「ええ...」茜が、ノートパソコンのキイボードを叩いた。「ともかく...
いよいよ、日本の社会が壊れ始めています...私たち国民が、しっかりしなくてはなり
ませんね、」
「そうですねえ、」青木が、うなづいた。
「私たちには、お馴染みの...
もう一人の家族と言われてきたテレビも、最近はコンテンツ(内容)の質が著しく劣化して
います。フォーマル(正式の)の場での緊張感がなく、見ていると、かえってストレスの溜まる
ものになって来ました...それゆえに、私たちはそろそろ、“脱・テレビ文化”を考えた方
がいのかも知れませんわ」
「すると、」菊地が言った。「インターネットですか?」
「うーん...
インターネットと、新聞...読書や趣味...そうしたもので、再構成する必要がありそ
うですわ...受動的な、騒々しいテレビから離れ、静かな日常生活を取り戻すチャンス
なのかも知れません。そうした中で、良いテレビ番組だけを、選択的に見て行くということ
かしら」
「そうですね...」菊地が言った。「それはいいことだと思います。自分の時間を取り戻
すということですね、」
「うーん...」茜が、天井を見た。「この、未曽有の大混乱の中で...
私たちは、《子孫に、どのような未来社会を残せるのか?》、という事が、決定的に
重要になって来ました。それを、真剣に考えなくてはなりません...
これは、逆に言えば、現状は絶望的な社会になりつつあるということですわ...でも、
希望のある目標/夢の持てる社会的器を創出することによって、私たちの未来社会を再
構築していくことは可能です」
「そのためにも...〔人間の巣/未来型都市〕を展開していくことは、重要な課題にな
りますね」
「はい...」茜が、うなづいた。「そういうことですね...
現在の“世襲政治”...“天下り行政”...それから、“官僚化した公共放送・NHK”
のもとでは...将来展望の持てる社会構築の話を、聞いたことがありませんわ。もちろ
ん、“形式的なかけ声”はよく耳にします。でも、自らが“モラルハザード社会”を創出して
いては、話になりませんわ」
「うーむ...」青木が、体をのり出した。「そうですねえ...
何もかもが矮小化(わいしょうか)され...目先の権力闘争/目先経済競争に走り...肝
心なことが議論されなくなりました...その目先の議論も、ただ怒鳴り合うだけです。民
主主義が劣化していますねえ...
誰もがマラソン人生の中で、余裕/・・・ゆとりというものを失っています...だから、
“まるで面白みのない社会”になってしまいました」
「これは...」茜が、顔を上げ、青木と菊地を眺めた。「日本ばかりではなく...世界的
な傾向ですが...民主主義社会が、何故、こんなに大混乱の様相になったかということ
ですわ...
それは、経済至上主義/・・・市場主義原理が...あまりにも、トーン(/音の調子)が強く
なり過ぎていることと、深くかかわっていると思いますが...?」
「その通りです!」菊地が、深くうなづいた。「そのために...
人間の精神的な部分/“社会的慣習法”が、大きく後退したことがありますね...社
会形成・文化形成のエキスである“社会的慣習法”が...唯物史観/唯物論弁証法/
科学主義で、大きく後退したことがあると思います。同感ですね...
科学的・市場主義のダイナミズムと...精神的・“慣習法”との構造的な乖離が、過
度にに進んでしてしまったということです」
「市場主義と、」茜が言った。「“社会的慣習法”とは、相反するものなのでしょうか?」
「いえ...」菊地が、首を振った。「必ずしも、そうは思いません...
ただ、市場主義のスケールが、無限大に拡大したことがあります...市場原理・経済
原理というのは、経済科学です。つまり、科学ですから、“社会的慣習法”の精神性とい
うものとは、別の流れになります。それは、文化になるのです...
市場主義・経済原理のダイナミズムは、グローバル化によって世界規模で構造化され
て、ますます乖離が起こってしまいます」
「はい...」茜が、小さく息をつき、首をかしげた。「面白いのですが、ずいぶんと観念的
な話になってしまいましたわ」
「続けますか?」菊地が聞いた。
「ええ...」茜が、微笑してうなづいた。「新しいページを立ち上げたので、スペースは十
分にありますわ...続けてください」
「はい...」菊地が、エンジンを再始動するように、ボールペンを指先でクルクルと回転さ
せた。「ええ...“社会的慣習法”というのは...
