大崎 梢作品のページ No.1


東京都生、現在神奈川県在住。2006年「配達あかずきん」にて作家デビュー。


1.配達あかずきん
−成風堂書店事件メモNo.1−

2.晩夏に捧ぐ−成風堂書店事件メモNo.2−

3.サイン会はいかが?−成風堂書店事件メモNo.3−

4.片耳うさぎ

5.平台がおまちかね−出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズNo.1−

6.夏のくじら

7.スノーフレーク

8.ねずみ石

9.背表紙は歌う−出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズNo.2−

10.かがみのもり


キミは知らない、プリティが多すぎる、クローバー・レイン、ふたつめの庭、ようこそ授賞式の夕べに、忘れ物が届きます、だいじな本のみつけ方、空色の小鳥、誰にも探せない、スクープの卵

 → 大崎梢作品のページ No.2


よっつ屋根の下、本バスめぐりん。、横濱エトランゼ、ドアを開けたら、彼方のゴールド、さよなら願いごと、もしかしてひょっとして、めぐりんと私。、バスクル新宿、27000冊ガーデン

 → 大崎梢作品のページ No.3

 


    

1.

●「配達あかずきん−成風堂書店事件メモ−」● ★★


配達あかずきん画像

2006年05月
東京創元社刊
(1500円+税)

2009年03月
創元推理文庫化



2006/09/19



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書店を舞台にした本にまつわるミステリ、連作短篇集。
探偵役となるのは、成風堂書店・正社員の杏子+女子大生バイトの多絵という若い女性コンビ。
店に来る客から本に関わるいろいろな相談事を持ちかけられる杏子ですが、時には謎めいた相談事も多い。そうなると杏子が引っ張り込むのは、手先は折り紙つきの不器用ものですが勘はとても鋭いという多絵。

何にもまして書店が舞台というのが楽しいです。本好きにとってはすこぶる居心地の良い場所であり、大好きな場所のひとつですから。
書店員が主人公ということもあって、一般客にはあまり見えない書店の裏側の仕事、書店員の皆さんが苦労している部分も知ることができるのが嬉しいところ。
私も大学生の頃、ターミナル駅にある商業ビル5階にあった大手書店でバイトしていたことがあります。その頃のことが思い出され、とても懐かしかった。
収録されている5篇は、奇妙な題名の本探しから、老婦人がコミック本を買った途端行方知れずになった話、盗撮写真が配達したばかりの雑誌に挟まれていた事件、折角のディスプレイが悪戯された事件、素敵な本を紹介した謎の店員は? まで実に多彩。
まさに人が沢山集まる書店だからこそ生まれるミステリ、といった観があって、たっぷり楽しめます。お薦め!

表題作「配達あかずきん」に登場するとぼけた味のフリーター店員の女の子・吉川博美のキャラクターも微笑ましいのですが、不器用さと勘の鋭さを併せ持つアンバランスさ、そのくせ行動力はしっかりあるバイト店員・多絵が私はやはり一番好きです。

※末尾の付録、ミステリ好きな妙齢の女性書店員を4人集めての対談も楽しめます。題名はどうもこの対談で決まったらしい。

パンダは呟く/標野にて 君が袖振る/配達赤ずきん/六冊目のメッセージ/ディスプレイ・リプレイ
(※書店のことは書店人に聞け)

  

2.

●「晩夏に捧ぐ−成風堂書店事件メモ(出張編)−」● ★☆


晩夏に捧ぐ画像

2006年09月
東京創元社刊

(1500円+税)

2009年11月
創元推理文庫化



2006/10/16



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配達あかずきんの成風堂コンビ、杏子多絵が活躍する第2作、それもなんと長篇!
短篇集でデビューしたばかりだというのにもう長篇が出たというのにはびっくりですが、「成風堂事件メモ」ファンとしては嬉しいの一言。
今回の舞台は、早くも成風堂書店を離れて信州へ。かつて成風堂で杏子と同僚であった美保が地元に帰って現在勤めている書店・まるう堂(正式には宇津木堂書店)、地元で愛されているその老舗書店になんと幽霊が出たという。しかも27年前に起きた小説家刺殺事件、その犯人とされ獄中死した青年の幽霊らしいという。そこで美保が、杏子と多絵に事件解決を頼んできたという次第。杏子はしぶしぶだったが、多絵が乗り気。半ば温泉旅行期待も抱いて2人は信州へ。

