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はじめに

わたしの作品ではいまのところ最長の作品です。最初は短いギャグの短編でしたが、投稿用に枚数をふやしてあーでもないこーでもないと、ひとつの作品としてはもっとも時間をそそいでいるもののひとつです。わたしがおもしろいとおもう小説スレイヤーズ、5分間の冒険(3分間の冒険だったかな…)、イワンのばか、この三作品でとくに高校生の頃影響を受けたスレイヤーズの影響が色こくのこっています(なにせ高校時代の最初につけたタイトルがカイザースレイヤーでした…)。いろいろな思い出がある作品でもあります。妄想の大半はつまってます。想像はどこだ。そんな作品です。いま、これいじょうの長編は書けません。将来は未定(みてい)ですが。


『ゴールデンカイザー』
                たかさきはやと


 「クスクスクス…」
ーーーアタシがわらう。
「だから殺すの?」
ーーーアタシが問う。
「人間のためだから」
ーーーアタシがこたえる。
「そうよ、だから」
「人類を」
「滅ぼすまで…」
ーーーアタシの結論が、アタシ達をたすけ、滅ぼすまでに、きっとアナタは見るだろう。知るだろう。
 それがたとえ、創造者の創造を破壊するべきものだとしてもーーーー…きっと……………サ・ヨ・ナ・ラ……………


 「やった! やったやったやった!」
 黒い学生服を着た青年が飛びはねる。
ザワザワ…
 まわりには若者から大人まで、幅広い年齢層の人達が木のボードにはりだされた無数の番号に見いっている。
 私服を着た青年の眼が、手もとの紙の上に書かれた番号にそそがれる。番号のとなりには、神崎慎哉という名前が印刷されている。
「やったなシンヤ」
 シンヤの肩を、皮のジャンバーを着た青年がたたく。
「ん? ああ…合格…か」
 だが、シンヤの顔はあまりうれしそうではない。天下のT(ティー)大である。だれもがよろこぶ、それが自然な姿ではないだろうか?
「受かったってのに、ナニ暗いカオしてんだよ。オレなんて一浪決定だゼ。まいったなー…」
 シンヤは、さっさと人ごみをおしやり、大学の外へとでていく。
「オイッ、もうかえんのかよっ!?」
「ワルイ…またなタカシ」
ドルッドルルル……
 シンヤは黒い流線形をしたバイクに乗ると、いきおいよく走りだす。
「またなっ!」
 タカシは走りさるシンヤを見ながら、シンヤの落ちこみかたの異常さを心配していた。 受験一筋だった人間が、受かったとたんに生きる目標をなくして自殺する。そんな事件が、ニュースで報道されたばかりだった。
「アイツにかぎって…まさか…な」
 おもわず、でかかった独り言を、タカシは心のなかにおしこめるのだった。
ヴァアアッ!
 シンヤは快調にバイクを走らす。シンヤは黒いメットに黒い服装だが、カッコよさをとおりこして不気味でさえある。
 二十分も走ると、海岸ぞいの道路にでる。
 左側は太平洋がどこまでもつづいている。
 シンヤはいまどこを走っているのか解からなかったが、そんなことはどうでもよかった。
ヴァアアアッ!
 シンヤはスロットルを全快にする。風圧が一気に強まる。まるで風を支配しているような壮快感が心をつつむ。
 受験勉強いがいでやらせてもらえたのは、名門高校へ遠距離通学するためのバイクだけだった。
 バイクに乗ってるこの瞬間だけが、唯一心がなごむときだった。
 十メートル先にT字の交差点がある。信号は赤だが、どこにも車の影は見えない。
ヴァッヴァアア!
 シンヤはさらにスピードをあげる。
キキキキッ…ドガッ!
 瞬間、交差点の右側から大型トラックがこちらにまがってきた。シンヤは瞬間的によけるが、バイクはガードレールに激突した。
ブア…アアァ……
 その衝撃で、ガケの下に吹っ飛ぶバイクとシンヤ。
 はるか、遠くの海が近ずいてくる。
ーーーまぁ、いいか…これでオレは……に…なれるんだから………
 シンヤは静かに瞳をとじる。
ーーー…シ…ンヤ………シンヤ……
 眼をとじているはずなのに、少女が見える。つばさをもった金髪の天使が。
…ィイイイ…………
 くらやみが視界を包み、意識が薄れていく。


ーーー…オレは死んだのか? そうだ、オレは死んだ。もう、なにも苦しまなくていいんだ……
 視界がすべて白におおわれる。それが白い天井で、めざめていることに気ずくのに、しばらくの時間が必要だった。
「ツッ!」
 シンヤはベッドからおきあがる。後頭部と全身がズキズキする。
 周囲を見まわすと、白い壁にかこまれたせまい部屋のなかにいることが解かる。
 シンヤは木製のベッドにねていた。右手にまど、左手には木製のとびらがある。天井もゆかも、木でできている。
ーーーオレはたすかったのか…それにしても、都会の病院にしては変に田舎っぽい作りだな…
 ふと、まどの外に眼をやる。どうやら階が高いらしく、空しか見えない。
「な…んだこれは…?」
 下を見ると、石作りの家並がえんえんと巨大なカベまで続いている。下方は、石の壁だ。どうみても中世の城から見た下界、といったところだ。
ガチャッ…
 木製のとびらがひらき、白い布を何枚もかさねたドレスを着た少女が入ってくる。腰まである金髪、すんだ青い瞳。かなりの美形だ。
ーーー?!
