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12.男友だちを作ろう 13.ニキの屈辱 14.私の中の男の子 15.昼田とハッコウ 16.太陽がもったいない 18.可愛い世の中 19.反人生 |
【作家歴】、人のセックスを笑うな、浮世でランチ、カツラ美容室別室、論理と感性は相反しない、長い終わりが始まる、手、男と点と線、モサ、ここに消えない会話がある、あたしはビー玉 |
美しい距離、母ではなくて親になる、偽姉妹、趣味で腹いっぱい、リボンの男、肉体のジェンダーを笑うな、ミライの源氏物語、あきらめる |
●「この世は二人組ではできあがらない」● ★★ |
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2012年12月
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著者曰く、本作品のキャッチコピーは「素朴な社会派小説」だそうです。 紙川は、卒業後フリーターとなって学習塾チェーンのアルバイト講師になる。その紙川、自分の人生を着実に築き、栞との関係も着実に確かなものにしていこうという風。 2人の経緯は極めて平凡なもの。ドラマ性はないし、そのキャラクターにしても格別なところは殆どありません。 |
●「男友だちを作ろう」● ★ |
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未読のままである山崎さんのエッセイ集「指先からソーダ」に次ぐ、エッセイ第2集だそうです。 という訳で14人との14会話が収録されている訳ですが、読み慣れている阿川佐和子さんの「この人に会いたい」と比べると、様子も雰囲気もかなり異なるのです。 プロローグ/二十五メートルで区切る理由がわからない。僕へ永遠に泳げる気がしていた(会田誠・現代美術家)/月とお粥(「支那そば」店主)/わざわざパースを狂わせて(のりたけさん・イラストレーター)/「フリータイム」と並んで(岡田利規・演劇ユニット「チェルフィッチュ」主宰)/世界はすごく面白いと思っていて(石川直樹・写真家)/なんかの質感が僕は好き(スズキタカユキ・ファッションデザイナー)/夢(長嶋康郎・古道具屋「ニコニコ堂」店主)/「お笑い」の人に会う(後藤淳平・福徳秀介・お笑いコンビ「ジャルジャル」)/敬語ランク上位(石島裕之・編集者)/家とは何か?(小川てつオ・アーティスト)/みんな、「ちょっと死にたい」と思っているような気がしていて(前田司郎・劇団「五反田団」主宰)/大学生と喋る(遠藤寛之・大学生)/優しくて、可愛い(中原昌也・音楽家)/詞は、書くときと歌うときとで、別でいい(後藤正文・ASIAN KUNG FU GENERATION)/エピローグ |
●「ニキの屈辱」● ★★ |
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2014年06月 2011/08/31 |
「人のセックスを笑うな」以来、久々の恋愛小説。 主人公は加賀美和臣24歳。写真系の学校を出たもののフリーターをしていた彼が折よくアシスタントになれた相手は、女性かつ23歳というさながら既に人気写真家として5年のキャリアがある村岡ニキ。 お互い恋愛に極めて不器用、だからこそ自信が持てない、相手を想う気持ちがすれ違ってしまう。 思いがけない喜びを味わえるのも、ままならないのも、恋愛というもの。2人と共に読者もまたそんな想いを共有したくなる佳作です。 |
●「私の中の男の子」● ★ |
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主人公の雪村は大学生、19歳で作家デビュー。それまでの雪村に「性別はなかった」?のだという。 ただ、作家であるといっても男性か女性かのいずれかではあるし、作家であることと男性か女性かであることは別の問題。要は、気にしなければそれまでのことと思うのですが、雪村はそれをひたすら気にし、手術まで受けてしまう。 抗議したい気持ちは判るけれど、だからといってそこまでする必要はあるのか。気にせず捨て置けばいいことではなかったのか。私は男性なので、そこまでの女性の気持ちが理解できていないと言われてしまえばそれまでなのですが、どうもピンと来ない、というのが本作品に対する私の印象です。 |
15. | |
「昼田とハッコウ」 ★★ |
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2015年09月
