内田康夫作品のページ No.

 

11.天河伝説殺人事件

12.鞆の浦殺人事件

13.江田島殺人事件

14.讃岐路殺人事件

15.琥珀の道殺人事件

16.神戸殺人事件

17.琵琶湖周航殺人歌

18.長崎殺人事件

19.御堂筋殺人事件

20.伊香保殺人事件

 

【作家歴】、後鳥羽伝説殺人事件、平家伝説殺人事件、遠野殺人事件、赤い雲伝説殺人事件、夏泊殺人岬、津和野殺人事件、白鳥殺人事件、高千穂殺人事件、小樽殺人事件、日光殺人事件

 → 内田康夫作品のページ No.1


平城山を越えた女、耳なし芳一からの手紙、上野谷中殺人事件、浅見光彦殺人事件、鐘、横浜殺人事件、日蓮伝説殺人事件、透明な遺書、坊ちゃん殺人事件、金沢殺人事件

  → 内田康夫作品のページ No.3


箱庭、蜃気楼、佐渡伝説殺人事件、斎王の葬列、皇女の霊柩、藍色回廊殺人事件、ユタが愛した探偵、はちまん、箸墓幻想、中央構造帯

内田康夫作品のページ No.4

 
しまなみ幻想、贄門島、化生の海、十三の冥府、イタリア幻想曲、還らざる道、ぼくが探偵だった夏、名探偵・浅見光彦全短編
※付録:平塚神社

内田康夫作品のページ No.5

 


  

11.

●「天河伝説殺人事件(上下)」● ★★

 

  
1988年04月
角川書店刊

1990年06月
角川文庫

1998年05月
第42版

 

2003/05/09

“浅見光彦・伝説ミステリ”
新宿という繁華街におけるサラリーマンの突然死。一方、能の水上流宗家の後継者と目されていた若き水上和鷹が舞台上で急死。
いずれも殺人か自殺かはっきりしない中で、亡父の遺品となった鈴の謎を追って娘の川島智春が、また兄の急死後自宅を出奔した祖父・水上和憲の後を追って孫娘の秀美が、奈良県吉野の天河神社に向かいます。おりしも浅見光彦が取材のため吉野に滞在しており、水上宗家の事件、ついで川島事件にと関わることとなります。
天河神社は、日本三大弁才天の内の第一位、芸能に関わる神社として、水上宗家の縁は深い。
事件の真相が、予想もつかない深みを感じさせる一方で、本ストーリィ全体を天河神社のもたらす神妙な雰囲気が覆っています。本作品の魅力は、その深甚な情趣にあると言って過言ではないでしょう。
本書におけるヒロインとして水上秀美、また、サブ的なヒロインとして川島智春が登場しています。ヒロインが2人というのは、浅見シリーズの中では珍しい。
ミステリの結末としては判然としないところがありますが、悪意故ではなく因縁としか言いようのない真相、哀しさが余韻として残るエピローグ、浅見シリーズの中でも印象的な作品です。

プロローグ/五十鈴を持っていた男/「道成寺」の鐘の中で/吉野奥山に消ゆ/霊気満つる谷/悲劇の連鎖/留置人・浅見光彦/雨降らしの面/浅見の「定理」/歴史と奇跡は繰り返す/初恋の女/悲劇の演出者/ひとり静/エピローグ

   

12.

●「鞆の浦殺人事件」● 


  
1988年04月
光文社刊

1991年07月
徳間文庫化
1996年07月
講談社文庫化

 
2003/04/26

“浅見光彦・旅情ミステリ”
シリーズ中「軽井沢のセンセ」と呼ばれる、著者自身が登場する作品。
かなりご自分をお粗末な作家として描いており、そこまでご自分を貶めなくても、という感じる程。ですから、ワトソン役はちと無理なようです。

その内田康夫先生が事件に巻き込まれ、当然の如く浅見光彦を引っ張り出すのですが、そこにそもそもの仕掛けがあった、というのが本ストーリィのミソ。
事件は広島県の鞆の浦で起きた2つの殺人。しかし、警察の結論は、殺人+犯人の自殺という安易なもの。
ストーリィは、浅見光彦が信じ難い位の閃きを働かせ、真相を一気に解明してしまうので、正直言って呆気ない。
冒頭の仕掛けと、「後鳥羽伝説殺人事件」でコンビを組んだ野上刑事が福山署の警部補となって再登場することがなかったら、評価はかなり下がった事でしょう。

プロローグ/奇怪な罠/自殺と他殺と/特命調査員/再会/終結宣言/初めと終わりと/エピローグ

      

13.