 さっき見た天使そっくりの少女だった。もちろん、つばさはないが……
「こんにちは…じゃない、オレはどうなったんだ?」
「だいじょうぶですか?」
 シンヤはこんな状態でありながら、端正な顔つきのわりには、カワイイ声だと思った。 おなじ年だろうか。シンヤの行動とは裏腹に、心底おちついている。
「これはどこ? いや、ここは天国かい?」
 なるべく明快な質問をしたつもりだったが、わけの解からないものになってしまった。
 少女はシンヤの言葉にやさしく微笑した。そのカワイらしさに思わずシンヤは少女の顔にふれてしまう。少女のほほはやわらかく、弾力があった。
 少女はシンヤの手をにぎる。その手は思ったいじょうにあたたかかった。
「いいえ、ここはアナタからみれば異世界、アーネス…中心星グリシャムよりみなみの国、フィリアシャリル国です。
 そしてワタシは、この国の王のむすめ…フィリシア…」
 フィリシアと名のった少女は、シンヤの手を離すと、静かにこたえる。
「オレはなぜここに?」
 シンヤはベッドからおりる。
「エルファリオーネ様が、おたすけくださいました」
 シンヤは、一瞬たすけてもらったことをうらんだが、それはフィリシアには関係ないことだと考えなおす。
「なぜオレをつれてきた?」
 冷静に状況を考えて、それはいま一番知りたい情報であった。
「予言によって、いらっしゃるのは解かっていました。
 まっていました、この国をすくう救世主様…」
「…オレが救世主?」
 フィリシアは変な顔をする。あたりまえではないか、といった顔だ。
ーーーオレにはたいした能力も、知識もない…異世界人の救世主だって祭りあげ、利用するつもりか? それとも、オレの知ってる技術で武器をつくるとか…?
 シンヤは自分がおかれている状況を冷静に把握し、分析しょうと考えた。だが、まったくの情報不足で、こたえはみつからなかった。
ーーーでも、ま、どうでもいいか…
「それで、オレになにをさせたいんだ?」
 シンヤはなげやりに聞いた。生死をさゆうするような事態のはずだが、無気力に心を支配されているシンヤには、どうでもいいことであった。
「それは父…王にあって聞いてください」
ガチャッ…
 とびらがあき、みじかい黒かみの少女がフィリシアの後ろからでてくる。たたまれた洋服をもっている。
「救世主様、これにお着がえください」
 フィリシアがそういうと、侍女らしい少女が服をさしだす。
「それよりそのコトバづかいやめてくれよ。おなじくらいの年なんだし、敬語はいらないだろ」
 シンヤの提案に、さがろうとしていた侍女が顔を上げた。
「そなた、このフィリアシャリル国の第一継承権をもつフィリシア姫にたいして無礼であろう!」
 短い黒髪の少女にいきまかれて、シンヤが呆然とする。
「いいから…」
 フィリシアが少女を制す。
「しかし、フィリシア様はこんなことよりも、例の件が…!」
「そのような心配は必要ありません。王は慈悲深いお方です。いいから、おさがりなさい」
 フィリシアの静かな言葉に、少女はへやからシブシブとでていく。
ーーーなんだ? なにか問題があるのか?
「言葉のことは、救世主様がそう言われるのでしたら、善処します」
 フィリシアはおじぎをすると、服をおいてへやからでていく。
ーーーよく考えてみれば、どんな実力をもっているのか解からない男を救世主としてあつかうのは、意見がわかれることなのかもな……
 シンヤはフィリシアからうけとった服に着がえる。茶色の布をまいてはしでとめるものだ。シャレた首飾りも手わたたされる。ちょっときつい気がしたが、それでも全体的にバランスのとれたファッションは、なかなかのセンスだ。
 シンヤは服を着がえ終えると、へやからでる。ろうかではフィリシアがまっていた。
「さっきはわるいこと言ったかな…?」
 フィリシアはくびをふる。
「いいえ、シンヤ…様。そう呼んでかまいませんか?」
 フィリシアの言葉にシンヤがうなずく。
「あれでいいのです。彼女にはあとでよく理解をもとめますから…」
 いがいな対応だった。一国の姫でつぎの王となる人物にしては、ずいぶん温和な人のように感じられた。
ーーー親の育てかたが良かったのかな?
