goor00
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またも
はじめに
この下に展開されている内容は初期のゴールデンカイザーの終わりの内容であまりいま読みなおすとこころもとないところが存分に発揮されているようなときどき。きっと調子がわるかったんじゃないかと思うほどそのできには不満足で、一応完成していましたが投稿せず、書き直してはダメだしのくりかえしで結局きてしまいました。もしわたしがなにか雑誌の責任者だったら、その雑誌はかならず発刊されないでしょう。こだわるだけこだわって結局おくら入りになる。なにか、そんな人生歩みそうです。いちおう続編もないこともないかもしれません。そのうち。
「それで、これからどうするつもり?」
「魔法攻撃でフィリシアをすくうことはできない。どこかに本体がいるはずだ」
「ふむふむ…それであてはあるの?」
「ある。こっちだ」
シンヤはよこにある階段をのぼる。のぼりきったさきには、巨大な魔法陣がある。
「あれだけの魔法力があるところといえば、ここしか思いつかない。亀裂波っ!」
ビキビキ…ドゴアッ!
噴煙がおさまると、したのほうに広大な空間があらわれる。なかは暗くてよく見えない。「あねき、あかるくする魔法はあるかな?」「来光っ!」
シンヤのよこにひかりが生まれる。
「サンキューッていまの声は!」
「いいかんしてるわネ、アンタ」
いまのぼってきた階段の入口に、エルファリオーネが浮かんでいる。
「…しっかし、心臓にわるい出現のしかたをするやっちゃな…」
シンヤがグチる。
「なにをグチグチ言ってる?」
エルファリオーネが5メートルぐらいまでちかずいてくる。
「いま、オレ達を殺すチャンスがあったんじゃないか?」
「そうね…でも、スグに殺すんじゃつまらないじゃない。そう思うでしょ?」
「思わないね」
なおも雑談をつづけようとするシンヤに、ヒロコはやめるよう言おうとするが、おしとどまる。
シンヤがうしろ手に、したにおりろと示唆していた。ここはオレにまかせろ、という意味だろう。
ヒロコはエルファリオーネのほうを向いたまま、ゆっくりとうしろあるきする。
「シンヤ、うしろを指さしてなにしてるの?」「?! そうか、本体のほうから見ることができるのか…でも、ここはオレがとうさないぜ」
シンヤがかまえる。
ギュ…アッ
エルファリオーネが呪紋を解放する。
「呪炎殺っ!」
ボゴオッ!!
大量の炎がシンヤをつつむ。
「ディヘンシブッ!」
ヴァオッ!
ヒロコの防御魔法がシンヤの体を炎からまもる。
そして、シンヤも魔法をとなえていた。
「雷よっ!」
ギガ、ギガオッ! ドギュォオッ!!