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山崎さんには珍しく 540頁とかなりの長編作品。 町の書店を舞台にしたストーリィですが、大崎梢作品のように熱く書店商売が語られることはなく、淡々と書店の仕事内容を紹介するという風です。 結末も解決もないストーリィ。本作品を気に入るかどうかは、読む人の好み次第ということになろうかと思います。 ※同じ書店・古本屋を営む家族であっても、小路幸也「東京バンドワゴン」とは対照的。比較してみるのも一興でしょう。 |
16. | |
「太陽がもったいない」 ★☆ |
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小説だろうと思っていたら、エッセイ。それも、山崎さんが住んでいる賃貸マンションのベランダを使用してのプランター菜園、花やミニ野菜を育てる日々のあれこれを語った一冊。 まぁ地味で小さな範囲のこととなる題材ですが、それでもずっと様々な試みをやっていれば、そこから自然にいろいろなことを思い、考える、というもの。 一つ一つのエピソードが重なり、積もり積もっていくにつれ、次第に山崎さんの語りを読むのが楽しくなってきます。 趣味とするにしても割りと手を出しやすいものですし、ミニ野菜や夏の陽射し対策といった実益にもなるところがありますから、それなりに楽しそうとは思いますけれど、夫婦そろって物ぐさなものですから我が家では多分縁はないなぁ。その分、本エッセイを楽しもう、という気持ちです。 なお、本書で山崎さんが海外旅行好き、結婚したこともさらりと触れられています。 山崎さんの日常にちょっと触れることができたと思えるところも、ファンとしては楽しき哉。 |
17. | |
「ボーイミーツガールの極端なもの」 ★★ |
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題名から当然にして、男女の出会いを描いた短篇集と思いますよね、それも若い男女の。 ところが冒頭の第1章には三世代の女性3人(伯母、姪、その継娘)が登場し、まずは72歳の鳥子さんが初めて抱いた恋情が描かれるのですからええッとなり、そのうえ各章で変わり種のサボテンが写真と共に詳細に説明されているのですから、アレレと思うのもむべなるかなでしょう。 三世代の女性3人について順繰りに描かれたら、次にはヒキコモリ中&となる兄弟、さらにはヒキコモリアイドルとして売り出した従姉妹コンビまで登場し、恋愛小説である筈なのに一体これは・・・・と煙に巻かれた思い。 しかし、心を落ち着け、先入観を取り払って眺めてみれば、どれも恋愛関係を描いていると言えなくもありません。要は、一般的に考えられる恋愛関係からはどれもかけ離れている、というだけのことであって、それは毎章で紹介される変種のサボテンに似る、ということらしい。 人の感情はそれぞれ、感じ方、想い方、そうした感情が芽生える時期も人それぞれに在って当然なのだと言われると、恋愛とはTVドラマで描かれるようなものという先入観を押し付けられ恋愛は苦手と頭を抱えている人には、ホッとさせられる短篇集ではないでしょうか。 じっくり、ゆっくり、時間をかけて噛みしめ、そうして初めて味わいと面白さを感じることのできる一冊だと思います。 「・・・極端なもの」という題名はそうした意味だったかと感じる次第です。 ※なお、本書に登場した人物の中では、最初の登場した三世代・3人の女性が一番楽しい。 1.処女のおばあさん/2.野球選手の妻になりたい/3.誰にでもかんむりがある/4.恋人は松田聖子/5.「さようなら」を言ったことがない/6.山と薔薇の日々/7.付き添いがいないとテレビに出られないアイドル/8.ガールミーツガール/9.絶対的な恋なんてない/エピローグ |
「可愛い世の中」 ★★ |
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2018年05月
