縮刷版96年9月上旬号


【9月10日】 キノトロープに寄った時に見せてもらったムック「インターネット ステキなホームページ・デザイン」(違ったかなあ)が発行元のグラフィック社から届く。キノトロープの坂和さんが編集・執筆にあった本で、世界中の綺麗なホームページを、ぜんぶフルカラーで紹介している。1ページに10も20もサイトを詰め込むなんて無粋な真似はせず、見開きで1サイト、会社によって4ページも6ページも使って、何層にもなったホームページをフルカラーの画像で載せている。なんとまー太っ腹なムックだこと。制作者のコメントを取っているサイトもあって、ただのホメパゲ紹介本とはちょっと違った、アート系の仕上がりになっている。

 NASAとかベネトンとかフェラーリとかに混じって、キノトロープが作った日本オラクルと、ゲームページ「アネット」もしっかり載ってた。3850円とちょとと高め。ホームページのデザインってそれこそ1月置きくらいで変わっちゃうから、こうやってカラー画像でカタログ的に抑えとくことって必要かも。何10年か経って「1997年3月物のドコソコのサイトのデータ」なんてもんが、高値で取引される時代が来る・・・・ってそんな訳ないか。

 2時から鹿鳴館跡地に建つ大和生命ビルの上で開かれた記者会見へ行く。エム・シー・エスとゆー会社が中心になって、ほかにNTTとかインプレスとか第一興商とかフジパシフィック音楽出版とかが参加して設立した「ミュージック・シーオー・ジェーピー」とゆー会社の話を聞く。社名を見ればピンと来るよーに、「music.co.jp」をカタカナ読みしたってことで、つまりはインターネットを使って、音楽関連情報とかデジタル音楽とかを提供するサービスを手掛ける会社らしー。アーティストのホームページとか音楽関連のホームページを制作したり、集約して検索できるよーにして、音楽好きのユーザーに使ってもらうのが1つ目の目的。2つ目はインターネットを介してアーティストのライブを配信したり、ライブハウスの中継を行ったりする、本当の意味でのデジタル音楽提供サービスで、これにはNTTご自慢の音声圧縮技術なんが使われることになるとゆー。もちろん有料ね。

 記者会見にはホリプロと渡辺プロダクションとゆー芸能プロダクションの大手2社も出席。おまけに両社とも、堀威夫・ホリプロ会長と渡辺美佐・渡辺プロダクション会長のご親族の方が出席してた。会見場では隣同士に並んで座ってたから、遠くから見てるとまさに呉越同舟って感じだった。肝心のデジタル音楽提供サービスが成功するかってゆーと、現状では回線の太さとか音の品質とかいった問題があって大変だと思うけど、将来は放送メディアなんかに互して台頭してくる可能性はある。CDが売れなくなっちゃうとかいった、パッケージメディアとの競合を心配する向きもあるけれど、人間って所有欲ってゆーか独占欲ってゆーか、とにかく手元に置いて愛でたがる性向があるから、パッケージってなかなかなくならないよーな気がする。でも世代が変われば性向も変わるから、20年後、30年後にどーなってるかは正直言って解らない。

 早川文庫JAから唐沢俊一編著「星を喰った男 名脇役・潮健児が語る昭和映画史」(620円)が出る。前にバンダイから「潮健児著」の本として発売されたらしーけど、文庫化にあたって「著者データを統一するための早川書房からの要望」によって、こーゆー名義になったとか。表紙は「悪魔くん」のメフィスト姿の潮健児。口絵写真には地獄大使の扮装をした潮さんの勇姿とか、20代から50代までのポートレートとかが掲載されているけど、やっぱり地獄大使姿で三角形の頭の部分から顔だけがヒョッコリのぞいている潮さんが、いちばんピンと来る。スッピンのポートレートは見ても誰だか解らない。

 映画がどんどんと衰退していった時代に育った人間にとって、先日亡くなった小林昭二さんといー、この潮さんといー、特撮ヒーロー物に欠かせなかったバイ・プレイヤーの死の方が、例えば石原裕次郎とか鶴田浩二とかいった往年の大スターの死より心に感じるものがある。アニメで育った今の人たちは、声優さんたちの死にジンと来るんだろーか。


【9月9日】 絶版になった文庫本とか、古今の名著の文庫本とかをデジタル化してパソコン通信で販売している「電子書店パピレス」で、新しいリレー小説のプロジェクトが始まるとゆー話を書く。リレー小説だったら「ASAHIネット」で試みられた「王国の鍵」をはじめ、過去にもいくつかあったよーだけど、今回はプロの作家が初めの部分だけを書いて、後を一般から募集するって点が新しい。「王国の鍵」だって、途中から一般の人たちが参加するよーになったけど、誰でも書いていいよってなった段階で収集がつかなくなって、結局まとまった話にはならなかったと記憶している。「パピレス」の場合は、いちおープロの作家と「パピレス」の編集者が話し合って、後にくっつける話を選ぶから、支離滅裂のままで雲散霧消してしまうってことにはならなそう。

