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『ゴールデン カイザー』
たかさき はやと
邂逅2
「そこまでだ…」
ーーー何人ぶったおした時だろうか。
そこに、老巧築な巨大な竜の石像の向こうから声が響く。ちょっとした広間に赤いじゅうたんが一面にしかれ、像の両脇が階段になっている。
「こんなことをして・ただですむと思うのか」
「だったらどうだっていうんだ…!」
シンヤの声がよく響く。建物の構造的に響くように作られているのかも知れない。シンヤの声に応えたのか、声の主が階段からおりてくる。まどの光りに照らされたその姿は「………あ
ねき…」
長いストレートの黒髪…腰の上くらいの…に茶色い眼、太い腕や足を、緑色や赤色や黄色の布を何重にも重ねたようなワンピースの上に、金銀の装飾品で体中を彩っている。二十代後半のその女性はゆっくりと階段をおりてくる。なにもせず、立ちつくすシンヤ。
「おまえはワタシをたおせない…」
ーーーちがう……
「いくぞ…」
ーーーちがう……っ!
「雷よっ!」
ギォオ!
シンヤが放った雷撃はあっさりとかわされる。
「変身程度でオレがやられるかっ!」
しかし、シンヤの攻撃がニブく、繰り出される雷撃はことごとくはずれる。
「ら!」
ギシギシギシ…ン!
シンヤの足場の摩擦がかぎりなくなくなり、動きがとれない。
「あきざりし、偉大なりしヘクステリーベよ、彼をみちびきたまえ………セ!」
ベキベキベギッッッ!
シンヤのまわりの床が破壊されるが、シンヤを中心とした二メートルの床は円形に破壊されず、残っている。
「だいじょうぶですかっ」
フィリシアの声が、たおれたシンヤの頭の上…通路の方から聞こえてきた。
「助かった」
「どういたしまして…」
シンヤを助けおこすフィリシアの手が止まる。
メキ…メキメキ…メキャッ
女性はみるみるうちに姿を変え、それぞれいくつものキバを生やした五つの上アゴとひとつの下アゴ、十の眼とトラの足を持つ六足獣と化す。黄色い毛並みはライオンのものだった。しっぽの変わりに人の右腕があり、鉄の斧を持っている。
「どうした…?」
フィリシアはあきらかにおびえているようだった。
「あれは……ガプト…で…わたしの一番のにがて…です」
「どうやら、あいつは相手のもっとも怖い存在に変身できるようだな」
ギャギャ
ガプトが駆け出す。フィリシアはシンヤを立たせると、眼を閉じたまま雷撃を見当違いの方向に放った。
「通路へ!」
シンヤの声にフィリシアが駆け出す。シンヤは向かってくるガプトをギリギリよけて腹をけりあげた。ガプトは着地すると同時にシンヤの死角に斧をうちこんだが、まさにその時、シンヤにすべる床の上にけられたことに、しりもちをつきながら気づいた。
ーーーいただきっ!
「雷よっ!」
……なにもおきない。
「雷よっ!」
やはり、雷撃は生まれない。
「ここまでだ…」
シンヤの横で、シンヤの姉がそうつげた。
「ぎ!」ビシオッ!
女性はフィリシアの雷撃に奇声をあげてたおれた。
「雷がでなかった……」
「そういうこともあります」
フィリシアはさっさと階段をあがっていく。シンヤも後に続いた。
階段の先には中庭が広がっており、種種様々な植物が植えられていた。
「それはクレセーだよ」
シンヤとフィリシアは、植物から声の方へ視線を移す。一人がやっと乗れる木製の荷車を、人くらいある大きさのワシとタカの二匹が引いている。荷車には老婆が一人、すわっていた。眼を開けず、黒い布を頭に巻き、色とりどりの毛糸を体に巻いたような服を着ている。
「アンタが相手をしてくれるのか」
シンヤは足先に力を入れ、ふりあげた両手のこぶしを軽くにぎる。
「クレセーはヘクステリーベ様をあらわす花でな…」
老婆はたんたんと話し続ける。
「聞こえないのでは…」
「あるいは…」
シンヤは半歩づつ老婆に近づく。
「ここの植物はよく育つ…そうじゃ」
老婆は立ち上がると「アンタら、お茶でもいかがかな」と…驚いて、へたりこんだシンヤに、老婆がつぶやくようにつげた。
「ここいらも前はもっとなんでもとれたんじゃがなぁ…」
「シンヤ…先を急がないと」
「まあ…な」
「アンタ」老婆がシンヤにたずね、「はやく…」フィリシアがせかす。
「でもなぁ…この手の断るのはニガテなんだよなぁ」
「アンタ!」「はい!」シンヤは老婆に向き合う。
