My Work Stationgroup C量子情報科学新原理・量子コンピューター

             新原理/量子コンピューター            

 
           
ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC・・・で計算する!

          【量子力学原理】のうち・・・【重ね合わせの原理】とは別の、【識別不可能性の原理】を使う!    

                            

    淡島 祐次                           秋月 茜                                        高杉 光一                  
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プロローグ     量子コンピューター/研究開発の状況 2011. 2. 5
No.      “計算”・・・は数学、古典力学をへて・・・量子力学となった> 2011. 2. 5
No.2 〔1〕 ボースアインシュタイン凝縮で・・・“量子計算” 2011. 2.19
No.3     <そもそも・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮・・・とは?> 2011. 3. 5
No.4     <常温で・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮!    2011. 4.16
No.5     半導体の中の・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮・・・とは?   2011. 5. 7
No.6 〔2〕 ニュータイプ/ BEC・量子コンピューター   2011. 6. 4
No.7 〔3〕 不満度シミュレーター・・・とは?    2011. 7. 2
No.8     不満度シミュレーター=不満度を物理系エネルギーへ転換> 2011. 7. 2
No.9      不満度・シミュレーターに・・・BECを応用する>   2011. 8. 7
No.10 〔4〕 量子計算を・・・実現するとは? 2011. 8.26
No.11     <素粒子の・・・人間的側面とは・・・?> 2011. 8.26
No.12     量子デコヒーレンスを・・・克服するには・・・?> 2011. 8.26

     

       参考文献   日経サイエンス /2011 - 03   

                     もう1つの量子コンピューター 古田 彩  (編集部) 

                                                     協力/T.バーンズ  (国立情報学研究所)

                                                     山本 喜久  (スタンフォード大学)

                     ボーズ・アインシュタイン凝縮で計算 

                                                     T.バーンズ  (国立情報学研究所)

                                                     山本 喜久  (スタンフォード大学)

   

  プロローグ       wpe8.jpg (26336 バイト)  wpeA.jpg (42909 バイト)  

    
量子コンピューター/・・・研究開発の状況



「ええと...」茜がゆっくりと、インターネット・正面カメラを見上げた。「秋月茜です!

  先日...《見るだけ・量子コンピューター》のぺージでも言いましたが...量子コンピュータ

開発状況というのは、外部からはよく分かりません...でも、今回の“参考文献”によれば、

どうやら、全体状況としては...“研究開発は・・・踊り場”...にさしかかっているようです。そ

れが、私たちには、分かりにくい状況となっていたようです。

  つまり、簡単に言うと...“量子コンピューターの実現は・・・非常に困難で・・・難しい”...

ということが、しだいに分かって来たということです。むろん、これは、最初から分かっていたことな

のですが、予想以上困難だということです。これは、まさに、次世代テクノロジーの壁ということ

なのでしょうか。

  量子コンピューターは、 1985年基本原理提唱されました。そして、 1994年に...

“大きな数の因数分解を・・・桁外れの超高速で解く”...ということが分かりました。それ以降は、

研究爆発的に広がりました。現在では、世界的にも、普遍的研究テーマとなっています。

  でも、その一方...“当初期待されていた・・・夢のようなコンピューター・・・ではない”...とい

うことも、しだいに明らかになって来ています。現在のところ、量子コンピューター超高速計算

きる課題は、ごく少数の範囲限定されています。

  それは、どういうものかというと...“問題自体に・・・高速化を可能にする構造”があり...そ

れを引き出す...“量子計算・アルゴリズムを・・・作ることができるものに・・・限定”される...と

いうことのようです。

  1990年代に、“因数分解”“データ検索”など、数種類が見つかっているわけですが、その

後は、ほとんど増えていないようですね。このことは、もちろん、私たちも聞いていたわけですが、

依然として大きな壁になっているようです。

  “研究開発が・・・踊り場”...にさしかかっているというのは、こうした足踏み状態を言ってい

るのでしょう。ともかく、量子情報技術次世代テクノロジー基盤になるようですから、ブレーク

スルー(困難や障害を突破すること。突破口)が待たれます...」

 

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「ええと...」茜が、ノートパソコンに目を落とした。「それから...ハードウェアーの開発も、予想

していたこととはいえ...困難を極めている様子です。

  そもそも...量子コンピューターというのは...【量子力学の・・・重ね合わせの原理】を利

用し、少数の素子膨大なデータを書き込み...大量の計算同時に実行するものです。

  でも、これは...【量子力学の原理】により...“重ね合わせになったデータは・・・観測したら

崩壊” ...してしまいます。この“観測”というのは、人間による観測に限りません。素子以外の

物体情報が伝われば、それは成立します。

  したがって...演算中は、素子外界から遮断する必要があります。これは、いわば...“触

れずに・・・操作する”という...矛盾した要求を満たさなければなりません。むろん、技術的

も、非常に困難な課題となるわけです。

  ええ...このために...“空中に浮かせたイオン”...“半導体中のスピン”...“超伝導回

路の電流”...“空中を飛ぶ光子”など...これまでに、様々な“量子コンピューター素子”

が登場しました。でも、今のところ、決定打はないようです。実験室で、数ビットの計算をできる

程度のようです。

  こうした状況から...“量子コンピューターは・・・実現しない”...と、予想する物理学者も、

少なくないようですね。でも、だからといって、学界研究開発が、沈滞/停滞しているということ

では、決してはないようです。

  各国の、有力大学研究機関が、量子コンピューター研究開発に取り組み...大型・研究

プロジェクトが立ち上がり...若い研究者大勢参入しています。それから、毎週のように、何処

かで学会開催されている状況だそうです。

  では...“研究開発が・・・踊り場”にさしかかっている状況下で...活況なのは、何故なので

しょうか...そのことを、少し考えてみましょう...」

 

“計算”・・・は数学、古典力学をへて・・・量子力学となった

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「ええ...」茜が唇に指を当て、ノートパソコンから顔を上げた。「今...述べたように...

  エンジニアリング選択肢としては...量子コンピューター有望とは言えないわけですね。

それでも、若者を含め、多くの研究者熱くさせているのは、何故なのでしょうか...?

  それは量子コンピューターが...量子力学に...“計算”...という、新たな切り口を開いた

からだそうです。そして、そこには...“自然の本質を理解する・・・新たな発見がある...と

多くの人々が予想しているからだそうです」

  茜が、手を伸ばし、子猫の背中を撫でた。

「...“計算”を...」茜が、続けた。「物理学の中に位置づけることには...

  違和感を感じる人が多いかも知れませんね。“計算”は、そもそも数学の領域であり...物理

とは違うというのが、普通の感覚でしょう。

  でも、実際には... 計算 というのは・・・何らかの物理状態によって表わした情報を・・・

一定のルールに従って・・・変化させて行くプロセス...なのだそうです。

  “情報”を表すのは...ソロバンの玉の位置か...トランジスタの電流か...脳のシナプスの

電位か...いずれにしても、何かの“物体の状態”であり...その変化は、“物理的過程”なので

す。それゆえに、どんな計算ができるかを決めるのは・・・数学ではない・・・物理学だ”...

ということなのだそうです。

  こう提言しているのは...イギリス/オックスフォード大学/ドイチュ(David Deutsch)ですが...

彼こそが...量子コンピューター・理論提唱者です。そして、量子コンピューターは、この事実

を、劇的に知らしめた、ということです」

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「ええ...」茜が、顔を上げた。「もう少し...詳しく説明しましょう...

  量子コンピューターでは...1個の素子で、“0+1”“1+1”計算を...同時に実行できま

す。【量子力学の原理】では...素子の状態を、“0”“1”“重ね合わせの状態”にし...

に、“1”足し算するという操作...“量子計算”可能なのです。

                 ・・・・・“重ね合わせの状態”については、こちらの《量子/開かずの扉の内部》へどうぞ・・・・・

  でも...この計算結果両方知ることはできないのです。したがって、意味のある結果を引き

出すには、また別の工夫が必要です。が、ともかく...“1度に・・・2つの計算が可能”...とい

うことですね。このような素子が、50個あれば、同時にできる計算は、1000兆を超えるのだそう

です。このことが、超高速計算を可能にするのです。

  一方...既存の普通のコンピューターでは...1個の素子で、“0+1”“1+1”計算を、

時に実行することは不可能です。量子力学以前古典力学においては...まず1方を計算して、

もう一方を計算することになります。つまり、2回の計算が必要になります。

  人類文明は長い間...2つの計算を実行するには...2個の素子を使うか、2回の計算を重

ねる必要があったわけですね。でも、それは、“計算”古典力学を前提として、構築されて来た

からだと言います。

  もっとも、これは...人間古典力学的存在であり...人間の五感(視・聴・嗅・味・触)は、一義的

には古典力学に近く...量子力学知覚できないわけですから...当然といえば当然です。で

も、もし電子光子に、計算法則を作ることができたとしたら、“計算”は最初から、“量子計算”

になっていたに違いないと言います。

  つまり...20世紀初頭において...人類文明量子力学を確立し...人間の五感では知覚

できない...【より深い世界の現象/量子現象】、を知ることになりました。そして、そこには、

“新しい計算/量子計算が、あったということでしょう...」

 

「ええと...」茜が言った。「“計算”というものを...

  物理的に解析する試みは...量子コンピューター登場する以前から...営々と続いて来た

と言います。ランダウアー(Rolf Landauer: 米国IBM)は、 1960年代に、すでに...“計算は・・・

物理過程である”...と主張していたと言います。

  それから...彼の同僚である、ベネット(Charles H.Bennett: 米国IBM)は...計算のプロセス

力学の観点から解析し...“計算”物理的限界を明らかにしようと試みた...ということです。

  そして、 1985年...量子コンピューター・理論の提唱者/イギリス/オックスフォード大学

/ドイチュ(David Deutsch)が...ベネット指摘ヒントを得て...ええと...彼らが、それと気づ

かないまま...古典力学を前提に考えていた“計算”基本操作を、量子力学にもとずいて書き

換えた。これが...“量子コンピューターの・・・動作原理となった”...ということのようです。

  ともかく...ドイチュが作った量子コンピューターは...“普通のコンピューターにはできない

・・・量子計算・操作”というものを、実現したわけですね。そしてこの操作が、後に、因数分解を超

高速で解く...“量子計算・アルゴリズム”を...もたらしたということでしょうか...」

 

物理学は...」茜が、耳の後ろに髪をおくった。「“計算”に、限界を設けたのではなく...

  むしろ、“計算”拡張したのです。“計算”は、数学から古典力学を経て、量子力学となったの

です。

  “計算”物理学ならば...物理学発展とともに...“計算”可能性もまた、広がって行く

はずです。そして、“計算”可能性を探求することで、物理学理解も進むということです。量子

コンピューター研究者の多くは...そう考えているようですね。

  量子コンピューターの...“研究開発は・・・踊り場”...にさしかかりつつある、という状況下

で、全体に熱気があるのは...こうした、物理学の拡張と・・・次世代テクノロジーへの・・・

流の中にある...ということなのでしょうか...」

 


 
〔1〕 ボースアインシュタイン凝縮で・・・量子計算!

                     

 

20世紀末...」茜が言って、高杉・塾長と淡島を交互に見た。「これは、最近のことですが...

  人類は、“新しい物理現象/新しい量子現象”を入手しました。これは、かねて予想されていた

ものですが、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”実現です...もっとも“量子もつれ”の、量子情報

科学への応用というものも...同じく新しいものですわ」

  高杉が、うなづいた。

「まあ...次世代テクノロジーを、切り開いて行くものですね」

「はい...

  ええと...ともかく...“ボーズ・アインシュタイン凝縮”というのは、量子現象1つです...

極低温に冷やした膨大な数の粒子が・・・1か所に重なり合い・・・1つの粒子のように振る

舞う...というものです。

  1995年に...アメリカの研究グループが...最初に、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”

実現し、ノーベル物理学賞を受賞しています。今では、世界中の研究機関で作られていますわ」

「ええ...」高杉が、顎をこすった。「そうですねえ...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮”は...その名前の示す通り...ボーズ(Satyendra Nath Bose : イ

ンドの物理学者・・・ボーズともボースとも日本語訳されていますが、ここではボーズで統一していますと...アインシュタイン

予測していた、と言えるものですねえ。その2人の関係については、“ボーズ・アインシュタイン

凝縮”を説明する時に、述べることにしましょう」

「はい、」

「ここで、面白いのは...

  アインシュタインは...“量子力学を・・・非常に嫌っていた”...ということですねえ。量子現象

は、“奇妙・・・/曖昧・・・/気味が悪い・・・”などと言って...“嫌ったり・・・/否定したり・・・/隠

された変数が存在する・・・/神はサイコロを振り給わず・・・”...などと、生涯、発信をし続けて

いました。

  しかし、まぎれもなく...その量子力学生みの親の1人は...アインシュタイン自身なので

す。また、この“ボーズ・アインシュタイン凝縮”なども予測していますし...黎明期量子・議論

カウンター・パートナーとして、ボーアハイゼンベルク対立し、量子力学を育てています。

  それから...“E・P・Rの思考実験”ボーアハイゼンベルクに仕掛け...関係者本人

没してしまってから...【ベルの定理】が引き出したわけですねえ...これは、アインシュタイン

が最も嫌っていた...“非局所性”である“量子もつれ現象”の...正当性証明するものです。

  まあ、こういうわけで...本人の意図に反して、まぎれもなく、“生みの親/育ての親”、でもあ

るわけですねえ。そして、遠い将来...“アインシュタインの主張は正しかった”、という可能性

あるわけです」

「でも、当面の流れとしては...晩年アインシュタインは、評価は低いということですね...」

                                   ・・・・・【ベルの定理】に関しては、こちらへどうぞ・・・・・

  高杉が、ため息をついて、うなづいた。淡島も、頬に微笑を漂わせ、小さくうなづいた。

「ええと...」茜が、手を泳がせた。「 1905年に発表した...光量子仮説によって...

