My Work Stationgroup C量子情報科学量子もつれとベルの定理

     【量子もつれ】   【ベルの定理】    


              科学における・・・最も深遠な発見!   

        局所性/局所原因性 というものが ・・・ 成立しない世界とは?  

                                

                   関 三郎         マチコ                             響子         高杉 光一        江里香

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                                        担当 : 高杉 光一

   INDEX                                  

プロローグ      それだけで存在している、部分というものが・・・あり得ない世界     2009. 5.18
No.1     科学における最も深遠な発見 2009. 5.18
No.2 〔1〕 量子もつれ・・・この非局所的作用とは? 2009. 6. 6
No.3    もつれている粒子・・・> 2009. 6. 6
No.4 〔2〕 “E.P.R.の思考実験”【ベルの定理】 2009. 6.19
No.5    <湯川秀樹・博士の・・・中間子論> 2009. 6.19
No.6    <もう1つの論文/長い題名の論文> 2009. 6.19
No.7    E.P.R.の思考実験とは・・・> 2009. 6.19
No.8         E・P・Rの思考実験 2009. 6.19
No.9 〔3〕 歴史的な経緯/・・・新展開・・・  2009. 7.17  
No.10    <小休止> 2009. 7.17
No.11     =この世の超媒体=・・・命/人間原理のファインダー 2009. 7.17
No.12     <歴史の点描・・・・・> 2009. 7.17
No.13    <物理学者= J.S.ベルの、定理とは・・・> 2009. 7.17
No.14 〔4〕 【ベルの定理】を・・・別の角度から、もう1度! 2009. 9. 8
No.1    E.P.R.の思考実験に対し、

                    
J.S.ベルが問いかけたものは?
2009. 9. 8
No.1    ベルの定理の・・・数学的証明 とは!> 2009. 9. 8
No.1    量子もつれ=電子から・・・ 量子もつれ=光子へ> 2009. 9. 8

   

  参考文献  日経サイエンス /2009 - 6 

                   量子もつれが相対論を脅かす

                                D.Z.アルバート (コロンビア大学)

                                R.ガルチェン   (コロンビア大学)

                   パラダイム・ブック

                                           C+Fコミュニケーションズ 編著/日本実業出版社

 

  プロローグ                 

    それだけで存在している、部分というものが・・・あり得ない世界

 

         wpe4D.jpg (7943 バイト)      
 

「ええ...塾長高杉光一です...

  ここは...《航空宇宙基地・赤い稲妻》/ シンクタンク=赤い彗星ビル・3F/第2イン

ターネット・オープンルームです。これから、ここで、《量子もつれと、ベルの定理の考察を開

始します。

  隣の、第1インターネット・オープンルームの方では...これまでに引き続き、〔人間の巣〕

の考察が進められています。現在、研究と準備作業が続いていますが、近いうちにオープンに

なると思います」

 

「さて...今回の【ベルの定理】というのは...

  簡単に言えば...“局所原因の原理を否定している・・・”というものです...つまり、“現象の

原因が・・・ 現象そのものの中にはない・・・”ということです。これは、これまでの人間の直観とし

ては、非常に奇妙なコトを示しています。まあ、これはもちろん、量子世界での話です。

  ところが、いよいよそれが...量子世界だけでは収まり切れなくなって来ました。1980年代

初頭以降実験結果から、“量子もつれ”が承認されたからです。これは、“不確定性原理”や、

“相補性”などと同じように、量子力学の基本的な概念の1つになったということです。

  そして、21世紀に入った現在、この“量子もつれ”/“量子力学の物理的非局所性”が、実際

“量子コンピューター・デバイス”の中に組み込まれる段階になって来ました。つまり人間サイ

の、コンピューターへの組み込みが始まるということです。

  したがって、“非局所性の影響”は...量子世界を超えて人間のサイズに、そしてマクロの世

へも波及して行きます...そして一方、私たちの前に、“眼前する世界/リアリティー”もまた、

“非局所性・・・切れ目のない、1つの全体世界”なのです。

  それゆえ、この【ベルの定理】は、“科学における最も深遠な発見!” と言われているものな

のです」

 

「ええと...話がややこしくなって来ましたが...

  【ベルの定理】は、角度を少しずらして言うと、“世界の中に、それだけで存在している・・・部

分というものはあり得ない・・・”ということに、なるのです。“局所性/局所原因性という考え方自

体が・・・そもそも、成立しない世界観・・・”ということになりますかね。

  これが、どうやら、“私たちの存在している世界・・・”ということになるようですねえ。しかも、こ

れは数学的証明だと言いますから、科学的にも確かなようです。

  そうですねえ...これは科学を越えた、この世界の全認識...“主体性の発現/・・・主体性

の鏡に映った全世界”というものと、深く関係してきます。

  量子力学は、エキゾチック(異国的、異国情緒のある)な風景と言われます。つまり、“相補性(/光の波

動性と粒子性など)“不確定性原理”、そして“量子もつれ”などが、【ベルの定理】と深く関係して

来るようです」

 

ボーアの、“相補性”の考えを強く打ち出したのが、“量子力学のコペンハーゲン解釈”の重要

な点だと言われますね...そして、これに反対したのが、アインシュタインです。彼は、科学

おいて、いわゆる、“客観性が損なわれることを嫌った”わけです...

  しかし...よく考えてみれば...この世界は、“私/主体の鏡”に映し出された、“巨大な1

つの主体的風景です...主体が、上下左右360度を見回しても、何処にも子午線赤道のよ

うな、切れ目というものはありません。見事につながった、1つの全体世界です。

  さて...この“主体の鏡にスッポリ入った世界”に、何処に客観性などがあるのでしょうか。そ

“主体の鏡に映る風景”を...現実に分け...時空間座標に配置し...歴史ストーリイ

絵巻/相互主体的・時間軸解釈/人間的記憶を構造化しているのが、いわゆる【人間原理】

のでしょう...

  うーむ...そこには、“微妙な感情の流れだす泉”があります...その感情は、ストーリイ

色彩芳香を添え、高度な奥行きのある芸術性を育む場ともなっています...そして、この抽象

な、無上の価値観こそが...文明が形成されて行く真の意味なのかも知れません...

  まあ、私たちの、知性の及ぶ範囲では...ということですが...」

 

「ところで...

  私はかねてから、この【ベルの定理】に興味を持ち、注目してきました...しかし、ご存知の

ように、私は理論物理学者ではありません。専門分野を持たない、風来坊の“なんでも屋”です。

哀しいかな、その数学的定理が、いったい何を扱ったものかは知らないで過ごしてきました。

  ところが...今回の“参考文献”に接し...それが“量子もつれ”を扱ったものであり、アイン

シュタイン(1879〜1955年)ボーア(1885〜1962年)の論争の、延長線上にあるものだったことを知

りました。

  この【ベルの定理】/論文が発表されたのは、1964年です...すると、当のアインシュタイ

ボーアも、この時点ではすでに他界していたわけです。“神はサイコロを振りたまわず”と、く

り返し言っていたアインシュタインの、コメントを聞きたいものです。むろん、彼は宗旨(しゅうし)

自分の主義は変えなかったでしょうが...

  それから...ええと...【ベルの定理】を発表したJ.S.ベルは、アイルランド人ですね。

ーロッパ原子核研究所/CERN物理学者です。CERNは、スイス/ ジュネーヴ郊外にある、

界最大級の素粒子物理学研究所です」

 

科学における最も深遠な発見 

             

「先ほども言ったように...

  【ベルの定理】は、“科学における最も深遠な発見とされています。しかし、実際の科学

技術文明の中では、浮いた存在になっているようです。それは、第1には、“内容が難解”である

ということがあります。

  そして、2つ目は...“局所原因の原理は間違っている・・・”、と数学的に証明されても、“そ

れが、どのように間違っているのか・・・”、が分からない点にあります。こうした事はよくあるわけ

ですが、そのために、研究者の間でも意見が統一されていないようです。

  そうした取りつき難い事情のために...ほとんどの科学者は、いまだに還元主義/機械論的

な態度で、研究を展開しています。そして、【ベルの定理】棚上げにされてきたわけです。まあ、

こうして、現代・科学技術文明が構築されてきたわけですが...はたして、この耐震基準/構造

的強度はどうなのでしょうか...

  私たちの一般社会では、なおのこと....“量子力学のコペンハーゲン解釈”などは、難解

ものとして遠ざけてきたわけです。旧来のパラダイムで、直観的に理解できる風景の方がラクな

わけですから...時空間のストーリイ的解釈/歴史ストーリイ的・文明の展開の方が、居心地

がいいとして...

  それはまさに...量子力学相対性理論よりも、旧来パラダイム/ニュートン力学の方が、

直観的で分かりやすく、居心地がいいのと同じですね。しかし、旧来パラダイムでは、核エネル

ギーも取り出せなかったし、現在の電子工学・光工学も生まれてこなかったのです...」

 

「しかし、人類文明は...

  “文明の第1ステージ/農耕・文明の曙”...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”

を経て...今まさに、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代の幕が上がろうとしていま

す。

  “文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の時代は...覇権主義/資本主義/競争社

の中で疲弊し...まさに、超新星のような最後の輝きを放っている状況です。そして、その後

に来るのが、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”ということです...ここでは、“物の領域”

“心の領域”再統合からくる、パラダイムシフトは必至です」

 

「しかも、その、“文明の第3ステージ”というのは...

  どうやら、それほど単純なものではないようです。コンピューターの爆発的な発達や、ヒトゲノ

ムの解読などが起爆剤になっていますが、ともかく、それがネットワーク化したことが大きいです

ね。

  さらに、“量子力学の・・・物理的非局所性の拡大”から垣間見えてくる...“物の領域と心の

領域の再統合”の方向性が本格化して行くと...現在のパラダイムからは、遠望できなくなりま

すね。つまり、本格化して行くと、想像を絶した風景に変貌して行くことは確実です。

  “文明の第1ステージ/農耕・文明の曙”の時代には...“文明の第2ステージ/エネルギー

・産業革命”象徴/・・・核エネルギーが、想像できなかったのと同じです。 

  現在、そうした巨大エネルギーは、長期的には無用となりつつあります。そして、微細で濃密

情報エネルギーに移行しつつあります...これは、“自然界・・・生態系”を見れば、一目瞭然

のことです。

  大自然物理的・化学的エネルギー巨大なものですが...生命体・生態系のエネルギー

は、はるかに繊細で、濃密で、高度なものなのです...」

 

「さて...

  いよいよ棚上げにされていた、【ベルの定理】再登場です。早すぎた登場だっただけに、い

よいよ時節到来という所でしょう。

  この、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”入り口/橋頭保(きょうとうほ)で...最初の飛

躍の要因となるものが、“量子もつれ”であり...それを実装するのが、“量子コンピューター”

あり、“量子通信”などです。

  この、“量子もつれ/・・・量子力学の物理的非局所性”が...“私/主体/心の領域”との、

親和性/統合性/整合性を深めて行くのでしょうか。また、このことが、新しい文明のステージ

を、急速に耕して行くことに、なるのでしょうか...」

 

                     

「さて...」高杉が、椅子の下に手を伸ばし、ミケをすくい上げた。「前置きはこのぐらいにして、

本論に入るとするかね」

「はい...」響子が、髪留めクリップに手をやり、入口の事務机の方を眺めた。マチコと江里香

が、コーヒーの準備をしながら話し込んでいた。

「マチコ!」高杉が、ミケの頭をなでながら言った。「先に、コーヒーを飲むのか?」

「あ、そうですよ!」マチコが、作業テーブルの方を眺めた。

 

  江里香がコーヒーを載せた盆を運んできた。ポン助が窓から外を見ていた。開け放った3階

の窓から、5月の草原の薫風が吹きこんでいる。遠くに航空管制塔がぽつんと見えた。その前

を、ヘリが1機滑空して行く。

  ・・・おそらく、ブラッキーな・・・高杉が、心の中でつぶやいた。・・・多分、《軽井沢基地》に機

材を運んで行く定期便だろう・・・

《危機管理センター》では、」高杉が、コーヒーを一口飲んでから言った。「小型モニター類の更

新を進めているようだが...あれもそうかね?」

「はい...」響子が目を細め、山の方へ上昇して行くヘリを眺めた。「ここの、《中央監視センタ

ー》は、一応完了しました。あれは、《軽井沢基地》の機材と、新しいプロジェクターですわ」

「夏の準備か...」高杉が、ミケをそっと放り投げた。「もう、そんな季節になったわけだ...」

「はい...」響子が、にっこりと笑った。「今年の軽井沢の夏は、どんなかしら?」

「おそらく、選挙一色になるだろう」

  響子が、小さくうなづいた。

               

「誰か...」関三郎が、コーヒーカップを口から離して言った。「小型ヘリを飛ばしてますね。ずっ

と遠くです...」

「ああ...」高杉も、東の草原の上に、トンボのような小型ヘリが浮かんでいるのを認めた。「管

理部の者だろう...はは、いい景色だろうな...」

「そういえば、早朝、」関が言った。「山菜取りの人が、マムシにかまれたとかで騒いでいました」

「ええ、」響子がうなづいた。「それは聴いていますわ」

「まさか、ヘリでマムシ退治でもあるまい」

「そりゃ、そうですが...あのあたりですよ。東の谷川の谷地(やち/低湿地)だということです」

「後でさあ...」マチコが、横でコーヒーを飲んでいる江里香に囁いた。「ヘリコ君に、乗せてもら

おうか?」

「あ、はい!」江里香が、コーヒーカップを握りしめた。「でも、大丈夫かしら?」

「ヘリコ君は、大丈夫!」マチコが、コーヒーを飲み干した。

  〔1〕 量子もつれ・・・この、非局所的作用とは?

                 

 

「ええ...」響子が、窓から入る薫風を顔に受けて言った。「“量子もつれ”については...

  このページの上流に位置する、《量子情報科学のスタート 》に始まり、すでに基本的なこと

は説明しています。それから、“量子もつれ”工学的応用については、まさに、次世代テクノロ

ジーになるわけですね。

  “量子コンピューター・デバイス”への、組み込み/実装については、《量子コンピューターの

概略》で、すでに考察を開始しています。開発の真っ最中という状況ですから、関係論文は、今

後も続々と登場して来るでしょう。当ホームページでも、順次、考察を《企画》していく予定です」

  響子が、マウスでモニターをスクロールした。

「したがって...ここでは...

  “量子もつれ”の、“量子コンピューター/量子通信”への組み込み/実装の話ではなく、その

“背景哲学の話”...“論理的対立の話”...“歴史的経緯の話”などになるかと思います。とも

かく、“次世代を担う・・・科学哲学を含んだ話”になりますので、私たちも緊張しています」

 

「ええと...」響子がほつれ髪を押さえ、高杉の方に顔をかしげた。「高杉・塾長...

  まず...最も基本的なことですが...“局所性”“非局所性”とは、どのように違うのでしょう

か。その辺りから、説明をお願いします」

「うーむ...」高杉が、作業テーブルの上で両手を組んだ。「そうですねえ...

  有史以来の人類文明で...その社会ストーリイ性の根幹にあったものは...“因果的・連鎖”

の流れです。これは、簡単に言えば...“物の領域においては・・・物は隣接した物にだけ・・・直

接の影響を及ぼし得る”...ということです。

  ここでは、それに対立する“心の領域”は、脇に置いておくことにしましょう。いずれ、“物の領域”

“心の領域”との、統合の話になりますから」

「はい」

「さて...いいですか...

  直接に隣り合っていないのに...に影響する場合...この効果は、間接的なものです。

つまりこれは...ある事象が、隣接する物に別の事象を引き起こし...AB間の距離をうずめ、

“事象の連鎖/因果的・連鎖”によって、からに伝えられるというわけです」

「はい、」響子が、うなづいた。

隣接する場合...これは直観的にも、非常に分かりやすいですね...

