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『ゴールデンカイザー』

たかさきはやと



 それがまだ開かれるまえ。それがまだ創(つく)られるまえ。それがまだ感(かん)じられるまえ。
「風は我々(われわれ)をささえるのはいやだとさ」
 皆(みな)、いまなお風のほこらに、そよ風(かぜ)ひとつ感じられなかった。
 ・そ・れには毛糸のうろこがあった。全身がそうであった。
「私はいろんなキミ達の考えていることを織(お)って、反物(たんもの)にしているんだ」
「きみたちのたびだちに必要に思えるものは用意させてもらったよ。きみたちに感じを…」
「これは…霧精(き・り)が…」
「無数(むすう)のツバサが舞(ま)えし時(とき)」
「そんなのなきがごとし」
「たぶんね」
「繊竜(せんりゅう)には…解かってたのかもしれない……」
「夢(ゆめ)は魔法(まほう)を極(きわ)めること」
「キミだったら…、できるさ」
ーーーそれが…気休(きやす)めでもよかった……うれしかった…から。
「〜かぜのじゅっていに〜…〜まいあがれ〜」
「まだだ」
「まだだよ」
「まだね」
 摩擦(まさつ)なき砂(すな)の海(うみ)…深流砂(シンリュウサ)…そこには終わりのはじまりがあるという。
「そこが、ワタシにとって、魔法の終わりだから…」
 そうして、螺旋竜(らせんりゅう)によってこの砂の海は形を得ているのだった。けれども、言い伝えられているその竜(りゅう)を誰も見たことがないのだった。
 それさえしらべるてすべての竜の対となる竜。
 はばたきはいつつの空をおおいつくし、吐く息は風の十王なりて、ねむりは夜のひととき。
「螺旋竜(らせんりゅう)がとおったこの跡(あと)だけ、すこしのあいだ砂が崩(くず)れないんだ」
「どのていど」
「さあ…」
 岩を食らい砂を飲む螺旋竜(らせんりゅう)の跡穴はどこまでもどこまでも続いているようにこの者達には思えた。
「もういいよ」
「ワシが…」
「いや、アンタはもうずいぶん背負(せお)ったさ」
「だから…」
「この状態(じょうたい)でか…?」
 砂(すな)が崩(くず)れる音は次第(しだい)に近くなっているようにも、遠くなっているようにも聞こえた。
「もっと…」
「なに?」
「は…やければ……」
 それは突然のことだった。
「笹(ささ)のはぁ〜さぁさあのはぁ〜」
「ダメじゃない」
「誤解(ごかい)だって」
「そうかもな…戦争なんて最初はそんなもんさ」
 ニィーには、それがなにか直感した。あるいは、経験(けいけん)によるものだったかもしれない。
「ふせろっ!」
 ジェッサージェス・ランドセッツナはその言葉をひるいなき風のようになびいた。
「もう二度とないかもしれないのに…」
「そむかるざる者達よ、おまえには確かにおまえ達にこそに、ゆえにその資格(しかく)があるようだ、きっとな」
「さむがるべき時じゃない」
「鼻水(はなみず)こおってますな」
「さてね、夢(ゆめ)舞(ま)い踊(おど)るなら手をさしのべるがいい」
「彷徨(ほうこう)のツバサなき者達に幸(さち)あれ」
「ありがとう」
 流れる道はどこまでもはばたけし者達を連れ去る。
「わたしにはもうできないのでな」
 それは魅(み)まごうことなき秘めたる灯(ひ)なりて。
「エルフィルティルセセトーニスにはあったかな」
「よかった」
「どうかな、まだ…わからないから」
「感謝(かんしゃ)」
「これが…」
「そうだ」
「これこそが…」
「そ…う、なんだ…」
「これが螺旋法(らせんほう)だ」
「こんにちは」
「“私の使い方が知りたいか”」
「は?…はぁ、まあええ」
「“ならば私の言葉を聞くがいい”」
「町の人達が…」
「“あの者たちが六千年かけてなしとげた成果(せいか)だ”」
「なんで…こんなことに…」
「“英雄(えいゆう)ヒヤルディリルオールとその仲間(なかま)たちは最後の悪(あく)をすべてほろぼした”」
「悲願達成(ひがんたっせい)じゃない、なんで皆(みんな)が…」
「“だからヒトは”」
「光(ひか)ってる…」
「“すべてになる”」
「“やるのか”」
「ただ、闇(やみ)に…なるだけ、還(かえ)るだけ…だから」
「いまがいつも最高(さいこう)だと思(おも)ってる」