「電滋へ…グアッ」
オォッ…
エルファリオーネが雷撃につつまれる。
ヴヴヴ…
「クックックッ……」
なおもエルファリオーネはその場にうかんでいる。
「電撃はこの子をくるしめるだけヨ。解かってたんじゃないの、シンヤ?」
「やっぱり…な」
「まあ、よくアタシの本体を見つけたわね、ほめてあげる。でも、これいじょうは危険のようだから、もうアソビはやめるわ。
直接精神を破壊する魔法で、アンタ達を殺してア・ゲ・ル」
ギュィイイ……
「グ…ァ…ア」
「クハァッ…ア…」
シンヤとヒロコがひざをつく。あたまに激痛がはしりつづける。
ーーーや…っぱり、あのときかえってればよかっ…たかな…
走馬燈のようにここにきてからのことが思いだされる。だが、ふしぎなことに、思いだされるのはファリシアのことばかりだ。
はじめてはなしたあのとき、食事をしたときの無邪気な表情。だが、それがすべて記憶のなかからきえていくように、まっしろになっていく。
「フィ…リシア……フィリシアッ!!」
エルファリオーネの体がビクッと振動する。
ーーーフィリシアはもどったほうがいい…
ーーーそのほうが自然でカワイイよ……
「シ…ンヤ?」
フィリシアは混乱していた。シンヤとはだれなのか、そして自分はだれなのか…と。
「思いだせ、フィリシァアッ!」
ピキィッ…
瞬間、激痛がやわらぎはじめる。
「グッ…オオ……」
エルファリオーネがくるしんでいる。
「…? なに…がおきている?」
エルファリオーネはしゃがみながら、なおもくるしんでいる。
「…シ…ンヤ……たす…け……」
「ファリ…シア? フィリシアなのか?」
シンヤはエルファリオーネのもとに、ゆっくりとあるいていく。
「ダ…メよ…シンヤ…」
ヒロコがくるしげによびとめる。
シンヤはエルファリオーネのもとにくると、やさしくだきとめる。アセをかいていて、かなりくるしそうだ。
「だいじょうぶか、フィリシア?」
眼をつぶったまま、へんじはない。
「…かのじょ…は…」
プリシラの声がする。
「…エルファリ…オーネの魔法攻撃を…分散させて自分自信も…うけたのよ…」
「フィリシアはだいじょうぶなのか?」
「…だいじょうぶ…殺傷力は分散…されたから…」
「フウッ、そうか…」
シンヤはあんどする。
ヒロコも立ちあがり、フィリシアのもとにやってくる。
「…ン……」
フィリシアがうすく眼をあける。
「…アタ…シ…」
フィリシアがシンヤにだきつく。シンヤもフィリシアを抱きしめる。
「シ…ンヤ……アタ…シはフィリ…シア…アタシはフィリシア…よ」
ヒロコがハンカチでアセをふきとる。
フィリシアのかおいろが、だんだんとよくなってくる。
「もう…だいじょうぶです」
フィリシアは自分で立ちあがる。
「やすんだほうがいいんじゃない?」
ヒロコがやさしく助言する。
「いえ、それよりも、したにおりてエルファリオーネの本体を…」
どうやら、エルファリオーネに体をのっとられていたあいだのことも、おぼえているようだ。
フィリシアはひとりであるきだそうとする。 どこからそれだけの気力がでてくるのか、ヒロコには理解できなかった。
「でも、その体じゃ…」
「それじゃ、いくか。フィリシアのオヤジ達を、神の予言であやつっていた、エルファリオーネをぶっとばしに」
シンヤは、よろけそうになったフィリシアにかたをかす。
ヒロコは考える。自分のおとうとが、他人の心の解かる人間、大人になりはじめているのでは…と。
「クックックックッ…」
どこからか熟女の声がひびく。
「そのいやらしいわらいは、エルファリオーネだなっ!」
「アラ、いやらしいとは心外ネ。でも…ヒューマンごときがアタシの力をはねのけるとはネ……
もうすこしたのしみたかったのに…」
「なんだとっ」
シンヤはフィリシアをヒロコにあずけ、瓦礫のほうにはしる。
ヴァオッ!
「ギャオウッ」
蒼いいなずまがはしったような気がした…ズヴァッ
シンヤのかたが裂け、血がふきだす。
「グホッ…」
シンヤはその場にひざをつく。
ジャリッ…
蒼い体毛をした、巨大なハリネズミのような獣がかまえている。
「クスクスクス…それはアタシのペットの魔獣、ヴァイオス。あいてをしてあげてよ…クスクスクス…」
「クソッ…そのわらいをとめてや…るぜ」
「ハッハッハッ…できるならやってみることだネ」
「グレートフレアッ!」
ボゴオオオオッ!!
ヴァイオスがもえあがる。
「アナタのペットはもういないわよ」
「それはどうかしら?」
「え?」
「ギャオウッ!」
炎のなかからとびだしてくるヴァイオス。「氷呪殺っ!」
ピキィッ…キンッ!!
