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大川〜石の小屋場沢〜赤石川源流〜ヤナダキ沢〜暗門の滝
 2004年8月中旬、5泊6日の日程で、大川源流を詰め上がり赤石川源流を目指した。天気予報によれば、おおむね好天に恵まれるはずだった。ところが、実際、山に入ると、雨また雨・・・さらには、道に迷い何度も薮こぎを強いられた。それでも白い神は、その苦労の何倍もの感激を我々に与えてくれた。(写真:連日雨が降り続くヤナダキ沢の滝・F2をゆく)

 今回のコース・・・大川〜タカヘグリ〜オリサキ沢〜オロの沢〜石の小屋場沢C1〜赤石川源流C2〜泊り沢探索〜大ヨドメの滝〜石滝〜ノロの沢C3〜ヤナダキ沢C4〜西股沢〜暗門の滝
 前回、大雨・濁流に見舞われ、大川から赤石川へ山越えできなかった。その夢を実現すべく、柴ちゃんと私の二名は、心躍らせながら夏の渓に分け入った。幸い初日は好天に恵まれ、夏の渓流ウォーキングを楽しみながら快適に遡行を繰り返す。
 大川最大の難所・タカヘグリは、前回より水量が少なく、楽々通過。今度こそは、白神の母の胎内を一度だけ通過するだけだから、下り坂の人生から上り坂の人生に生まれ変わるはずだったが・・・
 オリサキ沢10m滝・・・重い荷を背負い、夏のクソ暑い陽ざしに汗が滴り落ちた。だから、こんな滝に出会うと、清冽なシャワーを全身に浴びながら直登したくなる。
 オリサキ沢の10m滝を越えると、まもなく滝となって合流する二又に達する。右のヤツの沢は、険悪でとても突破できない。左のオロの沢に進路をとる。写真は、オロの沢に懸かる小滝で乾いた喉を潤す。
 今回赤石川へ抜けるコースとして考えたのは、右手から流れ込む小沢だった。そこでどうした訳か、柴ちゃんが大事なデジカメを水没させてしまった。夢の白神源流行を記録する大事なカメラが全く使えない・・・呆然として沢に佇む柴ちゃん。同情の念は禁じ得なかった。
 急な階段状の小沢を獣と同じく、四つ足走行で登る。気になるのは、前方に見える崖だった。
 小沢の中間ほどに来ると、ヤツの沢で出会った険悪な崖とそっくりな滝に出くわす。とりあえず右の窪地を進んで高巻き開始。ちょっと前に歩いた痕跡もあり、難なく通過できると思ったが、ツルツルの崖を巻いても巻いても滝が連続していた。これにはホトホト参った。

 荷を降ろし、ピンソールを付けてルートを探す。振り返れば、大川源流の絶景が見えたが、無理がたたって、突然右足が引きつってしまった。声も出ず、座り込む。靴とスパッツを脱ぎ、右足を揉む。こんな急斜面で歩けなくなるとは・・・とても敗退なんてできない。懸命に右足を揉み続けた。幸い、足が動くようになった。
 今回大活躍したピンソール。これはもはや手放せないアイテムになった。特に沢を上り詰め、源頭付近の猛烈な笹薮が続く急斜面で真価を発揮する。今回のように大川から赤石川へ、あるいはヤナダキ沢から暗門川へといった山越えルートを辿る場合、いつでも取り出せるよう、ザックの横にカラビナに通してぶら下げ、着脱を繰り返して歩き続けた。
 何とか険悪な崖を突破し、急な泥壁の窪地を登る。詰めは余りに急で、ピンソールも歯が立たない。猛烈な笹薮に逃げ込み、登りきると、標高770mコルに達する。大川と赤石川の尾根に林立するブナの巨木とまずは突破記念の撮影。ここから窪地を下り石の小屋場沢へ。下降は一ヶ所だけザイルを使用したのみで、難なく突破。
 石の小屋場沢の中間部にビバーグ。ベースキャンプじゃないから、当然ブルーシートを張るつもりはなかった。ところが、ビバーグ地点を決定した途端に強い雨が降り出した。とりあえず雨を防ぐ程度にブルーシートを張り、テントを設営する。それが上の写真だ。皆に笑われるような妙な張り方だが、ビバーグと思えば快適、快適だった。
 二日目は、予報どおり快晴。テン場を綺麗に片付け、石の小屋場沢を下る。この沢は、滝らしい滝もなく穏やか。昔は、砂子瀬や川原平のマタギが利用した代表的なルート。沢の中間部の右岸斜面にあるケヤキの大木付近に狩小屋があったという。まもなく、岩魚が走り出す。山釣りバカ二人は、何度も「岩魚が走った」「今度のはデカイぞ」・・・などと、嬉しさを隠し切れず、のんびり下った。ほどなく、赤石川本流に出た。
 赤石川本流。正面に見える小沢が石の小屋場沢。赤石川は、その名が物語るように、赤い石が多い。
 石の小屋場沢が出合う左岸は、平坦でブナやサワグルミ、トチなどの巨木の森が広がっている。森の中に入ると、テン場跡が二ヶ所あった。これ以上ない素敵なテン場だった。しかもゴミ一つない。さすが白神源流・・・訪れるパーティのマナーの良さに感心してしまった。山では、必ず雨が降ることを想定し、テン場を設営するのが鉄則。ブルーシートをしっかり張り、その下にテントを設営する。
 平坦な森と斜面の境界に沼があった。底まで透き通る水面に深緑を映して、殊の外麗しい。湿地を好むミズもたくさん群生しており、食事のたびにお世話になった。
 ブナの原生林にすっぽり包まれた赤石川源流(石の小屋場沢出合上流部)。母なる森・・・その慈愛に満ちた穏やかな流れが赤石川最大の特徴だ。こうした景観を眺めるだけで、岩魚の楽園だ・・・ということが、直感で分かる。沢をのんびり散歩していると、岩魚が驚いてビュンビュン走る。浅い瀬は波立ち、さわつくほどだ。

