よくは判らなかったけれど、不思議な感じの残る2篇を収録。
「三月の5日間」は2005年岸田戯曲賞を受賞した作品の小説化であり、「わたしの場所の複数」は著者初の小説作品とのこと。
「三月の5日間」は、夜の六本木でたまたま知り合った男女2人がそのまま渋谷のラブホテルへ入り、途中1度だけ食事するために外へ出たものの後はこもりっきりでセックス、合間に取りとめのない会話を繰り返すというストーリィ。時はちょうど米軍がイラク戦争に踏み切った日。
途中男は、日常生活に戻ってTVをつけたら「あ、なんだよ、もう終わってるじゃん、戦争」みたいになるんじゃないかと女に言う。
世間が騒いでいる最中、それも喧騒の街・渋谷の只中でそんなことに一切関係ない5日間を過ごすというのが、奇跡的にも不思議なことにも思えてきます。
しかし、これって凄く恐いことにも思えます。現実的に起きている世界的に大きな出来事を、ラブホに閉じこもることで自分にとって単なるTV上でのドラマの如くにしてしまう、ということにも繋がるのですから。
「わたしの場所の複数」は、家に残っている妻が、バイトとバイトとの合間の早朝にベッカーズでうつぶせになって仮眠をとっている夫のことに思い巡らせるというストーリィ。
最初は夫のことを想像しているだけと思っていたのが、次第に夫やその周りの状況を傍にあって見ているかのように語っていく。
この妻、そして夫はどんな存在なのか。特にこの妻について、実は何なのか、と疑問が湧きあがって来ますが、それが説明されることはないまま終わります。
こういう複数の視点、舞台だったらあり得ないことで、戯曲とは異なる小説だからこそ可能となる、という意味の小説なのかと思う。
三月の5日間/わたしの場所の複数
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