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『ゴールデンカイザー』
             たかさき はやと
邂逅 3


 よろいは変形してまたこちらにあるいてくる。
ゴガガゴゴガゴガン…
 ゆっくりと、シンヤの方にあるいてくる。階段はよろいの横にあり、亀裂破では階段ごとくずしてしまいそうだ。
ーーーこうなりゃやけくそっ…
「よっしゃぁ…くらえ、雷よっ!」
ビギガ、ギガオ!! ズシャァアアッ
 正面から多量の雷撃をうけるよろい。うしろでヒロコとフィリシアがふせぐほどの雷撃だった。
「みたかっ!」
「こっちまで感電させる気!?」
「ハ…ハハ……」
ズシ……ガ…ゴン
「…マジ?」
ガゴンゴガンゴガンゴガンッ
「こうなりゃ、いちかばちか……ヤルシカナイ…か」
 シンヤははしりだす。
「どうするのシンヤッ?!」
 フィリシアはシンヤに加勢するつもりではしりだす。
「そこにいてくれ、お約束にはお約束さっ!」
「…?…おやく…そく?」
ガシャンガシャシャ…ン
 シンヤが正面に出てきたのを見てよろいは変形をはじめる。
…ギャリン…ギャリンギャリンギャリンギャリンギャリンッ!!
 シンヤのほうに回転攻撃が迫る。
ーーーまだだ…
 ものの五秒とたたず、シンヤの目前十メートルまでちかずく。
ーーーまだ…
 三メートルまでちかずく。
ーーーいまだっ!!
ガ、いんッ!
 シンヤは寸前でよけると横の石壁(せきへき)を両足でけり、甲良のななめ上から背中で体当たりする。
グワン…グワングワワングワワワングワワワワワ…ン……
 甲良はさかさまのまま駒(こま)のように回転して、しばらくしてとまる。よろいの腕と足がむなしくも必死に空をきる。
「やったわネ」
 ヒロコがやってくる。
「これが実力ってやつさ」
 シンヤが転がったままで言った。
「たしかにあんな無謀(むぼう)なやりかたはアンタしか思いつかないわネ」
「あ〜ね〜き〜っ」
 ヒロコがシンヤを立たせる。
「プッ…クスクス…」
 わきでフィリシアがわらっている。