●「江田島殺人事件」● 



  
1988年10月
講談社刊

1992年01月
講談社文庫
第29刷
(448円+税)

 
2003/05/31

兄・陽一郎からの紹介で、海上自衛隊の現役海将補が持ち込んできた相談事とは、江田島の記念館から盗まれた軍神・東郷元帥の佩剣探しという、“浅見光彦・旅情ミステリ”

まずは江田島へと向った浅見が出会ったのは、10年前に父親が江田島で自殺したという近江佳美・竜太の姉弟。そして、その江田島で、近江姉弟の父親とそっくりの、短剣による自殺らしい事件が起こります。
近江姉弟の父親の死に関わると共に、東郷元帥の佩剣盗難の謎を追う内、事件は現役閣僚にまで及ぶ政治事件の様相を呈してきます。しかし、その割にこの作品、頁数は少ない方。
戦後の繁栄と対比する形で、「軍神になれなかった男」たちの思いを描いた作品ですが、ミステリの結末としては物足りなさが残ります。
まぁ、多数に及ぶ浅見作品の中にこうした結末があるのも、止むを得ないものでしょう。

プロローグ/東郷元帥の短剣/ふるたかグループ/軍神になれなかった男/消えた怪物/潜水艦「はるしお」/至誠に悖るなかりしか/エピローグ

        

14.

●「讃岐路殺人事件」● 

 

  
1989年09月

1992年05月
角川文庫刊

2002年10月
光文社文庫
(533円+税)

 
2003/06/17

“浅見光彦・旅情ミステリ”
今回誘われて讃岐路へ札所巡り観光へ出かけた浅見の母親・雪江が、車にはねられて一時的記憶喪失に。
浅見に連れられて帰京した後、無事記憶は戻ったものの、今度は雪江をはねた若い女性が、自殺したとのニュース。自殺の原因を気にする母親に命じられ、浅見が高松へ向かいます。

自殺と報じられた渦中の若い女性・久保彩奈は、本当に自殺したのか、それとも偽装か。浅見は好奇心をそそられ、単独で調査に乗り出します。
ミステリとしての面白さはいまいち。目立つのは、浅見がやたらと警察につっかかる場面が多いこと。しかしながら、この部分はストーリィの面白さには結びつかず。
そしてまた、本作品にヒロインが登場しません。彩名の同僚という辻村暁子が登場しますがヒロインまでには至らず、地元の青年記者・粕谷大原部長刑事と併せて、今回はチームワークでの勝負、という感じです。
なお、2代目という“浦島太郎”の登場がご愛嬌。

プロローグ/心の旅路/瀬戸大橋自殺者第一号/石の町/ウラシマ・タロウ・ホコ/見えざる敵/失踪の構図/鬼ヶ島の死者/闇と光と/エピローグ

  

15.

●「琥珀の道(アンバー・ロード)殺人事件」● 



  
1989年10月
角川文庫刊
1997年08月
第44刷
(460円+税)

 

2003/06/03

“浅見光彦・旅情ミステリ”、第31作目。
東京の通り魔殺人事件と陸中海岸断崖からの飛び降り自殺。前者の女性殺害を警察は通り魔事件と断定しますが、納得できない橋本警部は、浅見の元に事件を持ち込みます。浅見を動かして、真相を突き止めようという思惑。
残された写真から岩手県の久慈に向った浅見は、2人の死者が共に8年程前に催された、久慈から軽井沢に至る琥珀道キャラバン隊に関わりがあるらしいことを発見する。(昔、琥珀の産地である久慈から軽井沢を経て奈良まで至る道筋を「琥珀の道」と言った由)
浅見シリーズの中では、比較的薄い一冊。その所為か、事件そのもの、真相を解明する経緯も軽目です。単純に、あっという間に犯人が突き止められてしまう。
ヒロインとしては、久慈で知り合った、琥珀に強い関心を寄せる片瀬美枝子が登場。しかし、彼女は直接事件に関わりなく、その存在感は希薄。題名はなんとなく艶めいていますが、それは題名だけに終わった、という印象です。

プロローグ/面影橋通り魔殺人/北山崎赤い壁/疑惑の海/軽井沢晩秋/自殺者は殺されない/つややかな記憶/エピローグ

   

16.

