第1部:資本の生産過程

第4篇:相対的剰余価値の生産

第12章:分業とマニュファクチュア

第2節
部分労働者とその道具



マニュファクチュア内部の分業の発展そのものが詳細に考察されてゆく。

細目労働者と彼の用具は、マニュファクチュアの単純な諸要素を形成する。[362]

分業の発達は、労働過程全体のシステムを発達させるが、その労働過程を構成しているのは、分業のそれぞれの分野に責任を負う労働者たちである。したがって、マニュファクチュアにおける生産力の増大をめぐって考察を深めるさい、全体の労働過程の変化と作用しあっている諸要素である、分業作業を担当する各労働者たちと、彼らの作業の特殊化にともなって変化してゆく彼らが使用する道具について分析する必要がある。

「部分労働者」

部分労働の方法も、それが一人の人の専門的職能に自立化されたのちに、さらに完成される。同一の限定された活動を絶えず反復し、この限定されたものに注意を集中することにより、目的とする有用効果を最小の力の支出で達成するすべが、経験を通じて教えられる。なお、また、世代を異にする労働者たちがいつも同時に一緒に生活し、同じマニュファクチュアで一緒に働くのであるから、こうして獲得された技術上のコツは、やがて固定され、堆積され、伝達される。[359]

現代における「技術の堆積、伝達」雑感

これはマニュファクチュアの段階の部分労働についての考察であり、現代日本においては、つぎの章で考察される「機械による大工業」が支配的な労働形態となっている。ただし、あくまで支配的なのであって、現代日本では、個々の中小の工場そのものが、社会的マニュファクチュア的分業を行ない、その「大工業」システムを基底でささえているのである。

ここで指摘されている「技術の堆積、伝達」のためには、「世代を異にする労働者たち」の同時就業が必要であり、前提であるわけだが、現代日本においては、その前提が崩壊しつつある。なにより、技術を伝達すべき若年労働者の割合が急速に低くなっていること。そのなかで、伝達するべき蓄積された技術をもつベテラン労働者が伝えるべき相手をなくしていること。あるいは、ベテラン労働者の中途「希望」退職の強要によって、貴重な技術の伝達が完全になされないまま、少数となった若年労働者層に過大な労働が集中し、労働現場における労働者の疲弊と混乱を広げていること。その結果としての労働災害もまた、今日の日本においては深刻の度を増している。

分業による積極面の一つである「技術の蓄積と伝達」という点では、いま、日本のものづくりの現場は、惨憺たる状況を呈している。

終身職業への転化

他方、マニュファクチュアが部分労働をある人の終身の職業に転化させるということは、それ以前の諸社会が職業を世襲化させ、それをカーストに石化させ、または、一定の歴史的諸条件がカースト制度に矛盾する個人の変異性を生み出す場合には、それを同職組合に骨化させるという傾向に照応している。[359-360]

このことは、技術が蓄積され伝達されより一層の緻密さや精巧さで、生産力を引き上げる要素であると同時に、第1節で考察されたように、

その作業は、……依然として手工業的であり、それゆえ、個々の労働者が自分の用具を使用するさいの力、熟練、敏速さ、確実さに依存する。手工業が依然として基盤である。この狭い技術的基盤は、生産過程の真に科学的な分割を排除する。[358]

この協業形態における生産力の上昇には限界があるのであって、マニュファクチュアにおける部分労働は二面性を帯びているのである。

同一労働の連続の二面性

生産性の増大は、この場合、ある与えられた時間内における労働力の支出の増加、すなわち労働の強度の増大によるものであるか、または労働力の不生産的消費の減少によるものである。すなわち、静止から運動への移行のたびに余分な力の支出が必要とされるが、この支出は、ひとたび得られた標準速度をさらに長続きさせることにより、相殺される。他面、同一種類の労働が連続することにより、活動の転換そのもののなかに回復と刺激とを見いだす活力の弾力とはずみが破壊される。[361]

部分労働における道具の特殊化

もともと個別手工業における一連の作業のなかで使用される道具にしても、その作業の特殊性や具体性に応じて、幾種類もの形態に分化してきた。身近な職人技である、たとえば「硯」づくりに使用される「鑿」一つとってみても、けずる石の部分のちがい――「海」をえぐるときと「丘」をならすときとでは、使用する鑿はちがう。このような道具の特殊化は、一般的にどの手工業にも発生するものである。

マニュファクチュアにおける部分労働において、道具の特殊化は、どのような方向にむかっているのか、また、どのような意義をもっているのか。

労働用具の分化――これによって同じ種類の各用具がそれぞれの特殊な用向きの特殊な固定的諸形態をもつようになる――および労働用具の専門化――これによって上のような特殊用具がそれぞれ専門の部分労働者たちの手のなかでのみ十分な働きをする……マニュファクチュア時代は、労働道具を部分労働者たちの専門的な特殊職能に適合させることにより、それらの道具を単純化し、改良し、多様化する。それによって、マニュファクチュア時代は、同時に、単純な諸道具の結合から成り立つ機械設備の物質的諸条件の一つをつくり出す。[361-2]

個別的に行なわれる手工業の場合、道具の特殊化は、特定の個人の作業と作業対象に依存しているが、協業的に行われる手工業の場合には、道具の特殊化は、それを使う労働者が一定程度の人数に達するために、すなわち一定程度「一般化」するために、その作業そのものの特殊性により大きく依存する。その分業部門にたずさわる労働者だれもが、その作業で使用できるほどにまで、道具は「一般的に特殊化される」。より「単純に」より「多様に」。すなわち、他の作業部門ではほとんど用をなさなくなるほどまでに、道具の特殊化、具体化がすすむ。だからこそ、この場合の道具の「特殊化」は、個別的手工業における特殊化と異質なのであり、つぎの段階の分業の発展をうながす、労働手段部面の土台を形成する。



Copyright © 2003 Kyawa, All Rights Reserved.