 「まあ…」
ーーーフィリシアの笑顔を見れたからいいかっ。
タッタッタ…
 さんにんはつぎのへやにはいる。木のたなにワインのビンが、無数にならんでいる。
 ひんやりとした空気がただよっている。見えるのはつらなる木のたなばかりで、つぎのとびらは見えない。
「……クラッツライライランブール…」
 どこからか歌が聞こえてくる。若い男の声だ。
「どこから聞こえてくるのかな?」
 フィリシアが声の聞こえるほうをさがしながら、あるいていく。シンヤとヒロコもあとをあるく。
「とてもすんだ、いい声…」
「イサックラルブルライラライラライ…」
 いくつめのたなだろうか? たなのすきまで、男が木のイスにすわっていた。どうやらこちらに気ずいたようで、こちらにむきなおる。みじかい金髪に日に焼けた肌。かおの形は、けして美形といえるものではないが、どこにでもいそうな、ごくふつうの感じが心を安心させる。
「いらっしゃい…」
「すばらしい歌ですね」
 フィリシアが微笑する。
「ありがとう」
「アンタもたたかうのか?」
 シンヤが会話によこから口をはさむ。
「そうだな、そういうことになる…な」
 男は立ちあがる。
「ワタシは、たいした攻撃魔法がつかえない」
「? それでどうするっていうんだ?」
「こうする」
ヴッ
 たなのうえにあるビンがうきあがる。
ビュンッ、ガシャッ!
 ビンのなかの液体がはねる。
「アツッ」
ジュァアア…
「このビンのなかは強酸なのさ…」
 いつのまにか男はいなくなってる。
ヴヴヴッ…
 複数のビンがうかびあがる。
ビュンッ、ガシャガシャガシャッ!!
「にげろっ!」
 さんにんはそれぞれ散る。ビンをあやつってる男をたおせばいいのは解かっていた。
「たいした魔法をつかえなくても、あたまを働かせれば、高度な魔法をしのぐことも…ある…」
ーーーどこにいる…音は…
ガシャッ、ガシャン
 ビンの割れる音がへやのなかを支配している。
ーーークソッ…
「キミたちはワタシには勝てない…もどるのが得策だ」
「ウルサイッ!」
グアッ
 ビンがふってくる。
「はっ!」
 シンヤはとんでかわす。
 ゆかに手をついてしまう。
ーーーつめてっ、ぬれちまった…まてよ?!
「ムダなことはしないほうがいい…キズつくのは自分だ…」
ガシャンガシャンガシャン…
ーーーいまにみてろよ。
ドサッ
 だれかがころんだ音が、たしかに聞こえた。
ーーーいまだっ!
「ムダだって? やってみなくちゃ解からないだろっ。雷よっ!」
ギガ、ギガオ!! ヴィシュァアッ
 シンヤはぬれたゆかにむかって雷撃をはなつ。
ヴァ、ヴァリッ!
「キャアッ」
 ヒロコの悲鳴が聞こえる。
「ありゃ…」
「確証のないことをやるとは、すくいがたいな…キミは」
ーーーウッ…なんかホントに、にげたくなってきたな…いやいや、キケンなときこそチャンスのはずだ。
「なんだかえらそうなこと言ってるけど、じゃあなんでアンタはアイツらの味方をするんだっ! 女の子を利用するようなヤツラにっ」
 ビンのおちる数がすくなくなる。
ーーーどうやら効果があるみたいだな。
「ここでたたかうより、オレ達に協力してほしいっ! アンタも戦争の続行は望んでないだろう?」
「そうだな…」
 おちそうなビンが、もとにもどっていく。静寂がへやのなかをおおう。
ーーーム?!
 シンヤは偶然男を見つける。気絶したヒロコをかかえている。
「あねきになにをするっ」
 シンヤは雷をうつために、ゆびの標準を男にあわせる。
「やめてっ」
 フィリシアがシンヤのうでをうえにむける。
「なにすんだフィリシアッ!」
「ヒロコさんも感電します。あの状態で二度もうけたら、どうなるか解かりませんっ」
 シンヤはうでをおろす。自分の短絡さを後悔した。
「おちこむことはない。キミは若いんだから…」
「ん…」
 ヒロコが気がつく。最初はおどろいていたが、男の手からおりて、自分で立つ。
「彼女はガラスの破片が危険だと思ったので、かかえていただけだ…」
「アナタのなまえは?」
 フィリシアが問う。
「レックス…ザークリー」
「金や権力目当てじゃないな?」
 シンヤも気ずいていた。彼の無欲の実力に。
「ワタシの頭脳が必要だと言われた。ことわったが、秘密部隊にはいらなければ父、母、妹の命はないと言われた。ふがいないことだが…な」
 フィリシアがくびをふる。
「王の恐怖はワタシも知っています。はじることはないでしょう。
 家族の命は保証します。さきにすすませてほしいのですが?」
 レックスが入り口のほうにあるいていく。