 で突き...(なた)で切り...ロープで引っ張るのを見れば、一目瞭然です。しかし、こうし

“直観/直感”に反しているような事象も、多々目撃されます。しかし、実は、これらも例外なし

に、“事象の連鎖”によって説明が可能なのです。

  電気のスイッチにしても、それは電線でつながっています。テレビにしても、その空間電波

うずめているのです。また、宇宙の果ての方にあるクェーサー(数十億光年以上も遠くにありながら、明るく輝

いている天体)にしても、その宇宙空間光子/電磁波がうずめているわけです。

  ああ...電波電磁波は同じものです。ただ、普通に電波と言った場合は、電磁波のうち赤外

線以上の波長をもつものを指します。特に、電気通信などに用いるものを言います...」

「はい...」

「これは...およそ考え得る限り、例外のないことが分かります...

  少なくとも、“物の領域”において...“この世の日常生活”においては...例外がないように

思えます...つまり、こうしたことが、“局所性/局所原因性の原理”と呼ばれる光景なのです」

「え...」マチコが言った。

「この説明では、分かりにくいかな...」高杉が、マチコと江里香の方を見た。

「うん、」マチコが、うなづいた。江里香もマチコを見て、後からうなづいた。

「まあ...」高杉が、顎を撫でた。「少しづつ...くり返し、説明して行きましょう」

  マチコがうなづいた。

「そうですねえ...“参考文献”とは別の言い方をすれば...

  “この世/この世界”は、“局所性/局所原因性/・・・部分として独立した系が成立”していて、

“物事には、因果的・連鎖の流れがあり・・・原因があり、結果がある”...ということになります。

  そして、この因果律ストーリイの展開によって、“この世”というものが...情緒豊かに...“主

体/私/・・・1人称の認識の鏡”に...投影/記述されるというわけです...」

「それが...」響子が言った。「いわゆる、【人間原理空間ストーリイ】ということですね...

  “ホモサピエンスが形成する・・・種の共同意識体・・・それが進化し、言語的・亜空間世界と融

合している”...ということですね。それに、さらに...“インターネットの・・・バーチャルリアリティ

ーが融合して来る”...ということですね」

「そうです...

  しかし、まあ、ここでは、ややこしい話は脇に置いておきましょう。ともかく、私たちの慣れ親し

んだ...“因果律的/ストーリイ展開という・・・スッキリとした認識形態”が、【ベルの定理】によ

ると、大きく崩れているというわけですねえ...

  今後、私たちの意識も、大きく変わって行くのかも知れませんねえ...」 

「どう変わって行くのかしら...」マチコが、聞いた。

「なに...」高杉が、作業テーブルを見回した。「これまでの世界でも、様々な超越的な現象はあ

りました...

  予知透視をはじめ...複雑な奇跡を、人類文明は目撃して来ています。つまり、今後も、

本的な風景は変わらないでしょう。ただし、私たちの認識基盤/パラダイムシフトするというこ

とです」

「そうですね...」関三郎が、短く言った。

                      
 

【ベルの定理】による、」高杉が言った。「“局所性の否定/非局所性”...ということですが、

今も言ったように...私たちには古来から、思い当たるフシがあったわけです...

  明らかに...“局所性/因果的・連鎖”を越えて、“未来を予知した事例”は多々あります。ま

た、“空間を超えて透視が成立する事象”も...私たちのごく身近で、いまだに頻発しているわけ

です。まあ、昔からそういうことを商売にしている人々もいましたし、今も昔も、インチキも多かっ

たのでしょう。

  しかし、インチキは別にして...こうした所では、非局所性が成立し、因果律(因果性の法則化され

た形式)が崩れているわけです。“心の領域”からの浸透もあるわけですが...“量子もつれ”でも、

“量子世界での・・・物理的・非局所性の拡大”が、堂々と基礎物理学に置いて、観測されるという

わけです」

「うーん...うん!」マチコが、自分の感性で納得し、強くうなづいた。

「つまり...いいかね...

  こうした“因果律の崩れ”が...科学を超えた学問のテーブルに...次世代“文明の第3ス

テージ/意識・情報革命”パラダイムとして...新たに登場して来ることが予想されます」

「うん、」

「くり返しますが...“量子力学における・・・物理的・非局所性の拡大”とは...

  こうした非局所性の、“量子もつれ・デバイス”が...量子コンピューターの中に実装されつつ

あるということです。それから、まだ実態はよく分からないわけですが...量子通信の領域では、

“量子テレポーテーション”も拡大していくというわけですねえ...」

「はい...」響子が、小さくうなづき、膝頭を撫でた。「“量子もつれ”は...

  時空間の概念を、超越しているのかいないのか...ともかく、銀河の両端でも、瞬時に影響

あうということですね」

「うーん...」マチコが、響子の横顔を見た。「本当なのかしら?」

「ええ...」響子が、真顔でマチコにうなづき、片手でミケを膝の上に引き上げた。

 

量子力学は...」高杉が、開け放った窓の方を眺めた。「実に多くの、“直観/直感”というもの

を覆(くつがえ)して来たと言います...

  “相補性”“不確定性原理”“参与者”、それから“トンネル効果”や、“虚数世界”などもそう

ですねえ...こうしたことごとくが、私たちの常識から外れています。いわゆる、エキゾチック(異国

的、異国情緒のある)な世界なのです。

  しかし、中でも、この“局所性”を覆したことほど...“直観というものに反し”...かつ、“深遠

な意味”を持つものは無いと言われています。それはつまり、“因果的・連鎖”が破れていること

を証明してしまったわけです。また、それは、量子世界に留まらないということですねえ...

  それから...これは、“・・・未決着・・・”ということですが...“量子もつれ”は、特殊相対性

理論をも脅かしていると言われます」

「はい...」響子が言った。「それは、“光速度を超越している”ということでしょうか?」

「うーむ...

  正直なところ、どうなのでしょうかねえ...まあ、ともかく、難しい問題があって、決着がついて

いないようです。あらゆる認識には、“主体による認識/心の領域”が絡んできますし、まさにそ

うした所が、今後の課題になりそうです」

「はい、」

「ともかく、“量子もつれ”は...

  特殊相対性理論を脅かしているということは、ダブルスタンダードとなっている、現代物理学の

基礎/現代科学技術文明の基盤をも揺るがしていることになるのでしょうか。いよいよ、パラダイ

ム・シフトが接近して来ているということでしょうか」

「あ...」響子が、指を立てた。「ええと...

  現代物理学ダブルスタンダードというのは...量子力学一般相対性理論(/重力理論)の、

ダブルスタンダードということですね。この2つの理論相性が非常に悪く...“超ひも理論”

どでも、なかなか統合ができないわけですね...?」

「うーむ、そのようですねえ...

  “超ひも理論”は、最近は少し行き詰っているという話を聞きます。複雑化し、そのものが迷路

のようになってきているようです。

  まあ、風来坊の部外者が言うのもなんですが...この状況は、“不確定性原理”などの曖昧さ

の壁と、似ているものを感じます」

「つまり...限界なのでしょうか?」

「まあ...

   私のような、気軽な立場から言えば...その辺りから、“主体/心の領域”との、親和性が発

して来るのかも知れないということです。

  “物の領域”“心の領域”再統合は...“物の領域”からの数学的/時空構造のアプロー

だけではなく...“主体/心の領域/・・・認識の鏡”からの...ストーリイ的親和性/整合

性の構築の方からも、進めるべきだということです。

  この親和的な領域を、新たに構築することによって...新しいパラダイムの記述が可能かも

知れないということです」

「はい...」響子が、両肘を抱いた。「今度は...“主体/・・・この世の認識の鏡”からの、アプ

ローチということになるのでしょうか?」

「そうですねえ...

  “物の領域”“心の領域”との再統合には、両方からのアプローチが必要でしょう。これまで

科学技術は、物理学を基盤とした“物の領域”が、主導的にけん引してきました。“文明の第3

ステージ/意識・情報革命”では、“意識・情報”というソフトの方に比重がかかります」

「はい...」響子が、うなづいた。

 

もつれている粒子・・・>

               

「さて、いいかね、マチコ......」高杉が言った。

「あ、はい...」マチコが、作業テーブルの上で両手をそろえた。

20世紀・初頭に...量子力学が登場する以前は...

  まあ...ニュートン力学まではということだが、物理学者たちは...“最も基本的物理要素

を、1つずつ記述し・・・それを組み合わせることによって・・・物理世界を完全に記述できる”...

と考えてきたわけです。

  つまり...“この世界の全貌というものは・・・個々の構成要素の・・・物語の総和として表現で

きる”...という考え方です。しかし、新しく登場した量子力学は...まさに、“直観”で理解され

ニュートン力学のパラダイムを、完全に打ち砕いてしまったわけです」

「...」マチコが、ボンヤリと頭をかしげた。

「つまり...」高杉が言った。「少し難しいが、よく聞いておいて欲しい。これは、基本的なことで

すから、」

「はい、」マチコが、うなづいた。

「うむ...」高杉が、窓に視線を投げた。「いいですか...

  まず、量子力学における粒子集団の...現実に、測定可能物理的特徴というのは...」

「はい、」

「その、物理的特徴というのは...

  “個々の粒子の特徴の・・・合計を超えていたり・・・その特徴と一致しなかったり・・・あるいは、

全く無関係だったりする場合がある”...ということです」

「うーん...」マチコが、ゆっくりとこぶしを握って、連動している自分のモニターを見た。「“合計

を超えていたり・・・その特徴と一致しなかったり・・・まったく無関係の場合がある”...ということ

ね。これが...量子世界の風景なんだあ...

  そして...ええと...“相補性”や、“不確定性原理”や、それから“トンネル効果”や、“虚数

世界”なんかがさあ...あるというわけね、」

「そうです...」高杉が、ニッコリと笑ってうなづいた。「そういうことですねえ...

  つまり、量子世界の風景というのは...私たちの日常風景からは、遠くかけ離れているという

ことです...ニュートン力学からパラダイム・シフトした、より厳密な量子力学世界”とは、“非常

にエキゾチック(異国的、異国情緒のある)な風景”だったということです。

  そして、このエキゾチックな風景は...それ自体が、“物理的・非局所性の世界”であり...

“主体/心の領域”との、親和性/整合性を示すものだと、私は考えています。

  この親和性は、デカルトの分割した“思惟するもの/・・・心の領域”と、“延長されたもの/・・・

物の領域”との、再統合へ向かって...“1つの海”に流れ込んでいるのかも知れません...」

「はい」響子が肩をかしげ、唇を引き結んだ。

                 


量子力学では...」高杉が言った。「ええ...いいですか...

  例えば...“2つの粒子のそれぞれの位置が・・・不確定なままであっても・・・両者をキッチリと

50cm離れているように出来る”...ということです。

  これは例えですが、実は...“こうした形で関係づけられている粒子”のことを...子力学

では、“もつれた状態”にあるというのです...」

「うーん...」マチコが、上体を引いた。「“もつれた状態”かあ...よくあるわよね、友達どうしで

もさあ...」

「はは...いいかね...」高杉が笑った。「残念ながら...

  これは、“人間関係のもつれた状態”ではない...量子力学での、“粒子どうしのもつれた状

態”です...量子力学の、基本的特性の1つです。

  実は、“エキゾチックな量子力学の世界”については...それを完全に理解している人という

のは、非常に少ないのかも知れません。そもそも、そうした専門家の人たちが、エキゾチックな風

だと言っているわけですからねえ...

  したがって...もちろん私も、十分に理解しているわけではありません。情報を拾い集めつつ、

それを再構成し、確認し、共に学び考察しているわけです。《量子もつれ光子の伝送距離》

どでも分かるように、“量子もつれ”それ自体がまさに、現在、実証中のものです...」

「そうですね、」響子が言った。

 

「さて...」高杉が、モニターに目を移した。「ともかく、話を進めましょう...

  ええ...この“量子もつれ”のというのは...このような、“両者の位置関係”だけとは限らな

いわけです。例えば、スピン(回転/・・・粒子の右巻き、左巻きに関する物理量)というものもあります...“そ

れぞれのスピンの向き(・・・上向き/下向き)が不定でも・・・反対向きに回転していることが確実な・・・

もつれた状態の2個の粒子・・・があり得る”...ということなのです。

  あるいは...“どちらか1つの粒子だけが確実に励起していて・・・どちらが励起しているかは

不定な・・・そうしたペアの状態の粒子・・・があり得る”...ということなのです」

「つまりさあ...」マチコが、口に手を当てた。「そういう...“もつれた状態/もつれた関係”とい

うものが...粒子の世界には、存在するということかしら?...人間の世界と同様に...」

「そう...」高杉が、うなづいた。「まず、そういうことだと思います...ただ、もつれ方が、物理的

であり...まあ、変わっているということですねえ...

  “量子もつれ”は...“粒子が何処に存在するかによらず”...“粒子が何であるかによ

らず”...“互いにどんな力を及ぼし合っているかによらず”...“ペアの粒子を関連づけ

る”...つまり、そういうもののようです...」

「うーん...」

「まあ、理解不足の段階で...軽軽なことは言えませんが...

  私の解釈では、そこに構造はなく...中身はカラッポだということでしょう。“相補性”“不確

定性原理”と同じように、それを割り、切り刻んでみても、ただその関係性しか存在していないと

いうことでしょう...

  “物の領域”での...その極微の限界領域でのエキゾチックな風景は...先ほども言ったよ

うに、“心の領域”との親和性を深めます。“物の領域”“心の領域”との、統合性/・・・結晶化

が...析出して来るかも知れないということです...」

「うーん...」マチコが、絞るように頭をかしげた。

 

“量子もつれ”は...

  原理的には...銀河の両サイドほどに遠く離れた電子中性子が...“量子もつれ状態”

なっている場合も、十分に考えられると言います。

  したがって...“量子もつれは・・・物質間において・・・こまで想像もされなかった・・・1種の親

密な関係を持ち込む”...と言います」

「うーん...親密な関係とは、どういうことかしら...“空間を超えた親密な関係”かしら?」

「まあ...」高杉が、頭を振った。「“参考文献”では...

  銀河の両サイドと言っていますねえ。その距離で、“親密な関係”を結んでいることも、十分あり

得るということです」

長距離恋愛というのは、あるわよね...距離を超えた恋愛が、銀河世界に、無数に存在し得る

ということかしら...?」

「まあ、ともかく...

  基礎物理学的に...純粋に“もつれている”わけですねえ。《量子情報科学のスタート 》

“参考文献”では...アルファケンタウリ(/太陽系から最も近い恒星/4.37光年)の、恒星間距離を例に

挙げていました。

  もし...“量子もつれ”の関係にある“ペアのサイコロ”を、地球アルファケンタウリに分離し、

その1方を振ったとしたらどうなるかということです。この場合...4.37光年の距離に関係なく、

何度振っても...“もつれた2つのサイコロ”は、“瞬時に・・・同じ目が揃(そろ)う”ということです。

  いいですか、“瞬時”に揃うのです。それが、“量子もつれ”だということです...」

4.37光年の空間は、関係なしに...瞬時ということよね?それが、“量子もつれ”かあ...」

「そうです...

  まあ、実際には...“量子もつれ”量子世界での話です。現実のサイコロでは、無理です。

しかしコトは、量子世界だけでは収まらなくなって来ました。顕著なのは、量子コンピューター・デ

バイスへの、“量子もつれ”実装/組み込みが進んでいることでしょう。これは今後、人類文明

に大きな衝撃を及ぼしてくることになります」

「うーん...そうかあ...」

量子コンピューター量子通信は...

