My Work Stationgroup C量子情報科学量子情報科学のスタート

   wpe5B.jpg (113373 バイト)    量子情報科学のスタート     

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 トップページHot SpotMenu最新のアップロード         担当 : 塾長 / 高杉 光一 里中響子

     wpeA.jpg (42909 バイト)  INDEX         完全リニューアル ・・・・・  推敲 (2007. 6.14)  index292.jpg (1590 バイト)

プロローグ   2003. 2.21
No.1 1〕科学技術文明の基盤・・・量子力学 2003. 2.21
No.2 〔2〕 量子もつれ 2003. 2.23
No.3           ≪量子もつれ≫ 2003. 2.23
No.4           ≪量子テレポーテーション≫  2003. 2.23
No.5           ≪量子テコンピューター≫ 2003. 2.23

 

 参考文献 日経サイエンス

                2000年6月号  量子テレポーテーション A.ザイリンガー (ウイーン大学)

                2003年2月号  量子情報科学への招待 M.A.ニールセン (クイーンズランド大学)

 

  プロローグ           house5.114.2.jpg (1340 バイト)        

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  高杉は、ポケットに片手を突っ込み、《My Work Station=情報発信ルームに入

った。作業パソコンの前で、行儀よく座っているミケの方に目を投げた。それから、天井を

見、ゆっくりとスチールの椅子の1つを引いた。椅子に腰を沈め、もう一度、天井と部屋の

中を見渡した。中は十分に広く、壁の一面には、大型の液晶スクリーンがある。

  ミミちゃんが、フラリとその辺からやって来た。高杉の向かい側の椅子の1つに、チョン

と飛び乗り、耳を揺らした。高杉は、満面に笑みを浮かべ、小さくうなづいた。響子も、麦

藁帽子とスケッチブックを窓際の机に残し、ノートパソコンを作業テーブルに移した。

「やあ、」と、高杉は言った。

「あ、おはようございます...」響子は、ミミちゃんの横の椅子を引いた。

「大型スクリーンは使わないのかね、」

「はい。量子情報科学というテーマでは、迫力のある画像もありませんでした」

「そうだな。まだ、データもほとんどないわけだ...」

  高杉は、固定カメラに、赤い光が点滅するのを見た。ブロードバンドでの放映開始の合

図だった。

「さて、始めますか...」

「はい」響子が、うなづいた。

 

  〔1〕 科学技術文明の基盤・・・量子力学 

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「ええ...《人間原理・ガイア塾》・塾長...高杉光一です...

  さて、今回は、非常に難しい内容になるので、マチコでは無理だと思い、里中響子さん

に来てもらいました。響子さん、よろしくお願いします」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。でも、塾長、量子情報科学の話など、私にでき

るのかしら、」響子は、ノートパソコンをまっすぐにし、液晶モニターを立てた。

「まあ、私たちは、そこで最先端科学研究に従事しているわけではありません。その

先端科学の風景を、21世紀の日本文化として、伝えるのが仕事です。したがって、むし

ろ、ごく普通の一般人としての視点・感覚がいいのです」

「はい。そういうことでしたら...」

「ともかく、量子情報科学というのは、これから始まる新しいパラダイムの科学と考えた

方が良さそうです。したがって、理解するというよりも、そこに入り込んでみて、その中の

風景に接していくことが、第一歩だと考えています」

「はい、」

「そうですねえ...

  ともかく、新しいパラダイムは、旧来のパラダイムで、理解できるものではありません。

そこに、“新しいステージ”/“新しい窓”/を、開拓していくものと考えた方がいいわけで

す。しかし、とは言っても、これは20世紀初頭に開花した、量子力学の延長線上にある

ものです。

  ただし、その人間存在のパラダイムをも揺り動かした、20世紀初頭新しいリアリテ

ィーが、あまりにも斬新であったために、科学の哲学が、それに付いて行けなかったとい

う印象を受けます。しかし、シンクロトロンや、陽電子リングのような大型加速器の発達

で、素粒子の世界は大きく解明されて来たわけです...