「ワタシは、オナカがへったのでかえります」
 レックスはそうしてさっていった。
「さて、いきましょう」フィリシアがあるきはじめる。
「やるな、フィリシア」
「ドンナモンダイッ!」
 フィリシアがガッツポーズをする。
「ぷっ、あねきだな、フィリシアにこんなこと教えたのは〜っ」
「アハハハッ」
ドゴンッ!
 突然、なにかがぶつかるおおきな音がする。
「なんの音だ?」
 シンヤ達は階段をのぼりきると、木のとびらのまえでとまる。
ギィイッ
 すこしとびらをあけてみる。
「なにが見えます?」
 フィリシアが聞く。
「まだ見えないな…もちょっとあける…とっ」
ギイッ、ドサドサドサッ
 さんにんがへやのなかに、なだれこむ。
「イテテテッ…」
 へやのなかには、全身鉄のよろいを着た兵士がひとりいる。鉄球のついた斧をもっている。
ジャラララララララッ…
 鉄球のクサリが、けたたましい音をはっする。
 よろいのおおきさからも、なかは筋肉ムキムキな人が着ているのが解かる。
「シンヤ…ワタシこういうのニガテ…」
「やつのどこがイヤなの? カッコイイじゃん」
ピキッ
「シンヤの美的感覚をうたがうわ」
「コレのどこがカッコワルイッていうんだよっ!」
「じゃあ、どこがカッコイイんです?!」
「あの〜…」
 よろいを着た男が、すまなそうに聞く。
「そろそろあいてをしてほしいんですけど…」
「だいたいシンヤは…」
「そういうフィリシアだって…」
 ふたりはまったくムシしてケンカしている。
「それじゃ攻撃しますよー…。いいですか? しますよ?」
 男は何度も聞くが、シンヤとフィリシアはまったくあいてにしない。
「こっちむいてくれないと、正々堂々な…たたかいにならないんですけど…あの〜」
ガミガミ
「あの〜っ!」
ガミガミ
「あの〜っ!!」
『ウルサイッ! 雷よっ!!』
 ふたりの声がハモッた。
ゴ…ギガ、ギガガオッ! ヴァシュァアアアアアアアアアッ!!
 巨大な雷撃が男をおそう。
「グアアッ」
ガ、ゴ…ン!
 よろいの男がたおれる。
「…鉄のよろいだから、電気をよくとおすこと……」
 ヒロコはひとりごちる。
 シンヤとフィリシアの討論が決着を見るのに、あと十分の時間が必要だった…
 階段をのぼったさきに、とびらがある。
ギィイイッ…
 とびらをあけて、ズカズカはいるシンヤ達。 なかは四角い石がならぶ、ごくごく中世風のふつうのへやだ。広さは二十畳ぐらいだろうか。
「いらっしゃーいっ」
 カワイイ声が聞こえる。見ると、出口のまえに、二十代前半ぐらいの女性がいる。
 こしまである黒髪を、なぜかおさげにしている。黄色のドレスを着ている。
「レストランかここわっ」
「キャハハハハ…」
 シンヤのつっこみにもわらってかわしている。
「ム…できるな」
「どこがよっ」
 ヒロコがシンヤにつっこむ。
「そじゃ、とおしてもらうな…雷よっ!」
ギガ、ギガオッ!! ヴィシャァアアアッ
「電滋壁っ!」
ヴァヴァヴァ…
 シンヤの雷撃をすべて防ぎきる。
「調子がわるいわけじゃないんだけどな…?」
「アタシはクリスッ! ヨロシクネッ」
 クリスは意味もなくおどっている。
「えーい、時間かせぎするなら、もうちょっとマシな人材えらべよなっ!」
 シンヤはクリスをムシして出口にむかう。
「いっちゃダメーッ火炎竜、演舞っ!」
ドギャォオオオッ!!
 炎の巨大な竜があらわれる。
「ゲッ、電滋壁!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
キシャァアアッ
 何度もへやのなかを舞い、やっときえる。
「ぶはぁっ、窒息するかと思った…」
「窒息したいの? それじゃこんどは…………水星球っ!」
「なんだ?」
 へやのなかが、海底にでなったように、水の映像につつまれる。
ーーー幻?
 瞬間、水が実態化する。
ザボオッ!!
ーーー?!
「ゴボオッ…」
 突然のことで、ヒロコは酸素をはきだしてしまう。天井まで水でいっぱいで、へやのなかに酸素は見あたらない。
ーーーなんとかしないと、あねきがおぼれ死ぬ…いやオレとフィリシアも死ぬっ!
 あたりを見まわすと、おくにクリスが水のなかをゆうゆうと泳いでいる。どうやらクリスは水のなかから自由に酸素を得られるらしい。スグとなりにフィリシアがうかんでいる。フィリシアは口をとじている。
ーーー口のなかにある酸素だけじゃ、魔法を唱えられないな…いや、唱えられてもどうなるか解からないが…やらないよりましかっ! シンヤはフィリシアのかたをつかみ、キスをする。