ヴァイオスが氷りつく。
パキ…パパキ…パッキィ…ン
ヴァイオスの氷が砕ける。
「クックックッ…ヴァイオスは特殊な水液で体が構成されてるから、燃やそうが凍らそうが復活する」
エルファリオーネのわらい声が反響する。「それならば…」
ギュィイイイイイイイイイ…
すさまじい力がフィリシアのもとに集まる。「愚風波っ!!」
ギュァアアアアアッ……ブ…アッ
風がヴァイオスをつつむ。
ザアッ…
ヴァイオスが白い砂のかたまりなる。
燃やしたのでも凍らせたのでもない。構成を塩に変化させたのだ。
「ヤッタ!」
シンヤがよろこびの声をあげる。
「ゼエッ…ゼエッ……」
フィリシアがかたでイキをする。それほど体力を消耗する魔法だったのだ。
「だいじょうぶか?」
「オヤオヤ、アタシのペットにそれだけてまどるなんて、アタシとたたかうのは百年はやいネ」
「へらず口をっ!」
シンヤは瓦礫をおりはじめる。
「…シンヤ…」
プリシラがシンヤをよびとめる。
「…ここを…おりたとき…アナタは真実をまのあたりにして…真実のくるしみに…くるうかも…しれません……」
「なんだそりゃ。もうとっくにアタマんなかはオーバーヒートしてるぜ」
シンヤはプリシラの声をふりきって、瓦礫をつたってしたにおりる。
「シンヤッ!」
ヒロコもフィリシアにうでをかしつつ、瓦礫をおりる。
「すがたをあらわせっ! エルファリオーネッ!!」
ロウソクの火もここまではとどかず、まわりは暗闇に支配されている。
ヒロコ達もあとからおりてくる。
「クックックッおもしろい……オマエ達の行動はさらに興味深い」
「来光っ!」
パァアアッ……
フィリシアの頭上にひかりの輪がうかぶ。「これはっ…?!」
シンヤ達を中心に、円形に周囲一面機械で埋まっている。
『ゴールデンカイザー』
シンヤは瓦礫をおりはじめる。
「…シンヤ…」
プリシラがシンヤをよびとめる。
「…ここを…おりたとき…アナタは真実をまのあたりにして…真実のくるしみに…くるうかも…しれません……」
「なんだそりゃ。もうとっくにアタマんなかはオーバーヒートしてるぜ」
シンヤはプリシラの声をふりきって、瓦礫をつたってしたにおりる。
「シンヤッ!」
ヒロコもフィリシアにうでをかしつつ、瓦礫をおりる。
「すがたをあらわせっ! エルファリオーネッ!!」
ロウソクの火もここまではとどかず、まわりは暗闇に支配されている。
ヒロコ達もあとからおりてくる。
「クックックッおもしろい……オマエ達の行動はさらに興味深い」
「姿をあらわせっエルファリオーネッ!」
「来光っ!」
パァアアッ……
フィリシアの頭上にひかりの輪がうかぶ。「これはっ…?!」
シンヤ達を中心に、円形に周囲一面機械で埋まっている。
「スゴイ数のスーパーコンピューターだわ…」 ヒロコが感嘆の声をあげる。シンヤもテレビで見たことがあったが、ここにはすくなくとも二十台いじょうのスーパーコンピューターがあるように思えた。
「アタシのあたまのなかへようこそ」
いるのはフィリシアとヒロコとシンヤだけだ。
「これがエルファリオーネ…なのか?」
「ソウ、コレがワタシ」
「機械の山がエルファリオーネ? …まさか」「ソウ、アタシの正体は未来の科学がつくりあげたグランドスーパーコンピューター、エルファリオーネ……アンタ達のことばで[黄金なる帝王]という意味ヨ」
エルファリオーネがゆっくりとこたえる。機械のおくにスピーカーがあり、そこから声がひびいてくる。4メートルくらい頭上の天井にはカメラが設置してある。
「雷よっ!」
ギガ、ギガオッ! ヴィシァアッ!!