  しかし、どうも、この量子力学の科学哲学は、一般には、それほどには浸透しなかった

ように思います。また、科学全般の哲学も、相変わらず旧来のパラダイムの中に、居残

っていたのではないでしょうか...」

科学全般の哲学が、でしょうか...」響子が、ノートパソコンから顔を上げ、首を傾げた。

「そうです...

  科学哲学ばかりではないですねえ...私はその方面の専門家ではないわけですが、

ともかく感じるのは...量子力学黎明期の、新しいリアリティーの波が、あまりにも斬新

だったということかも知れません。ほとんどの人は、それに追い付いていけなかったので

はないでしょうか」

「はい...」

「ところで...

  私は、そうした新しいリアリティーは、禅的な感性と共通するものがあると思っていま

す。まあ、そこで、マチコではなく、私と一緒に禅の修業をしている、響子さんに来てもらっ

たわけです」

「ああ、はい...そういうことだったんですか、」響子が、コクリとうなづいた。

「そういうことです...」高杉は、天井を見上げた。「現代物理学というのは...

  東洋思想と似ている、と言われます。西洋合理主義を確立したデカルトニュートン

が、近代科学のパラダイムを切り開いてきたわけですが...量子力学が始まると、どう

もそれが、感覚としては、東洋思想神秘主義の方にブレて行くことになったようです。

そこで、一般的には、科学哲学が行き詰まっていったのかも知れません...」

「はい...」

「何と言ったらいいのかな...」高杉は、窓の方を見た。「むろん、私は...

  大きな口を叩ける立場にはありませんが...新しい科学の領域に、新しいリアリティ

が入ってきたわけですね...それを理解するのは、例えば、禅の修行して、悟り”

得なければ、知るのは難しいような哲学になって来たのかも知れません...」

「うーん...はい...」響子は、唇を引き結んだ。

「まあ、こうしたことも、そのうちに少しづつ、話していくことにしましょう...

  ただ、ここで1つ指摘しておくと...日本においても、いわゆる科学の専門家は、こう

したニューサイエンスへの流れを、危惧していると言われます...そうした専門家は、

学の伝統に縛られているとも言えますし...悪く言えば、頭が固いのかも知れません。

  一方、私のように、縛られるものの全く無い風来坊は、こうした未知ニューサイエン

や、超個性や、東洋思想仏教思想を好むわけです...まあ、好きなことが言える立

場にあるわけですね...」    

「うーん...はい...」響子は、口元を崩し、ミミちゃんの背中に手をやった。

「まあ、マチコにも、ブラリと見に来いと言ってあります。ポン助君にも、ビールの出前を頼

んでおきました。二人とも、最近始めた商売の方が面白いようですが、一杯呑むという話

なら、すっ飛んでくるでしょう」

「ホホ...」響子は、口元に手をやった。

「さて...」高杉は、ミミちゃんの方を見た。「ミミちゃんも、よろしく頼みます」

「うん!」ミミちゃんが、しっかりとうなづいた。

  ミケが、退屈そうに、のっそりとパソコンの横から動き、植木鉢の横へ行った。

「ミケには、“シュレーディンガーの猫”の役をしてもらいます...シュレーディンガーとい

うのは、波動方程式の発見者ですが、これも後で説明しましよう」

「はい、」

「まあ、その前に、ちょっと説明しておくと...

  量子力学/波動力学の成立は、ちょうど同じ時期に、2つのアプローチによって成立し

たのです。1つは、ハイゼンベルクの量子力学で、“行列力学”と呼ばれているものです。

もう1つは、シュレーディンガーの波動方程式による量子力学で、これは“波動力学”と呼

ばれています」

2つ、あったわけですね、」

「そうです。2つとも、全く別の数学を使いながら、うまく電子の軌道風景を説明していま

す...」

「はい...」

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「さて...本題に入りましょう」

「はい、」

「かつて私たちは...

  電磁波“波”であり、また“粒子”でもあると言われ...その“相補性”の概念に、頭

を悩ませまてきました...それは、波として見れば“波”であり、粒子としてみれば、確

かに“粒子”だという、“二重性”です...しかし、その“波”“粒子”の姿を、同時に見る

ことはできないというわけです...」

「うーん...電磁波は、波と粒子の二面性を持つという話は、聞いています。肝心なの

は、その二面性を、同時に見ることはできないということですね」

「そうです。そして、この“二重性”というのは...言い換えればこういう事になります。

 

  “主観”を用いて...私が粒子か、どちらかに決めて見れば...

