Menu環境.資源.未来工学資源・エネルギー原子力不安と危険性重大事故
     人間的ミスによる 重大事故        house5.114.2.jpg (1340 バイト)


     
スリーマイル島原発事故@ チェルノブイリ原発事故A 東海村臨界事故B

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    白石 夏美
      堀内 秀雄
                                      竹内 建造                折原 マチコ      

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                         担当 : 堀内 秀雄

       INDEX                 house5.114.2.jpg (1340 バイト)        

No.1 〔1〕 原子力行政の不安 2006. 5.26
No.2     ≪核分裂の風景...≫ 2006. 5.26
No.3     ≪ドイツの“脱・原発”宣言≫ 2006. 5.26
No.4 〔2〕 スリーマイル島原発事故/チェルノブイリ原発事故 /東海村臨界事故 2006. 5.26

         

      参考文献   日経サイエンス /2006 - 03   

                          核燃料完全リサイクルへの挑戦

                           W.H.ハヌス/G.E.マーシュ/G.S.スタンフォード  (米国立アルゴンヌ研究所) 

  〔1〕 原子力行政の不安  

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「さっそくですが、堀内さん...」夏美が、作業テーブルの上を整えながら言った。「日

本の一般国民にはまだ...原子力発電の安全性に対し...根強い不信感がある

ようです...一連のトラブル隠しなどを、どう見ておられでしょうか?」

「うーむ、そうですねえ...」堀内は、窓の外へ目を投げた。外は、5月の新緑が眩しく

輝いていた。

「高杉・塾長や津田・編集長がおられないので、今回は堀内さんに、社会啓蒙的なこ

とも、伺ってみることにしています...高杉・塾長からの指示です...」

「そうですか...ま、私にも、言いたいことは多少あります」

「堀内さんの立場からのご意見を、お願いします」

「はい。まあ、そういうことでしょうね...

  ええ...一連の原子力行政に対する不信感...官僚的隠蔽(いんぺい)体質、また

電力会社のトラブル隠し体質は、霧の晴れた状態とは言えないでしょう...ただ、一

般の日本国民は、非常に“忘ぽい”ですねえ、」

“忘れっぽい”???」

「そうです、“忘れっぽい”のです...

  この“日本人の特徴”は、良くもあるし、悪くもあります。良い意味では、“過去にこだ

らず/人のよい国民”ということができます。しかし、悪い面では、“侵略戦争の過

去”平和憲法の誓い”さえ、ケロリと忘れてしまい、周辺諸国に非常に居丈高

す...それが様々な、“過去”の歴史問題を引きずっています...

  それからもう1つ、悪い面ですが“戦略的に物事を考えない”、ということがありま

す。これは、個人的な資質というよりも、多分に民族的・歴史的な経緯から来るものか

も知れません。日本は島国であり、前の大戦までは、いわゆる外国から民族として蹂

躙されるということは無かったですからねえ...」

「はい」夏美がうなづいた。

個人レベルでは、どうにもならない問題は、行政レベルでやるべきですが、その彼等

が、戦略的に物事を考えない”ということがあるわけです...これは、著しい怠慢

あり、民族として伝統的に劣った能力とも言えるわけです...民主主義というもの

も、長い民族の歴史の上に成立しているものですからねえ...」

「はい」夏美が言った。「だいぶ抽象的になってきましたが、具体的には、どういうことで

しょうか...私たち国民の側には、責任はないのでしょうか?」

「そうですねえ...

  民衆の側に立って...“忘れっぽい”という欠点をバックアップして行くのが、公共

放送各種マスメディア責務だと思います。しかし、日本の場合は、公共放送

スメディアが、その役に立っていません。

  特に近年では、経済原理にかぶれ、その社会的・文化的責任というものを、まるで

果たしていません。このことが、まさに“未曾有の国家大混乱”構造的な原因です。

  公共放送マスメディアは、様々な社会問題を長期戦略としてシステム化し、それ

タイムスケジュールの中に組み込むという仕事をしていません...していても、結

果として非常に不十分だといわざるを得ません...

  マンネリ化したスポーツニュース芸能ニュースを流す前に...本来の社会的・文

化的責務を果たしてもらいたいと思います...スポーツニュース芸能ニュースは、

その後、余裕があったら話題性です。現状は、まさに逆さまになっています...