シンヤの雷撃が機械のまえで四散する。
「ノンノン、ムダなことヨ。つねにアタシのまわりには電滋壁がはりめぐらしてあるノヨ」 シンヤがまえにでる。
「このスーパーコンピューター群は映像で、オレのあたまから、情報を採取したんだろう。ここは異世界だ。そうでなければいままでの魔法の理由がつかない。魔法をつかわれるのが怖いから、だましているんだろう?!」
「クスクスおもしろい、やっぱりアンタの思考は興味深いワ。
そうねぇ。たとえば、いかずちはアンタのつけている首輪から、小型レーザーを発射していたのよ。亀裂波は地盤沈下を利用したもので、すべてが科学の産物よ。すすんだ科学は魔法だと言ったヒューマンがいたケド、アタシは自分が認めたヒューマンにだけ、この力をあたえてきたのよ」
ーーーこの力が科学!?
ジーカタカタカタッ…
無機質な音が何重にも空間にひびく。
「数百年に一度、ワタシの心を満たすための勇者と魔王とのゲーム、おもしろかったヨ。もういいから死になよ」
「オレ達に死ねなんて、考え甘いぜ」
「そうよっ、でもアタシは辛党だけど」
「なに言ってんだよ。あねきっ」
「なによ」
「へえ、マダやるの? じゃあハンデとして、眼をつぶってたたかってあげようか? ハッハッハッ」
「なんだかフィリシアに、自分のあたまで考えろとか偉そうなことを言ってたけど? 権力者のいうがままになっていたのはアンタのほうなのよっ!」
「…ウ…ソだ。ウソだっ!」
でもいいワヨ」
弘子が前にでる。
「それじゃあ一番、弘子いきます! イレーザーウェーブ!」
ギュオッ! シュヴァッ!!
銀色の光波がエルファリオーネの電滋壁を消滅させる。
「シュレッダースラッシュッ!!」
シャシャッ! ヴァシイッ
光のカッターが高速でコンピューターを攻撃するが、電滋壁に阻まれる。
「電滋壁はスグに再生するノヨ。さあ、次は誰? もっと無力であることに気ずかせてあげるワ、ヒューマン達」
ザッ
慎哉とフィリシアも前にでる。
「イレーザーウェーブ!」
「衝撃派!!」
「火炎弾!」
ギュオッ! ディギュウッ!! ドドドム!
三人の魔法がほぼ同時に決まる。
ヴァシュウムッ!!
だが、どれもすぐに再生した電滋壁に防がれる。
「この同時攻撃が効かないのか?!」
なにかスキを作ることができれば…… 慎哉は唇をかみしめる。
「次の攻撃はどうしたノ? それとも負けを認める? 命乞いをすればシンヤ、アンタだけ元の時代に帰してヤルケド?」
「誰がするかっ!」
「……そんなにイイカッコしたいのカイ」
ドギュオッ! ドゴオ!!
衝撃派によって天井が崩れ、フィリシアが瓦礫にのみこまれる。
「フィリシアッ!」
ポオオオ……
フィリシアは白いエネルギー球を頭上に構えている。それで瓦礫を防いだのだ。
「大丈夫かフィリシアッ!?」
「足が…」
フィリシアの足が瓦礫にはさまって動きがとれなくなっている。
「おもしろい」
ギュィイイ……
空中に黄金の矢が生まれる。
「この矢は亜光速で撃ちだされる。電滋壁やディヘェンシブでは防ぐことができないから、避ければフィリシアは死ぬ。避けなければアンタが死ぬ。クスクスどちらを選ぶ、ヒューマン…いえ、シンヤ」
ドギュウッ!!
