危機管理センターバイオハザード生命科学)/インフルエンザ大流行に備える

   influenza           

       世界的大流行に備える  


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プロローグ      ≪パンデミックに到る6段階≫ 2005.12.11
No.1 〔1〕 最近の状況を総括 2005.12.11
No.2    ≪根本的解決策は...文明の折り返し/反・グローバル化 2005.12.11
No.3 〔2〕 新型肺炎・SARSとの違いは、 2005.12.11
No.4 〔3〕 “抗ウイルス薬”と、“ワクチン”の最新情報 2005.12.22
No.5    ≪抗ウイルス薬≫ 2005.12.22
No.6    ≪ワクチンの状況≫ 2005.12.22
No.7 〔4〕発生の状況...どのような対処、治療が可能か... 2005.12.22

      

      参考文献

        日経サイエンス/2006.01

                         新型インフルエンザ・大流行に備える

              東京新聞/.....一連の、関連記事.....

 

  プロローグ               wpe75.jpg (13885 バイト)

                                       <夏川 清一>  

「バイオハザード担当の夏川清一です...

  いよいよ“新型インフルエンザ”が、レッドゾーン/危険領域に入ってきました。現

在、世界中の何処で発生してもおかしくない状況と言えます。しかし、やはり家禽(かき

ん)と人が混在する環境にある、中国大陸南部/東南アジア...そして、【H5N1型】

の鳥インフルエンザの変異が、科学的な可能性としては最も高いようです。

 

  人類は、“新型インフルエンザ”パンデミック(世界的大流行)を、最小の被害に押さえ

込むことができるのでしょうか。いずれにせよ、“スペイン風邪”“アジア風邪”“香

港風邪”の例を見るように、パンデミックは必ずやって来ます。気温が下がり、空気が

乾燥する12月〜3月がインフルエンザのシーズンです。“新型インフルエンザ”が出

現するとすれば、この時期になります...

  2003年に流行した“新型肺炎・SARS”も、この頃に出現し、初夏を過ぎに入っ

てようやく終息しました。“新型肺炎・SARS”は、最近のことでもあり、このパターンが

参考になると思います...思い出してください」

                “新型肺炎・SARS”の詳しい経緯は、こちらへ...

 

「国の“新型インフルエンザ対策計画”では、状況を次の6段階に分けています...」

 

   *****パンデミックに到る“6段階”  *****

【レベル・1】...“問題ウイルス”の、人への感染はないが、動物で発見

   (対策)...国内外の情報収集

【レベル・2】...“問題ウイルス”は、人への未感染だが、そのリスクが高

           まる

   (対策)...海外渡航者への注意喚起

【レベル・3】...動物から人に感染/人から人への感染はない 

   (対策)...タミフルの備蓄、指定医療機関の確保           

             現在は、このレベル...(2005.12.6)  

【レベル・4】...人から人へ、小集団で感染発生

   (対策)...ワクチンの開発・生産、流行地からの検疫強化

【レベル・5】...大きな集団に感染拡大

   (対策)...国内発生では、発生地域の休校や休業を要請。集会

            や興行の自粛を勧告

【レベル・6】...世界的規模で流行 (パンデミック)          

   (対策)...国内で発生の場合、厚生労働大臣が非常事態を宣言

 

*********************************************

 

  〔1〕 最近の状況を総括    wpe75.jpg (13885 バイト)     

     <夏川 清一>      wpeB.jpg (27677 バイト)

 

「“巨大な危機が迫っています...!”」響子が、静かな、緊張した声で言った。「それ

で、今回は、私が是非にもということで、高杉・塾長にも参加して頂きました。

  塾長、お忙しい中を、ありがとうございます、」

「忙しいには違いないが、パンデミックは、大問題だ。

  しかし、せめて1年か2年先に伸ばしたいものだねえ...2年先なら、だいぶ準

備も進んでいると思うが、」

「はい...」響子は、真剣な眼差しで、高杉にうなづいた。「みんなが、そう願ってい

ますわ...」

「うむ...“大きな賭け”になったな...

  感染症が大流行するたびに、人類社会は“大きな賭け”をすることになる。“世界の

グローバル化”が続く限りね...しかし、いずれ賭けに負け、予想外の大被害をこう

むるだろう...