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主人公は四姉妹の次女で、長女と四女と異なり容姿に恵まれなかったことから堅実に人生を歩んできた豆子、32歳。勤務する会社では営業職、吉祥寺の高層マンションで一人暮らしというのが現在の状況。 それなりに現状に満足していたのですが、会社の先輩女子から子供を産むかどうか早く決めた方が良いと言われ、それまで結婚願望など全くなかったのが、近々結婚予定。 ところがマッサージ屋の店員である結婚相手は全く貯金なしのうえ、マッサージ以外の実務能力は皆無。 自分の貯金ならびに自分の実務能力で結婚式を仕切り、家族や友人らから評価されたいと願ったものの、どうも世間の価値観は自分のそれとは全く違うらしいと気付くことになります。 結婚相手とはどういう存在か、必要なパートナーとはどんな存在か、そして思うに至ったことは「『経済力』という名の香水を作りたい」ということ。 要は、自分という人間を“経済力”という点から評価されたいという願望に気付いた女性の顛末記。 判るなぁ。出世、地位、年収等々これまで主に男性を評価するのに使われてきた基準も平たく言ってしまえば“経済力”という言葉に集約できるのではないでしょうか。 主人公の豆子、人と変わった発想の持ち主ですが、社会性を欠いている訳でもなく、変人ということもありません。 男女平等が当たり前となった現代の経済社会をベースに考えれば、そこで評価されるべきは“経済力”、となるのは当然のことでしょう。 これからの価値観を平明かつリアルに描き出してみせた本ストーリィには、痛快かつ新鮮な面白さがあります。 読む方の好み次第になりますが、私としてはお薦め。 |
「反人生」 ★★ | |
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表題作の「反人生」が本書全頁の半分を占める中編、それに短編〜掌編を加え、計4篇からなる作品集。 「反人生」の舞台は近未来で、主人公は55歳になる萩原萩子という女性。既に夫は死去し一人暮らし。そんな萩子は“幻レストラン”という店の早蕨という25歳のウェイトレスに心惹かれ、今は萩子もその店にバイト勤め、早蕨とウェイトレス仲間になっています。 小説であれば、主人公の身に大なり小なりドラマチックな出来事が起きるというのがストーリィの常道である筈。しかし、山崎さん曰く「自分の人生においては自分が主人公という考え方が嫌いだ」とのこと。 本書題名は、ドラマチックではない人生、主人公とはとてもいえないような平凡な人生、という意味なのでしょうか。 「反人生」において萩子と早蕨は、友人以上恋人未満といったような関係か。「T感覚」では母と娘、「越境と逸脱」では大学生時代からの友人関係にある男女、「社会に出ない」では大学生時代から続くグループ仲間といった関係が描かれます。 ただし、これといった出来事は特に起こらず、時間の経過によって自然と別れの時期を迎えるといったような展開が描かれます。 ドラマの主人公になれたら格好いいかもしれないけれど、むしろ脇役でゆっくり時間を過ごす方が楽なのかもしれない。 本書4篇で描かれるのは、緩やかな時の流れ、そして緩やかな人間関係の変化。肩ひじ張らなくても済むそんな状況が、何となくとても居心地良い。本書はそんな作品集です。 反人生/T感覚/越境と逸脱/社会に出ない |
「ネンレイズム/開かれた食器棚」 ★★ | |
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「ネンレイズム」は、ちょっと変わった高校生3人が登場、互いに友情をはぐくみます。 主人公の村崎紫(むらさきゆかり)は、早く年寄りになりたい女の子で、自称68歳。 そんな主人公と友情を結んだのは、紫優香里(むらさきゆかり)という、今は女子高校生っぽくありたいと思っている同姓同名の同級生。 そして、ゆっくり成長したいと考えている同学年のスカート男子=加藤くん。 3人は公民館で開催されている編み物教室に、おばあさんグループ、おばさんグループに混じって通い始めます。 奇妙、風変わり、何とでも言えそうですが、3人がお互いの考え方の違いに左右されず友情を結んでいくところは、実は鷹揚でとても素晴らしいことなのかもしれません。 高校時代は、これから大人へと進んでいく手前の時期、何があっても自分さえ見失わなければいい、という気持ちがします。 何となく意表を突いた作品、ちょっと可笑し味とちょっと哀しさあり。 「開かれた食器棚」は、少々発達障害のある娘を持つに至った主婦=鮎美さんの、後ろめたい思いと前に踏み出そうとした勇気、そして心配しながらも娘を見守ろうとする温かな想いを描いた短編ストーリィ。 鮎美と一緒にハワイアン・カフェを営む園子さん、そして肝心の娘=菫、人と人が繋がり合う中で子供を見つめるということの大切さを感じる思いです。 とても気持ち良く、温かな読後感に包まれる篇です。 ※上記2篇に共通するのは、自分のペースで生きていくことの大切さかなぁと思います。 ネンレイズム/開かれた食器棚 |
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