勇気・勤勉・努力・優しさ...それから、社会奉仕の精神などを、高く評価する不文律
です。それから、偉大な人物に、心から共鳴する心などもそうですね...社会を形成す
る物質的側面に対する、文化・精神的な側面です...
20世紀は、科学的・合理主義が、物質的・価値観に傾き...必然的に、精神的・価
値観が失われてきた時代です。こうしたことから、心が砂漠化が起こったのです...社
会形成のエキスである、“慣習法”が失われてきたために、心が砂漠化したのです...」
「はい...」茜が、首をかしげた。
「“民主主義の牙城”/“日本文化の守護神”である公共放送・NHKが...まさに、官
僚化してしまいました。官僚と同様に、組織を私物化し、組織防衛に走り、日本の“社会
的慣習法”を、平気で破壊するようなことをしています...
むろん公共放送・NHKが、悪いコトだけをしているわけではありません...しかし、
仮にも、“国民の浄財”で運営されている、“民主主義の牙城”/“日本文化の守護神”で
すからねえ...
そこが、“慣習法”を破壊し、内輪のサークルを作り、組織を私物化していては...国
民は民主主義と、日本文化の旗印を失ってしまいます...」
「それは、菊地さん...」青木が、こぼれるように笑った。「茜さんの持論でしょう。NHK
批判は、」
「うーん...」茜も、ニッコリと笑った。「そうですね...菊地さんは、本当にいい人です
わ、」
「それは、どうも...」菊地が、頭に手をやった。
<世界経済の破綻は・・・大艱難時代の序曲か?> 
「でも、」茜が、両手をそろえた。「菊地さんの言うように...
科学的・合理主義が...政治、軍事、文化、教育、日常生活にまで...あまりにも強
い影響を及ぼしていますわ...日本人は、精神性の側面が失われ...深刻なほど、心
が砂漠化しています...
その上で、ダイナミックな市場経済原理で...富の寡占、格差社会、競争社会が進
行しています...宗教性の喪失/無宗教性は、日本の特殊事情によりますが、経済至
上主義は、世界を席巻しています...拝金主義が、津波のように、〔世界市民〕を押し
流し始めていますわ」
「そうですね、」菊地が言った。
「〔極楽浄土〕とは、まるで、逆の流れになっていますわ...
〔地獄〕のような、弱肉強食の社会を作り出しています。しかも、この世界経済システ
ム/世界金融システムは、非常に脆弱化しています...その先にあるのは、システム
の大混乱と、飢餓・暴動による、混沌世界です」
「サブプライム・ローン(アメリカの、優良顧客向けでない住宅ローン)問題が...」青木が言った。「これ
ほどの、世界金融不安を引き起こすとは、正直、想像もつきませんでしたねえ...
むろん、金融の当事者もそうなのでしょう...しかし、このシステムには、もともと金融
のモラルハザードが内包していた様ですね」
「そうです!」菊地が、強くうなづいた。「バーチャル金融の脆弱性を、もろに直撃しました
ね」
「いずれにしても...」茜が、モニターに目を落とした。「様々な、マイナスの相乗効果が
重なって来ますわ。この“世界経済の後退”が、混沌世界への序曲になるのかも知れま
せん...
これが、“大艱難の時代”の入口なのかも知れませんわ...世界は、予想を越えて、
人知を超えて...ダイナミックに動きだしている様子です...非常に、変動値の大きい
時代になったのを感じます...
このままでは、大多数の弱者が...物理的な非情さで...淘汰されて行くと思われ
ますわ...大量発生したホモサピエンスの、生態系における激減の風景になる可能性
が、濃厚になって来ました...
そこに、ヒューマニズム(人道主義)は存在しませんわ...あるのは、生態系のホメオスタ
シス(恒常性)の、非情なメカニズムです。ともかく、適正な数量まで激減して行きますわ」
「うーむ...」菊地が、口にコブシを当てた。「つらい風景になりますね...」
「はい...
