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赤石川源流二股、泊り沢、水中撮影、大雨・濁流、トンビマイタケ
 赤石川源流二股・・・左が本流〜キシネクラ沢、右が泊り沢が合流する地点だ。この源流に初めて分け入ったのは、昭和60年9月のことだった。当時は、青秋林道が建設中で、まだ県境稜線に達していなかった。その林道終点に車を止め、二ツ森登山道から青秋林道予定線の山道を辿り、小沢を転がるように下って赤石川源流二股までやってきた。その懐かしの渓にこみ上げるものがあった。なぜなら私の山釣り馬鹿の原点は、ここから始まったからだ。

 写真正面の奥、泊り沢とキシネクラ沢の間に広がる緩斜面の台地は、「泊ノ平」と呼ばれている。ここは、白神山地の中でも最も原生的自然環境をもつ場所として知られている。国の調査でも、本州最大の「原生流域」に該当するとされている。
 だが、懐かしの左岸テン場(左の写真)は、流れに侵食され、見るも無残な姿と化していた。現在は、右岸に新しいテン場(右の写真)があった。ここもゴミ一つない素敵なテン場だった。かつてより格段にマナーが良くなっていることに安堵する。もちろん、オーバーユースと思われる痕跡は皆無だった。なぜなら、ここまで達するには、登山道も山小屋もなく、沢を登り薮だらけの獣道を歩き、泊らない限り辿り着けない奥地だからだ。つまり、泊り沢、泊ノ平、泊岳(二ツ森)という地名は、泊らない限り辿り着けないことから名付けられた。
 二股下流右岸の倒木に生えたキクラゲ。
 泊り沢は、赤石川の穏やかな渓相とは打って変わって、入り口から両岸が狭いゴルジュが続いている。しばし、屹立する両岸を見上げ、腰まで水にジャブジャブ入りながら進む。すると一転、穏やかな河原に変わり、黒い影が走り出した。
 泊り沢の清く澄んだ流れ。これなら走る岩魚も丸見えだ。何度も遊泳する岩魚を撮ろうとアプローチしたが、岩魚にも丸見え。撮る前に、物凄いスピードで上流の白泡の中に消えてしまった。
 泊り沢の名所の一つ・天然階段落差工・・・まるで人工的な温水落差工かと見紛うほど、不思議な魅力を秘めた天然の小滝が連なっている。しばし、滝の撮影を楽しむ。
 上段の階段状滝・・・右側の滝が落下する前に突き出した岩が妙に気になった。よく見ると、まるで魚道のようにも見える。きっと岩魚は、ここを遡上しているに違いない。人間も、そろそろこうした自然の造形美に学ぶ必要があると思う。この小滝上流から、イワナの走る魚影は濃くなった。それを知っているのか、カワガラスが鳴きながら猛スピードで渓を駆け抜けてゆく。
 赤茶けた一枚岩盤を「聖なる水」が滑るように流れ落ちていく。源流ならではの美しき水の風景が続く。夏なら、こうした清冽な水を蹴って、岩魚が走る清流を遡行するのが、何より楽しい。
 岩魚の水中撮影・・・この作品は、柴ちゃんの労作。自分のデジカメを水没させて、やたら暇になった柴ちゃんにSony Cyber-ShotUを貸した。すると、あちこちの淵で撮影を試みる。上の写真は、そのベストショットの一枚だ。渓の底まで光が射し込み、生命踊る水中の世界の美わしさが伝わってくる。
 小雨の中、昼飯を食べた後、二股まで戻り、キシネクラ沢に向かう。上の写真は、本流二股上流のカゲマツ沢が合流する地点。森の頭上から雷鳴が轟き、バケツをひっくの返したような大雨となった。この時、脳裏をかすめたのは追良瀬川源流の悪夢だった。すぐさま、上流にいる柴ちゃんに笛で合図をし、急いでテン場に戻ることを告げる。この時点で、まだ流れも濁っていなかっただけに、彼にはその意味が理解できなかったようだ。
 二股下流から数十メートルも離れていない右岸の枯れ沢から、濁流が流れ込んでいた。これを見て、柴ちゅんも悪夢の序章が始まったことを理解したようだ。大雨の場合、源流めざして登るなら、流れが濁らない限りさして問題にならない。しかし、下りとなれば、流域が大きくなるだけに危険極まりない。下流に位置する枝沢の流域に、もっと前から強い雨が降っていたとすれば、テン場に戻ることはできなくなる。寒さに震えながらビバーグなんてゴメンだ。二人は走るように沢を下った。
 左岸から上タケガクラ沢が合流する地点。この沢も濁った流れが大量に本流に流れ込み、水量がグ〜ンと増すだけでなく、深さが分からないくらい濁り始めた。山の神が一旦怒ると、どれぐらい怖いか・・・それを忘れないために、初経験の柴ちゃんを入れて記念撮影。
 左:二股からテン場までの区間で、最大の支流カピラ沢は、鬼の形相で本流に流れ込む。その下流は、右の写真のとおり、穏やかな流れが完全にコーヒールンバ状態と化していた。源流で大雨が降り出してわずか30分ほどの時間に、これほど激変する。もはや渡渉はもちろん、川通しに下ることもできない。左岸の薮と斜面を進むしか道は残されていなかった。
 猛烈な笹薮の海を彷徨い、ぬかるんだ斜面を登った。テン場がもうすぐという高台で仁王立ちしたブナの巨木を見つける。「母なるブナの神様、悪夢の中をお救いくださいましてありがとう」・・・なんて思っているとはとても思えない柴ちゃんのポーズ。
 ほどなく、幹の中間から枝分かれしたブナの幹が一本折れた巨樹が目にとまった。森の主のような風格を持った老齢木を撮ろうと近づいた。巨木の周囲は、異様なキノコ独特の香りが漂っていた。苔生したブナの根元を覗く。何と、トンビマイタケの巨大な株の群れではないか・・・私も柴ちゃんも、こんな巨大なキノコの株は見たことがない。二人とも、しばし声を失った。
 ヤマセミ・・・翌朝、「ギャッ、ギャッ、ギャッ・・・」と、沢の方からけたたましい鳴き声が聞こえた。よく見ると、川沿いを低空飛行で上流に向かう鳥が見えた。体が白くデカイ。しばらくすると、今度は上流から下流に飛んで行った。それを数回繰り返す。白く見えたのは、体の下面で、上の面は、白と黒のまだら模様だった。紛れもなくヤマセミだ。恐らく、イワナを狙っているのだろう。低空飛翔から食えそうなイワナを見つけると、ダイビングして捕食しているに違いない。立派な冠羽を持つ渓の狩人・ヤマセミにとっても、ここは楽園に違いない。

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