インシュタインは、ノーベル物理学賞を受賞したわけですね。その光量子仮説が、後に、量子

力学に発展して行くわけですね?」

「そういうことです...」高杉が、うなづいた。「そして...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮”も...アインシュタイン予想し...彼が没して40年後に、そ

れが実験実証されるわけです。アインシュタイン足跡/業績が、いかに大きく、広範囲にわ

たるかを示すものです」

「はい...」茜が、コクリとうなづいた。「そして、【量子力学の・・・重ね合わせの原理】が...

しい計算/“量子計算”を切り開いたように...“ボーズ・アインシュタイン凝縮”も、“計算”

のための、新たな資源になり得るということでしょうか?」

「そういうことです...」高杉が、脚を組み上げ、モニターをのぞいた。「ええと、ですねえ...

  国立/情報学研究所(/東京都千代田区一ツ橋2丁目)バーンズ(Tim Byrnes)と...スタンフォード大

山本喜久...そして、東京大学ヤン(Kai Yan)が、この“ボーズ・アインシュタイン凝縮”を利

用する...“新たな・・・ニュー・タイプ/量子コンピューター”...を提唱しています」

「おかしな組み合わせですね、国際的に、」

「はは...」高杉が、頬に手を当てた。「そうですね...

  ともかく、これは...ごく簡単に言えば...ボーズ・アインシュタイン凝縮を使って・・・物理

系を素早く冷やすことにより・・・問題の最適解を見出す”...という..“冷蔵庫のような・・・

量子コンピューター”...だということですねえ...」

「うーん...」茜が、頭を斜めにした。「でも...

  【量子力学の・・・重ね合わせの原理】...も使わず...“並行計算”もしないで...それどこ

ろか...“演算らしいことは・・・ほとんど何もしない”で...“最適解”を出すわけですよね?」

「そうですねえ...

  現在/開発中量子コンピューターとは、まるで似ていないわけです。しかし...物理的に

表示された情報を・・・量子的なプロセスで・・・変化させて行く...という意味では...これ

もまた、量子コンピューター と言えるわけです。

  ここで関与するのは...【量子力学の・・・識別不可能性の原理...ということですねえ、」

「うーん...はい...」茜が微笑して、頭をかしげて見せた。

「ま、その内に、分かって来るでしょう...

  この、“ニュー・タイプ/量子コンピューター”は...既存・開発中/量子コンピューターでは、

“高速化できないと予想される・・・計算機科学の難問に・・・進展をもたらす...と期待され

ているようです。ま、それは、これから話しますが...」

「でも...」茜が言った。「この...“ニュー・タイプ/量子コンピューター”も...やはり、開発

容易ではないと思うのですが、」

「うーむ...実は...そうでもないと言っているわけですねえ...

  既存・開発中/量子コンピューターよりも、創りやすいということです。その基本原理を、これか

らのぞいて行くわけですが...“踊り場にさしかかった・・・量子コンピューター研究”に...

展開をもたらす可能性があるということです」

「...」

「いいですか...

  “量子計算”探求する、ということは...先ほども説明したように...量子力学探求する、

ということです。大自然というものは、私たちに...何を何処まで・・・計算をすることを許して

いるのか”...ということですねえ。

  計算という営みを実現する・・・物理的リソース/資源とは・・・何なのか?”...これを

明らかにすることは...“量子力学の・・・本質に迫る...ことにつながる、のだそうです...」

「はい...」茜が、唇に指を押し当てた。「ともかく...全く違う...“ニュー・タイプ/量子コン

ピューター”が...登場して来た...ということですね、」

「そういうことです...」高杉が、ゆっくりとうなづいた。「まあ...それを、これから考察して行きま

しょう」

そもそも・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮・・・とは?>      wpeA.jpg (42909 バイト)

                


「ええ...」淡島が、モニターに両手を添え、茜と高杉を見た。「“ボーズ・アインシュタイン凝縮”

については、私の方から説明しましょうか、」

「あ、お願いします」高杉が言った。

  茜が、淡島に頭を下げた。

「ええ...」淡島が、モニターを見た。「世の中に...

  “全く同一のもの・・・完全に同じ物体”...というものは存在するのでしょうか?工場から

量生産されて来る工業製品も、厳密な意味では同じものはありません。チョコレートにしろ、ICチッ

にしろ、携帯電話機にしろ、原子レベル同一のかというと、まさに千差万別なわけですねえ。

  まず、同一のものを作るのば、絶対に不可能でしょう。これは、理解してもらえると思います」

「はい...」茜が言った。「そうですね...

  工業製品では、その誤差チェックし、できるだけ品質の高いものを作ろうと努力はします。で

も、“完全に・・・同一のもの”...を作るのは不可能です。紙幣のように、何千億枚印刷コピ

しても、同一のものは皆無ですわ...」

「まあ、そういうことですねえ...

  では...非常に小さな物体...例えば、電子だったらどうなのでしょうか?これは、高性能顕

微鏡を用いても、2つの電子区別がつきません。ではこれらは、“完全に・・・同一の物体”...

と言えるのでしょうか?」

「つまり...電子のような素粒子は...それぞれが、“同一のものか”...ということですね?」

「そうです」

「うーん...どうなのでしょうか、面白いですね...」

「そうですね...一体、どうなのでしょうか...

  1920年代/量子力学の黎明期において...こんな疑問を持ち、研究に取り組んだのが...

インドの若き物理学者/ボーズSatyendra Nath Bose)です。そしてボーズは、“複数の粒子が・・・

完全に同一であることは・・・可能・・・”...との結論を出したのです。

  実際に、どのような研究だったのかは、“参考文献”にはデータが載っていません。が、ボーズ

は、そういう結論を出したということです」

「はい...」茜が、納得した。

 

「さて、いいですか...」淡島が言った。「今ここに...トランプカードがあるとします...

  カードを裏側に伏せて...何度も素早く入れ替えをします。そして、最初に確認したカードが、

左右のどちらにあるかを言い当てるゲームがあるとします。言っている意味は、分かりますね?」

「ええ、」茜が、うなづいた。「簡単なゲームですね」

「そう、簡単なゲームです...

  カードの裏だけを見て当てるには、カード微小なキズ印象などを覚えていて、それを言い

当てればいいわけですね。もちろん、大概は当てずっぽうカンですが、それでもいいわけです。

ともかく...カードにもそれぞれ特徴があり、違いがあるということです。

  しかし...これがもし電子などの、“完全に同一の物体”、を使ったとしたらどうでしょうか。こ

れでは...何度入れ替えても...本質的に、“前の状態と・・・変わらない”、ことになりますね。

どっちかを言い当てることは、“意味を為さない”ことになります。

  そして、そもそも...“入れ替えたという・・・事実も・・・消えてしまう”...ということになりま

す」

「うーん...」茜が口に手を当て、体をよじった。「そうですね...でも、それは、物理的どういう

意味を持つのかしら?」

「いいですか...

  これは量子力学的に言えば...“2つの電子の状態は・・・入れ替える前と同じ”...という

ことです。“入れ替えたのは・・・確実なのに・・・その事実は消えてしまう”...ということにな

るわけです」

「うーん...」茜が、頭をかしげた。「もし自然界に...

  “完全に同一の物体・・・が存在するなら・・・そういう風景も・・・認めざるをえない”...と

いうわけですね?」

「まあ、そういうことですねえ...

  そこからボーズは...量子力学における重要な発見に行き着いています。ボーズは...

が・・・識別不可能な粒子と仮定すると・・・プランクの黒体輻射に関する法則(/当時、物理学

界における残された問題の1つ。量子力学誕生のきっかけとなった問題)・・・うまく導けることを証明した”...の

です。

  ただ...これはあまりにも突飛な考えだったので...当時はどの学術誌も、論文を掲載しよう

とはしなかったそうです。ボーズは非常に落胆したわけですが、最後の望みをかけ、論文アイン

シュタインに送りました。するとアインシュタインは、即座にその重要性に気づいたと言われます。

  そして、アインシュタインの口添えで、論文 1924年に出版されました。ちなみに、この

で、ボーズの名前は広く物理学者に知れわたるわけですが...意外にも、ノーベル物理学賞

は受賞していないそうです」

「ふーん...“ボーズ・アインシュタイン凝縮”という...名前も残っているのに?」

「そうです...」淡島が、うなづいた。「さて、もう少し詳しく見てみましょう...

  ボーズ発見を、量子力学に当てはめると...さらに面白いことが分かりました。量子力学

は、粒子の状態波動関数という数式で記述するわけですね...そしてある粒子が、現実にどう

いう風に観測されるかは...“波動関数の2乗”計算できます...いいですね...?」

「はい...」茜がうなづいて、高杉の方を見た。

  高杉も、うなづいた。

   

「さて...」淡島が言った。「今、ここに...

  “複数の粒子”があるとします...このうちのどれか2つを入れ替えても...“観測される状態

が・・・変わらない”...とします」

「はい...」茜が、肩を揺らした。

「この場合...ちょっと飛躍しますが...

  “粒子全体の波動関数”は...“入れ替えの前後で・・・変化しない”...か、あるいは...

“符号/±だけが・・・反転する”...はずです。

  そして...符号が反転していたとしても...“2乗した関数は・・・元のまま”...ですから、

“観測される状態は・・・変わらない”...わけですね...」

「うーん...そういうことかしら?」

マイナスの符号でも、2乗すればプラスになるわけです」

「はい...」

「ともかく、いいですか...

  “粒子を入れ替えても・・・波動関数が変わらない粒子”は...後に、“ボーズ粒子(ボソン)

名づけられました。光子がその代表例です。中間子なども仲間ですね...

  それから...“波動関数の符号が・・・反転する粒子”の方は...“フェルミ粒子(フェルミオン)

と呼ばれます。これは電子代表例になります。クォークなども仲間ですね...まあ、話が少し飛

んでいますが、一応、覚えておいてください...」

「はい...」茜が、両手を握り、大きく息を吸い込んだ。

 

「ええと...」淡島が言った。「いいですか...

  これらの、“ボーズ粒子”“フェルミ粒子”ですが...“粒子どうしが・・・区別できない・・・

完全に同一・・・”...という点では同じですが...“振る舞いは・・・対照的”...なのです。

  “ボーズ粒子”というのは、“群れたがる・・・”のです。例えば...レーザービームを構成して

いるのは“ボーズ粒子”光子なのですが...その動きというのは、1個づつボールを投げた時

のように...“他の粒子と・・・無関係に動いていると仮定すると・・・説明がつかない”...の

です」

「つまり...」茜が、鋭く淡島を見つめた。「“他の光子と・・・同じように動く確率が高い”...と

いうことでしょうか?」

「まあ、そういうことですねえ」

「何故でしょうか?」

「さあ...」淡島が、首をかしげた。「それは多分、難しい質問でしょう...

  プラス・マイナス電荷が...何故プラスであり、何故マイナスなのか、と質問しているようなも

のかも知れません。つまり素粒子としての、基本的性質がそうなのだということでしょうか...」

「うーん...量子力学では、そういうことが多いわけですね、」

「まあ、そうですね...

   さて一方...“フェルミ粒子”の方ですが...こっちの方は逆に、“孤独/孤高を好む・・・”

ということです。“1つのフェルミ粒子がある状態になると・・・他のフェルミ粒子はそれを尊重

し・・・同じ状態にはなろうとはしない”...ということです」

「そうですか...」

原子核の周りを回る電子を考えてください。それらは、整然とした位置を占め...“群れたり

は・・・しない”...わけですねえ」

「あ、はい...そうですね、」

人間でも...

  ミーハーで寄り集まりたがる、社交好きな人もいれば...静かに、芸術や哲学を好む人もいる

わけです。人間の場合、大概はその中間に位置しますが、素粒子の場合は非常に極端で、明確

です」

「うーん...」茜が、感心してうなづいた。「面白いですね...

  素粒子にも、そんな人間的な側面があるわけですね...それとも...素粒子そんな側面が、

人間に反映されたのでしょうか?」

「はは...」淡島も、楽しそうに顔を崩した。「さて...

  ええと、ですねえ...さらにアインシュタインは...“ボーズ粒子”“群れたがる・・・”という

性質が...何をもたらすのかの考察を重ねました。そして、奇妙なことに気づいたのです」

「はい...」

 

「いいですか...

  今、“ボーズ粒子”をたくさん容器の中に入れ...しだいに温度を下げて行くとします。最初の

うちは、粒子の周囲には余裕の空間があります。粒子は、相応熱的運動エネルギーで、自由

に動き回り、特別に変わったことは起こりません。

  しかし、温度が下がって行くにしたがって、粒子の動きが遅くなって行くわけですね。そして、さ

らにどんどん温度を下げて行くと...バン!と、“全ての粒子が・・・1カ所に重なる”...と、

インシュタイン予想しました。実際には、極低温/絶対零度に近い所になりますがね...

