解雇を撤回した場合の法律関係/弁護士相談
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弁護士河原崎弘
解雇の撤回は、一方的にはできない
解雇した後、国からの助成金のカットを聞き、使用者が、いったん提示した解雇を撤回するとか、労働者から、解雇予告手当を請求され、解雇を撤回する
例があります。この場合の法律関係を検討します。
判例では、解雇の意思表示は、撤回できないとされています。理由は、使用者の単独行為である解雇を一方的に取り消しうるものとすれば、通知を受けた労働者の法律的地位を極めて不安定な状態におくことになるからであるとされ、したがって労働者の同意を得て取り消すことは差し支えないとされています。
法律の根拠は、民法540条第2項で、「前項の意思表示は、撤回することができない」と定めているからです。この場合も
、労働者が承諾したときは、撤回できます。以上の判例は、下級審の判例ですが、この考えは、ほぼ、確定しています(東京
高裁平成21年11月16日)。
他方、解雇撤回は、労働者の労務の提供(復職)を受け入れる意思表示であり、大きな効果を持ちます。
労働者の立場
解雇された労働者は、次の、いずれかを請求できます。
- 解雇を有効として、解雇予告手当の請求、(退職金規定がある場合は)退職金の請求ができます。
あるいは
- 解雇無効として、解雇期間中の賃金の請求(バックペイ)ができます。
ほとんどの解雇は無効です。解雇を言い渡された労働者としては、退職届を書いてはいけません、解雇に同意してはいけません。
労働者は、会社に、就労の意思があることを伝えましょう。この場合、労働者は、就労しなくとも、賃金を請求できる有利な立場にいます。弁護士に相談しましょう。
使用者が、解雇を撤回した場合は、合理的な期間内に、労働者が就労しないと、労働者は、期間後は、賃金請求権を失い、
再度、解雇(第2次解雇)されるおそれがあります。
使用者の立場
使用者に
は、
解雇予告手当、退職金の請求に応じる義務があります。解雇を撤回して、この義務を免れることはできません。
問題は、解雇期間中の賃金です。解雇後は、使用者は、労務の提供につき、受領遅滞状態です(民法536条2項、民法413条)
。解雇が無効の場合労働者が働かなくとも、使用者には賃金を支払う義務があります。これは、相当な金額になりますので、使用者の負担になります。
これに対しては、使用者は、労働者に対し、職場復職(解雇撤回)を提案すれば、対処することは可能です。受領遅滞状態はなくなります。そうすると、使用者は、解雇期間(解雇から解雇撤回の意思表示をしたときまで)の賃金(あるいは、60%、労働基準法26条)の支払えば足ります。
ただし、実質的に職場復帰を認める必要があります(東京地方裁判所平成12年8月25日、
大阪地方裁判所平成6年7月27日)。
次の注意が必要です。
- 復職の条件の説明等
@会議を開き、(無意味な争点をなくすため)復職後の職場環境は前と同一であると決める。下記判決にあるように、記者を倉庫係にするような復職指示は無効です。
A労働者に、復職の条件について説明する
B労働者が求める場合は、何度でも話し合いに応じる
C何度も復職を求める
ある段階で、労働者が就労しないことにつき使用者は責任がない状態になります。すなわち、賃金が発生しない状態になります。
- 第2次解雇について
解雇撤回後労働者が就労しない(復職の指示に従わない)場合、解雇したくなりますが、危険です。解雇しない方が賢明です。解雇は無効と判断される可能性が高いです。
そこで、やむをえず解雇する場合は、次のことに留意する。十分注意すれば、第2次解雇が有効になる場合があります。
@解雇回避努力を尽くさなかったものとして解雇権の濫用、解雇が無効と判断されることを覚悟する。
A労働者が就労しない場合は、就労しないことにつき弁解の機会を与える。
B解雇が就業規則に合っているかを検討する。
C解雇する旨事前に何度も警告する。
解雇期間の計算
解雇が無効とすると解雇期間の計算は、次のようになります。
- 解雇撤回がある場合
解雇時から ←ー→ 解雇撤回時まで
使用者は解雇撤回で救われます。
- 解雇撤回がない場合
解雇時から ←ーーーーーーーーーーーーーーー→ 判決確定時まで
バックペイの金額は莫大になり、使用者は苦境に陥ります。
民法536条