「モガッ…」
 フィリシアの酸素もかりて、キスをしたまま呪紋を唱える。
「い、か、ず、ち、よっ」
………
…ギガ……
………ギガオ!!
………………ヴァシュァアアアッ……ゴポッ……ゴポポポ……
ザバアッ!! ザザアッ……
 水がへやからでていく。水はよく電気をとおす。それにより、全員が、一時的に感電したのだ。
「ゲホッゴホッホ…オエッ……」
 それぞれ、が水をはきだす。どうやら、全員無事のようだ。とおくで、クリスがのびている。どうやら電気ショックには弱いらしい。
「みんな、ゴホッだいじょうぶだな?」
 フィリシアだけが、赤いかおをしている。
「どうしたフィリシア?」
「え、いえ…なんでも、ないから」
 フィリシアは心臓のどうきが聞こえてしまうのではないかと思った。それほど、心臓は早鐘をうっていた。 階段はきゅうなのぼりがつづき、はばもせばまってきた。それは、終着点がちかいことを物語っていた。
ギィイイ…ッ
 とびらをあけると、なかにはじゅうたんがしかれている。
「いよいよだな…」
「いそぎましょう」
 さんにんはおくにすすもうとする。
「まちなさい」
老人の声が聞こえる。まわりを見ると、みぎてのさきに、木の車イスにすわった老人がいた。
「なんだ、おだかさないでくれよ。ドロボウじゃないぜ。姫もいっしょにいるから、解かるだろ?」
「アナタは…」
 フィリシアがおどろきの声をだす。
「なんだ、知りあい?」
「ワタシに…魔法を教えてくれた人で、クロディークさん…」
「フ〜ン味方か。まあ、こんなジイさんじゃ、戦力にはならないよな」
 けっこう極悪非道なことを言うシンヤ。
「余生を田舎で暮らしていると聞きましたが、ここにいるということは…」
「そうだ」
 おもおもしくクロディークがこたえる。
「なんだっていうんだ?」
 シンヤがぶっきらぼうに聞く。
「ワタシ達をここからさきにいかさない、ということネ?」
 ヒロコがさっする。
「とうしていただくことは、できませんか?」
 フィリシアがゆっくりと聞く。
「ダメだ」
「…そうですか…」
 フィリシアはクロディークとむきあう。
「でしたら、たおしていきます」
 フィリシアにしては、戦闘に積極的なのはめずらしいことだ。
ーーー魔法を教えてくれた人というと、師匠か…
「時間抄(じかんしょう)っ」
 クロディークのほうが、さきに魔法を唱える。
「いか…」
ギュィイ…ム
「ずぅぅぅぅぅううう…ちぃぃぃ…」
 突然、フィリシアの行動がノロクなる。
キィコキィコ…
 よゆうで移動するクロディーク。
「ぉぉおおおおっ」
ギガッ! ヴァシィッ
 もちろん、移動しているクロディークにはあたらない。
「時間操作…か?」
 この老人は、個人の時間をあやつることができるのだろうか? 疑惑がそれぞれの心をよぎる。
「だが、複数なら、そんな高度な魔法を唱えることはできないだろう」
 さんにんはお互いを見て、タイミングをはかる。
『雷よっ!』
 さんにんの声がどうじにひびく。
ギガ…ギガガガガガガガガガガガッ!!
ドギュゥオッ! ヴァシイッ
 しかし、クロディークはそこにはいない。ゆうゆうとよこによけている。
「さんにんに、そんな高度な魔法をつかえるのか…?」
 だとしたら、とてもかなうあいてではない…そうシンヤは判断する。
 クロディークは余裕で車イスにすわっている。そうであるならば、ここからさきにいくどころか、つかまってしまうことになる。
ーーーここまでか…っ。? なんで呪紋も唱えないで、オレやあねきの時間を遅らせられたんだ? …そうかっ!
「あねき、フィリシア。順番にずれて魔法を唱えようっ」
「? どういうこと?」
 ヒロコがくびをかしげる。
「フム…気がついたか。いや、ワタシの負けだ。さきにいかれるがよい」
「え、なぜ?」
 フィリシアがとまどう。ムリもない。あいてをたおしたようにはとうてい見えないのだから。
「つまり、クロディークは時間操作をしてたんじゃない。オレ達の反射神経に干渉して、オレ達をニブい人間にしてただけなんだ。それでも、連続で魔法をかければ、クロディークにはよけられない。そういうことさ」
「そうだ。いい人物のようだな…フィリシア」
「…はいっ」
 フィリシアは満面の笑みをうかべる。
「そうか…この男を……な。まあいい。気をつけてな」
 フィリシアはおじぎして、さきにすすむ。 あとには、クロディークだけが残っていた。
「いこう。いよいよ本人達とのご体面だ…」
 シンヤ達は、力をこめて、あるきだす。


