Menu地球監視ネットワーク生態系監視衛星 “ガイア・21” /6度目の大量絶滅は近いのか

                                  地球生命圏に          

     6度目の大量絶滅は近いのか! wpeC.jpg (50407 バイト)

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  <新春対談・2002                                                 <生態系監視衛星 “ガイア・21” >  天体衝突

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                      担当 :  白石 夏美

INDEX          index.1102.1.jpg (3137 バイト)       house5.114.2.jpg (1340 バイト)          

プロローグ       (1) ハイパーリンク/“ガイア・21”回線始動 

      (2) 生態系監視衛生“ガイア・21”よりの眺め

2002. 1.27
No.1 〔1〕 地球生命圏が経験した、過去5回の大量絶滅  2002. 1.27
No.2 〔2〕 “第6の絶滅”と現状の分析

      (1) 外適応と認知能力

      <ポン助のワンポイント解説No.1>

                  ...《外適応》

      (2) 雪男と雪女

      <ポン助のワンポイント解説No.2>

                  ...《ハビタブルゾーン》 

      (3) 膨大な地下生物圏の存在

      (4) 文明の力で、“6度目の大量絶滅”は、回避可能

      (5) .....)

 

2002. 2.28
No.3 〔3〕 彗星と隕石の地球圏への侵入 2002. 3.27
No.4 〔4〕 軍事ミッション・未確認飛行物体(UFO)   **

  

   

                            

プロローグ       <航空宇宙基地“赤い稲妻”/管制塔>より

             wpe74.jpg (13742 バイト)    wpeB.jpg (27677 バイト)                 wpe4F.jpg (12230 バイト) house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「明けましておめでとうございます。星野支折です。

                  今年も、よろしくお願いします。   wpeC.jpg (18013 バイト)   

 

  さて、今年もまた、激動の年になりそうです。私たちの日本において、世界におい

て、さらに人類文明や地球生命圏にとっても、何か差し迫ったものを予感させます。

そこで、人類文明の土台となる、現在の地球生命圏の姿を考察したいと思います。

  この私たちの生態系は、はたして今後、さらに数百万年単位で存続していくのかど

うかということです。それから、その望みがないなら、せめて数万年は維持できるの

でしょうか?

  それとも、地球の地質年代に刻み込まれるような、生態系の大激変が、すぐそこ

にまで差し迫っているのでしょうか...ともかく、人類文明に加速度が加わり、益々

先の見えない時代になって来ています。しかも、ことは微妙で、急を要する事態なの

かも知れません...

  さて、そこでまず、堀内さん...環境・資源・エネルギーを担当する立場から、一

言お願いします」

「うーむ...そうですねえ。非常に難しい時代にさしかかっているのは確かです。た

だ、人類文明の現状では、地球全体を診断するのは、きわめて困難だということです

ね。それだけの力がないのです。

  そうですねえ...せめて、21世紀の半ば頃になれば、かなりのデータが集まって

来るのではないでしょうか...」

「そうですか...うーん...21世紀の半ばになりますか?」

「まあ、その頃は、だいぶ深刻な状況になっていることを危惧しています」

「あの、高杉・塾長は、どう思われるでしょうか?」

「まあ、そんな所だと思います。しかし、では、何もできないのかと言うと、そうではな

いでしょう。私たちが今やるべきことは、山ほどあります。

  まず、なんといっても、環境の保全です。そして、環境の復元。それから、大幅な

人口の抑制ですね。種としての人類を、適正な量まで減少させることが急務でしょ

う。むろん、自然に減少させていくには、かなりの時間を必要とします。したがって、

何か別の手段を考えなくてはなりません。例えば、生態系への負担を劇的に軽減す

るという意味で、“人類文明の巨大地下都市へのシフト”も、その1つです。また、

人類文明の太陽系空間へのシフトも、その1つですね...ま、いずれにしても、全て

は健全な地球生態系を維持することが、大前提です」

「はい。あの、人口は、どのぐらいまで減らせばいいのでしょうか?」

「さあ...今の段階では何とも言えませんが...とりあえずは、19世紀か、20世紀

初頭ぐらいまで持っていかなくては、正常な姿とはいえないでしょう。あの頃は、地球

の全生態系がぶっ壊れるなどとは、考えなかったですからね」

「はい、」

「まあ、知的生命の文明が、どのように展開していくかということでは、これまでの地

球の生物史上には、その前例がないわけです。推測が非常に難しいと思いますね。

まず、進化ということ事態が、巨大な未知数になっています...

  私は、ここに生まれた、人類文明というものの姿を、否定的に考えたり、過小評価

すべきではないと思っています。文明の発祥は、生命進化の経路の上で、非常に重

要なポイントなのですから、」

「はい...塾長、どうもありがとうございました。ええ、続きは、後でお願いします」

 

  支折は、少し離れた所で待っている、“ガイア・21”担当の白石夏美の方に顔を向

けた。

「それじゃ、夏美、続きは、“ガイア・21”の方でよろしくお願いします」

「はい!それじゃ、準備に入ります!バックアップの方は、よろしくね!」

「はい!それじゃ、ポンちゃん、しっかりね!」支折は、傍らに立っているポン助の頭

に手をかけた。

「おう!行ってくるぜ!」

                                                        

 

  4人(3人と、1匹)は、管制室の隣の、宇宙空間対応の電送室に入った。二重ロックの

電送室の中は、個別カプセルが円形にならんでいた。地上基地の簡単なハイパーリ

ンク・ゲートとは、だいぶ様相が違っている。ここから、数百キロメートル離れた宇宙

空間へ、大容量データを確実に転送しなければならないからである。

  それには、特殊なパケットで送り出すのだが、準備に多少の時間がかかった。4人

は、オレンジ色の電送/サテライト・スーツに着替え、ヘルメットを装着した。それか

ら、緊急離脱ベルトをセットし、衛星回線の周波数を確認した。

「ええ...それじゃ、各自、指定のカプセルに入ってください」夏美が言った。「後は、

私がやります。“ガイア・21”については、私が担当ですので、熟知しています」

「まあ、よろしく頼む」高杉は言った。

「それじゃ、ポンちゃん」

「ヨシ!」ポン助が、まず最初にカプセルに入った。

「そうか。ポン助は一度、これを使ったことがあったなあ、」

「はい、」夏美は、微笑した。「H2・ロケットで、“ガイア・21”を打ち上げた後、このシ

ステムで帰還しています」

「なるほど。たいしたものだ」堀内が、緊張した声で言った。「私は、どうも、こうしたも

のは、苦手でねえ、」

「一度使えば、慣れますわ」夏美は、ニッコリと笑みを作った。

「うむ、」

    index.1102.1.jpg (3137 バイト)                        wpeB.jpg (27677 バイト)                 

                                                           

  (1) ハイパーリンク ガイア・21回線 始動       

                  <高度600km/地球極軌道> 

     航空宇宙基地“赤い稲妻”    生態系監視衛生“ガイア・21”

 

「こちら支折。管制塔の方、準備が完了しました。ノイズなし。非常にクリアーな状況

を確保しています。バックアップ、スタンバイ。台風3号、影響なし。流星深度、クリア

ー。太陽風、クリアー。地球圏磁場は、ほぼ理想に近い状態で安定しています」

「了解。こちらもスタンバイ完了です。緊急離脱バンド、1/100秒でセット」夏美が

言った。

「はいそれでは、各自、出発してください!」

「了解...では、ミッションスペシャリストで、宇宙滞在経験者のポンちゃんから、順

次電送を開始します。ポンちゃん、行くわよ!」

「おう!」

「ポンちゃん...通過。つぎ、高杉・塾長...通過。つぎ、堀内さん...通過。ええ、

私も入ります........」

  ピピピピピーッ...ピピピピピーッ...ピピピピピーーーーッ                      

                                                                                        

  (2)新春・ 生態系監視衛生“ガイア・21” からの眺め            

                                                                       

 

「オオーッ!これが、地球だ!」 高杉は、感嘆の声をあげた。

「素晴らしい眺めですねえ...」 堀内も、初めて肉眼で見る光景に、息を止めた。

「迫力がありますねえ!」

「まさに、巨大な質量の塊です...」

                                     

 

           <ハイパーリンクを通過出来るのは、サイバースペースのスタッフのみです...>     

 

  白石夏美が、少し遅れて観測モジュールに入ってきた。彼女は、髪をポニーテイル

に結んでいた。そして、ゆるく関節を曲げた恰好で、慎重に周囲を見回している。彼

女も無重力空間は初めてだったが、新しい環境に対しては、非常に慎重だった。

  みんなのいる四角い観測窓は、防護シャッターが全開していた。約1メートル弱の

正方形だが、そこに青い地球の海が光っていた。太陽光線が地球に当たり、その強

い反射光が、“ガイア・21”の観測モジュールの中を明るくしている。窓には、漆黒の

宇宙空間の闇も見えていた。が、窓全体が、異様に強いエネルギーを放射している

ように感じられた。

  夏美は、ゆっくりと漂いながら、初めて宇宙から見る、“地球の海の青さ”と、“宇宙

の漆黒の闇”を、ただ呆然と見ていた。きらめく地球の青と比べて、宇宙の黒は、無

感動な黒体(こくたい/全ての波長の輻射が、完全に吸収されると仮想される物体/この宇宙は、黒体と考えられてい

ます)としての黒だった。

「...あの真っ白な雲の渦は、台風3号かしら?」夏美は言った。

「どうかな...」堀内が、手を差し伸ばした。そして、夏美の手を取り、そっと引き寄

せた。

「あ、どうも...」

「うーむ...台風3号かも知れんなあ、」高杉は言った。「かなり東よりだが、南太平

洋だ」

「ポンちゃん、聞こえる?」観測モジュール内のスピーカーから、支折の声が流れた。

「おう。聞こえるぞ、」

「元気のない声ねえ」

「そんなことないよな、」

「そ...頑張ってね。ええと、それじゃ、ポンちゃん、これからハイパーリンク回線の

最深度チェックをするんだけど、手伝ってくれる?」

「おう。いいぞ、」

「そう。それじゃ、戻って、ハイパーリンクのコントロールパネルでスタンバイしてちょう

だい」

「頼むぞ!ポン助!」高杉は、ポン助の頭をひと撫でした。

「おう!」

  ポン助は、高杉から離れ、風船のように漂って行った。

「あの、高杉・塾長...」急に改まった支折の声が、スピーカーから流れた。

「うむ、」

「大事な話があります」

「何だね?」

「実は、あと3時間ほどで、アメリカのスペースシャトルが、軌道上で接近してきます。

軍事ミッションのシャトルです」

「ほう!それがどうかしたのかね?」

「はい。NASAから緊急要請が入りました。内容は分らないのですが、そのシャトル

の外部及びその周辺を撮影して欲しいとの依頼です。それも、かなり広い周囲を撮

影して欲しいようです」

「了解した...ふーむ、何だろう?」

「夏美、よろしく頼むわね」支折が言った。「機材はあるわね?」

「はい!了解です...」夏美は、高杉を見ながら返事をした。「こちらの、今回のミッ

ションは、1時間半ほどで終了しますから、後はフリーです」

「はい。こちらは、NASAからのデータ収集に入ります。場合によっては、そちらへ津

田・編集長を派遣することも検討しています」

「了解しました」

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<新春対談>                         

 

