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【お知らせ】
コニー・ウィリス『航路』、全国書店で発売中(大森望訳/ソニー・マガジンズ/上下各1800円
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『航路』ネタバレ感想・議論用掲示板を設置しました。あんなことやこんなことを心おきなく語りたい人はどうぞ。




【1月10日(金)】


 柳下毅一郎に呼ばれて神保町フォリオ。K社の編集者T氏と謎の企画の打ち合わせというか顔合わせ。といっても、大森がこの企画に関係するかどうかは未定ですが。すでに処理能力を超えた受注残があるからなあ。
 K社の全国営業ツアーの話が壮絶に面白い。編集者にしておくにはもったいない営業能力である。「フリーの書店員」という職業が成立するぐらいなら、フリーの出版営業マンって職業があってもいいと思った。基本的には出版社と契約して「このシリーズを何冊売ったら歩合でいくら」なんだけど、むしろ作家とか翻訳家が「オレの本を売ってくれ」と依頼するシステムはどうですか。
 あと、フリーの出版宣伝業とか、フリーの小説新人賞企画業とか、フリーの出版記念パーティ運営業とか。というか茶木さんがそういう会社つくればいいんだな。

 謎の企画と言えば、『20世紀SF』と『地球礁』『塵よりよみがえり』で、翻訳SFファンにとっては一躍、日本で三番めぐらいに重要な出版社となった河出書房新社のSF系新叢書もいよいよ今年から本格稼働の予定。
 企画者である中村融が幻想的掲示板2でアナウンスしている《奇想小説叢書》っていうのがそれ。こんなシリーズ名になったとは初めて知りましたが、ここで書かれているとおり、SF系異色作家の作品を日本オリジナルの編集で収録する四六判短編集叢書。
 すでに決まっているラインナップは、テリー・ビッスン、ダン・シモンズ、エドモント・ハミルトン、シオドア・スタージョン、アルフレッド・ベスターの5人。新旧入り乱れ、作風もばらばらなんだけど、こうしてみるとなんとなく統一感があるような。ないか。
 大森はスタージョンの巻に関係する予定で、昨年からぼちぼち未読消化中。その途中、(《このミス》の「隠し玉」で発表された)晶文社の若島正編スタージョン短編集が進行していることが判明し、収録作が重ならないように調整したりとか、全然べつのミステリ系アンソロジーにスタージョンの某作を収録するつもりなんだけど……みたいな話があったりとか、まだ二転三転してますが。
 ま、ジェラルド・カーシュがあれだけ話題になるんだから、スタージョンの本が出るのは遅すぎたぐらい。日本でもあと5冊ぐらいは短編集が出てもいい作家だと思う。
 ちなみにポール・ウィリアムズの入魂企画、スタージョン全短編集成は現在8巻まで刊行。amazon.co.jpでもまだ全巻買える模様。これで読むと重いので、ふだんは古いペーパーバックのほうで読んでますが。



【1月11日(土)】


 早川書房《夢の文学館》版が出てから7年以上たって、ようやくコニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』が文庫化されることになり、その校正作業がスタート。
 ちょうどウェブサイトを開いてこの日記を書きはじめた年に、たいへんな修羅場の中で翻訳した小説(どんなに絶望的な状況だったのかは、当時SFマガジンに連載していた「SF翻訳講座」のこの回を参照)。
 ペーパーバック600ページのうち後半の500ページを2ヶ月ちょっとで仕上げるという超特急仕事(になったのは自分のせいだけど)だっただけに、校正をはじめるとそそっかしいミスが多数見つかり、ハードカバー版のコピーはほとんど初校ゲラのような状態に。
 しかし原書を探したらハードカバー版の(あまり使い込んだ形跡のない)プルーフコピーしか見つからず、いったいなにを底本に翻訳していたんだろうと不思議に思い、1995年当時の日記(d199501.htmlとかd199502.html)をぱらぱら見ていてようやく記憶が甦る。そう、この仕事のときはMachintoshのLC475で完璧な翻訳環境を構築してたんじゃん! テキストはクラリネット社のCD-ROM、『Hugo and Nebula Anthology 1993』に収録されていた電子データ。これをMacのHDDにコピーして、画面上に原文の窓と訳文の窓とリーダース英和辞典の窓(書見台)を開き、Quick Keysかなんか使って、「原文の不明単語をクリックするとそれが書見台の検索語にペーストされ、自動で辞書を引き、結果を表示したあと、訳文の窓にフォーカスが移動する」みたいな。
 中期英語のスペルにまったくミスがないのは、なんのことはない、原文をそのままコピーしてるからですね。
 しかし結局、自宅にこもって翻訳するスタイルは定着せず、14世紀パートを自宅で、21世紀パートを喫茶店で(DYNABOOK SS450使用)――という二刀流システムに移行しちゃったらしい。
 しかも今回、CD-ROM版のテキストは決定稿ではなく、ペーパーバックの改訂版が出たときに若干の校正が加わっている事実も判明。さらにいまとは訳文のつくりかたがかなり違ってるので(文字遣いとか改行とか)どこまで直すかも悩ましい。