まるで私が初めて読んだホームズもの、「バスカヴィル家の犬」みたいじゃないですか。そこまで2人が本格的探偵になってしまって良いのかなァと思うのですが、そこは大崎梢さんの巧みなところ。
これはあくまで書店での謎である。「書店の謎は書店人が解かなきゃ」という第一作の路線を外れるものではない、という主張が随所に見られます。
単に探偵ものとなっていないのは、まるう堂書店が地元で愛されている理由は何か、父親とは路線の異なる息子が開いた郊外店が成功した理由は何か、本好き・本屋好きには欠かせない要素も十分に盛り込まれています。
杏子がしきりに心配するのと対照的に、多絵は事件解決に自信たっぷり。多絵ちゃん、なんでそうなの〜?というのが、事件そのものより私の気になるところ。しかし、さすがは一流大学法学部の優等生。多絵には彼女を手助けしてくれる後輩や情報機器があるのです。
事件の真相そのものより、私にはまるう堂書店の話、小説家と内弟子たちとの関係、当時の関係者たちに丹念に聴取していくという展開の方がむしろ楽しかった。そして、それに増す杏子&多絵コンビの魅力が、何よりも嬉しい。ただし、成風堂書店の店員、客の様々な顔を楽しめなかったところがちと残念。
ともあれ、「配達あかずきん」のファンになった方であれば迷わず本書をお読みあれ。多絵が成風堂書店でバイトするようになった謎への期待も本書で膨らむのですから。

   

3.

●「サイン会はいかが?−成風堂書店事件メモ−」● ★★


サイン会はいかが?画像

2007年04月
東京創元社刊
(1500円+税)

2010年03月
創元推理文庫化



2007/05/19



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24歳の書店員・杏子と21歳の女子大生バイト店員・多絵ちゃんが活躍する“成風堂書店事件メモ”シリーズ、第3弾。
今回は配達あかずきんと同じく短篇集です。

本書の面白さが日常ミステリにあるところは間違いないことですが、実はそれ以上に魅力的なのは、書店の仕事における様々な苦労話を聞けること。
本書で特に目を引かれたのは、“客注”の苦労、そして雑誌の付録にまつわる苦労話。売れ残りを返品する際、付録は書店での廃棄となり、さらにゴミ分別に苦労するとのこと。そんな打ち明け話を聞くうちに、杏子と同じ成風堂書店の店員の気分になってくる、それこそ本好き、書店好きにとってたまらなく楽しいことなのです。
そのうえ本シリーズのミステリは、書店だからこその謎、書店でだからこそ解き明かせる謎であるというのですから、嬉しいことこのうえありません。
そして、本書中の杏子や多絵ちゃんの何気ない言葉の中に、とても気をそそられる一言が幾つも潜んでいます。
杏子曰く「本の数ほどトラブルの芽は潜んでいる」、「多絵ちゃんは本屋の味方で、本屋の敵は多絵ちゃんの敵なの」「そして本屋ファンの味方でもあるわけよ」
名探偵と呼ばれた多絵曰く「本屋限定ですよ」と。
これらはもう、「配達あかずきん」における「書店の謎は書店人が解かなきゃ」以上に、ファンに対する殺し文句です。

また、随所に杏子がコミカルに多絵ちゃんを揶揄する場面が各章にちりばめられています。頭脳明晰だけれど、人並み以上に不器用という多絵ちゃん、なんと可愛らしいキャラクターであることか。ガールフレンドにしたい登場人物というコンテストがあったら、間違いなく上位入賞するキャラクターだと確信する次第。
しかしまぁ、「バイト金森くん」の冒頭で紹介される多絵ちゃんをおそった悲劇については何ともはや・・・。

なお、本書中とくに秀逸なのは「君と語る永遠」「サイン会はいかが?」の2篇。

取り寄せトラップ/君と語る永遠/バイト金森くんの告白/サイン会はいかが?/ヤギさんの忘れもの

    

4.