「ええ、では、こちらはさっそく、2002年の<新春対談>に入ろうと思います。この

地球観測窓のセットで、よろしくお願いします。必要なデータは、こちらのパネルに表

示されます」

  夏美は、コンピューター・ターミナルの電源を回復した。データ回線は、航空宇宙

基地“赤い稲妻”のスーパーコンピューターとリンクしている。3人は、窓とスクリーン

を俯瞰(ふかん/高い所から見下ろすこと)する形で、マジックハンドに載った遊動チェアを固定し

た。が、肝心の観測窓の風景は、地球の夜の側に入っていた。

 

 

    参考文献

                               日経サイエンス 2002年 2月号

                       大量絶滅は避けられるか

                                       W.W.ギブス (SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 

 


 
〔1〕 地球生命圏が経験した、過去5回の大量絶滅
 

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「ええ、白石夏美です。今回は、初めての、宇宙空間からの仕事になります。また、

私にとって、2002年の初仕事になります。

  ええ、宇宙基地の生態系監視衛星“ガイア・21”は、私の担当になります。今後と

も、よろしくお願いします...

 

  さて、昨年/2001年8月、アメリカのハワイ州ヒロで、保全生物学会の年次大会

が開かれました。そこで、イギリスのオックスフォード大学の動物学者ロバート・メイの

基調講演がありました。

  ちなみに、ロバート・メイは、2000年まで英国政府の首席科学顧問を努め、現在

は英王立協会の会長職にある人物です。それから、地球環境保全に貢献した研究

者に贈られる旭硝子財団“ブループラネット賞”の2001年度の受賞者でもありす。こ

の賞は、同じくオックスフォード大学名誉客員教授のノーマン・マイアーズの2名に贈

られています。

  さて、このロバート・メイの試算によりますと、過去100年間の絶滅確率(一定期間に、

生物種が絶滅する割合)は、人類の出現前と比べて、およそ1000倍も高まったと言ってい

ます。そして、さらにメイは、22世紀の終わり頃までに、この絶滅確率はさらに10倍

に高まると言います。したがって人類は、この地球の生物史上において、“第6の絶

滅”の崖っぷちに立っていると言っています。

  ええ、それでは堀内さん...地球生命圏が経験したと言う、これまでの第1から第

5までの大量絶滅について、簡単に説明していただけるでしょうか。そこから、現在

危惧されている、“第6の絶滅”といういものの姿も、浮かび上がってくると思います」

「はい...これはですね...ええ、この地球の、地質年代に当てはめると、非常によ

く分ります...つまり、この地球における様々な種の大繁栄と衰退...あるいは突

然の絶滅が、地層や化石、あるいは最近の分子進化学などから、かなり細部に至る

まで解明されて来ているのです。ちなみに、地球の生物史上における第1回目の大

量絶滅は、以下のとおりです...ええと、夏美さん、お願いします」

「あ、はい...うーん...ちょっと待ってください...」

  夏美は、遊動チェアの卓上キーボードを、両手で叩いた。それから、首を振り、また

猛烈に叩いた。彼女は、初めてのデータの呼び出しに、苦戦していた。

「ええ...まだ慣れていないので...うーん...」

「ま、ともかく、」堀内が言った。「“ガイア・21”からの、初めてのプレゼンテーションで

す。慣れるまでには、少々時間がかかります...」

「あ、出ました...ええ、はい、これですね」

「ああ、その前に、」堀内が、片手を上げた。「せっかくですから、よく話に出てくる考

古学の地質年代について、簡単に説明しておきましょう」

「あ、そうですね。どうぞ...」

 

「ええ...まず、36億年といわれる地球の生物史は、大きく4つに分類されていま

す。ええ...先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代の4つです。

  このうち、先カンブリア時代は、最初の生命が誕生した頃から、5億7000万年前

までをさします。つまり、この間は約30億年ほどもあるわけであり、生物史の時間軸

は、ほとんどこの先カンブリア時代になるわけです。が、しかし、これ以後、まさに多

細胞生物の爆発的な進化が起こるのです。したがって、この地球における生物進化

の歴史は、内容的には、これ以降が非常に濃厚になるわけです。

  次の古生代は、カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペル

ム紀の6つに細分されます。時間軸で言うと、5億7000万年前から、2億4500万

年前までの間です。まあ、一口で言うと、陸上に植物が進出し、大森林と、巨大昆虫

などが見られた時代です。そう...なんと言ったらいいですかねえ...壮大な地球

生命圏という複雑系が、まさに爆発的に進化し、この惑星表面を覆い尽くしていくわ

けです...まあ、キャンバスの上に、粗いタッチで生命と進化を描き、ようやく活発に

絵筆を動かし始めたような段階でしょうかね...

  次の中生代は、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の3つに細分されます。時間軸で言う

と、2億4500万年前から、6500万年前までです。あの恐竜の時代が突然終焉し、

この中生代も終わっているのです。この時代は、一口で言うと、まさにあの様々な

が、大繁栄した時代ということですね。鳥類が出現したのも、この時代になります。

まあ、きわめてエネルギッシュな、野性味に溢れた時代でした。肉食動物の出現は、

この生態系に弱肉強食の喧騒をもたらし、進化はさらに複雑化していきます...

  それから、次の新生代は、第三紀第四紀に分けられます。現在は、新生代の第

4期ということですね...」

「はい。どうもありがとうございました...

  ええと...このスクリーンに表示したのが、地球の生物史上における、最初の大

量絶滅のデータです...」

 

            wpe8.jpg (77277 バイト)                                                                       

《第1の絶滅》 ( 4億3900万年前/古生代・オルドビス紀の末期 )

継続期間:  1000万年

海生生物の絶滅比率/(確認値)  60%

海生生物の絶滅比率/(推定値) : 85% 

推定原因:  海水準変動

                   “属”、“種”、(確認値)、(推定値) は、参考文献のまま掲載しました。)         wpeC.jpg (18013 バイト)

 

「うーむ...」高杉は、腕組みをした。「この地球生命圏における最初の大量絶滅

は、古生代のオルドビス紀の末期に起こっているのですねえ...