環(わ)なりし日(ひ)、求(もと)めたのは希望(きぼう)だけ。
まだなき今日(きょう)の夢(ゆめ)こそ。
そらたかき日(ひ)の残光(ざんこう)にこもる瞳(ひとみ)は。
かかげし両(りょう)の手(て)にふりまわしせし日(ひ)の心(こころ)にも。
まだゆえありし日々(ひび)のこと。


「まだ…かないつづけている…そんな…一日(いちにち)」


『ゴールデンカイザー』

たかさき はやと



最愛(SAIAI)


 「ここならだいじょうぶなのか?」
 空が広がっていた。青い空が…
「はい、すこしは…」
 フィリシアは顔の汗とドロを拭(ぬぐ)いながらシンヤの質問に答えた。
「あの人が…ねえ…」
 ヒロコが感慨(かんがい)深(ぶか)そうに吐く息とともにつぶやくように言う。
「ええ…」
「なんだ…なんの話ししてるんだよ」
「ええと…」
「彼女がフィリシアのお姉さんだっていうこと」
「誰、前に戦った人でそんなのいたか」
「え〜と」
「だから」
「まさかあねきじゃないよな…そうなのか!?」
「がぁ〜おっ!」
 ヒロコがシンヤの服のえりくび持って叫ぶ。
「あねきが火ふいてる火ふいてる」
「火なんて…見えませんけど…」
 シンヤの雄叫(おたけび)びにも似たわめきに、フィリシアが冷静(れいせい)に対応した。
「とにかく、アンタはここに来てフィリシアを助けて敵やっつけに行ってアタシにあって、いまエルファリオーネと対峙(たいじ)してる。つまり…」
「オレがはじめてここに来た時…キミを見た気がした。あれ…は、フィリシア、キミじゃないよ…ね」
「シンヤと逢(あ)ったのは部屋で…がはじめてでした」
「えーと、それでなんの話ししてたんだっけ…」
 ヒロコは腕を組み、それから両手をポンと叩く。
「そうそうエルファリオーネがフィリシアの…」
「そうだ、ツバサがあった」
「ツバサ…?」
「そう、光る星の粒子(りゅうし)のようにまばらに輝(かがや)く集まりのような…それでいてはばたくだけで星々がその場(ば)に受け止めてくれる、そんな感じだった…」
「ニィー…」
「え…?」
「つまりそれがフィリシアのお姉(ねえ)さんで、それが……あのエルファリオーネってわけ」
 沈黙(ちんもく)は音もなく三人を包んだ。三人は陽(ひ)の光(ひか)りさえさえぎられたような、そんな気がした。


それは蘇(よみがえ)る日々。
それは舞い踊(おど)る日。
それはケンカする日。
それは言い過(す)ぎた日。
それは仲直(なかなお)りした日。
まだ幼(おさな)き二人のための日々。


風がフィリシアの声になびきはじめる。


礎石(そノせき)は昨日のなみだに枯(か)れるゆえにほほえみを
今日の比(ひ)に暮れるにびしな
それさへもデビッツェル
明日のことに夕(ゆう)なき夕なりし日
さつまげき螺旋王(らせんおう)のひと
うまれしまななさなのくにのことしのひと
きみなりざ刻線嶺方(こくせんりょうほう)にひとしきなり
かべらしう龍(りゅう)の流(りゅう)の立(りゅう)
さまりなるきりょうなゆしほほえみ
だからえんてりぃぃな
ひらかれんさへしついなるとびらへのかいひゃく


「いいじゃない」
3人は城の頂上ではなく、草原の上に立っていた。そばには青々とした葉をしげらせた大樹(たいじゅ)がいっぽん。そこでエルファリオーネがフィリシアの詩(うた)を聞いていた。
「ねえ、あそぼうよ」
エルファリオーネの両手から火球(かきゅう)がそれぞれ螺旋(らせん)をえがき拡大(かくだい)し、炎(ほのお)が増長(ぞうちょう)しながらシンヤたちに飛来(ひらい)する。



     火              火



   火 火 火          火 火 火

   火 炎 火          火 炎 火

   火 火 火          火 火 火



     火              火
  火     火        火     火
   炎 炎 炎          炎 炎 炎

火  炎 業 炎  火    火  炎 業 炎  火

   炎 炎 炎          炎 炎 炎
  火     火        火     火
     火              火



 火球(かきゅう)はそれほど速くないが、グングンおおきくなって、すでに視界は火でおおわれていた。火球は地面さええぐり、とうてい逃げたり、ふせいだりはできないように思われた。シンヤは風にふりむかされた。そこに少年がいた。
ーーーだれだ…キミは……
 少年は暗闇(くらやみ)から光(ひか)る面へ、たとたとと走っていく。少年が光りの面に近づくにつれ、少年の影が大きくなっていく。少年は光りになった。シンヤは少年の後を追って光りになる。