  まあ、これが、私の意見ですね」

「うーん、そうですよね!」夏美がうなづいた。

「ここでは、この問題は深くは突っ込みませんが...日本では、公共放送マスメデ

ィアが、戦略的/大局的に物事を進めて行くということが、非常に下手ですね。第

一に、その先進的な意識が欠如しています...エリート意識過剰なほど持ってい

ますがね...」

「はい!」

「やっていることは...単なる“思いつき”や...“場当たり的”なことです...“民主

主義社会のために絶対死守”するという、“社会戦略的な基盤”を描いた、“凛(りん)

としたものが無いですね...

  “悪”さえも、各社で談合し、容認してしまう...だから、こんなモラルハザード社会

になってしまったのです。また、憲法問題でも、教育問題でも、医療・年金問題でも、全

体がグラついてしまうような事態が惹起(じゃっき)てしまうのです...」

「まして...」と、夏美が言った。「長期的なグランドデザインは無きに等しいですね。

子化問題でも、長期的ビジョンを示していません...子供を増やして、その先に、ど

のような戦略的プランを描いているのでしょうか...ただ、時代に流されているだけ

ですわ...」

「そう思いますね」

「堀内さん...」マチコが言った。「原子力行政においても、様々な不祥事から時間だ

けが経過し、“当局は、ぜんぜん反省していない”...ということでしょうか?」

「うーむ...はっきり言いますねえ」

「はい!」

「まあ、色々とやっているでしょう...しかし、マチコさんの言うことは、当っているか

も知れません...

  日本は、“戦争責任”でも...それ以後の“行政責任や不祥事”でもそうですが、

“当局・行政府の反省”というものが、非常に希薄な国家です...それが、“この国の

特徴の1つ”かも知れません...

  原因は、“官僚主権国家”になっているからです。まさに、それが、周辺諸国の不満

であり、かつ様々な面で、主権者である国民を苦しめて来た本質でしょう。そして、そ

の象徴的なものが、津田・編集長たちの言う、“官僚の天下り構造”なのでしょう...

  ま、この話は、このページの本意ではないので、これぐらいにしておきましょう。これ

でいいですかね?」

「はい!」夏美が言った。「ありがとうございます!」

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「さて...」堀内が言った。「当局も、科学技術的なことでは、非常に多くのことを学ん

でいると思います。科学技術は蓄積であり、積み上げですから、それはしっかりでき

ていると思います。ただ、行政の隠蔽(いんぺい)体質、そして国民の不信感は、やすや

すと晴れたとは言えないでしょう」

「そうですよね、」

「やはり、最初に言ったように、“忘れっぽい/社会システム化していない”ということ

が原因でしょう。これは、原発大事故を起こさないためにも、“1人1人/日本民族”

として、しっかりと心に留めておかなければならない問題です...

 

ドイツが、何故、“脱・原発”に大きく舵を切ったのか、常に肝

         に銘じておくべき課題です...

  ...」

「原子力関連のホームページの作成に、」マチコが言った。「3億円もかかっていたと

いう話もありましたよね...ホームページなんて、ほとんどお金がかからないわよね」

「あれは、氷山の一角でしょう...」

「はい!」マチコが言った。

「さて、それとは別に...

  大容量の発電を行う手段として、原子力発電への期待は、最近ますます高まって

います。温暖化ガス/CO(二酸化炭素)の排出とは無関係であり、環境負荷が最も少な

いということは、しだいに理解されて来ています。

  化石燃料の枯渇が迫り、将来的な核融合炉がまだとなれば...そのツナギは技

術的に確立されている核分裂エネルギー/原子力発電ということになるでしょう...

  ただ、ここではプラス面ばかりでなく、マイナス面も十分に検証して欲しいと思いま

す。重ねて言いますが、ドイツは何故、“脱・原発”に舵を切ったのか...日本におけ

る、原子力行政に対する根強い不信感も、結局は、原子力による災害が現実化する

ことを恐れるからでしょう...まさに、地質年代的な長期に及ぶ、大災害となる恐れ

があるからです」

「その通りです...」竹内建造が、ゆっくりと作業ズボンの脚を組み上げた。「こうした

状況下で...いよいよ、“核燃料完全リサイクル”のための、高速炉.../高速中性

子炉.../高速増殖炉...の要望が高まって来ています。これらは、後で説明しま

すが、同じ次世代型の原子炉の呼び名です。

  さて...“核燃料完全リサイクル”になれば、核物質の輸送・貯蔵そのものが、非常

に少なくなります。したがって、その方面の安全性は非常に高まります。核物質の移動

がなくなれば、テロ集団による強奪のリスクそれだけ減少することになるのです」

「はい、」夏美が、竹内にうなづいた。

「現在、日本の次世代型原子炉は...」堀内が言った。「高速増殖炉/“もんじゅ”