  今後、いくつもの飛躍があると思いますが...やがて、“文明の第3ステージ/意識・情報革

命”の、中枢を形成して行くものと思います。こうした未来文明の中枢に、“非局所性/・・・因果

律の崩れ”実装されて行くということは...安易な解釈では済まされないということです」

「そうよね...」

「まあ...

  私たちの一般社会においても、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”は、非常に大きな衝

となって、反射してくるものと思います。【ベルの定理】は、その序曲なのかも知れません」

「はい!」マチコが、コクリとうなづいた。

  〔2〕 “E・P・Rの思考実験”【ベルの定理】  

                   

ええと...」関三郎が、作業テーブルを見回した。「ここは、私が説明巣ののですね?」

はい、」響子が笑みを浮かべ、小さく頭を下げた。「お願いします。理論物理の分野になるわけ

ですが、ここは、関さんにお願いしました」

「お願いします、」高杉も、頭を下げた。「くり返していいですから...分かりやすくお願いします」

「はい...」関が、頭に手をやった。「しかし、私は、第1線の研究者ではありません...

  学生の時、少しかじったというだけです。それと、“参考文献”などの資料を、多少調べてみま

したが...理論物理の全体状況となると、非常に広く、深く、とてもカバーできません...まあ、

普通は、こういう領域へは、気軽に入って行く人はいませんね」

「はい...」響子が、頬に輝きを浮かべ、うなづいた。「それを承知で、関さんに、依頼したのです

わ...私たちは、第1戦で、研究成果を競っているわけではありませんから...

  普通の人/一般人が...気軽に、ブラリと、専門分野に分け入って行くことを本意としていま

す。ですから、その意味でも、気軽に入って行って欲しいのです。そして、分かるように説明して

欲しいのです。マチコさんや、江里香さんにも...」

「まあ...」関が、マウスの上に手をのせた。「そういう意味では、好奇心は旺盛ですが...」

「はい...」響子が、顎に指を当てた。「本来...

  “量子もつれ”は、淡島祐次さん《ニュー・テクノロジー》の分野です。でも、淡島さんは、

論物理の方は敬遠したいと強く言うものですから、関さんに頼みました。それぞれ、得手不得手

はあるものですわ」

「私は、塾長と同じで...こうした思索は好きな方ですが...どこまでやれるか分かりませんね」

量子情報科学は...」高杉が言った。「“量子もつれ”の現象が、工学的に応用できるという見

通しが立って、最近スタートした学問領域です...

  理論工学も...明らかに、まだ盤石な基盤が確立されているわけではありません。関さんに

は、ここに至るまでの“道筋/ロードマップの概略”を解説して欲しいわけです。私は、基礎を学

んでいませんから...」                   .....詳しくは、《量子情報科学のスタート》へどうぞ。

「はい...その程度の説明なら...“参考文献”を読みながら、何とかできると思います」

「皆さん、そういう状況でやっていますわ」響子が、髪をなで上げながら、優しく言った。

「はい」

<湯川秀樹・博士の・・・中間子論>         

 

                  

「ええ...」関が、自分のモニターを、遠目に眺めながら言った。「量子力学の誕生は、1925年

とされています...

  ハイゼンベルク“行列力学”と、シューディンガー“波動力学”が相次いで発表されて、

子力学という新しい学問分野が誕生したわけです。“行列力学”“波動力学”とは、実は同じも

のだったわけで...この関係性が明らかとなり、量子力学が誕生しました...」

「うん...」マチコが、うなづいた。ミケが、ひょいとマチコの膝の上に跳び乗った。マチコがミケの

頭を片手で押さえた。

「それから...」関が、続けた。「10年後1935年に...

  2つの重大な論文が発表されました。この2つの論文が、それ以降の“物理学の方向性/科

学技術文明の方向性”を、大きく決定づけるものとなりました。

  1つは...日本湯川秀樹・博士(1949年/日本人として初のノーベル物理学賞を受賞)の、中間子論

です。第2次世界大戦が終わったのが、1945年ですから...その4年後/昭和24年に、ノー

ベル賞を受賞したわけですね。

  首都/東京が焦土となった敗戦国/日本に...希望と自信をもたらしたと言われています」

「そうですね...」高杉が言った。「ボス(岡田)も、子供時代に、そんな話は何度も聞いたと言って

いました。もっとも、山野を遊びまわっていたボスは、そんな科学に、憧れをもっていたわけでは

なかったようですが、」

1935年の論文がさあ...」マチコが、ミケの頭を撫でた。「ええと...1949年に受賞したわ

けよね...14年もたってからかあ...」

「いや、」関が言った。「だいたい、そんなもんです...

  2008年ノーベル物理学賞を受賞した、小林誠さん=益川敏英さんにしても、36年も前の

論文を評価されたものです。南部陽一郎さんの方は、それよりも前とか、言われますね」

「うーん...そういうものなんだあ、」

 

「さて...」関が言った。「湯川・博士中間子論の話しに戻りますが...1935年/昭和10

年当時...日本欧米のような、恵まれた研究環境にはありませんでした。

  ボーア(/デンマーク人)や、ハイゼンベルク(/ドイツ人)などの、コペンハーゲン学派...あるいは

ュレーディンガー(/オーストリア人)や、アインシュタイン(/ドイツ人)等を、キラ星のごとくに輩出した、

欧米量子力学のメッカ(発祥の地、中心地)からは、遠く隔絶した極東アジアでした...

  しかも、現在のように、インターネット電話テレビが発達している時代ではありません。

が主流の、手紙の交換の時代です。そうした中で、極東アジアから中間子論の発表です。

その衝撃は大きかったと思います。

  量子力学のメッカから見れば、列強国とはいえ、ついこの間まで極東の鎖国です。鎖国の中

で、西欧とは違うユニークな文化を育んではいましたが、量子力学をリードするような文化の素

などなかったわけです...」

「うーん...」マチコが言った。「東郷平八郎・元帥がさあ...ロシアバルチック艦隊を撃破した

ような衝撃かしら...」

「そうかも知れませんね...

  ええ...ドイツ/ツェッペリン伯爵が開発した、“大型・旅客飛行船/ツェッペリンLZ127”が、

世界一周の旅の途中で、日本に立ち寄りました...それが、1929年/昭和4年のことでした。

中間子論が発表される、6年前のことですね...

  “ 〜 昭和4年は、春爛漫 〜 〜 ”...と歌にも謳われていますが、この昭和4年/1929年

10月24日に、ニューヨーク証券取引所株が大暴落し、“世界恐慌”が始まるわけです。そし

て、アメリカニューディール政策や、ヨーロッパブロック経済など動き出します。そして、しだい

に、第2次世界大戦へと、歴史の大河が流れて行くわけです...

  湯川・博士中間子論が発表されたのは...そうした時代でした。そして、戦争に突入し、

ユダヤ系アメリカ人の物理学者/オッペンハイマー博士の率いる...アメリカ/ニューメキシコ

州/ロス・アラモス国立研究所/マンハッタン計画での...原子爆弾の製造へとつながって行く

ことになります。

  その、マンハッタン計画“原子爆弾/死の果実”/・・・“リトルボーイ(/ウラン型・ガンバレル方式)

“ファットマン(/プルトニウム型・爆縮レンズ方式)が、日本広島長崎に投下されたのは、全世界の

知るところです。湯川・博士は、そうした時代の、真只中にいたわけです。その“新型爆弾”の意

味も分かっていたはずです。

  日本が得意とした理論物理学が...原子爆弾となり...中間子論の国/日本”に投下さ

れたというのは...歴史の皮肉というものかも知れません」

「そうですねえ...」高杉が言った。「何か、見えない糸で、つながっているのかも知れません」

「そうかあ...」マチコが、ミケを抱き上げた。「量子力学はさあ...ともかく、ヨーロッパを中心

して発展してきたわけなんだあ...」

「そうです...」関が言った。「アメリカも、含めてですね...そして、日本です」

「うん、」

ハイゼンベルクボーア師弟関係にありました...

  そして...確率論において、ボス的存在ボーアが、デンマーク/コペンハーゲンを拠点にし

て活動していたことから、彼等をコペンハーゲン学派と呼びます...また、その確率論的解釈を、

“量子力学のコペンハーゲン解釈”といい、現在も主流となっています」

「うーん...

  そんな沸騰している中にさあ...極東アジアから、中間子論が放り込まれたというわけね」

「そうです、」関が言った。「まさにその通りですね...

  “第2次世界大戦の前/・・・量子力学の黎明期”...極東アジア辺境の地で...湯川秀樹

・博士は、ほとんど独学で、中間子論をまとめ上げたと言われています。そして、論文が発表

されたのは1935年ですが、1939年には、ソルベー会議(/物理学の国際会議)に招かれ、講演を行

っています...理論物理学において、日本が脚光を浴びた最初の時です。

  それ以降、日本人ノーベル物理学賞では...朝永振一郎(/以下・敬称略)江崎玲於奈小柴

昌俊...そして小林・益川・南部が、そろって受賞しています。この分野は、湯川・博士以来、

本の得意分野になりました...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

中間子論は...後の“素粒子の標準理論”の、基礎を作って行くことになります...

  “力を・・・粒子の交換によるもの・・・”、とする考え方は...現在の、“自然界の4つの力(電磁

気力/弱い相互作用の力/強い相互作用の力/重力)を、“・・・介在粒子との関係・・・”で導くことになります。

これは、“ビッグバン宇宙論”にも、欠かせないものになるわけですね...」

 「うーん...そんなことになっているんだあ...」    

<もう1つの論文/長い題名の論文>       

                   

「さてと...」関が、モニターの方に頭を寄せた。「1935年に発表された、もう1つの論文が...

  『物理的実在についての、量子力学的記述は、完全と考えることができるであろうか、と

いう“長い題名の論文”です。こっちの方が、実は、このページのメイン・テーマになりますが、当

時は、ほとんど注目をされなかった論文です。が、これが、“量子もつれ”を引き出すわけですね」

「うん...」

「これは...

  “アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンの3人の連名による論文”です。この当時、アイン

シュタインは、アメリカ/ニュージャージー州/プリンストン高等研究所(/超一流の知性だけが招聘され

る研究者の理想郷)に移っていて...ポドルスキーローゼンは、共同研究者です。

  そして、この論文の中に...3人の頭文字を取って、“E・P・Rの思考実験”と呼ばれているも

のがあります。これがどうやら、芋ヅルのように、“量子もつれ”という大芋を引っぱり出して来た

ようですね」

「うーん...大芋かあ...」マチコが、首をかしげた。「でもさあ、難しそうねえ...」

「いや、この思考実験は奥が深いですが、設定意外と簡単なものです...

  これは、“量子力学の非局所性/・・・光速度を超える矛盾”を、否定しようとしたものですが、

この“E・P・Rの思考実験”を...逆に、数学的に否定してしまったのが、【ベルの定理】という

わけです。このことが、実は、大問題だったのです」

「うん...」

「いいですか...

  つまり、【ベルの定理】というのは...“量子力学の・・・非局所性の考えは正しい”というこ

とを証明したのです。そして、これは別の言い方をすれば...“局所原因の原理の方が・・・間

違っている”、ということなのです。

  さらに、拡大し、砕いて言えば...“世界の中には・・・それだけで存在している・・・部分という

ものは成立しない”...ということになるのです。“世界は・・・1つの・・・巨大な全体”...というこ

とになるのです...もちろん、これは、1つの解釈ですが...」     

「うん...そういうことね...」マチコが、アッサリとうなづいた。

「わたしは...」響子が、高杉の方を見た。「華厳経(けごんきょう)という経典は、読んだことがな

いのですが、そうした世界観でしょうか...つまり...

 

 1つのものは、そのまま・・・一切のものと関連しており・・・

    一切のものが、そのまま・・・1つ1つの命と結びついている・・・

        すべてが関連しあって存在し・・・その繋がりは尽きることはない・・・

 

  ...という、ものらしいのですが...?」

「はは...」高杉が、顎をなでた。「読んだことがないと宣言した後で...しっかりとデータを抜粋

して来ていますね...実に、響子さんらしい、」

「恐れ入ります...」響子も、笑って言った。

「まあ、そうですねえ...そういう世界観だと思います...

  “量子力学の物理的・非局所性”と...仏教という宗教の世界観ですが...非常に近いもの

を感じます。そもそも、現代物理学東洋思想とは、非常によく調和しているようです...

  私などは、“唯心”と、“リアリティー”と、“物理的・非局所性”とが...“渾然一体のような意識”

になっています。これが、いいことなのか、整理して使うべきなのかは分かりませんが...まあ、

そのうちに...落ち着く所へ、落ち着いて行くと考えています」

「あの、高杉さん...」響子が言った。「華厳経について、一言...」

「そうですね...良寛の歌に、こういうのがあります...

                        

         あわ雪の 中に顕(た)ちたる 三千大世界 

                       またその中に あわ雪ぞ降る    (良寛)

 

  ...良寛は、江戸時代後期禅僧であり、歌人です...越後の人ですね...この歌の意

味は、語句の通りです...非常に幻想的な歌ですね...私たちは、夢ともまがう現実世界の中

で、壮大な夢を見ているのかも知れません...」

「はい...」響子が言った。「ええ...

  ありがとうございます...少し脱線してしまいましたが...関さん、お願いします」

「はい、」

                      

「ええと、そうですね...」関が、モニターから顔を上げた。「その前に...

  アインシュタインの、量子力学に対するスタンスというものを、もう一度確認しておきましょう」

「はい、」マチコが言った。

アインシュタインは...

  量子力学産みの親の1人として...その理論の有効性は認めながらも...“コペンハーゲ

ン解釈”は、絶対に認めようとはしなかったと言います。つまり、ボーアハイゼンベルク“不

確定性原理”などに...信念として、反対していたようですね。彼の感性が、受け入れなかった

のでしょうか...

  アインシュタインは...もともと、“確率論”“相補性”という考え方を嫌っていた様ですが...

その中でも、とりわけ“非局所性の概念”を嫌い...問題視していたと言われます。

  そこで...“E・P・Rの思考実験”を、プリンストンの仲間とともに構築し、捲土重来(けんどちょうら

い)ということで、挑戦状を叩きつけたわけです...」

「ようするにさあ...アインシュタインは...量子力学のほとんどを嫌っていたのかしら?」

「まあ...」関が、和やかに笑った。「そうとも言えます...

  しかし...を、光量子/光子として扱ったのは...そもそもアインシュタインが最初なので

す。したがって、量子の概念生みの親でもあるわけです。それが量子力学が誕生し、子供にな

り、反抗期の中で、勝手に独り歩きをしていったような感じですか...はは...よくあることかも

知れません」

「でもさあ...どうしてそんなに、全てに反対だったのかしら...それが分からないわよね...」

「まあ、今も言ったように...アインシュタイン信念のようなものだと言われています...

  “非局所性の概念”に対し、アインシュタインはしばしば、“神はサイコロを振りたまわず”

言って、強硬に反対したそうですね...これはこれで、“この世界の深淵”に触れるものがありま

す。この辺りは、高杉・塾長の方が、深く感じておられるのではないでしょうか、」

「うーん...」マチコが、高杉の方を見た。

  高杉が、コクリとうなづいた。

アインシュタインは...」高杉が言った。「こういうことで...晩年は、あまりよくは言われませ

んでした...しかし、相対性理論は、それまでのニュートン力学絶対時空間を、古典にしてし

まいました。そして、量子の概念をも導入したわけですねえ...