「アンタ……伝説の…」
「ええまあ…」
「伝説の魔王じゃろう」
「………………は…?」
「そうじゃなかろうかなとは思っておったんじゃ。あれじゃろ、ヘクステリーベ様の使者にたおされる」
「………フィリシア、さあ行こうか」
立ち上がるシンヤとフィリシア。
「アンタもこの葉のよさがわかるのかいのぉ…。これなぞ、まだつぼみがひらかないのでなあ…なにか育ててみないかい、帰りによりなさい…」
老婆の声を後に、シンヤとフィリシアは上への階段に足をかけた。
それ以降、誰にもあうことなく、最上階に上ってきた。ロボットでも通れそうな重厚な鋼鉄の二枚の扉が、人が通れるほど開いている。
「ここが…」
「はい、調べではこの先に……」
シンヤとフィリシアが入ると、扉が閉まった。中はちょっとした広間になっており、奥に木のつくえがある。そこに男の老人がすわっていた。頭に髪はなく、ヒゲだけが胸まで生えている。きざまれたシワは笑いじわのようにシンヤには思えた。
「ようこそいらっしゃった」
老人がやさしくあいさつする。
「あんたが魔王か?」
シンヤは間髪を入れず問うた。
「魔王? ホッホッ」
老人はたのしそうにわらっている。老人はゆっくりと立ちあがる。へやのなかには三人いがいには誰もいない。老人はゆったりとした口調でシンヤに語りかける。
「まあ、とにかく、あんたらはたたかうためにきたんじゃろ。対戦者をよばんとな」
老人が手をたたくと横の木製の扉が開き、女性がはいってくる。
「おまえがアイテかっ、オレがシンヤだ。いざ勝負だっ!」
「な〜にカッコつけてんのよシンヤ!」
ーーーえ?
「あねきっ!?」
ながい黒髪に白いワンピースの服を着た、二十代前半くらいの端正な顔つきの女性が立っている。豊満な体つきに、ほくろの場所など、間違えようがない。
「シンヤ様の姉上?」
身構えていたフィリシアが驚きの声をあげる。
「弘子っていうんだ」
「わるい奴とたたかってくれって言うから、だれかと思ったらシンヤか。楽勝楽勝」
「これは…」
「さっきの変身するアイツかも知れない、気をつけろっ!」
「小学校六年になってもオネショしてたのは誰だっけなぁ…」
「……あの…」
「……あははははは………」
「それじゃあ、そろそろ、たたかってもらおうか」
「どっちにしろオレは負けられないんだ。手加減しないぜ。雷よ! 」
ギガ、ギガオ!
まったくどうじにヒロコも呪紋を唱える。
「ディヘェンシブッ!」
ヴァシイッ!
円形に渦を巻く黒い濁流にふれ、雷撃は四散する。
「セプテリオッッ!」
ギィイイイイ…インッ…ドサッ……
黒い螺旋状のエネルギー波はフィリシアの防御壁をよけ、シンヤの跳躍にあっさりと追いついた。
シンヤがその場にたおれる。
「シンヤ様っ!」
フィリシアがかけよる。
「ダイジョブよ。高音による集中的ショックで気絶させただけだから」
フィリシアはシンヤの安全をたしかめると、ヒロコに対峙する。
「よくも……」
「チョットまって。もうたたかいは終わった…」
「腐朽波(ふきゅうば)っ!」
ディギュウッ!!
「クッ」
ザザッ
ヒロコは見えないなにかにはじきとばされるが、かろうじて着地する。服の端が茶色に変色している。
「あなたシンヤのことを……でも言っても解からなさそうね。セプテリオッ!」
「電磁壁!」
ヴィシシッ!!
フィリシアはよこにはしりつつ魔法をときはなつ。
「火炎樹(かえんじゅ)!」
ドギュドギュドギュッ!!
みっつの炎の塊がヒロコの足下をおそう。
「クリスタリッシュ!」
パパ、パキィッ!!
みっつの炎がそれぞれクリスタルに封じこめられる。
「マイツェーブッ!」
「電磁壁!」
ドクドクン…ド…クン……
「え?」
ドサッ
フィリシアはその場にたおれる。
「マイツェーブは精神に直接ショックを集中させる魔法って、聞こえるはずないか。……さてと、もう三時ね。お茶にしましょう」老人はヒロコの提案にゆっくりとうなずいた。
「パパァーッ!」
少年が父親にかけよる。
「パパァッ、ファミコンかってぇ。ファミコンがないと、みんながいえにきてくれないっていうんだ」
「ダメだ」
「どおしてぇっ?」
「シンヤ、オマエは勉強するんだ。そして……」
その男はたしかにそう言った。
「いやだっ!」
青年のシンヤがさけぶ。
「シンヤ…」
ヒロコが立っている。
「あねきっ、オレは…オレは…」
「死ぬのよ魔王シンヤ」
ヴァシィイイッ!