“ナトリウム漏れ事故”で、開発は頓挫しています...」

「そのために、」竹内が言った。「プルサーマル方式に切換えていますが...核燃料

を完全リサイクルするには、中性子炉”ではなく、高速中性子炉(高速炉/炉高速増殖

炉)が不可欠なのです。いずれは、切換えて行かなければならないでしょう...国策

として、原発で大容量電力を供給して行くなら...ですがね、」

「あの、」マチコが片手を上げた。「プルサーマルと言うのは、どういうのでしょうか。よく

耳にするけど、あまり詳しくは分からないのよね、」

  竹内が、黙ってうなづいた。

...中性子炉”も、次世代型の高速中性子炉/高速増殖炉”も、プルサーマ

も、あとで詳しく説明します...

  しかし、一言でいうと...プルサーマルと言うのは、“高速増殖炉”が実用化するま

でのツナギの技術です。原発から出たプルトニウムを、ウランと混ぜて現在の“

性子炉”で、再び燃やす方式のことです...

  しかし、これでは、根本的な解決にはなっていません。リサイクルには、程遠いもの

です。やはり、次世代型の原子炉が必要なのです」

「うーん...そうなんですか、」マチコが、納得し、うなづいた。

「現在の“熱中性子炉”では...核燃料の5%を利用しているだけで、95%は廃棄

れています。しかし、“高速炉(/高速中性子炉/高速増殖炉)では、この廃棄される使用済み

燃料(劣化ウラン等)から、そこに含まれる99%以上の核分裂エネルギーを取り出すこと

ができます。

  “高速増殖炉”は、ようするにこの“高速炉”のことですが...もとの燃料よりもプル

トニウムが増殖する設定も可能で、この場合は“高速増殖炉”と呼ばれるわけです。

“高速炉”は、プルトニウムを燃やすことで、プルトニウム自体を“増やす”こともできれ

ば、“減らす”こともできます...もちろん“増減ナシの平衡状態”に保つことも、可能

なのです...」

「うーん、便利よねえ...」マチコが言った。「“高速炉”だと、そうした設定ができるわ

けかあ...つまり、次世代型というわけね、」

「そうです...

  日本では、よく“高速増殖炉”という言葉が使われていますが...“もんじゅ”の事

故以後、“増殖ナシ”“高速炉”の実用化を目指しています...当面は、“もんじゅ”

の目標を、下方修正したということでしょうか...

  まあ、原発大国のフランスも、日本と同様に、“増殖ナシ”“高速炉”を目指して

いる様です...増殖炉は、総合的技術開発の壁が、当初想像していた以上に高かっ

たということでしょうか...これにはもちろん、絶対安全性という要素も入っているわ

けです...」

「ふーん...」マチコが言った。「でもさあ...プルトニウム“増やし”たり、“減らし”

たりすることに、どんな意味があるのかしら?」

“増殖用”の運転では...」竹内が言った。「新しく高速炉を建設した際に、核燃料を

供給することができるわけです...一方、“削減用”の運転だと、余剰プルトニウム

兵器搭載の核物質食い潰して行くことができます。

  まあ、日本には兵器搭載の核物質はありませんが、核軍縮では重要な課題です。

核戦略時代に製造された大量の核爆弾は、機械的な分解はできますが、プルトニウ

高濃縮ウランは残ります。これは、ダイオキシンPCBのように、分解してしまう

必要があります。不純物を混ぜて、再び爆弾製造に使用できないようにしてもいいわ

けですが、原子炉で燃やしてしまうのが一番でしょう...」

「うーん...はい、」マチコが言った。「でも、さあ...次世代型・原子炉は、旧来型・原

子炉と何処がどう違うのかしら?」

「いい質問です!」竹内が、ゆっくりとうなづいた。「それは、つまり、中性子炉”

高速中性子炉”の違いから来るのです...簡単に言えば、中性子の速度が違うの

です...これは、あとで説明するとして...ここではまず、核分裂というものについ

て、基本的なことを説明しておきましょう」

「あ、お願いします、」マチコが、頭を下げた。

≪核分裂の風景...≫  house5.114.2.jpg (1340 バイト)

        wpe89.jpg (15483 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト)

「従来型の中性子炉”と、次世代型の高速中性子炉/高速増殖炉”の、燃費効

率の違いは何処から来ているのかというと、」竹内は、作業服の袖をまく上げた。「核

分裂を引き起こすのに、高速中性子を使うか、低速中性子を使うかの違いによるので

す...