 それに、最初の部分を書くプロの作家が矢野徹さんってところに、なんかワクワクするものを感じる。「地球0年」に「カムイの剣」の矢野さん。御歳いくつだったけか、とにかくわが国のSF界における最古参の矢野さんが、パソコン通信を使った文学のプロジェクトに参加しているのって、とっても凄いことのよーに思う。「FS(フライト・シミュレーション)」って小説の登場人物とか設定とかに合致してさえいれば、何を書いてもいいいてことになっていて、もしかしたら通り一変のリニアな小説じゃなくって、あっちに跳んだりこっちを膨らましたりそっちにズレ込んだりしながら進んだり戻ったりする、画期的な小説が出来るかもしれない。それが面白いかどうかは別だけど。

 昨晩アップした鈴木いづみさんの「ハートに火をつけて! だれが消す」の感想文に間違いがあったので訂正して再アップ。SFマガジンを読み始めた年を86年って5年もサバを読んで書いちゃった。ホントは81年。最初のままだったら、僕は今でも20代半ば、頭の毛はフサフサしてて体はスラリとしていて、いかにも好青年然とした姿をしてるハズ。どのみち5年後には、頭はツルツル体はプクプク、いかにも助平親父然とした姿になってしまうんだから、同じことなんだけどね。でもまあ、現実にそうなってしまったからこそ、清水ちなみさんの「禿頭考(ハゲアタマコウ)」(中央公論社、1300円)を、若禿げを気にしてビクビクしながらじゃなく、電車の中とか会社の中で、正々堂々と読めるんだけどね。

 9月のラインアップにあったのに、一向に出なかった歌野晶午さんの「正月十一日、鏡殺し」(講談社ノベルズ、780円)がようやく店頭に並ぶ。同じラインアップの中では、倉知淳さんの「星降り山荘の殺人」をまだ買ってないんだけど、「正月十一日、鏡殺し」に関しては、表紙の折り返しの部分に載っていた「ようこそ、裏本格の世界へ」って言葉に、裏新聞を出している身として妙に惹かれるものがあって、「長い家の殺人」も近作の「ROMMY−そして歌声が残った」も読んでいないのに、先に買ってしまった。

 感想は裏新聞の裏でやってる「積ん読パラダイス」にアップ済み。おー、これで「積ん読」も100冊に到達。ホントはジャンル別とか作家別とかに分けた方が見やすいんだけど、ジャンルも作家も無制限に積み上げておくってところがまさに「積ん読」だから、しばらくは放っておくことにする。200冊くらいに達したらどーにかするかもしれない。でもホームページ上のリストって、いくら積み上げても絶対に崩れてこないから、1000冊くらいまではやっぱり放っておくかもしれない。


【9月8日】 やっぱり2度寝の果てに11時に目を覚ます。いつまでも家のなかにいては体にカビが生えるので、気力を振り絞って出かけることにする。で向かった先は恵比寿ガーデンプレイス。デートのメッカに1人で行くのって、なんだかヘンタイ君っぽいからいやなんだけど、見たい展覧会が東京都写真美術館で開かれているんだから仕方がない。誰か誘って行けばいいって? 誘って着いて来てくれる相手がいたら苦労はしないぜ。

 JRを使う時は、山手線の恵比寿駅から例の「動く歩道」のある通路を辿っていくのが一般的なんだけど、地下鉄日比谷線の恵比寿駅で降りる時は、いつも山手線の外側にあるボウリング場の裏手の道を。線路に沿って歩いていくことにしている。山手線の内側に比べて歩いている人の数は少ないけど、何か解らない雑貨を売ってる路面店なんかがあったりして、そんな店を見つけたって気分に浸るだけで、結構トクした気分になれる。今回はNIKEの靴を売ってる店を見つけた。きっとボリやがってるんだろーなー。

 さて東京都写真美術館。「ジェンダー 記憶の淵から」というタイトルの展覧会に、なんだか心惹かれる物があって、久しぶりに東京都写真美術館に入った。2階の展示室を使った展覧会の印象は、「なんだかなー」って感じ。「ジェンダー(社会文化的性差)」って看板を掲げている割には、性差というより人が人を差別することの愚かさを告発するような写真が結構あって、「ジェンダー」って看板を無理に掲げているような気がしてならなかった。それから作品の数が少なすぎて、全部を未終えるのに30分もかからない。1つ1つを吟味して見たって、1時間はかからないと思う。多すぎるのも問題だけど、少なすぎるのもやっぱり不満。程度って難しい。