  1人の物理学者では、絶対に不可能と断言できるほどの...奇跡の業績です。人類文明全

体の舵を、大きく切ったわけです...量子論に反対したというのは...その、あまりにも大きな

業績ゆえの、愛嬌のなものかも知れません...それで、バランスが取れるのでしょう...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

  wpe4D.jpg (7943 バイト)                    

「ええと...」関が、モニターの方に体を寄せた。「いいですか...」

「はい...」マチコが、連動している自分のモニターを眺めた。

量子力学で扱われる現象というのは...

  必ずしも、はっきりとした原因というものを持ってはいないのです。電子が軌道をジャンプした

り、粒子が崩壊したりするのは...原因がなくても、自然に起きることがあるのです。量子力学

では、それが、“いつ・どこで起こる”という予測はできませんが...“確率で表現”するのです。

  その、“現象の原因が・・・現象そのものの中にない・・・非局所性”、という考え方を...アイン

シュタインは、認めようとしなかったわけですね。彼は、未知の変数/隠された変数があることを、

信じて疑わなかったわけです」

「つまりさあ...そうした状況の中で、この“長い題名の論文”が、発表されたというわけよね?」

「その通りです...」関が、ツルリと頭をなでた。「ここで問題にするのは...

  湯川・博士中間子論ではありません。“非局所性を否定しようとした・・・E・P・Rの思考実

験”の方です。そしてこの思考実験が、【ベルの定理】によって数学的に否定され...逆に、“非

局所性”というものが、しっかりと“肯定”されてしまったのです。

  しかも、“E・P・Rの思考実験”から...“量子もつれ”という...“量子力学の特性の1つ”が、

転がり出して来たようですね。そして、幾度となく検証がくり返された結果、“量子もつれ”の現象

は、“間違いない”ということが確認されたようです。

  そこで...《量子情報科学》という分野が、ごく最近スタートしたわけですね...」

「うーん...そういうことかあ...」

「私の推測も入っていますが、だいたい、そんなところだと思います...」

「はい、」マチコが言った。                       .....詳しくは、《量子情報科学》へどうぞ

                                

E・P・Rの思考実験とは・・・>

            (アインシュタイン = ポドルスキー = ローゼンの思考実験とは・・・)

               

「いいですか...」関が、ミケをかまっている江里香に言った。

「あ、はい...」江里香が背筋を伸ばし、コクリとうなづいた。

「くり返しますが...

  この、アインシュタイン2人の共同研究者が持ち込んだ、“E・P・Rの思考実験”というのは、

“量子力学における・・・非局所性の概念”を、否定するための挑戦状だったわけです。

  アインシュタインは、ボーアコペンハーゲン学派/コペンハーゲン解釈に、一貫性がないこ

とを証明しようとして、執拗に、論戦を挑んで行ったようです。そして、そのたびに、逆にコペンハ

ーゲン解釈が、正しいことが証明されて来た経緯があります。

  そうした、量子力学の黎明期1935年...湯川・博士中間子論と、“3人の連名/長

い題名の論文”が発表されたわけです。当時、中間子論はの方は、非常に大きな衝撃をもっ

て迎えられましたが、“3人の連名/長い題名の論文”の方は、一般的にはあまり知られていま

せんでした」

「うん、」マチコが言った。

「高杉・塾長が...

  【ベルの定理】は、“何を数学的に証明したのか、知らなかった”と言われたのは、この辺りの

事情も関係していると思います。【ベルの定理】もまた、一般的にはあまり知られていなかったよ

うですね。

  これには、“非局所性という概念”が...科学・技術の現場では、受け入れがたいものだった

ことも関係しています。しかし、今も昔もそうですが、“この世”には不思議なこと奇跡は、常に

一定の割合で存在しています。こうしたことが、“この世界の不確定な実態”を示しています...」

「うーむ...」高杉が、うなづいた。「そうした状況の中で...

  “非局所性/・・・量子もつれ”が、量子コンピューター量子通信実装されるという、量子情

報科学が展開し始めたわけですねえ」

「そうです、」関が言った。「“E・P・Rの思考実験”というものが、その当人たちさえ、“予想もして

いなかった結果”を引き出してしまったわけです」

「それが“量子もつれ”かあ...」マチコが言った。

「ええ...

  その辺りの事情は、“参考文献”からは分かりませんが...ともかく、この“非局所性/・・・量

子もつれ”が、“非常に大きな意味”を持ち、独り歩きを始めたようです。かつて、量子力学が、

インシュタインのもとを離れ、独り歩きを始めたのと似ていますね」

「それよりもさあ...」マチコが言った。「“皮肉”が効いているわよね、」

「まあ...

  アインシュタインが、宇宙論に導入したり削除したりした“宇宙定数(真空のエネルギーと考えられる)

もそうですが...アインシュタインが何かをやると...正否はともかく...その芋ヅルから、

が引っ張り出されるようですね...真面目な話...」

 

「うーん...」マチコが、首を振った。「つまりさあ...全体的に、どういうことなのかしら...?」

「ええと...つまりですね...

  “非局所性の概念”を否定するための、“E・P・Rの思考実験”を...逆に、J.S.ベルが、【ベ

ルの定理】/数学的な証明で、ひっくり返してしまいました...そして、そこに、“量子もつれ”

いう、“量子力学の特性の1つ”が...転がり出して来たという状況でしょうか」

「はい...」響子が、唇に指を当てた。「量子力学というのは、ともかく、正しかったわけですね?」

「そうです...」関が、響子にうなづいた。「くり返しますが...ええと...

  【ベルの定理】は、どういう意味を持つかというと...簡単に言えば...“アインシュタインの

考えていたような・・・局所的な隠されていた変数の存在は・・・量子力学の確率的予測とは・・・

数学的に両立することは不可能である”...ということが証明されたのです」

「はい、」響子が、うなづいた。

「すると、逆に...

  “局所原因の原理の方が・・・間違っている”...ということになるのです。そしてこれが、量子

世界だけには留まらず...“この世界の姿・・・眼前するリアリティーの光景”にも、確実に波及し

て来るということです。そういうことですね...塾長...?」

「その通りですねえ...」高杉が言った。「“主体/1人称の認識の鏡”に映し出される...“眼前

するリアリティー世界”は...先ほど響子さんが説明した...華厳経(けごんきょう)のような世界

だということでしょう。

 

       すべてが、関連しあって存在し・・・

              その繋がりが、尽きることのない・・・

                      巨大な、1つの全体世界の姿・・・

 

  ...それが、“非局所的な世界”ということですねえ...つまり、“量子力学の世界”...“眼

前するリアリティーの世界”...また“唯心/心の領域”...ということでしょう。もちろん、断定

るつもりは毛頭ありません...これを“叩き台”にして、一緒に考察していこうということです...」

「はい...」関が、両手を組んだ。「ええと...話を戻しますが...

  激しく論争をしていた、アインシュタインボーアでしたが、【ベルの定理】が発表された1964

には、2人ともすでに没していました。しかし、ここでも、“ボーア/量子力学/コペンハーゲン

解釈”...は勝利したわけです。ボーアには、是非、【ベルの定理】を知らせて上げたかったで

すね...」

「うーん...そうかあ...」マチコが、上体を左右に揺らした。

1964年/昭和39年といえば...」高杉が目を細め、窓の方を眺めた。「東京オリンピック

開催された年ですねえ...

  それからベトナム戦争で、トンキン湾事件が起こっています...翌1965年から、アメリカ

北ベトナム爆撃/・・・北爆を開始し、本格的な軍事介入をしています。【ベルの定理】は、そん

な時代背景の中での発表でした」

             

「三郎さん...」マチコが、関を名前で呼んだ。「“E・P・Rの思考実験”というのはさあ...そも

そも、どんなものなのかしら...?」

「そうそう...」関が、頭に手をやった。「まず、その説明をやってしまいましょう...

  いいですか...量子力学が誕生した1920年代には...電子には、軌道運動の他に、固有

の角運動をもつことが発見されています。現在は、電子のスピンと呼ばれているものですね。こ

れは、現在では、他の全ての粒子も持っていることが知られています」

「あの...」江里香が、首を伸ばすようにして言った。「スピンとは、どういうものなんですか?一

度、聞いてみようと思っていたのですが、」

「まあ...そうですねえ...

  粒子の挙動というのは、従来の言葉で表現するのは、不可能と言われます。したがって、とり

あえず...スピンとは“自転”のようなものだと考えて下さい...粒子“右巻き”“左巻き”

“回転に関する物理量”です...

  あ、それから...その回転軸には...“上向き”“下向き”の違いがあります...」

「はい...」江里香が、ボンヤリとうなづいた。「“上向き”と、“下向き”ですね...」

「うーん...」マチコも、顎に手をやった。

「いいですか...」関が、右手を上げた。「小さなコマを回す時...

  2本の指で、にひねっても、にひねっても回りますね...それが、“右巻き”“左巻き”

違いです。そして、器用な人は、コマを逆さまに持って回し、ポンと下に落とします。これが、

下向きと、上向きになります...この時も、コマを“右巻き”“左巻き”にできるわけです...」

「はい、」江里香が、今度はしっかりとうなづいた。

「うーん...」マチコも、コクリとうなづいた。

 

***************************************************************

            E・P・Rの思考実験    

「いいですか...」関が言った。「ここからが、“E・P・Rの思考実験”ですが、ごく簡単

です...」

「はい」江里香が、両手を握った。

「まず...相互に、反対方向に、同じ大きさでスピンしている、電子A電子Bを考え

ます...これが、条件です。

  この場合...反対方向に回転しているので、互いにスピンを打ち消しあい全体

のスピンの和はゼロになっています...」

「うん、」マチコが言った。

「さて...この、2つの電子A電子Bを、電気的な方法で分離し、ゆっくりと引き離し

て行きます。この時、電子A電子Bは、反対方向に離れて行っても...スピンの和

は、ゼロに保たれているわけです...」

 

****************************************************************

 

「うーん...」マチコが、うなづいた。「それで...?」

思考実験の設定は、これだけです...

  もともとの、“3人の連名/長い題名の論文”では...“粒子の位置と、運動量についてのモ

デル”だったようですが...現在よく知られているのは、アインシュタインの弟子/デヴィット・ボ

ームが考えた、この“スピン・モデル”の方だそうです。こっちの方が、分かりやすいのでしょう」

「はい、」江里香が、髪を反対側へサラリと揺らした。

「さて...」関が言った。「...この“スピン・モデル”ですが...

  ここで大事なのは...スピンの向きは、反対方向条件で定めていますが、量子力学では

ピンの回転軸を、上向き下向きかを、“・・・確定的に言うことができない・・・”...という所

にあります...

  いいですか...量子力学の考え方は、あくまでも...“観測という行為との・・・相互作用に

よる...反応の傾向にすぎない”...ということです。設定条件で、スピンの向きは互いに反

対方向で、その和はゼロですが...“上向き”“下向き”かは、条件にはありません...」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。

「まあ、最後まで説明を聞いて下さい...しだいに分かるようになります。いきなり、全部を理解

するのは無理ですから...」

「うん...」マチコが言った。「それは分かるけど...」

「ここは...」響子が、上体をのり出した。「深い哲学がありますね...量子力学の、本質的な深

い哲学が...私はこの方面は深くは知らないのですが...量子力学における主体性や、“参与

者”の問題もあるのかしら...?」

「はい...」関が、響子にうなづいた。「ここに...量子力学本質的な考え方があります...

  ともかく...量子力学の考え方では...“観測”という“主体性の介入”があってはじめて、

ははっきりとした回転軸を獲得するのです。

  それゆえに...“電子Aのスピン”“測定”した時に、“回転軸の向きが確定”し...“電子B

のスピン”の向きも、自動的に決定してしまうのです。反対向きのスピンという設定条件ですから、

これは分かると思います...電子Bは、間接的に“測定”されたことになります...」

「はい...」響子が、斜めにうなづいた。

量子力学においては...」関が、マチコと江里香に言った。「“観測者/・・・主体のスタンス”

いうものが、重要な意味を持ってきます...これが、高杉・塾長の言う、“心の領域との・・・親和

性”を深めていくことに、なるのかも知れません...」

「分からないわねえ...」マチコが言った。「どうして、“観測者/主体性/・・・心”が、問題になる

のかしら...?」

「そうですね...」関が、頭をかしげた。「じゃあ...“相補性”の概念で説明しましょうか...

  “相補性”というのは...であり、粒子であるという、2面性のことを言いますね。さらに、

それはどういうものかというと...“私/主体/・・・1人称の認識の鏡の世界”において...“観

側者/主体”が、“光を・・・波と思って観側”すれば、“光は・・・まぎれもなく波動性の側面”を見せ

てくれます。

  それから...“光を・・・粒子と思って観側”すれば、“光は・・・まぎれもなく粒子性の側面”を見

せてくれます。ただし、“両方の側面を・・・同時見ることは絶対に不可能”です。つまり、

あるか、粒子であるかは...“あなた/・・・観測者の心に任せる!/心で決定しろ!”...

ということなのです」

「うーん...」マチコが、椅子にそっくり返った。「そんなにさあ...“いい頃加減?”なことでいい

のかしら...」

「そうですねえ...この“相補性”という概念も、アインシュタインの嫌うところでした...」

「うーん...アインシュタインはさあ...本当にいい人だったわよね...」

「ええ...」江里香が、笑いを手で隠し、うなづいた。

 

「さて...」関が言った。「補足説明はこのぐらいにして、話を戻しましょう...」

「はい...」江里香が言った。

「この電子A電子Bは...

  “反対方向のスピン”を持っているという条件ですから...電子B間接的に測定されるわけ

です。そして、距離の条件はないわけですから、電子B月の表面にあろうと、“瞬時”に、それ

“間接的に測定”されるわけです...」

「それってさあ...」マチコが言った。「“量子もつれ状態”...ということかしら?」

「そうです...」関が、ゆっくりとうなづいた。「それは、後で説明します...

  さて、いいですか...“E・P・Rの思考実験”で重要な点は...“電子Aと電子Bの間隔は・・・

好きなだけ、いくらでも大きくとれる・・・”ということなのです。

  つまり、今も言ったように...“月と地球の距離/38万キロ”離れていても...“太陽系と隣

の恒星アルファケンタウリの距離/4.37光年”離れていても...あるいは、“銀河系の両端/

10万光年”離れていても...文句は言わないということなのです...」

量子力学の首をかけて、厳密にということかあ...」マチコが言った。

「うーん...」響子が、頭をかしげた。「“量子力学的には・・・厳密な意味で・・・そうなっている”

ということですね?」

「そうです...

  つまり...“量子力学によれば・・・電子Aと電子Bの関係性は・・・距離に左右されない”、とい

うことなのです。

  しかし、“これは、おかしいのではないか...?”と、一般の私たちも思うわけです。そして、

まさにここが、“アインシュタインの標的”でもあったわけです...すなわち、“だから、量子論に

は一貫性というものがない!いい加減だ!”...と挑戦状を叩きつけたわけです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「少し、さあ...分かったような気がするわよね、」

「はは...」関が、満足そうにうなづいた。「そのうち、少しづつ分かってきます...

  しかし、いいですか...話はここで終わったわけではありません。これからです...」

「はい...」江里香が言った。

                  

「いいですか...」関が言った。「この思考実験で問題なのは、ここからです...

  問題は...“電子Aのスピン”は、磁場の作用によって、変えることができるということです。す

ると、“電子Bのスピン”も、“瞬時に・・・自動的にが変わる”ということなのです...

  何故なら、“2つの電子のスピンの和は・・・ゼロのまま保たれている”、というのが、思考実験

の条件だからです...つまり、“もつれた状態”ということですね...」

「そうかあ...」マチコが、両手を大きく開いた。「それで...?」

アインシュタイン3人が...コペンハーゲン学派に挑んだ思考実験とは...ここに焦点があ

るわけです...

