上田早夕里
(さゆり)作品のページ No.3



21.上海灯蛾 

22.播磨国妖綺譚−伊佐々王の記-
 

【作家歴】、火星ダーク・バラード、ラ・パティスリー、ショコラティエの勲章、魚舟・獣舟、華竜の宮、菓子フェスの庭、ブラック・アゲート、深紅の碑文、薫香のカナビウム

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妖怪探偵・百目<1>、妖怪探偵・百目<2>、妖怪探偵・百目<3>、 セント・イージス号の武勲、夢みる葦笛、破滅の王、トラットリア・ラファーノ、リラと戦禍の風、ヘーゼルの密書、播磨国妖綺譚、獣たちの海   

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21.
「上海灯蛾 ★★☆


上海灯蛾

2023年03月
双葉社

(2000円+税)



2023/04/19



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破滅の王」「ヘーゼルの密書に続く、満州事変〜アジア太平洋戦争時代の上海を舞台に、中国人裏社会と帝国陸軍特務機関との暗闘、そして激闘を描いた長編力作。

主人公は貧農の出で、封建的な本土を脱し成功を夢見て上海にわたり、小さな雑貨店を営んでいる
吾郷次郎
ある日、
原田ユキヱと名乗る見知らぬ女が次郎の元に上品質の阿片と芥子の種を持ち込んでくる。
伝手をたぐりユキヱを、上海の裏社会を支配する
<青幇>の一員である楊直に取り次いだことが転機となり、次郎は楊直の配下で芥子栽培に携わることになる。そして、楊直から「黄基龍」という中国名を貰い、楊直と義兄弟の盃を交わし、裏社会にのめり込んでいく。
その結果として次郎は、片や金儲け、片や軍略物資調達資金を贖おうとする中国人裏社会を牛耳る面々と、帝国陸軍の
<央機関>との凄まじい闘争に巻き込まれていきます。

主人公の吾郷次郎、いくら成功を目指していたとはいえ、何故そんなに熾烈、かつ闇の世界に足を踏み入れてしまったのか。
貧農の出とはいえ、本来は信義を守り、人情も備えた人物であった筈なのに。
そんな次郎の裏社会に陥落していくような本ストーリィは、正直なところ読むのが辛い、でも目を背けられない、読み手をぐいぐい引っ張り込んで離そうとしない熱量を孕んでいます。

当時の上海、何という魔窟か。
阿片によって苦しむ人間が大勢生まれてしまうというのに、それを歯牙にもかけず、日本軍部も中国人裏社会も、大金を産む道具として阿片を巡って争うのですから。

登場人物それぞれ読み応えがあり、主人公である吾郷次郎は勿論のこと、もう一人目を奪われる人物が、日露混血の
伊沢穰という青年。
純真であった筈の青年が何故あんなにまで歪められてしまったのか。それは衝撃的と言って他なりません。その背景にあるのは、日本軍部の傲慢な姿勢。まさに怖気をふるいます。

圧巻の歴史ノワール小説。お薦め!


序章.上海 1945/1.阿片の園−上海 1934−/2.田(テイエン)/3.栄華/4.交戦/5.鵬翼(ほうよく)/6.詭道の果て/終章.夢と枯骨/後記

                   

22.
播磨国妖綺譚−伊佐々王の記− ★★


播磨国妖綺譚 伊佐々王の記

2023年12月
文藝春秋

(1800円+税)



2024/01/03



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室町時代、律秀呂秀の法師陰陽師兄弟が活躍する“播磨国妖綺譚”シリーズ、第1作あきつ鬼の記に続く第2弾。

薬師で<物の怪>を見る力はないが物の怪退治の才を持つ兄=律秀と、僧侶であり物の怪を見る力をもつ弟=呂秀という、お互いに足りないところを補い合うような二人の主人公像が魅力。
そしてもうひとり、呂秀に従う式神である<
あきつ鬼>の存在も欠かせません。

今回、二人の前に妖しき者が現れます。
ガモウダイゴ」と名乗るその者は、あきつ鬼に対し、自分の元へ来い、そうすればお前の真の力を引き出してやる、という不気味な呼びかけをします。
さらに、ガモウダイゴの妖力により甦ったのは、かつて人間たちと覇権を争って倒れた巨鹿の<
伊佐々王>。

一方、兄弟の側に現れた、備中国の西方を守護するという、縞猫の姿をとった神さま<
瑞雲>の登場も嬉しい。

ガモウダイゴの目的は、現世を呪い、すべてを破滅させることにあるのか。
ガモウダイゴ、伊佐々王と、律秀と呂秀、あきつ鬼らチームとの対決が始まります。
ただし、それは次巻に持ち越されたようです。

決着を次巻に先延ばしされたような気分です。こうなれば、一刻も早く次巻を刊行して欲しいと望む処です。


1.突き飛ばし法師/2.縁/3.遣いの猫/4.伊佐々王/5.鵜飼と童子/6.浄衣姿の男

     

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