  36億年前に、生命が発生し、先カンブリア時代の、30億年にも及ぶ長い揺籃(よう

らん/ゆりかご)期を終えて、ようやく古生代のカンブリア紀に入るわけですね。それから、

次のオルドビス紀に入り、その末期に“第1回目の大量絶滅”があるわけですか、」

「はい...」堀内が、少し落ち着きを取り戻した様子で、高杉にうなづいた。「5億

7000万年前から、古生代のカンブリア紀が始まります。まあ、実際には、その少し

前あたりから、この地球生命圏において、爆発的な生物進化が起こっているわけで

す。まさに、文字通り、それまでの風景が一変するほどの、生命圏の大変化です」

「ふーむ...」

「そうですねえ...陸上に生物が出現するのは、この《第1の絶滅》直後のシルル

からですから、海水中における生物風景が、ガラリと激変したということになります

ね。それも、地質年代から読み取れるほどの大異変があったわけです...」

「うーむ。堀内さん、例の三葉虫が大繁栄したのは、この時期ですか?」

「はい...三葉虫は節足動物に分類されますね。その他に海綿類や、腕足類

杯類などがあげられます」

「なるほど。あの海綿というのは、そんなに古くからいたわけですか。ふーむ...大

先輩ですなあ、」

「実は、ですねえ...その古生代に入る前、つまり先カンブリア時代の末までに、そ

れまで繁栄していた生物種は、いったん大量絶滅しているわけです。そして、“カンブ

リア時代初期の、ガラ空きの生態系空間”に、多細胞生物が爆発的に展開するわけ

です。この、“ガラ空きの生態系空間”というのが、実は非常に重要な意味をもってく

るわけです」

「なるほど。“ガラ空き”ではあるが、準備されている“濃密な生態系空間”ということ

ですか...私の提案する“36億年の彼”という概念が、うまくマッチしますね。背後

に、“36億年の彼”という、巨大な情報系が蓄積されていれば、次のより高次元の

展開は、容易でしょう?」

「確かに、それは言えます。何らかの形で、巨大な智慧や、巨大な情報系が関与して

いるのは確かだと思います。“無”から、偶然に、これだけの巨大生命圏が出現する

というのは、考えにくいです...まあ、私は、その方面は、あまり深く考えたことはな

いのですが...」

「しかし、何かがあるはずです。私は、宇宙の初期条件にまで還元しているのですが

ね。つまり、この宇宙の生まれ出た初期条件に、物理条件の他に、知的生命の発現

を加えるわけです...」

「はい...いずれにしても、この膨大な“空きニッチ”とでも言うようなサラ地があって

こそ、次の地質年代となる、大進化が可能になるのだと思います。そうでなければ、

生物界の風景が一新するほどの激変は、絶対に起こらなかったと思います

「なるほど。それで、この先カンブリア時代の末にも、大量絶滅はあったわけです

ね?」

「はい。確かに、ありました。しかしまあ、ここを第1の大量絶滅としないのは、絶対量

が違うからでしょう。

  《第1の絶滅》は、生物が爆発的に進化し、膨大な種に分かれ、海水中に生物量

もまた爆発的に増えた後の、まさに大量の絶滅を指しているのです...」

「なるほど。それにしても、海生生物種の絶滅比率(推定値)が85%と言うのはすごい

ですねえ。85%の“量”が絶滅したのではなく、85%の“種”が絶滅したわけです

ね?」

「はい。総量は、実際のところ、地層や化石からは分りません。大雑把な推定はでき

ますがね。分るのは、生物種の推移なのです」

「なるほど、」

“第6の絶滅”も、こうなるのかしら...」夏美が、つぶやいた。「こうなったら、人類

ももう、生き残れないのかしら...」

「ホモサピエンスという種も、いずれは消滅していく運命にある、」高杉は、夏美を見て

微笑した。

「はい...」夏美は、コクリとうなづいた。

「しかし、まあ、“第6の絶滅”に関しては、非常に微妙な問題も、多く含んでいます。

モサピエンスは、科学力を持っています。また、智慧も持っています。今後の展開

で、この力をあなどってはいけないと思いますね。実際のところ、それをどう生かすか

で、事態は大きく変わると思います。人類文明は、この生命圏の運命を左右できるほ

どの、巨大な力をもっています。まあ、この問題は、後でさらに深く考察して行こうと

思います」

「はい、」

「ええと...では、次の第2回目の大量絶滅に行きますか、」堀内が言った。

「はい」夏美は、両手でキイボードを叩いた。今度はすぐに出た。

 

            wpe8.jpg (77277 バイト)                                                                

《第2の絶滅》 ( 3億6300万年前 / 古生代・デボン紀の末期 )

継続期間:  300万年未満

海生生物の絶滅比率/(確認値) : 57%

海生生物の絶滅比率/(推定値) : 83% 

    推定原因:   小惑星・彗星の衝突、地球寒冷化、

           海洋の無酸素化

                “属”、“種”、(確認値)、(推定値) は、参考文献のまま掲載しました。)               wpeC.jpg (18013 バイト)     

 

「この2回目の大量絶滅は、古生代のデボン紀の末期に起こっていますね。古生代

は、カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀と来るわけですが...シルル

紀には、陸上植物が出現しています。そして、デボン紀には、魚類が繁栄を見るわけ

ですね。そして、両生類も出現してきます。

  まあ、そのような状況下で、上記のような推定原因で、再び大量絶滅が起こるわけ

です。そして、この2回目の大量絶滅の後は、石炭紀となるわけです。まあ、ここでは

文字どうり、石炭の材料となるような大森林が繁栄するわけです。そして、昆虫も繁

栄し、それから、爬虫類も出現してきますね...」

「なるほど...最高モードを誇る人類文明にして、未だにこの昆虫の飛行技術は、解

明できずにいるわけですね」

「はい。この飛行技術を実現するには、まだだいぶかかると思います。研究は始まっ

ているのですが、一朝一夕に完成できる技術ではありません。むろん、人類は、鳥の

飛行技術さえ、コピー出来ずにいるのですから、」

「うーん...」夏美が、口に手を当てた。「この時代の昆虫というのは、図鑑などで見

る、あの巨大なトンボなどのことかしら?」

「そうです。まあ、化石などに、あのような巨大昆虫が、その時代の記録として残され

て来たのです。そして、最初の文明を築き上げた、我々ホモサピエンスがそれを発見

しました。

  さて、この石炭紀の後は、古生代最後のペルム紀に入るわけです。そして、この

ペルム紀の末期に、3回目の大量絶滅が起こります。しかし、この3回目は、史上最

大の、凄まじいものでした。そして、地質年代は、次の中生代に入って行くのです」

 

            wpe8.jpg (77277 バイト)                                                                 

《第3の絶滅》 ( 2億4800万年前 / 古生代・ペルム紀の末期 )

継続期間:  不明

海生生物の絶滅比率/(確認値) : 82%

海生生物の絶滅比率/(推定値) : 95% 

    推定原因:  気候変動や海水準変動、小惑星・彗星の衝突、

            活発な火山活動、

                “属”、“種”、(確認値)、(推定値) は、参考文献のまま掲載しました。)           wpeC.jpg (18013 バイト)

 

「くり返しますが、この第3回目の大量絶滅は、地球の生物史上で最大規模のもので

した。実に、海生生物種の絶滅比率(推定値)が95%にも達しています。繁栄を誇った

地球生命圏は、まさに死の惑星と化したわけです。しかし、この大量絶滅があってこ

そ、次の時代の、進化の大爆発が展開するのです。

  研究者達は、このペルム紀の末期に起こった最大規模の絶滅を、愛着を込め、

“大量絶滅の母”と呼んでいます。つまり、この大量絶滅が、次の大繁栄を生み出す

“母”ともなっているからです

「はい、」高杉はうなづいた。「それにしても、皮肉な名前ですねえ...」

「これで、古生代は終わるわけね、」夏美が言った。

「そうです。この古生代型生物の大絶滅の後、地質年代は中生代に入ります。そし

て、中生代に入ると最初の三畳紀の終りに、4回目の大量絶滅が起こるのです」

「はい...ええと、これですね...」夏美は、最後にトンと、強くキーボードを叩いた。

 

             wpe8.jpg (77277 バイト)                                                                  

《第4の絶滅》 ( 2億1000万年前 / 中生代・三畳紀の末期 )

継続期間:  300万年 〜 400万年

海生生物の絶滅比率/(確認値) : 53%

海生生物の絶滅比率/(推定値) : 80% 

    推定原因:  活発な火山活動、地球温暖化

                “属”、“種”、(確認値)、(推定値) は、参考文献のまま掲載しました。)                wpeC.jpg (18013 バイト)

             

「この《第4の絶滅》の特徴は何ですか?」高杉が聞いた。

「そうですねえ...

  その前に、まず古生代から中生代に入ったわけですね。ここで、風景が一変して

います。何といっても、その前に、最大規模の大量絶滅が起こっているわけですか

ら。

  しかし、この三畳紀の末には、早々に、この第4回目の大量絶滅が来ているわけ

です。ただ、この絶滅比率を見てもらうと分りますが、この第4回目は、被害はそれほ

ど深くはないですね」

「ああ...なるほど。推定値で80%ですね...」

「はい。ということは、それだけ多くの種が生き残ったということです。この三畳紀は

それほど期間は長くはないのですが、前期、中期、後期と3つに分類されています。

まあ、ここからも、分類学上、非常に重要な面白い時期だということがわかります」

「なるほど」

「まあ、ごく大雑把に言えば、この時期にはセラタイト型アンモナイト類が繁栄してい

ます。それから、恐竜が出現し、哺乳類も姿を見せますね。まさに、次のジュラ紀の、

大恐竜時代を予感させるものです」

「なるほど。この三畳紀末期の大量絶滅の後、あの大恐竜時代が来るわけですか、」

「はい。そして、その大恐竜時代も、やがて突然終わるわけです。それが、6500万

年前でした」

 

             wpe8.jpg (77277 バイト)                                                              

《第5の絶滅》 ( 6500万年前 / 中生代・白亜紀の末期 )

継続期間:  100万年未満

海生生物の絶滅比率/(確認値) : 47%

海生生物の絶滅比率/(推定値) : 76% 

    推定原因:  小惑星・彗星の衝突、活発な火山活動

                “属”、“種”、(確認値)、(推定値) は、参考文献のまま掲載しました。)            wpeC.jpg (18013 バイト)

 

「ええ、私たちの知っている、この最後の大量絶滅は、6500万年前に起こっていま

す。地質年代では、中生代最後の白亜紀の末期です。まあ、よくご存知だと思いま

すが、この時はあの大繁栄していた恐竜が絶滅しています。

  ちなみに、この間のジュラ紀白亜紀は、地球の生命史上で最大級の恐竜などが

闊歩し、最も野性味の溢れた時代だったと思われています。また、ここで、恐竜が絶

滅しなければ、人類は出現しなかったなどとも言われますね。

  いずれにしても、中生代はこれで終り、地球の生物風景は、ここでまた一変するわ

けです」

「すると...」夏美が、遊動チェアーをスライドさせながら言った。「この6500万年前

に、恐竜が絶滅して以降は、地球表面の生物風景は、あまり劇的な変化はなかった

ということでいいのかしら?」

「まあ、そうですね。しかし、新生代も、専門的には、さらに非常に細かく分類されて

行くわけです。そして、何よりも大事なことは、最終段階で、人類が出現しているとい

うことです。

  そして、人類の中でも、最高モードのホモサピエンスが出現しているということ

ですね。20万年前から3万年前ぐらいまで、ネアンデルタール人がいましたが、彼等

は何故か忽然と姿を消しています。まあ、彼等ばかりでなく、他にも原人は色々いま

した。このあたりのことは、とても一言では言えませんね。が、しかし、ともかく、我々

ホモサピエンスのみが、こうして現存しています。

  さて、それから、このホモサピエンスが、“文明”を築き上げたというのは、地球の

生物史上の数々のイベントの中でも、おそらく最高ランクのものだと思います」堀内

は、両手を組み、高杉の方を見た。

「はい。まさに、その通りだと思います」高杉は、静かにうなづいた。「我々人類の文

明は、紀元後は今年で2002年。紀元前にしても、せいぜい数千年ですね。合わせ

ても、1万年弱といったところでしょうか...