  核分裂を効率よく引き起こすには...中性子の運動が“遅い”か、それとも“非常

に速い”かでなければなりません...現在稼動中のほとんどの原発は、比較的低速

(低エネルギー)の中性子を使う中性子炉”と呼ばれるものです。

  この中性子炉”は、非常に効率よくを生み出すので、蒸気タービンを回す発電

に向いています...しかし、大量の放射性廃棄物を発生させてしまうのが、難点なの

です...これは、“使用済み核燃料”と言われ、約92%“劣化ウラン”です」

「うーん...“劣化ウラン”ね...これは、劣化ウラン弾といって、大砲の弾などに使

われて、問題になったヤツですよね、」

「そうです。鉄よりも重いので、そんな所で使われたこともあります...要するに、大量

に余っているから、大砲の弾などに使ったりもするわけです」

「はい」

「くり返しますが...核燃料のうち、中性子炉”では5%を取り出すだけです。残

りの95%の核エネルギーは、今言ったように、“使用済み核燃料”として廃棄される

わけです。

  ところが、“高速炉”では、この“使用済み核燃料”から、さらに99%以上の核エネ

ルギーを取り出せるわけです...」

「うーん、はい...」マチコが、噛みしめるように、ゆっくりとうなづいた。「それじゃ、ほ

とんど核廃棄物は出ないわけですね、」

「その通りです」

「次世代型が、どうしても必要なわけよね」

「さて...

  原子炉の中では...まず中性子がウラン燃料に衝突し、核燃料に点火します。そ

して、連鎖反応を引き起こし、燃焼を継続させます...ただし、原子爆弾のように一気

に燃焼させるのではなく...ゆっくりと燃焼させます...非常にゆっくりと燃焼させる

所が原子爆弾とは違うのです...」

「それを、安全にコントロールできるのでしょうか?」夏美が、形式的に質問した。

幾重もの“安全装置”が、原発システムには組み込まれています...順を追って説

明しましょう」

「はい」夏美が、ノートパソコンのキーボードから、壁面スクリーンの画像を操作した。ス

クリーンに、“熱中性子炉/軽水炉”の概略図が表示された。

「まず、“熱中性子炉”では...」竹内が、肩を回して壁面スクリーンを眺めた。「燃料

核分裂性ウラン/ウラン235の原子核に...中性子1個が衝突します...す

ると“ウラン235の核”は、高い確率で引き裂かれます...これが最初の分裂

す。それは同時に、核分裂エネルギーと、複数の中性子を放出します...

  放出された複数の中性子は、同様にさらに周囲にあるウラン235の核に、次々と

衝突します。そうやって、一気に核分裂の連鎖反応が起こります...ただし、原子炉

では、その連鎖反応の速度を遅くなるように調整しているわけです...そこが、原子

爆弾とは違うところです」

「はい...」

「その原子炉から、莫大な核分裂の熱エネルギーを取り出し、発電機のタービンを回

し、熱エネルギー電気エネルギーに転換する...これが原発/原子力発電です。

  まあ、あまり効率の良い発電方法とは言えませんが...現在の原発では、この方

法で大量の電気エネルギーを作り出しています...」

「うーん...」マチコが言った。「まず、“お湯”を沸かすわけよね...それでコー

ヒーを飲むのではなく...蒸気タービンを回し、電気を作り出すわけね...どうして

に変えるのかしら?」

「電気に変えるのは、一番扱いやすいエネルギーだからです...

  さて...中性子炉”では、核分裂性ではないウラン238は核分裂を起こしませ

ん。したがって、これは使用済み核燃料として残ります。

  しかし、高速・中性子が衝突すると、ウラン238分裂することもあるのです...し

たがって、ラン238“核分裂可能物質”とも呼ばれます...」

「うーん...

  ウラン235ウラン238の、二種類があるわけよね。そして、ウラン235の方が、

不安定で、核分裂を起こすわけね。ウラン238の方は残る...だけど、高速・中性子

が衝突すると、分裂することもある...ということね、」

「そうです...