 ベンチで愛を育む(グエッ)カップルを横目に恵比寿ガーデンプレイスを通り抜け、埼京線で池袋へ。西武百貨店のリブロで新刊を漁り、山手線と総武線を乗り継いで家に帰る。電車の中で買った本をひもとく。鈴木いづみさんという、今はもういない作家の全集が、文遊社という出版社から刊行が始まって、その第1巻にあたる自伝的小説「ハートに火をつけて! だれが消す」(1800円)が並んでいて、1も2もなく買ってしまった。女流SF作家のハシリとして認知し、後に自殺した悲劇の作家として再認識した鈴木いづみさんだったけど、今回の全集で初めて彼女を知る人たちが、彼女からどんな印象を受けるのか、とても興味がある。

 栗本薫さんが「グランドクロス・ベイビー」で描いた、自分を売って追っかけ費用を稼ぐ今の女子高生たちの生活が、ミュージシャンたちと代わる代わるベッドを共にするのに、対価を金に求めない鈴木いづみさんの時代の人たちの生活とが、あまりにも対照的なんで驚いた。ノスタルジーとしての再評価ではなく、失っているものを取り戻すという意味のこもった再評価であることを切に願う。


【9月7日】 朝起きて2度寝して昼頃に目を覚ますってのは、ここんとこの土曜日のパターンで、今日もやっぱり起きたのが11時半。駅前に行って新聞を買って本屋を巡回する。岩波書店からエンデ全集が出たらしくて、第1回目の配本の「モモ」が本屋のあちらこちらの棚にどーんと積んであった。「ホントは読んでなかったんだモモ」ってのは小泉今日子の告白だが、実は僕も「モモ」って読んだことがない、ってゆうかエンデって読んだことがなくって、テレビのアニメで見た「ジムボタン」と、ラジオのドラマで聞いた「モモ」と、テレビの映画で見た「ネバーエンディング・ストーリー」くらいしかエンデとの接点がない。

 キラキラとしたキレイな装丁の全集に仕上がっているよーなので、早速1冊買い求めようかとも思ったけど、ちょうど別の1冊を買ったばかりだったので次に回すことにする。こういう全集って本屋に予約にしておかないと、買いそびれちゃうってゆーか買い伸ばしてしまう恐れがあるから、会社の近くの紀伊国屋か、いつも頼んでいた丸善に週明けにでも予約に行こー。でも「モモ」と「ジムボタン」と「果てしない物語」くらいしか知らないからなあ、やっぱり。

 「モモ」を押しのけて買った本は、北村丞太郎とゆー聞いたことのない作家の「マシン」とゆー本。関西書院とゆー、やっぱり聞いたことがない出版社から出ている。ちょとと前に鳥影社とゆー聞いたことのない出版社から出ている、村神淳とゆー聞いたことのない人が書いた「ポオの館」とゆー本を、バーチャル・リアリティーが題材とゆーことで読んでみて、あまりのつまらなさに打ちのめされたばかりなのに懲りてない。この「マシン」にも「バーチャル・リアリティー・サイバースペース」って言葉が表紙にあったりして、ちょとばかり心配だったけど、本だけは読んでみなくちゃ解らないから、図書館にはとうてい入りそうもない本は、自分で買うしかないのである。

 で感想は「けっこういいんじゃない」って感じ。SFの棚に置いてあり、帯のアオリにも「19歳作家の近未来小説」ってあったから、バーチャル・リアリティーを題材にしたSFなのかなーと思って読んだけど、なんのことはない、妄想とドラッグによるトリップが織りなす混濁した世界を描いた青春小説だった。しかしまあ、ジェフ・ヌーンの「ヴァート」(早川書房、700円)がSF文庫に入っているんだから、「マシン」だって自意識が生み出したインナースペースとドラッグによる共感を扱ったSFっていえなくもない。自分が生きてるこの世界が、自分をプレーヤーにしたゲームの中だとしか思えないって設定は、川上弘美さんの作品の登場人物たちが作り出す妄想の世界より、よほど今の世代の共感を得ることができると思うぞ。