    その望みの姿に見せましょう...ということなのです。

 

  しかし、こんなバカな話があるのでしょうか...私が波と決めて計測すれば、確かに

波...私が粒子としてカウントすれば、それはまぎれもなく粒子...こんな、気のいい

奴がいるものでしょうか...まさに、手品のような話ですが...そのどちらも、“まぎれも

ない真実”だということです。

  それも、尋常の話ではありません。私たちの科学技術文明の基礎となる、最も厳格な

現代物理学において、それはまぎれもない真実だと、証明しているわけです。まあ、

元論的な言語構成や、合理主義的な科学哲学に慣れ親しんできた私たちには、感性

しては納得のできるものではありません。しかし、この“二重性”から、量子力学は誕生

て来たわけです...」

「はい...」響子は、まっすぐに高杉を見つめた。

「こうした所から、この学問領域が、非常に難解なものになってきたわけです...

  いわゆる、これまでの科学的二元論では、非常に解釈しにくいものになっていったの

でしょう。何故、こんなことになったのか...それは20世紀初頭に始まった、量子力学

いう新しいパラダイムに、新しいリアリティーが入ってきたためです」

「はい」

「繰り返しますが...

  こう言っている私も...この世界観を、完全に理解しているわけではありません。こうし

て一緒に話しながら、その外郭線をたどっているようなものです...

  量子力学は、正式には1925年に誕生したとされていますが...私は、ハイゼンベ

ルク“行列力学”の計算式を見たこともないですし、シュレーディンガー“波動方程

式”にも、実際にはお目にかかったことがないのです...まあ、物理学者になろうと思っ

たこともないわけですがね」

「はい...それは、よく分かっていますわ」

「ともかく...

  量子力学においては...“客観性/客体”ではなく、“主体性/主体”というものが、

クローズアップしてきます。“波”として見れば波、“粒子”として見れば粒子という、その

“主体性”座標が、非常に重要になってくるのです。これは、そもそも座標のあり方の

問題なわけです」

「はい、」

「そして量子力学では...

  ここで新しい概念として、“参与者”というものを登場させることになるのです。もちろ

ん、こうした学問的な深い意味というものを、私は特に研究したことはありません。しか

し、これはでいう所の、“唯心”のような概念ではないかと考えています」

「はい、」響子が、微笑してうなづいた。

「よくよく、突き詰めて考えれば...

  主体客体とは、本来別々のものではないのです。全ては、“私という主体”が見た、

“この世”の風景なのです。それらは、唯一の、たった1つの全体としてあるのです...

部分というもののない、全体なのです...

  “この世”というのは、“1”であり...ただひたすら、それだけなのです...それが、

真実の風景なのです...物の寄せ集め/部分の集合のように見えるのは、私たちが

を付与し、分断してきたからなのです」

「はい...禅的な解釈ということなら...それは分かります」

「まあ、 20世紀初頭...

  時代はニュートン力学の、“絶対性/絶対時間・絶対空間”から...アインシュタイン

相対性理論に象徴される、“相対性/相対時間・相対空間”へと、パラダイム・シフト

たわけです...しかし、相対とはそもそも何なのか?その解釈が、また大問題になった

わけです」

「...」

“相対性”という概念のもとでは...

  そもそも、“観測という行為”において...“事実”も、“観測者も存在しない”...そこ

にあるのは、“その2つを合わせたものが存在するのみ”と言うことになるようです...」

「はい...そもそも、“リアリティー”とは...“眼前する、分割することの出来ない、唯一

の全体”ということですね...つまり、“この世のナマの風景”ということですよね...ま

さに、“今、見ている眼前の風景”ということですよね、」

「そうです...物理空間ではなく、“この世のナマの風景”です...

  そして...物理空間においては...最初の分割で、時間空間が生まれます。この

2つのパラメーター(媒介変数)から、物理学が生まれたということでしょう...したがって、

物理学は、時間座標空間座標によって記述されています...そして、これは仮想空

ですね...時間そのもの、空間そのものが、仮想なわけですが...