  これは...“粒子が・・・互いに積み重なる!”...のではありません。 “全ての粒子が・・・

同一の場所・・・を占める!”...ということなのです」

「うーん...

  アインシュタイン頭脳は...“粒子を入れ替えても・・・波動関数は変わらない・・・ボーズ

粒子”...ということから、そんなことを予想したわけですね?」

「そういうことですねえ...」淡島が、顎をなでた。「全く、恐れ入ります...

  量子力学誕生したとされる 1925年に...アインシュタインは...“いわゆる・・・ボー

ズ粒子には・・・このような新しい存在形態がある”...と予言していたわけです。この状態

後に...“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”...と呼ばれるようになったわけです...」

「はい...」茜が、コクリとうなづいた。「それが...

  1995年に...つまり、70年後に...アメリカの研究グループ実験実証し...ノーベ

ル物理学賞を受賞したわけですね。ボーズ貢献も大きかったので...ボーズの名前が付いて

いるわけかしら?」

「まあ、そういうことでしょう...

  詳しい経緯についてはよくは分かりませんが、そんなところだと思います。アインシュタインは、

量子力学生みの親の1人ですが、こうしたことからも、その貢献度の大きさが分かります」

「はい、」茜が言った。「でも...

  その子供/量子力学は...やがて親離れし...反抗期に入って行くわけですね?」

「はは...そういうことですねえ...」淡島が、満面に笑みを広げた。「子供とは、そういうもので

す。やがて、親離れし...独立して行きます...そして、原子爆弾なども、創出してしまったわけ

です」

「はい...」茜が、口に手を当てた。

常温で・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮!>     wpe8.jpg (26336 バイト)wpeA.jpg (42909 バイト) 

                   


“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”の、実現と同じ頃...」高杉が言った。「ええと...

  これは... 1995年に...アメリカ/2つの研究グループが...この実現に成功しているわ

けですね。そして同じ頃...【量子現象】を使って計算する量子コンピューターが...桁外れの

計算能力を持つことが...分かって来たわけです。

  そこで...この【量子現象】に対する見方が、大きく変わり始めました。うーむ...ちなみに、

私たちが、《量子情報科学のスタート》・ページ、を立ち上げたのは...2003年2月です。私た

ちとしても、この対応スムーズにできたと、自負しています...」

「はい、」茜が、自分のモニターを見ながら、うなづいた。「私たちは、“量子もつれ”、という【量子

現象】を中心に取り上げていますね」     

                                ・・・・・ 詳しくは、《量子情報科学のスタート》へどうぞ・・・・・

「そうですね...」高杉が続けた。「それまでは...

  【量子現象】というのは、“奇妙”であり...“曖昧”であり...“非局所的”であり...“エキゾ

チック(異国的)であり...またそれゆえに、“アインシュタインの・・・嫌うところ”...でもあったわ

けです」

「はい、」茜が、うなづいた。「それゆえに...物理学者も、【量子現象】というのは、“純粋科学の

対象以外には・・・なり得ない”...と思ってきたわけですね」

「そうです...

  それが、量子コンピューターの登場によって、【量子現象】“実際に役立つ資源”だと考えら

れるようになりました。それがいわゆる...《量子情報科学・・・量子情報工学》...という、

クノロジースタートになったわけです」

「そこで...」茜が言った。「【量子現象】1つである...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”も...さっそく、新しい応用が開けるかもしれないと考

えたわけですね?」

「そのようです...

  “参考文献”著者...T.バーンズ(日本/国立情報学研究所)山本喜久(スタンフォード大学)、そして、

ヤン(Kai Yan 東京大学/大学院生)は、そう考えて、“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”を使って計

算する、“ニュー・タイプ/量子コンピューター”提唱したようです」

「はい...」

「これは...

  多数の粒子を冷却し・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こした時・・・そこに答えが出

するという・・・ニュータイプの量子コンピューター...ですね...

  したがって、いいですか...【量子現象】を利用して、高速計算するという点では...既存

量子コンピューターと似ていますが...使う【量子現象】や、計算方法全く違うわけです...」

「はい...」茜がコクリとうなづき、頭を斜めにした。

「つまり...

  既存/量子コンピューターのように...“アルゴリズム(計算手順)に従って・・・量子計算を重ねて

行くのではない!”...ということです」

「...」

「つまり...

  “自然法則の力を借りて・・・”...“冷却することによって・・・一気に答えに到達する”...

という...“新しい概念の・・・量子コンピューター”...になるわけです...」

自然界では...そのような秩序が...実際に行われている/実際に存在している...というこ

とでしょうか?」

「まあ、そういうことですねえ...こうした量子計算も、存在するという事でしょう...」

「その...量子計算のアルゴリズム/計算手順/処理手順というのは...分からないのでしょう

か?」

「うーむ...

  既存/量子コンピューターでは...量子現象の・・・重ね合わせの原理】を使いますが...

“ニュー・タイプ/量子コンピューター”では...量子現象の・・・識別不可能性の原理】を使

うのだそうです。そのアルゴリズムも、解明されるとは思いますが、詳しいことは分かりませんね。 

  ええ、では...常温“ボーズ・アインシュタイン凝縮”というものを見て行きましょうか...」

「あ、はい...」茜がうなづいて、髪に手を当てた。

 

「ええと...」高杉が、モニターを眺めた。「今も、言ったように...

  1995年に、アメリカ2つの研究グループが、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”実現して

見せたわけですね。

  それは、どういうものかというと...“ルビジウム/Rb”(原子番号:37、原子量:85.47)という原子を、

“真空容器の中に入れ・・・極低温/絶対零度に・・・非常に近い所まで冷却した”...という

ものの、ようです...」

「つまり...真空ポンプで...断熱冷却するわけですね?」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。「そうですねえ...

  基本的にはそうだと思います...まあ、真空ポンプにもいろいろありますし...それほど単純

なことではないのでしょう。アインシュタイン予言してから、70年間実現しなかったわけですか

らねえ...かなり以前に読んだ論文ですが、磁場で固定しようとしたり、スピンをそろえたりもして

いたようです。

  “参考文献”には、そのあたりの詳しいデータは載っていませんが...“170ナノK(ナノ/n=10億

分の1・・・Kはカッシ)まで冷却したそうです。

  “絶対零度(カッシ0度)は、“−273.15℃”ですから...この絶対零度限りなく近い温度まで、

冷却したということでしょう。“ゼロ点振動”まで押さえて行くのは、非常に難しいわけです...」

“ゼロ点振動”ですかあ...」茜が、口にコブシを当てた。

「まあ... “絶対零度/−273.15℃”においても...原子【不確定性原理】のために、静止

せずに振動しているわけです...」

「それが...かすかな熱量/温度に、つながるわけですか?」

「簡単に言えば、そういうことだと思います...

  さて...この“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”ですが...外部ポテンシャルによって閉じ

込められた...弱く結合している“ボース粒子”希薄気体が...絶対零度ちかくの極低温まで

冷却された時、突然に生じるわけです。

  この条件下において...“多数のボース粒子からなる集団は・・・外部ポテンシャルの・・・

最低の量子状態を取る・・・”...ということのようです」

「はい...それが、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”...ということですね?」

「そうです...いいですか...

  この時...個々の粒子の・・・微視的な量子状態効果が・・・巨視的スケール粒子集団

・凝縮現象・・・として発現する”...ということです。

  全ての粒子が・・・空間的に同一の位置を占める・・・ようになり、それは・・・1個の巨大

粒子のように振る舞う・・・”...ということです。

  これは...“固体”“液体”“気体”“プラズマ”などと同様に...“物質の・・・1つ相”、と

考えられています。これに類似した現象として、“超伝導”や、“超流動”も、発見されています」

“超伝導”“超流動”も...そうした“物質の・・・1つ相”、なのでしょうか...?」

「うーむ...そのようですねえ...データがないので、詳しいことは言えませんが、」

「はい...」茜が、うなづいた。

 

「さて...」高杉が、息を吐き、斜めにモニターを眺めた。「近年...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮”は...はるかに高い温度実現できるようになっています。こ

うした話は、“超伝導”でよく知られていますが、“ボーズ・アインシュタイン凝縮”でもそのようです。

まあ“超伝導”とは違い、実用的な技術ではないですから、広くは知られていないようですが...」

「でも...」茜が、掌に顎をのせた。「量子コンピューター開発となると...いよいよ、実用技術

になりますね」

「そういうことです...」高杉が、淡島の方を見た。「ええ...

  “参考文献”著者たちのいる...アメリカ/スタンフォード大学グループと、日本/国立情

報学研究所グループは...“半導体の中で・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮/BECを作

成した”...そうですね。それを、淡島さんに説明してもらいましょう」

「はい、」淡島がうなづき、モニターに肩を寄せ、のぞきこんだ。

半導体の中の・・・ボーズ・アインシュタイン凝縮・・・とは?  

    
                 
 
 

「ええ...」淡島が、コトリとコーヒーカップを脇に置いた。「いいですか...

  今、高杉・塾長が言われたように...“参考文献”著者たちが...半導体の中で...“ボー

ズ・アインシュタイン凝縮/BEC”を作ることに成功しました。

  半導体というのは、ご存知のように...電気伝導性が、導体絶縁体との中間に位置する物

です。ちなみに半導体は...絶対零度では電気伝導性を示さず...温度の上昇にともなって、

電気伝導性が高くなります。

  半導体には...ゲルマニウム(元素記号:Ge/原子番号:32/原子量:72.61)や、セレン(元素記号:Se/原

子番号:34/原子量:78.96)などがあるわけですが...不純物微量加えた...“n型半導体”や、

“p型半導体”の方が、実用としては多いわけです...

「うーん...」茜が、淡島を見、コーヒーカップを傾けた。

「これらが...」淡島が言った。「ダイオードや...トランジスタに利用されるわけです...」

  茜が、黙ってうなづいた。

「まあ...

  いわゆる...半導体・集積回路・・・ICLSI超LSIなどの総称”や...半導体・素子・・・

半導体を材料とする電気回路素子/ダイオード、トランジスタ...半導体・レーザー・・・

型半導体と、p型半導体の接合部に電流を流して得る、レーザー光線...などですね...」

「うーん...」茜が、コーヒーカップを手に持ちながら首をかしげた。「そうした半導体の中に...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”を作るとは...一体、どういうことなのでしょうか?」

「はい...」淡島が、眼鏡の縁をつかんだ。「ええと...いいですか...

  半導体レーザー光線を照射すると...半導体の中に、“エキシトン・ポラりトン”という粒子が、

大量に生じます。実は、これは“ボーズ粒子”なのです。つまり、低温で・・・ボーズ・アインシュ

タイン凝縮/BEC...を起こすのです。

  現在のところ...“エキシトン・ポラりトン”“BEC”を起こすのは...“約10K(−260℃)です」

「ふーん...」茜が、顎をつまんでモニターを見た。「ええと...

  1995年に...アメリカ研究グループが実現した...“170ナノK(ナノ/n=10億分の1・・・Kは

カッシ)よりは...少し温度が高いということですね...?」

「いや...」淡島が、首を左右に振った。「いいですか...

  これも、極低温のように聞こえるかもしれませんが...現在の技術水準では、さほど難しくはな

い温度なのです。ナノKとは、文字どうりケタ違いです...

  そして、ここで重要なことは...半導体の種類を変えれば・・・室温でも・・・BEC/ボーズ

・アインシュタイン凝縮を起こすことは可能だ”...ということです...」

「あら...」茜が、両手を組んだ。「そうなんですか...一気にそうなるわけですか?」

「そうです...」淡島が、うなづいた。「詳しい説明はありませんが、そうなるようです...

  つまり、近未来において...“BEC”の技術を...パソコン携帯電話に組み込み...気軽

に持ち運ぶことも...可能になるかも知れないということです。半導体の中で...室温で...“B

EC”が実現できるということは...そういうことなのです。もちろん、というものはありますが、」

「淡島さん、」茜が言った。

「はい?」

「その...」茜が、宙を指差した。「今、言った...

  半導体レーザー光線を照射すると...半導体の中に...“エキシトン・ポラりトン”という粒子

が生じると言いましたが...それは、どういうものなのかしら...?」

「そうですね...

  まず、“エキシトン”から説明しましょう...半導体を照射すると...中に吸収され...

やや過剰なエネルギーが生じるのです。この過剰なエネルギーは、半導体の中で粒子のように振

る舞います。つまりこの粒子が...“励起子(れいきし)/エキシトン”...と呼ばれます...」

「ああ...」茜が、微笑して、大きくうなづいた。「“励起子”のことですか...それなら、何度も聞い

たことがありますわ...詳しいことは、分かりませんけど、」

「ハハ、そうでしょう...

  “励起子/エキシトン”の名は...半導体励起(れいき)される...ことによって生じるところか

ら来ています。まあ名前の由来は、非常に分かりやすいものです」

「はい...」茜が口を結び、うなづいた。「そうですね、」

「さて...

  この“励起子/エキシトン”ですが...普通の粒子と同じように...半導体の中を動き回りま

す。山本・教授らが作成したデバイス(回路・システムの構成単位)は...この半導体を別の半導体で挟

み...“エキシトン”を、厚さ数十nm(ナノメートル)薄い層に閉じ込めています」

「はい...」

「これが...つまり、“量子井戸”...と呼ばれる構造です」

「ふーん...“量子井戸”ですか...」

「そうです...