 フィリシアはシンヤにおじぎする。
「それでは、謁見の間へ案内します」
「オーケィ」
 シンヤの返事に、フィリシアが変な顔をする。どうやら英語に反応したようだ。
「そういえば、なぜ日本語が話せるんだ?」
 シンヤの質問に、フィリシアがまたもくびをかしげる。
「よく意味が解かりませんが、それは魔法のおかげかもしれません」
 フィリシアの説明によると、魔法を習得した者は、無意識のうちに魔法を使うことができ、魔法は術者をたすけてくれるのだそうだ。   なるほどーっ。そうだよ、ここはファンタジックな世界なんだ、そうなんだよな。 シンヤは水をえた魚のように生き生きとしてくる。そんなシンヤを、フィリシアは不思議そうに見ている。むりもない、さきほどまでのシンヤは、いまにも死にそうな顔をしていたのだ。
「それでは、こちらについてきてください」
 シンヤはフィリシアのあとについて歩きだす。
 石造りのろうかをなんどかまがると、かなりひろい広間にでる。
ーーーこれは……
 ゆかには巨大な魔法陣が描かれている。
 中心では黒いフードを着た数人の男達が、なにやらあやしいことばをつぶやいている。
ヴァシッ! ヴァヴァヴァシィッ!!
 突然魔法陣の中心が光り、人間があらわれる。それも現代の服を着ている。
「なんだあれは…」
 シンヤのおどろきとは裏腹に、フィリシアはおちついて説明する。
「この魔法陣で、シンヤ様をこちらの世界につれてきたのです」
「はぁ〜っ、やっぱ本場のファンタジー世界はやることがでかいねぇーっ」
 シンヤの言葉に、フィリシアがまたもキョトンとしている。
「あの魔法陣の仕組みはどうなってるんだ?」 シンヤがウキウキと聞く。
「ワタシもよくは知らないのですが、死んだ人間をつれてくるのだそうです」
「ハ?」
 フィリシアの説明に、こんどはシンヤがキョトンとする。
「つまり、そちらで行方不明になった人をあの魔法陣でひきいれているそうです」
 フィリシアがさらに解かりやすく説明する。
「なるほど、行方不明者はこの世界に召喚されるってわけか……あの人はきっとすごい魔法使いなんだろうね」
 魔法陣の中心にいる人物をゆびさす。
「いえ、あの人達は祈りで魔法力を安定させているだけで、あの魔法陣が作られたのは何百年もむかしのことです。
 偉大な賢者様達が作ったそうです」
「ふ〜ん…でもなんであんなの作ったのかね」
 シンヤがくびをかしげる。
「さあ、それをつたえる書物はなにものこっていませんが、いいつたえによると世界を破滅からすくうため、というのがあります」
「破滅?」
 フィリシアがうなずく。
「はい、それもいいつたえですから、ほんとうなのかどうかは解かりませんが…」
 ふたりははしにある下の階段にむかう。よこでは、召喚された女性が侍女達につれていかれる。
「でも、あの人はふつうのあつかいで、なんでオレだけ救世主なんだ?」
 ごく自然な疑問がうかぶ。
「それは、予言が指定した日にシンヤ様が召喚されたことと、平均して一日二十四人は召喚されるのに、きのう魔法陣からでてきたのはシンヤ様だけだったからです」
 納得するシンヤ。二人はふたたびあるきだす。
 らせん階段をずいぶんおりると、またも大きな広間にでる。ゆかには赤いじゅうたんが奥までしかれていて、仰々しく装飾された柱が何本もある。まさに王のいる場所、という感じだ。
 左手の奥に段差のついた玉座があり、王様らしい中年の男がでかいイスに座っている。まわりには家臣らしい男達もいる。
 ふたりは王まで5(ご)メートルくらいのところまで近ずく。
「おつれしました」
 フィリシアがそこでひざをつき、報告する。
「オマエが救世主か……」
 白いふちの赤いマントで身をかためた王がゆっくりと話す。かなり太っていて、二段アゴに白いヒゲ、頭は少しハゲあがっている。
  ーーーこれはまた典型的な…いや、フィリシアを育てた人だ。それに外見で判断しちゃいけないよな。
「それで、オレになにをさせたいんだ?」
 シンヤが問う。
「立ったままとは無礼な!」
 王のわきにいる、よろいを着た兵士らしき男がさけぶ。
「いい…」
 王のひとことに、兵士が背筋をのばす。
ーーーなんだ? オレを救世主だと思ってるんじゃないのか? …なんかさっきから、うとまれてるみたいだな……
「勇者蘇るとき魔王も蘇り、ふたたび決戦がはじまらん…」
「解かりやすく言うと?」
 シンヤの言葉に王がせきばらいをひとつする。
「神の予言によれば、オマエは一対一でたたかわなければならない。そして絶対にこのたたかいに負けてはならない。予言には勝ったほうがこの世界の未来を決められるとある……予言の日に召喚された救世主よ、勝っても負けてもオマエのたたかいで、この戦争の勝負が決まるのだ。
 きたいしておるぞ……」
 王が一言一句ゆっくりと話す。
「たいへんなこって」
 シンヤが人ごとのように言う。
「こんな子供になにができる」
 勲章をたくさん服につけた、偉そうな軍人が皮肉を言う。チョビヒゲが印象的だ。