 白神山地の主・根深誠さんは、この景観を次のように絶賛している。「赤石川を遡行した場合、源流域に懸かった大ヨドメの滝を境にして、谷の風景は一変します。中でも絶景は、大ヨドメの滝の上流で右岸に合流する石ノ小屋場沢出合付近から上流の渓相でしょう。ブナの森と清冽な流れが織り成す簡素な美観は眺める人に感動を与えます」(「津軽白神山がたり」山と渓谷社)
 瀬尻で餌を待つ岩魚・・・しかし、この岩魚たちは、天然分布の岩魚ではない。この下流には大ヨドメの滝があり、天然岩魚の遡上を阻んでいた。俄かに信じがたい人もいるだろうが、かつては、岩魚一匹生息していなかったのだ。大ヨドメの滝壷で十数尾の岩魚を釣り、滝上に放流したのは砂子瀬のマタギだった。

 白神山地は、岩魚だけみても、「あるがままの自然」あるいは」「手付かずの自然」ではないことが分かる・・・「渓流こそ、自然と人間がより素朴にそして直接かかわってきた世界」だということを、我々は再認識する必要があると思う。
 赤石川が右にカーブする地点で、右岸から流れ込むカピラ沢。カピラ沢という妙な名前は、泊り平を源流とするキシネクラ沢の支流と同じ名前で、「岳まで達していない沢」を指している。合流点の淵は深く、岩魚が群れていた。Sony Cyber-ShotUで水中撮影を試みるも、岩魚は素早っしこく、淵が深すぎて絵になる写真は撮れなかった。
 見上げると、ブナの深緑に彩られた樹幹を夏雲がゆっくり流れてゆく。白神の源流では、分刻みでせわしく暮らす日常の世界とは、まるで違う。時の流れはあくまでスロー、時には、時計の針が止まったかのような感覚を味わう。
 赤石川を包み込むように林立するブナの巨樹。幹は中間部から3本に枝分かれした巨木で、推定樹齢は250年〜300年。ブナの一般的な寿命は300年程度と言われているから、寿命が尽きつつある老齢木だ。

 先祖代々マタギの家系に育った「熊の湯温泉」の主人兼白神マタギ・吉川隆さんの言葉・・・「白神の森を、手付かずの自然という人もいるけど、そうじゃない。昔から狩猟採集を生業としてきたマタギたちが入っていた。山棲みの人たちにとって、白神の森は暮らしの森なんだ」

参考:世界遺産・白神山地核心地域内指定ルート及び入山届出について
 保存地域の入山は、津軽森林管理署(FAX0172-27-0733)に入山届出が必要。
 その際「一日ボランティア巡視員」を引き受け、遡行後、
 巡視の結果及び保存地区の管理のあり方等について意見を述べるようにしてください。
 世界遺産指定地域内の河川は全て釣り禁止につき注意。
 その他注意事項は、手続き要領を参照。

白神山地核心地域内指定ルート図&現地状況一覧表
核心地域入山手続き要領

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