  現在の人類文明の基盤が、非常に脆く構造欠陥に陥っていることに、人々はほ

とんど気付いていない。いや、気付いていても、惰性のままに、“還元主義的機械文

明”の中で、惰眠を貪っている。

  文明の、“グローバル化のリスク”...“グローバル化のマイナス面”が...しだい

文明を圧迫し始めている...それは地球生態系に、地質年代的な大変化をもたら

すのかも知れない。もし、核戦争が勃発していたら、確実にそうした大変化は起こっ

ていただろうからねえ...」

「はい...」響子が、口をすぼめて、うなづいた。「そうした、文明の“グランドデザイ

ン”の面からも、インフルエンザのパンデミックについて、論じる必要があるということ

ですね...

  ええ...専門的なことは、担当の夏川さんに伺います。高杉・塾長には、広い視

野からの意見を伺いたいと思います」

「分りました」 

 

「ええ、夏川さん...」響子は、椅子の向きを変えた。

「はい...」夏川は、トン、とボールペンを机に立てた。

「インフルエンザに関しては、“鳥・インフルエンザ”“パンデミックの考察”“感

染・拡大モデル”等で、私たちも考察を重ねてきました。だいぶ基礎的な理解も進ん

でいると思います。

  そこで...最新の状況は、どのようなことになっているのでしょうか。率直に伺い

たいと思います」

「そうですねえ...まず、今年に入っての状況を、ざっと説明しておきましょう...」

  夏川は、壁面の大型スクリーンの画像を動かした。

 

 ******** 今年に入ってからの状況 ********

 

  2005年6月...中国中部の青海湖(渡り鳥の大中継地/巨大な塩水湖/標高3200m/面積

4583平方km)で、【H5N1型】鳥インフルエンザウイルスにより、6000羽の野鳥が死

亡...

  2005年7月...ロシア・シベリアで、家禽が【H5N1型】に感染...カザフスタン

でも、ガチョウが【H5N1型】に感染...

  インドネシア・ジャカルタで一家3人【H5N1型】に感染、死亡...この症例で

は、インドネシア当局とWHOスタッフとの間で軋轢(あつれき)がありました。一方的に調

査の中止が宣言され、犠牲者の検死解剖もされず、埋葬されました。2003年の“新

型肺炎・SARS”の際の、中国当局の“情報隠し”と共通するものがあります。こうした

ことは、“人類全体を大きな危機に陥れる”可能性があります...

  2005年8月...人に感染し、最も多く死者を出しているベトナムでは、2000万

羽の家禽【H5N1・ワクチン】を接種。モンゴルで、ガチョウと白鳥が、【H5N1型】

感染、死亡。ロシア・ウラル山脈の家禽に感染が拡大...

  2005年9月...【H5N1型】に感染した鳥は、13カ国で確認。人への感染は、

カ国で確認...

  2005年10月...【H5N1型】が欧州に波及...トルコ(10月13日)ルーマニア

(10月15日)で、相次いで確認。 さらに、その2日後の10月17日...エーゲ海のトルコ

に位置するギリシャの小島でも、七面鳥から【H5N1型】を確認...EU域内にも

感染拡大が及ぶ...

  WHO(世界保健機関)の李鍾郁・事務局長は、10月17日...“人の間での新型イン

フルエンザの大流行は、起きる!”と、“断言”。これは、“最高度の警告!”...

 

******************************************************

 

「と、まあ...それ以降、パンデミックに対して、人類文明は臨戦体制に突入したわ

けです...

  しかし、監視体制は穴だらけです。野鳥の移動などに関しても、あまりにもデータ

が不足しています。また、各国の共通認識・協力体制も、まだきわめて不十分です。

抗インフルエンザ薬の“タミフル”も不足しています。その効目にも、条件がつきます。

特効薬ではないということです。薬剤耐性ウイルスの問題もあります...

  塾長の言うように、せめて、あと2〜3年の、準備期間が欲しいですね。しかし、“新

型肺炎・SARS”が突然出現した例もあるように、いつ出現してもおかしくない状況で

す。祈れるものなら、神に祈りたい。しかし、祈るのは、私たちの仕事ではありません。

私たちは、科学者ですから...」夏川は、高杉の方を見た。

  高杉は、黙ってうなづいた。

「それから、ワクチンの方ですが...