ーーーなるほどな……連中は戦争の決着を自分達がつけるんじゃなく、こんなどこの馬の骨か解からない、子供に決着をつけられるのがくやしいんだ……
「それで、予言の信頼度は?」
 シンヤはフィリシアに問う。
「魔法に失敗がないように、調停神エルファリオーネ様の予言もはずれたことはありませんし、絶対です」  フィリシアはきっぱりと言いきる。
「なら、いいか…」
ーーーオレが勝っても負けても、戦争が終わるってんだからな……どうせ、オレみたいなヤツが生きてたって、なんの役にもたたないしな……
「やってやるさ!」
 シンヤの声に、安堵の声とも苦しみの声ともつかない溜め息が広間をみたす。
 シンヤは、自分の命でたすかる人達がいるのならば、この命を捨ててもいいと考えていた。
「ところでフィリシアよ、先日の隠密行動失敗の件、その責任をどうとるかは解かっておるな……?」
 王が威圧的にフィリシアに語る。
「は…はい……」
 フィリシアがさらに頭を下げる。
「エルファリオーネ様の掟は知っておろう」
ーーー掟ねえ…なんかふるくさいな。失敗をしたってことは、まさか牢にいれられちゃうんじゃないだろうな…でもこの国の第一継承権をもってるんだからな。んなわけないか。
「その失態、神のもとでつぐなうのがよいだろう」
「…解かりました」
 フィリシアは簡単に了解する。
「神のもとで?」
 シンヤはぶっきらぼうにフィリシアに聞く。
「つまり、死でつぐなうということです」
「死んで?! なんだそりゃ……なんでそこまでしなきゃならないんだ。いや、第一継承権をもってるなら、逃げ道くらいいくらでもあるんだろう?」
 最後のほうは小声で聞く。
 それにたいして、フィリシアはゆっくりとくびをふる。
「神の掟には絶対服従するのがならわし…」
 掟よりも、フィリシアの返事のほうがシンヤにはショックだった。それがフィリシア自身望んでいるのならばどうしょうもない。
 だが、シンヤはフィリシアの細い腕がふるえているのを見た。
「恥じさらしが……」
 よこにいる軍人や兵士達までが、フィリシアのことを侮辱する。この国では第一継承権をもっている、いないは関係ないのだろうか?「キサマのような無能者には、それがのぞましい…」
 シンヤにとって王の言葉はどこかで聞いたことがあるような気がした。それもつい最近…
ーーーおまえみたいな奴は……っ!!
「つれていけ!」
 兵士がフィリシアの両腕をつかむ。
「まった!」
 シンヤが兵士達に制止をかける。
「なんだ?」
 王は立ちあがってさろうとしているところだった。かなり不機嫌そうだ。
「道案内が必要だ」
 シンヤが頭をかきながら話す。
「ああ、それならば部下の兵士を…」
 よこの将軍が提言するよりはやく、シンヤはフィリシアの腕をつかむ。
「彼女でなければダメだ」
 きっぱりと言いきる。
「エルファリオーネ様の掟はかえられん」
王はあたりまえのようにその言葉をのべる。
「オレはここにくるとき、エルファリオーネ様の予言を受けた」
 シンヤの言葉に兵士達がざわめく。
「彼女、フィリシアをつれていけと」
 シンヤは、ごく自然に話す。まるで、友達と話しているように。
「な…に…」
 なぜか王の表情が変わる。
「べつにそうしないで負けたって、オレはかまわないぜ。ただ、オレの責任じゃないがな」
 シンヤが冷たく言いはなつ。
「姫が……それならばしかたない。オイッ」
 将軍が兵士にさがるよう指示する。
「予言は、貴様一人でと告げている」
 王はなおも食いさがる。
「一人でたたかえと言っているだけで、道案内の制限はない」
ガッ!
 王は荒々しくイスをけりつける。
「あとのことはまかせたぞ、フィリシア!」
 そう言うとさっさと行ってしまう。それにつづくように兵士達もさっていく。
ーーー金魚のフンだな、まったく。
「あの…」
 フィリシアが立ちあがり、シンヤにむきあう。
「よけいなことだったかな?」
「ありがとうございます」
 フィリシアが頭を下げる。
「父…いえ、王にはだれもさからった人がいないので、死もしかたないと思ってました。シンヤ様は強いんですね」
「オレ? いや、オレはただ他人のことを無能よばわりして責任をなすりつける奴がゆるせなかっただけさ……オレもそういう奴にくるしめられたことがあるからさ…」
 最後のことばを、フィリシアはよく聞きとれなかった。
「最初はシンヤ様がほんとうに救世主なのか半信半疑でしたが、いまは信じられる気がします」
 意味もなくポーズをとるシンヤ。
「でも、確信はありませんが」
ドテッ
 フィリシアの言葉にズッコケる。
「あのなぁ〜っ」
「クスクスッ、すいません」
ーーー! この笑顔だ…
 それはさきほどのフィリシアの笑顔だった。
ーーーオレはこの笑顔をまもれたんだな………魔王をたおし、この国をすくって勇者になれば、フィリシアをすくうことに王も反論できないはずだ。だけどオレなんかにできるのか?
