解雇を撤回させた解雇無効確認訴訟/弁護士相談
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2022.5.1mf更新
弁護士河原崎弘
労働契約の内容
株式会社〇〇〇〇は、平成15年設立、資本金1000万円、従業員85名、電話機、事務機などの販売をしています。リースの金利などは他社より高いのですが、巧みなセールストークで急成長しました。
相談者は、平成18年1月に入社し、パソコンおよび電話、ファックスのアフタ−ケアの仕事をして働いてきました。
相談者は、平成18年11月頃は、会社においてPHSの販売の仕事をしており、会社との間で毎月15日締め、当月25日払いで、毎月24万7000円の給料(基本給19万7000円)が支給され、毎年7月15日に基本給の1.6か月分の賞与および毎年12月15日には、基本給の2か月分の賞与が支給される契約が存続していました。
突然のいわれのない嫌疑
相談者は、平成18年11月21日、突然、上司から「社長が呼んでいるので、会社に戻るように」と言われ、社長室に行きました。そこで、社長は、A部長、B部長、C部長がいる前で、アルバイトの委託契約書と支払明細書を見ながら、相談者に対し、「これは立派な犯罪だ、横領だ。これは見過ごすわけには行かないから徹底的にやる。言いたいことがあるのなら、今のうちに言え」と言いました。
相談者は、「今、PHSが売れないのです。アルバイトの給料が安過ぎて、アルバイトをする人がいないので、アルバイトにやる気を起こさせるためにそうゆう提案をしました。契約書について社長の了解が取れたが、私は契約書を作れないので、A部長の了解を取って、総務の部長に頼んで作ってもらいました」と説明しました。
社長は、「これは会社の盲点を突いた悪質な犯罪だ」と言うので、相談者は、何について文句を言われているかがわからないまま、泣きながら、「信じられない」と言いました。社長は、「私をこれ以上怒らせるなよ。もう、話すことはない」と言い、B部長に対し、「手続きをとれ」と言って、話は終わりました。自宅待機の指示
11月22日、相談者は直属のA部長と会社の近くの喫茶店で、話しました。A部長は、「月曜以降連絡があるまで自宅待機。社長が悪い方に、悪い方に誤解しているから、もう一度社長に話をしてみる」と言うのです。相談者は、A部長に対し、「部長も同じ考えですか」と尋ねますと、A部長は、「僕はそう思っていない。25日にあなたの家の近くに行く」と言うので、相談者は、〇〇の駅でA部長と会う約束をしました。
不当解雇と名誉毀損
11月22日、会社のコンピュ−タ上の掲示板にはタイトルが「処罰書」、「〇〇〇〇子退職」と書かれていました。これは曖昧な表現ですが、相談者は解雇されたのです。この掲示板は、多くの社員が閲覧しています。
11月25日、相談者は、〇〇の駅でA部長と会いました。相談者は、A部長に対し「私は悪くないですよね」と言いますと、A部長は頷いて、「もう一度、社長と話しをしてみる」と言っていました。
11月27日、A部長は相談者に電話をかけてきて、「結果は同じだった」と言い、さらに、「会社とは別にして、二か月分の給料を自分が個人で支払うから、考えてくれと」と言いました。
11月28日、A部長は相談者に電話をかけてきて、「社長からボ−ナスを12月15日と思うけど、退職金代わりに支給すると話があった」と言ってきました。
相談者は、12月2日、A部長に電話をし、「考えたけど、今やめると保険とか雇用保険で都合が悪いからこの話は受けることができません」と話しました。A部長は、「会社ともう一度話をしてみる」と言いました。
12月9日、会社に勤務する相談者の友人から相談者に電話があり、「総務の女性社員からの伝言で、『11月15日付で退社ということなので、保険証、バッチ、レンタカ−のカ−ドを返すように』と言われた」との連絡がありました。
不当解雇であるので、相談者は友人たちに励まされ、
12月13日、法律事務所を尋ね、弁護士に相談しました。
内容証明郵便による解雇無効の意思表示
弁護士は、相談者の話しを聞き、「不当解雇であり、解雇は無効であり、掲示板の記載は名誉毀損に当たる」と説明しました。
労働基準法には解雇に合理的理由が必要とは書いてありませんでしたが、判例は、権利濫用としてめったに解雇を認めませんでした。平成15年の労働基準法の改正を経て、その後、労働契約法に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されました(労働契約法16条)。
従って、日本では、めったに解雇は有効とされません。そのため、解雇された労働者が、使用者(会社)を訴えた場合、労働者は、働かなとも、解雇時から、判決時までの賃金を得ることができます(民法536条2項、バックペイ)。
相談者には横領の事実はなく、解雇理由もなく、相談者は退職を認めていないので、相談者と会社との雇用契約は存続しています。会社は相談者に対し賞与、毎月の給料を支払う義務があります。労働者から見ると、働かなくとも、(会社は受領遅滞になっているので)毎月賃金請求権が発生します。
真実に反して、社長が「〇〇〇〇子が会社の金を横領した」と言い、会社のコンピュ−タ上の掲示板に前記表示をさせたため、会社内においては、「〇〇〇〇子が会社の金を横領した」との噂が広がり、相談者の名誉が著しく毀損されました。相談者は、会社に対し損害賠償を請求できるのです。相談者は有利な立場にいました。
12月14日、会社から相談者の元に厚生年金手帳が郵送されてきました。
弁護士は、12月18日、相談者を代理して、「処罰書の撤回、解雇は無効なので解雇撤回復職、給与・賞与の支払いを求める」旨の内容証明郵便を出しました。
12月24日、A部長が弁護士宛てに電話をかけて来て、「少し待ってくれ。〇〇〇〇子を退職と表示した掲示板は誤りです」と説明したのです。弁護士が「あなたはそういうことを言う権限があるのですか。文書で回答をくれ」と言うと、A部長は「そのような権限はない」と説明していました。
12月25日、会社から相談者に対し、「平成18年11月15日を離職日とする」離職票が郵送されてきました。
訴の提起
弁護士は、平成19年1月28日、被告を会社および社長として、訴を提起しました。相談者が請求したのは次のものです(請求の趣旨の記載)。200万円は名誉毀損による慰藉料です。
- 被告株式会社〇〇〇〇は原告に対し、平成18年12月25日以降毎月25日限り金24万7000円およびこれらに対する完済の翌日以降年6%の割合による金員を支払え。