  一方で...認識主体のあやつる“言語”が、リアリティー無限に分割して来たわけで

す。“名詞”が、リアリティーからを切り出し、言語世界に非常に多くの物質を作り出し

て来ました。また、“形容詞”がそれを修飾し、“動詞”がそれらを動かし...“ストーリ(物

語)が生まれ...“言語的亜空間”に、人類の文明を構築して来たわけです。これが、い

わゆる私たちの、文明社会の、日々の風景なのです...」

「はい...その中に、物理空間もあるわけですね、」

「そうです...」

  響子が、黙ってうなづいた。

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「かつて...」高杉が言った。「釈尊仏教は、インド大陸を席巻しました...

  “智慧(知恵)の宗教”として出発した仏教が、非常に優れた素晴らしい宗教だと言うこと

は、大陸の誰もが一致して認めるところでした。しかし、大多数の民衆が出家し...大多

“悟り”を得るということは、まさに不可能に近かったわけです。それで、仏教が衰退

していったという経緯があります。民衆は、分りやすいヒンズー教に回帰していったので

す...」

「はい...

  付け加えると...“智慧の道”と言われる原始仏教に対し、キリスト教などは“信仰の

道”と言われますね。それから、日本の神社などの神道は、“儀礼の道”と言われます。

知恵と、信仰と、儀礼というように、宗教には3つのタイプの流れがあります」

「はい...

  ともかく、仏教“悟り”に至る道が非常に難しいように...量子力学の哲学を理解す

るのは、それ以後の科学者学者にとっても、非常に難解だったのではないでしょうか。

動方程式を発見したシュレーディンガーが、最も深く理解していたと聞きますが...それ

はまさに仏教の、“覚醒・・・悟り”にも似た風景のように思えます...」

「はい...」響子は、両手を握り締めた。

「私も今回、もう一度、じっくりと見渡してみたいと思っています...それから、責任ある

立場の科学者は、私のように、推測で好きなことが言えるわけではありません...この

ことを、くり返し断わっておきましょう」

「はい、」響子が、口元すぼめて笑った。

「まあ...ここらあたりが、まさに量子力学という学問の、不思議な風景の出発点です。

まずは、理解すると言うよりも、そうした奇妙なアイテム(項目、品目)を、一通り、眺めておい

て欲しいと思います。21世紀の基礎科学は、そんな所から出発していくわけです」

「はい」響子が、コクリとうなづいた。「この量子力学と、重力理論である一般相対性理論

が、現代物理学の基盤となっているわけですね」

「そうです」

 

                                                       

 参考文献 日経サイエンス

                2000年6月号  量子テレポーテーション A.ザイリンガー (ウイーン大学)

                2003年2月号  量子情報科学への招待 M.A.ニールセン (クイーンズランド大学)

 

  〔2〕 量子もつれ   wpeA.jpg (42909 バイト)   wpe89.jpg (15483 バイト)      

        index292.jpg (1590 バイト)           wpeB.jpg (27677 バイト) 

「ええと...」高杉が、窓の方から視線を戻して言った。「それでは...

  響子さんの要望に従いまして...量子情報科学における、“量子もつれ”について、

その周辺のことを、事前に簡単に説明しましょう。“量子もつれ”という現象については、

それから説明します」

「あの、」響子が言った。「高杉さん...

  量子力学と...量子情報科学は、同じ系列のものと考えていいのでしょうか?」

同じステージの上にあるものです...

  しかし、量子力学は、20世紀初頭のものであり、量子情報科学21世紀初頭のもの

ですね。約1世紀/100年の開きがあるわけです。今、まさに、新たに量子情報科学

いう名前を冠し、新しい飛躍の段階にあるわけです。

  特に、情報テクノロジーとしての、全く新しいステージの開拓が期待されています。こ

原動力になっているのが、これから話す“量子もつれ”という現象の、科学的確証と、

そのテクノロジーの革新的展開だということでしょう...