大量の雷撃がシンヤを直撃する。
ーーーウワアアアァッ……
ズデッ
「イッテェーッ」
シンヤがベッドからころげおちる。まわり見るとまどもなく、とびらがひとつあるだけのへやだ。おなじベッドにフィリシアもねていた。
「フィリシア、だいじょうぶか?」
「ん……シ…ンヤ様? …だいじょうぶです」
フィリシアのことばにシンヤは安堵する。フィリシアもおきあがる。
「フィリシア……負けちまった。すまない」
フィリシアはゆっくりとくびをふる。
「いいえシンヤ様はできるだけのことをやってくださいました。それだけでじゅうぶんです」
「フィリシア……」
見つめあうふたり。
「なーにやってんのかな?」
「あねきっ?!」
気配を気ずかせず、ヒロコがへやのなかにいた。白い布の上着となぜかミニスカートだ。
「負けをみとめるよ。でも、あねきならこの世界をわるいようにはしないよな」
「? なんのことよ」
「なんのことって魔王が勇者とたたかって、勝ったほうが世界のみらいを決められるという…」
「そのことについて、おぬし達に聞きたいことがある」
ヒロコのうしろから先ほどの男の老人があらわれる。
「アンタはっ!……だれ?」
「オホンッ、ワシはこの国の民にえらばれた代表、クルックリンじゃ」
シンヤは、クルックリンのまえに立つ。
「それでクルックル、聞きたいこととは?」
「クルックリンじゃ。魔王をたおせば未来を決められるなどと、初耳じゃよ」
クルックリンがあっけらかんと言う。
「そんな…それじゃあねきはなんなんだよ」
「ヒロコさんはわれらの召喚陣から召喚されたのじゃ。魔法の素質と意欲があったのでおおしえしただけじゃ」
「そうそう」
ヒロコがうなずく。
「そんなことはどうでもいいことです。もともとあなたがたが、私達の領土をうばうために戦争をしかけてこなければ、こんなことにはならなかったのです」
フィリシアがつらそうにはなす。だが、クルックリンの眼はひややかだ。
「なにを言っておる。戦争をしかけてきたのはそちらのほうではないか」
「へ?」
シンヤがへんな声をだす。
「なにをバカな!」
冷静なフィリシアが、かなり感情的になっている。
「じゃが、最近はへんなことばかりおきていた」
「と言うと?」
シンヤがうながす。
「王国とは、血族で王が決まるもの。じゃが、第一継承権を持つ姫が隠密行動をしたり、王子が前線にでてきたり……まるであんた達を殺そうとでもしているかのようじゃった」
フィリシアがまえにでる。
「それはあなたがたが、戦争の責任をこちらになすりつけるために言っているのでしょう」
「しかも、あんたが隠密行動をしにくることは、密告により解かっておったのじゃ」
「そんなことがあるはず…」
フィリシアは口をつぐむ。フィリシアもあの完璧に計画された隠密行動が失敗に終わったのを、不審に思っていたのだ。あの計画を知っていたのは、ほかに将軍と王だけだ。フィリシアはシンヤのほうを見る。たすけをもとめているのは一目瞭然だ。
「クルックリン、聞きたいことがある。魔法は神に祈らなければつかえないのか?」
「そんなバカなことはない。素質のある者ならば、だれでもつかえるぞ」
「やっぱりな。オレは神に祈らなくても魔法をつかうことができた。神の予言がすべてを決める…か、たいした神様がいたもんだぜ」
「でも…エルファリオーネ様は……」
ヒロコがフィリシアのかたに手をおく。
「アナタの国では、神の予言がすべてを決めるんですってね。でもネ、大事なのはその情報にどれだけ信憑性があるか、証拠はあるのかをしらべることなのよ」
「シンヤ様…」
「フィリシア、救世主のことばや神の予言ではなく、自分のあたまで考えるんだ」
シンヤはあさってのほうをむいて言う。言ったあとで、自分のセリフに感動してふるえている。 フィリシアはしたをむいたまま、なにかを必死で考えている。
「ワタシは常々、王にこの戦争をはなしあいで解決するよう提言してきました。しかし王は聞きいれてはくれず、おとうととどちらが王になってもこの戦争を終わらせようと、はなしていたのですが…それからおかしなことがつづいておきて…」
「…どうやら戦争が終わっちゃこまる奴がいるようだな」
シンヤが立ちあがる。
「いっちょオニ退治といきますかっ!」
みんながシンヤに注目する。