でも、結局は...地質年代的に記録されている、“種の大量絶滅”が起こるのかも知
れません。そうなれば、強者も弱者も関係ありませんわ。恐竜時代の終わりのように、地
球生態系の激変の風景になります。地球生命圏では、こうした“種の大量絶滅”が、カン
ブリア紀(約5憶4000万年前〜5億年前/古生代の中で、最古の時代)以降でも、5回ほどあったようです。
現在、ジーン・バンク(遺伝子銀行)による“種の保存”が進められていますが、絶滅種や絶
滅危惧種は膨大な数にのぼっているようです...生態系では、“種”そのものが新陳代
謝し、新種に変遷して行くわけですが、人類分明由来の絶滅種が圧倒的に増えて来て
いるようですね...」
「それで、」菊地が言った。「ジーン・バンクで“種の保存”ですか...そろそろ、最終的な
シナリオが見えてきたわけですね、」
「はい...」茜が、コクリとうなづいた。「そういうことが、いよいよ文明史的・大課題とし
て、身近な問題になって来ました...私たちの周囲から、絶滅種が急速に増えてきてい
ます...
その視覚/感覚的証拠として...何よりも、風景が単調になって来ました...それ
に、生態系の多様性・複雑化のベクトルが、力を失っているのを感じます...大自然の
中に、息を呑むような感動の風景が激減しています...
これは、人間の側の感性ということもありますが、生態系が本来の力強さを失っている
ことあると思います...」
「そうですね、」


「ええ...」茜が、両手を固く結んだ。「ともかく、何とかしなくてはなりません...
世界の信用システム/世界構造の骨格も、いよいよ、変動期に入ってきている様子で
す...現在、世界の信用システムを、辛くも支えているのは、アメリカの軍事力ですね。
その“覇権主義”による世界秩序です。また、核保有国の、恐怖支配の残滓(ざんし)です。
それらが、ボンヤリと国連主義の殻をかぶって、世界秩序を維持している状況でしょう
か。パックス・アメリカーナ(米国支配による平和)の時代が終わり、アメリカ文化が世界の標準
目標である時代は終わりました...
アメリカ・ドルが世界通貨の力を失いつつある今、世界秩序/世界システムを辛くも支
えているのは、アメリカの軍事力/世界に展開する暴力装置だけということになります。
でも、その軍事力の神通力も力を失い、経済的にも、それを支えるのが困難になりつつ
ありますわ...」
「確かに...」青木が言った。「巨大軍事力というものは、形骸化していますねえ...ア
メリカは、軍事力でも世界を押さえられなくなっています。アフガンでも、イラクでもそれを
証明してしまいました...
もともと、パレスチナ問題でも、アメリカは中立的な調停者の立場を放棄しています。
それから、核軍縮の問題でも、アメリカは明らかにダブルスタンダードになっています。イ
スラエルやインドやパキスタンの核兵器は事実上認めていますが、イラクやイランや北朝
鮮の核兵器は、認めないというわけですねえ...また自らも、“核弾頭更新計画”を推
進しています...」
「あ、大川さんたちが進めているページですね、」
「そうです...
アメリカの立場は、要するに、世界標準ではなくなったということです...著しく、力が
落ちてきたということです。まあ、軍事力そのものが、“テロとの対決型”になってきたと
いうこともありますがね...アメリカ軍も、その方向へシフトしていますが、これは押え切
れるものではないでしょう...」
「はい...」茜がうなづいた。「この現在の世界システムは、長くは持ちませんわ...
まさに、“覇権主義”による世界秩序は、沈没しつつあります...形骸化しつつありま
す。また構造的にも、“覇権主義”は“地球温暖化”を促進するベクトルとして働きます。
その行き着く先は、文明社会の泥沼化ですわ。そして、生態系の崩壊ですね...」
「そういうことですねえ...」
「ええ...」茜が、口に手を当て、モニターに目を落とした。「そこで、私たちは...
国連組織をバージョンアップして...“世界政府/地球政府を創設する時期に来て
いると考えているわけですね...人類文明は、強力な“世界政府”を形成する時期に来
ています...また、そうでないと、“地球温暖化”と、それに続く“大艱難(だいかんなん)の時
代”は、乗り切れないのではないという事ですね、」
「確かに...」青木が、ゆっくりと肩を後ろに引いた。「世界通貨/アメリカ・ドルの後退
は、必至の情勢ですねえ...時代は大きな流動期に入って来ました...