 産経新聞にベネッセが「海燕」が休刊になるとの記事。河出書房新社の「文藝」と並んで、今の時代の感覚を反映した作品を書ける人たちを掘り起こして送り出してきた雑誌だけに、ちょっと残念。サンリオが出版部門から撤退してもう何年か立つけれど、サンリオよりは出版社に近かったベネッセでも、売れない雑誌はさすがに守り切れなかったと見える。新潮社の「新潮」とか、文藝春秋社の「文學会」とか、講談社の「群像」とか、集英社の「すばる」とかだって売れ行き不振には代わりないけど、会社にプライドと体力があるから続いているよーなもんだからね。パスカル短編新人文学賞という新しい賞でデビューした川上弘美さんが、芥川賞を受賞して一般普通に名前を知られたように、老舗の文芸誌が「権威付け」に役立っている構造がいっこうに変化を見せないなかで、「海燕」は最後発ながらよくやった方じゃないかな。それにしても「『この作品を読まなくては時代に乗り遅れる』といった小説体験が、少なくなったようだ」って加賀山編集長の弁にあるけれど、そんな小説って最近なんかあったっけ?


【9月6日】 赤坂の全日空ホテルでブエナビスタの発表会が開かれるとゆーので出向く。朝10時半からはキツイけど、11月1日に発売されるビデオ「トイストーリー」が見られるとゆーのでは、サボる訳にはいかない。

 上映されたのは唐沢寿明がウッディ、所ジョージがバズ・ライトイヤーを当てた日本語吹き替え版。テレビで放映される映画を日本人が吹き替える時に、話題作りのために演技のヘタな有名タレントを主役級に起用して酷いことになるケースが多々あるけれど(スターウォーズの第1回目の放映の時だ!)、ブエナビスタはさすがにそんな酷いことはしない。「トイストーリー」では唐沢も所も役柄にピッタリのイメージで、まるっきり違和感なく映画に入り込むことができた。

 全編CGを使ったってところばっかりが話題になった映画だけど、今回作品を初めて見て、CGだから絵がキレイとか、CGだからリアルとか、CGだから動きがすごいとかいったテクノロジー・オリエンテッドな部分よりも、むしろキャラクターがかっこいい(かわいい)とか、動きがコミカルで楽しいとか、ストーリーが起伏に富んで感動的とかいった、映画全般に共通する部分に感心した。要するにCGなんてただのツールで、それを使ったからといって綺麗な絵が描ける訳でもなければ、凄い物語が創り出せる訳でもないってことで、その辺を勘違いした和製CGキャラクターが有象無象と出始めているところに、日本のソフト産業が抱える問題の根深さを感じる。ちょっと不遜な物言い。だから頑張ってくれーニッポンちゃちゃちゃ。

 昼間、全日空ホテルから会社に帰る途中で横を通った東芝EMIに、夕方になってもう1度行く。「きまぐれオレンジロード」で有名なまつもと泉さんがプロデュースしたデジタルコミックマガジン「COMIC ON Vol.2」が11月に発売されるとゆー内容の発表会に出るため。まつとも泉さんとは今年の始めだったかに開かれた「Vol.1」の時に続いて、これで2度目の会見となった。前回に続いて今回も平井和正さんの出席が予定されていたので、サインをもらおうと「月光魔術團」の第3巻を持っていったのに、何でも体調を崩されたそうで今回は欠席。挿し絵を書いている泉谷あゆみさんが出られていたけど、下着姿とゆーか水着姿の犬神明が描かれた表紙の本を持っていって、見た目ほっそりの女子高生風な泉谷さんにサインをもらうのも気恥ずかしく、カバンにしまったままで遠巻きに泉谷さんを見つめる。

 「Vol.2」から参加することになった内田美奈子さんはちゃんと出席されていた。チリチリとパーマのかかった長いヘアーにフチの太いメガネをかけたお顔は、「BOOM TOWN」のあとがき漫画に登場する自画キャラそっくり。んでもってカバンから取り出した「BOOM TOWN」の第4巻にサインして下さいとお願いすると、折り返しになっていた口絵の裏に、サインと自画キャラを描いてくれた。こーゆー時に役得って感じる。嬉しいなったら嬉しいな。

 サインを戴いた後にちょっとお話していると、「BOOMTOWN」を連載していた「コミックガンマ」は潰れちゃったそーで、今は何にも連載を持っていないのだとか。ってことは「内田美奈子さんを読めるのは『COMIC ON』だけ」って状況で、これってなんだかちょっぴり寂しい気がする。「Vol.2」には内田美奈子さんの「つぐみ」とゆー作品が収録される予定。ほかには平井和正さんと泉谷あゆみさんの対談とか、まつもと泉さんと飯野賢治さんの対談とかが収録されることになってる。飯野賢治さんとまつもと泉さん、いったい何を喋るんだろーか。