  鳥ウイルスのワクチンは、人には効きません。ベトナムで2000万羽の家禽にワク

チンを投与しましたが、これは鳥ウイルスの【H5N1・ワクチン】です。人ウイルスの“新

型インフルエンザ”はまだ発生していないわけであり、そのワクチンも当然まだ存在し

ないわけです。

  しかし、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)は、2004年にベトナムの【H5

N1・感染者】から“種ウイルス”を樹立しました。鳥ウイルスの【H5N1】が、人に感染

したケースからサンプルを採ったということでしょう。このあたりのことは、高度に専門

的になるわけですが、“種ウイルス”人ウイルスの変異に対応したものということで

しょう。

  米・保健社会福祉省は、このウイルス株に対するワクチンを、200万回分発注し、

2005年3月には、臨床試験が開始されています。このワクチンは、科学的に予測し

合成した、【ヒト対応の、H5N1・ワクチン】ということでしょう...厳密に“新型インフ

ルエンザ”のワクチンではありませんが、“新型インフルエンザ”に近似したワクチンと

言うわけです。

  さて、それがどのぐらい近似したものかは、“新型インフルエンザ”が発生してみな

いと分りません。しかし、人に感染した【H5N1】鳥ウイルスから作ったものであり、極

めて“新インフルエンザに近いワクチン”と言うことでしょう...

  今、このワクチンの備蓄が始まっているわけです。ワクチンは、完全に適合しなくて

も、幾分かはパンデミックの防御に役立つと言います...まあ、これだけではなく、

ワクチンの研究開発は、大車輪で進められています。なんと言っても、ワクチンは“特

効薬”ですから」

根本的解決策は...   wpe75.jpg (13885 バイト)   wpe8B.jpg (16795 バイト)

           文明の折り返し反・グローバル化

                wpeB.jpg (27677 バイト)   

「うーん...」響子が、首をかしげ、肩を振った。「どうなんでしょうか...」

「うーむ...」高杉は、腕を組んだ。「感染拡大のシミュレーション・モデルも、ようやく

動き出したばかりです。どうやら、“人類文明の対策”が整うか、“新型インフルエンザ

の変異”が速いか、まさに“時間との勝負”になってきた観がありますね」

「塾長の言う通りです」夏川が、ボールペンをいじくりながら言った。「少しでも変異の

時を遅らせるために、ベトナムでは2000万羽の家禽【H5N1・ワクチン】を接種し

たのです。まさに、“時間稼ぎ”が必要なのです...時間があれば、かなりの対応で

きるでしょう...

  せめて、2〜3年...できれば、4〜5年...このぐらいの時間が欲しいですね」

「それが、人類文明の運命を、大きく左右するかも知れませんわ...科学文明の進

と、巨大生命圏の“ホメオスタシス(恒常性)/復元力”との相克です...文明が、魂

を取り戻し、“ターニングポイント”へ入っていけば、そもそもこの戦いは回避できるも

のと思います」

「津田・編集長が...」高杉が言った。「“地球政府”の創設を提唱しています。うし

た、強力な指導体制が、是非、欲しいですね。そうした体制が、いよいよ不可欠な時

代がやって来たということでしょう」

「はい!」響子が、高杉にうなづいた。

        wpeB.jpg (27677 バイト)       wpe75.jpg (13885 バイト)       

「日本の政治は...」高杉が、脚を組み上げた。「テロ有事ミサイルの迎撃等

議論に明け暮れています...

  しかし、パンデミック2桁も3桁も違う死亡者が予想されます。また、“憲法改正”

にしても、いかにも時代遅れの、“カビの生えた餅”をいじくり回している観がありま

す...その問題の“憲法改正”が、仮に実現したとして、日本が生れ変れるとはとて

も思えません。混乱は増すばかりではないでしょうか...

  人類文明は、20世紀の終わりと共に、“帝国主義”や、“領土拡張/覇権主義”

終焉したものと思われます。わずかに残っているのは、遅れてやって登場してきた中

と、東西の冷戦構造を勝ち抜いたアメリカの軍事力だけでしょう

  しかし、もはや、“パックス・アメリカーナ(米国支配による平和)の時代でないのも、事実

です...“9.11/同時テロ”があり、その反動でアメリカは、アフガン戦争イラク戦

を仕掛けました。

  しかし、そのいずれでも、アメリカは未だに安定した状況を創出してはいません。

“パックス・アメリカーナ”の威信は、実質的に崩れ去っています。そこで、アメリカは、

新たな世界戦略を築き上げようとしています。が、しかし、20世紀の終わりと共に、

“覇権主義の時代は終った”と認識すべきです。

  文明は新たな、“第3のステージ”に突入しようとしているからです。“パワー”による

“世界戦略/欲望追求”は、過去の遺物になろうとしています。そうした意味では、秋

月茜さんの言うように、“資本主義/資本による支配”もまた、1つの時代的役割を終

ったのだと思います...」

「日本の政治の現状は、まさに迷走状態ですわ...でも、これは、“危機管理センタ

ー”では扱えません。津田・編集長の仕事ですから、」

「そうですね...