  “エキシトン”が...半導体層で動き回る時間は、数ナノ秒と短かいのです。そして、再び光子

に戻って、半導体の外へ出て行くわけですね。

  ところが...半導体層両側をつけて光子を反射すると...光子は再び“エキシトン”

なるのです。つまりその粒子は、“エキシトン”光子の間を、行ったり来たりするわけです。このよ

うな状態の粒子を、“エキシトン・ポラりトン”と呼びます。単に、“ポラリトン”と言うこともあります」

「うーん...“ポラリトン”...ですかあ...」

「そうです...」淡島が、重くうなづいた。「これまで...

  “ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”は...もっぱら科学的な興味の対象でしかありません

でした。“量子もつれ”もそうですが...こうした【量子現象】を、何かに応用しようとした人はほと

んどいなかったわけです。

  しかし...“量子コンピューターの出現/量子情報科学のスタート”...が、この空気を変

え始めました。物理学者たちは、こうした、【量子現象・・・エキゾチックな・・・奇妙な性質】という

ものを...【応用/・・・量子工学】という観点で、考え始めたわけです。

  つまり...“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”の場合も...まず、新たなコンピューター・

デバイスを創出する...ことを考えたわけです。これがつまり...ボーズ粒子の・・・群れたが

る性質を使った・・・新たな情報処理を、実現できないか?”...ということです」

「ええと...」茜が、モニターをスクロールした。「あ、ここですね...

  つまり...“ボーズ粒子は・・・光子に代表されるように・・・群れたがる”のであり...“フェ

ルミ粒子は・・・電子に代表されるように・・・孤独/孤高を好む”...ということでしたわね?」

「そうです...

  したがって“ボーズ粒子”は、“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”のような、【量子現象】

引き起こすということです...」

「はい...

  この、“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”の...【量子工学】というのは...未来志向

新しいテクノロジーだということですね?」

「そうです...【量子工学】というのは、正真正銘次世代型テクノロジーです」

「はい!」茜が、コクリとうなづいた。「これまでは存在しなかった、ニュー・テクノロジーということで

すね?」

「そうです!」淡島が、髪を後ろに撫でた。

  〔2〕  ニュータイプ・・・               

           /BEC・量子コンピューター  

               


「ええと...高杉・塾長...」茜が、高杉のモニターをのぞいて言った。

「ああ...」高杉が、モニターから顔を上げた。「はい...」

「そもそも...」茜が顎に斜めにして、手の甲に載せた。「この...“ボーズ・アインシュタイン凝

縮/BEC”で...“量子計算”ができるとは...どのようなことなのでしょうか?話に飛躍がある

ようで...分かりにくいのですが...?」

「うーむ...」高杉も、口にコブシを当て、モニターを眺めた。「そうですねえ...少し、別の角度

ら見てみましょうか...」

「はい...」茜が、うなづいた。「お願いします...」

「まあ...

  【量子現象】1つである...“ボーズ・アインシュタイン凝縮/BEC”現象を利用し...

量のボーズ粒子を高速で冷やす・・・ことで・・・問題の最適解を高速で得る...ということで

すね。こうした旧来とは違う...“ニュータイプ/量子コンピューター”...が提唱されたという

ことです」

高速で...」茜が言った。「“ボーズ・アインシュタイン凝縮”という...【量子現象】が起こってい

る中に...1つの法則性があるというわけですね...?」

「そうです...

  それが、【識別不可能性の原理】です。つまり、最初に話したように...光子電子も、1つ1

つの粒子は...“識別不可能”...だということです。若きボーズが...“複数の粒子が・・・完

全に同一であることは・・・可能である” ...との結論を出したわけです。

  そこから、アインシュタインは...“ボーズ・アインシュタイン凝縮”予想しました。そして...

1995年/70年後に...ようやく、実証実験に成功しているわけです。長い時間がかかった

のは、そのレベルに技術水準が到達していなかったからです。

  そして、同じ頃...【量子現象】を使って計算する量子コンピューターが...桁外れの計算能

を持つことが分かり...では、こっちの方【量子現象】もどうか、とうとなったようですね」

「はい...

  それが、量子現象/重ね合わせの原理】...であり...こっちの方は、量子現象/識別

不可能性の原理】...というわけですね?」

「そうです...

  “既存/量子コンピューター”【重ね合わせの原理/量子デバイス】とは別の、【識別不

可能性の原理/量子デバイス】を使う...量子コンピューター登場です。したがって、計算

高速化の仕組みが...そもそも全く異質だということです...」

“既存/量子コンピューター”では...」茜がいった。「【重ね合わせの原理】計算の高速

を生み出したわけですね...

  ところが...“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”では...【識別不可能性の原理

/・・・BEC】が、計算の高速性を生みだす...ということですね...?」

「まあ...」高杉が、考えながらうなづいた。「そのようですねえ...

  “既存/量子コンピューター”は...アルゴリズム【量子素子】で組み上げ、計算を高速化

するわけです。この形式は私たちが現在使っている普通のコンピューターと変わらないものです。

つまり、“現在/・・・旧来のコンピューター技術”延長線上に...【量子工学素子】を組み込む

ものです。

  しかし...ここで問題が起こりました。“既存/量子コンピューター”形式では...“素子の

脆弱性(ぜいじゃくせい)が、開発のネックとなっています。つまり、【量子素子】の開発が、“技術的

な高い壁”となり...“踊り場で・・・足踏みを強いている現状”...というわけです」

「はい、」茜が、うなづいた。

「ところが...

  “ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”では...【量子素子】は...容易に作ることが

できるのだそうです。しかも...“半導体/常温BEC”実現できれば...“ポケットサイズ/

BEC・量子コンピューター”が、実現する可能性もあると言います...」

「ふーん...」茜が、頭を反対側に倒した。「少し脱線しますが...

  そのような...突拍子もないものが実現するのが...科学技術技術革新(イノベーション)という

わけですね...

  “原子爆弾”を創り出し...“アポロ計画”で月へ人間を送り込み...深宇宙の“小惑星/イト

カワ”へ、“探査機・ハヤブサ”往還させたり...ですね...?」

「うーむ...」高杉が、宙を眺めた。「そうですねえ...

  同じプラットホーム上ロマンですねえ...私たちは、“文明の折り返し”提唱しているわけ

ですが...こうした科学的/技術革新は、ある種の行き詰まりを見せています。そうしたドラマ

は、それなりの感動を呼びますが...必ずしも、人々幸福をもたらすわけではありません。

  ただ...人間の持つ...探究心というものもまた...“人間存在/・・・人間的・覚醒・・・”

本質に近いものです。そうした中で...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”においては、

生態系との協調というものが...“最初の関門・・・試練・・・大艱難”...となります...」

「はい...“21世紀/大艱難の時代”...の到来ですね、」

「そうです、」

  茜が、コクリとうなづいた。

           

「さて、」高杉が言った。「話を戻しましょう...

  この【識別不可能性の原理/量子デバイス】を使う、“ニュータイプ/BEC・量子コンピュ

ーター”では...2つ大きな利点があると言います」

「はい、」茜が、両手を軽く組んだ。

@つは...

  “既存/量子コンピューター”のように...“真空容器/電磁トラップ”のような複雑な技術

駆使し...【量子デバイス】を、“環境の影響から遮断”する必要がないということです。つまり、

“より実現しやすい”...と見られています。         ・・・・・詳しくは、《量子コンピューターの概略》へどうぞ

  Aつ目は...“BEC・量子コンピューター”は...“既存/量子コンピューター”とは、【量

子現象の・・・違う原理で量子計算】をするために...“量子計算の可能性を・・・もう1つ拡大す

ることになる”...ということです」

「はい...」

【量子現象】の中に...

  いくつ、高速計算可能性存在しているのかは分かりませんが、これで、2つ捕捉したことに

なるわけでしょう」

「つまり...【重ね合わせの原理】と...識別不可能性の原理ですね?」

「そうです...

  まあ、素人考えですが...“量子もつれ/非局所性”なども...もし、数学的に分解/解析

きるとすれば...これは、面白いカラクリが詰まっていそうです。【量子現象】で、それ以上の

はできないとしても...“非局所性”は、この世の構造示唆しています...ハハ...」

「はい...」茜が、髪を揺らした。「《量子もつれ崩壊後も・・・謎の影のページがありました

わね...」

                                 ・・・・・詳しくは、《量子もつれ崩壊後も・・・謎の影》へどうぞ

「うーむ、そうです...

  “エキゾチック(異国的)な量子物理世界・・・物の領域”が...“トワイライト(日の出前や日没後の薄

明)/霊的世界・・・心の領域/精神世界”へと...つながっているのかも知れませんねえ...

  “トワイライト領域”の考察は...科学世界ではタブーのようになって来ましたが...“物の領

域”“心の領域”は、常に私たちの日常世界眼前し...“心の・・・鏡の中で・・・統合”...さ

れ続けています。

  しかし...まさにそれはダブルスタンダードと言われる...相対性理論量子力学枠外

あるわけです。この非常に身近な...人間的でもある...“物と心の統合”があるわけですね、」

「はい...」茜が唇をすぼめ、手を当てた。「“文明の第3ステージ/意識・情報革命”においては、

ここが大問題になって来ますね...?」

「そうですねえ...」高杉が、うなづいた。「さて...ともかく...

  現在・開発中“既存/量子コンピューター”は...スパコン(スーパー・コンピューター)でも、何十億

もかかる...“大きな桁数の因数分解を・・・超高速で計算”...できることが判明しています。

そして、それは、【量子現象/重ね合わせの原理】...を使うということですね、」

                                    ・・・・・詳しくは、《量子コンピューターの概略》へどうぞ

「はい、」茜が、まばたきした。

「しかし、くり返しになりますが...

  量子コンピューターでは...“どのような計算も・・・一律に・・・早くなるわけではない”...

ということも、しだいに分かって来たということですねえ。いいことも、悪いことも、期待はずれなこ

も、研究を重ねて行くうちに、分かって来たということです」

  茜が、うなづいた。

「例えば...

  有名な...数学的・難問/NP完全問題を...超高速で解けると期待されたわけですが、

最近では、不可能だろうと予想されているようですねえ...」

  高杉が、淡島の方に顔を向けた。

「ええと...」淡島が言った。「NP完全問題を、簡単に説明しましょう...」

「はい、」茜が、淡島に向かって顔をかしげた。

「この、NP完全問題というのは...

  “複数の場所を結ぶ・・・最短経路の探索”や...“一定の制限下で・・・最適解を探す問題”の、

1種です。具体的には...“医薬品開発や、新材料の開発”などで、解決法渇望されています。

それから、“機械構造の設計、電子回路の設計、配送ルートの計画”などでも、威力を発揮するは

ずです」

「うーん...」茜が、唇の端を押さえた。「超高速で...解けたら...ですね?」

「そうです...

  しかしこの問題は、ご存知のように...“扱う数が少し大きくなるだけで・・・計算量が・・・爆発

的に増大”します。そのため...“厳密に解くのは困難”...になるわけです。したがってこれを、

量子コンピューターで、超高速やらせようというわけです。もし可能なら、応用範囲は相当に広が

ります」

「いわゆる...」茜が、淡島を眺めた。「“巡回セールスマン問題”などですね?」

「そうです...」淡島が、うなづいた。

「実際のところ...」高杉が言った。「量子コンピューターだけでなく...

  自然界に存在するどんな現象を使っても...NP完全問題超高速で解くのは、不可能

ろうと...多くの物理学者予想しているようです。まあ、何でしたか...粘菌でしたかね...

その増殖で、最適解を見つけている、というような話も聞いたような気がしますが、ハハ...」

「そうですか...」淡島が、興味を示した。

「まあ...」高杉が、笑った。「量子力学誕生前夜...

  ニュートン力学で、物理学の諸問題解決に達した。残っているのは残余“黒体輻射”

と、“マイケルソン=モーレーの実験”問題だけだ、とまで豪語されたわけです。ハハ...し

かし、この残余蟻の一穴から...相対性理論が生まれ、量子力学が誕生したわけですねえ。

  したがって...科学的・真理は、民主主義的多数にこだわる必要もないわけです。しかし、

学問としてのアルゴリズムに従えば、そういう予想になるというのも、尊重しなければなりません。

多くの物理学者が言っているということは...当然、無視はできないということです...」

「うーん...」茜が、髪に手を当てた。「何が言いたいのでしょうか?」

「つまり...」高杉が、自嘲した。「その意味で...

  “BEC・量子コンピューター”例外ではないのです。NP完全問題を、超高速で解くことは

できないと言います。しかし...“現在のスパコンをはるかにしのぐ・・・高速化は可能”...と

言います。つまり...“計算量の爆発的増大を・・・遅らせることが可能・・・”...なようです」

「どういうことでしょうか?」

「まあ、“参考文献”からは、これ以上のことは分かりません」

「はい...」茜が、うなづいた。「そうですか...

  でも、NP完全問題応用範囲が広いわけですから、それだけでも相当なインパクトになり

ますね...それが、それがどの程度のものかによりますが...」

「そうですね...

