0055 0.2
(3) 28.2~30.7 2.4 -0.119 -0.066 -0.185 0.072 3.0
まとめ
要約
一般に実験・観測における誤差は多くの要因からなる。野外における気温観測も同様に、
通風筒に及ぼす放射影響の誤差、センサの不安定性、センサの未検定による誤差、
ケーブルの品質誤差、記録計(データロガー)の不正確さなどがある。これらの
各誤差がほぼ同じ程度になるように計画・設計し、予算の使い方をしなければならない。
例えば、放射影響の誤差が大きい自然通風式シェルターを用いる場合、高価な精密
データロガーに予算を使うのは無駄遣いである。高精度通風筒を使う場合、
誤差の大きな不安定な気温センサ、しかも未検定で用いるのはよくない。
本研究は野外の気温を0.01℃の精度で観測することを目的としている。
最近、高精度通風筒(プリード社製)が使われる時代に入り、これまでは考慮されなかった
誤差について実験によって確認した。実験は、筆者が所有する4線式Pt100センサの温度計
(高精度温度ロガー、プレシィK320、立山科学工業製)と3線式Pt100センサの温度計
(おんどとりTR-55i-Pt、 Ptモジュール付き、T&D社製)について行なった。
(1)4線式Pt100センサの温度計(プレシィK320、立山科学工業社製)
0.01℃の単位まで表示される高精度温度ロガーであり、センサの検定を行なえば0.01℃
の単位まで正確に水温が観測できることを確認した。
30mの延長ケーブルをコネクターで接続しケーブルに直射光が当たる場合も、
温度表示は0.01℃の桁まで不変の一定である。
この高精度温度ロガーは誤差が微少になるように工夫されており、理論的に予想される
通りに正確に温度測定ができることがわかった。
(2)3線式Ptセンサの「おんどとり」(T&D社製)
Pt100センサで3芯ケーブルが長い場合(長さ=30m~60m、各芯の電気抵抗=1~3Ω)、
各芯間に生じる温度ムラによる誤差について調べた。ケーブルが平行線形式で、縄構造
(より線)でない場合、最大0.5℃程度の誤差を、縄構造(より線)の場合は0.03℃~0.1℃
程度(ケーブルの品質誤差、長さ、抵抗に依存)の誤差を想定しなければならない。
特に、使い慣れて曲げたり伸ばしたりしたケーブルになると各芯間の品質が悪化し、誤差
が大きくなる。
それゆえ、野外観測では、電気抵抗の大きいPt1000センサの使用を勧めたい。
これに用いる、データロガーとしてT&D社製の「おんどとり」は市場に多く流通して
おり安価である。
3線式でもPt1000センサを用いれば、4線式と同等の精度で野外の気温を観測することが
わかった。
なお、3線式で延長ケーブルを用いる場合、延長ケーブルを接続した状態でセンサ
の検定を行う必要がある。
Ptセンサの利用に際して、従来多方面で使われている自然通風式シェルターや
気象庁などで公式に使われている強制通風式の通風筒では放射影響による誤差が
大きい。それゆえ、高精度で気温観測したい場合は、最近市販化された高精度の
通風筒の利用を勧めたい(「K126. 高精度通風式気温計の市販化」)。
今後の計画
計画1(検定の準基準器)
現在用いている「おんどとり」の温度表示は0.1℃の単位までであり、Ptセンサは
気温観測用の完全防水型ではない。それゆえ、0.01℃単位まで求める検定は空気中
で行ない、多数のサンプリング数を必要とした。この検定は長時間がかかり難しい
(「K69.気温観測用Ptセンサの安定性と誤差」、
「K91.Ptセンサの検定(比較検定)」)。
検定作業を楽に行なうために、今後は0.01℃まで表示される高精度温度ロガー
「プレシィK320」(4線式Pt100センサ)を準基準器として用いる。その際、
K320は検定しておく。
「おんどとり」に用いるPt1000センサは、受感部とケーブル接続部までが完全
防水型とし、検定は水温が単調に上昇または下降する条件のもと水中で行なう。
氷点下については不凍液を用いる。
検定済みPt1000センサを高精度の通風筒に取り付け、放射影響の誤差を改めて
確認する。
計画2(2点間の気温差観測用の気温計)
例えば、乱流観測の渦相関法でフラックスを観測する場合、降雨時は超音波の発信・受信
部が濡れて正しいフラックスが測れない。このとき、傾度法またはボーエン比法の併用
によってフラックスを観測する。この方法では、鉛直方向の2点間のわずかな
気温差を観測しなければならない。そのほか、空間的に離れた2点間の僅かな気温差
を知りたいことがある。
水温観測用に作られている高精度温度ロガー「プレシィK320」(4線式Pt100センサ)
は、2つのセンサA,Bを同時に0.01℃の単位まで測ることができる。これに気温観測
用Pt100センサ2個を取り付ける。短時間に接続できるコネクターで延長ケーブルも取り
付けられる。ただし、センサの検定は水中で行なえるよう、完全防水型とする。
この気温計について試験を行う。
追記:湿度の観測
同じ通風筒の中に湿度センサを入れると、(1)通風の流量を増やすことになりファンモータ
のワット数を大きくしなければならず、(2)通風筒内の流れが複雑になり気温観測に
放射による誤差が生じる。そのため、湿度センサは別の独立した第2通風筒に入れる。
気温は第1通風筒(近藤式高精度通風気温計)で観測する。
最近は、湿度センサと気温センサが一体になった品が市販されている。これを第2通風筒に
入れて、第2通風筒に吸引された空気の相対湿度と気温から水蒸気圧(または絶対湿度)を
求める。この場合、第2通風筒内の湿度・気温センサには多少の放射影響があっても
よいことになる。
この方針に従って、私たちは相対湿度ではなく、水蒸気圧を観測することにしている。
もし、相対湿度が必要な場合は、第2通風筒で求めた水蒸気圧と、第1通風筒の気温から
計算する。