平成20年指定文化財

有形文化財・工芸品
福岡市東区　西福寺

概要

　近世の博多の鋳物師としては大田(太田)、柴藤、山鹿、礒野、深見の五氏が知られている。元禄十二年(1699)、福岡藩は筑前国中の釜屋座・鉄問屋を博多九人、甘木一人の十人に定めた。しかしながら上記五氏を始めとしたその鋳造品の現存例は数少ない。ことに寺院の梵鐘・殿鐘・喚鐘類は戦時下の金属供出のため二十数例をしか数えない。本喚鐘は元来は「筑前穐月寂靜山逍遙院西福寺」の「半鐘」であったもの。戦後の購入された。
　品質　鋳銅製
　形態　和鐘と朝鮮鐘との混交型　
　法量　総高52.7㎝　鐘身高38.3㎝　底部外径31.9㎝　底部内径25.7㎝　
　時代　宝永二年(1705)
　鋳工　冶工博多住　大田喜兵衛藤原兼達
　銘(陰刻)
　　　　「　　　良室昌齊　
　　　　　　　　栄月妙昌　
　　　　　　　　長谷道久　
　　　　　　　　真誉光月宗意信士
　　　　　　　　超誉妙貞
　　　　　　　　繁誉妙栄
　　　　　　　　空山妙劫
　　　　　　　筑前穐月寂靜山逍遙院西福寺　
　　　　南無阿弥陀佛
　　　　　　　當寺四代覚蓮社響誉了天直到代
　　　　　　　一蓮　念誉單月宗心　鈴誉心月妙遊
　　　　銘曰　諸行無常
　　　　　　　是生滅法
　　　　　　　生滅々爲
　　　　　　　寂滅爲樂
　　　　　　寳永貳歳
　　　　奉寄進半鐘壹本
　　　　　　酉ノ七月廿五日　
　　　　　　　　施主穐月之住
　　　　　　　　　俗名山内茂兵衛
　　　　　　冶工博多住　大田喜兵衛兼達　　　　」

指定理由

　臨済宗東福寺派承天寺の末寺海印山西福寺に伝存する。銘文から本喚鐘は元来、筑前秋月寂静山逍遙院西福寺の半鐘であったことが知られる。
　秋月西福寺時代の本鐘については、秋月の人、平田孫右衛門胤冨の『望春随筆』(天保五年〔1834〕)に、「半鐘ハ当寺四代覚蓮の代、宝永二酉七月秋月下町之住山内茂兵衛と云者建立也。家名を和泉屋と云。至ての豪家也。」と見えている。明治九年「秋月の乱」で藩士集結の場所となった西福寺(浄土宗・博多善導寺末寺)は昭和四十一年に廃寺となった。本喚鐘は戦後の購入されたもの。
　また本喚鐘に見える大田という氏姓は、中世時代、遠賀郡芦屋の山家に居住し芦屋釜製作で知られた山鹿氏の本姓と伝えられる(『石城志』明和二年〔1765〕)。
　『筑前国続風土記』(元禄十六年〔1703〕)は「慶長年中 長政公入國の比迄は、蘆屋にありて、鋳工多かりしか、其後断絶す。遠孫共博多或姪濱等に來りて鋳る。其中に大田次兵衛と云者すくれて良工也。江戸京の鋳工におとらす。國君も用ひ玉ふ。江戸、京、長崎、隣國にも是を求て、新蘆屋と稱す。」と伝える。
　元禄十二年（1699）、博多九人、甘木一人の十人に国中の釜屋座・鉄問屋が定められたが、このうち九名は博多の釜屋町喜兵衛・与右衛門、土居町七兵衛・甚兵衛・小兵衛、西町釜(屋脱ヵ)番善右衛門、大乗寺前町藤兵衛・三郎右衛門、瓦堂圖師七兵衛であった（『博多津要録』）。釜屋町喜兵衛は大田氏、土居町七兵衛は礒野氏、土居町甚兵衛は深見氏、西町釜（屋脱ヵ）番善右衛門は柴藤氏に比定される。
　大田氏の活動としては、早くは慶長年間(1596-1614)、柴藤氏・礒野氏とともに従事した英彦山の御神体三尊金仏鋳造(『礒野家由緒』『英彦山神宮鋳屋権現棟札写』)、同じく柴藤氏・礒野氏とともに従事した寛永十五年(1638)島原の乱における石火矢の砲弾の鋳造(『礒野家由緒』『柴藤家年中行事』)、明暦二年(1656)の筥崎宮梵鐘(供出亡失)、寛文十一年(1671)の福岡城時鐘(『青柳種信関係資料』。但し、直方市西徳寺に現存する旧福岡城時鐘は寛文四年(1664)銘で鋳工の名はない)などが知られる。
　本殿鐘を製作した大田喜兵衛兼達の作には、この他に元禄13年(1700)の興宗寺(南区寺冢)の殿鐘、元禄14年(1701)の姪浜旦過達磨堂の銅造厨子(従来、兼道作と誤読されてきたようである)が現存する。本喚鐘によって同時期に活動例が認められる「大田喜兵衛兼道」（元禄十四年〔1701〕の妙楽寺〔博多区〕半鐘）、「大田喜兵衛兼遠」（元禄十五年〔1702〕の西念寺〔早良区〕喚鐘、供出亡失）とは別人である博多鋳物師大田喜兵衛兼達の存在を確認できるとともに、大田氏の盛んな活動の様を窺わせて貴重である。