「それじゃまずは……メシにしょうっ!」
ズデッ
「フォッフォッ、おもしろいかたじゃ。わしゃおもしろい人が大好きなんじゃ。ご飯はすぐよういさせよう」
クルックリンは、ほんとうにたのしそうにわらう。シンヤ達はその後食堂にあんないされ、食事をした。おどろいたのは、ねていて気ずかなかったが、もうつぎの朝になっていたことだった。
「またこのヨロイか…」
シンヤはフィリシアに昨日とおなじよろいを指示されていた。
「これがかるくて、シンヤ様には一番いいんです」
シブシブとよろいをつけるシンヤ。
「フィリシアちゃんいる?」
ヒロコがへやにはいってくる。金色の刺繍がはいっている、白い布のワンピースを着ている。それにかたをおおった白いマントをつけていて、かなりハデな服装だ。
「フィリシアちゃんの服もえらんであげるわ」
「いえ私は…」
「フィリシアはもう着がえたよ」
シンヤがよこやりをいれる。
「女の子はネ、オシャレにこらなくちゃならないものなのよ」
さっさとフィリシアのうでをつかんでつれていってしまう。
ーーー人を着せかえ人形にするクセ、まだなおってないな。こんな状況のときにまったく。
「シンヤ、のぞくなよ」
ヒロコがかおだけだして注意する。
「だれがするかっ!」
わらいながらさっていくヒロコ。となりのへやは衣装室になっており、無数の服がならんでいる。
「これなんていいんじゃない」
下着すがたのフィリシアに、ヒロコが服をさしだす。
「…その…うらやましい……」
「え、この服? 着てみる?」
「いえ、そうではなくて……シンヤ様とその、親しくはなしができて…」
フィリシアが服にうでをとおしながらはなす。「まあ姉弟だからってこともあるけどね。でもフィリシアちゃんも敬語なんかつかわなければ、シンヤももっと親密感をもつと思うよ。シンヤが勇者じゃないって解かったんだし、そうしてみたら?」
「…解かってはいるんです。でも、生まれてからずっとまわりは貴族や神官のかた達ばかりでしたので、敬語をつかうクセがついてしまっていて……」
フィリシアがしたをむく。
「ダイジョブだって。フィリシアちゃんは魅力的なんだから、もっと自分に自信をもって。ながい眼で自分を見守っていれば、絶対うまくいくって」
ヒロコがフィリシアのかたをたたく。
「ありがとうございます」
「ホラ、またっ」
「あっ」
シンヤはとなりのへやからわらい声が聞こえたような気がした。
ーーーまさか…な
「シンヤ…」
「なんだ」
ふりかえるとフィリシアだった。装飾のついた白いドレスを着ている。二重にマントを羽織っている。
「おかしいかな?」
そこには十代の等身大の少女がいた。
「いや、そのほうが自然でカワイイよ」
素直な気持ちをのべただけだが、フィリシアのかおがみるみる赤くなっていく。
「どう? アタシの服をえらぶ眼は?」
ヒロコがうしろからあらわれる。
「キレイ…だが、これじゃ花嫁衣装だよ」
シンヤのスルドイ指摘にあとずさるヒロコ。
「でも、これがいまの流行りなのよ」
「どこのどんな流行りじゃ」
おたがいツッコミあう。それをフィリシアが微笑しながら見ている。
「フォッフォッ、若い人達は活気があっていいのお」
クルックリンがやってくる。
「飛竜の用意ができましたがの、じゃが、ほんとうに他に兵士をつけなくていいのかのぉ」
「ああ、そのほうが城に入りやすいからな」
「シンヤ…」
「どうした?」
シンヤはフィリシアのほうをむく。
「王……父とよくはなしてみたいの。いいかな?」
「ああ、解かった」
シンヤがうなずく。
ガ…コン…
鉄のとびらがひらくと、三匹の飛竜がいる。さんにんはそれぞれ飛竜にのる。
「それじゃ、ちょっくらいってきますかっ」
ヴァササッ……
飛竜が青空にとびたつ。
潜入へ つづく
『ゴールデン カイザー』
たかさき はやと
潜入
「飛竜の用意ができましたがの、ほんとうに兵士はつけなくてよろしいのかな?」
「ああ、そのほうがすんなり城にはいれるからな」
シンヤ達は階段をうえにのぼる。
「シンヤ…」
「どうした?」
シンヤはフィリシアのほうをむく。
「王……父とよくはなしてみたいの。いいかな?」
「ああ、解かった」
シンヤがうなずく。
「それから…フェルフエイのバアさんにお茶はこんどの機会にって言っといてくれ」
「つたえておこう…」