  この日本において、1万年前といえば、石器時代からようやく縄文時代に入った頃

ですね。36億年の生命進化の道のりに比べて、1万年はあまりにも短い時間です。

また、本当に科学技術文明が加速し始めたのは、せいぜいこの200年ぐらいの期

間ですね。

  そして、さらに一歩踏み込んで言えば、20世紀初頭の相対性理論の確立と、

子論の確立が、それ以前の生命進化の歴史との間に、大きな断層を形成していま

す。この断層の大きさは、今まさにこの断層の中にいる我々には、ちょっと想像でき

ないほどの大きさだと思います。

  つまり、私たち各個人は、この地球の生命進化の中でも、特異な最先端の数十年

の中にあり、劇的な荒波の中を歩んでいるのだということです」

「すると、“36億年の生命進化の歴史を、20世紀初頭で2つに分断”するということ

でしょうか?」

「はい。私は専門家ではないので、荒っぽいのは承知で言うのですが、そういう分け

方もあるということです。つまり、21世紀の、相対性理論と量子論に立脚したホモサ

ピエンスの科学技術文明というのは、それほど劇的であり、生物進化上も、きわめて

重要な、1つの頂点を極めた風景だということです。

  が、しかし、問題は、その後の処理ですね。人類文明はさらに続きますし、このま

までは、地球生態系は、パンクしてしまう可能性が高いわけです」

「まさに、その通りですね。そこの所を、ズバリどう思われますか、高杉さんは、」

 

「私たちは、生物進化の歴史の中において、現在のように、非常に加速度のついた、

還元主義的機械文明を振り回すという、きわめて特異な立場にあることを認識すべき

です。21世紀の人類は、一刻一刻の判断が、非常に重要であり、まさにここ当分

は、ダイナミックな水先案内が、“第6の絶滅”を回避していくカギになると思います。

人類は現在、自らが作り上げた科学文明に、自らが振り回されている状況です。しか

し、この状況は、いずれ克服されていくものと思っています」

 

「すると、回避のカギは、私たち自身の文明にかかっていると考えるわけですか?」

「私は、そう見ています。ただ、地球生命圏そのものも大きく変貌し、進化していると

私は思っています。熱帯雨林のような、濃密な野性の多様性だけが、生命圏の全て

ではありません。

  DNAで最高モードの人類が大繁栄しているのも、科学技術文明による情報系を全

地球に張り巡らせているのも、この惑星における生命進化の1つの流れであり、“36

億年の彼”の中に、深く組み込まれているものと思っています。次の進化のステップ

のために...

  “36億年の彼”とは、つまり、そのような全体であり、それこそが、“私”なのです」

「なるほど...“第6の絶滅”を、絶望の淵ととらえ、全てを悲観的にとらえる必要は

ないということですか?」

「まあ、それもありますが、人類文明は、仮に6回目の大量絶滅が来ても、全滅する

ことはないと思いますね。対応が甘ければ大打撃を受けるでしょうが、地下都市、海

底都市、環境ドーム、宇宙コロニー等で、文明の主要部分は残せると思います。過

去の大量絶滅を教訓とすれば、その後で新たな生命進化の大爆発を迎えることがで

きます。まあ、これは、数百万年単位の話になってしまいますかね...」

「...文明が、地球環境を、破壊し尽くすという状況でも、ですか?」

「まあ、核戦争は別格として、環境破壊により、大気組成が変化するようなことは、

いにありうることです。我々は、そうした対応も、しっかりとしておくべきですね。

  それから、地球圏外において、危険な小惑星や彗星を補足し、無力化する技術

も、しっかりと確立しておくべきです。過去5回の大量絶滅の推定原因でも、危険は

地球圏外からやって来る可能性も、かなり高いようですから、」

 

「はい。どうもありがとうございました」夏美が言った。「ここで一段落し、小休止に入り

たいと思います。高杉・塾長、よろしいでしょうか?」

「ああ」高杉は、うなづき、窓の外の地球を眺めた。「うーむ...あれは、アラビア半

島だな...」

「はい。よく晴れていますね」堀内も、窓の外の地球を見下ろした。

 

              

                                               

 

 

      ≪お詫び≫        <新春対談2002>                                            (2002.2.28)  

「もう一度、重ねて、推敲したかったのですが、どうも風邪気味ではかどりません。多少、

読みにくい所があるかも知れませんが、予定よりも数日遅れていますので、とりあえず、

アップロードしました。後ほど、しっかりと推敲します...」 <企画担当/里中響子>

                   <推敲を終了しました>                                               (2002.3.3)     

 〔2〕  “第6の絶滅”と、現状の分析 index.1102.1.jpg (3137 バイト)        

                                                                              

  (1) 外適応と認知能力 wpeC.jpg (18013 バイト)            

 

  夏美は、マジックハンド先端の遊動チェアーで体を固定し、眼下に広がる巨大な質

量を見ていた。地球極軌道を周回する生態系監視衛星“ガイア・21”は、群青(ぐんじょ

う)のインド洋から、インド半島の北部、そして厳冬期のヒマラヤ山脈を、静かに抜けて

行く。その先の白い山々は、チベット高原だ...

  彼女は、そっと両手でポニーテイルの髪に手をやり、キュッと首筋の方へ絞った。

そして、唇を開きかけた。が、その時、高杉の方が、つぶやくように言った。

「...もし、釈尊が...この高度600kmのからの、地球極軌道の風景を見られた

ら...何と言われたかな...」

「...」

「...思えば...時代は、ここまで進んできたわけです...あの釈尊やキリストの

時代から...我々は、こうやって、何処まで歩んでいくのですかねえ...」

「はい...」堀内も、眼下に広がる水の惑星を見つめた。強化ガラス1枚を隔ててい

るだけの無重力空間は、まるでそこへ吸い込まれていくような迫力があった。

                                   wpe74.jpg (13742 バイト)         

「ええ...高杉・塾長、」夏美が、まばたきして言った。「...36億年に及ぶ、地球

の生物進化史上で、ホモサピエンスによって初めて文明の発祥を見たわけです...

それが、何故、ホモサピエンスだったのでしょうか?他の原人たちは、何故絶滅し、

完全に姿を消してしまったのでしょうか?そのあたりの謎は...」

「...うーむ...まあ、これは科学的とは言えない意見ですが...今、我々の人類

文明が、この地球上で繁栄している姿は、単なる生命進化途上の“偶然とは思えな

いものがありますね...

  生命体の“進化の実験場”で、ようやく人類というDNAで最高モードの種の原型を

を創出し、それにさらに磨きをかけ、ついに最初の知的生命体である“文明種族/ホ

モサピエンス”にたどり着いたような感じがします...」

「そう!確かに、そう思いたい所です!」堀内が、真っ直ぐに高杉を見た。「しかし、高

杉さん、それが一番陥りやすい感性でもあるのです。科学的立場から言えば、肝心

なのは“言語の発明”であり、“外適応”として、その潜在能力の器が、すでにホモサ

ピエンスに備わっていたということです。

  すなわち、ほんの一部しか使われていないほどの、“大容量の脳”がすでにあり、

明瞭な言語を発生するのに最適な“声道”を、“外適応”として、すでに装備していた

ということです。

  御存知のように、私たちの脳は、相対性理論と量子論の時代になった現在でもな

お、相当量の未使用部分が残っています。ここが、今後の“外適応”として、ホモサピ

エンスの“新しい能力”、“新しい機能”と結びついていく可能性があります...」

「はい...」夏美が、堀内の言葉を引き取った。「大容量パソコンの、未使用領域の

様なわけですね。現在は、それでワープロを打っているだけで、広大な未使用の領

域があるということですね、」

「まあ、そういうことですね。高杉・塾長の方は、いつものように、“人間原理”の立場

で言っておられるのでしょう...」

「はい」夏美が、うなづいた。「あの、今、堀内さんの言われた“外適応”というのは、

どの様なものなのでしょうか?」

「ああ...“外適応”が出てきましたね。それは、ポン助君に解説してもらいましょう

か。準備はいいかな、ポン助君?」

「おう!いいよな!」

 h4.log1.825.jpg (1314 バイト) ≪ポン助のワンポイント解説・・・No.1≫                  

<外適応 .....>       wpeC.jpg (18013 バイト)h4.log1.825.jpg (1314 バイト)             

「進化論には、“適応”“外適応”という言葉があるよな...

  “適応”はよう、ある特定の機能を果たす現象だよな。“外適応”はよう、

発生しただけで機能は持たず、後で新しい機能に加わる可能性のある現

象だよな。

  人類の“卓越した認知能力”はよ、鳥の“羽毛”と同じ様に、“外適応”と

して発生したらしいぞ。つまり、鳥の羽毛は、最初は何の役にも立たなか

ったけどよ、そのうちに、寒さから身を守る断熱材として機能するようになっ

たぞ。動物の毛皮と同じ様によ。そしてさらに、現在のように、空を飛ぶ

ために使われるようになったよな。

  ヒトの場合はよう...解剖学的な頭蓋骨の形から、“大容量の脳”と、

“有節音声言語”を発生する“声道”を、“外適応”として備えていたことが

最大のポイントだよな。

  これらの新しい構造は、邪魔にならないという理由で、“外適応”として、

世代を超えて、長い間保持されてきたと考えられるよな。大量の未使用領

域の脳は、ホモサピエンスでは、現在も受け継がれているぞ。

  これらの、“外適応”として保存された人類のスーパー機能はよう、鳥の

羽毛と同じように、後で決定的に重要な“認知能力”の一翼を担い、それ

がやがて、文明の夜明けに続いていくことになったと考えられるぞ...

  だけどよ、“進化”については、まだまだその全体像が、謎に包まれてい

るぞ。現在、行われている推理は...このあたりまでだよな...」

                   理解でなかったら、もう一度読んでくれよな...