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
判決
- 東京地方裁判所平成28年11月11日判決
(1) 被告は,原告が別会社に就職した平成27年3月3日時点で既に就労意思がなかったと主張する。しかし,前提事実を踏まえて検討すると,本件解雇@後の同月3日に別会社に就職したからといって,係争状態が解消され就労可能になれば再就職先を退職し,被告に就労する可能性があるのであるから,直ちに解雇の承認や就労意思喪失になるとはいえないこと,原告は本件通知書@では就労意思を伝えていること,被告が本件解雇@を撤回したのは平成28年6月17日であり,少なくともそれまでは係争状態であり被告の責めに帰すべき事由により就労が拒絶されていたと認められること,原告は本件通知書@により本件解雇@を争い就労意思があることを通知していたのであるから,被告から債務不存在確認を求めるなどの方法もあったのであり,労働審判申立てなどの手続きまで期間が空いていたとしても,就労意思を喪失していたとはいえないこと,本件陳述書に辞めたいという趣旨の記載があったとしても,直ちに就労意思がなかったことにはならないこと,本件解雇@撤回後も結果的に原告は一度も被告に出社していないが,それは本件解雇@撤回までの紛争の経緯やまだ賃金未払の問題も影響している可能性があることなどからすれば,本件解雇@撤回までの就労意思は認められる。
(2)また,本件解雇撤回@を撤回した本件通知書Aにおいて,被告は平成28年5月30日から出社するよう通知しているが,本件解雇@の撤回がされてから出社を求める日までの期間が短いこと,本件通知書Aに対し,原告は,翌日,本件通知書Bをもって復職の条件を検討中であるのでしばらく待つよう求めており,その後同年6月13日の本件業務命令まで具体的な出社命令があったとは認められないこと,被告が本件解雇@を撤回したからといって本件通知書C及び本件通知書Dのとおり,本件解雇@撤回までの賃金の支払には争いが残っていたことなどを考慮すると,本件通知書Aにおいて出社を命じた同年5月30日に出社しなかったからといって,まだ就労意思はあったと認められる。
(3)これに対し,原告は,本件業務命令で出社を命じられた同年6月17日以降も出社をしていない。この時点でも本件解雇@撤回までの賃金の支払には争いは残り,訴訟も係属していたものの,未払賃金があることや原告と被告において訴訟が係属していることはそれらのみでは出社を拒否する理由とはならないこと,本件業務命令により出社を命じた同月17日は,本件解雇@を撤回した同年5月26日からは相当期間が経過していること,本件業務命令前の本件通知書Cにより復職後の労働条件は通知されていること,その他本件業務命令を受けて原告が出社を拒否する正当な理由は認められないこと,原告は本件解雇@撤回後も別の会社において就労し続けていること(甲6の15ないし17)などの事情からすると,同年6月17日以降の就労意思は認められないというべきである。
2原告は,平成28年7月19日までの賃金を請求するが,上記争点に対する判断で述べたとおり,同年6月17日以降の就労意思は認められず,同月16日までの賃金請求が認められるというべきである。同月分の未払賃金は,毎月月末締め,土日祝日を除いた日が所定労働日とすると(前提事実(2)イ及びウ),同月の所定労働日が22日間であるのに対し,同月16日までの日数は12日であるから,5万8909円(=18万円×12日÷22日×0.6)となる。なお,原告は中間利益控除の認められない平均賃金の6割の限度の賃金を請求している。同様に,平成27年1月分は,原告は所定労働日19日と主張するが,被告の主張するとおり所定労働日は20日と認められ(当裁判所に顕著である。),同月23日以降の日数が6日であるから,5万4000円(=18万円×6日÷20日)となる。そして,同年2月分は18万円,同年3月分から平成28年5月分(15か月分)は18万円の6割である10万8000円となるから,合計191万2909円となる。原告の請求は,191万2909円及びこれに対する平成28年7月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
- 東京地方裁判所平成27年5月28日判決