●「神戸殺人事件」● 

  

  
1989
12
光文社刊
1993年06
光文社文庫化

2003年03月
徳間文庫
(648円+税)

 

2003/04/05

“浅見光彦・旅情ミステリ”。浅見もの5冊目の読書です。
本書は、浅見光彦シリーズでは第34作目、光文社本では第9作目だそうです。
浅見光彦ものミステリがいろいろな出版社から出ていることについて、不思議に感じていたのですが、当初廣済堂出版から3冊が刊行され、その後津和野殺人事件を契機にオープンとなって各社から刊行されるようになったのだそうです。(巻末「自作解説」から)

本書は、神戸の旧家かつ海運会社を経営する小野田家を舞台にしたミステリ。執事がいたり、元巡査部長のお手伝いさんがいたりと、錚々たる顔ぶれ。
ヤクザに追われる謎の女性を浅見が機知で救ったと思ったら、浅見の連れだった元船長が殺されるという事件が発生。浅見がさっそく容疑者として警察に連行されます。警察の取調べで逆に浅見が刑事に聴取する辺り、浅見が刑事局長の実弟と判り警察の態度が急変、容疑者から捜査協力者の立場に一転するのは、浅見もの定例パターンなのですが、楽しめます。
浅見ものは“旅情ミステリ”が売りのようですが、神戸ではあまり旅情は感じません。敢えて言えば、冒頭登場する“あらがわ”(鹿の字を3つ重ねる)というレストラン。バルザック作品から名前をとった有名な店で、私もかつて行ったことがあります。そこのステーキは絶品なのですが、値段は本当に高い。
浅見が家族の外側から、小野田家の孫娘・亜希が家族の内部からと、2つの視点から事件の謎に迫るところが本作品のミソ。

プロローグ/芦屋六麓荘/鵯越の男/瓢箪亭異聞/赤い寺と白い犬/布引の滝の死者/女たちの秘密/亜希の決断/六甲山/エピローグ

  

17.

●「琵琶湖周航殺人歌」● 

 

  
1990年01月
講談社刊
1993年07月
講談社文庫化

1992年07月
講談社文庫
(448円+税)

 
2003/04/10

“浅見光彦・旅情ミステリ”
琵琶湖近くの土地で起きた殺人事件の解明に、浅見光彦が学生時代の友人に頼まれ、引っ張り出されます。
浅見が当初は地元警察の刑事達を凌ぎ、最後はその刑事たちと協力し合って事件解決をもたらすという、いつものパターン。そして、浅見の傍らに、事件関係者あるいは協力者として若い女性が登場し、その女性が浅見にほのかな慕情を寄せるというのも、いつものパターン。(今回の女性は、東京からたまたま旅行に来ていて事件に関わりをもったOL・森史絵

今回の題材は、琵琶湖。開発促進による琵琶湖の水資源汚染が、重大な問題となっています。琵琶湖というのは、とにもかくにも日本を代表する景観のひとつ。地元関係者でなくても、琵琶湖の環境保全については関心を抱かざるを得ません。
琵琶湖という本作品の舞台となった場所には、故郷に抱くような懐かしい思いが自然と浮かび上がります。
浅見光彦のキャラクターにまして、その雰囲気が居心地良い作品と言えます。

プロローグ/死にかけた湖/われは湖の子/湖西に死し湖東に死す/密室の謎/推理の壁/哀歌の流れる湖/エピローグ

  

18.