 山村美紗さん死去の報が夕刊各紙に載る。仕事と療養で帝国ホテルに宿泊しているところを倒れたのだとか。こないだ同じ京都在住の西村京太郎さんが倒れた時に、山村美紗さんが看病に当たったとゆー話があったばかりなのに、西村さんが快方に向かうどころか山村美紗さんが先に逝ってしまった。とりたてて思い入れのある作家ではなかったけど、相次ぐ京都在住推理作家の不幸に、怨念とゆーか因縁とゆーか因業とゆーか奇縁といったものを感じる。この後、残る京都在住推理作家が次々と変死・怪死・悶死していったらとってもミステリーっぽい。1人また1人と斃れていくなかで、残された作家たちが身の恐怖におびえながらも、頭脳をフル回転させて犯人を推理していくってストーリー。けれどもやぱり真相は解らず、最後に摩耶雄嵩さんと清涼院流水さんだけが残って、迷推理を働かせて犯人を探る。んでもって出た結論が「推理小説常習犯」って、ちょっと冗談になっていない。


【9月5日】 「パソコン創世記」を書いた富田倫生さんからメールが届いていた。見ると前に展示会で見せてもらった「ネット・エキスパンドブック版パソコン創世記」が、ボイジャーのホームページで公開されたとゆー話で、さっそく会社のマックでアクセスしてみる。ネットスケープ用のプラグインソフトとか、エキスパンドブックのブラウザーとかをダウンロードしてセッティングしてから、肝心の「ネット・エキスパンドブック版パソコン創世記」にアクセスしてみると、ちゃんとエキスパンドブックのブラウザーが立ち上がって、縦書きの文章が画面上に現れる。

 CD−ROMとかFDで供給されているローカル版エキスパンドブックのよーに、テキスト画面の上に表示される矢印に従って、ページをさくさとめくることだって出来る。横書きのちまちまとした文章を、縦スクロールをガーッとやって、ようやく最後まで見ることが出来る今のホームページと違って、ホント本のイメージに近づいている。文章が出るまでの時間もそんなにかかんないから、結構サクサクと文章を読んでいけるし、文章の中の任意のキーワードから、別のホームページにリンクなんかも張れちゃう。「ニッポン人なら縦書きじゃーっ!」と今のホームページをちゃぶ台ごとひっくり返す一徹親父にも、受け入れられる素地は大。

 午後は広告代理店の第一企画が店頭公開するとゆーので兜町の東京証券取引所へ。三菱商事の出身とゆー社長が挨拶に訪れ、それはもうしゃべるしゃべる、時間いっぱいしゃべりまくってさっと帰って行ってしまった。押し出しの強さは流石に広告代理店の人。もっとも「トップを狙う」なんて大ボラは吹かず、「電通と博報堂にはかないません。とにかく今は6位か7位のところを、今世紀中に5位にまで上げるのが目標です」という当たりは、謙虚さとゆーかあきらめといったニュアンスが漂っている。しかし5位ってことは、電通、博報堂の下にまだ2社あるってことで、現在3位グループと呼ばれる東急エージェンシー、大広、旭通信社のどこを追い抜かすのか(どこが落っこちるのか)興味のあるところ。どーもD社のよーな気がするが、こないだ取材に行ったばかりなので匿名(バレバレ)にしとく。

 坂田靖子さんの「伊平次とわらわ」(潮出版社、580円)の第2巻が発売されていたので早速買って電車の中で読み、ぐひぐひと笑いが出てきて周りの視線に押しつぶされそーになる。いや、とにかく面白い。第1巻を読んだ時に、伊平次って何か秘密を持ってるんじゃないだろーかとゆー疑問を持ったけど、第2巻じゃーまだその辺の説明はない。変わりにもっと秘密を持ってそーなお公家さんとか、化け物と暮らしたってへーきってゆー女の子が登場したりと、キャラクターが増えてどんどんと話がふくらんでってる。44ページと45ページの見開きで登場する「百鬼夜行」は、数ある妖怪コミックスの中でも屈指の出来。もしどっかで出会ったら、あまりの恐ろしさ(面白さ)にきっときっとブルちゃうね。


【9月4日】 明け方の3時頃に急激な腹痛に襲われて目が覚める。何度かの峠越えを経て、ようやく落ちつきを取り戻したものの、まんじりともできずに朝を迎え、ぼちゃぼちゃと準備をして会社へと向かう。頭はクラクラ、足下はフラフラの状態で、これで仕事ができるのだろーかと思ったが、体力を使うような仕事はしていないので、まあ大丈夫だろーと勝手に納得する。