                             

 

「うーむ...なるほど...」高杉は、地球表層を高速で流れて行きながら、腕組みを

した。「それでは、堀内さん、1つ質問します」

「どうぞ、」

「何故...その“スーパー機能”が、あまりにも偶然に...“外適応”として、すでに

そこに準備されてあったのでしょうか?

  まるで、腹をすかせているポン助の前に、剣菱(日本酒の銘柄/辛口)の入った徳利と盃

が置かれてあったようなものです...つまり、私が言いたいのは、誰が、何者が、そ

こに徳利と盃を準備したかということです。それがあって、はじめて、“発声”“言語

の発明”、そして“文明の夜明け”へと展開していくわけでしょう。ここに私は、何者か

の“意識”の臭いを感じるのです」

「そうですね」堀内は、小さくうなづいた。「確かに、その疑問は、率直に認めます。ま

だ分らないことは、山ほどありますからねえ。しかし、“神”“何者か”の意図を認め

てしまったら、科学ではなくなってしまうのですよ」

「そりゃ、まあ、そうです」

「私たちが、今、この事をこうやって考えているのも、実に、不思議な風景です

わ...」夏美は、ダイナミックな形の雲海の上を、高速で流れて行きながら言った。

「私は、」高杉は言った。「そこに徳利と盃を準備したのは、“36億年の彼”ではない

かと思っているわけです」

「ふーむ...」堀内が言った。

 

  (2) 雪男と雪女               wpeC.jpg (18013 バイト)  

 
「では、先に進みましょうか」夏美が言った。

「はい...」高杉は、腕組みをしながらうなづいた。「ええ...あの、土と埃(ほこり)

まみれた2000年前のパレスチナの地で、キリストが誕生しました。それから、その

少し前になるでしょうか...インド北部の釈迦族の中から仏陀が出現しました。ま

た、キリストよりは少し後になりますか...イスラムの預言者マホメッドが出現してい

ます...いわゆる、世界的に広がった3大宗教は、みなその頃に生まれているわけ

です...

  さて、不思議なのは、その時代に生まれた宗教を、相対性理論と量子論に立脚す

る21世紀の科学文明が、全く超えることが出来ないという事実です...私は、20世

紀初頭に出現した相対性理論と量子論が、人類文明に巨大な断層を形成しつつあ

ると言いました。まあ、文明のパラダイムがシフトしたと言うよりは、古典力学の限界

を超え、新しいステージの時代が始まったと言った方がいいのかも知れません。

  むろん、私はこの言葉を撤回するつもりはないのですが、21世紀に入った現在で

も、2000年前の宗教を超えることが出来ないというのも、不思議な話です。つまり、

それほど優れたものが、すでに2000年も前に出現していたわけです...

  宗教とは、そうしたものだと言ってしまえばそれまでですが、それはより深い真実

に迫るものであり、人類文明の骨格を成すものです。あっさりと納得してしまうには、

その影響はあまりにも大きいのではないでしょうか。しかも、21世紀の科学的パラダ

イムも、あえてその宗教とは対立しないスタンスを取っています...まあ、これは、

非常に賢い判断だったとは思いますが...」

「はい...うーん...それは、何故なのでしょうか?高名な科学者は、なぜ科学と

宗教の両方を認めるのでしょうか?その代表格が、アインシュタインだと思うのです

が、」

「この眼前する世界というのは、実は、科学では説明しきれないものが沢山ありま

す。本質的な矛盾をはらんでしまうからです。そこで、全能の神に御登場していただく

というわけですがね...」

「ふーん...」

「まあ...ここで私が言いたいのは、世界中に広がった3大宗教が、ほぼ同じ頃に

出現している偶然です。ここに、意図的な痕跡はないでしょうか?」

「その問題ですか、」堀内が、額をこすった。「まあ、全歴史を検証して見る必要は、

確かにありますが、難しいですねえ...まあ、私の専門ではないですが、」

「それでは、ホモサピエンスに、“外適応”として大容量の脳や声道が準備されたの

は、何故か?それが言語の発明と高い認知能力に結びつき、ついに文明の発祥を

見たわけですが、その同じ経路の上に、宗教もまた、準備されていたとは考えられな

いでしょうか?」

「そうですねえ...」堀内は、地球の反射光を額に受けながら、ゆっくりと両腕を組ん

だ。「まず...高杉さんが抱いているような、人類文明に対する感情というものは、

非常に強い直観力から来るのだと思います...そういう直観力に対し、論理的に反

論するのは難しいことですね...

  直感というのは、理屈抜きに、直接的に真理を掴むものですから。しかし、だから

といって、私には、それが正しいと保証するすべもないわけです」

「私は、実は、この感情も、“36億年の彼”という、私の自論に反映させています。

こうした“意図”もまた、“36億年の彼”の、人格の一部と見ています。それから、

何故“36億年の彼”が存在するのかということでは、この宇宙の初期条件の最後の

1行に、“知的生命の存在”と、書き込むわけですよ」

「まあ、整合性はとれますね」

「はい」高杉は、口元で笑った「まあ、実際の所、そんな単純な風景とは思いません

がね。ただ、この世界というのは、入れ子細工のようで、深くさぐれば深くさぐるほど、

益々複雑化していくのが特徴です。しかも、分割・分析から、今度は包括・統合へ折

り返して行くといいます。まさに、切りがない」

「しかし、より深まって入るでしょう」

「はい、」夏美がうなづいた。

「まあ、それにしても...“生命”とは、何なのでしょうか」高杉は言った。「それから、

“進化”とは、何なのか...その“ベクトル”は、何処を向いているのか...あと、10

万年も人類文明が続けば、それが分かってくるかも知れませんね」

「10万年ですかあ...」堀内がうなづいた。「さて...長いような...非常に短いよ

うな...」

「ネアンデルタール人は、それ以上存続したわけですよね」夏美が言った。「それが、

クロマニヨン人に駆逐されました。でも、ホモサピエンスには、天敵はいませんわ。だ

から、もっとずっと長く続くのではないでしょうか?もちろん、文明をうまくコントロール

できればの話ですけど、」

「その通りです...」高杉は、ポン助の方を見た。ポン助は、次の作業にかかってい

た。「文明が発祥したということは、そのための“巨大な力”を持ったということなので

す。ただし、その文化的側面で、真にそれに見合った超越的存在に解脱できたらの

話です。そうなれば、“外適応”に相当する未使用の脳の領域も活用し、100万年、

200万年と続くことも可能なはずです。ホモサピエンスは、器としては、軽くそれぐら

いのものは持っていると思います」

「はい...うーん、是非それぐらい続いて欲しいと思います...

  あの、堀内さん、ひとつ気になっているのですが、ネアンデルタール人は、本当に

クロマニヨン人や現代人に絶滅させられたのでしょうか?」

「故意に、絶滅させられたのかとなると、それは大いに疑問ですね。大量虐殺された

ような痕跡は無いと言われています。

  それから、そこが、先ほど高杉さんの言った、ホモサピエンスの“文明発祥の必然

性”に結びつくわけでしょう。そして、必要のない要素として、他の原人たちは実験場

から取り除かれたような...

  うーむ、実際、どんな事が起こっていたのでしょうかねえ...」

「ミステリーですね」高杉は、混ぜ返すように言った。

「1つ言えることは、ですね...彼等が絶滅したという確証があるわけではないので

す。何がしかの“種”が、絶滅したと証明するのは、実は非常に難しいことなのです。

最近でもまだ、“雪男”を見たという話はあるでしょう。私などは、ひょっとしたら、それ

は私たち以外の人類...つまり、他の原人の末裔(まつえい)ではないかと思ったりも

するわけですよ。

  まあ、現在でも、そうした原人の末裔がいても、不思議はないわけです。しかし、

それも、混血で消えていってしまったでしょうか...」

「さて、どうでしょうかねえ...いずれにしても、他の原人はみんな消え、ホモサピエ

ンスだけが残ったというのは、事実です。仮に、“雪男”の様な一族が点々と存在し

たとしても、ごくわずかな人数でしょう...うーん...まだまだ、DNAは闇の中です

からねえ、」

「まあ、ともかく、ここは不思議な世界ですし、何万年もの長い時間も流れています」

「あの、それじゃ、“雪女”というのも、いるのでしょうか?」夏美が聞いた。

「さあ...それは、別の話じゃないですか、」堀内は、高杉の方を見た。

“雪女”...ですか?それは、別の話じゃないかなあ、」

「あら?そうかしら?」夏美は、真っ直ぐに高杉の顔を見た。

「それは、オバケだよな」ポン助が言った。

  堀内は、手を振って笑った。高杉も笑い出すと、夏美も一緒に笑った。

「ま、」と、高杉は、笑いを押さえて言った。「様々な原人が生まれてきて、最後にホモ

サピエンスが出現し、ついに地球の生物進化史上で、最初の“文明の夜明け”を見

たというのは、実に特筆すべき大事件です。

  それから、ホモサピエンスは、その科学技術文明の暴走ゆえに、この地球の全生

態系をも沈没させかけています。実に、因果な話です。まあ...ふざけた話でもある

わけです。

  だから私は、この機械文明に振り回されている現在の状況は、いずれ、必ず、克

服されるはずだと言うのです。そうでなければ、この地球という“ハビタブルゾーン”

の、特異な惑星上で、巨大文明が発祥した意味がないですからねえ...まあ、逆説

的な言い方になりますが、」

「うーん...それは、分ります!」夏美が、頬に笑窪を作った。「そういう論法は、面

白いです。私は、好きですわ。“ハビタブルゾーン”というのは、何となく、こじ付けの

ような感じがしますけど、」

  堀内は、両手を開き、首を斜めにして見せた。

「でも、」と、夏美が言った。「素直に、直感的に、高杉・塾長の言うとおりだと思いま

すけど。何故か、人類文明の発祥は、生物進化上の偶然の産物とは思えないものを

感じますわ...」

「まあ、“人間原理”に基づく、逆説ですね...」堀内が、地球を眺め、考え深げに言

った。「あるいは、そうなのかも知れません。ただ、私は、塾長よりは、より科学者に

近いですからねえ、」

 h4.log1.825.jpg (1314 バイト) ≪ポン助のワンポイント解説・・・No.2≫               

<ハビタブルゾーン..... >       wpeC.jpg (18013 バイト)h4.log1.825.jpg (1314 バイト)     

「恒星系や銀河系の中で、生命体が存在できると推定される領のことだ

よな...