「おおきくなったら、ね」
「大きくなったら」
「えるえありおおねをたおすんだ」
「ハハッ、きみがおおきくなったら…な」
それこそがやめしすこそのたいが
「これは…キミにしかできなかったことだ…さすがです」
「なぜだ…なぜなんだ」
だからこそ
「あなたは…よくやった…よくやったよ」
すべてのひ
「これでいい…あとは種をまくだけだ」
それ、老練(ろうれん)なる魔(ま)の法(ほう)の使えし賢者(けんじゃ)。
「これでなきゃ売れんよ」「そんなぁ〜…」
それ、家計をになう、しっかり者。
「おいおい、でかいあんちゃん。その木もっとそっちだ」
それ、巨人の末席(まっせき)につきし者。
「きせつをうつすのがたいへんでね」
それ、詩(し)と絵画(えが)と踊(おど)りを愛す者。
そのものたちをそのごさがした人はいない。


 シンヤはそのかぜをまとって火球(かきゅう)のまじわる中心(ちゅうしん)につっこむ。火(ひ)の渦(うず)は四散(しさん)した。大量(たいりょう)の灰(はい)が霧(きり)が晴(は)れた後(あと)にシンヤがいた。
「やる〜」
 エルファリオーネがほめ、フィリシアが息(いき)をのんだ。
「アンタ、そんなこといつできるようになったのよ」
 ヒロコの問いにシンヤは「いま」と言って立ち上がった。
エルファリオーネ自身が莫大(ばくだい)なエネルギーの螺旋(らせん)の流れとなってシンヤにせまる。シンヤはエルファリオーネとは反対の螺旋(らせん)を描きつつ、おなじく体当たりする。輝きが散り、次には、さきほどエルファリオーネが立っていた場所にシンヤが、シンヤが立っていた場所にエルファリオーネが立っていた。どちらも傷ついたようすはない。
「なんだこれは…!」
 エルファリオーネは驚愕(きょうがく)に身をふるわせた。
「こうしたら、そう…なるんじゃないかと思って」
 シンヤはあっけらかんとしてそう言う。
「呪文(じゅもん)の詠唱(えいしょう)は…」
 フィリシアの問いに「めんどくさくって」とシンヤ。「やるじゃない」とヒロコ。 「まだ…」
エルファリオーネがシンヤにせまる。
「まだ…」
シンヤが寸前のところでエルファリオーネの体当たりをかわす。
「まだ…」
しつような攻撃はすべてかわされる。
「エルファリオーネ…キミは速いんじゃない。とまっているんだ…だから、さ、オレもそうしたわけで…」
「オマエ…だれだ」
「シンヤだろ」シンヤはこたえました。
「そんなはずはない、そんなはずはない、そんなはずはない」
エルファリオーネによって地面が割れ、みえないなにかが空の雲さえたちきる。シンヤはそこにいた。地面は割れてはいない。
「オレはエルファリオーネだ。ちがうか? キミがそうであるように」
「鏡(かがみ)は…」
 フィリシアがうめくように言葉をつむぐ。
「ちがわない」
「メシくおーぜ」
 シンヤは小さな木の小屋に入っていく。エルファリオーネもついていった。あとに続くヒロコとフィリシア。
「小さな白い棚には、装飾(そうしょく)されたカップがならぶ…でさ、シュミわるいねニィー」
 シンヤはそういいつつ人数分のカップをならべる。すでに紅茶はさめはじめ、クッキーは色とりどりにならんでいる。
「むぐ…はぐ…それでさ、ここ築(ちく)何年(なんねん)」
「え…あの…その…四十年くらいです」
 シンヤの質問(しつもん)にフィリシアがかろうじて答える。ヒロコももくもくと飲食(いんしょく)している。
「まったくいまいちね、なにこの味」
 そういいつつエルファリオーネはフィリシアが作った食事(しょくじ)をひとりで大半をたいらげている。
「もうちょっとなにか方法があったはずよ」
 とフィリシア。
「なかったわ」とエルファリオーネ。
「そうだなあ…これどうやって食べるの?」とシンヤ。
「こうやって…こうじゃない」ガチャンとヒロコ。
「みんながエルファリオーネになるんだ」
 みんながそれをひとりひとりがそれをじぶんがそれをもっていた。
 ゆっくりとふりそそぐそれ…を。
「さあ冒険(ぼうけん)だ」
 シンヤはゆっくりと歩きだす。それはプリシラだった。
「しかたないか」
 そのあとにヒロコがつづく。それはヘクステリーベだった。
  「いきましょう」
 そらにフィリシアがつづく。それはエルファリオーネだった。
 三人とみっつの螺旋法(らせんほう)はめざした。それぞれのゆくえを………いま。




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