  ウラン238の方は...中性子が衝突しても核分裂を起こさなかった場合は...

その中性子1個を吸収してしまうのです。そして、プルトニウム239になります。これ

が、いわゆるプルトニウムと言われるヤツです。このプルトニウム239核分裂性であ

り、中性子炉”でも燃えるわけです...

  まあ...ややこしい話は別の機会にすることにして、ここは話を単純化しておきま

しょう...ともかく、ウラン235と、プルトニウム239は、同様に核分裂性であり、核爆

の原料になるものです...

  ちなみに、広島に落された“ファットマン”は、ウラン型の原子爆弾。そして長崎に落

された“リトボーイ”は、プルトニウム型の原子爆弾です...その、昭和20年8月6

日、及び8月9日の...人類社会に原子爆弾が投下されて以降...ウラン235

トニウム239は、常に国際社会の火種になって来ました...」

「はい!」マチコが、両腕を組んだ。

「最初は...第2次世界大戦中...マンハッタン計画と呼ばれるビッグ・プロジェクト

で製造された原子爆弾でした。しかし、科学技術の進展で、今ではテロ・グループでも

容易に製造可能です。

  ただし、その原料となる高濃縮ウランプルトニウム239は、まだ国際社会の管理

下にあると言うわけです...インドパキスタン地下核実験も...北朝鮮イラ

核施設も...全てこれらの核分裂性物質の掌握が焦点になっているわけです」

「そうですねえ...」堀内が、作業テーブルを見回して、言った。「核兵器の拡散が防

ぎきれないとなれば...“覇権国家/覇権主義の時代”は、その“幕を下ろす時

来た!...と、私は思います...

  そうした意味で、“覇権主義/拡張主義”は、津田・編集長の言うように、20世紀

の遺物なのでしょう...また、同じ意味で、“人類文明のターニングポイント/文明

のパラダイムシフトを推進して行かなければならないわけです...

  “人類文明の地下都市空間へのシフト”です...」

「はい!」夏美が言った。  

≪ドイツの“脱・原発”宣言≫      wpe74.jpg (13742 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

         index.1102.1.jpg (3137 バイト)    

「堀内さん、」マチコが言った。「ドイツは、何故、“脱・原子力発電”を選択したのかし

ら?」

「ドイツでは...10年以上に及ぶ議論がありました...

  その結果として、“原発の廃止”を決定した“改正・原子力法”を、2002年4月に施

しました。そして、この法律によって、新規の原子力発電所建設と操業は禁止

れました。また、既存の原子炉については、操業許可後・最長32年で許可が消滅

ることが定められました。したがって、ドイツの原発は、事実上、今後平均9年弱で全

て閉鎖となるようです...」

「何故...」夏美が、唇をコブシで押え込んだ。「ドイツでは...“脱・原発”を決断した

のでしょうか?」

“重大事故発生の危険性の高さ!”が、“脱・原発”を決断した理由だと聞いてい

ます...まあ、それが、主要な理由ということでしょう...いずれにしろ、10年以上に

及ぶ議論があったのです...

  ちなみにドイツでは、国民の85%が原子力技術を危険とみなし、世論調査では

民の4分の3“脱・原発”に賛成しているようです...EUの大国/ドイツが、“脱・原

発”に舵を切ったということは、大きな影響力をもちます。今後、追随する国があるかど

うかが注目です...」

 

  〔2〕 スリーマイル島原発事故  index.1102.1.jpg (3137 バイト)

          チェルノブイリ原発事故 

                東海村臨界事故 

   house5.114.2.jpg (1340 バイト)   wpe74.jpg (13742 バイト)    

「堀内さん!」マチコが、言った。「現在、原子力発電を推進している国は、どのような国

があるのでしょうか?」

「そうですねえ...」堀内が、壁面スクリーンの方を見やり、リモコンのコントローラー

を拾い上げた。

「ええと...」希望の画面が出ると、堀内はそれをざっと読んだ。「21世紀に入った時

点で...世界の原発は台湾も含めて、31カ国・地域に存在します...世界で稼動

中の原発は/425基...総発電量は/約3億6000万キロワットです。

  国家レベルの総発電量で、原発の割合が40%を越えている国は...フランス

(75%)リトアニア(73.1%)ベルギー(57.7%)スウェーデン(46.8%)

の...8カ国です。全世界では総発電量の16%を占めています...