  これからは、“絶対平和主義”による、“日本独自の国際平和戦略”“地球政

府”が必要になります。まさに、パンデミックが迫った今、“地球政府”という強力な指

導力を必要としています。こうした危機が、今後続々と起こってきます。

  “真の危機”は、他国との覇権争い経済競争ではなく...“文明の外側”から、

ジワジワと、幾重にも、人類社会に忍び寄って来ていることを知るべきです。ミサイル

や迫撃砲は、恐れるほどの事はありません。それが有事だと言うのは、“20世紀の

争ごっこ”の延長です。そこで、日本の政治は、成長が止ってしまっているのです」

「はい...“真の危機”は、“文明の外側”からやって来ています...あるいは、文明

そのものが内包しています...」響子は、壁面の大型スクリーンを切換えた。

「ええ...何度も言うことですが、“危機管理センター”としては、次のようなことを予

測しています...

  “パンデミックを引き起こす感染症”“人口爆発と巨大飢餓”“機械文明による環

境破壊”“科学技術の暴走が引き起こす危機”“地球の短期・長期の気候変動”

それから、“地球近傍天体の地球への衝突”...

  まさに、人類にとっての“真の危機”は、こうした所にあるのだと思います...」

「うむ...

  いわゆる、最近持ち上がってきた“テロの危機”も、21世紀型の社会体制にリニュ

ーアルすることによって、克服して行くべき課題ですね」

「はい」

“反・グローバル化”“多様な文化/多様な価値観/多様な宗教”...そして、

“地球政府の創設”“文明の地下都市空間へのシフト”...」

「そうですね、」響子が言った。「いま、塾長たちが、“グランドデザイン”で提示してい

ることですね...そうした体制へ移行できれば、“新型インフルエンザ”にしても、単

なる地域の風土病という、本来の生態系的地位に落ち着くのだと思います...」

「そうですね...

  “エイズ”は...“インフルエンザ”とは対極にある、“スローで感染力も低い感染

症”です。しかし、これもまた、非常に恐ろしいものです。このウイルスも、世界的に深

刻の度合いを増しています。

  しかし、このエイズ・ウイルスも、もともとはアフリカの狭い地域での、1つの風土病

でしかなかったはずです。それが、“グローバル化”の影響で、世界中の人々を苦し

める結果となっているのですね...

“生命現象”では...今でも新種の生物がどんどん生まれています。生物進化の巨

大なベクトルは、多様性の増大複雑系の深化であり、宇宙を支配する“熱力学の第

2法則/エントロピー増大”と拮抗しています...

  “世界がグローバル化”し、“富の寡占化”が進み、地球の風景や文化が単調化

ています。これは、“エントロピー増大/熱的な死/破局”への流れを、加速するもの

ではないでしょうか...人類文明全体が、“巨大な破局”へ流れています。だから、

“文明の折り返し”が必要なのです」

「そうですね」響子が言った。

  〔2〕 新型肺炎・SARSとの違い   wpe75.jpg (13885 バイト)

       

「夏川さん、」響子が、言った。「先ほど“新型肺炎・SARS”の感染拡大を、例に上げ

られました。この“新型肺炎・SARS”“新型インフルエンザ”とは、どのように違って

いるのでしょうか?」

「はい...

  “新型肺炎・SARS”“SARS・コロナウイルスというのが原因ウイルスです。

コロナウイルスというのは、大型のRNAウイルス(DNAではなく、RNAを遺伝子としているウイル

ス)の一種で、表面に糖タンパク質の突起があります。普通の風邪の3分の1は、SA

RS病原体とは別の、コロナウイルスによるものと言われています。

  一方、インフルエンザは、“インフルエンザ・ウイルス”によって起こる急性伝染病で

す。2003年に流行したこの“新型肺炎・SARS”は、WHOが中国南部で“新型イン

フルエンザ”を監視していて、その網にかかってきたものです。したがって、極めて似

ているわけです。

  この時は、中国/保健当局情報隠しの壁に阻まれ、まさに悪戦苦闘しました。

そして、そのことで、中国自身も、世界も、大きな犠牲を払うことになったわけです。

さいわい、インフルエンザのような、感染力の強いウイルスでなくて、助かりました

「そうですね...