  太陽系で言えばよう、金星軌道の外側から、火星軌道のやや外側まで

領域だよな。それよりも内側の軌道だと、太陽に近くて、金星のように灼

熱の世界になるぞ。火星よりもだいぶ外側へ行くと、今度は太陽から遠く

て、極寒の氷の世界になってしまうぞ。

  太陽系では、地球火星が、このハビタブルゾーンに入っているよな。だ

けどよう、木星の衛星のエウロパにも、氷の表面の下の海に、生命体が

いるかも知れないと、考えられているよな...これは、巨大な木星の重力

で、エウロパの形が激しく変形することで、エウロパという衛星自身が独自

の熱源を持つからだと考えられているぞ。

  銀河系のハビタブルゾーンの方は、もう少し要素が複雑だよな。だけど、

太陽系を含む、外側の薄いディスクのドーナツ型領域が、要するに、銀河

系のハビタブルゾーンだよな。

  いずれにしてもよ、ハビタブルゾーンというのは、はっきりした境界線が

あるのではなくて、地球の様な“水の惑星”が存在できる条件を、想定した

ゾーンだよな...夏美が、“こじ付け”のようだと言うのは、このあたりの大

雑把な概念だよな...

  だけどよ、物理的にあまり激しい領域に、生命体が生存できないのも、

事実だよな...生命が生まれるには、“水の惑星”の条件と、穏やかな長

い時間が必要だよな。ただ1つの実例として、“地球生命圏”を見るかぎり

はよう、」

                                 

                        理解でなかったら、もう一度読んでくれよな...    

  (3) 膨大な地下生物圏 (Deep Biosphere) の存在       house5.114.2.jpg (1340 バイト)    

                                               

「ああ、そうそう、」堀内が、口を開いた。「高杉・塾長は、地下生物圏 のページを担

当していましたね。そっちの方は、現在、どんな様子なのですか?」

「はい。担当していますが、まだほとんどデータはありません...

  しかし、まあ、深海底のさらに地底深くに、“地下生物圏”が存在しているのが分っ

てきています。この地球生命圏を構成しているのは、太陽光線の恩恵を受けている、

地表領域だけではないことが分って来たのです」

「はい。で、それは、確かなことなのでしょうか?」

「確かです。どうやら、深海底の地下深くに、膨大な未知の地下生物圏が存在してい

るのは、確かなようです。熱源も、太陽ではなく、地球の内部から得ています」

「ふーむ...すると、それは、別の生態系でしょうか?」

「この、眼下の...」高杉は、地球の雲海の強い反射光に目を細めた。「地球とい

う惑星上のことですから...まず、完全に独立した、別の閉鎖系が存在するという

ことは考えられません。しかし、これまでの推計では、かなり独立性の強い生態系だ

とは言えますね。つまり、別の熱源があるわけであり、自立しているのです」

「うーん...どういうことなのでしょうか?」夏美が言った。「私には、よく飲み込めな

いのですが、」

「そうですね。それじゃ、まず、地下生物圏について、簡単に説明しておきましょ

う...

  そもそも “地下生物圏”というのは、海底火山ブラックスモーカーや、熱水鉱床

の地下から、その存在の一端が、少しづつ見えてきた生物圏です。ごく最近、ようや

く本格的な深海底の掘削調査も始まっています。私としても、その成果が上がってく

るのを、今まさに待っているところです」

「うーん...深海底の、さらにその下の地層を掘削するのですか...ずいぶんと難

しい作業なのでしょうか?」

「まさに、そのとうりです。だから、今まで発見されなかった。しかし、最近になって、

そのための深海底掘削船が建造され、第一線に投入されて来ています。海底に眠

る莫大な量のメタンハイドレートの調査が進んだのも、こうした海底掘削技術の成果

なのです」

「はい。メタンハイドレートは知っています」

「さて、その地下生物圏/(Deep Biosphere)の微生物の総量は、膨大なものが予想

されています。炭素重量に換算して、地球表面の生物圏の200倍(200兆トン)とい

う試算もあるようです。

  まあ、いずれにしても、本格的な研究はこれからになります。が、しかし、そんな膨

大な生物圏が、深海底の地下に存在しているとなると、この地球生命圏の全体像

が、大きく変貌してきます。これは、地球のホメオスタシス(恒常性)にも、深く影響してき

ます

「うーむ...そりゃ、大変な話ですねえ、」堀内が言った。「それにしても、まだまだ分

らない事はあるものですねえ...この地球にも...」

「そうですねえ...海底に眠っている、膨大な量のメタンハイドレートの存在が分って

きたのも、つい最近のことでした。人類文明の科学力が、ようやく、本格的に、この地

球という惑星全体の探査に、手が届いてきたということでしょうか...」

「うーん...」夏美は、ポニーテイルの髪を、ギュと絞った。「地球表層の200倍もの

生物量なんて、そんなものすごい量が、本当に海底の地層の中に存在するのでしょ

うか?そんなものすごい量が...」

「まあ、これは推定です。実際のところは、まだ誰にも分りません。が、しかし、調査

が進めば、より正確な推定値が出てくるでしょう。いずれにしても、地球という生命圏

全体を考察する上でも、途方もなく巨大な新しい要素が加わることは確実なようです」

「この地下生物圏には、高等生物は居ないのでしょうか?」

高温高圧という厳しい環境を考えれば、微生物が主体だと思います。しかも、こうし

た環境下では、移動も難しいでしょう。しかし、ともかく、まだ手の着けられていない

未知の世界です。生命の存在そのものが、まだまだ謎が多いわけですから、何が出

て来るか分りません...

  まあ、おそらく、数々の驚くような発見があると思いますね。なんといっても、閉鎖

性の強い自立した生物圏です。生物進化の歴史も、環境も、地表とは異なるわけ

です。おそらく、36億年ほどの時間経過もあるわけでしょう。しかも、その上、我々と

は兄弟分というわけですからねえ...」

「うーん...どういうことになるのでしょうか?」夏美が、遊動チェアーを高杉の方に寄

せた。

「まあ...地表の生物圏というのは、ひょっとしたら、海の上に突き出した氷山の一

角、なのかも知れません」

「いや、地下生物圏の話は耳にしていましたが、そんな方向へ展開していくわけです

か...」

「不思議な惑星ですわ」夏美が、地球を見下ろしながら言った。「それに、美しい惑星

ですわ...」

「ともかく...“生命”というものにも、“意識”というものにも、実に謎が多い。私は、

地球に、自論の36億年の彼という地球サイズの人格が存在するとしたら、この

安定した地下生物圏にそのネットワークがあるような気がしていいます」

                                      

 

*********************************************************************************************

≪大川慶三郎と、ミミちゃんが到着...≫           

 

  ピピピピピーッ...ピピピピピーッ...ピピピピピーーーーッ            

                 

                            

「こちら夏美!こちら夏美!

  ええ...ただ今、大川慶三郎さんと、ミミちゃんが、生態系監視衛星“ガ

イア・21”に到着しました!」

「こちら、支折!了解!NASAより依頼されたミッションは、今後、大川慶

三郎さんが引き継ぎます。津田・編集長は、急遽“辛口時評”の仕事が入

り、宇宙空間には出られなくなりました。

  軍事ミッションは、本来、大川慶三郎・軍事担当主任が最適任ですの

で、何の問題もありません。どうぞ、」

「こちら、夏美!了解!」

「大川・主任は、軍事衛星1号で、アフガン情勢及び中東情勢を監視して

いたのですが、今回の事態で“赤い稲妻”に帰還しました。NASAより依

頼のミッションは、全て了解しています」

「はい。そちらの方は、大川・主任にお任せします。あ、それから、ポンちゃ

んも、どうぞ、」

「あら、いいかしら?」

「はい。こちらの方は、ミミちゃんが来てくれましたから、」

「はい。了解しました...ありがとう、夏美。それじゃ、よろしくね」

「はい。あ...ミミちゃんが、観測モジュールに入ってき来ました。大川さ

んも来ました...大きなトランクを2つ運び込んできました...」

                                         room9.1292.jpg (1837 バイト)   
                                       

「おう!」高杉は、遊動チェアーから、手を上げた。「ご苦労さん!それじゃ

あ、大川さん、NASAの方は頼みます」

「ああ、はい、」

「こっちも、予定より大幅に時間がかかってます。まあ、いつものことです

が、話が伸びてしまいました」

「はい...」大川は、観測モジュールの中を見回した。「こっちも、すぐに準

備にかかります。もう、ほとんど時間がありませんねえ、」

「手が必要なら、言ってください」堀内が言った。

「ああ、はい...セットは簡単なものです。ただ、テストをしたかったのです

がね、」

 

**********************************************************************************************

  (4)文明の力で、“6度目の大量絶滅”は、回避可能  wpe89.jpg (15483 バイト)

                           index.1102.1.jpg (3137 バイト)  wpe89.jpg (15483 バイト)

                                                   

「うーん...ミミちゃん、大丈夫でしょうか?」夏美が、首をかしげ、無重力空間でグ

ルグル回転しているミミちゃんを眺めた。

「うん!」ミミちゃんが、あらぬ方に体を回転させながら答えた。

「ええ...初めての微小重力環境で、落ち着かないと思いますが...」夏美は、チョ

イ、と手を伸ばし、ミミちゃんの耳をつかんだ。そして、クイ、と自分のそばに引き寄せ

た。「よろしくお願いします。気分はどうでしょうか?」

「うん!大丈夫だもん!」ミミちゃんは、夏美のポニーテイルをしっかりと掴んだ。

「そう...ええ...それじゃ、さっそく始めます...」

  夏美は、キーボードを叩いた。そして、まず、壁面に折り畳まれている、軽量マジッ

クハンドの遊動チェアーを、もう1本起動させた。マジックハンドの先端に花開いた遊

動チェアーには、専用スクリーンとキーボードが標準装備されている。

「ええと...ミミちゃん、体をマジックテープで固定してください。そう...長すぎる部

分は、巻き込んで下さい...ええと、それから、キーボードは使えるかしら?」

「うん!たぶん...」

「そ...私も、少しまごついたけど、大丈夫。すぐに慣れるわよ」

「うん...」

「はい...ええ、よろしいでしょうか、塾長?」

「ああ、いいとも」高杉は、地球を俯瞰する窓に肩を寄せた。それから、ミミちゃんの

方を見た。「頼むぞ、ミミちゃん」

「うん!大丈夫だもん!」

「おお、」堀内が、顔をくずした。

                                           

 

「ええ...では、続けます...」夏美が言った。「ええと...地球の36億年に及ぶ

生物進化の歴史において、これまでに5回の大量絶滅があったのは、大体分りまし

た。最後の大量絶滅は、6500万年前の、恐竜時代の終焉だということも知りまし

た...