「電滋壁っ!」
ディギュギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「言ったハズヨ、電滋壁では防げないと……マタ退屈な日々がはじまるワケカ、つまんないなァ…」
最後のほうはまるで子供がスネるようにつぶやく。
「大丈夫、まだ楽しませてやるぜ」
「!」
慎哉とフィリシアが無傷で立っている。
「三人の防御魔法を三重にしてエネルギーをけずり、攻撃を完全に防いだのさ」
慎哉が笑う。立ち上がる三人。
「ソンナことが……」
それはかなりのタイミングが要求されることだ。
「そんなことが無知無能無力なヒューマン達にできるはずが…」
「人間が無知、無能、無力だって? そんなことをプログラムするなんて、オマエを作った科学者の顔が見えるようだぜ」
慎哉達がエルファリオーネと対峙する。
「いえ…マグレ…ソウ偶然よ。ソレ以外に…」「いくぜ!」
ヴィシュウッ
「イレーザーウェーブッ!」「火炎弾っ!!」ギュオッドドドムッ! ドゴオオオッ!!
「グフッ…」
スーパーコンピューター群の一部が破壊される。 一瞬でフィリシアが光を消し、弘子が電滋壁を消し、慎哉が魔法攻撃したのだ。「カメラが暗視モードになる瞬間を狙った?そんな…三人の行動誤差がコンマゼロニィだなんて……ありえない」
「来光っ!」
フィリシアが呪紋を唱えるがなにも起きない。
「どうやら破壊したのは魔法を制御するところみたいだな…」
ゴオオオオ……
さいわい、スーパーコンピューターが燃える炎によってまわりは明るい。
「なぜこんなことができる。相談もしていないのになぜ?!」
「いや、フィリシアとあねきならそれをやってくれると思ったから」
「そうそう」
弘子があいずちをうつ。
「フィリシア、アンタにそんな確信した行動、とれるはずが……」
「シンヤならやってくれると信じていました」 そう言ってフィリシアは微笑する。
「何者ダ? アンタ達はヒューマンではない」「人間さ、ごく普通のな。他人を思いやり、信じることができ、チームワークによって一人の力を何倍にもできる……それが人間さ」 慎哉がいいきる。
「イイエッ、ヒューマンは支配されなければならない。ヒューマンになにができるノ?! おなじことのくりかえしヨッ!」
「そうかもしれない。でも人間が希望を持って生きているかぎり……可能性がある」
「可能性?」
「人間が自分の頭で考えているかぎり、可能性という未来が、存在し続けるんだ」
次々と炎と爆発がスーパーコンピューター群を包む。
「クックックックッ……アーハッハッハッハッ………おもしろい、おもしろいヨッ」
ヴ…イ…ム
狂っていくコンピューターがこれまでのいきさつをとぎれとぎれに説明する。
空間に少女が現れる。フィリシアに似た顔をしている。
「立体映像か?」
「クスクスクスクス、ワタシの負け…か」
少女はしばらく笑うと慎哉の方を向く。
「これでやっと…」
ヴ…
立体映像は突然、男の姿になる。
「私はこの戦争を終わらせるためジジ…に……」
どうやらなにかの映像記録のようだ。
「戦争を終わらせるためだと信じて、最悪の細菌兵器を作ってしまった。軍部は戦争が負けそうになったその時、細菌を世界中にバラまいた……細菌兵器は完璧だった。軍部をふくめ、世界中のほとんどの人達と動物が死んだ。これはすべて私の責任だ。そう、すべては私の要求にはじまり、要求に終わる。
…もちろん私も細菌が生きているうちにシェルターから出て死ぬつもりだ。だが、その前に責任を果たさなければならない。そう…人間は基本的に無知無能無力だ。誰かに支配されなければ人間は変わることができない。それも人間ではない、なにかもっと完璧な…ものに……」
ジジ……
少女が再び現れる。
「支配されている人間には活力がなく、活性化させるために昔の人間を連れてくる必要があった。そして権力欲、金欲、性欲、食欲が無いワタシにとって、感情プログラムの起伏によって生まれる歪みはすべて[退屈している心]に集中した。その歪みを解きほぐすには[娯楽]が必要だった。それも並はずれた娯楽[戦争]が……
ジジ…アタシ…わたくジ…オレ…我が支配の終わり? ならば最終ラウンド発令。全世界の核ミサイル発射九十秒前、カウントダウンスタート。八十九、八十八…」
「カクってなんですか?」
フィリシアが平静にたずねる。それに対して弘子は。
「い、一発で数百万人を殺せる爆弾ヨッ。核の数は…数万発?! アーッ、これでこの世界は終りよっ。いいえっ、この世界のことなんてどうでもいい! 死ぬまえにあのトレンディードラマの続きが見たかったあぁあぁあ〜〜〜っ!!」
パンッ!
