上田早夕里
(さゆり)作品のページ No.2



11.
セント・イージス号の武勲

12.夢みる葦笛

13.破滅の王

14.トラットリア・ラファーノ

15.リラと戦禍の風

【作家歴】、ラ・パティスリー、魚舟・獣舟、華竜の宮、菓子フェスの庭、ブラック・アゲート、深紅の碑文、妖怪探偵・百目<1>、薫香のカナビウム、妖怪探偵・百目<2>、妖怪探偵・百目<3>

 → 上田早夕里作品のページ No.1

 


              

11.
セント・イージス号の武勲 His Majesty's Ship St.Aegis ★★


セント・イージス号の武勲

2015年09月
講談社刊

(1550円+税)



2015/10/03



amazon.co.jp

上田早夕里さんには珍しい、長編歴史小説。
背景となるのは、皇帝ナポレオン率いるフランス軍の攻勢を阻止しようとしたイギリス海軍が、スペイン・フランスの連合海軍と激突した
トラファルガー海戦です。
もっとも、純然たる歴史小説とはならず、海に棲む伝説の魔物<
大海蛇>と共生してきた古い海の民族を登場させているところは、華竜の宮の作者である上田さんらしいSF要素です。

主人公は、両親・妹が失意のうちに死んで天涯孤独となった少年
トビー・アディソン
そんなトビーが生きていくのに選択肢があろう筈もなく、船員向けの食堂でこき使われた後、志願し僅か13歳でイギリス軍艦に乗り込みます。しかし、交戦中に船から海へ転落、生死危ういところだったトビーを救い上げたのが、
セント・イージス(聖なる盾)号だったという次第。
トビーが驚いたことに、セント・イージス号の乗組員は若者や少年たちが主体。それは何故かというと、この船が新技術を実地に試すための実験船であるという特殊事情のため。

イギリス海軍の軍船とフランス・スペイン両海軍の軍船が激突する海戦シーンも見ものですが、歴史という過去の中において新技術、それを担うべき若者たちの未来へ向けた姿を描いたという構成が何とも魅力。
また、長編ストーリィともなれば登場人物の魅力も欠かせないのですが、本書においては何よりも、海の民族の末裔である少女
ファーダと彼女の大切な仲間であるココの存在が光ります。

従来の上田早夕里作品とは一味違う、でも魅力に富んだ一冊。


序章/1.コペンハーゲンの海戦/2.聖なる盾/3.イギリス海軍委員会艦政本部/4.地中海の蛇/5.従軍/6.トラファルガルの海戦/終章

         

12.
夢みる葦笛 Dreaming reed pipe ★★☆


夢見る葦笛

2016年09月
光文社刊

(1500円+税)

2018年12月
光文社文庫化



2016/10/06



amazon.co.jp

上田早夕里さんのSFというと、大作華竜の宮をはじめ、人類究極の未来を描く、という強い印象があります。
数多い未来小説においてもその中心にあるのはあくまで人類というのが普通ですが、上田早夕里さんにおいてはそんな既定の枠を軽々と超越しているようです。
つまり“存続”と一口に言っても、<知性の存続>という前提ではそれが人類だろうが人工知性体だろうと何ら構わないという風ですし、<種の存続>という前提では人類が現在の形態を維持しようが維持しまいが何ら構わないという風です。
そうした融通無碍なところ、計り知れない領域へ読み手を連れて行ってくれるところが、上田SFの魅力に違いないと、改めて感じます。

本書に収録された10篇はいずれも、まさに上記のようなSF作品ばかり。しかも、読み進むに連れてどんどん面白さが分るようになっていく、ますます上田SFの虜になっていくと評して間違いない短篇集になっています。
上田SF作品の魅力を満喫できる、またその魅力の理由を知ることが出来る、まさに上田早夕里ファンにとっては読み逃せない集大成のような一冊と言って過言ではありません。

「夢みる葦笛」:イソギンチャク人間が繁殖、その是非は?
「眼神」:幼馴染の勲ちゃんを救うための行動とは?
「完全なる脳髄」:合成人間の戦いとは・・・?
「石繭」:主人公が拾った石の秘密は・・・?
「氷波」:土星衛星上の観測所に勤務する宇宙開発用人工知性体が新しく経験したことは・・・?。
「滑車の地」:究極の未来社会。彼ら、彼女の運命は?
「プテロス」:遥かな宇宙世界での不思議な経験。
「楽園」:事故死した森井宏美の想いは、山村憲治に伝わるのか?
「上海フランス租祁斉路三二○号」:日中戦争直前の中国、研究者の岡田義武はパラレルワールドの存在を知る・・・。
「アステロイド・ツリーの彼方へ」:人間である主人公と人工知性体であるバニラとの交流を描く篇。

遥かな宇宙の彼方を舞台にした「氷波」、ワクワクします。
そして「アステロイド・ツリーの彼方へ」における最後の一文、言葉には、上田早夕里さんがSF小説を書き続ける理由が込められているように感じます。
 
夢みる葦笛/眼神(マナガミ)/完全なる脳髄/石繭/氷波(ひょうは)/滑車の地/プテロス/楽園(パラディスス)/上海フランス租界祁斉路(チジロ)三二○号/アステロイド・ツリーの彼方へ

                    

13.