 「きのう出発してから、姫達から連絡はありません。おそらくはいまごろ……」
「墓のなかか」
 王が口をゆがめる。わらったのだ。
「おぬしの計画、なかなかのものだ。予言によれば、あいつらは私の命をうばうつもりだったのだからな。王子も前線にだしつづければ……これでワタシの地位も安泰だ」
「まったく…弱いということは罪…ですからな…」
「あの者たちはあまいのだよ。愛で民衆が支配できるか? 平和で国が統治できるか?…だれにでも解かることではないか」
「しかし…王も人がわるい」
「クックッ、かんちがいするな。これは神の予言どおりの行動なのだからな」
「そうでした。それで姫なきあとはワタクシを……」
「解かっておる。そのときはオマエがつぎの大臣だ」
 ふたりのわらい声がへやにひびく。
「…父上…」
 いつのまにかフィリシアがへやのなかにいる。
「ウソだと言ってください父上っ!」
 フィリシアが王につめよる。
「フィリシア…聞いていたのか…。ぬすみ聞きとはわるい子だ。こたえがほしいか? これがこたえだっ、氷呪殺(ひょうじゅさつ)!」
キンキンキン……キキュッ!
 三本の氷の矢がフィリシアに投射される。
「電磁壁!」
 ガシャシャッ!!
 シンヤの電磁壁に氷が四散する。シンヤもへやにはいってくる。
「往生際がわるいんじゃないか?」
「クックックッ、それで優位にたったつもりか? 王の命令しか聞かない魔陣衛隊(まじんえいたい)がいるのだよ。粛正(しゅくせい)しろっ、魔陣衛隊!」
ドシャドシャッ…
 よろいを着た兵士達がへやにたおれこんでくる。
「チョットよわすぎるんじゃないの? 十秒で勝負ついたわよ」
 手をたたきながらヒロコがへやにはいってくる。
「ワ、ワタシは王に命令されただけで、関係な…」
「雷よっ!」
ギガ、ギガオ! ヴィシイッ!! ドシャッ
 シンヤの魔法に将軍がソファーにふっとぶ。
「グレイダス王…引退をしてもらいます」
 フィリシアの声はどこかかなしそうだ。
「ふざけるなっ! 呪炎…」
「雷よっ!」
ギガオ! ヴィシッ!! …ドサッ……
 フィリシアの魔法が決まり、王がその場にたおれる。
「シンヤ…ワタシ……」
 フィリシアがシンヤにもたれかかる。
「終わったんだなにもかも…」
ヴァシッ!
「グアッ」
 シンヤは突然の感電にひざをつく。
「まだ敵がっ?!」
 ヒロコがあたりをみまわすが、敵らしき人影はみあたらない。
「終わったですって? いいえ…なにも終わってはいないのヨ」
「フィリ…シア?」
 フィリシアのみぎ手が放電のひかりをはっしている。
「どうしたっていうのっ!」
 ヒロコのさけびに、フィリシアは満面の笑みでこたえる。
「クスクス……どうもしないワ」
「じゃ…あ、なんで…こんなことをするんだ」
 シンヤがくるしげに立ちあがる。
「アタシの仕事は退屈でネ、だからアンタ達を召喚して、勇者ゴッコをたのしませてもらったってワケ」
 フィリシアはあっけらかんとしながら言う。
「そんな、まさか…」
 ヒロコがあとずさる。
「オマエは…」
「そう、アタシは全知全能エルファリオーネ。アンタ達を召喚した存在…」
ーーーだれかにあやつられてるのか?
 だが、あたりにそれらしき気配はない。
ザッ
 シンヤはなにもなかったかのように、軽快に立ちあがる。
「オイオイ、アンタがエルファリオーネだって? 証拠はどこにあるんだ」
 シンヤがおきらくに質問する。
「そうねぇ、アタシが…」
「雷よっ!」
 フィリシアがはなしはじめた瞬間、シンヤが絶妙のタイミングで呪紋をはっする。
ギガオ! ヴィシアアアッ!!
ーーー決まった!
シュアアアアッ
 卑劣なシンヤがはなった大量の雷撃がフィリシアをおそう。だが、雷撃は一瞬ですべてが消滅する。四散したのではない、消滅したのだ。
「クスッ、アンタいい性格してるわネ。でも、アタシのまえに魔法は無力。なんたってアタシが魔法の源なんだから……スゴイと思わない?」
「あのタイミングでだした魔法を消滅させるなんて…ホントかもしれないな、ウンウン」
ゴンッ
「イテッ」
「なっとくしてるばあいじゃないでしょっ!」
 ヒロコがシンヤのあたまにゲンコツをおとす。
「どうやら物質的な魔法攻撃を消滅させることができるようだけど、これはどうかしら?」
 ヒロコがかまえる。
「マインドウェーブッ!」
シーン…
 カッコよくポーズまで決めるが、なにもおきない。
「ほんとうに…フィリシアがエルファリオーネ?」
 ヒロコはシンヤのほうを見る。
「…そんなバカなことがあってたまるか。そうだろう、フィリシアッ!」
 シンヤのことばを無視して、フィリシアはゆっくりとマドのほうにあるいていく。
「アタシは退屈になるとこの世界を滅ぼしたくなるのよ。
 アンタ達はアタシをまんぞくさせてくれたワ。よろこんでシンヤ、アンタはこの世界をすくったのよ」
 そとのひかりにてらされたフィリシアは、まるでつばさのある天使のように見える。
ーーーどこかで見たような…
ーーー…シンヤ……ほろぼ…し……て………
 シンヤが海になげだされたときに見た、金髪の天使のすがたが思いだされる。
「オレ達を召喚したって、オマエが?」
「そうよ」
「オレを召喚したとき、滅ぼしてと言ってたな。あれはどういう意味だ?」
「ヘエ……でもネ、そのことはアンタ達とは関係ないことよ」
 さきほどの温和なフィリシアとは一転して、つめたくつきはなすように言う。
ヴヴ……
 フィリシアが空中に浮かびあがる。金色の長髪が風もないのにゆらめいている。
「そうそう、まんぞくさせてくれたお礼をしなクチャね」
ギュィイィイイイ……
 フィリシアのみぎうでに黒いエネルギー球がふくれあがる。
「お礼は天国へのキップよ。死ね」
「クッ、電磁へ…」
「よけてっ!」
 シンヤとヒロコは瞬間的に、よこにとびのく。
ギュアッドゴアアアッ!
 とびのいた場所のゆかが、あとかたもなく破壊されている。
「そうかっ、エルファリオーネが魔法の源ならば、防御魔法はつかえないんだ…って、いまさけんだのはだれだ?!」
 ヒロコの声でもフィリシアの声でもなかった。そう、しいていえば…
「ジャマをするなっ!」
 フィリシアがさけぶ。
「まあいい…さあ、さっきのつづき…お?」
 へやには、ふたりの影もかたちもなかった。