●「片耳うさぎ」● ★★


片耳うさぎ画像

2007年08月
光文社刊
(1500円+税)

2009年11月
光文社文庫化



2007/11/08



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父親が事業に失敗し、奈都一家は父親の実家に同居することになる。しかし、田舎の名家である蔵波の家は、迷子になるくらい大きくかつ薄気味悪い。そのうえ同居する雪子大伯母、伯父一家にも奈都は馴染めない。
父親が不在のうえに、急に入院した実母の看護のため母親まで里帰りとなり、小6の奈都は、あの広い家で4日間一人で過ごす夜を思うと恐怖に震えるばかり。
そんな奈都に救いの手を差し伸べてくれたのは、同級生の一色祐太。古い屋敷が大好きだというねえちゃん=中3のさゆりに話を通じると、さゆりは大喜びで泊まりに来てくれる。
しかし、そのさゆりこそ要注意人物なのかも? 礼儀正しい美少女という外見に反して好奇心旺盛。さっそく夜中、奈都を引きずり出して屋敷の探検に乗り出します。
古い屋敷に残る不吉な言い伝えと謎、そして屋敷の中を動き回る不審な人物の影。2人の少女が探偵役として、片や積極的に、片や否応なく、家族に秘められた謎解きに挑むという、ホームドラマ的ミステリ。微笑ましく、時に不可解で、最後には心温まる結果が待ち受けてくれるのが本作品の魅力。

ミステリはミステリなのですが、本ストーリィの肝心は家族物語にあります。
雪子大伯母や伯父一家に馴染めず、薄気味悪いばかりの屋敷と思い込んでいた奈都は、事件を通して初めて雪子大伯母らと打ち解け、そして古い屋敷にも隠れた魅力があることを見出し、晴れて一家の一員になれたのですから。また、奈都がさゆりという大事な友だちを持てたことも嬉しいこと。

奈都とさゆり、2人の女の子の人物造形が素敵な、心温まるホーム・ミステリ(そんな言葉ある?)。
心温まる成長ストーリィとミステリと、合わせて好きという方に是非お薦めです。

   

5.

●「平台がおまちかね」● ★★


平台がおまちかね画像

2008年06月
東京創元社刊
(1500円+税)

2011年09月
創元推理文庫化



2008/08/03



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中小出版社・明林書房の新人営業マン=井辻智紀を主人公とする“出版社営業・井辻智紀の業務日誌”シリーズ、第1弾。
成風堂書店事件メモは“本”業界を書店から眺めたシリーズでしたが、本シリーズは出版社側、それも営業マンの目から眺めたという点がミソです。
本好きにとっては、書店だけでなく出版社・営業マンの苦労をいささかなりとも知ることができるというのが、嬉しいところ。

主人公の井辻智紀は、謙虚で生真面目な好感の持てる青年。出版社でも編集の仕事だけはしたくなかったというのが奇妙ですが、その理由はご愛嬌。
そして、珍脇役は、井辻を「ひつじくん」と呼び、やたらまとわりつく観のある女性好きの他社先輩営業マン=真柴
本主人公=井辻の魅力、“成風堂”の多絵ちゃんに比べると見劣りするのがちと残念ですが、多絵ちゃんに比べてしまう方が無理というものでしょう。
出版社営業マン、それと並んで書店側の苦労話+日常ミステリ、というのが本シリーズの趣向。
また、各章の最後につけ加えられている業務日誌「井辻智紀の一日1〜5」も注視したいところ。
なお、書店を営業で回るストーリィですからそのうち成風堂にも?と思ったのですが、本書中でそれはなし。でも、最後にちゃんと出てきましたよ、多絵ちゃんと思われる女の子の噂話が。

各篇の謎は、
・自社本を熱心に売ってくれた書店主は何故冷たかったのか?
・熱心な女性店員は何故落ち込んでしまったのか?
・新人賞贈呈式の直前、受賞者は何故消えてしまったのか?
・閉店してしまった書店の看板に描かれていた絵の秘密は?
・平台に並べられた本は何故入れかえられるのか?
5篇の中で、地方にある書店の苦労を描いた「絵本の神さま」に感じるところ大でした。

最後に出版社、書店の皆さん、ごめんなさい。
いつも図書館から借りて読むばかりで、最近はほとんど書店で本を買っていません。う〜ん・・・・

平台がおまちかね/マドンナの憂鬱な棚/贈呈式で会いましょう/絵本の神さま/ときめきのポップスター

  

6.