  急性感染症における情報隠しは、人類文明全体を、大きな危険晒すことになり

ます...この“共通認識”を、もっと徹底する必要があります」

「ともかく、そういうわけで...“新型肺炎・SARS”の大流行の例は、“新型インフル

エンザ”の流行の参考になります...ただし、違う点もあります...」

  夏川は、壁面の大型スクリーンの画像を操作した。

 

   ************************************************

 

@ 感染力の比較的弱い“新型肺炎・SARS”と違って、インフルエンザ・

ウイルスは、驚異的感染力がある。過去の“新型インフルエンザ”“スペ

イン風邪”“アジア風邪”“香港風邪”は共に、パンデミック(世界的大流行)

引き起こしている。

 

スペイン風邪(1918年)...死亡/4000万人    【H1N1型】

アジア風邪 (1957年)...死亡/100〜400万人 【H2N2型】

香港風邪  (1968年)...死亡/100万人      【H3N2型】

   <これまでの、H1型、H2型、H3型は、いずれも弱毒性です。

   今問題になっている、H5型、それからH7型が、強毒性です>

 

A 抗インフルエンザ薬“タミフル”という治療薬がある。“新型肺炎・SAR

S”の流行時のような、全く無防備の状態ではない。また、“タミフル”には、

予防的効果もあるが、ワクチンのような特効薬にはならない。

B “新型インフルエンザ”のパンデミックは、【H5N1型】と決まったわけで

はないが、その可能性が最も高い。その場合、“新型肺炎・SARS”の時の

ように、正体不明のウイルスではない。【H5N1型】については、かなり研

究が進んでいる。

  しかし、予想通りの相手が来るとは限らない。他の型への監視も必要だ。

現に、“新型インフルエンザ”を監視していて、“新型肺炎・SARS”が出現

している。

C 人から人へ感染する“新型インフルエンザ”発生すれば、数人の患

者だけということはありえない。また、感染力が強く、急速に拡大することが

考えられ、隠しきれるものではない...

  “発生の初動期をたたく”...ここを見つけて“モグラ叩き”のように潰

して行き、“時間を稼ぐこと”...これが、人類文明の取っている戦略。その

間に、“感染拡大のシミュレーション”を重ね、“タミフル”等を備蓄し、“ワク

チン”の研究開発を深め、備蓄し、医療体制を整えて行く...

  ここが、つまり...“新型インフルエンザへの変異と、“人類文明の叡

智”の、“時間の勝負”ということになる。いずれにしても、パンデミックは、

必ず発生する。

 

   ************************************************

 

ええと...こんな所ですね...

  パンデミックを無くすには...“抜本的解決策”は...高杉さんの言われたよう

に、“世界のグローバル化”に、“歯止をかけること”でしょう。“反・グローバル化”

文明の舵を切ることです。

  交通輸送網の発達は、“スペイン風邪(1918年)当時の比ではありません。ウイ

ルスは、航空機によって、きわめて短時間で世界中に広がります...」

「はい...」響子が言った。「非常時には、“航空輸送網の凍結”も必要なのではない

でしょうか。もちろん、世界経済の大混乱が予想されるわけですが、」

「そうですね...

  “航空機の乗り入れの自粛”などと言うものではなく、もっと強力な“国際的合意”

必要です」

「うーん...WHOが、非常事態宣言をするとか?」

「そうですね...その方面の、専門的なことは分りません。しかし、パンデミックに蹂

躙されるだけではなく、人類文明の叡智を結集した“強力な行政力”発揮する方策

を、検討すべきです」

「はい、」

           wpe75.jpg (13885 バイト)     

「さて...」夏川が肩を回し、作業テーブルへ視線を戻した。「パンデミックは、必ずや

って来ます。気温が下がり、空気が乾燥する12月〜3月がインフルエンザのシーズン

です。“新型インフルエンザ”が出現するとすれば、この時期になります...

  くり返しますが、2003年に流行した“新型肺炎・SARS”も、この頃に出現し、

を過ぎに入ってようやく終息しました。“新型肺炎・SARS”は、最近のことでもあ

り、このパターンが参考になると思います...」

「はい、」響子が言った。「ええ...詳しくは、“拡大するSARS被害”の方をご覧下

さい」

  〔3〕 “抗ウイルス薬”と、  

              “ワクチン”の最新情報

            wpeB.jpg (27677 バイト)

 