  つまり...“制限なしに遠くに離れている電子Bは・・・どうして、電子Aの変化を知ることができ

るのか?”ということです。また、“遠く離れた電子Bが・・・電子Aの磁場の作用による変化で・・・

本当に、同時に変わるのか?”ということです。

  そして、そもそもこれは、アインシュタインが提唱している、相対性理論にも反しているわけで

すね。量子論では、電子A電子B太陽系の両端にあっても...“厳密に・・・瞬時に・・・スピン

の変化は連動”する、としているわけですから...

  相対性理論によれば...光速度を超えるものは存在しないわけです。ですから、そのような

情報交換はあり得ないし、そんな変化もあり得ないわけです。してがって、“量子論は間違ってい

る!/一貫性がない!”という主張です」

「うーん...」マチコが、深くうなった。「もっともな話よね...」

「さすがに...」高杉が、脚を組み上げた。「この挑戦状は...ボーアにとっても難問だったわけ

ですか?」

「そうですね...

  1935年から1964年まで...足かけ30年間...この“E・P・Rの思考実験”を、量子力学で

説明することは、不可能と考えられて来ました...【ベルの定理】が発表されるまでは...そし

て、それも、現行では都合が悪いために、実質的に無視されてきました」

「でも...“量子もつれ”工学的応用が可能になり、量子情報科学がスタートしたというわけで

すね?」

「そうです...

  ニートン力学の、絶対空間絶対時間の概念を崩したのは...アインシュタイン相対性理

です。しかし、相対性理論における“光速度の絶対性”も...それが、どのような形であれ...

崩れて来たのかも知れません...

  本当に、ここから...“物の領域”“心の領域”との...非局所性での、親和性/整合性/

統合性というものが、出て来るのでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、宙を見つめた。「分かりませんが...カオス/・・・世界の原初の風景

見えてくるのかも知れません...

  “光あれ!(旧約聖書/創世記/第1章/第1節)“神”が言い...この世界に、最初の名詞が発せ

られ...カオスの最初の分割が始まりました。以来、“この世”は、“言語的・亜空間座標の人間

原理”の中で、ダイナミックに波動して来ました...

  “眼前するリアリティー世界”というのは...時代とともに、その解釈が変わって行くわけです。

やがて、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代に突入していくようですが...」

「でも、さあ...」マチコが言った。「自分が、ここに居るのって...本当に不思議よね...」

「そういうことです...」高杉が言った。

 

「ええ...」関が、モニターを眺めた。「アインシュタインの...

  “E・P・Rの思考実験”という挑戦状も...1964年に、J.S.ベルが...“このこの思考実験

に基づいて・・・1つの定理を引き出したことにより”...決着したわけです...30年ぶりの決着

でした...」

「うーむ...」高杉が言った。「【ベルの定理】には、こういう背景があったわけですか...

  私は、【ベルの定理】が引き出した、“非局所性の影響・・・因果律の崩れ”の方に、もっぱら注

目していました。門外漢生噛り(なまかじり)だったわけですが...これで少しは、量子力学の中

に足を踏み入れた感じがします」

「関さん...」響子が言った。「“E・P・Rの思考実験”は...【ベルの定理】によって、数学的に

否定されたわけですね...それは、どのようなものだったのでしょうか?」

「はい。つぎに、それを簡単に説明します」

「その前にさあ...」マチコが言った。「<小休止>にしようか、」

「そうですね...」響子が、コンソールの方を眺めた。「《クラブ・須弥山》から何かを取りましょう」

「ポンちゃーん!」マチコが呼んだ。

「オウ!」ポン助が、プロジェクターの横で答えた。

「弥生さんの所へ行こうか、」マチコが、椅子から立ち上がった。

「あ、私も行きます...」江里香も、立ち上がった。

  〔3〕 歴史的な経緯/・・・新展開・・・     

                   

**************************


        
小 休 止

              wpe56.jpg (9977 バイト)     


  ポン助が軽食のワゴンを押し、ハイパー・リンク・ゲートから出てきた。その後か

ら、マチコと江里香と一緒に、《クラブ・須弥山》羽衣弥生も歩いてきた。彼女は

両手を泳がせながら、《第2インターネット・オープン・ルーム》の中を見回した。

それから、胸に手を止め、片手でスカーフを整えた。

「すみません、弥生さん!」響子が、椅子から立ち上がって声をかけた。

  弥生が口元を引き締め、細い手を上げた。

「商売ですわ!お久しぶりです、高杉・塾長!関さんも、お元気そうですね!」

「やあ!」関が言った。

「弥生さんも...」高杉が、窓辺から戻りながら言った。「お元気そうですね。クラブ

の方はどうですか?」

「この不景気ですから...」弥生が、明るく首をかしげて見せた。「たまに顔を出し

てくれると、嬉しいんですけど...」

「そうしよう...」高杉が言い、ゆっくりと椅子に腰を下した。

  弥生が、ポン助のワゴンを受け取った。それから、キレのある手さばきで、お茶

の準備を始めた。ポン助が、お菓子やサンドイッチの皿をテーブルに並べて行く。

マチコが、自分専用のコーヒー皿を取り、それを自分の席に運んだ。自分だけ、店

の方でコーヒーを入れてきたのだ。

「響子さん、」弥生が、振り返った。「軽井沢・基地へは、何時移られるんですの?」

「梅雨が明けたらと思っていたのですが、今年は1週間も早く梅雨が明けました」

「そうですね、」

「結局、同じ時期ということで、7月中旬の終わりころになると思います...

  2、3日したら落ち着くと思いますから、皆さんをお呼びしますわ。もう夏野菜が、

たっぷり育っていますよ。トウモロコシ畑も、トマトやナスの菜園も、私たちが来る

のを首を長くして待っていいますよ」

「はい...」弥生が目を細め、白い歯をこぼした。「軽井沢行きは、毎年、楽しみ

にしていますのよ」

「ええ...パーティーの方は、弥生さんにお任せです」

「はいはい、もうプランは出来上がっていましてよ」

「うーん...

  ここしばらくは、管理部の人たちが改装していましたが、もう終わっているはず

です。ブラッキーが、2日に1度、ヘリを飛ばしていますから、向こうで調達するも

のがあったら、ブラッキーに頼んてくださいな」

「その前に、」弥生が言った。「私も1度、軽井沢に入りますわ。細かなものは、ブ

ラッキーでは無理ですし、」

「うーん...そうですね、」

「軽井沢かあ...」マチコが、コーヒーカップを両手で包み込んだ。「楽しみよね。

今年は、浅間山に登ってみようか...」

「私は...」江里香が言った。「アウトレット・モールでの、買い物が楽しみです、」

「あら...」弥生が、江里香に微笑みかけた。「じゃあ、一緒に行きましょうか?」

「はい!」江里香が、顔を輝かせた。

「今年は...」響子が、ポツリと言った。「ここの《危機管理センター》と、《軽井沢

・基地》との往復になりそうですわ...ハイパー・リンク・ゲートを使うから、苦には

なりませんけど」

「この仕事ですが...」関が言った。「軽井沢基地へ移動しても構わないですよ」

「それは、考えたんですけど...皆さんの都合は、大丈夫なのかしら?」

「8月はさあ...」マチコが言った。「ともかく、選挙一色よね...」

「うーむ...」高杉が言った。「いよいよ、“2009・総選挙”に突入ですねえ...し

かし、その後...この冬はいったい、どういうことになるのでしょうかねえ...」

秋月茜さんが、」響子が言った。「政治・部長青木昌一さんと一緒に、その準

備を進めているはずですわ」

「うーむ...そうですか...」

  ミケが、ポン助の足元で、ミャッ、と小さく言った。ポン助が、オウ、と言った。ミケ

に用意してきた、煮干しを2つ、小皿に入れてやった。

  <小休止>が終わると、弥生がひとり、ワゴンを押して帰っていった。久しぶり

に大きなパーティーが入り、その下準備があると言った。

 

**************************

 

=この世の超媒体・・・命/人間原理のファインダー (カメラののぞき窓)


             
  

「さあ...」響子が、作業テーブルを見回した。「私たちは、もうひと頑張りしましょう。塾長、お願

いします」

「うむ...」高杉がうなづき、モニターに目を移した。「ええ...ともかく...

  “非局所性”最大の問題点は...現行社会/現行パラダイムにとっての...“圧倒的な奇

妙さであり・・・特殊相対性理論に重大な脅威をもたらす”...ということなのです。

  ここ数年...“昔からある・・・この煙たい問題”が...物理学上の、真剣な議論の対象になっ

て来ているようです」

“量子もつれ”が...」響子が言った。「“量子もつれ・チップ”...“量子ドット・デバイス”として、

市民権を獲得し...この“量子力学の・・・物理的・非局所性の拡大”を...科学として、どのよう

に、社会的・文化的に取り扱うかということですね?」

「まあ、私は部外者ではありますが...おそらく、そんなところだと思います...

  “非局所性”の容認は...ともかく非常に奇妙であり...因果律の体系を突き崩し...特殊相

対性理論足元を脅かすということでしょう。しかし、いつまでも放置しておける問題でもないとい

うことです」

「はい...」響子が頭をかしげ、バレッタ(髪留め)に細い指を当てた。

「しかし...」高杉が、脚を組み上げ、手で押さえた。「実際、考えてみれば...

  “この世”には、有史以来の...“数え切れないほどの奇跡”や、“不思議な出来事”に、満ち満

ちているわけです。“宗教的な数々の奇跡”などは、その代表的な塊でしょう。そうしたものは、い

ったい、【人間原理空間・ストーリイ】記憶/総記録量の、“どれほどの量”を占めているので

しょうか...

  ともかく、こうした科学的・説明が未整備の...超常現象霊的現象などは...これから、“量

子もつれ/非局所性”の、最先端・テクノロジーとぶつかり始めるということです。【人間原理】

“創出される夢”が...いかに結晶化し、析出するかという...“トワイライト(たそがれ、夕暮れ)・ゾ

ーン”かも知れません...」

「...」響子が、反対側に頭をかしげた。

“生物体としての人体から・・・より本質的な・・・霊体/人格/心の領域”が...“科学的手法を

超える学問”の俎上に、上って来たのかも知れません。人類文明は、“文明の第3ステージ/意

識・情報革命”パラダイムで、いよいよこうした領域に足を踏み入れて行くのかも知れません」

 

「私たちの文明社会は...」響子が言った。「ある一面では...

  常に...奇跡/超越的な現象を、願って来たのではないかしら。それを、“神に祈って来た”

と言ってもいいでしょうね。“心の領域”が、この世の実体の何たるかを見抜き...それを直接求

め続けて来たのでしょうか。私たちが“非局所性”を、物理・科学の俎上にのせる以前に...」

「うーむ...」高杉が、顎をしぼった。

「これは...

  【人間原理空間・ストーリイ/・・・人類救済史ストーリイ】の...“世界軸”に、属する領域

かも知れませんわ...そこに、いよいよ、“量子もつれ/・・・非局所性のメス?”が入るのでしょ

うか?」

壮大なロマンですねえ...

  “人間的=因果律ストーリイ・・・/・・・世界の時空構造的・解釈”では...常に“救いの奇

跡”と...その“奇跡発現の願望”に満ちています。そこに...食物連鎖生態系の喧騒があり、

生存・存続・適応・進化というエネルギーに満ちています...


      “私/・・・主体/・・・1人称の認識鏡の世界・・・ 

  その鏡に映る・・・眼前のリアリティー世界とは、何なのか!?  

 

  これは、古くて新しい最大のミステリー/永遠の謎です...科学は、数学的/物理学的な、

空間・構造解を示しましたが、これはリアリティーとは、相当なズレを感じます。そうした中で、

学技術文明が、極度に進行してしまいました。

  しかし、それが...“量子力学の・・・物理的・非局所性の拡大”を受け...“リアリティーにおい

て・・・ストーリイ性が・・・過不足のない統合性を発動”し...いよいよ、“心の領域”“量子世界

/物の領域”との、親和性が出てきたのかも知れません...

  そして...これもまた、“人間原理・・・人間的側面”ということなのでしょう...」

「はい...」

【人間】を離れて...

  “意識/認識世界”/主体性の鏡/・・・【人間原理空間・ストーリイ】は成立しません。この、

“私/・・・主体的人格”こそが...=リアリティーの世界の超媒体=なのです。言うまでもない

ことですが...“私という人格と・・・この世とは・・・表裏一体”の関係にあります。

  シュレーディンガー(オーストリアの物理学者/波動力学の創始者/ノーベル物理学賞を受賞)が言うように...

“主体”“客体”の間に、境界などというものは、本来存在しないのです...“この世”の全ては、

“私/・・・主体的人格”なのですから...」

「はい...

   “実は・・・認識の鏡でも・・・ファインダーでもなく・・・それを上回る超媒体”...ということ

でしょうか?」

“認識の鏡”と言っても、“ファインダー”と言っても、“超媒体”と言っても同じでしょう。まあ、これ

から研究が進んで行く領域だと思います...大いに興味はありますが、共に、みんなで考えて行

こうという時代です」

「はい...」

「私たち多細胞生物体というのは...

  生命潮流の中で多様性というベクトルに乗り...生命体を巨大化し、それによって、“複雑性

を加速し・・・無限とも思われる進化を獲得”...して来ました。

  しかし、その多細胞化・高機能化の中で、必然的に、“寿命”というものが付与されてきました。

それは“新陳代謝”という、“エントロピー増大宇宙の中での・・・エンジンを維持”するためです。

  この“新陳代謝・エンジン”があってこそ...熱力学の第2法則/エントロピー増大ベクトル

拮抗し...存続/構造化/進化/永続性というマイナスのエントロピーを波動させ...“生命

体・・・命”が実現しています」

「はい、」響子が、自分のモニターに目をやりながら、うなづいた。

「つまり...

  この、多細胞化/複雑化/無限の進化の獲得は...“失楽園(創世記/アダムとイブの楽園追放)

ったのかも知れません。以来、多細胞生物高度な意識は...“新陳代謝の中での廃棄・・・死

/アポトーシス(プログラム細胞死)...に、悩まされることになったわけですねえ...」

食物連鎖も...」響子が、顔を上げた。「広い意味では...生態系の中でのアポトーシスなの

でしょうか?」

「そうだと思います...」高杉が、うなづいた。「さて...

  この“新陳代謝・エンジン”は...身近な生態系の中では...細胞レベル個体レベル種レ

ベル”までが、観測されています...惑星空間/太陽系空間における生命圏レベルは、これか

ら調査されます。ここまでは、私たちの仕事でしょう。

  しかし、太陽系・巨大生命圏を離れて...銀河空間における生命圏となると...それは私た

ちの、“はるかな子孫”の仕事になるのでしょうねえ。この“新陳代謝・エンジン”のみが、現在、

類文明によって確認されている、唯一の“生命エンジン”なのです...」

「はい...」響子が、ゆっくりとうなづいた。

「しかし...」高杉が、窓の方に目を投げた。「別のスペクトル(光を分光器に掛けて得られる波長帯)を見れ

ば...“寿命の獲得”こそ...その“失楽園”こそが...様々な感情の起伏を発現させ、豊かな

文化と、文明社会を生み出しました。そこに、“限りない芸術を育む源泉”もあったわけです...

  “限りある命・・・逆に、死があるからこそ・・・生きる価値が生まれる”のです...“死があるから

こそ・・・存在の覚醒/悟りも発現する”...というわけです...」

「はい...」

「我々は...