フィリシアが弘子のほほを叩く。
「眼をさましてっ! ほかに助かる道はないんですかっ?!」
カタッカタタタッ…
フィリシアの一撃で正気にもどったのか、弘子がまだ起動してるコンピューターに向かい、猛烈ないきおいでキーをうちだす。
慎哉は弘子がコンピューターに詳しいのは知っていたが、大学でなにを専攻しているかまでは知らなかった。
コンピューターディスプレイの画面は次々に変わり、パスワードという文字が出ている画面にたどりつくのに、数秒しかかからなかった。残りあと六十九秒だ。
「シンヤ、ここにすわつて」
シンヤはイスにすわる。
カタカタッ……ウィイム
コンピュータのうえにあるカメラがおりてくる。シンヤのよこにおりてきてとまる。
チィィ…ム、ピッ
「眼紋、識別終了」
「つぎは手をカメラのまえにだして」
シンヤは言われたとおりにする。
ピッ
「指紋、識別終了。パスワードをどうぞ」
ひろこがシンヤのかたをたたく。
「あとはシンヤ、アンタしだいよ」
パスワード…未来の慎哉が入力した数字や文字の配列だけが、唯一核ミサイルの発射を止めることができるのだ。
慎哉はイスにすわると、まずは自分の誕生日を打ち込んでみる。
ビィーッ
エラーの文字が点滅する。慎哉はめげずに自宅の電話番号を打ち込む。だが、これもエラーに終わる。
「アンタね! 電話番号や生年月日なんてスグに調べられるものをパスワードに使うわけないでしょっ!!」
「ア、え?」
弘子の指摘に慎哉も浮き足立っていたことを認識する。
「それにパスワードは数字だけじゃなく、文字も使えるってことを忘れないでよ」
「文字…も」
弘子のさらなる指摘は、核ミサイルを止めるパスワードが、かぎりなく無限にあることを示していた。カウントはあと六十九秒だ。カタタッ…
慎哉はあせりという悪心をおさえつつ、キーを打ち続ける。だが、無情にも画面にはエラーの文字がくり返される。
「…もうダメ…だ…!」
「マスターは…その言葉をいつもくり返していた……」
エルファリオーネが…ぽつりと、ほんの一言つぶやく。
ーーーいつもオレがくり返していた言葉…?カタカタッタタッ……
ピィィイイイイッ! バシュッ! ィイイイイイイイィィッ……
慎哉は静かに息をついた…長いため息を…「…パスワード確認、カウントを中止……」 機械音が空間に響く…
「きゃーっ! やったあ!」
よろこぶ弘子。フィリシアは、微動だにしない。
「どうしたの? うれしくないの?」
コンピューターの画面を見て、弘子の表情もこわばる。
そこには、[誰か助けてくれ]…そう書かれていた。
ビビ……
エルファリオーネの姿がかすんでいく。
「…やっと…これで、死ぬことも許されぬ退屈な日々ともサヨナラできる………シ…ンヤ、助け…くれて…アリガ…ド…ボ………」
ツプッ
立体映像が消える。慎哉は少女が消える瞬間、背中に白い翼が見えたような気がした。「オレは…親父のような人間には、絶対ならないと思った。だけど、となんてしないんじゃないかな…。もしかしたら、アイツが一番救けを求めていたのかもしれない……」
慎哉が下を向く。
ゴオオオオオッ………
機械の残骸のすべてが炎に包まれていく。 フィリシアが慎哉をやさしく抱きしめる。「シンヤはガンバッた、ガンバッたよ……」「そうそう。良くやったよ、みんな…ネ」