 疑問が脳裏をかすめる。
ーーーいや、救世主として行動していれば、つねに可能性はあるはずだ。きっと………
 不安をかかえながらも、シンヤはフィリシアとともにあるきだす。
 生きる目的が自分のなかに芽生えはじめていることに、シンヤはまだ、気ずかずにいた。


「どうかしましたか?」
「いや、ヨロイがいまイチあわなくて…」
 シンヤはあれから食事をして、フィリシアにヨロイをえらんでもらったのだが、そのフィット感が良くなかった。
「だいじょうぶ、すぐにヨロイのほうが体にあわせてくれます」
「べんりなもんだ」
 よろいはさきほどの服のうえからつけているが、やけに軽い。一番おおきい胸あてもかなり肉がうすい。
ガーギィーという亀のような生物の甲良を加工したものだそうだが、シンヤはよく思ってない。
 もっとおもい物でもいいと言ったが、これがうごきもはやく、初心者には最高なのだそうだ。甲良の表面はつるつるしていて、中心にあたらないかぎり、剣をうけながしてしまうらしい。
 剣ももたせてもらったが、細いレイピアだ。理由はまえとおなじである。
「さあ、いきましょう」
 黒い上着とスカート、黒いマントに身をかためたフィリシアがうながす。
「解かった」
 フィリシアは石作りの階段を、なぜかうえにむかってあるいていく。
 どれだけのぼっただろうか、鉄のとびらが階段のはてにあった。
ガ、ゴオ…ン
 フィリシアがとびらをひらく。
ビュウッ!
 ふきとばされるかと思われるほどの風がふたりをおおう。
 まぶしいひかりにやっとなれ、シンヤは眼をひらく。
ギャ…ギャ…
 そこには二匹の竜がいた。体長2メートルぐらい。人よりちょっとおおきいくらいだろうか?
 首の長い竜だ。
「この飛竜でいきます」
 フィリシアが説明する。よく見ると、飛竜のそばにだれか立っているのが解かる。白いよろいをつけた金髪の青年だ。


『ゴールデン カイザー』

たかさき はやと



邂逅


「ほんとうにいくのですか?」
 青年はフィリシアにはなしかける。
「いきます。ワタシも魔法使いのはしくれ、シンヤ様の役にたてると思います」
 フィリシアは青年のほうはむかず、体長八メートルはある赤色の飛竜のウロコに、鞍をとりつける。
「父上は我が軍が優勢になってからかわってしまった。王位継承権一位の姉上に危険な隠密行動をさせたり、ワタシを前線にだしたり……どうなってしまっているんだ!」
 どうやら王の行動はこの世界でも尋常なものではないらしい。
「王の行動にもんくを言ってはいけません。それがこの国の掟」
「しかしっ」
 フィリシアは鞍を飛竜にのせ終えると、さっさと飛竜にのってしまう。
 シンヤもバイクにのるように飛竜の首にかけられた鞍にのる。飛竜は首を上げると、視界がひらけ、街並みと、視界の果てにうっすらと、海が見える。
「シンヤ様はなにもしなくても、飛竜が目的地につれていってくれます」
「姉上!」
「さようなら」
ヴァサッ!
 フィリシアの飛竜が大空にとびたつ。
ヴァヴァサッ
「ぉおっ…と」
 シンヤの飛竜もとびたつ。
ゴォオオオォオオオオ…………
 あまりの風になみだがでてくる。
ヴァサッ…
 風にのったのか、飛行が安定する。ゆれたのは最初だけで、思ったよりも振動はない。「だいじょうぶですか?」
 風のわりにはフィリシアの声がしっかりと聞き取れる。シンヤの飛竜のよこで、軽々と自分の飛竜をあやつっている。
「だいじょうぶだけど、弟のことはいいのかい?」
 心配そうにシンヤが聞く。
「ええ、彼は立派な騎士です。ひとりでもきっと…」
 そう言うとフィリシアはまえをむく。
ーーー信頼しているということなのか?
 シンヤにも姉がいるが、そこまで信頼されているか、信頼しているかというと疑問がのこる。
ゴオッ…
 数度のはばたきで、陸地が途切れる。前方の大地はなくなり、青い海がどこまでもひろがりはじめる。
「この海のさきにある島が、私達と対立しているイルマーシャ国です」
ヴァヴァサッ
 シンヤは手綱をひいた。思ったとおり、速度がおちる。
「どうしたのですか?」
 フィリシアも飛竜の速度をおとす。
「魔法で、オレにもつかえそうなのはないかな?」
 フィリシアはそのことばだけで理解した。武器が細剣だけで心もとないことを。
「魔法はつかえる素質のある人ならば、すぐにでもつかうことができます。攻撃魔法ですと、雷撃をうちだす[雷]などどうですか? 人をしびれさせるだけで、殺さずにすみます」
「いいね、そのイカズチってどうやってつかうのかな?」
 シンヤの質問にうなずきながらフィリシアがこたえる。
「雷ということばを神に祈りながらさけぶのです」
「祈りながら…?」
「そうです。その願いがかなえられたとき、魔法は発動します」
ーーー神に祈って魔法をつかう? へんな世界だな……
「それで…」
ギャギャ…ヴィシッ
「ウオワッ!」
 シンヤは一瞬、つよい衝撃をうけて気をうしないかけた。それが雷撃による攻撃だと気ずくまで、しばらくかかった。
イィィ…
 シンヤの飛竜は失速し、したにおちていく。海面が一気にちかずいてくる。
「おきろっ!」
ドカッ!