●「夏のくじら」● ★★☆


夏のくじら画像

2008年08月
文芸春秋刊
(1619円+税)

2011年06月
文春文庫化



2008/08/31



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大崎さんといえば“成風堂書店シリーズを中心に書店絡み、ミステリ絡みの作品が多かったので、今回はそれらと違う青春物語ということで期待半分・心配半分だったのですが、読んでみればそんな心配を笑って吹き飛ばすような爽快なストーリィ。いやぁ嬉しかったです。

本作品は、高知で毎年8月に行なわれる“よさこい祭り”を舞台にした、爽快な青春ストーリィ。
主人公の篤史は、いくら志望校を軒並み落ちたとはいえ、何でわざわざ東京を離れてまで?と皆から思われつつ高知大学に入学。
ここ高知は父親の郷里で、篤史は祖父母の家に住んで大学に通うことに。
実は篤史、4年前の中学生のとき、同い年の従兄弟=多郎に引っ張り込まれ、訳が判らないままよさこい祭りに参加した経緯があります。その時ある人との約束を果たせなかったことが、ずっと胸の奥にわだかまりとして残っている。
そんなことを知る訳もなく、多郎はさっそく篤史を今度はスタッフとして復活した鯨井町チームに引っ張り込もうとします。その鯨井町チームのテーマは“恋するくじら”。

まず何といっても面白く、そして魅せられるように引っ張り込まれるのが、ストーリィの背景、最後の大舞台となる“よさこい祭り”。
ストーリィは順々と、よさこい祭参加への準備が如何に行なわれるのかという中で進められていきます。
よさこい祭がどんなものか、具体的なことは全く知らなかったのですが、これが実に面白い。ストーリィが進んでいくに連れ、メンバーたちと一緒に読み手の興奮も高まっていく、という具合。
そして熱気が膨れ上がっていく中、鯨井町メンバー一人一人が密かによさこい祭りにかけている想いが描かれるというストーリィ構成。
もちろんその中心に在るのは、主人公の篤史に他なりません。
篤史や多郎を初め、綾乃志織、カジ、その他よさこい祭りに参加する大勢の人の熱気漲る、爽快な青春ストーリィ。
そして篤史が後半、真剣に4年前の約束相手を探し出そうとしてからの展開は、F・W・クロフツばりの追跡捜査といった面影があります。ミステリ要素、ちゃんと大崎さんは本作品にも加えています。

よさこい祭りの興奮、熱気を蘇らせ、それにプラス青春群像、ささやかなミステリもありといった、まさに私好みの作品。
明るく健康的で夏に相応しい物語が好きな方、是非お薦めです。

※本作品、映画化されたらさぞ面白いに違いありません。
 なお、高知は大崎さんのご主人の郷里という縁だそうです。

プロローグ 四年前/四月 祭の町/五月 恋する衣装/六月 鳴子によろしく/七月 地方車は夢を見る/八月十日 アスファルト・ダンシング/八月十一日 花メダルをこの手に

  

7.

●「スノーフレーク Snow Flake」● 


スノーフレーク画像

2009年02月
角川書店刊
(1500円+税)

2011年07月
角川文庫化


2009/04/05


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大崎梢作品ということで楽しみにしていたのですが、(厳しい言い方になりますが)期待外れ。

函館に住む高校3年生の真乃。まもなく卒業し、東京の大学に進学して故郷を離れる予定。
その真乃が未だに忘れられないのは、6年前に一家心中事件で死んだ幼馴染、速人のこと。
もう一人の幼馴染であると最初にして最後のデートをしていた真乃は、その最中に速人そっくりの青年を街角に見かける。
あの事件の折、車ごと海に突っ込んだ一家の中で速人だけ遺体が見つかっていない。もしかして、速人は生きているのか?
故郷を離れるのに心残りを抱えたくないと、真乃は一人で当時の真相を突き止めようとする、という青春ミステリ。

ストーリィに最初から溶け込めなかったのは、不自然なところが大きかったから。
それは読み進むに連れ小さくなることはなく、むしろ大きくなるぐらいで、ストーリィにはどうしても溶け込めず。
真乃を支えようとする亨、友人である琴美シーコという存在にしても、どこか空想的で現実感に乏しい。
そして肝心の結末、そこへ持って行くのかぁと思わずがっくり。
不自然に過ぎ、感傷的に過ぎる青春ミステリ。
私としては、それより成風堂書店事件メモシリーズの続編を読みたいなぁ。  

 

8.