オ そうすると,本件提案に応じるか否かは,基本的には,被告の自由な判断に委ねられるべきものであり,被告がこれに応じない旨の意思を明らかにしたからとい
って,そのこと自体に何ら責められるべき点はないというべきである。
(3) これに対し,原告は,被告が復帰先に関する協議に応じない状況では,被告の雇用を継続することは不可能である旨主張する。しかしながら,そもそも,当
時,被告が原告において就労していなかったのは,原告が第1次解雇の有効性を主張して被告の就労を拒絶していたことに原因があり(前提事実(2)エ),原告にお
いて,被告の雇用を継続しようと考えるのであれば,就労を拒絶せずに,復職条件を指定して就労義務の履行を催告すればよいのであって,復職条件について被告と協
議しなければ復職させることができないわけではないのであるから,原告の上記主張は採用できない。
(4)ア 以上のとおり,被告が本件提案を拒否したことそれ自体について,何ら被告に責められる点はないというべきところ,原告は,本件解雇の理由について,
被告が復職の交渉に応じなかったことそのものではなく,労働者(被告)が使用者(原告)の業務命令に従って労務を提供すること(具体的には,記者以外の職で労務
を提供すること)を明確に拒否したことである旨主張する。
イ しかしながら,既に説示したとおり,本件提案は,飽くまで和解協議の提案にすぎず,原告が業務命令権等の雇用契約上の権利を行使したと評価する余地のない
ものであり,また,その内容は,復職後の職種について「いわゆるバックオフィスの業務が考えられ」るとし,年収について「400万円〜500万円」とし,これら
の復職条件に同意することを求めるものであった(前提事実(4)カ)。そうすると,被告が本件提案を拒否したことをもって,上記復職条件への同意を前提とする和
解協議には応じられないとの意思を明らかにしたということはできるが,これをもって,被告が記者以外の職で勤務する意思がないことを明らかにしたとか,被告が記
者以外の職で労務を提供することを拒否したなどと評価することはできないというべきである。さらに,本件提案に先立つ平成24年12月26日付けの△△労連等の
回答書(同(4)オ(イ))についても,その文面を素直に読む限り,△△労連等として,復職後の職種の問題を協議の前提条件とするのであれば裁判外での協議には
応じないという趣旨を述べたにとどまるものと解され,被告が,原告から具体的な職種を指定して復職を命じられた場合も含めて,記者以外の職で勤務する意思がない
ことを明らかにする趣旨のものであると解することはできない。そして,このほかに,被告が記者以外の職で勤務する意思のないことを明らかにしたとか,被告が記者
以外の職で労務を提供することを明確に拒否したなどと評価し得る事情は認められない。
ウ なお,原告は,被告及び△△労連等が,契約上職務が特定されていることを理由として復職に関する交渉に応じなかった旨主張するが,そのような事実を認める
に足りる証拠はない上(△△労連の平成24年12月26日付け回答書〔前提事実(4)オ(イ)〕には,本件雇用契約に係る契約書に「東京支局の記者(Repor
ter)として」雇用する旨が記載されていることへの言及があるものの,被告の雇用契約上の職務が記者職に限定されているとか,そのことが交渉を拒否する理由で
あるとかいう趣旨の記載はないし,被告及び△△労連等が本件提案を拒否するに当たってそのような見解を明らかにしたと解すべき事情も認められない。),仮に,被
告が,復職に関する交渉に応じない理由として,被告の職種が記者職に限定されている旨の見解を述べた事実があったとしても,これをもって,被告が記者以外の職で
勤務する意思のないことを明らかにしたとか,被告が記者以外の職で労務を提供することを明確に拒否したなどと評価することはできない。
(5) 以上によれば,原告の主張する本件解雇の理由は,いずれも客観的に合理的なものとはいえないことになる。
- 東京高裁平成21年11月16日決定
3 以上のとおり、平成20年10月30日、抗告人は相手方らを含む従業員らに対し、抗告人都合による解除の意思表示をしたが、解雇予告手当の支払いをしなか
ったものと認められる。したがって、解雇の効力は同年11月30日に生じたものであり、同日の1か月後である同年12月30日に退職金(会社都合)支払請求権が
発生したものと認められる。