時代は、予想以上に、ダイナミックに変容して行く様子です...信用の後退...世界
経済システムの混乱...食糧や富の奪い合いによる混乱...〔世界市民〕は、その混
乱の時代に備えておかなければならないでしょう...
世界中で対応可能な方法は、〔人間の巣〕を展開することでしょう...そして、自給自
足農業で、各自が自立していくことが急務になって来ました...そうした自立した〔人間
の巣〕の単位で、人類文明は力強く生き残っていくでしょう」
「その通りですわ...」茜が、コクリとうなづいた。「それに、世界システムの破綻だけで
なく、人口爆発、“地球温暖化”という要素が重なります...
“文明の折り返し”は必至ですわ...そうした時代の潮流は、“覇権主義”による世
界秩序も、終息させて行きますわ...いえ、そうしたものは、終息させて行かなければ
なりませんね」
「うーむ...」青木が、脚を組み上げた。「仮に...
終息の方向へ行かないようだと...“種の大量絶滅”の方向ですねえ...経済や金
融だけを見ていると、ますますグローバル化の方向にあります...また、“原発”も核兵
器さえも、まさに世界中へ拡散していく方向にあります...まず世界標準を、“持続可能
な発展”から、〔エコ/文明の存続〕へ、本格的にシフトしていくことでしょう」
「はい...
現在のパラダイムで戦っている、その最前線の人たちは...まさに、その競争に熱
中しています...旧パラダイムで、最大級の加速度がついています...それを減速さ
せるのは、容易ではありませんね...でも、減速ではなく...やがて、破綻がやって来
ると思います」
「なるほど...」青木が、唇を結んだ。「壊死していくわけですか...」
「そうですね...」茜が言った。「単に...
車の形態や、エネルギーの形態が...クリーン・カーや、クリーン・エネルギーに転
換すればよいという問題ではありません。私たちが必要としているのは、“脱・車社会”で
あり、“脱・エネルギー社会”であり、“文明の分散化”です。つまり、“文明の折り返し”
ということですわ...
“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、熱量運搬型・エネルギーから、
“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、情報運搬型・エネルギーへの、パラダイ
ムシフトが求められているということです...それが、文明の進むべき方向ですわ。
クリーン・エネルギーであっても、熱量運搬型/大エネルギーのパラダイムでは、そ
れだけで、生態系に大きな負荷をかけているのです...私たちの棲む地球生態系は、
そもそも、そんな粗雑な大エネルギーは必要としないのです。それは原始・人類文明時
代の、初期段階のエネルギー形態だということです...」
「ま...」青木が、天井を見た。「そうですねえ...過渡期としてはやむを得ませんが、
“脱・大エネルギー”ということですねえ...
いずれにしろ、急速な“文明の折り返し”が必要でしょう...ところが産業世界には、
別の企業的事情があるわけです。つまり、これまで蓄積してきた技術開発という財産を、
一気に吐き出す方向にありますねえ...
これが、グローバル化の加速度の中で...“最後の環境破壊”を敢行することになり
ます...まあ、やがて空っぽの高速道路や、空っぽの新幹線が残ることになります。そ
して、“原発”の展開では、厄介な高濃度・核廃棄物が残ることになりますねえ...
現在の日本の状況では...これが現実の問題になるのは、遠い将来のことではあり
ません。ほんの20年、30年後の未来のことです...しかし、日本の政治は、その近未
来でさえも、あえて語ろうとはしませんねえ...」
「頭の構造が、」菊地が言った。「そういう風には、できていないのでしょうか...?」
「うーむ...それはあるかも知れません...
官僚は、現在の延長線上で物事を考えますし...日本の政治は、官僚に支配されて
いますからねえ...だから、こうした時代に...“少子化対策”や、“少子化担当大臣”
というような、時代錯誤な政策になってしまうのです。他にやることは山ほどあるのに、そ
んなトンチンカンなことを平気でやるわけです」
「はい...」茜が、うなづいた。「そこで...
現在、何が必要なのかと言えば、やはり、〔人間の巣のパラダイム〕だいうことです
ね。“万能型・防護力”/〔人間の巣〕の展開によって、〔世界市民〕の生存基盤を安定
させ、“文明の第3ステージ”へとシフトして行くことです。
〔人間の巣〕によって、“脱・原発”も容易なはずです...“脱・車社会”、“脱・航空機
社会”も容易なはずです...“自給自足・農業社会”を、スムーズに確立できます...