  ともかく、“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”は、すでに基礎技術はできているそう

です。これからシステムを組み上げ、実証実験を始める段階だそうです。タケノコが、土の中から

顔を出すかどうかの段階でしょう。そのエンジンが動くのかどうか、しっかりと見守って行きたいと

思います...」

「はい...」茜が顔を上げ、視線をインターネット正面カメラに向けた。

 

  〔3〕 不満度シミュレーターとは・・・       

                

    

「ええ...」淡島が言った。「再び、NP完全問題に話を戻しますが...

  スーパー・コンピューター処理速度でも解けない問題が、色々とあるのです。スパコン処理

速度も年々伸び続け、“1秒間/10の15乗回もの計算を実行”、できるようになりました。しかし、

それでもまだ、計算しきれない問題がたくさんあるのです...」

「たがら...」茜が言った。「それよりも、桁外れの速度の、量子コンピューター渇望されるわけ

ですね?」

「そういうことです...」淡島が、右の肩を後ろに引いた。口に手を当て、モニターを眺めた。「“参

考文献”にもありますが...簡単な例1つ、取り上げてみましょう...」

「はい...」茜が顎を突き出した。頬を包むように手を当てた。

「ここに...スポーツ同好会があるとしましょう...

  さて、来月は...メンバー2つのチームに分けて...サッカーでもゴルフでもいいのですが、

試合をすることにしました。各チームに、何人づつ所属してもいいとします。ただ...“1部のメン

バーどうし非常に仲が良く”...“それ以外とは険悪の仲”です。

  ここで...不満を最小限に抑えるために...“仲良し同士が同じチームに所属”...できるよ

うに配慮したいと思います。まあ、よくあるような話ですね...さあ、この場合、一体どういう組み

合わせにするか...ということです」

「うーん...」茜が笑った。「皆さんは...実際、どうなさっているのでしょうか...?」

「はは...」淡島も、口を押さえた。「まあ...ここは学問的に...数学的な解明をしましょう」

「ほほ...そうですね、」

「いいですか...

  1つの方法として...どれぐらいの不満が出るかを、“点数化”する方法が考えられます。“仲

良し同士が分かれるごとに・・・不満度・1点”...して、合計点が最小となる組み合わせを

すれば...“不満度は最も低く”...抑えられます」

「うーん...」茜が、ゆっくりとうなづいた。

「この方法は...

  全メンバーが4人だけなら、非常に分かりやすく、簡単です。それから、問題を分かりやすくする

ために...当ホームページのメンバー/4人で、説明してみましょう...」

「はい、」茜が微笑して、うなづいた。

 

                           

 

  淡島が、自分のモニター画像を、スクリーンボードに転送した。

「ええ...ここに、準備しておきました...」

「はい、」

「この図に示すように...

  星野支折さんの助手はポン助君で、関係は“良好/仲良し”です。それから...折原マチコ

さんの助手はミミちゃんで...この関係も“良好/仲良し”です。 

  ところが...ポン助君ミミちゃんは...最近は、あまり一緒にいることがなく、“疎遠”です。

男らしいポン助君は...“1人が好きなのかしら?”、と支折さんが言っていました。ともかく、分

類としては、“疎遠/険悪”として置きましょう。

  それから...支折さんミミちゃんの関係は本来は良好なのですが...先日、ミミちゃん

折さんの、お茶の茶碗をひっくり返し、柏餅を台無しにしました。そのままズラかってしまったので、

ミミちゃん支折さんと顔を合わさないようにして、逃げ回っています。つまり、そういう理由から、

二人は“当面/険悪”なのです。

  ええ...マチコさんポン助君の関係も、本来/良好です。しかし、あえて言えば、最近、キー

しておくと約束した地ビールを、ポン助君が勝手に飲んでしまいました。それで、マチコさんが、

腹を立てていています。ま、この程度のことは、毎度のことらしいですが、“当面/険悪”としましょ

う...」

                                

「ホホ...」茜が、頭に手をやり、髪を絞った。「ミミちゃんのことも、実際にあった話ですね。支折

さんから聞きましたわ、」

「はは、そうです...」淡島が、スクリーン・ボードを眺めた。「ポン助君の話も、本当です...

  さて...この4人(/2匹)関係下で、最小の不満度2つのチームを作ります...ええ、“仲良

し同士が分かれるごとに・・・不満度1点を加算”...ということですね。その合計点不満度

比較します...これで、いいですね?」

「はい...」茜が、うなづいた。「そうですね、」

「さて、では...4人(/2匹)分け方/組み合わせ方法は、3通りあります。

  @・・・・・・   “仲良し”マチコさん支折さんが組めば...自動的にポン助君ミミちゃん

の組み合わせが決まります。つまり、“1方に・・・険悪な関係”が現れます。

  しかし、不満度の計算では...“仲良し”支折さんポン助君が分かれて、“不満度1点”

同様に、“仲良し”マチコさんミミちゃんが分かれて、“不満度1点”“合計・不満度2点”

いうことになります...これで、いいですね?」

「うーん...」茜が、口に指を当てた。「ポン助君ミミちゃんが一緒になるのは、“疎遠/険悪”

として、不満度には加算されないのかしら?」

「いいですか...

  条件は...“仲良し同士が分かれるごとに・・・不満度1点”...ということです。数学的に、

できるだけ問題簡潔にして、説明しています。今言った条項は、条件に入れてもいいのですが、

今回の条件には入っていません...」

「うーん...そうですね、」茜が、うなづいた。

「さて...次に...

 A・・・・・・  マチコさんポン助君が組めば、“当面/険悪”ということになるわけですが...

これも自動的に、支折さんミミちゃんの組み合わせ、“当面/険悪”が決まります。これは“両方

に・・・険悪な関係”が現れます。

  この場合の不満度の計算は...支折さんポン助君“仲良し”が分かれて、不満度1点”

マチコさんミミちゃん“仲良し”が分かれて、不満度1点”。さらに、マチコさん支折さん

“仲良し”が分かれて、不満度1点”です。

  つまり、“合計・不満度3点”で...ここに、“最も険悪なケース”が現れます。しかし、ともかく、

最後まで計算してみましょう。この計算は...直感力解答見えるのが、ミソですから...」

  茜が、うなづいた。

「では...最後に...

 B・・・・・・  マチコさんミミちゃん“仲良し”が組むケースでは...支折さんポン助君

“仲良し”も組み合わせが決まり...“両方とも良好”な関係です。ただ1つ...マチコさん支折

さん“仲良し”が分かれることになり...“合計・不満度1点”となります。

  まあ、この組み合わせが...“最小の不満度・・・求める解”...ということになります...」

「うーん...そうですか...」

 

「ところが...」淡島が、高杉を見た。「この方法は...

  メンバーが4人ならば...直感的に、すぐにも解答が出せます。しかし、“人数が増えると”...

とたんに“難しく”なって来るのです。“チーム分けの方法・・・パターン”は、たちまち急増します。

それと、先ほども少し言いましたが...“条件の数が増えれば・・・同様”です...」

「うーん...」茜が、口にコブシを当てた。

計算機科学/コンピューター・サイエンスでは...

  “難しくなる”とは...“扱う数が少し大きくなるだけで・・・計算時間が・・・爆発的に長くな

る/指数関数的に増大する”...ことを意味します。

  あるコンピューターで、1つ不満度を計算するのに、1ナノ秒(n秒・・・10億分の1秒)かかるとしま

しょう。この場合、1チームが30人の場合なら...約1秒間で...全てのケースについて、不満

度の計算できる言います。

  ところが、1チームが50人に増加すると...137億年(/宇宙年齢)計算し続けても...解答が出

せないと言います。つまり、たった20人増えるだけで、コンピューター計算量/計算時間は...

“1秒 〜 137億年 〜 ∞(無限大)...となってしまうわけです」

「つまり...」茜が、唇をつまんだ。「指数関数的に、計算量が増大するということですね?」

「そうです...

  “計算時間が爆発する”、などとも言います。この問題専門的には、グラフ分割問題と言わ

れています。いわゆる、NP完全問題1つです。扱う数が増えると、計算が爆発的に増大し、

正攻法計算して行くと、確実に破綻します。

  しかし、実際には...全てのケースについて、不満度を計算する必要はないのです。目的

満度最小となる、チーム分けをする方法を知ることです。その他の場合は、どうでもいい付随

的な計算なのです...」

「...それで...?」茜が、頭をかしげた。

「つまり...

  計算付随的領域バイパスして...あるいはワープ(ひずみ、ゆがみ、ねじれ・・・/SFで、宇宙空間のひ

ずみを利用し、瞬時に目的地に到達すること・・・)して...解答に到達する方法はないものか、ということです」

「そのような、数学的トリックはないのか...ということですね?」

「まあ...

  それが可能なら...量子コンピューター超高速性に、期待をかけることもないわけですが、」

自然界の中に...」高杉が、ゆっくりと口をはさんだ。「それを...ラクラクとこなしている現象

が...存在しているかも知れない、ということでしょう。

  例えば、1例人間の頭脳です...そういう不満度最小となるチーム分け方法を、学校の先

は、日常的にやっているわけです。人間の頭脳問題解決の方法として、“いい加減さ/・・・

概数/・・・アバウト(おおまかなさま)起動し...不満が出ない、ようにこなしています...」

「そうですね...それが、民主主義基盤かも知れませんわ、」

「ふーむ...」高杉が微笑した。「しかし...

  ここは...直感力の問題ではなく...計算機科学/コンピューター・サイエンスの問題ですね。

ただ...直感力というのは、真理ダイレクトに...“直接・把握”...しています。バイパスか、

ワープかというよりも...グイッ、と何者かを、ダイレクトに掴んでいます。その構造は謎です...

  これは...“この世/眼前するリアリティーの・・・構造的特徴”...なのかも知れませんね。

“1人称世界と・・・リアリティーの関係”...なのかも知れません。まあ...“世界構造として

は・・・その上で・・・相互主体性世界として波動・・・”...しているわけですが...」

「うーん...“リアリティー世界の特質”...ですか。今後、問題になって来ますよね...」

「うーむ...

  すべては...“主体/1人称的認識の鏡”...に映し出される何者かですが...まず、素粒

子/量子力学の世界で、問題が顕在化したわけですねえ。その量子力学の確立以来、100年近

になるわけですが...いまだに霧の中です...」

「はい...」茜が、うなづいた。「でも...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”本格化の中

では、放置しておくことはできませんわ」

「その通りです...」高杉が、2度うなづいた。

不満度シミュレーター 不満度を物理エネルギー系へ転換!> 

                  

 

「ええ...」淡島が、インターネット・正面カメラを見た。「いいですか...少々、思考の飛躍があり

ますが、全体をつかみ、適当に聞き流しておいてください。実は、“参考文献”の説明も少なく、私

も苦慮しています...」

  高杉が、うなづいた。

「茜さんも、よろしく、」

「あ、はい...」茜が言った。

「とはいっても...」淡島が、額を撫でた。「一応、説明はします...

  いいですか、この不満度に見られる...複数の要素の・・・結びつきを変えると・・・値が変

する”...という性質は、物理学者にとっては...“エネルギー ・・・という概念/実態”...

想起させます。

  複数の物体からなる、システム全体のエネルギーは...それぞれの状態と、周囲との関係

によって決まります。

  それならば...“チームの不満度を・・・システム全体のエネルギー・・・で表すような物理

・・・不満度シミュレーター”...というものを、作ることも可能です。シミュレーターというのは、

シミュレーション(模擬実験)をする装置ということです...ここまでは、いいですか?」

「はい...」茜が、髪を耳の後ろに撫で上げた。

「さて... 

  物理系のエネルギーというものは...外部からの操作によって...変えることができます。最

も単純なやり方は...“熱を加えたり”“熱を奪ったり”することです。

  フラスコに水/HO・分子を入れて、を加えると...が、運動エネルギーを得て温度が

上昇し...水のエネルギー高くなるわけです。逆にこれを冷蔵庫に入れて冷やすと...

運動エネルギーを失い、やがて結晶化し...水のエネルギー低くなるわけです...」

  茜が、無表情にうなづいた。

「いいですか...

  もし...“不満度シミュレーター”...というものが構築できたら...“冷却し・・・エネルギー

/不満度・・・を下げて行けば”...やがて、“最低エネルギー/不満度・最小状態”...に

します。

  そうすれば...超高速量子コンピューターがなくても、137億年計算し続けなくても...そ

“シミュレーター”に、回答析出するわけです。

  あとは...“シミュレーター”の、各物質の状態分析して行けば...“不満度・最小の・・・

チーム分けの方法”が...“どのような状態/組み合わせ”かが...分かるわけです...」

「ふーん...」茜が、口に手を当て、頭をかしげた。

高杉・塾長が言われたように...」淡島が、高杉を見た。「自然界の現象を使い...しかし、

感力にたよるのではなく...最速の回答を得ることが可能です...」

「その...」茜が言った。「“不満度シミュレーター”が...つまり、“ニュータイプ/BEC・量子

コンピューター”...と言うわけですね?」

「そういうことです...どういう物理系を作ればいいのか、簡単に説明しましょう。ここからが、肝

心です」

「はい...」茜が、うなづいた。

 

「問題を簡単にするために...」淡島が、スクリーン・ボードに目を移した。「先ほどの、4人(/2匹)

のメンバーを...2人(/1匹)づつのチームに分ける場合を考えましょう...答えは、直感ですぐ

に分かるわけですが、数学的に説明しましょう...」

「はい...」茜も、スクリーン・ボードがスクロールされて行くのを眺めた。

  高杉も、モニターから顔を上げ、スクリーン・ボードを見ていた。

「まず...」淡島が言った。「4人(/2匹)に対応する...4つの容器を用意します」

「はい、」

4つの容器の中に、4個の粒子1個づつ入れます...