  本来の量子力学そのものは、現在、“標準モデル”重力理論一般相対性理論

統合を進めています。自然界に観測される4つの力のうち、“電磁気力”“弱い相互作

用の力”“強い相互作用の力”は、“標準モデル”で統合されています。最後に残ってい

るのが“重力”なのです。

  そうした中で、最も有力視されているのが、“ひも理論”とか、“超ひも理論”とか呼ば

れているものですね。当ホームページで取り上げている《M理論の窓》もその1つです」

「はい...量子情報科学は、そうした量子力学とは別に、報科学の方に特化した領域

いうことですね」

「そういうことです...

  さて...この“量子もつれ”という現象ですが...量子力学における、“基本的な奇妙

な性質の1つ”として、最近、正式にカウントされたようです。粒子と波の“相補性”や、

“不確定性原理”や、“参与者の導入”といった、量子力学独特奇妙な現象の1つとい

うことです。

  したがって、“何故だ?”、と聞かれても困ります。つまり、こうした現象が、まさに、私

たちの眼前に展開する世界で、“観測されている”と、科学的に確証されたと解釈してく

ださい。つまり、“この世の風景”で展開している、“理屈抜きの事象”...“物理的解釈

の1つ”として...カウントされたということでしょう...」

理屈抜き...ということですね?」

「まあ...

  理屈があるなら、それを追求するのが、物理学者の仕事です。しかし、全てが、理屈

割り切れるものではないし、説明しきれるものではないのです。

  例えば、“私”というものを、全て説明することなど、およそ不可能でしょう。しかし、この

相互主体性の世界では、それぞれの“私という存在”を、原則的にOKと認め合っている

とによって、社会性が成立しているわけです...つまり、そういうレベルの話です」

「ふーん...つまり、“量子もつれ”とは、量子力学における“不確定性原理”などと、同

じレベルの話だということですね、」

「そうです...

  しかし、実際のところ、“量子もつれ”の情報は、一般的にはまだあまり出回ってはい

ません。私も参考文献で、始めてこの言葉を知った程度です。その推理の上で話してい

ます」

「はい、」

「そうですねえ...

  “不確定性原理”と非常によく似た言葉で、“不完全性の定理”というのがあります。

“不確定性原理”は、ご存知のように、ハイゼンベルクが提唱したものです。一方、この

“不完全性の定理”というのは、数学者のクルト・ゲーデルが提唱したものです。

  この“不完全性の定理”によると...“いかなる包括的な論理体系も、自己矛盾せず

には証明できない前提を、必ず1つ以上は持っている”ということです...彼は、この

定理の中で、それを数学的に証明したわけです。これもまた、量子力学に、大きな衝撃

を与えたようです」

「うーん...」響子が、口に拳を当てた。

「まあ、それが具体的にどのようなことを証明したのか、私は知りません...

  しかし、当時の学会では、支持されています。したがってここでもまた、デカルト/ニュ

ートン“絶対性”というものが崩れ...科学哲学においても、“相対性”の時代に入っ

たと言われています」

「それは、何時のことかしら?」

クルト・ゲーデルが、この論文を発表したのは、1931年です。まさに、あの量子力学

黎明期においてです。まあ、これは数学的な証明だけに、大きな衝撃だったと思います

ね...」

「はい、」

“この世の風景”というものは...私たちの認識の鏡に、時間軸上に展開されて、スト

ーリイ性に解釈され、認識されるわけですが...それが真の姿というわけではないので

す...

  第一に、時間を超越した、直接的認識というものもあるわけです。明らかな予知や、

去知などがそうですね。また、空間を超越した、直接的認識というのも、確かに存在しま

す。透視などがそれです...

  すると、それでは、“この世の時空構造”とは、どうなっているのか、という問題になり

ます...謹厳な物理学者は、こうした問題は避けたいところでしょうが...さて、何時ま

でそんなことを言っていられるでしょうか...」

「そうですね、」

「また、“私”という主体性について...また、相互主体性世界の成立についても、完全

に説明されているわけではありません。リアリティーは、何故、“巨大な、唯一絶対の全

体性”なのか...

  こうした“認識主体”物理空間との矛盾が...具体的に、“量子もつれ”というような

奇妙な現象として、素粒子の世界に析出してくるのでしょう...“相補性”“不確定性

原理”も、そうなのかも知れません...