  まあ...現在は...数字は多少の変動はあリますが、概略はこんな状況です」

「はい...」夏美がうなづいた。

「現在も、原発を積極的に推進している国は...」堀内が、壁面スクリーンを見ながら

言った。「うーむ...日本、ロシア、中国...そして、インド、ブラジル、韓国、パキスタ

ン、フィンランドなどが上げられていますね...

  “脱・原発”のドイツの隣国/フランスは...総発電量の75%原発という原発大

なのですが...今後、ドイツの状況がどのように影響して行くか注目でしょう...

しかし、総発電量の75%も原発に依存していると、簡単に切換えるというわけには行

かないと思います」

「うーん...フランスは、キュウリー婦人の国よね、」マチコが言った。

「そうです...」堀内がうなづいた。「もう1つの注目は、アメリカです...

  アメリカでは、あの“スリーマイル島原発事故(1979年/事故の国際評価尺度・レベル 5)

以来、新しい大型・原子力発電所は、30年間も建設が凍結されたままです。アメリカ

は、原子爆弾を開発したマンハッタン計画の国ですが、原発の方はまさに頓挫してい

ます...」

「しかし、アメリカでは、」竹内が言った。「原子力空母原理力潜水艦など、海軍

型原子炉の開発は進んでいます...ということは、開発は継続していると言うことで

しょう...

  大型原発でも、“新型・高速炉”を開発しています。中性子炉”“使用済み燃

料”を、“高温冶金法”で再処理し、この“新型・高速炉”で燃やすものです...」

“スリーマイル島原発事故”というと、」夏美が、首を斜めにした。「あの、“メルト・ダ

ウン(炉心溶融)事故”でしょうか...」

「そうです」堀内が言った。「ペンシルバニア州/ゴールズボロー/スリーマイル島の

事故です」

「よほどキズが深かったのですね、」

「まあ、そうだと思います...」竹内が、卓上のヘルメットに手をかけた。「技術先進

国のアメリカとしては、よほどこたえたのでしょう...」

「ソ連の“チェルノブイリ原発事故(1986年/事故の国際評価尺度・レベル7)も、」マチコが

言った。「メルト・ダウンですよね?」

「いや...“暴走”ですが...だいぶ様相は違います...」堀内が、リモコンのコント

ローラーで、壁面スクリーンを、現在のチェルノブイリ原子力発電所の風景に切換え

た。「あれはメルト・ダウンではなく、爆発事故”です...」

「そうです...」竹内が、ゆっくりと言った。スクリーンに、事故のデータがザーッと流れ

出してきた。「あれは...旧・ソ連邦当時(現・ロシア)...現在は独立して、ウクライナ共

和国/チェルノブイリ/チェルノブイリ原子力発電所/4号炉の事故です。原発/原子

力関連では、史上最大の事故です...」

広島長崎は、」堀内が言った。「これは、まさに別格です...これは、故意による、

人口集中都市への原子爆弾投下であり、大勢の人々を殺すのが目的でした。むろん、

犠牲者は桁違です...両都市とも、約10万人が犠牲になっています...詳しいデ

ータは、その方面の資料で調べて欲しいと思います」

「はい、」夏美がうなづいた。

チェルノブイリ事故は...」堀内が、現在の寂びれたチェルノブイリの風景を眺めな

がら言った。「定期点検で、出力を停止する途中実験が行われたと言います...

その最中に、爆発事故は起ったようです...

  数秒間に2回以上の大爆発が起き、原子炉建屋は崩壊核燃料は粉々になり、

2000メートル上空まで吹き上げられた、と記録されています。放射能の影響は、地

球全体に及びました...事故直後の死者31人...これらは、原発の運転員

隊の隊員のようです...」

「どうして、あんな大事故が起こったのでしょうか?」夏美が聞いた。「原子炉が大爆発

を起こすなんて、信じられませんわ...」

「うーむ...」竹内は、右腕を曲げ、ゆっくりと肩を回した。「まず、古い方の、“スリーマイ

ル島原発事故”から説明しましょう...」

「あ、はい...」

アメリカ/ペンシルバニア州/ゴールズボロー/スリーマイル島の原発事故は、

運転員の不手際が重なり...炉心部の20%が溶解してしまったものです...