「ええ...」夏川が、壁面スクリーンを準備して言った。「“抗ウイルス薬”の状況につ

いては、よくご存知だと思います。ここでは、新旧の状況、今後の開発状況をまとめ

ておきます」

「あ、その前に、1つ聞いておきたいのですが、」響子が言った。「日本の備蓄状況

は、どうなのでしょうか?」

「まあ、備蓄目標としては、2500万人分です。政府と都道府県で、2100万人分の

備蓄を目指し、市場流通で400万人分を補う計画です。しかし、各国とも、満足な備

蓄状況にはありません。日本も同様です」

「市場流通で400万人分と言いますが、私たちが薬局で買うことができるのでしょう

か?」

タミフルは、“医師が患者に処方する薬”です。私たちが、薬局で買うわけには行き

ません。それから、副作用が言われていますから、個人輸入などで勝手に使用する

と、思わぬ健康被害生じる可能性もあります」

「はい。“医師が患者に処方する薬”だということですね」

「そうです」

 

   ≪抗ウイルス薬の開発状況≫********** wpe8B.jpg (16795 バイト)

 第1世代の抗ウイルス薬

   アマンタジン...

        ウイルス表面の“M2タンパク質を阻害” (副作用がきつい)

 第2世代の抗ウイルス薬

   オセルタミビル(商品名: タミフル)/ 錠剤

   ザナミビル(商品名: リレンザ)/  吸入器を使って服用する粉末製剤

        いずれもウイルス表面のタンパク質“ノイラミニダーゼを阻害”

        ノイラミニダーゼは、ウイルスが1つの細胞から、別の細胞に

        乗り移るために使うタンパク質。

           (アマンタジンに比べ、副作用が少なく、ウイルス耐性も生じにくい)

 第3世代の抗ウイルス薬 (開発途上)

   ペラミビル(バイオクリスト)錠剤は臨床試験では、肺への到達が不良。

               静脈注射薬の臨床試験は、2006年に実施予定。

      CS-8958(三共/ビオタ)/肺内に、最高1週間は留まる長期作用型。

                 初期安全性試験は完了。 

         いずれも、“ノイラミニダーゼ阻害薬の改良版”。ウイルスの 

        宿主細胞への侵入を遮断したり、細胞内へ侵入したウイルス

        の機能を妨害するなど、斬新なアイデアも検討されている。

 

   フルダーゼ(ネックスバイオ)/ウイルスの細胞への付着を阻害。

                         2006年に臨床試験を予定。

        ウイルスが宿主細胞へ侵入する時に結合する“シアル酸受

        容体を遮断”。全てのインフルエンザ株に、等しく効果を発揮

        すると考えられる。 

 

   <他にも、“細胞のRNA干渉メカニズムを刺激”するものや、アンチセ

    ンスDNAで、“ウイルス遺伝子を遮断”するものなども、臨床試験や

    動物実験が予定されている>

 

≪ワクチンの状況≫                

             

「ええ...」夏川が、“抗ウイルス薬”に続いて、ワクチンの開発状況を、壁面スクリー

ンに表示しながら言った。「次は、ワクチンです...

  ワクチンとは...ご存知と思いますが...免疫原/抗原として用いられる、各種

伝染病“弱毒菌”“死菌”“無毒化毒素”のことです。これを生体に接種し、“抗

体”を生じさせるわけですね。これにより、生体は免疫系で、完璧に保護されるわけ

です。

  生体における“免疫機構”というのは、自己非自己を識別し、非自己から自己を

守る機構で、脊椎動物で特に発達したシステムです。“サイトカイン”のような自然免

疫系とリンクし、細胞性免疫と、体液性免疫があります。

  天然痘ポリオは、かっては人類社会にパンデミック(世界的大流行)を引き起こしまし

たが、ワクチンの“予防接種”により、今や消滅寸前の状況まで追い込んでいます。

しかし、インフルエンザ“予防接種”によって消滅させることは不可能です。

  インフルエンザの場合、毎年予防接種を実施しても、シーズンが来れば再び流行

してしまいます。しかも、“新型インフルエンザ”となれば、“特効薬のワクチン”は何

処にも存在しないわけあり、確実にパンデミックが起こります」

「ふーん...」響子が、首をかしげた。「現在、“新型インフルエンザ”は、何時、何処

で発生してもおかしくない状況にあります...

  今、現在、パンデミックが始まったとして、“特効薬のワクチン”は、ズバリ、具体的

にどう対応できるのでしょうか?」

“新型インフルエンザ・ウイルス株”に対する、ワクチンの生産ですね...この“特効

薬”の製造には、多少の時間がかかる上に、極度の供給不足が、必然的に起こりま

す」

「はい...そのあたりを、もう少し詳しく聞かせていただけないでしょうか、」響子は、

指をアゴに当てた。

「そうですね...

