Pediocactus simpsonii
  (Engelmann)Britton&Rose 1913
  月華玉(星華玉)
             
 一見マミラリア。でも花はてっぺんから咲くし、ポット状の果実や大きくて発芽しにくい種子などは全然違う。多くのサボテン栽培家が抱いているこの種の印象はそのようなものだと思います。しかしシンプソニー(月華玉)最大の特色は、全サボテンのなかで最も寒冷な環境に適応した植物であることでしょう。そして、南米の4000メートル級の高地に生育するTephrocactus属などと比べても異色な点は、この種が亜高山針葉樹林帯にまで進入していることです。気候帯で言えば亜寒帯〜寒帯に属し、冬季には積雪もあり、松などの高木が密生する場所はいわゆる乾燥地ではありません。実際、simpsonii の自生地は、日本で云えば軽井沢か八ヶ岳か、と云った雰囲気の場所で、そうした風景のなかにサボテンを見るのはなんとも不思議です。よく、北米高山サボテンなどと云いますが、simpsonii はもっとも「高山植物」と呼ぶに相応しい種類です。けれど栽培の上では、同じような環境が日本にもあるわけですから、そう難しくはない?はずです。
 
 Pediocactus.simpsonii グループに属するサボテンはアメリカ西部のほとんどの州に分布しており、北はワシントン州、モンタナ州のカナダ国境に近い場所から、南はニューメキシコ州、アリゾナ州の高い山の上まで、実に広大なエリアに及びます。標高は北部の州では数百メートルから、中南部の州では3000mを超えるコロニーもあります。環境的には、先に述べたように亜高山帯の森林地帯のほか、juniper-pinyon woodlandと呼ばれるマツ・ネズ類の疎林地帯、さらにSagebrush などの低灌木沙漠まで、これも様々。このため変異の幅も極めて大きく、イガ栗のように刺を密生し、人の頭くらいもある玉がごろごろ群生するようなタイプもあれば、数センチ程度でほとんど地に潜るように暮らすタイプまであります。これは別種となっていますが、有名なノウルトニー(P.knowltonii) も種子や実生苗などは区別できないほど似ており、大きくならないsimpsonii と見ることさえできます。花色も実に様々で、白、黄、ピンク、濃紫といろいろなタイプがあります。
 先にsimpsoniiグループと書いたのは、分類上いくつかの亜種・変種(もしくは別種)がたてられており、何を亜種・変種、また独立種として認めるかをめぐって、複数の研究者の間で見解に相違があるからです。園芸的には、コロニーごとに様々な顔があるのを楽しめば良いわけで、フィールドナンバーに基づく収集ということになります。以下に、メサガーデンのリストにもある、基本的な分類例をあげておきます。

  
Pediocactus simpsonii ssp. simpsonii    (月華玉)
基本種で、径・高さとも最大で15センチくらいになりますが、コロニーによっては数センチどまりです。モンタナ・アイダホ・ワイオミング・コロラド・ユタ・ネヴァタ・ニューメキシコ・アリゾナなどの各州に分布。森林地帯だけでなく、プレーリー的な環境にも進入しています。
アイダホ州に産する特定のタイプを
ssp.indraianus と呼んでいるようです。

Pediocactus simpsonii ssp. minor.      (星華玉)

基本種との差異はわかりにくい。より小型で刺なども繊細とされます。分布域はワイオミング・コロラド・ニューメキシコで基本種よりも高い標高に生育します。  

Pediocactus simpsonii ssp. nigrispinus   (ニグリスピナ) 
大型で基本種より強大な刺で武装しており、しばしば大群生となります。刺色も濃いものが多く天狼を思わせることも。基本種より西海岸側の州、ワシントン、オレゴンの火山性土壌の裸地に多く分布し、土壌に対する適応なのか、根が太くなります。
ssp.puebloensis はオレゴン州の標高2000m近い高山帯ツンドラ!地帯に生育するとされます。

Pediocactus simpsonii ssp. robstior     (ロブスチオル)
上記nigrispinus と同種とみなす考え方もあり、外見は似ていますが、分布するのはネヴァダ州北部の2000m以上。根は太くなりません。



 このように、simpsonii の仲間は準高山植物とも呼べるサボテン界でも他に例のない個性を持ったグループです。従って栽培法もいちがいには云えないのですが、同じ難物に見なされる白紅山、天狼など激しい乾燥地帯のサボテンに比べれば、湿潤な環境にも耐え「日本向け」と云えそうです。もちろん、正木での栽培が可能ですが、難点は成長期間が短いこと。私のところでは3〜5月くらいにしか動かず、このためなかなか大きくなってくれません。自生地の巨大株ははるかな年月を生きてきたものなのでしょう。
 あまりに広い範囲に分布し、ほかのサボテン類との重なり合いも少ないので、自生地を見るのは大変です。北の方のsimpsonii は、一緒に生えているサボテンも小型のOpunitia かEsc.vivipara だけです。いまのところ、私もごく限られたコロニーしか訪ねておらず、このページも未完成ですが、いくつかの自生地の様子をご紹介したいと思います。今後、拡充する予定です。





小さい写真かアンダーラインをクリックすると他の写真と詳細情報が開けます。

Pedio.simpsonii ssp.minor

(Montezuma Co, Colorado)星華玉
標高2000メートルを越す針葉樹林帯のなかのコロニー。木漏れ日程度の場所で小さくてやや丈の高い個体が多い。とても繊細な感じの「星華玉」らしいタイプです。
Pedio.simpsonii ssp.simpsonii

(Wayne CO., Utah)月華玉
こちらは樹林帯と草原のちょうど境界にあるコロニーで、火山岩が所々露出しています。直射日光にさらされる場所で、植物は半ば以上土中に埋没して育ちます。
Pedio.simpsonii ssp.simpsonii

(Whitepine Co, Nevada)月華玉
ごらんのように白い刺が密生し、花もクリーム色のとても美しい月華玉です。ここも松林のなかであまり陽は差しませんし、冬季には冠雪がある場所です。
Pedio.simpsonii ssp.simpsonii

(Whitepine Co, Nevada)月華玉
上記のコロニーの西隣りの山系にあるコロニー。5月下旬ですが、山並みには冠雪がみられます。この場所から少し標高があがると樹林帯となり、境界付近に月華玉がみられます。













                               
                             BACK