  つまり、物理空間も、一種の人間的なバイアス(偏向)のかかった仮想空間であり、1つ

の人間的な解にすぎないということです...」

「うーん...はい...」

「さて...肝心の、“量子もつれ”の説明をしましょう...」高杉は、椅子をずらし、両手を

組み合わせた。「いつまでも、脱線しているわけにはいきません」

「はい、お願いします」

 

≪量子もつれ≫

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「例えば...」高杉が言った。「“量子もつれの関係”にある、2個で1組のサイコロが、

かあると考えて下さい...それから、その各組のサイコロを、1個づつに分断し、2つ

のグループに分けます。ここまでは、いいですか?」

「はい...

  つまり、磁石のように、S極N極でくっついたサイコロのペアが、何組かあり...その

ペアを、別々にして、2つのグループに分けたということで、いいでしょうか?」

「そうですね、いい説明です...

  ただし、それは磁石でペアになっている関係性ではなくて、“量子もつれ”でペアになっ

ている関係性です...それを、切り離し、別々の2つのグループに分けたというアナロジ

(類比)です...」

「はい...」

「さて、そこで...

  その2つのグループのサイコロを、それぞれ別の場所で振るわけです...すると、どう

いう現象が起こるか...いいですか、ここが肝心な所です...

 

“量子もつれの関係にあるサイコロ”では、“同じ組のサイコロ”  は、

別々の場所において、何度振っても、同じ目が出るのです...>

 

  まあ、もしこんなことを、マジックで見せられたら、実に不思議なわけです...“量子

もつれのサイコロ”を両手に分けて持ち、一方のサイコロを振っていく。それから、もう

一方のサイコロを振りながら、その目をどんどん当てていくことが出来るわけです。しか

も、科学的に、厳密に、正確に言い当てて行けるわけです...」

「ほんとかしら?何故、そんなことが起こるのかしら?同じ組みのサイコロは、同じ目

が出るわけですね?」

「そうです。そして、量子情報科学というのは、この性質を応用して、新展開していくこと

になります。基礎科学から、量子コンピューターデバイス上へ、新展開していくことにな

ります」

「ふーん...でも、そんなことが、本当にあるのかしら?」

「まあ、“何故か?”とはは聞かないでください...

  つまり、それが、“量子もつれ”なのです。もし、マジックで、タネ明しをするとすれば、そ

れらのサイコロは、実は“量子もつれの関係”にあるんですよ、という説明になるわけで

す」

「うーん...」響子は、両手を組み、首を斜めにした。「何故かしら...?あ、ごめん

なさい...この質問は、ナシですわね...」

「いいですか...

  最初に振ったサイコロは、これはまあ1/6の確率で、ランダムに目が出ます。次に、

残った方を振ってみる。すると今度は、何度振っても、同じ目になる。と、まあ...こうし

た現象が、“量子もつれ”というわけですね...

  しかも、この現象は...もし一方が、約4億光年も離れた、アルファ・ケンタウリ星

あったとしても、“しっかりと成立する”と言い切っています。ここが、基礎科学のすごい所

です。空間に影響されないのです。距離に影響されないのです。そこに介在する相互作

の、力学が無いわけです...」

「あ...基礎科学において、そうだというわけですね...」

「そうです...だから、すごいのです。これが、つまり、“量子テレポーテーション”につな

がるのでしょう...」

「うーん...」

「では、何故、そんなことが断言できるのか...

  それは、基礎物理学における長年の研究成果から、“それは正しい”証明されたか

らです。むろん、現在の量子力学における話です。それが、“量子もつれ”という現象なの

です...電磁波が、“粒子”であり、“波”でもあるというのと同じように、それが事実とし

て観測されているということです。

  理屈ではなく、こうした現象が、キッチリと観測されていているということなのです。そし

て、それが、すでに“量子コンピューター”への応用の段階に入っている、ということなの

です...」

「はい...」響子が、唇にコブシを当てた。

とは言っても...これは量子世界での話です...

  実際には、このような大きなサイコロで、観測されているわけではありません。つまり、

“量子もつれ”は、あくまでも“量子世界の風景”なのです。ただし、量子の世界が、ナノ・

スケール人間・スケールマクロ・スケールに、全く影響を及ぼさないかというと、そん

なことはありません...