「ハッそれで、これからハッどうするの?」
 ヒロコがシンヤに聞く。
「そんなことハッいったって、魔法がハッ効かないんじゃ…」
 ふたりはろうかを全速力ではしりながらはなしている。
 魔法が効かなければ、ふたりには対抗する力がない、だから逃げる。なんとも合理的なことである。
「…アナタだけが…」
「え?」
 シンヤは立ち止まる。気ずくと、王の玉座がある広大な広間にまできていた。
「だれだキミは? どこにいる」
 あたりにはヒロコいがいに人影はない。
「アタシは…」
 どこからが声がひびく。どこから聞こえてくるのかは解からない。
「…プリシラ」
 たしかにそう聞こえた。
「プリシラ、アナタはなにものなの?」
「…フィリシア…はエルファリオーネにあやつられているだけ…」
 すがたなき少女の声は、ヒロコの質問には答えず、そう言った。
「…アタナは…じゅうぶんやってくださいました…もとの世界にかえるのなら…ば…かえれる力を…さしあげます…」
「ここまでかかわって、ハイそうですかとかえれるかっ! アンタはなにものだ? なぜ、そんなことを知ってるっ?!」
 答えはかえってはこない。
「どうしてかしらね」
 ふと、うえのほうからそう聞こえる。
「そう、どうし…へ?」
 うえを見ると、フィリシアがうかんでいる。
ジジッ…
 両手に黄金のひかりが集中している。
「バイバイ」
ドドギュウッ!
 ふたつのエネルギー球が、寸分のくるいなくふたりをおそう。
ーーーにげられないっ…
ヴァジュッ! ヴァヴァジュッ!!
 円形のバリヤーのまえにエネルギー球が四散する。
「アレ?」
 体を見るが、なんともない。
「ジャマをするなプリシラッ!」
 フィリシア、いやエルファリオーネがさけぶ。
「魔法はつかえ…ます。あとはアナタ達の………」
 そこで声は聞こえなくなる。
あとには、三人だけがその場に立っていた。