- 被告株式会社〇〇〇〇は原告に対し、平成18年12月16日以降、毎年、12月15日限り金39万4000円およびそれらに対する完済の翌日以降年6%の割合による金員および7月15日限り金31万5200円およびそれらに対する完済の翌日以降年6%の割合による金員を支払え。
- 被告らは連帯して原告に対し、金200万円およびこれに対する平成18年11月22日以降年5%の割合による金員を支払え。
- 訴訟費用は被告らの負担とする。
解雇の撤回
訴を提起すると、会社は、顧問弁護士の助言を受け、平成19年1月16日、自主的に解雇を撤回しました。会社は、相談者に対しては、会社に来て働くよう求めました(解雇撤回は、解雇無効確認訴訟に対する、使用者側の通常の対抗策です)。
会社が解雇を撤回したので、弁護士は相談者に対して会社に行って働くよう助言しました。今までは働かなくても給料を請求できる立場にいましたが、もう、そうではありません。
そこで、相談者は、平成19年2月3日から2月15日まで働き、2月15日、(結婚して住居が遠くなるため)退職しました。
会社は、2月25日、給料として49万6927円、賞与として22万6179円を支払いました。和解の成立
裁判は続けられたが、平成19年7月31日、会社と社長は連帯して(同年8月25日までに)和解金30万円を支払うとの裁判上の和解が成立しました。名誉毀損による慰藉料は金10万円位と評価されました。
相談者は当初の目的を達しました。
*上記の「これらに対する完済の翌日以降年6%の割合による金員」の部分は、遅延損害金 と言い、率は法律で決められています。2020年4月1日以降は、年3%です。
判決
- 最高裁判所昭和52年1月31日判決
本件についてみると、原審が確定した事実によれば、被上告人は、上告会社の編成局報道部勤務のアナウンサーであったところ、
(一)昭和42年2月22日午後6時から翌23日午前10時までの間ファックス担当放送記者黒川務と宿直勤務に従事したが、23日午前6時20分頃まで仮眠して
いたため、同日午前6時から10分間放送されるべき定時ラジオニュースを全く放送することができなかった(以下「第一事故」という。)、
(二)また、同年3月7日から翌8日にかけて、前同様山崎福三と宿直勤務に従事したが、寝過したため、8日午前6時からの定時ラジオニュースを約5分間放送する
ことができなかった(以下「第二事故」という。)、
(三)右第二事故については、上司に事故報告をせず、同月14、5日頃これを知った小椋部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出した、
そこで、上告会社は、被上告人の右行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して、普通解雇に処した、というの
であり、なお、上告会社の就業規則15条には、普通解雇の定めとして、「従業員が次の各号の一に該当するときは、30日前に予告して解雇する。但し会社が必要とす
るときは平均賃金の30日分を支給して即時解雇する。ただし労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。
一、精神または身体の障害により業務に耐えられないとき。
二、天災事変その他已むをえない事由のため事業の継続が不可能となったとき。
三、その他、前各号に準ずる程度の已むをえない事由があるとき。」
と定められていた、というのである。右事実によれば、被上告人の前記行為は、就業規則15条3号の普通解雇事由にも該当するものというべきである。
しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であ
り、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。
本件においては、被
上告人の起こした第一、第二事故は、定時放送を使命とする上告会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、被上告人が寝過しという同一態様に基づき特に2
週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に、第二事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、
被上告人に非がなしということはできないが、他面、原審が確定した事実によれば、本件事故は、いずれも被上告人の寝過しという過失行為によって発生したものであっ
て、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第一、第二事故ともファック
ス担当者においても寝過し、定時に被上告人を起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり、事故発生につき被上告人のみを責めるのは酷であること、被上告人は、
第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長
時間とはいえないこと、上告会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと、事実と異なる事故報告書を提出した点についても、
一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり、また短期間内に二度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと、被
上告人はこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、第二事故のファックス担当者山崎はけん責処分に処せられたに過ぎないこと、上告会社におい
ては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事実があるというのであって、
右のような事情のもとにおいて、被上告人に対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして
是認することはできないと考えられる余地がある。
したがって、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審の判断は、結局、正当と認められる。
Oct. 2, 2000
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