「草野球の窓」

第58章
「粘 る」

 「粘りに粘った末の決勝打」とか「粘って9回ようやく同点に追いつき」などという。「粘る」ということが大事なことは分かるが、具体的にはどういうことだろうか。どうすれば粘れるのか。

 打者が粘るとは、ボール球には手を出さず、際どい球をカットし、自分が打てる球が来るまで打ち急がないことだ。さらに、好機にはサインプレーを着実に実行し、自分がアウトになっても走者を進塁させるような打撃をすることである。どんなに優れた投手であっても、際どい球をファールされ続ければ投げる球がなくなり、四球を出すか、ド真ん中に球がいってしまう。例え、粘った挙げ句凡打しても、相手バッテリーには嫌な奴だという印象が残る。すると、次に打席に入った時、少なくとも簡単には投げられない。つまり、心理的圧力をかけていることになる。このことが制球に影響を及ぼし、打者は有利な立場で打つことができる。要するに、粘れば幸運がめぐってくる

 投手が粘るとは、走者を出しながらも要所要所で打者を打ち取り、簡単には点を与えないことだ。走者を溜めてから長打を打たれることが最もいけない。低めに投げる;際どいコースに投げる;球を散らす;緩急をつける:そして気迫を込めた投球をすることだ。攻撃側としては、チャンスが何回も訪れるのに点が取れない、取れても最小得点しかできないという状況が繰り返されると、いつのまにかあせりにつながる。あせると走塁にミスがでたり、ボール球に手を出すようになる。つまり、バッテリーのペースに引き込まれてしまう。

 チームが粘るとは、投手が粘りのピッチングをみせ、各打者が粘りの打撃を実行し、大量点をリードされていても簡単には諦めず、コツコツと走者を進塁させ、1点ずつでも挽回していく攻撃、作戦を実行することだ。その際、相手に追加点を許さないことが重要である。必要であれば投手交代や選手を入れ換えることも大切になる。勿論、内外野の堅守に支えられることが前提である。
 相手チームにしてみれば、序盤に大量点を取ったものの追加点が取れず、逆に1点づつ挽回され、気づいてみれば僅少差まで追い上げられて終盤を迎えた。しかも、走者が出れば何をやってくるか分からない。このように心理的圧力をかけ続けられる試合展開が最もいやである。このような試合運びをやっていれば、例えその試合に負けたとしてもチームは必ず強くなっていく。

 「粘る」ということは勝負に対する執着心だ。執着心が強ければ自然に粘りの打撃、投球、試合運びになる。野球技術の問題ではない。だが、
  粘りの野球をやっていれば着実に技術は向上してくる

これ、ゆめゆめ忘れることなかれ。

(平成10年5月25日掲載)


【幹事補足】
 「打者が粘る」という点において、師がいくつかのポイントを挙げておられますが、この中で「際どい球をカットする」のは、打者としてはかなり高等なテクニックを要求されるもので、草野球ではなかなか実戦不可能です。ゲーム中、「ナイスカット!!」などとベンチから声がかかるシーンが時にありますが、我々のレベルでは、それは意図的にカットしたのではなく、たまたまそうなった場合がほとんどです。ですから「打者が粘る」のに最も実戦的な対処法は、「ボール球に手を出さない」ということになります。
 しかしながら、それも草野球界では「言うが易し」でしょう。実際にはついバットが出てしまうのです。それはなぜでしょうか。
 私が思うに、それは投手が投げてからすべてを判断しているということに一因があるでしょう。打者は、その投手の調子やその時のカウントから、また以前の打者への投球内容から、ある程度次の配球が予測できるものです。今まで、速球派投手に対して、追い込まれてからの高めのボール球にバットが空を切るケースを多く目にしてきました。これはバッテリーにボール球を振らされているのです。これを逆に捉えれば、速球派投手に追い込まれた場合には、高めが来そうだなと予測できることになります。
 そんな簡単なことでも構いません。すぐ後ろにいるキャッチャーが投手に何を要求しているか、それを少しでも読み取ろうとする姿勢が大事です。そしてその効果は、1打席目より2打席目、2打席目より3打席目と、確実に蓄積していくでしょう。
 ピッチャーと打者の戦いは、投球から打撃までのコンマ何秒の戦いではなく、バッターボックスに入ってから出るまでの数分間の戦いであるという意識を身に付けることが必要です。



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