抗告人は、上記解雇の意思表示を撤回した旨主張するが、そもそも解雇の意思表示は使用者が従業員に対し一方的に行う労働契約解除の意思表示であってこれを撤回
することはできない。また抗告人は、相手方らが撤回に黙示に同意した旨主張するが、相手方らが同意したことを認めるに足りる証拠はない。
-
大阪地方裁判所平成13年7月19日判決
3 したがって,原告が,被告に対して,労働契約上の権利を有すること確認するとともに,被告は,原告に対し,賃金として,平成12年7月から,毎月末日限り,
月額50万円を支払う義務がある。なお,被告は,原告は本件解雇後,現実に被告において就労していないから,賃金の請求は不当であると主張しているが,客観的に
合理的理由のない解雇をした使用者には,解雇による労働者の就労不能につき原則として「責二帰スベキ事由」があるので,労働者は解雇期間中の賃金請求権を失わな
い(民法536条2項)から,現実に原告が被告において就労していなくとも,被告は原告に対する賃金支払義務を免れるものではない。
-
東京地方裁判所平成12年8月25日判決
1 懲戒解雇の効力
(一) まず,本件就業規則が効力を有するか否かにつき検討するに,その作成の経緯は前記−11認定のとおりであり,被告において労働者の過半数を代表する者の意見を聴いたものとはいえないか
ら,労基法90条の定める手続に欠けるものであると認められる。しかしながら,原告ら被告の従業員は世創から転籍した者であり,前記認定のとおり,被告の原告に対する第1次解雇も世創の就業規則
を根拠規定として明示した上でされるなどしており,本件就業規則の内容は被告の従業員に対し実質的に周知されていたものと認められるから,前記手続の欠缺により本件就業規則が無効となるというこ
とはできないものと解される。
(二) そこで,被告が原告に対し,本件就業規則54条に基づいてした懲戒解雇の効力について以下に検討する。
(1) 前記認定事実及び争いのない事実を総合すれば,本件において,被告は,第1次解雇が無効であるとして原告に対する月額55万円の賃金仮払を命ずる別件仮処分が発令された直後において,
原告に対し,第1次解雇を撤回する旨の通知をしたが,その際,人事権に基づき原告の部長職を解職し,賃金は月額65万2000円から35万2000円に引き下げるとしたものである。この点につき,
被告の人事に関し決定権を有する伊東社長自身は,原告の復職後の業務としては課長職程度で業務を担当させようと考えており,また,職務給15万円は減額することで原告の理解が得られるであろうし,
役付手当15万円も課長職であれば月額5万円程度で原告と合意ができると考えていた旨述べているところであるが,このような内容は本件懲戒解雇に至るまで,一切原告には伝えられておらず,被告が
原告に通知したのは,第1次解雇撤回後,部長職を解任し,賃金は引き下げるとする内容にとどまり,復職後の勤務内容等は全く明らかにされていなかった上,右の復職後は課長職程度を担当させるとす
る伊東社長の考えについても,どの程度の現実性を有していたものであるかは極めて不確定であったといわざるを得ない。
(2)このような状況の下において,原告が,第1次解雇が撤回されたとしても,復職後の勤務条件に不安を持ち,原告代理人を通じて被告に対し原告の勤務内容を明らかにするよう申し入れ,ま
た,被告が第1次解雇を撤回した以上,解雇期間中の過去分の賃金をすみやかに支払うよう求めることは当然であるといえ,これに対し,被告は原告代理人弁護士に対し原告の今後の担当業務等を具体的
に説明したり,明らかにするなどの対応は全くしないまま,直接原告本人に来社するよう強く求めるのみであったのであり,これら一連の事実を総合考慮すれば,原告が職務復帰命令に応ぜず就労しなか
ったとして,無断欠勤及び職務上の指示命令違反を理由としてされた本件懲戒解雇は,社会的相当性を欠くもので,解雇権の濫用に該当し,無効であるというべきである。
(3)また,被告が,原告が共立建設において就労したこと及びサークルリースの代表取締役となったことが二重就業に該当するとしてした第2の懲戒解雇についてみるに,本件就業規則上,二重
就業は服務規律違反には該当するが,二重就業自体が懲戒事由として規定されているものではないこと,原告は第1次解雇撤回にもかかわらず被告が解雇期間中の過去分の賃金を支払わないため生活費が