  粒子加速器などの高エネルギー物理学は、素粒子を極限まで加速し、マクロの宇宙

物理学と密接に関係しています。宇宙物理学ビッグバン理論などは、宇宙線やこうし

粒子加速器から、検証が進んでいるわけですから、」

「はい、」

「つまり、こうしたミクロの世界は、マクロの世界とは、全く別の世界というわけではない

のです」

「うーん...」          

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「余談ですが...

  現代物理学は、量子力学一般相対性理論ダブル・スタンダードだと言われます。

一般相対性理論重力理論なのですが...“標準モデル”に、この重力理論がうまく“く

りこみ”がてきないのです。

  したがって、ミクロ世界は量子力学が支配し、マクロ世界は一般相対性理論が支配的

だと言われています...それから、このミクロ世界マクロ世界の中間にあるのが、今

話題のナノ・スケールの領域です。これは、生物でいえば、DNAタンパク質のスケー

ですね。

  ちょうどこのあたりが、量子力学一般相対性理論の揺らいでいる、“境界領域”とい

うことらしいですね、」

「はい...」

「私は、専門家ではありませんが...

  面白いのは...ここはちょうど、“命のスケール”だということです。実際、今、応用分

野で話題になっているのは、“カーボン・ナノチューブ”などの実用化ですが、やがて膨大

な有機物がこの領域の研究分野に入ってくるでしょう。

  タンパク質や、糖鎖などの膨大な情報が、ナノ・テクノロジーに合流してくるでしょう。本

当の意味での、生物体の解明が始まることになります...」

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「高杉さん...」響子が言った。「このサイコロの話は、それでは量子世界では、実際に

起こっていることなのですね?」

「もちろんです...実際に起こっていることが、観測されているのです...

  原子イオン光子など、量子世界においては、“量子もつれ”は現実に起こっていま

す。それが、実験などで突き止められているわけです。こうしたことが実体化し、定量的

に観測され、それが体系化されてきたことで...“量子情報科学”という、1つのエキサ

イティングな学問分野が、立ち上がって来たのでしょう」

「はい...でも、世界観まで変わって来ますわ」

「その通りです...

  しかし、“そんなバカなことがあるか”思う人は、まず、真剣に考えてもらいたいと思

います。そう言っている...“私とは、いったい何者なのか...いったい、ここは何処で

あり...なぜ私は、ここに存在しているのか...”と...」

「そうですね...」

「私たちにとっては...

  “自分自身の存在”こそが、まず、この世界における最大の謎なのです。その、“自分

という不思議な座標”から、あらためて、21世紀の基礎科学のステージを眺めてみても

らいたいと思います。不思議といえば、全てが不思議な世界です。そうした不思議さに比

べたら、“量子もつれ”など、どれほどのものでしょうか...」

「はい...」

 

≪量子テレポーテーション≫   

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「さて、」高杉が言った。「つぎに、“量子テレポーテーション”ですが、これは“量子もつ

れ”という基本的な性質を応用します。色々なバリエーションが考えられるようですが、こ

のことについては、今後考察していきます...これには、時間的熟成が必要です...」

「はい...」

 

≪量子テコンピューター≫

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“量子テレポーテーション”技術の応用で、最も実現性が高いのが、“量子コンピュー

ター”です。

  これは、“量子もつれ”“光子の偏光”が、縦偏光横偏光“重ね合わせ”で表現

でき、“量子ビット(キュービット)といいます。現在考えられているは、“量子コンピューター”

における、この“重ね合わせ”が、1つのポイントのようです...」

「うーん...よく分りませんわ...」

「まあ...これだけ言っても、何のことか分からないと思います...

  これも後で、詳しく考察していくことにします。また、今後の量子情報科学の展開で、

少しづつニュースのような形で、私たちの耳にも入ってくると思います...」

「はい、」

「これからは、社会のあちこちで、今言ったような耳慣れない言葉を聞く機会が増えてくる

と思います。しかし、一度に全てが理解できるわけではありませんし。少しづつ、21世紀

の基礎科学として、未来の科学文化として、量子情報科学を吸収していって欲しいと思

います」

「はい!

  今、まさに、新しい科学時代が動き出そうとしています。どうぞ、今後の展開に、ご期

待ください...」

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