  つまり、それから6500万年が経過したわけですね。そこで、現在、再びその兆候

はあるのでしょうか?つまり、“6度目の大量絶滅”に突入するような、前兆というよう

なものが、果たしてあるのでしょうか?」

「まあ...一口で言えば、その可能性はあります...」高杉は、遊動チェアーを、や

やスライドさせた。

「それは、高い確率なのでしょうか?」

「うーむ...確率というよりは、その大量絶滅の可能性を、人類文明が創出し、また

コントロールできるということです。したがって、それは、きわめて危険であるとも言え

るわけです。この地球生命圏を壊すも守るも、人類の科学技術文明にとっては、きわ

めて“お手ごろサイズ”といったところですね」

「...」

「つまり、人類文明のスケールと、地球生命圏のスケールが、非常に接近して来てい

るのです。もちろん、内容において比較できるものではありません。人類は、たった1

個の単細胞生物さえも、真の意味においては、創出したという実績は皆無です。ま

あ、生物体の基本単位であ“細胞”というものは、まさに生命の神秘そのものであ

り、容易に創出できるものではありません...」

「はい、」

「しかし、この偉大で、奇跡的な巨大生命圏を、人類の手で破壊することは容易なの

です。もっとも簡単なのは、100メガトン級の水爆を10個も使えば、瞬時にして、こ

の地球生命圏の表層部を崩壊させることができます。つまり、その気になれば、この

生命圏を破壊することは至って簡単なのです。

  それから、その対極には、いま現実に起こっている、“穏やかで確実な環境破壊の

進行”があります。まあ、このように、人類文明が内包する破壊力というものは、まさ

にバラエティーに富んでいると言えます」

「はい、」

「しかし、一方では、科学技術文明は、砂漠の緑化計画、農産物の増産、品種改良

と、生産面でも大きな威力を発揮できる状況にあります。これは、生物体をゼロから

創出するのではなく、育成する技術ですね。したがって、環境の保護や復元にも、人

類は大きな力を発揮できる実力を身につけているのも確かなのです...つまり、これ

らを総合して、先ほど、“お手ごろサイズ”と言ったわけです...」

「うーん...まとめると、どういうことになるでしょうか?」

「つまり、こういうことです...

 

  人類文明は、この地球の全生態系をコントロールする、十分な力を、すでに持って

いるということです。ただ、残念ながら、それを有効に活用できる状態には至っていな

いということですね。二酸化炭素の排出量に関する『京都議定書』の様な、努力は始

まってはいるのですが、まだそれほど真剣という状況には至っていません。

  しかし、様々な兆候から、事態は非常に切迫していると考えるべきだと思います。

今、人類文明が地球環境のコントロールに失敗すれば、最悪の場合、“第6の大量

絶滅”もありうるかも知れません...

 

  その1つは、地球が、長期的な気候変動期に入ってきているということです。

  2つ目は、人口爆発による、地球のホメオスタシス(恒常性)の破局点の到来と、

急速な全地球環境の変動です。人口爆発は、あらゆる意味で、地球生態系に急激な

負担をかけています。問題の全ての元凶は、まさに人口問題にあるのです。

  それから...確かに、大自然のサイクルでも、これまでに5回の大量絶滅があっ

たわけです。火山や海底のメタンハイドレートの崩壊から、大量の二酸化炭素が大

気圏に放出される事もあります。そして、このことが、人類の地球温暖化回避の努力

を、いっきに押し潰してしまうこともあるかも知れません。

  しかし、こうした自然界の危険性と、文明が定量的に、確実に地球環境を食い潰し

て行くのとは、明らかに意味が違うのです。したがって、人類文明が確実に地球環境

を食いつぶしていく事態は、絶対に回避すべきなのです。そして、その上で、大自然

の猛威に対処する道を、余裕を持って整備していくことです。

  これが、真の人類文明の姿なのではないでしょうか...

 

  まあ、このあたりが、人類文明の現状ということですね...」

「...20世紀の後半は、」堀内が言った。「人類は冷戦構造からの脱却が、最大の

テーマでした。環境保護と環境復元の運動は、21世紀の初頭から半ばへかけて

の、最大のテーマになりそうですね...」

「そうですねえ...いずれにしても、保護と復元の一方で、凄まじい破壊が進行して

いる現状は、何とかしないといけません...

  “人口の爆発”と、それによる必然的な“環境破壊”、“気候変動”、“食糧危機”を

考えると、状況はきわめて厳しいものがあります。このままでは、近い将来に、確実

に悲惨な状況が到来します...

  それが、人類文明に起因するものであるにせよ、ないにせよ、現在の地球上の膨

大な人口は、必ず“適正な数量”に修正される時が来ます。まず、飢餓と疫病の、相

乗効果による、“人口激減の圧力”が高まって来るでしょう。それを、文明の力と国際

社会の連携で、何処まで耐えられるかが問題です...」

 

「はい。ええ、夏美です...

  今回は、ここで一応終了とします。次回は、“彗星と隕石の地球圏への侵入”と、

大川慶三郎・軍事担当主任の、軍事ミッションになります。どうぞ、ご期待ください!」

                       index.1102.1.jpg (3137 バイト)              

                                                                                                    

 

  〔3〕 彗星と隕石の地球圏への侵入        ...(2002.3.27)         

          wpe74.jpg (13742 バイト)     wpeB.jpg (27677 バイト)        wpe89.jpg (15483 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

 

「さて、ここまで色々と検証してきましたが...」堀内は、顔の半面に、地球の強い反

射光を受けながら言った。「...しかし、実際の危機は、別の方からやって来る可能

性もあります...」

  高杉は、ダイナミックな地球大気表層を、超高速で流されながら聞いていた。体は、

遊動チェアーに固定されていたが、巨大質量の地球に吸い込まれていくような感覚が

あった。

「地球生命圏の危機といえば、“彗星や小惑星の地球圏への侵入”もその1つです。

あるいは、太陽の変調があるかも知れません。それとも、人類文明とは全く別の要

因で、大氷河期や、地球の全球凍結のようなストーリイが、すでにどこかで進行して

いるのかも知れません...」

「うむ...」高杉は、静かにうなづいた。「私たち人類は、この地球について、非常に

多くの事を知っています。しかし、また、非常に多くの、知らないことがあります。例え

ば、膨大な地下生物圏も、つい最近まではその存在すら知らなかったわけです。深海

底に眠るメタンハイドレートについてもそうです。むろん、DNAやタンパク質について

もそうですがね...」

「知らないことの方が多いのでしょうか?」夏美が聞いた。

「と、いうよりは、知っていることは、ほんのナイフの切り口の部分だけだということでし

ょう。何故ナイフの切り口かというと、私たちが二元論的に分断して得た知識だという

ことです。言語は、リアリティーを分断することによって、事態を掌握していく体系だか

らです」

「ふーん...」夏美は、首を横にした。

「ともかく、まだまだ人類文明は、きわめて脆弱な砂上の楼閣の上に、辛くも原始文

を散在させているというのが、現状の姿ではないでしょうか...」

「はい、」

「ほとんど、防御らしい防御もなく、環境ドームもなく、裸同然の文明が、この地球の

大地の上に、ただ漫然と置かれているというのが実状ですね...わずか1万年弱

の、奇跡的な人類の文明が、この宇宙に強固な橋頭堡を築いていって欲しいものだ

と思います。

  そして、文明としての幼児期を脱し、さらに人類文明の版図を、太陽系空間に拡大

して行って欲しいものです。そして、さらに1万年、2万年、10万年と続いていって欲

しいですね」

「はい。でも、それは、太陽系空間で終りなのでしょうか?」


                                                  index.1102.1.jpg (3137 バイト)              

 

「まあ...太陽系は、広いですよ。冥王星軌道のはるか外側に、太陽風の届く限界

面があります。太陽風は球形に放射されているわけですが、その限界面で、終端衝

撃波が発生しています。

  これは、実際に、外部の星間ガスの進入を防ぐ、衝撃波の壁があるわけですね。

まあ、言い換えれば、この内側には太陽風という与圧がかかっていて、星間ガスなど

は、進入しにくい状態といったとこですかね...