  自らの意思で、“この世”に生まれてきたのではないのです。我々は、生命潮流のベクトルの中

で、生かされているわけです。我々の細胞各臓器脳の思考回路は、“存続する/成長する”

という方向へ、膨大な動因がかかっているのです。つまり、こうして、生かされているわけです。

  生物体/・・・ヒトと、ロボットとの違いは...60兆個にも及ぶ細胞にまで...この内的動因

かかっているかどうかです。

  例え1本の雑草でも、単細胞の細菌でも...その動因のかかっているものと、かかっていない

無生物とでは、大きく違うということです...」

                                   

「高杉さん...」響子が、上体をのり出した。「話は違いますが...

  単細胞生物には...“寿命のシステム”がないというのは、本当なのでしょうか?」

「うーむ...そう言われていますねえ...

  単細胞生物では...38億年40億年も生きながらえている生物体が...ひょっとしたら、存

在するかも知れないと言うことです。まあ、可能性ということでしょうが...」

「うーん...実際には...捕食されたり、何らかの形で死んでしまうわけですね?」

「そうです...だから、理論上は、ということでしょうねえ...

  単純な構造で、“新陳代謝”していて...アポトーシス(プログラム細胞死)というシステムが無いか

らでしょうかねえ...素人の推測ですが...」

「でも、そうした細胞が...実際に、どこかで機能している可能性も...あるわけですね?」

「そうです。まさに大きなロマンです...

  “生命体”“意識”は、この“世の最大の謎”です...それそのものが、奇跡のような存在です

から、どのような事になっているのかは想像を絶しています...

  “原初の/・・・最初の生命体”が、この宇宙の何処かで...まだ、ひそかに生きているのかも

知れませんねえ...それが、仮に、“神”だとして...では、その“神”は、何処から来たのかと

いうことです...

  あるいは、“生命”宇宙の初期条件に書き込まれていたとして...では、それを書き込んだ

のは、誰かということです。そして...そもそも...私たちが、こんな論理を考えていること自体

が、何処に根拠があるのかということです...」

デカルトの言う...“我思う、ゆえに我あり・・・”ですね...何とも、心もとないものですわ」

「まあ...私としては...

  単細胞生命寿命はともかく...そうした“永遠性”を背景に...“36憶年の彼”という、“超

越的人格”を、≪ニュー・パラダイム仮説≫として提唱しています。そういう意味では...“命の

本質”は、細胞個体の上を電気のように流れ...“プロセス性の影”のとして表現される

様ですね...」

「うーん...」響子が、口に手を当てた。

「そうした上で...」高杉が言った。「現代・人類文明の上に...何らかの、“自然系・・・上位シス

テムの存在”が、浮かび上がって来たということですねえ...

  いよいよ、そういうことわ、議論する時期が到来しました。それは、魔界なのか、輪廻(りんね)

のか、膨大な生命情報系の迷宮なのか...それは、まだ分かりません。あるいは、そうしたスト

ーリイは、全てが真実の結晶析出なかも知れません...

  リアリティーとは、“過不足のない世界/巨大な全体世界”ですから...」

「はい...」響子が、髪に手をやった。「そこで...

  折しも...“量子力学の・・・物理的・非局所性の拡大”が、始まったということですね...うま

く、整合性が取れていますわ...ストーリイとして、良い兆候と思いますけど...」

「そうですね...ともかく、議論の行方によっては...

  “物理学の基盤は・・・最終的に崩れるのか”...“歪められるのか”...“腐敗のタネがバラ撒

かれるのか”...それとも、“物理学の基盤は・・・確固たるものになるのか”...あるいは、“これ

までの成果の上に・・・再創造がなされるのか”...と言われています...」

「はい...」響子が、作業テーブルの上で両手をそろえた。

 

<歴史の点描・・・・・>                   

                       

「さて...」関が言った。「“E・P・Rの思考実験”/“長い題名の論文”の話を続けます...

  ボーア“E・P・Rの思考実験”については、すぐに反駁(はんばく)したようです。ええと、ボーア

が書き綴った、アインシュタインに対する“反駁の手紙”があります。しかしそれは、具体的な科

学議論に関するものではなかったようです」

「はい...」江里香が、コブシを口に当てた。

ボーア反駁というのは...

  “3人の連名/長い題名の論文”の中の、“・・・実在・・・”という言葉の使用と、“・・・物理的・実

在の要素・・・”定義に...異議を唱えたものだったということです。つまり観念的な、言葉の定

の問題でした...それも、非常に不明瞭で、謎めいたものだったようです」

「ふーん...」マチコが、ミケの背中を軽く足で踏みつけた。ミケが裏返しになり、猛烈に足にジャ

レついた。「...そうかあ...」

「いいですか...」関が言った。「ボーアが言うには...

  “私たちは・・・ボンヤリと曇った眼鏡を通して、世界を見ているだけではなく・・・そうした不明瞭

な像が、実体そのものである”...と主張したようです。つまり、“E・P・Rの思考実験”という、

学的・問題提起に対し、ボーアの反駁は、まさに哲学的なものだったようですね...」

「やっぱり、さあ...」マチコが、ミケを両足で挟んだ。「これまでのような返答は、できなかったわ

けかしら?」

「そうですね...正面からの反論は...できなかったようです...

  これから話しますが...以来、足かけ30年間...“E・P・Rの思考実験”を、量子力学で説明

することは、不可能と考えられて来ました。ボーアも、このアインシュタインの挑戦には、非常に苦

労したものと推測します。そして、未決着のまま、2人とも生涯を閉じているのですから...」

「ええと...」響子が、片手を上げた。「アインシュタインは...1955年に没しています。ボーア

の方も...【ベルの定理】が発表される2年前の...1962年に没していますね」

「ありがとうございます...」関が、小さく頭を下げた。「ええと...

  そもそも...最初の時点で...“ボーアの反駁の手紙”の頃の時点で...奇妙だったのは、

周囲の反応/周囲の反駁の態度でした。この、“ボーアの哲学的とも言える反論”を...“理論

物理学の・・・公式な教義”...として祭り上げてしまったことです」

「うーん...」マチコが言った。「“公式な・・・教義”かあ...それは、“権威のあるもの”ということ

よね、」

「まあ...他に論理的な説明が、できなかったのでしょう...

  以来、30年間...量子力学は、非常に取りつき難いものになってしまったようです。この閉塞

状況が、“コペンハーゲン解釈”未完成近寄りがたいものにし...エキゾチック量子世界を、

一般社会と隔絶させてしまったのかも知れません...これは、私の推測ですが...」

「うーん...今も昔もさあ、そんな人たちがいるわけなのね...」

「しかし...」高杉が、自分の掌を見つめた。「量子力学は、まさに正しかったわけです」

「そうかあ...」マチコが、額に手を当てた。

 

「いいですか...」関が、マウスから手を離した。「ともかく...

  それ以降...これらの問題に時間を費やすことは...“理論物理学における・・・背教(はいきょう

/教えに背くこと)となってしまったわけです。量子力学は、数々の証拠から正しいことが証明されて

いるわけですが、それらは不透明になり、一般的には、益々説明しにくいものになったようです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。

「それはまた...」関が言った。「物理学において...

  “眼前する世界=リアリティーの実態が・・・どのようなものかを解明するという・・・ルネッサンス

以来の科学的態度”を...大きく失わせしめることにもなったようです。まあ、そんなことで、何か

が煮え切らないまま、科学技術文明が、目標もなく突き進んで来たようです...

  現在、その矛盾が、文明の危機として噴出しているのかも知れませんね。そして、この事態が、

“文明の折り返し/反グローバル化”を...そして、〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕

を、人類文明に要求しているのかも知れません...」

「はい...」響子が、大きくうなづいた。「そうですね...

  そういう所から、私たちにとっても...量子力学というものが非常に難解で、哲学的なものに

なってしまったということですね。理論・物理学者や、実験・物理学者たち自身が、そのロジック

(論理)から抜け出すことができなかったように...

  でも、何故...【ベルの定理】までに、こんなに時間がかかったのかしら?」

「うーむ...」関が、頭のてっぺんを撫でた。「私は、その時代に生まれたわけではないので、分

かりません...

  ただ、ごく単純に...ふと、“それを思いつく”ということが、無かったのだと思います。ごく簡単

なことですが...アインシュタインまでは、“量子”としてとらえることが無かったようにです」

「はい...」響子が言い、顎を引いた。「そうですね...」

「ええ...」関が、モニターの方に目を移した。「そんなわけで、ですね...

  【ベルの定理】が発表されるまで...足かけ30年/・・・1964年まで...“E・P・Rの思考実

験” の問題は、“棚上げ”にされてきました。つまり、ボーア形而上学(けいじじょうがく)“問いか

けの付箋(ふせん)を付け...空想文学の世界へと追いやっていたわけです」

「そうかあ...」マチコが、作業テーブルの下を見た。ミケが、隣の江里香の方へ行き、脚に頭を

こすりつけていた。

                       wpe4D.jpg (7943 バイト)

「しかし...」関が言った。「それで、問題解決とはなりませんでした...

  実際には、1964年以降も...【ベルの定理】<科学における最も深遠な発見> は、

実上無視され続け来ました。“非局所性の概念”は、現行社会のパラダイムとは、あまりにも

質/異端的なものだったからです。

  したがって...ほとんどの科学者は...旧来還元主義的手法で、研究を続けて来たわけで

す。あえて、“非局所性の本質領域”には、踏み込まないで歩んできたわけですね。おそらく、その

ために...人類文明/科学技術文明は、大きな閉塞状況に陥ったのではないでしょうか...」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「でもさあ...

  “非局所性の概念”から導き出された...“新しいパラダイム”なんかはさあ...何処にもなか

ったわけでしょう...そして量子力学はさあ、“非局所性の概念”を、中途半端形式的に受け

入れていたわけかしら?」

「その通りです...」関が言った。「さすがは、マチコさんですね。そして、そこが問題なのです」

「?」

「いいですか...

  【ベルの定理】は...“局所性/局所原因の原理”が間違っていることを、数学的に証明しま

した。しかし、それが、“どのように間違っているのか・・・?”は、指摘していないのです...

  こういうことは、よくあるわけですが、“医療における治癒”のように、治療目的が達成されれ

ば、アルゴリズム内容は、どうでもよいというわけにはいきません。だから、1964年以来“放

置されていた”、ということになるわけです」

「そうかあ...理論・物理学では、理論が大事なわけなのかあ...」

「そうです...」関が、うなづいた。「これは...

  古典的なパラダイム/ニュートン力学で...惑星間ロケットを飛ばし...原子炉核融合炉

を建設して行くようなものです。そして、そうした分野が、一頓挫している状況も似ていますね」

「でも...」響子が言った。「実際には...

  相対性理論量子力学で進めて来ても...一頓挫したわけですわ。そうしたベクトルに、何故

急激なブレーキがかかり、コンピューター爆発的に発達してきましたわ」

「ま、そうですね...

  私のレベルでは、はっきりしたことは言えませんが...現・パラダイムの近似値が...非常に

大きく乖離して来たためかも知れませんね...時代は、パラダイム・シフト臨界領域に達して

います。そして、すでに近似値では、対処できなくなってきたのだと思います...」

「うーむ...」高杉が、腕組みをした。「そういう考え方もあるわけですか...

  私は、かねてから...【人間原理空間・ストーリイの・・・世界軸の傾向】から...“ストーリ

イ性の本流”が、シフトしたからだと考えて来ました...

  “文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の流れ...つまり、宇宙開発/宇宙植民/原

子炉開発/核融合炉開発延長線上の方向ではなく...“文明の第3ステージ/意識・情報革

命”という、次のステージ選択されたと考えています」

生命潮流のベクトルが...」関が言った。「ストーリイ内的・偏光特性が...そうした方向性を

発現したということですね...

  その塾長のラインに、特に反論はありません...ただ、ズレの状況/宇宙開発や原子炉技術

の一頓挫の状況として...近似値・乖離の拡大が、影響しているのではないでしょうか...?」

「ふーむ...」高杉が、宙を見つめた。
 

<物理学者=J.S.ベル定理とは?>           

                

「さて、そこで...」関が言った。「アイルランド人物理学者/John  S.Bell /【ベルの定理】

業績から...ボーアアインシュタインの...双方の誤りが浮かび上ってきます...

  それは、どういうことかと言うと...ボーアは、わざわざ、“長い題名の論文”/“E・P・Rの思

考実験”について...“1点だけは同意する”と、反駁の手紙の中で述べているらしいのです。そ

れは、“・・・正真正銘の物理的・非局所性とは・・・一体何であるのか?”、という点に関してです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「“・・・一体何であるのか?”...というのは、何かしら?」

「まあ、」関が、両手を開いた。「聞いて下さい...

  いいですか...“1点だけは同意する”という、その合意の上で...“見かけの・・・非局所性”

という言葉を使っています。“正真正銘の物理的・非局所性”に対する、“見かけの・・・非局所性”

です...これで、どういう意味かは分ると思います」

「うーん...」マチコが、うなづいた。「つまり...“本物の・・・非局所性”に対する、“見かけの・・・

非局所性”というわけよね?」

「その通りです」

「つまり...」江里香が、マチコを見た。「ボーアも...“E・P・Rの思考実験”に現れる、“非局所

性”は、“見かけの・・・非局所性”と認めていたのかしら?」

「うーん...」マチコが、関を見た。

「まあ...“参考文献”を見るかぎりでは...そのようです...

  ここで、問題なのは...量子力学アルゴリズム(問題を解決する定型的な手法・技法)に存在するよう

に見える、“非局所性”というものが...“単なる見せかけ”だけのものなのか...“それ以上の

実態をともなう”ものなのか...ということです」

「はい...」江里香が言った。「ボーアは...“見かけの・・・非局所性”ということで、アインシュタ

イン同意したわけかしら?」

「まあ...そのようだ...ということです...

  ボーアにしても、スパッ、と割り切ったというわけではないでしょう。それほど簡単な問題ではな

いですからね。これ以来、ボーア生涯この問題を考えていたのでしょう。もちろん、アインシュタ

インもです。しかし、ここは...“便宜上・・・割り切っておく”...ということです」

「はい...」江里香が、長い髪を胸元に持って来た。

「そして、そうした意味において...“結果的に・・・二人とも間違っていた”、というわけです...」

「はい...」マチコが、首をかしげた。

「何故なら...

  “E・P・Rの思考実験”に現れる“非局所性”は...“見かけの・・・非局所性”ではないことが、

【ベルの定理】によって、数学的に証明されたからです。それは“実態をともなうもの”であり...

そこから“量子もつれ”という...“量子力学の特性の1つ”が転がり出して来たからです...」

「そうかあ...」マチコが、大きく口を開けた。

「重ねて言いますが...

  これだけのデータでは...偉大な物理学者2人真意など...語れるものではありません。

ただ、コトの成り行きとしては、一応、こういう説明になるということです」

「はい、」江里香が、胸でコブシを握った。

 

「さて...」関が、慣れた手つきで、モニターをスクロールした。「話を進めます...

  そこで、2人が合意し...“理論物理学の・・・公式な教義”に祭り上げられた、“見かけの・・・非

局所性”が、何を意味するかに関して...最初に真正面から取り組んだ人物が、J.S.ベルだっ

たわけです」

「うん...」マチコが、上体を揺らした。「背教だからさあ...“天動説”に逆らった、ガリレオと同じ

わけよね。迫害はなかったのかしら?」

「ははは...」関が、手で口をこすった。「いいですか...これは、現代の話です。もちろん、迫害

などはありません。ともかく、ベルはこう考えたようです...

   “正真正銘の、物理的・非局所性と・・・見かけの非局所性とを・・・どうすれば、区別で

きるだろうか?” ...ということです」

「そうかあ...」マチコが、手を打った。「それを...区別する方法を、探したわけね?」

「つまり...正体を見破るわけですね?」江里香が、マチコに言った。

「うん!」マチコがコブシを揃え、コクリとうなづいた。

「簡単に言いますがね...」関が、首を左右に振った。「それが、難しかったわけです...