〔人間の巣〕の細胞単位になれば、現在、世界で起こっている全ての紛争も、必ず終息
します」
青木がうなづいた。
「〔人間の巣〕の単位で...」茜が続けた。「それぞれに、独自の〔理想郷〕が実現でき
れば、紛争を起こす意味が無くなります。そうした細胞単位の〔理想郷〕を...人体でい
えば、各臓器が統括し、さらに脳が管理することになります。その脳にあたるのが、“世
界政府/地球政府”ということになりますね...」
「賢い方法ですね、」菊地が言った。
「はい...
〔人間の巣〕を、人体の細胞単位と見るのは...生物体/命のシステムが、そうなっ
ているからですわ。自然界に存在する“新陳代謝のシステム”/構造化・進化のシステ
ムが、そうなっているからです。このシステムは、エントロピー増大宇宙の中では、唯一、
構造化/進化するシステムなのです。人類文明も、この永遠性のシステムを導入する必
要があります」
「うーむ...」菊地がうなった。「これが...
私たちが子孫に残していける、〔未来型都市/千年都市〕になるわけですね...未
来社会への最大の遺産になりますね...20世紀は、大戦争と環境破壊の世紀でした
が、最後に私たちは、〔千年都市〕を子孫の世代に残していけるわけですね、」
「そうですね...」茜が、宙を眺めた。「でも、現実は...
“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”のパラダイムが、最後の加速を行って
います...経済原理のダイナミズムで、“原発”や道路や新幹線が拡散していく方向で
すわ...まだ、〔人間の巣〕はパラダイムとして確立されていませんわ...その方向に
は、文明全体が動き出してはいません...」
「そうですね...」菊地が、額にコブシを当てた。
「そうしている間にも...
中国やインドやロシア、それにブラジルなどでは...旧・パラダイムのインフラが、爆
発的に増大していますわ...この“最後の加速”が、地球環境に与える莫大な負担に、
はたして生態系が耐えられるかどうかが、当面の課題になります...
この“最後の加速”で、“地球温暖化”/“海洋の酸性化”が、全てをなぎ倒してしまう
かも知れません」
「そうですね...」
「でも...そうした状況が到来する前に...
地球生命圏の、恒常性/ホメオスタシスが起動して来るかも知れません...すでに、
感染症が動き出しています...エボラ・ウイルスや、エイズ・ウイルスや、新型肺炎/S
ARS・ウイルスや、強毒性/インフルエンザ・ウイルスや...その他、無数の未知の病
原体が、ホモサピエンス文明の動向をうかがっている様子ですわ...
それと...気候変動や海水面の上昇は、環境面からの壮大な警告を出し始めていま
すわ。この状況でもなお、文明のグローバル化や経済競争を、人類文明は継続して行く
のかという事ですわ...まさに、滑稽なほど、愚かな姿になって来ています...」
「そうですね...」菊地が、肩を落とした。
「ともかく...
“最後の加速”が、生態系の命の炎を吹き消してしまうことが心配です。臨界値/最終
ラインを越えてしまえば...もう地球生態系は復元することは困難になります。つまり、
いくら植林をしても、元に戻ることがないということです。
そうした状況下で...世界人口が90億、100億に達しようとしています...人類を
含めた生態系の風景が、どうなるかは明白ですわ...」
「その、最終ラインを越えてしまえば...」菊地が言った。「2つに1つの選択になります
ね...生態系の大崩壊か...文明の崩壊/人口激減の風景ですね...どっちにして
も、文明の軟着陸は、非常に難しくなります...」
「そこで....」茜が言った。「いずれにしても私たちは...
すぐにでも...次の環境への、適応の準備を開始しなければなりません。そして、そ
れもまた、〔人間の巣〕ということになります...過酷な環境に耐えることができるの
は、〔人間の巣〕のバリエーション(多様性)ということになりますわ...したがって、〔人間
の巣〕の世界展開は、早いほどいいという事になります」
「まず、弱者こそ...」菊地が言った。「〔人間の巣〕を準備し...やがて来る、混沌の
時代に備えることが必要ですね...