 午前中はリリース処理。富士通がドゥ・ハウスとゆー会社と組んで始めた「iMi(いみ)」とゆーサービスの話を記事にする。登録してくれた人にダイレクトメールを送ったり、アンケートを実施して情報を集める1種のマーケティング活動を、電子メールでやてしまおうとゆー事業。もちろんタダでアンケートに答えさせられたり、メールを送りつけられるとゆーことはなくって、返事の量に応じて30円から500円くらいまでのポイントをもらい、ある程度溜まったら商品券とかお買いもの券とかに引き替えてくれるのだそうな。企業は目的とする相手に的確に情報を発信でき、ユーザーはこれに答えて謝礼を貰う、得するばかりのサービスのよーに見えるけど、こんなサービスが増えた日にゃあ、商業メールばっかりがばんばんとネットを行き来して、トラフィックを阻害する要因にならないのだろーかと、少し心配してしまう。

 昼食を抜いたのが奏効したのか、胃腸の調子も回復してきたので、ヤッと気合いを入れて取材に向かう。最初に向かった先は、森高千里のCD−ROM「渡良瀬橋」で有名なオラシオン。最近どんな仕事をしてますかーとかいったことを、社長の菊地哲榮さんに聞いたところ、年末は「マイ・リトル・ラバー」のCD−ROMで森高以上のヒットを狙うとゆー、超強気の返事を戴いた。これまでに発表された楽曲全曲とビデオクリップ4本、さらにアートディレクターの信藤さんが撮り下ろしたマイラバの写真を100枚以上を収録するという超お買い得な内容だから、菊地社長の強気も宜成るかなといったところではなかろーか。しかしいつも元気いっぱいの菊地社長。話している最中にも携帯に電話がばんばんかかってきて、その度に応援団仕込みの大きな声で喋るものだから、秘密の電話の内容も、菊地さんのパートだけがフロア中に響きわたり、聞いている方がハラハラしてくる。上のフロアでも聞こえるのだろーか。

 とゆーわけで、オラシオンの上にある会社に忍び込んで、床に耳をあてて菊地社長の声が届かないか試していたら、会社の人に見つかって大目玉をくらってしまった。聞くとホームページの制作なんかを手掛けている会社だとゆー。その名もキノトロープ。そうかキノトロープ、なんだってキノトロープ? おーキノトロープ! そうですインターネット業界にその名を馳せるキノトロープは、代々木上原駅前のビルを引き払い、オラシオンの入っているビルのオラシオンの上のフロアに転居して、日々菊地社長の大声に耳そばだてて、じゃなくって日々新たなるインターネット・コンテンツの創造に向けて、邁進しているのであった!

 実は8月の中旬に転居の案内をもらっていて、オラシオンに行く用事を作ってその足で引っ越しのご挨拶に出むいたとゆーのがことの次第。決して忍び込んだりはしていません。新しいオフィスは前のオフィスの2倍の面積があるとゆーことで、卓球台なら10台、雀卓なら30台は置けるんではなかろーかとゆー広々としたフロアに、何10台ものパソコンが並べられて、ガンガンと稼働していた。3時過ぎだとゆーのに、皆さん一心不乱にパソコンに向かって仕事をしておられ、同好会的な浮っついた雰囲気などはカケラも見えない。こーして会社って大きくなっていくんだなーと感慨に浸り、30分ほどで辞去する。シナジー幾何学もオラシオンもどんどん大きくなっていく。キノトロープも次に行く時はさらに倍、次の次は倍の倍と大きくなって、やがては我が社など軽く抜いてしまうんだろー。まあしゃーないか、古いんだから滅びたって。


【9月3日】 これほどの講談社ノベルズの当たり月が、かつて何度あったことだろうか。涼しくなってから読もうと思っていた「積ん読本」が3つ、4つの山となってベッドサイドに立ち並んでいるのに、ついつい買ったばかりの講談社ノベルズの新刊へと食指が伸びる。おまけにどれも大著で名著で快著だ。日中の仕事の疲れ(あんまり疲れないんだけどね)もなんのその、行き帰りの電車はもとより給食(ぢゃない弁当だ)の時間もおやつ(勝手にプリンを買って食べる)の時間も、新刊の講談社ノベルズと首っ引きになって取り組む。

 清涼院流水先生の「コズミック 世紀末探偵神話」を片づけたあとで、寝付くまでの数時間を太田忠司さんの「摩天楼の悪夢 新宿少年探偵団」(780円)に取り組んだのは夕べのこと。睡魔に負けて眠ってしまったものの、パッチリ冷めた朝の6時くらいから再び太田さんの新刊に取りかかり、行きの電車と取材に向かう電車の中で読み終えてしまう。ヤング・アダルトとして出せば、きっと何10万部も行くような設定の話だけど、しっかりした土台の上に建てられた少年探偵団やその支援者、そして敵たちの描写は、子供たちだけに読ませておくのはもったいない出来。ノベルズとして出版されたことの意味もここにあるよーな気がする。