「破滅の王 The King Of Ruin ★★


破滅の王

2017年11月
双葉社刊

(1700円+税)


2017/12/22


amazon.co.jp

SF主体の上田早夕里さんの新刊の舞台が、太平洋戦争下の上海から始まる中国と知り、意外な気がしたのは読み始める前までのこと。

ストーリィは、治療方法の無い新種の細菌が発見され、新たな細菌兵器(「
キング」と呼ばれる)としてばらまかれる危機。
在南京日本大使館附武官補佐官である
灰塚少佐によって強引にその秘密を知る関係者に引きずり込まれたのが、上海自然科学研究所の細菌学科研究員である宮本敏明、本作の主人公です。

この細菌によって人類は破滅してしまうかもしれない。そうなればこの戦争における日中独の勝敗どころではない・・・・という究極の危機設定は、舞台が過去であるが未来であろうがもはや関係ありません。
むしろ、そうしたことがあっても不思議なかった第二次世界大戦だからこそ、緊迫感、リアル感が漲っています。

それにしても、人類を滅ぼすのは人類自身なのではないか、と感じさせる、未来への警告メッセージを含んだ歴史サスペンス。
上田早夕里さんの力作のひとつ、と言って間違いない作品。


序/1.風根/2.上海 1943/3.遺された言葉/4.血と闇夜の城/5.焦熱の地/6.眩耀/7.ベルリン市街戦前夜/8.祈望/補記

              

14.

「トラットリア・ラファーノ Trattoria Raffano ★☆


トラットリア・ラファーノ

2017年12月
ハルキ文庫刊

(580円+税)



2018/01/16



amazon.co.jp

神戸・元町、兄弟妹3人で経営しているイタリア料理店を舞台にしたストーリィ。
兄の
義隆と妹の彩子(さえこ)が厨房担当、主人公である杉原和樹がホール担当という役回り。

ある日グループで来店した女性客の中に、高校の同窓生である
邦枝優奈(ゆな)がいて、和樹も優奈も偶然の再会にびっくり。
それ以来、優奈は度々ラファーノに来店するようになります。
すると今度は優奈と結婚予定であるという、やはり高校時代の友人でソフトテニスのペアを組んでいた
田野倉伸幸までが店に現れます。しかし、その田野倉、何か屈託がある様子・・・。

料理店が舞台というと連作ものを予想しがちですが、本作は一応書下ろし長編。
高校で一緒だった男女3人が再び顔を揃えるところから始まり、彼らの高校時代の回想と、決着つかないまま仕舞い込んでいた想いが偶然の再会によって急に頭をもたげてくる、という
ストーリィ展開。

SF作家というイメージが強い上田早夕里さんですが、以前にもフランス菓子店を舞台にした
ラ・パティスリー」2作があるので、特に違和感はありません。
本ストーリィは、ささやかな出来事を描いたもの。
ホール担当である和樹が料理人の喜びを垣間見るという点で、連作ものの始まりの一篇、という雰囲気を感じます。
実際にシリーズものになるのかどうかは知りませんが、もっとこの兄弟妹の物語を読みたいというのが自然な思い。シリーズものになることを期待したいところです。


1.ラファーノ/2.遠い思い出/3.優奈/4.朋友/5.氷柱花/6.ふたりだけのディナー/7.幸あるもの

        

15.
「リラと戦禍の風 ★★☆


リラと戦禍の風

2019年04月
角川書店

(1950円+税)



2019/05/10



amazon.co.jp

第一次大戦の戦勝で死に瀕していたドイツ軍の青年兵士イェルクは、不思議な男によって戦場から救い出されます。

その男は
ゲオルゲ・シルヴェストリ伯爵と名乗り、自分は不死の魔物だと語ります。 460年前、祖国ワラキアを守るためオスマン帝国と戦い、敗れた後にある事情から魔物になったのだという。そしてイェルクもまた、心を2つに分かたれ、今ここにいるイェルクは虚体を借りているもの。実体のイェルクは今もまだ戦場にいるのだという。
そして伯爵は、このまま無事でいたければ、ポーランド人少女である
リラの護衛を務めてほしいとイェルクに依頼します。
そこから、第一次大戦の戦禍に苦しむ人々とリラ、イェルク、伯爵ら魔物たちの物語が幕を開けます。

何も分からないまま戦場で死に向き合わされている兵士たち、銃後で食糧難等々に苦しむ女性たち、イェルクや伯爵は魔物であるが故に自在に場所を移動し、両方の実情を目にします。
また、イェルクの前には<無の魔物>であるニルという存在も姿を現し、イェルクの行動を妨げるかのよう。

イェルクと伯爵、魔物と言いつつ、その行動はむしろ人間的であると感じます。
一方、戦場で敵と殺し合った兵士たち、敵国だからと相手の国民を憎む人々、主義主張が異なるからといって危害を加えて平然としている人間、そうした人々の心こそ、むしろ恐ろしい。まるで魔物にとり憑かれたかのようです。

第一次大戦が終結しても、その後に第二次大戦があり、今もなお戦争の危機が消えたわけではありません。
戦争をもたらし、それを肥大化させるのもまた、人の心が生みだしてしまう魔物。
本歴史ファンタジーは、人はそれを忘れてはいけないのだという警告を含むストーリィと思います。

それにしても伯爵や医師の
サンドラ等々、本作に登場する魔物たち、魅力的に見えてしまうのですから困ったものです。

【第一部】1.半身/2.跳躍/3.銃後の人々/4.イェルク・実体(1)/5.エッフェル塔に集うもの
【第二部】1.不滅の血/2.継承
【第三部】1.夜の華/2.イェルク・実体(2)/3.キール港にて/4.其々の闘い/5.十一月革命/6.燃えゆく未来

   

上田早夕里作品のページ No.1

  


   

to Top Page     to 国内作家 Index