 文庫版でいちばん大きく変更されるのは名前ですね。Dunworthyをダンワージイにするのはなんとなく気持ち悪い気がして、当時は「ダンワーシイ」にしてたんですが、やっぱり原音は尊重しようと改心し、「ダンワージー」に変更。正確には「ダンワージ」がいちばん近いんだけど、それじゃサウダージみたいで英国人の名前に見えないからな。
 その他、技師→技術者とか、チャップレン→チャプレンとか細かい変更はいろいろ。もちろん誤訳も脱落もかなり訂正される予定。早川書房編集部K氏がペーパーバック版テキストと一行単位でチェックしてくれてるのでわりと安心。

 しかし結局ウィリスに関しては、このCD-ROMからあと、小説作品はほとんど電子化されてないような……。いずれは翻訳権取得と同時に電子データが海外版元から送付されるみたいなシステムになるだろうとか予想してたのに、その気配もないし(あ、『ダーウィンの使者』のときはベアからメールで送ってもらったけど)。

 ところで、いつの間にかサーバから消えていた翻訳講座のファイルを復活させるために昔のディレクトリを掘ってたら、「20代の新人翻訳者がほとんど出てこない、出てきそうな気配も見えない現状」を慨嘆する原稿を発見。去年、SF「文庫データベース」インデックスの「SF文庫翻訳者の高齢化白書」「SF文庫解説者の高齢化問題白書」に関連して、この日記のこことかここでも言及してましたが、なんのことはない、自分で原稿に書いてたんじゃん(笑)。
 問題はこのあとがどうなってるかなんですが、すでに調査する気力がないのでだれか調べてください。中堅翻訳者が「こんなんじゃ食えない」と離れていくと、若手翻訳者の登板機会は飛躍的に増大する(一部海外ミステリ翻訳ではそうなりつつある)ような気もするんですがどうですが。



【1月12日(日)〜14日(火)】


 一週間遅れで《本の雑誌》新刊ガイドを仕上げ、『ドゥームズデイ・ブック』文庫版校正作業のつづき……と思ったらノドが腫れてダウン。トキオ社長はどこかでインフルエンザ・ウイルスをもらってきたらしく、40度の高熱。父子で倒れ、母親だけが元気。

 しかし思い起こせば、オレが最初にノドを腫らしたときも、『ドゥームズデイ・ブック』のゲラを見てる最中で、それを思いきりこじらせて入院する自体になり、大騒動だったんだよなあ。という話は単行本版『ドゥームズデイ・ブック』訳者あとがき参照。ドゥームズデイ病と名づけよう。

 というわけで14日は朝から家族で東京臨海病院。受付してからそれぞれの病棟へ(笑)。血液検査、尿検査、組織検査にCTスキャン――と山のように検査されるが、結局たいしたことはなかった模様。点滴受けて処方箋をもらう。
 子供のほうは出してもらった薬で一発改善。



【1月15日(水)】


 ドゥームズデイ病は薬と点滴で飛躍的に改善。
 夕方からは角川書店本社で日本ホラー小説大賞最終候補作決定会議。長編も短編もベスト3ぐらいはほぼ満場一致ですぐ決まるが、最後の1、2本が割れまくり。
 最終的に決定した候補作は、すでに角川書店のサイトで発表されている通り。注目は、『人形 ギニョル』ホラーサスペンス大賞をすでに受賞しているネコ・ヤマモト。べつべつの作品を、ホラサスとホラー大賞に続けて応募してたんですね。ダブル受賞となれば話題は集まるだろうが、さて。