  あ、それから、プラズマの風である太陽風が風圧を持つのは、それに磁力線が絡

み付いているからです。単なる素粒子なら、あっさりと貫通してしまうわけです」

「ああ...なるほど...」堀内がうなづいた。「この太陽風の風圧というものは、相当

のものだと聞いていますが、」

「まあ、そうですねえ。太陽光線と同じ様なもので、単位面積あたりのエネルギーはた

いしたことはないのですが、総量は莫大なものです。だから、惑星間宇宙船に帆船を

使うというような構想も真剣に検討されているわけです。スピードは遅いですが、費用

が安いですから、それなりの使い道もあるようです」

「なるほど、」

「さて...普通は、冥王星のはるか彼方の、この太陽風の届く所までを、太陽系と見

ているわけです。しかし、そのさらにはるか外側になりますが、太陽系を取り巻いて

いる“オールトの雲”と言われている領域があります。

  この領域には、無数の大小の氷の塊が、広大な宇宙空間に雲のように広がり、大

きく太陽系を取り巻いているのが分ってきています。天文学者によっては、これも太

陽系の引力に補足されているわけだから、太陽系に入るとしているようです。

  しかし、この“オールトの雲”というのは、太陽系に一番近い恒星の半分の距離に

まで広がっていて、半径が1光年、2光年というようなスケールになります。まあ、宇

宙空間には、水が豊富にあるというのは、こういう氷の塊としての水が、相当にあると

いうことからも分ると思います...」

「ふーむ...」堀内は、腕組みをしてうなった。「なるほど...太陽系の外の方は、そ

んなことになっているのですか、」

「はい...しかし、この領域広がる氷の塊は、太陽系の引力に補足されているといっ

ても、重力的には極めて不安定なものと推定されています。ちょっとした重力的な揺

らぎで、バランスが崩れると、太陽系の中に落ちて来るか、外側へ離脱してしまいま

す」

「ふーむ...重力的な揺らぎというと、具体的にはどんな力が働くのですか?」堀内

が聞いた。

「そうですねえ...

  この宇宙は、いわゆるニュートンが考えていたような、静的な物理空間ではありま

せんでした。時空間が連動し、きわめてダイナミックに変動している世界だったわけで

す。また、そこでは、実に様々な相互作用が、常時発生しているわけです。

  まず、宇宙の大規模構造から来る力学的変動。銀河系が集まっている銀河団や

局所銀河群の変動。それから、約2億年に1回転するといわれる私たちの天の川銀

の、銀河回転があります。そして、太陽系の位置する銀河系の腕の部分があるわ

けですね。こうした状況下で、星が生まれたり、超新星となって爆発したりしているわ

けです。また、銀河系を取り巻く磁力線や宇宙線、銀河系の外から来る強力な宇宙線

などもあります...」

「ふーむ...」

「まあ、そんな状況ですから、他の恒星がそばを通ることもあります。また、他の恒星

系から離脱してきた彗星などが、そのまま太陽系に進入してくることもあるわけです

ね。そうしたものの影響を受けるわけです」

「なるほど、ダイナミックですねえ、」

「はい。こうして天空を見ていると、竈(かまど)の中をのぞいているような真っ黒な世界

ですが、非常にダイナミックです。まるで、音のないパントマイムの世界で、スープをか

き回しているような世界です...」

「はい、」

「まあ、そんなわけで、重力のバランスを崩すわけです。そして、太陽系の引力に吸い

込まれる選択をした氷の塊は、そこから“彗星”としての長い長い旅が始まるわけで

す。太陽系の中心にある、巨大質量の太陽を目指してですね。そうした彗星が、無数

にあるわけです...

  そして、やがて、孤独な長い長い旅の果てに、ついに太陽系の中心領域に侵入し

てくると、それは“ほうき星”となって、尾が美しく長く伸びて輝くのです。しかし、まあ、

その美しい“ほうき星”は、時として、地球生命圏に大異変をもたらす、“災いの使者”

ともなるわけです...

  彗星は氷の塊といっても、それはそもそもは水ですから、相当に大きな塊になること

もあるわけです。しかも、たかが水の塊だといっても、その衝突エネルギーは、地球を

破壊するほどのもにもなるわけです...」

「大気圏で、摩擦で解けてしまわないんですか?」夏美が聞いた。

「直径が、数十キロメートルもあるようだと、蒸発しきれないでしょう、」

「ああ...それで、大量絶滅ですか?」

「まあ...」高杉は、小さく首を傾げた。「彗星や小惑星の衝突も、そのその原因の1

つとして、疑われているということです...」

「うーん...」

「さて、この“オールトの雲”は、“彗星の巣”と言われています。そして、この“彗星の

巣”は、実は太陽系には2つあります。そのうちの1つが、この“オールトの雲”だとい

うわけです。そして、もう1は、海王星軌道の外側にある、“カイパーベルト”です。こ

うした“彗星の巣”というのは、先ほども言ったように、大小の氷の塊のリングです。

  それから、この他に太陽系には、火星軌道の外側に、“小惑星帯/アステロイドベ

ルト”があります。これは、氷の塊ではなく、砕けた惑星の破片と考えられています。

まあ、宇宙空間においては、鉱物資源の宝庫でしょう。このアステロイドベルトの小惑

星群も、彗星と同じ様に地球圏に侵入し、大量絶滅の原因になると考えられていま

す...」

「なるほどねえ、」堀内が、アゴに手をやった。

「これらは、いずれも、地球圏外から侵入してくる天体であり、地球に衝突すれば、超

巨大な核爆弾が何十個分というようなエネルギーを発生させます。むろん、これは、

天体の大きさと速度に(エネルギー)よりますが、まさに、大きなものが命中すれば、

“第6の大量絶滅”になる可能性が濃厚です。したがって、これを地球圏外で、無力

化するシステムの確立が、急務となるわけです...」

「それで、どうなのですか、現状は?」堀内が聞いた。

「現在、世界中で監視体制の構築に動いています。しかし、補足し、無力化する技術

はまだ無いというのが現実です。今のところ、アメリカの宇宙技術が、最も進んでい

るわけですが、それと既存の核爆弾を使っても、何処まで対処出来るでしょうか。もち

ろん、将来的には、技術革新がどんどん進んで行きますが、現状では厳しいですね、」

「そうですか...」

「ネアンデルタール人は、20万年前から、3万年前ぐらいまでいたわけでしょう」夏美

が、口を開いた。「ホモサピエンスだって、20万年ぐらいは続いて欲しいわねえ、」

「生きた化石、というのもいますよ」堀内が、微笑した。

「堀内さん、1つ聞きたいのですが、先ほど、絶滅確率(一定期間に、生物種が絶滅する割合)

いう言葉が出てきましたよね、」

「はい、」

       house5.114.2.jpg (1340 バイト)                   wpe74.jpg (13742 バイト)

 

「そういう概念からすると、何億年も生きているというのは、どういうことなのでしょう

か。それから、名前のある有名なガン細胞というのがありますよね。研究に使われ

ているヤツで、今でも成長しているとかいうのが。あれなどは、どうなるんですか?」

「難しい質問を、2つもいただきましたねえ。どっちも、難しい...“生きた化石”“ガ

ン細胞”ですか...」

「私は、実は、“種”というものも、私たちの体の細胞のように、生態系の中で新陳代

謝していくものと考えていました。しかし、新陳代謝していかない種もあるわけですね

え、」

「私たちの細胞でも、脳細胞などは新陳代謝はしませんよ。記憶の部分まで入れ替

わっては困りますから、」

「ああ、なるほど。例外もあるということですか...

「それから、“ガン細胞”も、永遠に成長していくわけではないでしょう。その種の“永

遠の命”というのは、古来からの人類の夢ですが、そんなものは存在しません。熱力

学の第2法則/エントロピーの増大に逆らうほどのものは、存在しないのですよ」

「ああ、なるほど...」

                                            wpeC.jpg (50407 バイト)   

  

「ええ、さて...よろしいでしょうか?」夏美が言った。「要するに、地球圏に侵入して

くる彗星や小惑星には、その準備を整えておく必要があるということですね」

「そういうことです。人類文明はまだ、1万年弱の歴史しかありません。そして、たま

たま、まだ、巨大隕石などの衝突はなかったということですね。

  しかし、科学技術文明を確立したということは、人類は自らの力で、その種の天体

が及ぼす大災害を、回避できるということなのです。したがって、一刻も早く、その体

制を確立しておきたいものです」

「はい!」

「ホモサピエンスは、すでに最大の敵である“病原菌”を、ほぼ克服しています。ここ

でもう1つ、地球圏外から侵入してくる“天体からの災厄”を克服できれば、文明はさら

に安定性を増すことになります...

  まあ、人類文明自身が墓穴を掘り、この奇跡の“水の惑星”を、破壊してしまわない

ことを祈ります...」

 

「はい。ぜひ、世界が、一丸となり、大困難の予想される21世紀を乗り切っていって欲

しいと思います」

          wpeC.jpg (50407 バイト)        index.1102.1.jpg (3137 バイト)                                

                                                       

 

「ええ、高杉・塾長...もうあまり時間がないので、軍事ミッションの方に言及している

余裕はないのですが、ひと言お願いします」

「はい」

「塾長は、“UFO/未確認飛行物体”について、どう思われるでしょうか?」

「そうですねえ。私は、そうした“UFO/未確認飛行物体”は、存在しても不思議では

ないと思っています。先ほども述べましたが、つい最近まで、人類は“地下生物圏”の

存在すら気付かないでいたのです。また、この私たちの人類文明そのものだって、考

えてみれば、巨大な謎の塊なのですから...」

「はい。ええ...ありがとうございました。

  今回の生態系監視衛星“ガイア・21”からのミッションは、これで終了します。後の

軍事ミッションは、大川さんとポンちゃんに任せ、私たちはハイパーリンクで航空宇宙

基地“赤い稲妻”に帰還します。

  大川さん、後はよろしくお願いします!」

「はい。ご苦労様でした、」大川慶三郎が、観測室の向こう側で手を振った。「こっちの

ミッションも、撮影だけですから、すぐに終了します」

「はい。よろしくお願いします。ポンちゃんも、よろしくね、」

「おう!」

                                      

 

 〔4〕 軍事ミッション・未確認飛行物体(UFO) 

 

         room9.1292.jpg (1837 バイト)             

                                          house5.114.2.jpg (1340 バイト)