不足し,日給制の臨時雇いとして共立建設でアルバイト勤務したにとどまること,また,サークルリースについては貸金業を営む相当額の資金を原告が有していたとも認められず,原告がサークルリース
から取締役報酬の支払を受けたこともないことからすれば,原告はサークルリースの代表者として名義を貸したにとどまると認められること等の事実関係に前記の第1次解雇撤回後の経緯を併せ考慮すれ
ば,被告が原告に二重就業があるとしてした第2の懲戒解雇も解雇権の濫用にあたるものといわざるをえない。
(三)よって,被告の原告に対する本件懲戒解雇及び第2の懲戒解雇はいずれも解雇権の濫用に該当し,無効なものと認められるから,原告は被告の従業員としての地位を有するというべきである。
2 未払賃金請求権等の存否
(一) そこで,原告の未払賃金請求権の存否について検討する。
労働者は債務の本旨に従った労務の提供として就労しなければ賃金を請求することはできないのが原則であるが(民法624条1項),違法な解雇など使用者の責に
帰すべき事由によって労務の提供が不能になった場合には,労働者は賃金請求権を失わない(民法536条2項本文)。ただし,同条項適用の前提としても労働者が債
務の本旨に従った労務の提供をする意思を有し,使用者が労務の提供を受領する旨申し出れば労働者においてこれを提供できる状況にあることが必要であるというべき
である。
これを本件についてみると,前記認定のとおり,第1次解雇撤回後,原告は被告に対し,部長職の解任及び賃金の引下げは不当であると通知するとともに,職場復帰
については,就労開始日、就労場所及び勤務内容の明示を求め,就労の意思を書面により通知して口頭による労務の提供をしていたものと認められ,本件復職命令自体
を拒否する意思を表示していたことはなく,他方,被告は,復職後の原告の職務内容等の明示に全く応じなかったものであり,また,本件懲戒解雇及び第2の懲戒解雇
後は,原告の就労を事前に拒否する意思を明確にしていたものであるから,原告の労務を遂行すべき債務の不履行は被告の責に帰すべき事由に基づき履行不能となった
ものといえ,原告は被告に対する未払賃金請求権を有すると認められる。
- 大阪地方裁判所平成6年7月27日決定
一 懲戒解雇の効力について
債務者は右懲戒解雇の意思表示を撤回しているが、意思表示の撤回は、当該意思表示が相手方に到達する前にのみ認められ、その意思表示が相手方に到達し当事者
に権利義務が発生した後は、撤回は認められないものであること、債務者はその意思表示の撤回に応じた国民健康保険等の資格喪失届けの撤回手続きをせず、また撤回
と同時に自宅待機を命じて原職復帰を認めていないこと、債権者も本件仮処分の申立を維持して、この意思表示の効力を争っていることからすると、債権者の雇用契約
上の地位の確認を求める訴訟上の利益を認めることができる。
2 債務者が、本件懲戒解雇の理由として挙げる、就業規則第三〇条(一)および第三二条(一)、賞罰規程第一四条(一五)(一六)に違反する行為は、そもそも形
式上も懲戒解雇事由である債務者の賞罰規程第一四条第一号ないし第六号に該当せず、又債務者は本件解雇の言渡しに際し、賞罰規程に定める懲罰委員会の調査も行わ
ず、さらに賞罰委員会の開催も処分に関する決議も行っておらず、債務者自らが定めた手続きに違反しているものであることからすると、本件懲戒解雇の意思表示は、
権利の濫用であり、無効である。
- 大阪地方裁判所昭和58年12月27日決定
そこで検討するに 被申請人が昭五四年三月一五日申請人らに対して解雇の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、疎明資料によれば、本件解雇直後申請人らが被申請人に対して解雇
の無効と撤回を主張して労務の受領を求めたのに、被申請人はこれを拒んだことが認められるから被申請人は受領遅滞にあるということができ、そのようなときには、労働者において労務の提供をしなく
ても賃金請求権を失うものではなく、使用者は労働者が労務の提供をしなかったことによる賃金債権不発生をいうためには、その前提として受領拒絶の態度を改め、以後労務を提供されれば確実にこれを
領すべき旨を表示するなど自己の受領遅滞を解消させるに足りる措置を講じなげればならない。
2016.8.28
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 3431-7161