  粒子というのは、スピン(素粒子の基本的な量子数の1つ。古典的には、粒子の自転による角運動量とみなされる)と呼

ばれる性質を持つ、小さな棒磁石のようなものです。そのスピンの方向が、所属するチーム

します...いいですね?」

「ええ...」茜が、唇を結んだ。

「ええ...さて...

  “スピンが上向”きなら、図のようにAチーム...“スピンが下向”きなら、Bチームになります。

この図では、マチコさん支折さん“スピンが上向”で、Aチームポン助君ミミちゃん“ス

ピンが下向”で、Bチームですね...」

  茜が、うなづいた。

4つ各容器には...〔スピンの向きの測定装置〕と...〔粒子に磁場をかける装置〕、を付

けておきます。これでスピン測定と、スピン向きのコントロールができるわけです」

「...」

各粒子には...

  周囲の粒子それぞれのスピンと、反対方向の磁場を足し合わせて加えます。磁場の大きさは、

それぞれの粒子との...“人間関係・・・仲良し/険悪”...によって決めます」

「うーん...」茜が、頭をかしげた。

「ともかく...」淡島が笑って、片手を上げた。「概略を掴んで下されば、それで結構です」

「はい...」

「ええと...いいですか...

  “スピンには・・・磁場と同じ方向を向きたがる性質”...があります。ある粒子のスピンと、反対

方向の磁場をかけるというのは...その粒子が属しているチームに入るのに、障壁を設けること

に相当します...

  つまり...“それを乗り越えて・・・同じチームに入る/同じ方向にスピンを向ける”...となる

と、その分だけ、粒子のエネルギー高くなります。そのエネルギーの増加分は、加えられた磁場

の強さに比例するわけです」

「つまり...」茜が、肘を立てた。「こういうことかしら...

  “仲の悪い人/粒子”のためにかける磁場を...“仲の良い人/粒子”のためにかける磁場

りも、強くすれば...“仲の悪い人/粒子”同じチームになってしまった時、全エネルギー/不

満度が、より高くなるということかしら...?」

「まさに、その通りです...

  いいですか...粒子エネルギーの高さが...その人の不満度反映することになります。こ

れが...“不満度シミュレーター”...なのです。

  システム全体のエネルギーは、4つのエネルギーの“和”ということになります。これは、相性の

悪い人どうしが、同じチームに入る確率が高いほど...システム全体のエネルギー高くなる、

ことを意味します...」

「はい...」茜が、頭をかしげながら、うなづいた。「この図では...

  マチコさん支折さん...ポンちゃんミミちゃんで...“仲の良い人”“仲の悪い人”しか

いない設定ですね...“どっちでもない人”とかはいないので...ごく単純というわけですね。先

ほど言ったように...

 

   マチコさんミミちゃん・・・支折さんポン助君の組み合わは、“合計・不満度1点”

   マチコさん支折さん・・・ポン助君ミミちゃんの組み合わは、“合計・不満度2点”

   マチコさんポン助君・・・支折さんミミちゃんの組み合わは、“合計・不満度3点”

 

  ...ということですね。これを...“不満度シミュレーター”...で計算しても、同じ結果が得ら

れるということですね?」

「そうです...

  “不満度シミュレーター”...では人数が増える分だけ...粒子の入る容器の数を増やして

行けばいいわけです。

  重要な点は...“システムのエネルギーの総和/不満度”...を下げるために、“温度を下

げて行く”、ということです。この“不満度シミュレーター”は、つまり、“冷却すること”で...『チ

ーム分けの問題』解答を得るという...新しい概念コンピューターなのです。

  “計算時間”は、演算の速度/回数ではありません。“シミュレーター”冷却し、“粒子を・・・

最低エネルギーまで・・・落としこむ時間...ということになります」

「うーん...」茜が、うなづいた。「これまでのコンピューターとは、全く概念が違うわけですね、」

「そうです...

  しかし、これだけでは...“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”...とは言えません。

【量子現象/識別不可能性の原理...は何処にも使われていないわけです。そこで次に...

“BEC/ボーズ・アインシュタイン凝縮”...の応用ということを考えます」

「はい、」茜が、うなづいた。「うーん...そうですか...」

不満度・シミュレーターに・・・           
 
         
BEC/ボーズ・アインシュタイン凝縮応用する>

                       


「さて...」淡島が、部屋に入って来る高杉を見て、茜のモニターから離れた。

  茜も、高杉の方を眺めて、小さく頭を下げた。

「暑くなりそうですね...」淡島が、ブラリと窓の方へ歩いた。

  高杉を待ちながら、窓から外を見下ろす。シンクタンク=赤い彗星ビル2Fの眼下に、

ヒマワリの群生が勢いよく伸びていた。以前、淡島が種を蒔(ま)いたものだ。それが、ようやく花を

咲かせ始めている。

  窓辺の淡島につられて、茜も作業テーブルから外を眺めた。朝の涼しい微風が入って来ている。

その向こうに、夏の陽射しの中で、草原が輝いていた。何気ない夏の朝の風景であり、仕事に精

を出している日常の、充足感が流れていた。

「待たせたかな...?」高杉が、自分の席につきながら言った。「定時に来たつもりだが、」

「いえ...」茜が、微笑して言った。「最終回をどうしようかと、淡島さんと少し打ち合わせをしてい

ました。このページの最終回は、今回は無理で、次回になりそうですわ」

「うむ...」高杉が、自分のモニターの電源を回復した。キイボードを打ち込み、ワークステーショ

ンとの回線を開いた。

「これが終わったら...」茜が言った。「《軽井沢・基地》ヘ行くことになっていましたが、今回は無

理なようですわ...」

「はは、軽井沢ですか...」高杉が、ワークステーションのコメントを眺めながら言った。「淡島・准

教授も、これでようやく、夏休みが取れますね、」

「はは...」淡島が、顔を和ませた。「私は...軽井沢ではありませんが、白樺湖の方で、1週間

ほど過ごすつもりです」

「あら...」茜が言った。「近いですね。それなら、軽井沢の方にもいらっしゃればよろしいのに、」

「いや、ありがたいのですが...」淡島が、眼鏡を押した。「学生たちと一緒ですので...」

「そうですか...」茜が、肩を傾げた。「それも、楽しそうですわね...」

「茜さんの方は、何か?」淡島が聞いた。

「とりあえず、軽井沢で、美味しいおそばを食べますわ...

  それから、今年は浅間山の方へ行ってみます...そして、後は本を読んだり、油絵を描いたり、

質素に、《基地》で、おとなしくしていますわ...菜園に出るのも、楽しみですし...」

「私も、」高杉が言った。「8月の末頃、顔を出してみますか」

「あ、はい!」茜が、顔を輝かせた。「楽しみにしています!」

 

             wpe8.jpg (26336 バイト)     

 

「さあ...」淡島が、インターネット・カメラの青ランプを確認し、話し始めた。「この...“不満度

シミュレーター”ですが...」

「はい...」茜が、脇のハンカチの上に手を置いた。

「この...“計算時間”というのは...

  いわゆる...“演算の速度・・・1秒間の演算回数”...ではありません。この“不満度シミュレ

ーター”を...“急速冷却”して...“粒子を・・・最低エネルギーまで・・・落としこむ時間”...

ということになります...いいですね?」

「それが...“計算時間・・・解答を引き出す速さ”...ということに、なるわけですね?」

「そうです...

  いいですか...粒子1個でも運動エネルギーを奪い...温度を下げて行くことは可能です。し

かし、1個1個では時間がかかります。超高速で計算することに意味/価値があるわけですから、

そのことを、押さえておいてください」

「はい...」茜が、顎に手をかけた。「“不満度シミュレーター”も...時間がかかってしまっては、

余計な要素の浸入を、許してしまいますね...?」

「そうですねえ...」淡島が、うなづいた。「実際には、そうなのかも知れません...

  そこで、いいですか...【量子現象/識別不可能性の原理...から来る...“BEC/ボー

ズ・アインシュタイン凝縮”応用するわけです。それも、“半導体の中の・・・BEC”応用するわ

けですね」

「はい...」茜が、強く唇を引き結んだ。「そういうことですね、」

    

「ええ...」淡島が、スクリーン・ボードを眺めた。「まず...

  容器の中に、多数“ボーズ粒子”をれる、思考実験をしてみましょう。あ...その前に、少し

おさらいをしておきましょうか。長くなりましたので、忘れていると困りますので...ハハ、」

「あ、はい...」茜も、満面に微笑して、うなづいた。

「ええ、まず...

  “ボーズ粒子(ボソン)というのは...“粒子を入れ替えても・・・波動関数が変わらない粒子”

ということですね...詳しくは、前に説明していますので、そちらをご覧ください。光子代表例

す。中間子なども、“ボーズ粒子”になります...」

「うーん...」茜が、肩を傾げた。「もう少し、詳しくお願いしたいのですが、」

「ああ、はい...」淡島が、うなづいた。「分かりました...

  “ボース粒子”には...素粒子の間の相互作用を媒介する・・・ゲージ粒子...であると

ころの...光子(/電磁相互作用を媒介)ウィークボソン(/弱い相互作用を媒介)グルーオン(/強い相互作用を

媒介)があります。これらはいずれも、スピン1ですね...」

「はい...」

未発見の粒子では...

  “重力を媒介する・・・ゲージ粒子/重力子 (グラビトン)...がスピンの...“ボース粒子”

考えられています。これは理論的・予測で、ほぼ間違いないものと思われます。

  それから...これも未発見ですが...“素粒子に質量を与える・・・ヒッグス粒子...はスピ

ボース粒子”と考えられています。ともかく、これらは、“・・・群れたがる粒子・・・”、という

ことです。

  あ...それと、中間子“ボース粒子”ね。π(パイ)中間子スピン0ですが...ω(オメガ)

間子スピン1です。まあ、中間子スピンは色々ですね。詳しいことは、資料を調べて下さい

「はい...」茜が、うなづいた。

“フェルミ粒子(フェルミオン)の方は...」淡島が、モニターをスクロールした。「うーむ...

  “粒子を入れ替えると・・・波動関数の符号が反転する粒子”...ということです...」

「...符号反転する粒子...ですか、」

「そうです...

  そして、“フェルミ粒子”は...“1つの系内で・・・2個の粒子が・・・同じ量子状態になるこ

とが許されない”...ということです。したがって、“ボース粒子”とは逆に、“・・・孤高の粒子

・・・”、になるということです...」

「はい...でも、粒子にそういう性質があるというのは、不思議ですね...」

「まあ、不思議といえば、そうですね...

  ええと、“フェルミ粒子”には...クォークや...レプトンである、電子ミュー粒子ニュートリ

... それから...3つのクォークからなる複合粒子で、バリオンに属する、陽子中性子もそ

うですね、」

「あ...」茜が言った。「電子代表例ということですね?」

「そうです...

  いいですか...別の言い方をすれば...“スピンが整数のものを・・・ボーズ粒子”といい、

“スピンが1/2の奇数倍のものを・・・フェルミ粒子”といいます...

  ええ...“ボーズ粒子”“フェルミ粒子”は...“粒子どうしが区別できない・・・完全に同

一”...という点では同じなのです。これが、【量子現象/識別不可能性の原理】です。ただ

し...“振る舞いは・・・対照的”...ということですね。

  のように“・・・群れたがる粒子・・・”と...のように“・・・孤高の粒子・・・”です。ここで

は、これだけを覚えておいてください...」

「はい...犬系猫系ですか...」

「うーむ...もう一言いえば...」

「はい?」

“・・・群れたがる・・・”...とは、どういうことかというと...

  例えば...レーザービームを構成しているのは、“ボーズ粒子”光子ですね...その動き

は、1個づつボールを投げた時のように...“他の粒子と無関係に動いている・・・と仮定する

と・・・説明がつかない”...ということなのです...」

「つまり...干渉などを、起こすということでしょうか?」

「そうです...“他の粒子と同じように動く確率が・・・非常に高い”...ということです...」

「うーん...それで...“・・・群れたがる粒子・・・”...ということですか?」

「そうです...

  ついでに言えば...“フェルミ粒子”は反対に、“・・・孤高の粒子・・・”です。電子代表例

すが、核子の周りを回っている核外電子は、群れたりはしないわけですね。礼儀を重んじ、非常に

紳士的です...」

  茜が、かすかに汗ばんだ顔で、コクリとうなづいた。

 

  wpe8.jpg (26336 バイト)                 wpeA.jpg (42909 バイト) 


「そこで...」淡島が、眼鏡の真ん中を押した。「話を戻しますが...

  容器の中に...多数“ボーズ粒子”を入れる思考実験をしてみましょう...“不満度シミュ

レーター”を構築する、思考実験です...」

「はい...容器の中に、“ボーズ粒子”を入れるわけですね?」

「そうです...

  この時の、“ボーズ粒子”振る舞いというものは...インターネット動画投稿サイト利用

者の状況を考えると、想像しやすいのだそうです」

「ふーん...現代的ですね、」

「はは、いいですか...