身の回りで、自給自足農業を展開し...安定して自立できる社会基盤を確立しておく
必要がありますね。〔人間の巣〕が世界展開していれば、生き残る確率は高くなると思
います」
「はい...」茜が、ノートパソコンを見ながら、うなづいた。「そうですね...
〔人間の巣〕は、基本的にはアリの巣のようなものですわ...頑丈な構造物に、厚く
土をかぶせるだけです。弱者でも、結束すれば、十分に建設が可能なものです。そして、
周囲に自給自足農業を展開します...これも、大自然と協調する姿ですね...他の動
植物と一緒です...
それだけで、〔極楽浄土〕のインフラが完成しますわ...専守防衛の非常に強固な、
“社会の殻(から)”ができます...この〔人間の巣〕が、〔世界市民〕を守ってくれるでしょ
う...もし、大量破壊テロや、核戦争などの文明破壊の事態が起こっても...それに良
く耐え抜いて、生き残っていく〔人間の巣〕が、存在していると思います...」
「はい...」菊地が、作業テーブルでコブシをそろえた。
<文明史的・決断の時・・・!
>


「さて...」青木が、自分のモニターから顔を上げた。「アメリカの、老朽化・原子炉が、
いよいよ更新時期を迎えていますねえ...
“スリーマイル島の原発事故”以来、アメリカでは30年間も、新規・原発建設が凍結
されたままです。ヒューマン・エラーによる不可避な事故が、アメリカに新規・原発建設を
長らくためらわせていたわけです。しかし、既存の原発がいよいよ老朽化し、更新時期を
迎えています。
そこで、ブッシュ大統領が、新規・原発建設にGOサインを出しました...どういう事に
なるのでしょうかねえ...」
「それに、」菊地が言った。「日本の原発企業が飛びついたようですね。なにしろ、アメリ
カでは、新規・原発建設を30年間もやっていませんから、」
「そうです...
核大国であり、原子力空母、原子力潜水艦の原子炉は建設していましたが、商業ベ
ースの新規・原発建設は、30年間もやっていません。しかし、原子炉の研究開発が、最
も進んでいるのは、やはりアメリカなのです」
「うーん...」茜が、首をかしげた。「あの、ペンシルバニア州/ゴールズボロー/スリー
マイル島の...“スリーマイル島原発事故(1979年)”は、レベル
5の大事故だったかし
ら?」
「そうです...しかも、ヒューマン・エラーによる不可避な事故でした...
まあ、その点、日本は唯一の被爆国でありながら、不祥事のオンパレードで、さらに官
僚的な無責任さで、お気楽にやって来ましたねえ...したがって、もし今度そうした“原
発”の大事故が起こるとしたら...まさに、日本かも知れないと言われています...」
「うーん...」茜が、うなづいた。「本当に、そうかも知れませんわ...
是非、しっかりして欲しいと思います...官僚的・無責任体質には、もううんざりです
わ...とりあえず、活断層に近い“新潟県/柏崎刈羽原発”や、“静岡県/浜岡原発”も
心配ですね...」
「うーむ...」青木がうなづいた。「ともかく...
“軍事力・覇権主義”も含めて、大きな文明史的・選択の時が迫っています。日本の政
治的決断も、決定的に重要になってきました。このままの状態では、【京都議定書】さえ
もクリアできないでしょう」
「そうですね、」
「“地球温暖化対策”は、【ポスト・京都議定書】で、本格化するわけですからねえ...
これから先が大変だというのに、公平・不公平のレベルで議論をしています。今、肝心
なことは、ともかく可能な所から、OO2の排出を減らしていくという事でしょう。そうした意
味では、目に見える形で確実に減らしていけるのは、〔人間の巣〕の展開です」
「“北海道/洞爺湖サミット”は、本当に、沈没してしまいそうですわ、」
「そういう事ですねえ...
ようやく、政府も重い腰を上げた感があります...“環境モデル都市の構想”というも
のがあるようですが...これは、〔人間の巣〕のようなものなのでしょうか...それとも、
いつものように、官僚が単に、重点都市を指定するだけなのでしょうか...