                       発動 へ  転化








 「ニィー…どこへ行っていたの、あなたがどんな大人になるか、それだけが心配ね」
ーーーそんなことない…カアさんがおもうような…そんなには……


『ゴールデンカイザー』
              たかさき はやと


発動


 シンヤの質問に、答えはかえってこない。
「どうしてかしらね」
 ふと、うえのほうからそう聞こえる。
「そう、どうし…て?」
 うえを見ると、天井ちかくにフィリシアがうかんでいる。
ジジッ…
 両手に黄金のひかりが集中しはじめる。
「バイバイ」
ドドギュウッ!
 ふたつのエネルギー球が、寸分のくるいなくふたりをおそう。
ーーーにげられないっ…
ヴァジュッ! ヴァヴァジュッ!!
 円形のバリヤーのまえに、エネルギー球が四散する。
「アレ?」
 体を見るが、なんともない。
「ジャマをするなプリシラッ!」
 フィリシア身体と声でエルファリオーネがさけぶ。
「魔法はつかえ…ます。あとはアナタ達の………」
 そこで声は聞こえなくなる。あとには、三人だけがその場に立っていた。


 「まだムリだろう、あれには」
「でも…それがニィーのためだから」
ーーーだれか…いる。
 ヒロコが見回すが、三人いがいには誰もいない。
「…? なんか言った、シンヤ」
「べつに…?」
「フンッ、オマエの役目は終わったのよ…シンヤッ!」
 それはそうと、ぬきあしさしあしで逃げようとしていたシンヤの足がとまる。
「まさかにげないわよネえ?」
 エルファリオーネの指摘になぜか驚いているシンヤ。
「あ、あたりまえだろう…魔法もつかえるし、フィリシアをかえしてもらうぞっ!」
「腰がひけてるわよ、シンヤ」
 ヒロコの指摘に姿勢をなおす。
「雷よっ!」
ジ…ギガオ!!
 雷撃はフィリシアの前で四散する。エルファリオーネがなにかした様子すらない。
「こっちに調子あわせて……マイツェーブッ」
「雷よっ!!」
 まばたきの間にフィリシアはそこにはいなかった。
「ノロい…アタシの反射速度を凌駕するには、シンヤ…後、アンタが千人はほしいところね」
「…どうする、シンヤ」
 どうやらヒロコに策はないようだ。
「どんなことをしてもどんな状態だろうと、逃げるわけにはいかない…と言いつつにげるっ、亀裂波っ!」
ビキビキ…ドゴアッ! ゴバッ
 ふるい石畳のせいか、多量のけむりがあたりをおおう。
タッタッタッ
「…しんじられない。まちなさいシンヤッ!」
 エルファリオーネの声がとおのいていく。 つちけむりがきえたあと、シンヤとヒロコがあらわれる。
「いきなり魔法をつかって、かたをつかむからなにかと思えば…」
「どうやらエルファリオーネはなんでも見えるワケじゃないみたいだな」
「そうでもない…」
「なにっ!?」
 あたりに人影はない。
「なんだあねきか…あ!?」
 片手でかるがるとシンヤを持ち上げるヒロコ。
「自己紹介しょう…ヘクステリーベだ」
「めーっけ」
 横にフィリシア…エルファリオーネが立っていた。
「いじめちゃえ〜っ、呪炎殺(じゅえんさつ)っ」
「ダルツェンナ!」
ダギュゥ…ギャゥ…ッ!
 シンヤを中心に、断空の二本の線と、炎が舞った。


 少女が泣いている。白いリボンを左耳の上につけ、白いワンピースを着ている。フリルが不必要なまでに多彩さを演出していた。
「どうしたの?」
 ヒロコは肩まである(ストレートがかった)金髪のこの少女にやさしく聞いた。
「おねえちゃんが…おねえちゃんが…」
「うん…どうしたの」
「あそこで…」
 そちらを見ると、それまではなかった壮麗、巨大な黄金の神殿があらわれる。
「……行きましょう…!」
 ヒロコは少女を抱き上げ、ゆっくりと歩きはじめた。三歩で神殿にたどりつく。神殿は近づいてきた。ヒロコは円形の神殿の湾曲の石段をのぼる。少女は駆け足で先にのぼっていった。
「はやく、はやく…!」
 階段の上には、広場があり、その中心に陽の光りをあびた大樹が一本生えていた。 空の光りが増した。いや、それは炎のライオンだった。
ギャォオ!
「あぶないっ!」
「ひ(よ)うさ…ッ!」
ギ(イ)ン!
 そこに、少女によるライオンの氷の彫像が生まれた。
「よかったな…」「よかったわね…」「よかった…」
 大勢の人々がよろこんだ、人々は樹になりかかっている女性をたたえ、祝った。
「あれが…あなたのおねえさま…?」
「はい…!」
 ヒロコの質問に、おさない少女…フィリシアが答えた。
 人々のよろこびに大樹がゆれた。
「アタシ……エルファリオーネになれて、よかった」