  30年間...誰も、その方法が分からなかったわけです。しかし、ベルはそれを見破るために、

こう考えたわけです...

   “量子力学のアルゴリズムが予測するのと、同じ結果を予測する・・・完全な局所的ア

ルゴリズムが・・・もし存在するなら・・・どうなるか?”...ということです。

  この場合、 “量子力学の非局所性の方が、見かけの非局所性である” ...と断言

きます...そうですね?」

「うーん...どういうことかしら?」

「つまり...“完全な局所的アルゴリズムが・・・確実に存在している”...という、“局所性が保証

された条件”だからです...それなら、“非局所性”の方は...必然的に、“見かけの・・・非局所

性”と、断言できるわけです」

「はい...」江里香が、両手を合わせた。「そういう“条件”ですから、そうなります...」

「そう...」関が、うなづいた。「つまり、この場合は...

  ボーアが、アインシュタイン同意したところの...“量子力学の非局所性”というものを...

数学的形式がもたらす...“単なる見かけ上のもの/見かけ上の非局所性”として片付けるの

は...正しいということです」

「はい、」江里香が、うなづいた。

「しかし、いいですか...逆に...

  “どのアルゴリズムも・・・非局所性を避けられないのなら・・・それらは正真正銘の、物

理現象に違いない” ...ということなのです...」

「うーん...」マチコが、強く腕組みをした。「分かったような...分からないような話よねえ...」

「じゃあ...」関が、笑った。「とりあえず、分かったことにしましょう...

  それで、よしとします。後は、これからくり返し、じっくりと説明しますから。そうでないと、話が進

みません」

「はい、」マチコが納得し、うなづいた。

「さて...ベルはその後...

  “ある特定の・・・量子もつれ実験を・・・数学的に解析” しました。そして、 “そのよ

うな、局所的アルゴリズムは・・・数学的に不可能である と結論づけました。

  したがって...

 

       “現実の物理世界は、非局所的である・・・

             以上、証明終わり!”            

 

  ...というのが、【ベルの定理】です」

「うーん...これも、分かったような...分からないような話ねえ...」

  江里香も、マチコを見てうなづいた。

「いいですか...」関が言った。「実は、この“ベルの結論”は、全てのものをひっくり返してしまっ

たのです...

  アインシュタインボーアも、それから他の誰もが...当然のことのように... “量子力学

と、局所性の原理が両立しないのは・・・量子力学にとって悪い知らせだ ...と考えてい

たわけです。いっそう、量子力学には、“一貫性が無い”とか、“間違っている”とかの批判です。

  しかし...この【ベルの定理/ベルの数学的証明】によって...今や、 局所性は・・・

単に量子力学の抽象的・理論機構と、相容(あいい)れないだけでなく・・・その具体的な予測

の幾つかとも・・・相容れないことが示された ...というわけです。

  これは...実は、物理学にとっては、大変なことでした。物理学者たちは、“世界観の修正!”

を迫られていたのです。“局所原因・原理”否定とは...前にも言ったように...“現象の原因

が・・・現象そのものの中にはない”...ということなのですから...」

「うーん...」マチコが、大きく上体を揺らした。

「いいですか...」関が言った。「これは量子力学ですから、物理的・時空間ということですね...

  つまり、物理的・時空間で...“因果的・連鎖の流れ/因果律”というのは...“絶対的なもの”

ではなく、“破れている”ということです...

  それも、観測される...“偶然の一致/共時性(ユング心理学のシンクロニシティ)や、超常現象や、

々の奇跡の析出などから...大きく崩れている様子...だということです...」

  関が、意見を求めるように、高杉の方を見た。

「そうですねえ...」高杉が言った。「それを...今後、私たちなりに、検証してみましょう...」

「はい...」関が、小さくうなづき、モニターに目を戻した。

「じゃあ、さあ...」マチコが、高杉に言った。「裁判なんかも、おかしくなってくるのかしら?」

「うーむ...」

「遠い将来においては...」関が言った。「そうなのでしょうか?」

  高杉が、黙ってうなづいた。

「結局、それも...」響子が、顎に手を当てた。「人間が、“人間的に決める”ということですわ」

「そうです...」高杉が、うなづいた。

 

「でも、本当なのかしら...」江里香が、関に聞いた。「【ベルの定理】は...確かなものなのか

しら?」

「もっともな質問です...」関が、江里香にうなづいた。「したがって、それは徹底的に検証された

様です...

  最も優秀な頭脳で、検証されました...むろん反論もあります。“量子力学の多世界解釈”

と、その並行宇宙の1つにいて、他が見えなければ、それは“局所的”とも言えるわけです...し

かし、とりあえず...ここでは、枝葉異論を取り払い、本筋をスッキリと説明することにします」

「お願いします」高杉が、頭を下げた。

「うーん...それでさあ...【ベルの定理】は、間違いがなかったわけね?」

「まあ...そうです...

  ともかく...私たちが知っている数学のテストとは、レベルが違います...実験・物理学者

よっても... “ベルの予測が・・・まさに正しい” ...ことが確認されています。

  特に、知られているのは...フランス/パレゾー/光学研究所/アスペ(Alain Aspect)等によ

る実験です...これは、1981年と、その後の実験があるようですが、しっかりと確証されている

ようです。

  ただ...【ベルの定理】“アスペの実験”の...真の意味を理解したのは、ほんの少数の物

理学者だけだったということです...ほんの少数の物理学者だけが、“世界そのものが・・・非局

所的であることが・・・発見されたという意味なのだ”...と理解できたそうです。

  まあ、この部分は....“参考文献”にも載っていないわけですが...非常に難解なようです。

こうした事のために、1964年以来“店晒し(たなざらし)にされていたわけですね...

  ところが、“量子もつれ”の方が、“量子情報科学”としてスタートし...“量子力学の非局所性”

を、量子コンピューター量子通信に、実装するという段階になったわけです...」

「そうかあ...」マチコが、天井を見た。

 

「いいですか...」関が言った。「つまり...

  【ベルの定理】からくる“悪い知らせ”というのは...量子力学にとってではなく...“局所性・

原理”にとっての、“悪い知らせ”だったわけです。“局所性・原理”...つまり、“因果的・連鎖の

流れ/因果律”が、否定されたわけです...

  そして、先ほども述べたように、おそらく特殊相対性理論にとっても、“悪い知らせ”なのかも知

れないということです...“特殊相対性理論は・・・少なくとも、局所性を前提にしているようだ”

と言うことですから...」

「うーん...妙な言いまわしよねえ...」

「そうですね、」関が、顔を崩した。「つまり...現在、議論・研究が進められているようですから」

「でも...」江里香が言った。「“量子もつれ”という現象は...実在の現象だと、確認されたわけ

ですよね?」

「もちろんです...

  現在、量子コンピューター・デバイスとして、実装の段階まで来ています。今後、こうした“非局

所性の膨大な通信ネットワーク”が、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、中核になって行

くと考えられますね。

  そして...“非局所性”が、“リアリティー世界の本質”なら...こうした情報系は、“リアリティー

と・・・より親和性が高いシステム”になります。いよいよ、“物の領域と・・・心の領域との・・・統合”

が...視野に入って来たのかも知れません」

「はい!」マチコが、コクリとうなづいた。

 

  〔4〕 【ベルの定理】を・・・別の角度から、もう1度

    wpe5B.jpg (113373 バイト)           

「さて...」高杉が言った。「“EPRの思考実験/量子もつれの考察”と、【ベルの定理】につい

て...関さんが、分かりやすく説明してくれたわけですが...もう1度、別の角度から/歴史的

経緯から...考察してみましょう。それで、少しでもその様子が、伝わればと思っています」

「はい...」関が、うなづいた。

「まあ...

  いつも言っていることですが、私たちは第一線の研究者ではありません。専門分野を持たない、

外部一般人です。したがって、完璧な理解ではないのかも知れませんし、限界もあります。その

上で、あえて学問の深い領域挑戦しているわけですが、そのあたり、はよろしくお願いします」

「その代わり...」関が、楽しそうに言った。「立場がフリーですね...

  何でも言えるわけです...未来予測などについても、“方法論的な縛り/学問的な縛り”もなく、

何でも言えるわけですね。未知のジャングルを切り開いて行く、山刀にもなれると思います。未知

の荒野をジャンジャン進み、“道/叩き台”を作っていくことができます」

「まあ...そのや掘り出した鉱脈が、役に立つものであることを祈りましょう。後で振り返ったら、

ずいぶん見当違いの方向だったというのでは困ります」

「はは...」関が、顎をなでた。「そうですね...クズ鉄の山ではどうしようもないわけです。精錬

して、せめて玉鋼(たまはがね/日本刀を作る鋼)ぐらいにはなって欲しいですね。なに、私は、大丈夫だと

思います」

「うーむ...」高杉が、口に手を当て、深く考え込んだ。

 

「ええと...」高杉が、響子の方を見た。「では、響子さん、いいですか?」

「あ、はい...」響子が、マウスに指をかけ、モニターを確認した。

「まず...」高杉が言った。「ええと...こういうことでしたねえ...

  J.S.ベルが、1964年に証明した【ベルの定理】と...1980年代の初頭以降に得られた、

“関連する実験結果”の組み合わせから... “物理世界の・・・非局所性が・・・証明された”

、というわけです。

  これは、“実は大変なこと”だったわけです。“この世”が、ひっくり返るように発見だったわけで

す。しかし、世間一般では騒がれなかったようですねえ。現在でも、一般には、あまり騒がれてい

ません。実生活には、あまり関係がないということでしょうか...」

「はい...」響子が、細い指を組み合わせた。「私も、小耳に挟んだことは覚えていますわ。でも、

それっきりになってしまいました...その非局所性の意味を、深く理解できなかったからですわ」

「うーむ...私も似たようなものですねえ....

  しかし、時代の背後では、重大な事態が着実に進行していたわけです。つまり、“量子もつれ”

の、工学方面での理論研究がぐんぐん進みました。“量子もつれデバイス”の可能性や、量子コン

ピューター量子通信の可能性が確認されるようになりました。そして、次世代テクノロジーの基

盤的技術が、遠望できるようななってきたわけです...」

「はい...」響子が、顔を上げた。「でも、不思議な感じがしますわ...

  私たちのホモサピエンス文明に、何か強いバイアス(偏り、偏向)が働いているような感じがして、」

「そうですねえ...

  【人間原理空間・ストーリイ】も...マッサラな座標系に書き込まれて行くというのは、あり得な

いと思います...膨大な複雑系の上に、夢が結晶化するのかも知れませんねえ...あるいは、

鬱蒼(うっそう)とした生態系情報の藪の上に、文明という花が咲いたのかも知れません...」

「うーん...ですか...」

「そうです...というのは、不思議なものです。高山の切り立った崖にも、一輪の可憐な花が咲

いていたりします。私たちはそれを、人間的な側面/人間的なバイアスの中で目撃しているわけ

ですが...はるかに崇高で、深遠な意味があるのかもしれませんねえ...」

「はい...私も、可憐な高山植物は好きですわ...でも、この世界は本来、そうしたもので構成さ

れています」

「もう1つ...」高杉が、指を立てた。「太古以来...

  この地球生命圏においては...地質年代的“種の大量絶滅”が繰り返されてきました。そし

て、そのたびに、生命潮流フォーマットされた、膨大な空きニッチが準備されました。したがって、

そこに起こる次の爆発的な生態系の繁栄も、マッサラな場で起こるというわけではありません」

「はい...」

生態系におけるフォーマット空間/・・・膨大な空きニッチには...すでにバイアスがかかってい

るわけです。まあ、ストーリイ性の発現については、これから始まる“文明の第3ステージ/意識・

情報革命”の主要課題として、解明が進んで行くでしょう...」

「うーん...そうですね...」

 

「さて...」高杉が、モニター上に小窓表示されている、進行メモを拡大した。「話を戻します...

  ええ...【ベルの定理】は、前にも説明されているように...1935年...中間子論と同じ

年に発表された、“長い題名の論文/アインシュタイ・ ポドルスキー ・ ローゼンの論文”で指摘さ

れた、“量子もつれ粒子・・・に関する謎”...をターゲットにしています」

「はい...」響子が、マウスをクリックし、顔をあげた。

“長い題名の論文”では...こう言っているわけです...

  “自然界は・・・局所的である”...したがって、“量子もつれ粒子対”一方/粒子・A

することで...遠く離れた/粒子・B物理状態を、“瞬時に・・・変えることはできない” 、と

結論づけたわけです...まさに、これが、【ベルの定理】によって完全否定されたわけですね、」

「はい...」

“量子もつれ”は...厳密な意味で...“距離に依存しない”わけです...

  では...“銀河系の両端/10万光年も離れた粒子のペア”でも、それは成立するかということ

です。当然、アインシュタインたち/3人は...そんなことは、“成立するはずがない”と考えたわ

けです。特殊相対性理論でも、光速度を超える影響は存在しないとしているわけですね...」

「はい...」響子が言った。「ええと...1つ質問します」

「どうぞ...」高杉が、脚を組み上げた。

粒子測定することで...それだけで、影響を受けるわけですね?」

「その通りです...

  だから、現在...“量子状態を壊さずに測定”する、“弱い測定”が注目されているわけです。し

かし、これは別の機会に話しましょう...

  ともかく...観測者観測することで...それだけで、粒子・A影響を受けるわけです。する

と、瞬時に、遠く離れたペア粒子・Bの方も、影響を受けるということです。つまり、“もつれた粒

子ペア”では、そうなるということです。

  それが例え、10万光年も離れていようとも...量子力学では“距離に依存せず”に...そうな

るということです...そのことが、【ベルの定理】証明されたわけです...」

「はい...」響子が、うなづいた。「話が飛びますが...

  量子通信においては...そのことで...暗号がもし観測/盗聴されていたりすると...盗聴

スタンプがつき、分かるというわけですね...“もつれた粒子ペア”の、もう一方の側にも、盗聴ス

タンプ瞬時につくことで、バレてしまうと...?」

「まあ...」高杉が、膝に手をかけた。「そういうことです...

  しかし、私たちは、詳しいことを知っているわけではありません。推測です。いずれ、量子通信

が本格化して行けば、しっかりと説明されるでしょう。“量子テレポーテーション”の方も、その実態

/発展性も、明らかになってくると思います」

「はい...」響子が、自分のモニターに目を移した。「もう1つ、お願いします」

「はい、」

“量子もつれ”“距離に依存しない”というのは...

  “非常に厳密に”ということですが...波動方程式では、そうなるということなのでしょうか?」

「うーむ...

  私は、物理学者ではありませんから、どの方程式が関与しているのかは知りません。しかし、

量子力学では、厳密にそうなるということでしょう。それが、大雑把な測定値なら、もちろんアイン

シュタインボーアも...そしてベルも、それほど真剣になることもなかったわけですから、」

「はい...そうですね」

 

「ええ...」高杉が、組み上げた脚を下した。「ともかく...

  アインシュタインたち/3人は...“自然界は局所的であり・・・量子力学が示すような・・・

非局所的な現象は成立しない” ...と主張したわけです。つまり、“もつれた粒子ペアが・・・

銀河のむこう端で・・・瞬時に影響を受けるような現象は存在しない”と主張したわけです。

  これは量子力学の、正面からの否定につながります。そこでボーアは、“見かけの・・・非局所

性”という言葉を持ち出してきたわけです。これは、実数に対する、虚数のようなものでしょう。

  しかし、【ベルの定理】“見かけの・・・非局所性”さえも否定しました。 “物理世界は・・・

純粋に・・・非局所的である” ことを、証明したわけです。それも形而上学的な証明ではなく、

数学的な証明です。したがって、これをひっくり返すのは、非常に難しいということです...」

「あの、高杉さん...

