男の自宅介護

楽しく介護するコツ:介護者同士、男性介護者の会でつながる


介護をしていると人づきあいの機会も減り、親戚とも疎遠になってきます。ご近所さんとはたまに挨拶を交わしても介護の話題で盛り上がることはありません。同じような境遇の人と情報交換したいと思っていたとき、ご縁があって男性介護者の会を主催することになりました。



男性介護者の会を主催するまで


平成23年総務省「社会生活基本調査」では介護者は682万人、男性介護者は265万人だそうです。
単純計算で、19人に1人が介護者で、48人に1人が男性介護者となります。
町内規模の人口に、必ず介護している人が何人かいることになります。

しかし、ご近所さんと挨拶は交わしても介護の話題で盛り上がることはありません。
介護生活に入ると知り合いや親戚とも疎遠になり、付きあいそのものが減ってきます。

在宅介護を始めて2年。
手探りで介護のノウハウをつかみ、男の家事にも慣れてきたころ、
「他の人はどんな介護をしているのだろう」
「自己流で介護しているが、もっといい方法があるのでは?」
と思うようになりました。

同じような境遇の人がいれば情報交換できますが、そう簡単には見つかりません。
ケアマネさんに聞いても、在宅介護している男性はいないということでした。

そんな中、新聞記事に載ったNPO法人の支援者に連絡を取ってみると、
「男性介護者の会の発足」と「茶話会」を模索しているとのことでした。
その人に日頃の思いを相談してみると、
「会の発起人となってみては」
と提案されたので、やってみることにしました。

そして2012年8月22日、石川県内で初の「男性介護者の会」が発足となりました。

工夫や成果を自慢し合う介護の「同好会」を目指す

発足した「男性介護者の会」の目指すところは、ひと言で言うなら「介護同好会」です。
ちょうど「つり同好会」が道具や釣果を自慢しあうような、そんな形をイメージしています。
会名が「男性介護者」なのは、介護スタイルや求めるところが似ているためです。
でも、女性を拒んでいるわけではありませんので、趣旨に賛同する人はだれでも歓迎です。
この会には、情報を求める「介護の達人たち」、それから会発足のきっかけを作ってくれた支援者の方が参加しています。
会は以下のような特徴を持って運営しています。

<男性介護者の会の特徴>
・自発的な集まりで、行政やNPO法人に依存しない独立した運営
きっかけはNPO法人の支援者でしたが、今はNPOからの支援や関係者の出席もありません。
・「他の人はどんな介護をしているのだろう」を出発点に、介護する者同士が情報交換
・ゴールは「介護レベルのアップ」。
しくみづくりや人助けでなく「自分のため」に集まります。
・介護者自身の運営のため参加費は無料
会場の会議室は公共施設なので無料です。
・月1回の会合と、年1~2回の会報発行(447か所へ郵送)
・会合はポジティブな近況報告が中心
会合以外に、料理教室や薬剤師さん・理学療法士さんから専門知識を学ぶ会、介護用品の説明会、昼食会などを行ってきました。



自発的に集まる人さえいれば、細く長く続く

発足以来、今年の8月で丸4年になります。
会合はこれまでに52回、ほぼ毎月、細く長く続いています。
参加者は平均4~5名で増えることはありませんが、継続こそ大きな成果となっています。

ですが、存続の危機もありました。
2014年春、妻の不明熱騒動のため、会合の進行役を担っていた私の長時間出席が難しくなってしまいました。
そのため「解散」を提案しましたが、参加者からの強い要望で「継続」されることになりました。

この時期は、テレビ電話や短時間出席、支援者による進行など、いろいろなアイデアで乗り切りました。

会が継続した一番の理由は、「介護の情報を欲しがる人が自発的に集まった」ということです。
皆がこの会で得られるものの大きさを実感していたのだと思います。

また当会を今日まで継続させてきた中で、「長続きのコツ」もいくつか見つけました。
<介護者の会、継続のコツ>
・「介護者同士」と「支援者と介護者」が対等な関係を築いている。
この会の中では、情報を求める仲間同士として、対等を意識し、
「教える人と教えられる人」「支援する人とされる人」というような上下関係は作りません。
上下関係はどこかに負担が生じ長続きしません
・講習会のような形式はとらず「それぞれの介護の近況報告」を主体にしている。
参加者の家庭ごとに介護のスタイルや状況は日々変化し、進歩しているため話題が尽きることがなく、飽きません。変化への対応も参考になります。
・参加者は4~8人がちょうどいい。
それぞれの近況報告を皆で集中して聞くことができる人数です。
また、話を聞きとりやすい距離が保てます。
・開催日は月1回。頻繁には行わない
次回までの間隔がちょうどよく、負担にならない頻度におさえています。
近からず遠からず話ができる人間関係が築け、1か月の間に何かしらの生活の変化があるため、話題も作りやすくなります。

男性介護者の会がもたらしてくれた「介護レベルの向上」

この会の会合を重ねてきたことで、私自身には以下のような介護レベルアップがありました。

・介護当事者ならではの最新情報やお得情報が得られる
毎回、使う側目線の介護情報を仕入れています。
福祉車両や介護ベッド、おむつなどの使いやすさ、最新機種の特徴、安く入手する方法などは、行政やケアマネさんからよりも情報が早くて確かです。

・自作の介護用品をさらにレベルアップ
他の人の介護用品の工夫や自作品をヒントに、さらに使いやすい介護用品を作成してきました。
玄関にスロープを作ったり、車椅子の肘掛けに腕が外れないように工夫したり、衣料をリフォームしたりしたのは、この会の人が作ったものをヒントにつくりました。

・頑張っている人から刺激を受け、意欲がわく
料理教室やヘルパー講座を受講した人の話、要介護5の妻と2人で北海道旅行をした人の話・・。
参加者の近況報告はどれも刺激的です。
福祉車両を持っている方が5名もいて、車を見せてもらう機会もありました。男の力強さを感じます。
愚痴話よりも、この会合で聴くような自慢話の方が私は好きです。

・専門職の方々から役立つ情報が得られる
会合には理学療法士さんや薬剤師さんなど、専門職の方にも参加いただくことがあります。こうした方々には県内の男性介護者調査データ、低栄養の判断基準、ジェネリックの実状、介助方法のコツ、介護食に向く食材や作り方のアイデア、最新介護用品の特徴など、介護者からは得られない情報をもらいました。

・介護の方法に自信がついた
当初は「もっといい方法があるのでは?」と思っていましたが、他の人の介護の仕方を知り、介護レベルが上がってくると「自分のやりやすい方法が一番」と思うようになりました。


介護者同士、つながりを持つことが「楽しく介護するコツ」

介護に必要な支援や助成金は、申請しないと受けられません。
情報も同じように、自分で取りに行かなければ手に入りません。
そのため、この「男性介護者の会」ができました。

ここで得られる情報は知っておいてよいことばかりです。
情報を求める素直な心と有効な情報に気が付く感性さえあれば、参加者の話はどれもお得な情報に変わります。

男の介護は、その体力、探究心、解決力を原動力にしています。
福祉車両による外出介助や、介護用品や設備の作成といった力強さ、ITを駆使した日常管理や情報収集などの探究心、手法を発見し、創意工夫する解決力。
さらに、正面から真面目に介護に取り組む姿勢を持っていることも、この会の参加者の特徴です。
毎回こうした方々に、ポジティブな刺激を受けています。

介護者同士がつながることで、
介護の話ができる。
貴重な情報源を得られる。
ポジティブになれる。
介護レベルが上がる。
これが「楽しく介護するコツ」だと思うのです。


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