  いわゆる、“人間的なミス”が重なり...この重大事故が発生しているのが、最大

の特徴です...それで、アメリカは、すっかりまいってしまったのでしょう...“人間的

なミス”というのは、実は非常に哲学的な問題となってしまうわけです...」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。「どうしようもないわよねえ、」

「ところが...です」竹内が、腰を伸ばし、腕組みをした。「“チェルノブイリ原発事故”

方も...実は...まさに、“人間”による“ミス”なのです。いや、こっちの方は、単なる

ミスではなく、“重大な違反行為!”だったのです...」

“違反行為”ですか!」夏美が言った。

「そうです...

  まず、この原子炉は、旧ソ連に特有のRBMK(黒鉛減速・軽水冷却・沸騰水型)と呼ばれる原

子炉です...チェルノブイリ事故は、“無許可”で、タービン発電機の慣性回転を利用

して、電力を発生させる実験中に起こったものです...原子炉を定期点検で、停止

する途中だったといいます...しかし、原子炉を停止して実験すれば、この事故は本

来、起こらなかったものです...

  ところが、原子炉の“自動停止装置”“安全装置”を遮断した上に、“制御棒”をほ

とんど引き抜いていたと言います...むろん、科学実験ですから、全てに、それなり

意味はあったのでしょう...しかし、そのために出力が急上昇し、暴走状態になっ

てしまったということです...

  “原子炉建屋”崩壊するほどの大爆発事故が、“無許可の実験による暴走”で、

起こってしまっているわけです...これは、“怒り”を通り越して...“非常に怖い話”

です...」

「うーん...」マチコが、顎に指を当てた。

「これらの未曾有の大事故は、避けがたい“人間的なミス”や...油断タルミから

来る“集団的な違反行為!”から、起っていたわけです...まさに、驚くべきことで

す。これを“どう克服して行くか”ということが、今後原発を推進して行く上で、大問題と

なっているわけです...

  “忘れっぽい日本人”でも...これは決して、“忘れてはいけないこと”です...」

「そういえば、さあ...」マチコが言った。「“東海村臨界事故(1999年/事故の国際評価尺

度・レベル4)も、“違反行為”を承知でやっていたのよね...濃縮ウランを作るのに、

ケツ柄杓(ひしゃく)を使っていたとかさあ、」

「ウーム...まさに、マチコさんの通りです...」竹内は、唇を噛みしめた。「まさに、そ

の通りなのです...

  あれは、“レベル4”の事故ですから...まぎれもなく、日本では最大最悪の重大

事故です...茨城県/東海村/JCO(本社は東京)で発生しました...東海事業所・

転換試験棟で、核燃料サイクル開発センターの、高速実験炉/“常陽”の燃料を作る

行程で、起こったものです...

  濃縮度18.8%のウラン溶液を、沈殿槽に入れる作業をしていた時、投入量が多

すぎて、ウラン溶液が臨界(核分裂反応が始まる境界)に達したといいます...

  まさに、ピカッと光が発したそうです...3人の作業従事者が、大量被曝で入院/

2人は入院後死亡しています...」

「よく、覚えてますよね、その事故は...」マチコが言った。

「この“臨界事故”では...鉄道道路なども、一時、遮断・封鎖されています。ま

た、半径350m以内の住民“避難”...さらに、半径10km以内の住民が、“屋内

退避”/幼稚園・小学校・中学校・高等学校“休校”...と、なっています...」

「うーん...」マチコが言った。

「この高速・実験炉/“常陽”の次の段階が、高速・原型炉/“もんじゅ”です...ま

あ、これは高速増殖炉/“もんじゅ”と言うことが多いわけですか...この原型炉も、

1995年“2次系冷却材のナトリウム漏れ事故”を引き起こしています。

  この事故は、パイプにつけた温度計が、設計ミスのため、“高サイクル金属疲労”

折れ...そこからナトリウムが、0.7トンが漏れ出したものです...」

「はい...これで...原型炉/“もんじゅ”も、止ってしまったわけですよね。これは、

しょうがないとも言えるのでしょうか...」

「ウーム...

  しかし、あえて言えば...“甘さ”があったとは言えるでしょう...まさに、後から考

えてみれば、“甘さ”があったのです...技術の進歩とは、そういうものです...

  温度計という小さな設計ミスが、あまりにも重大な結果を招いたと言えます。これで

高速増殖炉の本体が止り、開発そのものが頓挫してしまったわけですから...