ガ…コン…
鉄のとびらがひらくと、三匹の飛竜がいる。さんにんはそれぞれ飛竜にのる。
「それじゃ、ちょっくらいってきますかっ」
ヴァササッ……
飛竜が青空にとびたつ。
ヴァササッ…
二十分もとんだろうか、城が見えてくる。 発着場がつかずいてくる。
ギュンッ
「ウオッ」
ヴァサッヴァッ…
さんにんの飛竜が着地する。
「ふう、まだこの飛竜にはなれることができないな…」
シンヤがボヤく。
「さ、いきましょう」
ヒロコがさっさととびらをあけて、なかにはいっていく。が、スグにもどってくる。
「どうしたんだ?」
ヒロコのうしろから兵士達がでてくる。
「フィリシア姫達を、城にいれないように言われています」
フィリシアがゆっくりとまえにでる。その行動は威圧的でさえある。
「ここをどきないさい」
兵士達があとずさる。
「しかし、王の命令ですし…」
一番階級がうえのような兵士がいさめるように言う。
「ワタシの命令と王の命令は実質的におなじはず。それに、王がエルファリオーネ様の予言を悪用しているとの申し立てがありました。 そこをどきなさいっ!」
これが十代の女の子かというほど、威圧感のあることばだった。
「わ、わかりました…」
兵士達がよこに移動する。
「さあ、いきましょう」
「あ、ああ」
ーーーフィリシアってけっこうコワイな。
本人が聞いたらおこりそうなことを、シンヤは考えていた。
ーーーでも、これで父親の罪がいっそう濃厚になったんだ。ムリもないか…。オレがささえれやらなくちゃな……
シンヤはフィリシアのまえをあるく。まるでまもろうとでもするように。階段をのぼると、玉座のある広間にでる。 まわりを見るが、だれもいない。
「寝室のほうか…な?」
フィリシアがひとり言を言う。
「とにかくいってみようぜ」
「それはできない相談だ」
中年の男がでてくる。黒いマントに身をつつんでいる。こしまでありそうな金髪が眼をひく。
「アナタはっ…」
フィリシアがまえにでる。
「ダレでしたっけ」
ズテッ
「シンヤに毒されてる。絶対シンヤに毒されてるっ」
ヒロコがフィリシアにつっこむ。
「そ、そうですか?」
おどけるフィリシア。
「…それでーだな。いいかな?」
中年の男が律義に聞いてくる。
「どうぞ」
フィリシアがやさしくこたえる。
「ワタシは将軍直属の秘密部隊のひとりだ。知らなくてとうぜんだ」
「ふ〜ん、それで王はどこにいるんだ?」
シンヤが問う。
「ウム、寝室に将軍とおられる」
「そう、ありがと」
サッサといこうとするさんにん。
「チョットまてえいっ!」
中年男がさけぶ。
「なんだよウルサイなぁ…」
「ここからさきにはいけないのだよ」
「どうして?」
シンヤがうざったそうに聞く。
「オマエ達はここで死ぬからだっ!」
「ま、そんなとこだろうな。雷よっ!!」
シンヤはおどろいたようすもなく、呪紋を唱える。
ギガ、ギガオ! ヴァシュァアッ
ギュアッ
男は赤い布をだすと、ひとふりする。すると雷が、すべてよこに方向がずれてしまう。
「フッフッフッ、この布はふればどんな魔法でもよこにずらしてしまうのだ。クックックッスゴイ、こんなものをくださる将軍もスゴイが、つかいこなせる自分はもっとスゴイッ。天才だなぁフッフッフッ…て、ムシしてさきにいこうとするなっ」
中年の男はシンヤ達をよびとめる。
「解かってるって、どうせ防御だけがスゴクて、攻撃はしょぼいってんだろ?」
シンヤがつめたいまなざしで男を見る。
「バカにするでない。ワタシは剣の天才でもあるのだ」
シュピピンッ
男は両手にレイピアをもつと、シンヤとたいじする。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
すさまじい連続攻撃がシンヤをおそう。
「クッ」
ザザッ
なんとかかわすシンヤ。
「どうやら天才ってのは、口先だけじゃなさそうだな」
シュピンッ
シンヤもレイピアをぬく。
「いいぜ、あいてしてやるぜ」
ふたりは間合いを確かめながら、ジリジリと距離をつめる。
「いやあっ!」
男がいっきに間合いをつめる。
ーーーはやいっ!
男のみげての攻撃をよけるが、ひだりての攻撃がくる。
「クアッ」
シンヤはその攻撃をさらによけつつ、渾身の一撃をくりだす。
「雷よっ!」
ーーーなに、魔法?!
ヴァシュアッ!