●「長崎殺人事件」● ★★

 

  
1990年03月
光文社文庫

1998年03月
角川
文庫

(514円+税)

 

2003/05/11

“浅見光彦・旅情ミステリ”。シリーズで、初めて作家・内田康夫が登場した記念すべき作品。
長崎で起きた殺人事件。その容疑者として父親が逮捕されたことから、その娘・松波春香より作家内田康夫を通じて、浅見光彦に助けを求める手紙が届きます。その一方、長崎の政治家からも警察庁刑事局長である兄・陽一郎に対し、有力後援者失踪事件への浅見光彦の協力依頼があります。
長崎では3つの殺人事件、そして1つの失踪事件が発生。長崎に出向いた浅見は、4つの事件の底辺がひとつと直感し、単独で事件捜査に乗り出します。しかし、事件の謎は深く、最後の最後まで真相および犯人は見当もつきません。最後の最後で一気に解決に向かう展開は、鮮やかかつお見事。

本作品においては、長崎情緒、またそこの人々の愛する者への深い思い、そして長崎に対する愛情が印象的。そんな普通の人々の幸せを踏みにじるような被害者2人の行動に、作者自身、浅見の怒りが感じられます。
そうであるからこそまた、漸く解明された事件の真相も切ない。
最初から最後まで、長崎という土地だからこそのストーリィ。
なお、浅見光彦が、春香の誤解により一時的に信頼を失ってしまう展開が、他の作品にないユーモラスなところ。

プロローグ/春香の反逆/蝶々夫人のたたり/名探偵飛ぶ/稲佐山/ポルトガル村計画/島原の女/グラバー邸の幽霊/発掘された真相/エピローグ

    

19.

●「御堂筋殺人事件」● 

 

  
1990年06月
徳間書店刊
1993年06月
徳間文庫化

1998年02月
講談社文庫
(514円+税)

 
2003/04/16

“浅見光彦・旅情ミステリ”37作目。
折角大阪にいるのだからと、大阪を舞台にした作品を読もうと選んだ一冊。
しかし、所詮大阪というのは都会のひとつですから、ストーリィ自体は東京が舞台であっても何ら変わりありません。
大阪らしさが出ているところといえば、浅見光彦がお好み焼きをはじめとした食べ物の美味しさに感激するところ、女性登場人物の中で目立つ存在となる畑中有紀子が如何にも大阪ならではの女性、という辺りでしょうか。

事件は、御堂筋(大阪のメインストリート)でのパレードの真っ最中、企業のイメージキャラクターに選ばれた美人モデルが行進物の上から転落死するという、衝撃的なもの。
前述の畑中有紀子という女性は、被害者のモデル仲間で被疑者のひとりともなりますが、浅見の助手役となって活躍するという程のことはなく、大阪女性の象徴という役割が主という印象。
事件の被疑者が分散していることも併せて、ストーリィとしては物足りません。
巻末の「自作解説」によると、元々大阪を舞台にしたミステリは少ない由。本作品の出来からいっても、成る程と思わざるを得ないところがあります。

プロローグ/パレードの惨劇/アリスの幽霊/幸運な死者/発明者/アリスは知っていた/浅見光彦の敗北/花のごとく儚く/エピローグ

    

20.

●「伊香保殺人事件」● 

 

   
1990年09月
光文社刊

1994年06月
光文社文庫
(485円+税)

 

2003/06/19

“浅見光彦・旅情ミステリ”
今回は、浅見家のお手伝い・須美ちゃんこと吉田須美子が、新潟の実家で休暇をとった帰り道、群馬県で殺人事件の容疑者として警察に拘束されるというところから始まります。
その出だしも珍しいですが、おかげで須美ちゃんの人となりを多少知ることができる、というのが余禄。
しかし、それは冒頭だけのことであって、須美子を迎えにいった浅見が事件にはまりこんでいくと、そこにはもう須美子の登場する余地はありません。

事件は、金融会社の役員が夫婦共々連続して殺害されるというもの。伊香保温泉、その地を愛した竹久夢二が、本ストーリィのミソ、と言えるでしょう。
ただ、印象からいうと、本作品における浅見光彦は狂言回し。主となるのは、ミステリよりむしろ、伊香保で生まれ育った女性たちのストーリィであると感じます。
ヒロインとなる女性は、舞踏の家元を継がんとする三之宮由佳。しかし、この由佳も、浅見の探索における協力者というより、伊香保の女性ストーリィにおけるヒロイン、と言うべきでしょう。
いつもと異なる趣向は評価できますが、ミステリとしては物足りず。

プロローグ/雲台寺炎上/竹久夢二を恋する女/裸身の師と弟子/自動車電話/奇妙な一致/日なた道と日かげ道/エピローグ

      

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