  ロケット開発でも、原子炉開発でもそうですが、大型ミッションの技術開発というもの

は、それでも“間違い”が起こり得るということです...現場の人の苦労・努力は、並

大抵のものではありません...」

「はい!」マチコが言った。

「しかし...

  “スリーマイル島原発事故(1979年/レベル 5)も、“チェルノブイリ原発事故(1986年/レ

ベル7)も、“東海村臨界事故(1999年/レベル4)も、重大事故はそれぞれ、人間的なミ

や...油断タルミから来る“集団的な違反行為!”から、起っています...」

「はい、」

“ここをどう乗り越えて行くか...”が...今後の原発推進の大きな課題です...

  日本人には、“忘れっぽいという気楽さ”がありますが...アメリカはまだ、“スリー

マイル島事故の人間的なミスのキズ”から立ち直れないでいます...そして、ドイツ

は、“脱・原発”に大きく舵を切りました...果たして、“どの道”がが正しいのでしょう

か...

  ともかく、日本も“根拠薄弱な安心感”ではなく...“地に足の着いた万全な対策”

で臨みたいものですねえ...」

「まさに、その通りです!」堀内が、深くうなづいた。「そして、それを超えるのもまた、

“技術力の向上”なのかも知れません!」

「はい!」夏美が言った。

ドイツのように、」マチコが言った。「“脱・原発”に舵を大きく切るというのも、1つの“勇

気ある決断”よね。これなら、絶対に深刻な事故は起こらないわよね、」

「その通りです!」堀内が言った。「まさに、それが正しいのかも知れないのです...

日本の悪い所は、そうした最重要な課題さえ、時間をかけた“まともな議論”をしてい

ないと言うことです。

  憲法問題でも、医療改革問題でも、教育改革問題でも...また、年金改革問題や、

公共放送/マスコミ問題でも...“国民参加”“まともな議論”を、全くしていない

と言うことです...

  こんなことでは、原発問題も、まともに議論できるはずがありません...そして子供

達は、こうした社会状況を眺めながら、育って行くわけです...この政治の状況、そし

“天下りの体質”から脱却できない“インチキ行政の状況”...このような社会状況

下で、“清く・正しく・夢を持て”と子供達に言えるのでしょうか...」

「うーん...何が、原因なのでしょうか???」夏美が聞いた。

「まあ...」堀内は、苦笑した。「ここは、それを議論する場ではありませんし、私はそ

れを言う立場にありません」

「でも、一言お願いします!」夏美が、頬に笑窪を作った。

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「そうですね...うーむ...

  1つには、国民の主権発動の場”である“公共放送・NHK”機能不全に陥って

いることがあるでしょう...主権発動の場”がないことが、民主主義社会をダメにし

てることは確かです...

  民主主義が大いに啓蒙され、主権者である国民の意見が大いに反映される健在

な公共放送が存在したら、こんな社会になっているはずがありません。今、この“モラ

ルハザード社会”の状況下でも、まさに国民の発言する場が、まるでありません。事態

は、悪化するばかりです...

  現在、NHKの改革がさかんに議論されていますが、そこにも、肝心の主権者であ

国民の参加がありません...ただひたすら、“浄財を義務化”しようとしています。

そうなればもう、国営放送でしょう...

  ハード面の“器の形”や、“料金”の話ばかりで、肝心の“本来の目的”のこと、“主

権発動の場”という社会性の議論は、完全に抜け落ちています...」

「うーん...」マチコが言った。「NHKは解体し、新しく公共放送を編成するしかない

ですよね...

  津田・編集長は、その“新・公共放送”が、透明な“新・民主主義社会”を実現して

行く原動力だと言ってました」

「うーむ...そうなのでしょう...」堀内が言った。「ともかく、“国民が、主権に覚醒

すること!”が...“維新”を引き起こす原動力であることは、間違いありません」

「はい!」夏美が言った。「ありがとうございます、堀内さん。無理にお願いして...」

「いや、私とて、言いことはあるのです」堀内は、ほくそえんだ。

「ええ、堀内さん、竹内さん、ありがとうございました!」マチコが、大きく頭を下げた。

 

「このページは、これで終ります」夏美が言った。「引き続き、同じメンバーで、原子力関

連の問題をやっていきます。

  次は、テロ対策や、核不拡散の問題です。それから、高速増殖炉の考察に入ろうと

思います。どうぞ、ご期待ください」

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