 シンヤは飛竜の背中を力いっぱいたたく。
クエーーーッ
ヴァサッヴァサッ…
 間一髪、激突をまぬがれ上昇をはじめる。 フィリシアの高さにやっとのことでもどる。
「巡回兵に見つかったようです」
 フィリシアの視線のさきに、おなじ飛竜が六匹見える。黒い服を着た兵士が、それぞれのっている。陽に焼けているのか、顔や腕が浅黒い。
「電滋壁(でんじへき)!」
ヴィシッ!! ヴァヴァッ…
 フィリシアのことばによってそれ以降、敵が放つ雷撃がすべて四散する。
「雷よ!」
ギャ…ヴィシッ!
 フィリシアのことばのあと、ひかりが視界をいろどり、つぎの瞬間敵が一騎、おちていく。
ザッバ…ン
 海につっこんでいくのが見える。
「こんなので敵がへるのか?」
「飛竜は海からとび立つことはできないので、かなり有効です」
 フィリシアの説明にシンヤが安堵する。
ギャ!
 敵が間発いれず雷撃をうってくる。防御魔法で対抗するフィリシア。
「敵がわは、ほとんどが魔法使いのようです。このままでは…」
 ふたりとも敵と一定の距離をとっているが、飛竜のスピードは敵のほうがはやいらしく、すこしづつ距離がちぢまる。
ギガ…ヴィシッ!
「キャアッ」
 フィリシアの飛竜が雷の直撃をうけ、海におちていく。
「フィリシア!」
 シンヤは飛竜を急降下させる。
 フィリシアの黒いマントが風にひらめいて、まるで黒い花が舞っているように見える。
ーーーきれいだ……
 なぜこんなときにそう思ったのか解からないが、それはシンヤとっていつわりのないきもちだった。
バッシャァアン……!
 フィリシアの飛竜が海におちる。
ヴァササッ…
「だいじょうぶか?」
 シンヤはぎりぎりのところでフィリシアのうでをつかんでいた。
「ええ…だいじょうぶです」
 フィリシアもシンヤのうでをしっかりとつかみかえす。
「いまひきあげるから…」
「シンヤッ!」
 飛竜にのった兵士が眼のまえにいた。そして兵士の剣がシンヤにむかってうなりをあげる。
ーーー殺られる!
 剣による攻撃よりはやくシンヤはさけんでいた。
「雷よ!」
ギガ、ギガオ!
 シンヤの手からでたひかりが兵士達の眼を焼く。
ギシャァアアアアアッ!!
 つぎの瞬間すさまじい雷撃が兵士達をすべてふきとばす。
ヴィシッ…ヴィシッゴオオオ……
 あまりの衝撃に海面があれ、強風がふきつける。
ーーーな…んだ?
 最初はなにがおきたのか解らなかったが、すべての兵士が海におちているのを見て、やっと理解した。自分がなにをしたかを。
 シンヤは飛竜の体勢をたてなおすと、フィリシアをひきあげはじめる。
オォォ…
 フィリシアをひきあげるころには、風もおだやかになっていた。
 したを見ると、最初に落ちた兵士が気をうしなっている仲間達を飛竜の背にひきあげている。
「すごい…ですシンヤ様。これほどの雷系の魔法は見たことがありません」
 フィリシアが感嘆まじりにほめる。
「でもとっさのことで、神に祈ったりしなかったが…」
「シンヤ様の無意識の願いを、エルファリオーネ様がくみとってくださったんでしょう」
 フィリシアがかるく断言する。
「そうかな…」
ーーーだが、この力があれば……
 魔王と互角にたたかえるのではないか、そう考えるシンヤの心に、希望と自信が生まれつつあった。
「どうしたんです? シンヤ様」
 シンヤは飛竜の手綱をひいたままだったのだ。旋回をやめ、フィリシアの言う方角にすすませる。ふと、気ずいたようにシンヤがフィリシアを見つめる。
「なんですか?」
「そういえばフィリシア、さっきオレのことをシンヤってよんだだろ」
「えっ、そうでしたか?」
 フィリシアはおちつきなく視線をおどらせる。
「様をつけないそっちのよびかたのほうが、オレはスキだな」
「………」
 なぜか赤面するフィリシア。
「アッ、シンヤ様。見えてきました、あれがイルマーシャ国のある島、グランリオンです」
 しめたとばかりにフィリシアがはなしをそらす。しかし、まえよりはことばに感情がこもってることを、シンヤは聞きのがさなかった。
ビュゥゥウッ…
 雲のきれめから島が見えはじめる。島のわりには、上空から見ても島のはしは見えない。うっそうとした森林がはてしなくつづくが、とおくに岩のうえにつくられた城と、街が見えてくる。
 フィリシアはシンヤの背中ごしに飛竜の手綱をあやつり、低空飛行をはじめる。
ヴァサッヴァサッザザッ…
 城がかなりちかずいたところで、飛竜を森のちいさな広場に着地させる。
「ここからはあるいていきましょう」
 フィリシアの説明によると城のうしろがわは絶壁のガケになっているため、ぎゃくに巡回兵がすくないのだと言う。
 飛竜を広場において、ふたりはあるきだす。五分くらい森のなかをあるいただろうか。森がひらけたところに、岩の壁があらわれた。
「あれが敵城か…」