  人々は、動画の内容よりも...まず、聴視された回数を見て...自分もクリックするのだそうで

す。そして、多くの人々が、動画を見て視聴回数が伸びると...それに輪をかけて、人々が引き

つけられて行く...のだそうです。つまり、“・・・群れたがる・・・”...わけですね、」

「ふーん...」茜が、楽しげに頭をかしげた。「“人間心理のベクトル/力と方向”、でしょうか?」

「はは...

  “人間真理の野次馬性/遊び/ゆとり”、かも知れません。ともかく、容器の中の“ボーズ粒子”

も、同じような振る舞いをするということです。“ボーズ粒子”の、“・・・群れたがる・・・”...とい

性質観測されるということです。

  “容器が冷却”され...“最初に幾つかの粒子が・・・最低エネルギー状態に達すると・・・

他の粒子も追随する”...ということです。“羊の群れのように・・・後にくっつき・・・群れて行

動する”...という性質ですね、」

は分かりますが、“頭脳を持たない・・・素粒子も・・・群れたがる”...ということですね?」

「つまり...」高杉が、口をはさんだ。「...“本質的な・・・何か”...なのでしょう...」

「はい...」茜が、神妙にうなづいた。

「いいですか...」淡島が言った。「やがて...

  “全粒子が雪崩のように・・・最低エネルギー状態に落下”...して行きます。そして、“BEC

/ボーズ・アインシュタイン凝縮”、をすることになります。この時...“温度の下降スピードは

・・・粒子1個の時よりも・・・はるかに速い・・・”...のです。この速さが、ミソですね...」

「はい...計算超高速性になる...というわけですね?」

「そうです...」淡島が、うなずいた。

                                        wpe8.jpg (26336 バイト) wpeA.jpg (42909 バイト) 

 

「ええ...」淡島が、モニターに顔を寄せた。「“参考文献”の...

 “著者グループの作り上げた・・・デバイス”では...“量子井戸”の中に...100万個以上

の、“ボーズ粒子”生成するそうです...そして、その...“冷却スピードは・・・ボーズ粒子

の数に比例...するのだそうです」

粒子の数に...比例するのですか?」

「そのようですねえ...

  つまり...“粒子1個の時の・・・100万倍の速さで急速冷却する”...のだそうです。その

ようにして、最低エネルギー状態に、落とし込むことができるのだそうです」

「うーん...

  この...“不満度シミュレーター”が...“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”...

スピードということに、なるのでしょうか?」

「まあ、そのようですねえ...

  参考文献には、説明はないのですが...これはまだ、シミュレーター量子コンピューターと呼

べるものではないのでしょう。“著者グループの作り上げた・・・デバイス”...ということです」

「はい...」

 

「さて...」淡島が、モニターを見た。「これまでの実験では...

  デバイス光を照射してから...“BEC”ができるまでの所要時間は...“数ピコ秒(ピコは1兆分

の1)...だったそうです。しかし、生成する“ボーズ粒子”は...実は、比較的簡単に、

やすことができる...のだそうです。つまり、“さらなる高速化も可能”、ということですねえ」

「...」

「ただし...」淡島が、指を立てた。「当然...課題もあるわけです」

  茜が、うなづいた。

“最大の課題”は...

  “全粒子が・・・最低エネルギー状態まで・・・確実に落ち切る・・・保証がない”...というこ

とのようです。“複数のデバイスを用いる・・・システム”...を作った場合...“本当は・・・もっ

と低いエネルギー状態があるのに・・・途中の凹みに引っかかってしまう”...ということがあ

るようですね。

  これでは...“正しい解答が得られない”...ということになります。これは、シミュレーター

しては、致命的なことになります...」

「うーん...実際に、デバイスを創ってみないと、分からないことですね?」

「まあ...【量子工学】のことになりますから...工学的な問題は、様々にあるわけですねえ、」

「はい...」

「さて、この問題を解決するには...

   システムを...“揺(ゆ)する・・・揺らしてやる”...ことだそうです。そして、“引っかかってい

る粒子を・・・外してやる”...必要があるのだそうです。

  “揺する・・・揺らしてやる”...というのは、実際には、システムの温度一気に下げるのでは

なく...“あるていど・・・緩やかに下げて行く”...ということに相当するそうです」

「うーん...振動させるわけでは、ないのですね?」

「そうです...」淡島が、うなづいた。「いいですか...

  “数ピコ秒(ピコは1兆分の1)の世界”です。それを振動させるというのも、何やら、難しいわけです」

「でも...肝心のシミュレータースピードは、落ちるということになりますわ」

「その通りです...

  しかし、ジワジワと冷やせば...凹みに引っかかった粒子熱的に浮き上がり...再び落ちる

余裕が生まれるということです。ところが、一気に冷やしてしまうと、こうした現象が起こる、時間的

余裕がなくなってしまうということです」

“矛盾する条件”が、出てくるわけですね」

テクノロジーの世界では、よくあることです...

  私は、開発に関係しているわけではありませんが、こうした関係にはまって来ると、ある種の

堵感(あんどかん)のようなものを感じます。そこが最終調整のような...」

「そういうものでしょうか?」

「もちろん...

  【量子工学/量子計算】の...“新しい窓を創出”...しようとしているわけです。そんなに

生易しい状況ではないでしょう。ともかく...“計算時間”“エラー率”との兼ね合いから...“最

適な・・・冷却速度”...を見つけ出すということになります。

  工業製品でもそうですが...早ければ粗くなります。品質スピード兼ね合いがポイントとい

うことでしょう」

「そのあたりの調整に入ったという、安堵感ですか...?」

「ま3...実際には、ほど遠いもでしょうが...」

「はい...」

                  


「さて...」淡島が、スクリーン・ボードの方へ、肩を回した。「システムを組み上げたとしても...

  常に...“正しい解答”が得られるかどうかは、まだ分かりません。そこで、“試作/BEC・量

子コンピューターを・・・何度も走らせてみる”...ことになるのだそうです。そうして、得られた

結果の中で、最低エネルギー状態のもを選び、元の問題に代入し、“検算”をすることになります」

“検算”...ですか?」

「そうです...計算結果が正しいかどうかを...確認する計算です」

“試し算”のことですよね?」

「そうです...

  この“検算”正解だったら...計算は終了します。しかし、不正解だったら、“冷却”をやり直

し、正解が得られるまで続けます。“検算”計算量爆発しないそうですから、“冷却”をくり返し

ても、高速で答えが出せると言います」

「うーん...」茜が、高杉の方を見た。

 

  高杉が、両手を組んだ。

「そうですねえ...」高杉が言った。「ともかく、話を進めましょう...

  この...“不満度シミュレーター/BEC・量子コンピューター”では、チーム分け問題

外は、計算できないと思われるかも知れませんが、そんなことはない、のだそうです。

  NP完全問題は...チーム分け問題の他に...複数の都市を結ぶ最短コースを求める

巡回セールスマン問題や...箱の中から複数を選んでトランクに詰める部分和問題

ど、様々なものがあるわけです。

  しかし...これらは、数学的な操作で、他の問題に変換できるのだそうです。私は、詳しいこと

は分からないわけですが、この計算量爆発はしないそうです。つまり...どれか1つ、今まで以

上に高速計算できれば、他の問題も高速計算が可能...ということだそうです」

「うーん...そういうことですか、」茜が、頭の後ろに手を当てた。

  〔4〕 量子計算を実現するとは?         

                       

 

「ええ...」高杉が、インターネット・正面カメラを見た。「ページが、長くなってしまったので...

  ここであらためて、【量子計算/量子コンピューター】というものを...もう一度、簡単に総括

しておきましょう」

「あ、はい...」茜が、うなづいた。「お願いします、」

「まず...

  “ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”というのは...“現在開発中の・・・既存/量

子コンピューター”とは...全く違う概念から出発しているということですねえ

  これも、【量子現象】を利用して計算する計算機であり...ある種量子コンピューターには違

いない、というわけです。能力の方は、 NP完全問題高速処理できるのであれば、応用範囲

は広いと思われます」

  高杉は、モニターをスクロールした。

「ええ、それから...

  現在開発中“既存/量子コンピューター”は...【量子現象の・・・重ね合わせの原理

利用し、超高速計算を実現しています...これは、簡単に言うと...“1つの物体が・・・2つ以

上の場所に・・・同時に存在する”...という【量子現象】を利用しているわけですね。

                                                         ・・・・・・<詳しくは、こちらへどうぞ>

  これに対し、“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”は...【量子現象の・・・識別不可

能性の原理】を利用しています。この【量子現象】は...“粒子/ボーズ粒子・フェルミ粒子”

は...“1個1個は・・・識別不可能であり・・・同一のもの”...とみなされるというものです。

  もう少し具体的に言うと...この【量子現象】から来る...“BEC/ボーズ・アインシュタイン凝

縮”を利用し、超高速演算をするわけです。

  したがって、これは今までのように...“アルゴリズム上に・・・超高速演算を走らせる”...

のではなく...“急速に冷却”することで...“自然現象/外部環境に任せ・・・エントロピー

を下げることで・・・結論に至る”...というものです。

  まあ...こういう量子計算もある、ということです。したがって、これは...“量子計算/量子

工学の・・・新しい窓の創出”...になる可能性もあるということです。まあ、これは、あくまでも、

“参考文献”に基ずく、門外漢の推測ですが...」

「でも...」茜が言った。「その...

  “急速冷却・・・解答の析出”中身も...精密に分析して行けば...“未知の超高速・量子

演算が・・・含まれている”...ということですね?」

「うーむ...」高杉が、うなった。「難しいですねえ...

  【量子もつれ・・・のような・・・量子現象】もそうですが...その中身は、“構造のない・・・究極

の現象/性質”なのか...それとも...“我々がまだ・・・その解明に到達していない・・・数学的

構造を持つもの”...なのかは分かりません。“量子もつれ”には、“影”のようなものも見えるとい

うことですし...」                                <・・・詳しくは、こちらへどうぞ・・・>

“ボーズ粒子”“・・・群れたがる・・・”性質や、“フェルミ粒子”“・・・孤高を好む・・・”性質

も、“究極の・・・備わった性質”、ではないということでしょうか?」

「今のところは、【量子現象】...ということです...

  しかし...そこにも数学的構造の存在する、可能性認めるということです。粒子には、そうし

た...“人間的側面/一人称的影・・・が色濃く観測されている...ということでしょう。

  私たちは...“私という・・・認識という鏡”...を用いて、結局...“自分の作り上げた虚像

・・・1人称的バーチャル世界を創出している”...という...“1人称的世界”から、脱却でき

ないでいるのです。

  それを突破できるのは...“超越的座標にある・・・神・・・”...なのですが、科学的/客観

手法は、それを排除してしまいます。しかし、これは、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”

時代の、大きな課題になります」

「はい...」茜が、唇を引き締めて、うなづいた。

 

<素粒子の・・・人間的側面とは・・・?>

                       

          

「私は...」高杉が言った。「何時の頃からか、というものは見なくなりました...

  しかし、想像力の中ではを見ます。それもまた、非常にバーチャルな風景を、結晶化しますね

え。“これは何者か!”、と思うほどリアル(迫真性のあること)です。そして、まさに、“これは、いったい、

何なのだろう?”...と思います。

  まあ、そんな風に...“素粒子の人間的側面”も...超ひも理論“弦の振動”に、還元

されて行くのかも知れません。そんな風にして...“人間的バーチャル空間が創出され・・・種

の共同意識体が体系化し・・・実体化”...して行くのかも知れませんねえ...」

「それが...“36億年の彼”リンクしていると?」

「ハハ...その通りです...

  “神”によって、が分けられ...人間によって、時間空間分割され、リアリティーから

名詞分離され...デカルトによって、世界“物の領域”“心の領域”分けられて以来...

“人間と世界の原型”は...そんな風に、形作られて来た可能性があります...」

「...」

“眼前する・・・リアリティーとは・・・そもそも何者なのか?”...ということもあります。人間

赤ん坊は、産み落とされて以来...いや、それよりもはるか以前から...“上位システムの・・・

種の意識総体”...の中で...育まれ/守られて...いるのかも知れません。

  それを学んで行くのは、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代の、本格化を待たなけ

ればならないのかも知れません。“21世紀前半の・・・大艱難の時代”を切り抜けたとして...

本格化するのは、22世紀以降でしょうか...」

「はい...」茜が、微笑して言った。「ともかく...

  イワシの群れには...“上位システム・・・イワシという種の共同意識体/意識総体”があり...

そうした膨大な“種の意識総体”が...生態系の中でそれぞれの“種”を育み...機動性遺伝子

/ウイルスの海で...遺伝子融合・進化し...それらは、“地球的人格/36億年の彼”と、

ヒエラルキー(位階制)を形成している...という、塾長のお考えですね?」

「その通りです...」高杉が、顔を和ませた。「しかし、それだけでは、この地球生命圏を説明し尽

くしてはいません...

  このハビタブル・ゾーン(HZ: habitable zone/宇宙の中で生命が誕生するのに適した環境となる天文学上の領域・・・生

命居住可能領域)水の惑星/巨大生命圏には...あるいは、宇宙そのものに...特殊なベクトル

(力と方向)がかかっているということです...」

「つまり...“存続/進化という・・・生命潮流のベクトル”...ですね?」

「そうです...