「グアアッ!!」
ドサッ…
そして、男がたおれる。
「え、アレレ?」
雷撃をはなったのはフィリシアだった。
「なんで魔法が効いたんだ?」
「だって…」
フィリシアがゆびさしたさきには、投げすてられた布がゆかにおちていた。
「そういや両手でレイピアもってるんだったな…」
すこし自分に自信がなくなるシンヤだった。 玉座のうしろにある、石づくりの通路をすこしあるくと、広間にでる。一面岩でできている。マドはなく、ひんやりとした空間だ。
「いきどまりだな…」
フィリシアがおくにぶらさがってる鉄のクサリをしたにひっぱる。
ジャリジャリジャリ
ゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴ………
岩壁がよこにひらいていく。人ひとりがとおれる道があらわれた。
「王は万が一敵に攻められたとき、避難する場所をつくっていました。寝室ではなく、たぶんそこにいると思います」
「みんな、元気かな?」
ヒロコが突然聞く。
「ああ、だいじょうぶだ」
「だいじょうぶです」
「ヨシッ、それじゃいきましょう!」
さんにんは岩でできた通路にはいりこむ。つきあたりに木のとびらがある。
ギィイッ…
自然にとびらがひらく。
「チョットまった」
シンヤはフィリシアがはいろうとするのをとめる。
「オレがさきにいく」
スッ…
音をたてないようになかにはいる。なかは木の箱や、酒ビンなどがつんである。どうやら食料庫みたいだ。
「だいじょうぶみたいだな…」
てまねきでフィリシア達をよびいれる。へやのおくに木のとびらが見える。せんじんをきってあるきだすシンヤ。
「ホッホッホッ…」
突然女性の声がひびく。
「なんだなんだ?」
箱にかくれていて見えなかったが、おくに女性がいる。金髪をポニーテールにしている。化粧がかなり濃いのが印象的だ。白い布の服に、要所要所を防具でかためていて、まさにこれから戦争にでもいきますといった、いでたちだ。
「こんにちわ」
「あ、こんにちわ」
フィリシアがこたえる。
「ワタシはグリシャス」
「どうも、フィリシアです」
グリシャスがまえにでる。
「ここでは、あるものをおいていかなくちゃいけないんだよ…」
「なにをですか?」
フィリシアがバカ正直に聞く。
「命をよっ!」
「ヒューッ、カッコイイぞっ!」
シンヤがさけぶ。
「チャカすなっ。まったく、マジメにうけこたえる奴、チャカす奴だの、ろくな連中じゃないワネ」
ヒロコがにがわらいする。
「とにかく、ワタシの攻撃をうけなさいっ!」
ギュァアアアアッ!!
グリシャスの両手のむらさきにぬられた爪がのびる。木の箱やビンをくだきながらシンヤ達にせまる。
「電滋壁!」
ギャリギャリギャリ……
爪が電滋壁にはばまれてシンヤ達のまわりをめぐる。
「ホホッ、指の代謝機能を最大限にするこの魔法はどうかしら? 電滋壁がきれたときが、アナタ達の最後よっ!」
「けっこうやるな」
シンヤが平然と分析する。
「なに他人ごとみたいなこと言ってるのっ」
ヒロコがおこる。
フッ
電滋壁がきえるたのと、シンヤがさけんだのは、ほぼどうじだった。
「亀裂波っ!」
シンヤがゆびさしたのは…天井だった。
ゴバッゴグ…ゴギャオッ!!
木の柱にささえられている石が、すべてくずれだす。
ゴゾッゴンッ…
「フンギャッ!」
グリシャスが悲鳴をあげる。爪が岩にはさまれ、爪にひっぱられてたおれている。
「それじゃ、いきますか」
「チョット…」
さんにんはゆうゆうととびらまであるいていく。
「たすけなさいよっ! コォラァ〜ッ!!」
食料庫をあとにするさんにん。
通路のつきあたりの階段をのぼる。のぼりきったところは、すこし広い通路になっている。
おくに、したにいく階段が見える。
ーーーどうやら、ここからはくだりのようだな……
だが、階段のてまえには、ひとりの少女がたっている。こしまであるストレートの金髪。すんだ碧眼。まだ十五才ぐらいだろうか。
「しかし…こんな女の子までかりだすなんて…やっていいことと、ワルイことがあるんじゃないか?」
シンヤが不満をのべる。
「ええ…でも彼女には、それだけの魔法の実力があるのかも…」
フィリシアはあいてから眼をはなさない。
ーーー実力ねえ……
「それで、アンタはどんな力をもってるのかな?」シンヤはソフトに聞く。へんじはかえってこない。
ーーーとうぜん…か。
「とにかく、ここをとおしてもらうぜっ!」
ダッ
シンヤはかけだす。
「…どうぞ」
「えっ」
少女のことばに、シンヤはコケそうになる。
「なんだって?」
少女はシンヤのほうをむく。
「だから、どうぞ」
シンヤはポカーンと、しばらく少女のかおを見てしまう。
「ほんとに、いいの?」
フィリシアが少女に問う。
「いいわ」
「なにかあるわね…」
ヒロコが少女のほうをにあるいてくる。
「でも、やってみないと…わからないわネ」
ヒロコは階段をおりていく。シンヤとフィリシアも、あやぶみながら階段をおりていく。
「いくことができれば…ネ」