 岩壁のはるかうえのほうに城がそびえ立っている。さゆうは見渡すかぎり、壁がつづいている。
「それで、とぶ魔法はなんて唱えるんだい?」
 シンヤの質問にくびをふるフィリシア。
「とぶ魔法はありません」
 あたりまえのように言う。
「それじゃどうやって…まさか」
「ええ、このガケをすこしづつのぼるんです」
「じょうだんだろ?」
「世界の運命が決まるこの状況で、じょうだんを言うと思いますか?」
ガーン
 シンヤはそのことばにガックリかたをおとす。
「そうだ! もどって飛竜でいくのが経済的じゃないか?」
 ことばは混乱してるが、シンヤの眼は真剣だ。
「それではすぐに敵の本隊に見つかります。だいじょうぶ、手や足を壁にくいこませる魔法はありますから」 「まいったな…」
「すこし休憩しますか?」
 シンヤの体力よりも、気持ちを考えての提案だった。
 シンヤは心からフィリシアに感謝する。フィリシアのことばが自分の身をあんじたものだと理解していた。
「いや、休憩はいい。それよりフィリシアはもどったほうがいいんじゃないかな」
「なぜですか?」
 フィリシアの声に、おどろきのひびきがあった。
「魔王とのたたかいにオレは勝つか負けるか解からない。あるいは魔王のいる場所にたどりつくまえにやられるかもしれない。どっちにしろ、これいじょうオレと一緒にいるのはキケンだ」
「…………」
「どこかにかくれていてくれ。オレが魔王をたおして勇者になり、かならずキミの刑を無効にするから。いまはそれが最善の策だと思う」
「それには賛成できません!」
 きゅうにフィリシアがさけぶ。沈着冷静な彼女にしてはめずらしいことだ。
「ワタシは…ワタシは…」
 フィリシアはそこで口をつぐむ。
ーーーなにが彼女をここまで感情的にしているんだ?
 シンヤはまだその感情に気づかずにいた。
「…そのはなしは一汗かいてからにするか」
「え?」
 瞬間、フィリシアも気ずいた。森のなかにうごめくものを……
ギギ…ドシャアッ! ズシャッズシャッ
 木をたおしてでてきたそれは…
「ロボット?!」
 それは三メートルはあろうかという、どぐうの形をした銅製の巨人だった。
「これは…敵の電気兵(でんきへい)! 電気兵(でんきへい)には…」
 シンヤは電気兵(でんきへい)のまえに立つ。
ーーー先手必勝だっ。
「雷よ!!」
ギガ、ギガオ! ヴィシアッ!!
 寸分のくるいなく、多量の雷撃が電気兵(でんきへい)をつつむ。
ギ…
 けむりをあげながら電気兵(でんきへい)のうごきがとまる。
「どんなもんだっ」
「あぶないっ!」
ギギ…ギュンッ
 だが、その電気兵(でんきへい)はうごきだし、シンヤにむかってパンチをくりだす。
ドゴオ!
 土煙があたりをつつむ。
ーーーふぃーっ、あぶねえあぶねえ。
 シンヤはぎりぎりのところでよこによけていた。
 電気兵(でんきへい)のパンチは地面をくだいたのだ。
「亀裂破(きれつは)!」
ビキビキッ…ドゴゴゴ…
 フィリシアのことばに電気兵(でんきへい)の足元がくずれ、電気兵(でんきへい)が地面にのみこまれていく。
ギギ…ドギュッ!
 地面にひらいた亀裂はもとにもどり、電気兵(でんきへい)の爆発音が地下からひびいてくる。
「ナイス、フィリシアッ」
「シンヤ様っ!」
 フィリシアがこわいかおでシンヤにせまる。
「電気兵(でんきへい)には雷撃はつうじません。それを言おうとしたのに…シンヤ様は行動が安易すぎます」
「わるい、気をつけるよ」
ーーーシンヤッ! アンタはいつも……
ーーーそういやあねきにも後先考えずに行動するってよくおこられたっけ。
 シンヤは進学だけが目的のような高校にいたせいか、思いやりでキツイことを言ってくれる人はすくなかったような気がする。シンヤ自身も大学にうかるまでは受験戦争にあけくれ、まわりの同級性に気をつかうどころではなかった。
「シンヤ様!」
 フィリシアがシンヤにつめよる。
「な、なに?」
「ワタシも、絶対いっしょにいきます」
「でもそれは…」
「いいえ絶対にいきます。シンヤ様を魔王のいるところまで無事おくりとどけるまではなれませんっ!」
 うむを言わせずフィリシアがたたみかける。
「う〜ん…でもなあ…」
メキメキ…ドシャアッ!
ズシャズシャズシャズシャズシャズシャズシャズシャズシャッ!
 木々をたおしつつ、無数の電気兵(でんきへい)がふたりを包囲する。
「フィリシア…」
「はい?」
「さっきの魔法いがいで、電気兵(でんきへい)をたおせるのはあるか?」
「いいえ…」
 シンヤはフィリシアのことばにうなずく。
「それじゃしかたないな…」
ズシャズシャズシャ…
 無数の電気兵(でんきへい)がちかずいてくる。
ギギ…
 目前までくるとゆっくりと太いうでをあげる。
「フィリシアッ、オレにつかまれっ!」
 フィリシアが背中にしがみつく。
「亀裂破(きれつは)!」
ビキビキッ…ドゴオオオオオ!!