 太田さんは僕の高校の大先輩に当たる人で、今も名古屋に在住して、名古屋を舞台にした推理小説を出してくれている。「新宿少年探偵団」はさすがに東京を舞台にした小説だけど、こればっかりは「今池少年探偵団」とか「大曽根少年探偵団」とか「名駅少年探偵団」じゃー、カッコつかないもんね。仕方ない。でも読んでみたい気がするなー「金山少年探偵団」なんか。(すっげーローカルですいません)

 ローカルついでに地元名古屋が生んだ新星、森博嗣さんの第3作目となる「笑わない数学者」(880円)にも取りかかり、こっちは夕食を挟んでさっきまでかかってようやく読み終える。「すべてがFになる」で先頭集団に踊り出て、第2作の「冷たい密室と博士たち」でぐいぐいと中間疾走に入った森さんが、ここいらあたり一気にとばかりに、他を引き離しにかかった1作。主人公の犀川創平も西之園萌絵もやっぱり名古屋弁を喋らないけど、冒頭で名古屋駅の待ち合わせの名所「ナナちゃん人形」を出しくれて嬉しかった。

 「名鉄セブン」の前に立ってるから「ナナちゃん」。サカエチカの「クリスタル広場」、名駅新幹線口の「壁画」と並んで名古屋3大待ち合わせ場所の1つに数えられているけれど、「新宿の目」「動輪広場」「銀の鈴」「忠犬ハチ公」ほど全国区ではない。あっと昔は「オリエンタル中村カンガルー前」ってのもあったなあ。それから犀川助教授が西之園クンに聞いて知らないって言われた「もぐらのチカちゃん」は、名古屋の地下街のテーマソング「もぐらのチカちゃんいったとさ なんなんナゴヤの地下8丁」から来ているもので、名古屋では知らない人はない、ってことは全然なくってもはやほとんど誰も知らない。森さんてなかなかのディープナゴヤンね。

 聞く音楽がパイオニアLDCからもらったアニメCDばっかになっていて、脳裏に焼き付いた2次元美女の前に、3次元フツー女がかすむ日々を送っている。なんかとっても不健康。まだ何枚も聞いてないんだけど、かの難波弘之さんが音楽を担当した「アミテージ・ザ・サード」のサントラCDはアニメのサントラとは思えない翔んだ出来。「飛行船の上のシンセサイザー弾き」で聞いたような音色がそこかしこに登場して、おおプログレッシブ難波、朝の「ひまわり」で山下達郎の楽曲を編曲しているだけじゃないんだぞ、ってとこを見せてくれる。笠原弘子さんのアルバムもヨーロッパ風な雰囲気の楽曲が声優のCDにしては珍しい。でもやっぱり「天地無用!」とか「神秘の世界エルハザード」とかのドラマCDに聴き入ってしまうところに、僕ってつくづくアニメ者なんだなーと自覚する。


【9月2日】 寝しなにバーボンウイスキーを流し込んだのが良くなかったのか、どっぷりと寝汗をかいてベトベトになって目が覚める。まだ6時前。充分に睡眠をとったとはいい難いにも拘わらず、2度寝をしたいと思うほどには眠気が襲ってこない。仕方がないのでパソコンに積んである定番ゲームをしたり、テレビの「やじうまワイド」なんぞを見ながら、出勤までの時間を潰す。

 月曜日だからといって忙しいとか逆に暇だということはなくって、いつもどーりにいつものよーな仕事をして午前中を過ごす。午後に入ると発表資料も増えてきて、だんだんと忙しくなってきたけれど、それでも3時頃にはあらかた片づいてしまった。夕方からの予定では、初めは大日本印刷のギンザ・グラフィック・ギャラリーで今日から始まった展覧会のレセプションでものぞこうかと思っていだんけど、シナジー幾何学から届いていた発表会の案内状を見て、そっちのほーに行くことにした。

 場所は千葉市美浜区にあるキヤノン販売幕張本社ビル1階の「ワンダーミュージアム」。「アリス」「L−ZONE」「GADGET」を作った庄野晴彦さんの作品展が今日から始まって、その披露パーティーが開かれることになっていた。会場には「GADGET」でお馴染みの庄野さんの世界が、パネルやらスライドやらモニターやらの形で展示されていて、1枚2枚持って帰って、部屋の中に飾りたい衝動にかられた。

