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2015.6.4mf更新
解雇期間中に得た利益/バックペイ
相談
労働者としての地位保全、解雇無効確認、解雇が無効な場合の給料を請求する裁判をしています。
裁判は勝てそうです。
解雇されてから、私は、他の会社で働いていますが、請求している給料から、他の会社で働いた給料をマイナスした判決が出ると、弁護士から聞きました。
前の会社では、給料が月約58万円(年700万円)、賞与が300万円くらいです。他の会社で働いた給料は500万円です。すると、差額の「400万円くらい支払え」との判決が出るのでしょうか。働かない方が得をする感じもします。
解雇日:2009年3月31日
他の会社に勤めた日:2009年5月1日
他の会社を辞めた日:2010年4月30日
回答
不当解雇など解雇が無効の場合、使用者は労働者に対し、解雇時以降の給料を支払う義務があります。これをバックペイ(back pay)と言います。
使用者は、解雇期間中の賃金を支払うにあたって、労働者が、その期間中に他の会社で働いて得た給料(中間収入、中間利益)を控除することができます(民法536条2項)。
他方、労働者は平均賃金の60%は保障されています。労働基準法は、使用者の責めに帰すべき事由による休業期間中、使用者は、平均賃金の60%を支払う義務を認めています(26条)。
解雇も、使用者の責めに帰すべき休業事由の1つと解釈されています。
従って、解雇の場合、使用者は、平均賃金(12条)の60%を超えて、控除することは許されません。
なお、平均賃金の計算では、賞与(3か月を超える期間ごとに支払われる場合)は、平均賃金に含まれません(12条4項)。
そこで、相談者の場合は、バックペイとして支払われる金額は、次のように計算します。- 使用者の責めに帰すべき事由による解雇期間中の賃金については、使
用者は同期間中に労働者が他の職に就いて得た中間利益額を賃金額から控除することができるが、当該賃金額のうち,労基法12条1項所定の平均
賃金の4割まで、利益控除の対象とすることができる。
したがって、使用者は,解雇期間中の賃金支払債務額のうち、平均賃金額の6割を
超える部分から「当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額」を控除することができる
-
中間利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には、さらに「平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(同条4項所定の賃金=賞与など)の全額」を控除することができる
前提は次の通りですね。
- 本来支払われるべき賃金=58万円+700万円+300万円
- 他で得られた利益=500万円
- 就労期間に対応した期間の平均賃金=700万円
バックペイの計算(実際は復職する日の前日までの分を請求できますが、ここでは2010年4月30日までの賃金を計算します)
@まず、平均賃金の6割を超える部分から控除する
- 平均賃金から控除できる限度金額=700万円×40%
-
平均賃金の6割
700万円−280万円=420万円
A次に賞与から控除する
- 500万円−280万円=220万円
- 300万円(賞与)−220万円=80万円
B請求できる賃金=58万円+420万円+80万円
裁判所の計算方法は複雑です。解雇期間中、他で働いた場合でも、労働者には、従前の平均賃金の60%および賞与などの一部は保障されています。
判決
- 最高裁判所平成18年3月28日判決
4 しかしながら,原審の上記3(2)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(以下「中間利益」という。)を得たときは,使用者は,当該労働者
に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが,上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの
部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。
したがって,使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のう
ち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり,上記中間
利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には,更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(同条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許され
るものと解される(最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁,最高裁昭和59年(オ)第84号同62年4月
2日第一小法廷判決・裁判集民事150号527頁参照)。
(2)上記に従って本件期間に係る賃金から控除されるべき被上告人の中間利益の金額を算定すると,前記事実関係等によれば,本件期間に係る賃金として上告人が被
上告人に支払うべき金額については,次のとおりである。
ア 本件期間1に係る賃金等
(ア)被上告人に支払われるべきであった就労期間1における本俸及び特業手当等の合計額480万2040円のうち,就労期間1における平均賃金の合計額の6割に当
たる288万1224円は,そこから控除をすることが禁止され,その全額が被上告人に支払われるべきである。
(イ)他方,上記の本俸及び特業手当等の合計額480万2040円のうち(ア)を超える金額(192万0816円)については,就労期間1に被上告人が他から得て
いた合計358万0123円の中間利益を,まずそこから控除することとなるので,支払われるべき金員はない。
(ウ)就労期間1に被上告人が他から得ていた上記の中間利益のうち(イ)の控除(192万0816円)をしてもなお残っている165万9307円については,これ
を,被上告人に支払われるべきであった就労期間1における期末手当等の合計額196万8836円から控除すべきである。
したがって,上記期末手当等は,合計30万
9529円が支払われるべきこととなる。
(エ)結局,上告人は,被上告人に対し,就労期間1に係る賃金としては,本俸及び特業手当等のうち(ア)の288万1224円と,期末手当等のうち(ウ)の30万
9529円との合計額319万0753円を支払うべきこととなる。
(オ)就労期間1に係る賃金として支払われるべき(エ)の319万0753円と,その余の期間に係る賃金合計124万8530円(本俸及び特業手当等72万030
6円と期末手当等52万8224円とを合わせた金額)とを合わせると,443万9283円となる。これが,本件期間1に係る賃金として上告人が支払義務を負う金額
である。
- 最高裁判所昭和62年4月2日判決
使用者の責めに帰すべき事由によつて解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者
に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額
のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の六割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているも
のと解するのが相当である(最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁
参照)。
したがつて、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃
金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が
平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法12条4項所定の賃金)の全額を
対象として利益額を控除することが許されるものと解せられる。
そして、右のとおり、賃金から控除し得る中間利益は、その利益
の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃
金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである。以上と異なり、中間利益の
控除が許されるのは平均賃金算定の基礎になる賃金のみであり平均賃金算定の基礎に算入されない本件一時金は利益控除の対象に
ならないものとした原判決には、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは
明らかである(判例タイムズ644号94頁)。
行政解釈
- 年俸制における賞与
予め年俸制が確定している年俸制における平均賃金の計算については、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1か月の賃金として平均賃金を算定すべきものである(平成12年3月8日労働基準局長回答)。
2010.11.25
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 03-3431-7161