  そもそも、インフルエンザ・ウイルス株というのは、多種類が同時に世界的に循環

し、それぞれが絶えず変化を続けています。だから、毎年、新しいワクチン接種が必

要なのです。そして、ワクチンと病原ウイルスの一致度が高いほど、免疫系は問題

のインフルエンザ・ウイルスに対し、しっかりと防御することが出来ると言われます。

  したがって、ワクチン・メーカーは、毎年、流行の危険性の最も高いウイルス株3種

に対して、ワクチンを製造しているわけです。例年のインフルエンザ予防接種は、タン

パク質含有量45μg(マイクログラム)というのが普通ですが...これで3種類のインフル

エンザ・ウイルス株をカバーしているわけです...」

「はい...」響子が、うなづいた。「あまり、難しくならないように、お願いしますわ」

「そうですね...ええ...

  “新型インフルエンザ”ワクチンを作るには...まず、生物学者が、そのウイルス

株を分離する必要があります。そして、前にも何度か触れていますが...そのウイル

ス株に、リバースジェネティクス法というプロセスで手を加え、“種ウイルス”を作るわ

けですね...

  その後、ワクチン工場で、無菌状態で飼育された雌鶏が産んだ有精卵に、ロボット

“種ウイルス”を注入するわけです。そして、鶏卵内で病原ウイルスを大増殖させる

のです。予防接種用のワクチンは、このウイルスを化学的に処理し、“抗原”とよばれ

るタンパク質を抽出し、製造するわけです...」

注射だけでなく、吸入するタイプのワクチンも...あると聞いてますけど、」

「はい。感染しても発病しないように弱毒化した、生きているウイルスから作られるワ

クチンです。弱毒生ワクチンですね...」

“新型インフルエンザ・ウイルス株”分離に成功し、ワクチン工場で生産し、バイア

ル瓶(びん)に入った医療現場のワクチンが完成するまでに、およそ“6ヶ月”かかると

言うわけですね。完全に、“新型インフルエンザ・ウイルス株”から製造された、まさに

“特効薬のワクチン”ができるまでに、」

{そう言うことです...

  ええ...ちなみに、ワクチン接種は回必要です。“新型インフルエンザ”は、誰も

が初めての体験になるわけです...“初回免疫”と、4週間ほど間を空けて受ける、

“追加免疫”が必要です。

  したがって、真っ先に予防接種を受ける人でも、パンデミック発生から、少なくとも、

7〜8ヶ月は、免疫のない状態で過すことになリます...」

「はい...だいたいの様子は分りました...」

「さて...ここからは、行政機関や政治の問題になるわけです...予防接種を受け

優先順位の問題です...」

「はい...

  ともかく、“抗インフルエンザ薬”の“優先配分の問題”もそうですが、“公正に配分”

することと、“事後の検証・批判・罰則”に耐えられるように、全てオンラインで、正確

な記録をとって置く必要があります。現在は、情報化の時代であり、それが可能なの

ですから、」

「そうですね...」夏川は、うなづき、壁面スクリーンの方を眺めた。

 

    <ワクチンの開発状況>********  wpe8B.jpg (16795 バイト)

 備蓄ワクチン           

   2004年ベトナムのH5N1感染者から、“種ウイルス”を樹立

 H5N1ウイルス株が、パンデミックの原因ならば、完全に適合

しなくても、予防接種により、幾分かは防御に役立つ...

 “新型インフルエンザ・ウイルス株”から作るワクチン/“特効薬”

  “新型インフルエンザ”が出現した後、そのウイルス株を分離

し、製造するワクチン。この特効薬の製造には、6ヶ月かかる上

に、極度の供給不足が起こることは確実...

 

    *****************************************

 皮内注射 

   ワクチンを筋肉内ではなく、皮内接種すれば、1回あたりの所要量

   を、1/5に減らせる。

 臨床試験では有望だが、このワクチン接種法の訓練を受けて

いる医師や看護士が少ない...

 アジュバント 

    免疫反応を増強する。ワクチンに添加すれば、1回あたりの抗原量

   を節約できる。

  欧州では、1種類が承認済み。他のアジュバント添加ワクチン

の開発も、積極的に進められている...

 細胞培養ワクチン 

   ワクチン用のウイルスを、発育鶏卵の中ではなく、細胞を充填したバ

   イオリアクターの中で増殖させる。パンデミック発生時に、迅速な増

   産が可能。

  “カイロン”が、ヨーロッパで大規模治験を実施中。“サノフィ”と

“クルーセル”が、米国用プロセスの開発を進めている...