 パーティーが始まって登壇した庄野さんは、広大無辺な世界を作り出す人というイメージとはちょっと違って、とっても小柄で繊細そうな人だった。けれども作品作りにかける熱意は並大抵ではなく、「GADGET」や97年に発売される予定の新作まで、自作に対する思い入れを間断なく喋ってくれた。庄野さんの作品に登場する人物って、前々から舟越桂の彫刻に似ているなーと思って、「なんだか木彫りの彫刻みたいですねえ」って話を向けたら、「ええ、僕、舟越桂の写真集を持ってるんです」って答えてくれて、やっぱりーなどと思ってしまった。聞くと庄野さん、CGの登場人物を作る時に、実は立体のモデルも作っているのだとか。それだけフィギュアにして売りませんかと聞いたら、顔だけしかないので無理でしょうとのこと。「渚カヲル」くんなら顔だけでもいーけど、「GADGET」のおっさんたちじゃー売れないかなー、やっぱり。

 新刊漁りを長年続けていると、配本の関係で発売日前の本が早く店頭に並ぶ書店というのが解ってくる。あたりをつけて行ったら、案の定、今年下半期最大の問題作(?)、その名も清涼院流水先生の「コズミック 世紀末探偵神話」(講談社ノベルズ、1400円)が並んでいたので、早速購入して電車の中で読み始める。ノベルズで700ページとは、京極夏彦さんほどではないけれどなかなかの分量で、読み終えるのにどのくらいかかるのだろーかと心配しながら読み始めた。意外にもあっさりとした内容で、ほどなくして読み終えた感想は「面白い、んじゃないかな」。キャラクターの多様さを楽しむことができる一方で、話の帰結を推理小説的な枠組みで説明しきれない点に居心地の悪さを覚える。「俗物図鑑」かと思って読んでいたら、「百億の昼と千億の夜」になってしまったって感じ(どーゆー感じだ)。推理小説じゃなくってSFなんだと思ってしまえばラクなんだけどなー。


【9月1日】 ちゃんと早起き。9時半には家を出て、「神保町ぶらぶら(略称=神ぶら)」を楽しみに神田神保町へと向かう。日曜日なので古本屋はたいがい閉まっているけれど、今日は新刊漁りが目的だったので関係ない。書泉ブックマートやら三省堂書店やらをぐるぐると回って、地元の本屋には配本の関係からまだ並んでいない新刊を見つけては、財布との相談に入る。

 で、結局買ったのは日本人によるエッセイを2冊。1冊は元「週刊プレイボーイ」の編集者で、今はゴーストライターとして知られる(?)中原一浩さんの「幽霊作家は慶應ボーイ」(藝神出版社、1700円)。学生時代の無茶苦茶ぶりとか、それに輪をかけてのハチャメチャぶりだった「週刊プレイボーイ」時代のことが、巧みな筆致で書かれていて、かつての出版社の余りのやっちゃ場ぶりに、マスコミに憧れる学生は驚き呆れ、しゃれたスーツ姿が板に付いた最近の出版人たちは愕然とする。ゴーストライターの仕事と収入について書かれた暴露本ととれなくもないんだけど、むしろ自衛隊朝霞駐屯地での自衛官刺殺事件に絡んで逮捕された「週刊プレイボーイ」の編集者だったことを、事件から25年を経て満天下に広言していることの方に驚きを覚えた。

 もう1冊は「バルダサールの遍歴」「略奪美術館」の佐藤亜紀さんが、鋭い筆致で世間の欺瞞を暴いた問題の書「陽気な黙示録」(岩波書店、2300円)。前々から言葉の強い人だと思っていたけれど、岩波の「世界」に連載されたエッセイとは思えないほどに、右も左も上も下もん関係なく、「良識」だとか「常識」だとか「固定観念」だとかを揶揄し挑発してくれる。これを面白いと喝采を贈るのは簡単だが、自分自身がそうした「良識」とか「常識」とか「固定観念」に縛られた人間である以上、客観的な立場に身を置くことは出来ない。かといって佐藤さんの論を受け入れるのは癪にさわるし、でも反論するだけの論拠も理論も知識もないしって、始めっから弱気の自分が情けない。でも反省はしない。やな奴だね、オレって。

 昼食兼夕食として、食中毒の危険も省みずに果敢にハンバーグに挑む。なんて意識はまったくなくて、3個入り1パックが150円と安かっただけのこと。それにしても、昨日はハンバーグにポテトサラダにエビスビール、今日はハンバーグにマカロニサラダにエビスビールと、サラダの種類が違うだけでほとんど同じメニューってのが哀しい。給料出たばっかりなのに、どーしてなんだろーって、毎日の様に本を買いまくっていりゃー、食生活に影響が出るのも仕方がない。9月に入って新刊ラッシュも始まることだし、次の給料日に向けていよいよパンと水だけの生活も、覚悟しなくちゃならんのか。アル原の依頼もないしなー。


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