ーーーオレは…どうしたんだろう……
……シンヤはどうしたんだろう…
…ヒロコのおとうとはどうしたんだろう…
……フィリシアの友達はどうしたんだろう……
ーーー…シ…ンヤ………シンヤ……
 眼をとじているはずなのに、少女が見える。つばさをもった足のつま先まである黄金の長髪をたなびかせる少女が。「ん? ああ…合格…か」 木製のとびらがひらき、白い布を何枚もかさねたドレスを着た少女が入ってくる。腰まである金髪、すんだ青い瞳。かなりの美形だ。
ーーー?!
 さっき見た天使そっくりの少女だった。もちろん、つばさはないが……「アンタが相手をしてくれるのか」シンヤは足先に力を入れ、ふりあげた両手のこぶしを軽くにぎる。「クレセーはヘクステリーベ様をあらわす花でな…」老婆はたんたんと話し続ける。
「姉上!」「さようなら」「あれは?」「あれがイルマーシャ人です」「雷ということばを神に祈りながらさけぶのです」「祈りながら…?」フィリシアはシンヤの安全をたしかめると、ヒロコに対峙する。「よくも……」「チョットまって。もうたたかいは終わった…」「腐朽波(ふきゅうば)っ!」「あの者たちはあまいのだよ。愛で民衆が支配できるか? 平和で国が統治できるか?…だれにでも解かることではないか」「しかし…王も人がわるい」「クックッ、かんちがいするな。これは神の予言どおりの行動なのだからな」「アナタはっ…」フィリシアがまえにでる。「ダレでしたっけ」
ズテッ
「シンヤに毒されてる。絶対シンヤに毒されてるっ」ヒロコがフィリシアにつっこむ。
「そ、そうですか?」おどけるフィリシア。ガプトは着地すると同時にシンヤの死角に斧をうちこんだが、まさにその時、シンヤにすべる床の上にけられたことに、しりもちをつきながら気づいた。
ーーーいただきっ!
「雷よっ!」
 ……なにもおきない。
「雷よっ!」
 やはり、雷撃は生まれない。
「ここまでだ…」
 シンヤの横で、シンヤの姉がそうつげた。「ああ、そうそう護衛に変身できる彼…デデについて来てもらってたんだ」 ふたたび走りながらシンヤは通路にひびくヒロコの声を聞いた。「お、ハッ…オレもひきあげてくれっ!」 さっさと腕輪になるデデ。
ーーーいつか、ぶちたおすっ!


 …それがたとえ、創造者の創造を破壊するべきものだとしてもーーーー…きっと……………サ・ヨ・ナ・ラ……………


 ーーー………?  「なにやってんだ…」
 シンヤはおきあがる。手や見える範囲の身体(からだ)を確かめるが、ケガひとつしていないようだ。
「とっさに手を…」
 そこにフィリシアがいた。
「アタシがつきとばして、助けてあげたんだから、感謝しなさい」
 ヒロコがそう言った。
「感謝」
「よろしい」
「ふ…うふふ…。やるじゃないシンヤ」
 聞いたことのない女の声があたり一面に響く。
「この声は…」
 ヒロコの疑問にフィリシアがうなずいた時、炎がヒロコを包んだ。炎の後から黒い螺旋状のゴムの柱があらわれる。それは花のつぼみのように、ゆっくりとそれでいてつぼみにしては早く開いていく。
「ありがとうデデ」
 デデは柱から腕輪にはならず、人の形になった…そこに、もう一人のシンヤが姿をあらわした。
「…エルファリオーネが…シンヤ…を恐れてるというの…?」
ィイ(イ)……
 まだ、不穏な気配がただよっていた…。

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 それがまだ開かれるまえ。それがまだ創られるまえ。それがまだ感じられるまえ。
「風は我々をささえるのはいやだとさ」
 皆(みな)、いまなお風のほこらに、そよ風ひとつ感じられなかった。
「無数のツバサが舞えし時」
「そんなのなきがごとし」
「たぶんね」
「繊竜(せんりゅう)には…解かってたのかもしれない……」
「夢は魔法を極めること」「キミだったら…、できるさ」
ーーーそれが…気休めでもよかった……うれしかった…から。
「まだだ」
「まだだよ」
「まだね」
 摩擦なき砂の海…深流砂(シンリュウサ)…そこには終わりのはじまりがあるという。
「そこが、ワタシにとって、魔法の終わりだから…」
 岩を食らい砂を飲む螺旋竜(らせんりゅう)の跡穴はどこまでもどこまでも続いているようにニィー達には思えた。
「笹のはぁ〜さぁさあのはぁ〜」
「ダメじゃない」
「誤解だって」
「そうかもな…戦争なんて最初はそんなもんさ」
 ジェッサージェス・ランドセッツナには、それがなにか直感した。あるいは、経験によるものだったかもしれない。
「ふせろっ!」
「もう二度とないかもしれないのに…」
「そむかるざる者達よ、おまえには確かにおまえ達にこそに、ゆえにその資格があるようだ、きっとな」
「さむがるべき時じゃない」
「鼻水こおってますぞ」
「さてね、夢舞い踊るなら手をさしのべるがいい」




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