  熱力学の第2法則/エントロピーの増大拮抗するほどの...“この宇宙を特徴づける・・・

生命潮流のベクトル”...です。あるいは...“人間原理宇宙・開闢(かいびゃく)の・・・必要条件

としての・・・生命の存在”...です。

  パスカル(フランスの・・・数学者、物理学者、思想家、確率論の創始者)が...“人間は考える葦(あし)である”

言った源流のものですね。こうした方面の探求が、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”では、

本格化して行くでしょう...まあ、非常に難しい課題です...」

数学は...」淡島が、ゆっくりと言った。「そこでは...どういう位置にあるのでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。

数学は...この自然界/この宇宙を語る...言語です...」

「が...」高杉が言った。「しかし...

  “人間の認識”を離れて...数学独立に存在すると、観測されているわけではないのです。

数学といえども...“人称的世界・・・1人称的/我の・・・認識の鏡の中”、にあるわけです」

  淡島が、静かにうなづいた。

「そもそも...

  巨大な1つの全体/リアリティーを...に分け、時間空間を分割し、名詞で分離し、

で測りはじめたのは...文明なのです。したがって...最初から、数学がそこに転がっていた

わけではありません。

  ある意味で...人間都合よく組み合わせたものかも知れないと言っているわけです。リアリ

ティー/この世で...“共時性・・・意味のある偶然の一致”(ユング心理学のシンクロニシティ)が、頻発

して起こるのは...“1人称的・・・世界観”が、関係しているのかも知れませんねえ...」

「うーん...」茜が言った。「そして、結局...

  宇宙空間観測の結果...平坦/ユークリッド空間に...近いということも...“物の領域”

“心の領域”の...“トワイライ・トゾーン(薄明かり帯)に入って来た、ということでしょうか...」

「そうですねえ...」高杉が、うなづいた。「その、可能性を見て行くということでしょう...」

「しかし...」淡島が、眼鏡の端を押した。「“神”天地創造を行ったにせよ...

  この宇宙数学的言語で記述されているわけです。その法則性の中で、宇宙は組み立てられ

ているわけです...」

「うーん...」茜が、高杉に顔を向けた。「でも...

  それも、また...“1人称的世界・・・我の認識世界・・・の中・・・”...ということですね...」

「まあ...」高杉が、髪を撫で上げた。「厄介な問題です...

  20世紀の量子力学は...結局...“1人称と・・・認識の問題”...完全に、突破することが

できなかったわけです。これは、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代に、持ち越されて

来たわけでしょう。今度こそ、本格的に取り組まなければなりません」

「はい...」茜が言った。

  淡島が、小さくうなづいた。

 

「まあ...」高杉が、スクリーン・ボードを眺めた。「少なくとも...

  “BEC/ボーズ・アインシュタイン凝縮”は...【量子工学】/次世代テクノロジーに...利用

することができそうだということですね。

  もちろん、茜さんが言うように...“急速冷却・・・解答の析出”...の外部環境との相互作用

では、計算可能なものが存在するのかも知れません。そして、それは、我々のまだ知らない、“未

知の量子計算”なのかも知れません...

  しかし...“計算よりも早く・・・解答が析出”するとしたら...計算の必要があるでしょうか。

つまり、その構造計算は、棚上にしておいてもいいわけです...」

「うーん...」茜が、大きく頭をかしげた。「私たちが...

  中身の解明に、到達していないという風景は...ニュートン力学近似値は得ていても、相対

性理論量子論が登場するまでは...その中身までは見えなかった物理現象...と同じという

ことでしょうか?」

「そうですね...」高杉が、うなづいた。「その先に...

  “物の領域”だけではなく、“心の領域”までをも含む、“大きな入れ子細工の風景”があり...

さらに...小さな入れ子細工の方も、再計算が必要な風景ですね...ロシアマトリョーシカ(木

製の入れ子式人形)か...曼荼羅まんだら: 密教で、仏の悟りの境地である宇宙の真理を表す方法として・・・仏、菩薩/ボサ

ツなどを・・・体系的に配列して図示)の世界のようです...」

「うーん...」茜が、椅子の上で体を揺らした。「曼荼羅ですか...」

「はは...

  そうした...“パラダイムを変えるほどの・・・新理論”...が登場すれば...エキゾチック

(異国的)量子世界も、スッキリと整理されるかも知れません。今の所は、《量子もつれ崩壊後

も・・・謎の影!》、といった状況ですね」

「はい...」茜が、うなづいた。

「ともかく...

  この、“ニュータイプ・・・新しい量子計算のシステム”というのは...【量子現象】工学的

利用で...新たな可能性切り開くものとして、注目されているようです」

【量子工学】は...」茜が言った。「純粋な、次世代テクノロジーになるのでしょうか?」

現在の基準で言えば...そうでしょうねえ、」

「はい、」 茜が、口に手を当てた。

量子デコヒーレンスを・・・克服するには・・・?>    

            


「ええ...」高杉が、スクリーン・ボードに目を投げた。「いいですか...

  私は、ご存知のように門外漢であり、あまり詳しく分かるわけではありません。しかし、分かって

いる限りのことを説明しましょう」

「はい...」

「まず...

  “ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”の...大きな特徴は...“複雑なアルゴリズ

ムも演算操作も・・・必要としない...ということです。ただ...“急速冷却することで...解

答が出る”...ということです。

  “開発中の既存/量子コンピューター”の場合は...現在普及している旧来型・コンピュータ

のように...“計算のための・・・アルゴリズム上”を...【量子現象/重ね合わせの原理

・・・量子演算素子】...を走らせるわけです。

   しかし、そもそも...こうした高速演算できるアルゴリズムを見つけるのは、非常に難しいのだ

そうです。詳しいことは分かりませんが、これまでに数種類しか見つかっていないと言います。

はどういうことかというと...“問題自体に・・・高速化を可能にする・・・構造があること”...だ

そうです。

  つまり、それを引き出す...“量子計算・アルゴリズムを・・・作ることができるものに・・・限定

れる”...ようです。

  1990年代に...“因数分解”“データ検索”など、数種類が見つかっているそうですが、そ

れから、どうも、あまり増えてはいないようです...まあ、この辺りは、データがないので分りませ

ん...」

「はい...」

「一方...

  “ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”の方は...“解きたい問題の状況に合わせて

・・・デバイスを磁気的に接続するだけ”...でいいのだそうです。後は、自然に行きつく所まで、

待ていればいいわけです。

  こっちの方は、計算するというよりも...“自然現象が・・・勝手に計算してくれる”...といっ

た方がいいかも知れません」

「うーん...あまり、ありがたみのないような...コンピューターですね、」

「ハハ、そんなことはないでしょう...

  “既存/量子コンピューター”よりも...“操作はいたって簡単”...“ソフトウェアーは単

純”...“デバイスを作るのも・・・比較的容易”...というわけです」

「うーん...いいことずくめのようですが...こんなものが、実現するのでしょうか?」

「まあ、そうらしいですねえ...

  これも量子コンピューターですから、もちろん、それほど容易ではないと思います。“BEC/ボ

ーズ・アインシュタイン凝縮”を、実験ではなく、【量子工学】として応用投入するのも初めての

ことです...まあ、“量子情報科学”スタートし、【量子工学】も始まったばかりですが...」

【量子現象】はこれまで...」淡島が言った。「工学的応用不可能と考えられてきました」

「そして...」高杉が、うなづいた。「つい最近...《量子情報科学のスタート》...となったわけ

です...                                      ・・・・・・<詳しくは、こちらへどうぞ>

  現在は、ともかく...“ニュータイプ/量子コンピューター”が...作動するかどうか、可能性

を調べている段階です。“開発中の既存/量子コンピューター”が、“エラーが起こりやすい”

という欠点があり...“開発は踊り場の状況”で...新風を送り込みたい所だそうです」

「ええと...」茜が、高杉を見た。「“エラーが起こりやすい”...わけですね?」

「そうです...

  コンピューターとしては、“致命的な欠点”とも言えます。このために、少なからぬ物理学者が、

“量子計算・・・の実現性そのものを・・・疑問視”...しているということです

「ふーん...お手並み拝見ということですか...」

「現在...

  私たちが使っている、コンピューター・メモリーは、“10年間の連続運転で・・・たった1度・・・

エラーが起こるかどうか”...という精度だと言います。つまりエラー確率は、実質的に無視

きるといいます」

「はい...」

「しかし...

  “現在開発中・・・既存/量子コンピューター”では...“データを記録する量子状態が・・・

きわめて不安定”...なのだそうです。それは...“周辺環境からの・・・ごくわずかな影響で

も・・・容易に変化する”...するからだそうです」

「うーん...

  【量子現象】は...“量子/開かずの扉の中”...の、吹けば飛ぶような...非常に、微妙

な現象だということですね」

「その通りです...

  この問題は...“デコヒーレンス/量子デコヒーレンス”(量子系の干渉が、環境との相互作用によって、失わ

れる現象)と呼ばれるわけですが...“技術的な・・・最大の壁”...となっていると言います。その

ために、“真空容器/電磁トラップ”などが開発されているわけですが、決定打となる技術は、ま

確立はされていないようです」

“量子デコヒーレンス”とは...」淡島が、肘を立てた。「量子世界で起こる...“状態の・・・重

ね合わせが・・・壊れること”...なのです。

  “シュレーディンガーの波動方程式”で表される“波”は...“いくつかの状態が・・・重ね合わ

さって並存する状況”...を意味するわけです。しかし...“その状況は・・・周りの環境の影

響で・・・たやすく壊される”...のです...」

「はい...」茜が、淡島にコクリとうなづいた。「外部環境で、容易に壊れる...ということですね」

「そうです...“きわめて不安定で・・・わずかな影響でも・・・変化する”...わけです」

「はい...」茜が、まばたきしてうなづいた。「そんな【量子現象】で、コンピューター・デバイス

作ろうというわけですね、」

「そういうことですねえ...まあ、出来れば、超高速・量子演算可能になります...」

「...」

                     

 

「ええ...」高杉が言った。「いいですか...

  この“量子コンピューター”の、“量子デコヒーレンス”問題対処する方法は...2つありま

す...」

「はい...」茜が、髪を耳の後ろに撫でた。

@つは...

  “既存/量子コンピューター”を...環境からできるだけ遮断することです。そして、“量子デ

コヒーレンス”影響を排除し...量子計算確立する道です。

  そして、Aつ目は...“量子デコヒーレンス”を、味方につける方法です...」

「うーん...」

「まず、@つ目ですが...

  “既存/量子コンピューター”は...“電磁トラップ”などで...量子デバイス環境から遮断

することに、非常に腐心しています。

  くり返しますが...これが主流だという方法は、今も確立していないようです。【量子工学】

“脆(もろ)さ/危(あや)うさ”は分かっていたわけですが、まさに、“最初の難関”に、激突している状

況です。

  さて...Aつ目方法ですが...これは、搦め手(からめて: 城や砦の裏門、相手が注意を払っていない所)

から攻める方法です。“量子デコヒーレンス”を、逆に、味方につける方法です。これが、実は...

“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”...がとっている方法になるのだそうです」

「うーん...」茜が、そっと腕組みをした。

“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター”...が動作している時...主システムとしては、

“乱雑な高エネルギー状態から・・・低エネルギー状態へ・・・移行して行く・・・”...わけです

ね。そして、その仕事を行っているのは...“外部環境/温度変化”...なのです」

「ええと...つまり...

  “不満度シミュレーター”は...“冷却すること”で...“チームわけの解答”が、得られるわ

けですよね。“冷却する”ということは...環境を遮断しているのではなく...環境を利用してい

る...というわけですね?」

「そうです...

  もし...“ニュータイプ/BEC・量子コンピューター/不満度シミュレーターを...環境

ら切り離して孤立させたら...システム全体のエネルギー増減せず...何も作動しないことに

なります。

  つまり、“BEC・量子コンピューター”は...“量子デコヒーレンス”味方につける方法で計

する...“量子コンピューター”...というわけです」

「うーん...」茜が、頭を横に沈めた。「...“不満度シミュレーターですか...

  もう1つ、分からないのですが...ともかく、デバイス環境から遮断する必要はないわけです

ね。それなら、携帯電話のように...ポケットに入れて持ち歩くことも...不可能ではないという

ことですか、」

「そうですね...

  こういう...全く別の発想量子コンピューター考案され...研究開発が進んでいるという

ことです。期待して、見守って行きましょう」

「はい...」茜が、うなづいた。

「ええ...」高杉が言った。「私たちは...

  《当ホームページ》で...“文明の折り返し・・・反・グローバル化”を、提唱しています。そし

て、その具体策として...〔人間の巣/未来型都市=自給自足農業型・半地下都市〕...を

提唱しています。

  しかし、私たちは...文明の進展/繁栄を、否定しているわけではありません。むしろ、生態

強調した、“文明の第3ステージ/意識・情報革命の時代”を、招来したいと考えているわけ

です。

  【量子情報科学/量子工学】は...そうした次世代テクノロジーの...“主要なツール(道具)

になる事を、期待しています...」

「はい!」茜が、両コブシを握り、コクリとうなづいた。

 

        wpeA.jpg (42909 バイト)            

「秋月茜です...

  長い間、ご静聴ありがとうございました。このページはこれで終わります。

“量子情報科学”、そして“量子工学”というものが、いよいよ面白くなりそう

です。どうぞ、次の展開にご期待下さい!」

 

 

 

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