 選考会終了後は例年通り摩天楼飯店で食事会。話題は角川エンターテインメントNEXTとか、このミス大賞とか。本が売れない時代と嘆く前に書店員も編集者もやることをやれ! と茶木さんがまたも大演説。いや、まったくお説ごもっともなんですけど。NEXTはパブリシティにもかかわらず、売れ行き的には苦戦しているらしい。『四日間の奇蹟』のカバーがベタすぎる装幀だと悪評さくさくなのにわりと売れてるところを見ると、NEXTはちょっと本をおしゃれにつくりすぎたんじゃないですかね。少なくとも解説・あとがきはあったほうがよかった気が。富士見ファンタジア大賞みたいな編集者による推薦解説でも。メフィスト賞と違って読者には選考経緯の事前情報がまったく出てないからなあ。

 まだ本調子じゃないので麻雀組と別れて、単身、横溝正史ミステリー大賞最終候補作決定会議流れ組に合流。今日は同日同時刻から、角川本社の第一ビルと第二ビルで両方の会議が行われてたんですね。
 杉江松恋は「風評被害ですよ!」と憤然(笑)。「ぼくはただこうやって撫でただけで……」と実演するが、だからそれが破壊行為なんだってば。
 ちなみに吉田伸子もインフルエンザで倒れていたとか。一発で治るありがたい薬は、東さんのご主人が開発に関わったものらしい。足を向けては寝られません。しかし品薄でたいへんらしく、処方箋があっても出してくれる薬局がなかなか見つからないとか。



【1月16日(木)】


 芥川賞、直木賞発表。
 直木賞候補は、石田衣良『骨音』、奥田英朗『マドンナ』、角田光代『空中庭園』、京極夏彦『覘き小平次』、松井今朝子『似せ者』、横山秀夫『半落ち』だったんですが、蓋を開けてみれば該当作なし。京極さんが前に候補になったときも該当作なしって結果だったんだよな、そういえば。



【1月17日(金)】


 13:30、またしても角川書店本社に赴き、《本の旅人》用の宮部みゆきインタビュー。お題は3月刊行予定(だっけ?)のファンタジー『ブレイブ・ストーリー』。地方紙連載分に加えて800枚だか900枚だかを書き下ろした2500枚だかの大長編。年末に編集部からプリントアウトが送られてきて、二晩で一気読み。中核部分は典型的なRPGファンタジーになってて、いまやこんなにベタな設定で書ける作家は宮部みゆき以外にいないんじゃないですか。国産ファンタジー黎明期のテイストですが、異世界に行くまでのあいだに完璧な宮部みゆき世界が構築されているので、非常に不思議な読み心地。というか、いまの作家が異世界ファンタジー書くときは、こんなふうにRPGっぽくならないように苦労していろんな手管を使うんですが、この小説はファンタジーRPGの小説的な再現が目的なので、もはや天馬空を行く趣き。ゲームネタは異様に濃いのに、アニメやマンガなど他のおたく文化へのリファランスが全然ないとこも宮部さんらしい。
 なお、新聞連載時のイラストを満載した愛蔵版も同時刊行されるらしいのでお楽しみに。

 1時間半ほど話を聞いてから、タクシーで東銀座のUIP試写室に急行、超満員の『レッド・ドラゴン』を見る。ブレット・ラトナーらしく軽い小品ってノリですが、そんなに嫌いじゃない。『ハンニバル』に比べるとギャグセンスは向上してるし。最初のほうに出てくる『ラルース料理百科事典』に「ラルックス」とかなんとかへんな字幕がついてたような気がしたが、考えたらそういう表記になりうるスペルじゃないんだよなあ。謎。


【緊急告知】扶桑社版『パヴァーヌ』まもなく在庫切れ見込み

 扶桑社で復活したキース・ロバーツの名作『パヴァーヌ』ですが、サンリオ文庫版につづいてこの扶桑社版もまもなく在庫切れになりそうな気配。というか、ちょっとだけ倉庫に残っていった分はbk1がすばやく抑えてしまったので、もはや版元注文では買えないかも。市中在庫はまだあちこちに残ってるでしょうが、万が一まだ買ってなくて、確実に手に入れたい方は、bk1で注文することをお薦めします。まだお取り寄せだけど、そのうち24時間発送になると思われ。あとは10年後をにらんで大量に買い占めるとか(笑)。いや、まあサンリオみたいな値段はつかないだろうけど。

 amazonのほうでは現在、「通常2〜3日以内に発送」ですが、ストックあるのかなあ。

 ところでamazonでキース・ロバーツ検索すると出てくる『ブリューゲル』や『ドガ』も、あのロバーツが解説書いた画集なんでしょうか。

なんかltokyoにftpで入れないので、いまんとこ、日記はhttp://www.asahi-net.or.jp/~KX3M-AB/ のほうだけ更新してます。


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