 一瞬にして、シンヤのぜんぽうの地面がすべて破壊される。地のそこにおちていく電気兵(でんきへい)群。
「みたかっ!」
ビキッ…
 シンヤ達の足場に亀裂がはいる。
「アレ?」
ズシャアッ!
「うぉわっ」
「キャアッ」
 まっさまさまにおちていく二人。
ゴゴゴゴ……
 あとにはおおきなあなだけがのこっていた………


ーーーしんや……
 成熟した女性の声が響く。
ーーー誰かが呼んでる……あねきか…かあさんか………
ーーー…しんや…
ーーーきみは……
 眼を開けると、電気兵(でんきへい)が腕をふりおろすところだった。
ーーーまにあわな…
ベコッ。……ズ…シ
電気兵(でんきへい)の腹がへこみ、その場にヒザをつく。
「イテテテ…」
 まわりを見ると、通路がおくまでつづいている。装飾のしてある灰色の石柱が、人為的につくられたことをしめしていた。
ーーーなんだここは。どこにいるんだオレは……
 うしろを見ると、土砂が通路をふさいでいる。
ーーー脱出のための地下通路か…な。
「ツッ…」
 フィリシアがおきあがる。
「いまの…電気兵(でんきへい)をたおしたのはなんて魔法だい」
「亀裂波(きれつは)のことですか…?」
「いや、いまの…」
ーーーオレがやったのか…?
タッタッタッ…
 人のはしってくる音に、ふたりは土砂の影にかくれる。ふたつの人影がやってくる。黒い肌にパーマのかかったみじかい黒髪。白くうすい布を着たふたりの黒人だ。土砂を丹念にしらべている。
「あれは?」
「あれがイルマーシャ人です」
 シンヤの質問にフィリシアがこたえる。
 なにか別のことばではなしているイルマーシャ人達。はなし終えると、もときた道にもどろうとする。
ジャリッ
 シンヤがおもむろに立ちあがる。
「雷よ!」
ギガオ!! ヴィシャアッ!
 イルマーシャ人達がたおれる。
「しかたない。こうなったらふたりでいこう」
 ふたりは暗闇の通路へかけだしていった。


「雷よ!」
ヴィシッ! ドサドサッ…
「ハアッハアッ…」
 どのくらい階をあがっただろうか。雷の魔法をなんどもつかい、シンヤはかたでイキをするほど疲労していた。
「やすみをとったほうが…」
 フィリシアが心配顔で聞く。
「…いやフッ、だいじょうぶ。さきをハッいそ…ごう」
 通路をぬけると、広間にでる。すみが丸い、円形のへやだ。へやの中心に中年の男がすわっている。茶色のローブにハゲたあたま。黒人にしては、それほど筋肉なないように思える。
「…ここからさきへいくことはできない」
 シブい声が広間にひびく。
「どうしてもいかなくちゃならないんだ。ワルいな…雷よっ!」
ギガ、ギガオ!! ヴァシュァアッ
 大量の雷撃は男の体をつきぬけてしまう。
「どうなってんだ?」
「ヴァドゥームラクス…」
 声がするみぎのほうを見ると、男が立っている。
ーーーなにをしたんだ?
「イム!」
ブ…アッ!
 風がふたりをつつむ。
 気ずくと、うしろに男がいる。
「いつのまにっ、雷よっ!」
ギガ、ギガオ! ヴァシュアッ
 多量の雷撃が男をつつむ。だが、男は防御魔法でかるがるとふせぐ。
ーーーオレの雷撃をふせぐなんて…かなりの力をもっているな。
 シンヤは男にむかってはしる。
ギガオ!
 男が雷撃をうってくる。
ーーーいまだっ!
 シンヤは寸前のところで男の雷撃をさける。
「雷よっ!」
ギガ、ギガオ!!
 シンヤは男の至近距離から雷撃をはなつ。あいてが攻撃した瞬間なので、防御魔法を唱えられないという計算をしたうえでのことだ。
ーーー決まった!
 雷撃が決まる瞬間、男は驚異的な俊敏さで多量の雷撃をよける。
ーーーそんなバカな。あんなイカツイ体格で、こんなにはやくうごけるなんて…まさか?!
シュピンッ
 シンヤは、ころがって態勢をたてなおそうとしている男のノドに、細剣をつきつける。 男のうごきがとまる。静寂がへやを支配する。
「! そこだっ、雷よっ!!」
ギガ、ギガオ! ギシャァアッ!!
 なにもない、へやのすみに多量の雷撃が集中する。
「グアッ」
 へやのすみに、突然男があらわれる。
「え、ア、なに?」
 フィリシアがへんな声をあげる。
 シンヤがノドにレイピアをつきつけていたのは、フィリシアだったのだ。
シュピンッ
 シンヤはレイピアを鞘におさめる。
「あの男にそれぞれが敵に見えるように、幻を見せられていたんだ」
 シンヤはフィリシアが立ちあがるのに手をかしてやる。
「シンヤ様」
「ン?」
「ありがとうございます」
「いや、まあ…ね」
 テレるシンヤであった。

                        邂逅2へ つづく



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