●「ねずみ石」● 


ねずみ石画像

2009年09月
光文社刊
(1600円+税)

2012年01月
光文社文庫化


2009/10/01


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神支村という辺鄙な村を舞台とし、その村に伝わる古式ゆかしい奉納祭りを背景とした、中学生を主人公としたミステリ。

4年前の奉納祭りの真っ最中、母娘2人が殺されるという事件が神支村で起きた。
その時小学生だったサトは、祭りの中の子供向けイベント=幸運を呼ぶとされている“ねずみ石”探しに熱中していた筈。それなのにサトは、山の中で行方知れずとなり、翌朝見つかった時は部分的に記憶を失っていた。
事件はそのまま未解決となっていたのですが、4年を経て何故か再び事件が動き出す。
そして今は中学生のサト、中学で親友となったセイに背中を押されるようにして再び事件と関わり合うことになります。
一体、あの時に何があったのか。何故サトは記憶を失ったのか。そしてまた、何故セイは事件を掘り返そうとするのか。

サトやセイ、そしてサトが慕う2学年上の修ちゃんら、中学生が主体となって事件の真相を探り出そうとするストーリィ。

伝統的な祭り、事件の鍵となっているらしい“ねずみ石”、怪しい人物は同じ村の親しい人間ばかり、事件解決の糸口をみつけるのは中学生4人と、いろいろ面白そうな要素てんこ盛りなのですが、全ての面において今一歩、という感じなのが残念。

  

9.

●「背表紙は歌う ★☆


背表紙は歌う画像

2010年09月
東京創元社刊

(1400円+税)

2013年07月
創元推理文庫化



2010/10/09



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中小出版社・明林書房の新人営業マン=井辻智紀を主人公とする出版社営業・井辻智紀の業務日誌シリーズ、第2弾。

成風堂書店”シリーズがお客と書店をめぐる本の謎であるのに対し、本シリーズは出版社の営業マンが主人公ですから、謎の範囲は出版社・書店・作家とより広がっています。
範囲が広ければストーリィも面白いかというと、必ずしもそうではないところが難しい。
読み手の立場からすると、書店のあちら側、業界内部という感じで、書店と客という“成風堂書店”シリーズに比べ距離があるという印象なのです。

しかし、その業界内部話だからこそかえって面白いというのが「君とぼくの待機会」。有名な文学賞の候補作が決まったところで各出版社の営業マンたちが心躍らせ、活気づく風景、なかなか楽しいものがあります。
「新刊ナイト」「背表紙は歌う」の2篇は、ちょっとホロッとなるストーリィ。その優しさが好ましい。
「プロモーション・クイズ」は、ある作品中の謎をめぐる話。易々とその謎を解き、さらに謎掛けをしてきたある書店員がいるというストーリィ。その書店の名前が成風堂と言えば、その書店員は彼女しかいないでしょう。
直接登場することはないものの、その存在を確認するだけで嬉しくなります。次こそ、是非その続編を読みたいもの。

・悪口を叩く取次社員の真の姿は?
・内気な作家のサイン会、かつての同級生という書店員に皆が不安を隠せない。
・とある地方書店に経営危機の噂。心配するベテラン女性営業マンの胸の内は?
・有名な文学賞の受賞作は既に決まっている? 噂を聞いた候補作の作家たちが動揺。誰が何のために?
・作品中の謎+ある書店員による謎掛け。さぁどう解く?

ビターな挑戦者/新刊ナイト/背表紙は歌う/君とぼくの待機会/プローモーション・クイズ

         

10.

●「かがみのもり」● 

かがみのもり画像

2011年03月
光文社刊
NOVELS
(952円+税)

2013年09月
光文社文庫化

2011/04/22

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実家は神社という新米中学教師の片野厚介、担任クラスのお騒がせコンビ=笹井誠勝又裕吾の言葉にうまうまと乗せられ、立入禁止という山宝神社の裏山(香我美山)に足を踏み入れることになります。
2人が見つけてカメラで撮ったという、怪しい洞窟の中に見つけた金色に輝くお宮。果たしてその正体は何なのか。
ところが、その直後からいろいろと不穏な動きが彼ら3人の周りに起き始め・・・・、というストーリィ。

本書は、光文社“BOOK WITH YOU”というシリーズ本の中の一冊ということなのですが、同シリーズ、どちらかというと児童向け。けれど、大人も子供の気分に返って楽しめる、という趣向のようです。
本作品も、まさにそんな趣向に適ったサスペンス。

ストーリィには、現代社会のトピック事件も盛り込み、それでも腕白少年たちの冒険ものというスタンスを守った、本格的軽量サスペンス。
ストーリィの割に登場人物は多彩で賑やか。
それなりに楽しめる、冒険+サスペンス作品です。

        

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