少女はニヤリとわらった。ヒロコは慎重に階段をおりる。かなりまわりに気をくばったつもりだが、なにもないし、なにもおきない。なにごともなく、したにおりてしまう。眼のまえには木のとびらがある。
「ここまではだいじょうぶみたいだな…」
シンヤ達もおりてくる。
「そうね…」
ヒロコはふたりをみまわして、このとびらをあけることをつげる。
ギィイイイ…ッ
ごくふつうにあいた。罠らしきものもない。なかはさきほどとおなじ石づくりのへやだ。
「? なにもないわネ…え?!」
ヒロコは信じられないもの見た。そこには、いるはずのない人間がいた。
「どうした?」
シンヤはヒロコのわきからかおをだす。
「ふえっ?」
シンヤが力のぬける声をだす。
ゴソゴソ…
フィリシアもシンヤのうでのさらにしたからかおをだす。
「そんなっ?!」
そこには、さきほどの少女が立っていた。さんにんは慎重になかにはいる。へやの構造は大差ない。
「ウーム、はてななてな? どういうことだ」
シンヤがふたりに問う。
「異次元魔法をつかうには体力がなさそうですが…」
フィリシアがお約束の講釈をする。
「どこかにダレかが隠れてるとか?」
シンヤが推論をのべる。
「魔法でさぐってみたけど、それらしいものではないわネ」
ヒロコがこたえる。さんにんが考えこんでいる。
「あれ」シンヤが声をあげる。
「どうしたの?」
「なんでこんなことで悩まなくちゃいけないんだよ」
シンヤはツカツカと、少女のまえまであるいていく。
バッ
少女をゆびさす。
「雷よっ!」
ギガ、ギガオ!! ヴァシュァアッ
ドサッ……
少女がたおれるのをシンヤがだきとめる。しずかにゆかにねかせる。
「さあ、いこうぜ」
シンヤ達はさらに階段をおりる。
ギィイイ…ッ
シンヤが階段をおりた、つきあたりのとびらをあける。
「じょうだんキツイぜ…」
そこには、またさきほどとおなじへや、おなじ少女がいる。
「えーいこうなりゃヤケだっ! 雷よっ!!」
ギガ、ギガオ! ヴィシャァアッ
ドサッ
ザッザッザッ…
階段をおりるさんにん。
ギィイイ…ッ
「………またか」
そこには、おなじく少女が立っている。
「かんべんしてくれよぉ」
すわりこむシンヤ。
「次元をねじまげることは?」
ヒロコがフィリシアに聞く。
「異次元魔法にはあるかも知れませんが、こんな少女がつかいこなすなんてはなしを、聞いたことがありません」
「そう……」
「なんでこうなるんだよっ…」
「シンヤ、立ちなさい。こんなことしてるばあいじゃないでしょ?」
しかしシンヤはうごこうとしない。
「ヤダネッ、うごかないよっ」
「なーにダダこねてんのっ。ホラ、立って」
「ヤダネッ」
「まったく、自分の思いどおりにならないとスグすねるんだから…!」
「アノ…すこし休憩しませんか?」
フィリシアが提案する。
「…しかたないわね。そうしましょう」
ヒロコがそう言ったあとスグ、フィリシアもすわりこんでしまう。
ふたりとも、体力よりも精神的にまいっているのが、ヒロコにはよく解かっていた。ヒロコ自信もすわりこみたい気分だ。だが、ヒロコにはなにか見おとしていることがあるような気がして、しかたなかった。
「…なにかあるほハズよ…」
ひとり言を言いながら、あたりのことを丹念にしらべる。
なにかちがうものはないか、へやをしらべるが、どこにもあやしいところはない。
「ふうっ…」
タメいきをつきつつ、少女のほうにあるいていく。ほかにすることも思いつかなかった。
「まいったわね。アナタにはかなわないわ」
少女はなにもはなさない。
「フアアッ…ァ」
ヒロコはアクビをする。
「! そういうことかっ」
ヒロコのさけびにシンヤとフィリシアがかおをあげる。
「どした?」
シンヤが、はなすのもつかれるように聞く。
「解かったわ。こういうことだったのよ」
ヒロコはサッサとあるいて、階段をおりていく。
「オ、オイあねきっ」
シンヤとフィリシアもヒロコを追って、階段をおりる。
ギィイイ…ッ
階段をおりたところにある、とびらをあけてなかにはっていくヒロコ。シンヤとフィリシアもなかにはいる。やはりさきほどとおなじへやだ。ヒロコはなおもさきにあるいていく。
「シンヤ…」
フィリシアが少女のほうを見ながら言う。
ーーー少女? …そう…か。
シンヤとフィリシアもはやあしであるきはじめる。
つぎの階段をおりて、とびらをあける。
そこにもおなじへや、おなじ少女がいる。 そしてなおもおりていく。
「とうとうきちゃいましたネ」
なんかいおりただろうか。そのへやの少女が口をひらく。少女はずいぶん幼い声だ。いや、実際幼い。だいたい6才ぐらいではないだろうか?
「やっぱりネ」
ヒロコがわらう。
「アナタ達は姉妹なのね」
「ウンッ」
少女がそう言って笑う。
「ねらいは、精神的につかれさすことだったのよ」
ヒロコが指摘する。
「バカらしい…解かってみるとなんでもないことじゃないか…」
「だからひっかかるのよ。まあ、ダレかがキズを負ったワケじゃないのはよかったわ。
さあ、さきをいそぎましょう」
ーーーさっき雷撃をかけた女の子にはわるいことしたな…しかし、こうまでして自分をまもりたいってのか?