 DNAワクチン 

      金の微粒子に付着させたウイルスDNAを、空気銃の要領で皮内に

   撃ち込む。新型ウイルス株に対するDNAワクチンの生産を、数週間で

   開始できる。また、冷蔵せずに、数年間の備蓄が可能。

     ヒトで有効性が確認されたDNAワクチンは、まだ存在しない。“パワ

   ーメド”の、H5N1/DNAワクチン小規模治験の結果は、2006年

   末に出る予定...

 全株用ワクチン 

   ウイルス抗原のうちで、変異しにくい抗原に対して免疫を引き起こす

   ワクチンなら、あらゆるウイルス株を阻止できるかも知れない。それが

   可能ならば、備蓄ワクチンで確実にパンデミックを防ぐことができる。

       “アカンビス”が、2005年夏から、M2e抗原に対するワクチン開

    発に着手...

         *******************************************

 

「ええ...さて...」響子は、壁面スクリーンに表示されたワクチンの開発状況を、ざ

っと読み下し、目をそらしながら言った。

「さらに詳しい状況は、」夏川が言った。「クリックすれば、表示されます。しかし、最深

度情報は、製薬会社の企業機密の壁があります」

「はい...でも、私たちは、専門家ではありません。これで十分ですわ。どんな研究が

されているのかが分れば、」

「そうですね...」

「夏川さん...実際、“新型インフルエンザ”パンデミック(世界的大流行)が襲ってくると

して...うーん...その状況とは、実際、どういうものなのでしょうか?」

「はい。そのことを話しましょう...」

  〔4〕 発生の状況...    

      どのような対処、治療が可能か...

      wpe75.jpg (13885 バイト)  wpeB.jpg (27677 バイト)

“どのような対処”“どのような治療”がベストなのか...」夏川が、ジッと自分の手

を見つめながら言った。「それがまさに難しい...人類社会は、“新型インフルエン

ザ”が出現するたびに...事実上、思うがままに蹂躙(じゅうりん)されてきたわけです。

  しかし、今回は、様々な点で、様子が違うということです。変異が予想されるH5N1

は、鶏で100%近い致死率を持つ驚異的な“強毒性”だということです。4000万人

の死亡者を出した“スペイン風邪”でさえ、弱毒性の“H1型”です。これが、“腰抜けの

インフルエンザ”に変異する可能性は、極めて少ないということです。

  しかし、人類文明の方も、今度は“タミフル”という武器があります。“備蓄ワクチン”

も準備し、頼りないながらも、何とか対処しようとし動き始めています。また、最近、新

しい“大規模シミュレーション・モデル”が始動し、感染拡大のシミュレーションも本格

化しようとしています...」

「そこで、」響子が言った。「パンデミック・ウイルスと文明との、時間的な競争だと言う

わけですね」

「そうです」

「でも、元凶は、文明世界のグローバル化ですわ」

「そうかも知れません...しかし、私たちは、目の前に迫ったパンデミックに、如何に

対処するかが課題です」

「はい、」響子が、うなづいた。「その通りです...」

「実際に、“新型インフルエンザ”は、どのように襲ってくるか...過去のパンデミック

のパターンを根拠として、その感染拡大の波を予測してみました...」

  夏川は、壁面スクリーンを、スクロールさせた。

「まず、“新型インフルエンザ・ウイルス株”は、2回から3回の波に乗って、世界を循

環します...それぞれの波は、数ヶ月間続きます。それぞれの地域社会で流行がピ

ークに達するのは、第1波到来の、およそ5週間後と予測しています...

  流行期の長さは、季節とほぼ重なります。第1波の来襲が春なら、晩夏ないし

まで第2波の来襲はないと思われます...ただしこれは、あくまでも過去のパタ

ーンから予測したものです...蹂躙されるままに、為す術もなく対処してきた過去の

例です...」

“新型ウイルス株”のワクチンが、」響子が言った。「メーカーの工場から相当量出荷

されるまでに、半年かかると言います。したがって、第2波には特効薬が備えられる

ということですね。

  すると、問題は、パンデミックの“第1波への対処”ということでしょうか?」

「そうです...問題は、第1波です」

「うーん...」

「それから、ワクチンが製造されても、出荷、流通、接種、と様々な問題を抱えていま

す。如何に、“新型ウイルス株”分離と、ワクチン製造をスムーズに進めても、流通

や接種の段階で混乱しては、全ての努力が無駄になります。

  ここは、政治や行政の、強力な指導力が必要になります。また、シミュレーション

重ね、実地訓練も重ねておくことが、様々なトラブルを回避することになります。それ

から、配分の優先順位の点でも、国民の信頼を醸成しておくことが大事です」

        

 

 


 

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