いずれにしても、日本の社会的インフラが、気候変動の猛威に耐えられなくなっていま
す。また、食料自給率の向上にも、本格的な対策が必要になって来ました...そうした
問題に全て答えているのが、自給自足農業を展開する〔人間の巣〕なのです」
「CO2だけ、配慮すればいいわけではないですね、」菊地が、ボールペンを回した。「全
ての配慮が迫られていますね...
やはり、《日本版・ニューディール政策》のようなものが、必要になって来るのではな
いでしょうか...ともかく、国民が夢の持てる将来展望を、示して欲しいものです...」
「それを、決断して欲しいものですねえ...」
<あらためて・・・政治は、子孫に何を残してやれるのか?>

「ええと...」茜が言った。「話を戻します...
ともかく、私たちは、《子孫に何を残してやれるのか?》という事ですわ...政治・官
僚レベルの、不毛な議論には、もううんざりですわ...あの人たちの頭は、一体どうなっ
ているのでしょうか...?
現在のままでは...私たちは子孫を、崩壊した文明のまま、“大艱難の時代”へ送り
込むことになります...その“大艱難”の中で、人間は大量発生したイナゴのように、人
口を激減していくことになるでしょう...
私たちは、今できる対策を、しっかりと実行しなければなりません。政治や行政に任せ
ておけないのなら、主権者/国民がしっかりとしなければなりませんわ...」
「まあ...」青木が、大きなため息をついた。「現在の日本の政治家は、30年後の日本
の姿を、まるで口にしませんねえ...禁句にでもなっているのでしょうか?」
「しかし...」菊地が、けげんそうに言った。「本当に、何故なのでしょうか...?」
「さて...分かりませんなあ...
その能力がないのでしょうか...ともかく、タワケた話です...政界再編と言っても、
麻雀パイをかき回し、並べ替えるだけのようです...麻雀パイそのものが、入れ替わる
わけではないのです。
ここでも、新理論の導入が必要ですねえ...茜さん、ひとつ、【茜・新理論研究所】
の方で、考えておいてもらえませんか、」
「はい、検討してみますわ...でも、それには、青木さんのお力が必要かも知れません
ね、」
「もちろん!私の担当ですから、いつでも呼んでもらって結構です!私も、言いたいこと
はあります!」
「はい...」茜が、コクリとうなづいた。「でも、確実なことが1つありますわ...
それは、行政組織がバージョンアップすれば、政治も確実に変わっていくという事で
すわ。まず、そちらの方を変えていくという事が先決ですわ。それに、公共放送・NHK
も、近い将来、パンクするのは確実です。
それから...公共放送をバージョンアップするのであれば、私たちは次に、どんな公
共放送にするのか、その青写真を時間的余裕をもって準備しておくことが必要です。例
えば、行政組織のトップダウン型に対して、国民からのボトムアップ型ソフトを開発して
おくことが必要ですわ...
行政組織が動脈だとすれば、新・公共放送は静脈として機能するのがいいと思いま
す。私たちの人体も、この動脈と静脈がうまく機能して、全身の組織に血液が循環する
わけです。現在の日本社会には、公共放送・NHKの本来任務の放棄で、この静脈が機
能不全に陥っています...だから、民主主義社会や日本文化全体が、うまく機能しない
わけですね」
「うーむ...確かに、その通りでしょう...
これまでは、世の中/世間様に対する暗黙の遠慮というものが機能していました。最
近では、それさえも無くなっていますからねえ...」
「それは、」菊地が言った。「“社会的慣習法”が、脈々と生きていたという事です...
ところが、NHKは内輪のサークルのようなものを作り、それを既得権のようにしてしま
いましたね。官僚組織や政治の、既得権の構造化と同質のものです。その上、全てが、
不祥事の温床のようになっています。つまり、モラルハザード社会の創出です。
国民は今では、褒章や勲章というものをまるで信用していませんね。“慣習法”が壊れ
てしまっています。かつては、青木さんの言うように、世の中/世間様に対する暗黙の
遠慮というものがありました。それが、“慣習法”を機能させていたのです...」
「はい、」茜が、コクリとうなづいた。
「茜です...
ご静聴ありがとうございました。ページが長くなりましたので、以降は、再度
ページを再編集し、内容を充実させたいと思います。どうぞご期待下さい!」