シンヤは、ふたりよりもあしはやに階段をおりる。階段をおりると、広い通路がつづいている。通路のわきには、古いよろいや剣などがならんでいる。
「フーン、けっこういいものばかりだな…」
シンヤが装飾品を見つめながらいう。
「アンタに芸術を愛好する趣味があったなんて、はじめて知ったわ」
ヒロコがチャチャをいれる。
「いや、ただ言ってみただけ」
「あのねーっ」
シンヤはかまわず装飾品をながめている。
「うわっ、なんだコレ」
シンヤのまえには、カメの甲良のオバケがある。どうやらこれもよろいらしく、いろいろと装飾してある。
「こんなの、はじめて見ます」
フィリシアがくびをかしげる。
ギギ…
「まさか…」
シンヤがジトめで甲良のよろいのほうを見る。
ギギ、ゴガンゴガンッ
そのよろいがあるきだす。
「やっぱりうごいたぁーっ!」
さんにんは一目散ににげだす。
ガゴンゴガン…ゴガン……ゴガン………
だんだん、よろいの足音がとおのいていく。
「なあんだ、足がおそいんじゃん」
シンヤが安堵してあるきはじめる。
ガシャガシャ、ガシャンッ!
「え?」
見ると、うでとあしが甲良のなかにひっこんでいく。
「もしかして…お約束?」
………ギャリン……ギャリン…ギャリンギャリンギャリンッ!
巨大な甲良がころがってくる。
「だひぃいいいいっ!!」
シンヤは必死でかけだす。通路のちょっと先に人ひとり入れる崩れた穴があるのをシンヤは見つけた。ヒロコはかなり先を走っている。シンヤはフィリシアの腕をつかむと穴にたたきこんだ。
ガガ…ガ……
とちゅう、はしるのをやめたので、かなり距離がちぢまっている。
ギャリンギャリンギャリンギャリンッ!!
「どぁあっ」
ヒロコが豪快にコケる。シンヤはいきおいあまって追い抜いてしまったヒロコのもとへ走る。
ーーーまにあわないっ!
ヒロコの腕輪が異様に大きく人の形になったかと思うまもなく、片腕を十メートル以上天井のほうにのばし、柱の上部をつかむと、ヒロコごと柱の上にのびあがる。
「ああ、そうそう護衛に変身できる彼…デデについて来てもらってたんだ」
ふたたび走りながらシンヤは通路にひびくヒロコの声を聞いた。
「お、ハッ…オレもひきあげてくれっ!」
さっさと腕輪になるデデ。
ーーーいつか、ぶちたおすっ!
「ハッハッハッ!」
シンヤこれまでで最高に気合いが入った走りをして、先にあるわき道まであと三(さん)メートルまで迫った。だが、巨大な甲良は服をこするまで接近していた。
「でやぁああっ!!」
シンヤはよこ道にとびこむ。
ギャリンギャリンギャリンギャリンギャリンギャリン…ギャリン……ギャリン………
音がとおのいていく。
わき道からかおだすシンヤ。
ーーーそうだ…亀裂破使えばよかったんだ……
ガシャンガシャシャ…ン
よろいは変形してまたこちらにあるいてくる。
ガゴンゴガンゴガンゴガン…
ゆっくりと、こちらにあるいてくる。階段はよろいの横にあり、亀裂破では階段ごとくずしてしまいそうだ。
ーーーこうなりゃやけくそっ…
「よっしゃくらえ、雷よっ!」
ギガ、ギガオ!! ズシャァアアッ
正面から多量の雷撃をうける。
「みたかっ!」
ガ…ゴン
「マジ?」
ガゴンゴガンゴガンゴガンッ
「ヤルシカナイ…か」
シンヤははしりだす。
「どうするのシンヤッ?!」
フィリシアが心配な声をあげる。
「お約束にはお約束さっ!」
「…? お約束?」
ガシャンガシャシャ…ン
シンヤがでてきたのを見て変形をはじめる。
…ギャリン…ギャリンギャリンギャリンギャリンギャリンッ!!
シンヤのほうにむかってくる。
ーーーまだだ…
あと十メートルまでちかずく。
ーーーまだ…
三メートルまでちかずく。
いまだっ!!
ガッ!
シンヤは寸前でよけると、甲良のよこに体当たりする。
グワン…グワングワワングワワワングワワワワワ……ンピタッ
甲良はさかさまのまま回転して、しばらくしてとまる。
ガシャシャッシャンッジタバタジタバタ…
うでとあしだすが、どうにもうごけない。
「やったわネ」
ヒロコがやってくる。
「これが実力ってやつさ」
「たしかにあんなやりかたはアンタしか思いつかないわネ」
「あ〜ね〜き〜っ」
「プッ…クスクス…」
わきでフィリシアがわらっている。シンヤはふと、まだ先は長い気がした。
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