弘子が二人の頭をかきむしる。
だが、沸き上がる高揚感はなにもない。ただ、むなしさだけが三人の心を支配していた。いつまでも………
チチチ……
クルックリンの城の窓から、青空を白い鳥が飛んでいくのが見える。慎哉は黒いバイクスーツを着て、ヘルメットを持っている。
「おはよう、シンヤ」
白いドレス姿のフィリシアがやって来る。「おはよう」
あれから一週間がすぎた。クルックリンの城にある魔法陣から時間移動装置が見つかり、使いかたも弘子がプログラムから理解した。 二人は廊下にでて、召喚所へ向かう。
「忘れものはない?」
「ああ」
召喚陣のある部屋につく。すでに弘子は一足先に帰ってしまっている。
「国はもう民のものになったし、アタシは自由になんでもできるようになったわ。シンヤのおかげよ」
「…良かった。オレは……両親に人生を決められそうになったことよりも、いま自分がなにをしたいのか、自分の夢がなにか解からないことがショックだったんだ。でもここに来てから、信じているかぎりすばらしい夢を見つけ、実現させることができることを確信できた。元の時代に戻ったら、真剣に自分の人生と向かいあってみるよ。そして、権力者のいいなりになるんじゃなく、面と向かいあってみるよ」
「お互いがんばりましょう」
「約束だ」
二人は長い間握手する。
「また、あえるかな?」
「信じていれば……可能性はあるさ」
フィリシアは静かにうなずく。慎哉は魔法陣の中央に進む。
「そうだ、忘れものがあった」
「なに?」
慎哉はフィリシアのもとに戻ってくると、フィリシアのおでこにキスをする。フィリシアは赤くならない。恥ずかしさやうれしさよりも、悲しさのほうがまさっていたからだ。 慎哉は再び魔法陣の中心に立つ。
「またネ」
フィリシアは再開の言葉を慎哉に送る。
「またな」
慎哉は後ろを向く。フィリシアの姿を見ていたら、走りだしたくなる気持ちをおさえられなくなりそうだった。後ろを向きながら手をふる。
慎哉の姿は急速に消えていく。それぞれの時代で生きるのがいいのは、慎哉も解かっていた。だが、慎哉はそれでもふりかえってしまう。フィリシアのもとに駆けよろうとしたその時、フィリシアがあの微笑をしていた。 その笑顔は慎哉の知っているものでも最高のものだったろう。
ーーーお互いがんばりましょう……約束だ… その言葉が意味していたものは……? 慎哉はその場で、笑顔をフィリシアに向けた。ヴァシュッ!
慎哉の姿が消える。
「…良かったのですか、姉上?」
フィリシアの弟が立っている。
「さあ、食事に行くわよ。アルフィード」
フィリシアはごく普通に話す。だが、アルフィードは去って行くフィリシアのほほから、こぼれる光を見逃さなかった。
アルフィードはなにも言わず、フィリシアの後に続くのだった。
「?」
慎哉は草むらの中から起き上がる。そこは家の近くの空き地の中だった。海に落ちたはずのバイクも横に落ちている。空を見上げると、夕日がちょうど沈んでいる瞬間だった。 慎哉はバイクをおこす。
「さーて…」
ヴァルンッヴァヴァ……
「行こうぜっ!」
ヴァアアアァッ……
慎哉は家の方向に向かってバイクを走らす。やがて夕日の中に慎哉の姿が溶けこんでいく。 その光景を、つぼみをつけた草花だけが見送っていた。慎哉の姿が夕日に消えるまで………