  こうした“量子もつれ”という現象は...量子力学の黎明期において、すでに知られていた現象

なのでしょうか?」

「そうですねえ...

  私は、当時の様子は知らないわけですが...“量子もつれ”は、かなり知られていた様子です。

アインシュタインも、この現象を“気味の悪い遠隔操作”と呼んで、しっかりと認めていました。その

上で、1935年に、“3人の連名による/長い題名の論文”を発表したわけですから...」

「ああ...」響子が、コクリとうなづいた。「はい...そういうことですね。量子力学の黎明期にお

いて、すでに大問題になっていたということですね、」

「まあ...ボーアとアインシュタインの論争の...最終章でしょう...

  そして、決着/・・・【ベルの定理】を見ないままに...アインシュタイン1955年に...ボー

1962年に...それぞれ他界しています。

  そして面白いことに、【ベルの定理】は...アインシュタイン“自然界は・・・局所的である”

という主張も、ボーア“見かけの・・・非局所性”という主張も、両方ともひっくり返したのです。

そして、 “物理世界は・・・非局所的である” という...量子力学の純粋性を証明したわけ

ですねえ」

「はい...」

「まあ...それで、どうなるかということですが...

  私たちは... “量子力学の物理的非局所性の拡大・・・量子コンピューター/量子通信

という次世代テクノロジーの展開” は...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代

へ、つながって行くと考えています。

  つまり...“エキゾチックな量子力学の世界”は...“心の領域/・・・意識=精神性”と...

和性/整合性/統合性示唆しているということです...」

「はい、」響子が、うなづいた。

 

EPRの思考実験に対し・・・ J.S.ベルが問いかけたものは?

                       

「ええと...」響子が、モニターから目を上げた。「話を戻します...

  常識的には...アインシュタインたち/3人の言うとおりなわけですね。特殊相対性理論によ

れば、光速度を超える影響は、存在しないということです。でも、“気味の悪い遠隔操作”は、確か

に存在していました。

  しかも、量子力学によれば、それは... “距離に依存しない影響力・・・基本構造的な影

響力” で... “10万光年(銀河系の直径)離れていようとも成立する” ...と言うわけで

す。これは、やはりというか、さすがに...ヘン...ですね、」

「それで...」マチコが言った。「その...

  “距離に依存しない影響力・・・基本構造的な影響力” というのは...“物の領域”

“心の領域”とを結ぶ...親和性ということになるのかしら...?」

「そうですねえ...」高杉が言った。「私は、その方向で考えています...

  まあ...“物の領域”“心の領域”の間に、とりあえず、“トワイライト(夕暮れ、薄明かり)・ゾーン”

考えてみるのも一考です。“エキゾチックな量子世界”と、“主体/・・・心の領域”との中間的な領

です...考えてみるだけでも、面白そうですねえ...」

「うーん...」マチコが言った。「そうかしら...」

「そもそも...

  この世界を、“物の領域”“心の領域”とに分割したデカルトは、“神”を信じていました。彼に

とっては、“物の領域”“心の領域”と統合するものは、ごく自然に“神”で良かったわけです。そ

れはそれで、整合性のとれていたのです。

  さて、そこで...21世紀の私たちとしては、どう統合するかということです。これまでのように、

放置しておくわけにはいかないでしょう。

  “量子力学おおける・・・物理的非局所性は・・・次世代テクノロジー/量子コンピュータ

ー・デバイスとして・・・近未来文明の基盤として定着してくる” ...ということです...この

“非局所性”を無視することはできません」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「それで...?」

「まあ、これは、物理学を超えている問題ですねえ。私たちとしても、徐々に考えていきましょう」

「はい、」関が、うなづいた。

 

「さて...」高杉が言った。「ともかく...

  当時、アインシュタインたち/3人は...“そのような・・・光速度を超える影響力は存在し

ないはずだ!” と確信していたわけです。そこで、1935年に、“3人の連名/長い題名の論文”

で、“量子力学世界/・・・量子もつれ”に、捲土重来(けんどちょうらい/一度破れた者が、再び勢いを盛り返して

いくこと)で、挑戦してきたわけです。

  ええと、そこで...彼等/3人は...“量子もつれが成立するためには・・・粒子・Aのスピ

が・・・すでに測定前から・・・あらゆる方向のそれぞれについて・・・確定値・・・を持ってい

なければならない”...と結論づけたわけです...まあ、そう仮定したわけですね...」

「どうしてかしら...?」マチコが聞いた。

「うーむ...」高杉が、腕組みをした。「そうですねえ...

  その高度で微妙な感覚は...プリンストン高等学術研究所(アメリカ/ニュージャージー州/プリンストン市

・・・超有名な科学者たちを集めた研究所)の、3人の高名な物理学者の導きだした結論です。ここは、それを

尊重しましょう...もちろん、ここがキーポイントであり、カギになるわけですが...」

「はい...」マチコが、神妙にうなづいた。「ええと...“粒子・Aのスピン”が...“確定値”を持っ

ているというわけね...どこへ飛んで行こうと...」

「そうです...

  ただし、この世界が...“局所的であり・・・部分的な系が成立する”...という条件下におい

てです...つまり、その“局所的”“非局所的”かが、問題となるわけですから...」

「うーん...」マチコが、髪をなでおろした。「ややこしいわねえ...ともかくさあ...信用しておい

た方がよさそうね」

「とりあえず、パスしておくのも1つの方法です。最初から、全部を理解できるわけではないですか

らねえ」

「はい...」

「さて、一方...量子力学としては...

  それらの値を...粒子・Aを測定した時に得る・・・どのような測定結果とも・・・整合性

とれたものになると保証できない限り・・・決められない・・・”...というわけです。それゆえに、

量子力学不完全な理論に違いない...という主張です...」

「うーん...」今度は、響子が、首をかしげて笑った。「非常〜に...分かりにくい説明ですわ」

「はっははは...」高杉も、笑った。「“参考文献”には...だいたい、同様のことが書かれてある

わけですがね...」

  マチコが、頭の後ろに両手を当て、椅子の背にそっくりかえった。ついでに、欠伸(あくび)をひとつ

した。

「しかし、まあ...」高杉が言った。「これでは、確かに分らないですねえ。もう少し、丁寧な説明が

欲しい所です」

「そうですね...」関が言った。「専門の、学者向けの論文ではないわけですから...」

「でも...」響子が、小さなため息をついた。「ともかく...先に進みましょう...」

「ああ...」高杉が、うなづいた。そして、もう一度資料を見比べた。

「ふーむ...」高杉が、挑むようにモニターを見つめた。「この説明には...高度な予備知識が必

要というわけですねえ...ま、話を進めましょうか...」

「はい...」響子が、モニターを見ている高杉の横顔を眺めた。

 

ベルの定理の・・・数学的証明 とは!

                 
   

「ええ...」高杉が言った。「ともかく...

  ベルが、“EPRの思考実験”に対して問いかけたのは...このようなものだったと言われてい

ます...

 

  粒子・Aと、粒子・B = 量子もつれペア”が・・・アインシュタインたち/3人が言うよう

に・・・あらかじめ確定値をもっていたと仮定します...

  しかし、そ確定値は...それぞれの粒子全ての測定に対して...量子力学から予

測される測定結果を・・・再現するだろうか?”

 

  ...というものでした...」

「この質問も...」響子が、口に手を当てた。「形而(けいじ)上学的で、分かりにくいものですわ。

当な予備知識がないと、理解できないのではないかしら...」

「その通りですねえ...」高杉も、大きくうなづいた。「しかし、まあ、聞いてください...

  というもの、これが歴史的な経緯なのです。前に関さんが説明した、アインシュタインの弟子/

デヴィッド・ボームの、“EPRの思考実験/電子のスピン・モデル”は、現在知られている分かりや

すい説明なのです。それに対し、これは洗練される前の、歴史的な経緯です...」

「はい...」響子が、足元に来たミケを、片手ですくい上げた。

「いいですか...」高杉が言った。「“スピンが・・・量子もつれ状態にある粒子”...を測定する際

には...

  “もつれている・・・ペア粒子”の...それぞれの“スピンの向きの・・・基準軸”を、選ぶ必要が

あるわけです。スピン右回転左回転があるわけですが、もう1つの要素として基準軸がありま

す。つまり、上向きか、下向きか、角度をもっているか...ということです」

角度...でしょうか?」響子が、ミケをなでる手を止めた。ミケが響子の手をすり抜け、トン、と下

に降りた。

「そうです...

  いいですか...ベルは...粒子・Aや、粒子・Bの観測の時に...軸の角度が、45度90度

である場合...測定を多数回行った結果... “得られた測定値が・・・ある統計分布を示し

ている” ことを発見しました。

  そして、その“統計分布”が...“量子力学の予測とは・・・異なるものになる”...ことを“=数

学的に証明=”したのです。それゆえに... “自然界は局所的ではなく・・・非局所的であ

る/・・・部分系は成立しない/・・・世界とは、巨大な1つの全体である” ...というものな

のです」

「あ...」響子が、手を握った。「それが...【ベルの定理】の、“=数学的証明=”というわけで

すね?」

「そうです...

  “粒子の確定値(/仮定)が...どのような統計分布をしていても...“測定値”とは異なったも

のになってしまうようです。まあ...これが、【ベルの定理】というわけですが...その真の中身

となると、非常に難解なもののようです。

  私のこの説明も、“参考文献”によるものですが...十分とは言えません。また、真に、深く理

解してるとも言えません。しかし、【ベルの定理】が、どんなことを数学的に証明したかは、おぼろ

げながら、垣間見えたのではないでしょうか...このページでは、それで良しとしましょう...」

「はい...」響子が、唇を結び、うなづいた。「そうですね...

  これ以上のことは、専門の分野として、より深く学んで欲しいということですね。インターネット時

代ですから、学びの場はいくらでも有ります。このページは、予備知識/一般教養として欲しいと

思います」

「そうですね...ここは、学問のほんの入り口です。ここで予備知識を得て、学問的な冒険に旅立

っていって欲しいと思います」

「はい、」響子が、ニッコリとうなづいた。

 

量子もつれ=電子から・・・ 量子もつれ=光子へ>

                  

 

「さて...」高杉が言った。「最後の、まとめになります...

  “ベルの思考実験”も...“デヴィッド・ボームのEPRの思考実験/電子のスピン・モデル”も、

“量子もつれの=電子”による実験でした。しかし、その後、電子の代わりに、光子が使われるよ

うになりました」

「はい...」響子が言った。

光子だと...

  “基準軸のなす角度として用いる値”は変わってくるのですが...実験技術的にずっと容易

になるようです。また、“量子もつれの=光子”は、比較的簡単に作ることができます...

  ええと、担当していたのは、マチコさんだったかな...“量子もつれの=光子”の作り方を、簡

単に説明してもらえますか...」

「あ、はい...」マチコが、うなづいた。《量子もつれの崩壊後も・・・謎の影!》のページを呼び

出し、スクロールした。

「あ、ここよね...

  ええと...“量子もつれ光子”を作りだすのは...比較的簡単です...“ビーム・スプリッター

(ビームを分割、混合する時に用いる装置)として働く、“特殊なダウン・コンバート結晶”に、光を通すだけで

いいわけです。

   これだけで、“量子もつれの=光子”が、“量子もつれ”を残しながら...“別々に分かれて・・・

導き出せる”...わけです。これらの“量子もつれ光子”で、“量子もつれチップ/量子もつれデバ

イス”なんかを作るわけよね...

  それから、“量子もつれ”は...“量子テレポーテーション”で、“量子通信ネットワーク”の中で、

“転送可能”なことが分かりました。これで、“大規模な・・・量子通信ネットワーク”が可能と分かり、

次世代テクノロジーの基盤になると言われています...ええと...これぐらいでいいかしら?」

「はい...」高杉が、うなづいた。「ええ...マチコさん、ありがとうございます...

  “量子もつれの=光子”は、このようにして作られるわけですね。つまり、“量子もつれの=電子”

ばかりでなく、“量子もつれの=光子”についても、実験で、 “量子力学の予測と・・・合致した

結果” が得られました。

  まあ、当然のことですね。したがって、【ベルの定理】により、これらの“量子もつれの=光子”

も、 確定値を・・・持っていたはずがない” ということになります」

「はい...」響子が、ボンヤリと言った。

「そして、さらに...」高杉がつづけた。「これは...

  “EPRの仮定した結論とも・・・矛盾する” ので... “自然界は局所的である・・・という

仮定も誤りである” 、ということになります...

  つまり...リアリティー/眼前しているこの世界/私たちが存在している宇宙は... “局所

的ではなく・・・非局所的である/・・・つまり、部分という系は成立せず/1つの巨大な全体

世界である” ...ということです。

  くり返しますが...今、私たちが眼前に見る... “リアリティー/上下左右・360度の世

界は・・・局所性/部分系/因果律が成立しない・・・1つの巨大な全体世界である” とい

うことです」

「はい...」響子が言った。

「その中で、【人間原理】が発現し...“ストーリイ的・秩序が形成”され...“私/1人称の認識

の鏡”に映し出されます。

  生物種は...“相互主体的=意識ネットワーク”により...“種としての共同意識体”を持ち、

それが、上位システムを形成しているようです...そういう形で、生態系の中に組み込まれてい

るようです...ま、こうした生物・情報系については、今後解明されていくでしょう...」

「うーん...」響子が、上体を椅子の背にあづけた。「つまり...前にも言いましたが...

 華厳経(けごんきょう)のような世界だということですね...   

 

  1つのものは、そのまま・・・一切のものと関連しており・・・

    一切のものが、そのまま・・・1つ1つの命と結びついている・・・

       すべてが関連しあって存在し・・・その繋がりは尽きることはない・・・

 

  ...というような...」

「そうですね...

  “エキゾチックな量子力学世界”というのは...“心の領域/・・・意識=精神世界”...非常

に近いのではないかというのが、私たちの見解です。

  “量子もつれチップ/量子もつれデバイス・・・非局所性の社会基盤への定着”は、私たちの

層意識に大きく影響してくるでしょう」

「はい...」響子が、髪をゆらした。

「これは...

  “文明の第1ステージ/農耕・文明の曙“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命とい

“原始・文明時代”から離脱し...“文明の第3ステージ/意識・情報革命という、“本格文明

の時代”の...ほんの入り口に立っている風景かも知れません...」

〔人間の巣のパラダイム〕の彼方に成立する...1つの未来文明の姿ですね。でも、私たちは、

本当に、そこにたどり着くことができるのでしょうか?」

「うーむ...世界のリーダーたちは、まだ市場原理/経済競争/覇権主義の中に、ドップリと浸

かっていますねえ...まず、そこから抜け出すことが、第1歩でしょう...

  さて、ずいぶん長くなってしまいました。このページは、これくらいにしておこうかね...」

「はい...」マチコが、コクリとうなづき...江里香の方を見た。

「あ、はい...」江里香が、インターネット正面カメラの方を向いた。丁寧に頭を下げた。「今回は、

ここまでとします。ご静聴、ありがとうございました...」

 

                          

「ええ、響子です...

  非常に大きなテーマですが、今回はここまでとします。“量子もつれ”は今後、ます

ます大きな文明的課題になって行くと思います。

  私たちも、次世代テクノロジーの展開を学びつつ、果敢に追跡していくつもりです。

どうぞ、次の展開に、ご期待ください!」

 

 

””

 

            

                                      MoMAstore         ioPLAZA【アイ・オー・データ直販サイト】      NEC ノート(LaVie G タイプL (s))          astyle ANAショッピングサイト

  

デル株式会社                               日比谷花壇 フラワーギフト 敬老の日