内田康夫作品のページ No.


1934年東京都生。CM製作会社経営を経て80年「死者の木霊」で作家デビュー。名探偵・浅見光彦、信濃のコロンボ・竹村岩男らの探偵を生み出し、ベストセラー作家。93年軽井沢にて「浅見光彦倶楽部」発足。2018年03月逝去。


1.後鳥羽伝説殺人事件

2.平家伝説殺人事件

3.遠野殺人事件

4.赤い雲伝説殺人事件

5.夏泊殺人岬

6.津和野殺人事件

7.白鳥殺人事件

8.高千穂伝説殺人事件

9.小樽殺人事件

10.日光殺人事件


天河伝説殺人事件、鞆の浦殺人事件、江田島殺人事件、讃岐路殺人事件、琥珀の道殺人事件、神戸殺人事件、琵琶湖周航殺人歌、長崎殺人事件、御堂筋殺人事件、伊香保殺人事件

 → 内田康夫作品のページ No.2

平城山を越えた女、耳なし芳一からの手紙、上野谷中殺人事件、浅見光彦殺人事件、鐘、横浜殺人事件、日蓮伝説殺人事件、透明な遺書、坊ちゃん殺人事件、金沢殺人事件

 → 内田康夫作品のページ No.3


箱庭、蜃気楼、佐渡伝説殺人事件、斎王の葬列、皇女の霊柩、藍色回廊殺人事件、ユタが愛した探偵、はちまん、箸墓幻想、中央構造帯

内田康夫作品のページ No.4


しまなみ幻想、贄門島、化生の海、十三の冥府、イタリア幻想曲、還らざる道、ぼくが探偵だった夏
※付録:平塚神社

内田康夫作品のページ No.5

  


 

1.

●「後鳥羽伝説殺人事件」● ★★

 

  
1982年02月
廣済堂出版刊

1985年01月
角川文庫
第66版

(514円+税)

 

2003/04/23

“浅見光彦・伝説ミステリ”。名探偵・浅見光彦が初登場した作品です。
事件は、広島県の三次という鄙びた駅で旅行中の女性が殺害されたというもの。
何故平凡な旅行中の女性が? 彼女が旅行中に買い求めた本は何処に消えたのか? その本に何らかの意味があるのか? という不可解さに謎の深さを感じます。
捜査本部が設置され、県警本部から派遣された若手警部が捜査の指揮を執りますが、地元警察署のベテラン刑事・野上は何故かカヤの外といった役回り。そして事件は連続殺人に発展。しかし、野上刑事がその粘っこい探索から事件の糸口らしきものをつかみます。この辺り、F.W.クロフツばりの臨場感があって、読み応え充分。
その野上が事件の鍵は過去にありと考えて訪ねた先が、東京の浅見邸。被害者の女性は、実は8年前広島の旅行先で土砂崩れに巻き込まれ、その時同行していた友人が死ぬという事故にあっています。その友人というのが、浅見兄弟の妹・祐子。そしてその浅見祐子の死には、秘められた疑惑があったとことから、浅見光彦が本事件の捜査に乗り出します。章題自体が「名探偵登場」というのですから、凄い、なんという自信!
浅見登場後は、まさしく刻一刻と事件の核心に迫っていくという展開。推理の浅見光彦と探索の野上刑事とのコンビは絶妙、お見事というほかありません。
有力容疑者の死も含めて展開は一転二転、そして最後の真相解明の場と、緊迫感たっぷり、見せ場に事欠きません。
実のところ、途中で真犯人の見当はすぐつきます。そうであっても、本作品が読み応えあるミステリであることに、何ら支障はありません。
なお、エピローグの浅見と野上の別れるところ、映画「夜の大捜査線」のチップス刑事と地元署長の別れの場のような趣きがあって、最後まで満足。

プロローグ/三次駅殺人事件/心の旅路/消えた本/暗転/名探偵登場/第二の男/襲撃/檻穽/エピローグ

    

2.

●「平家伝説殺人事件」● 

 

  
1982年10月
廣済堂出版刊
1987年02月
廣済堂文庫化

1996年05月
角川春樹事務所

 

2003/04/26

素人探偵・浅見光彦の登場する“伝説ミステリ”2作目。
当初内田さんは後鳥羽伝説殺人事件に続く本作品をもって浅見光彦探偵は終えるつもりだったそうです。ところが読者からの要望強く、そのまま多数書かれることになった由。
風来坊的に気ままに全国を動き回り、物腰柔らかく人好きがし、しかも着眼点に優れ、発想力に富んでいるという人物設定。そのうえ実兄が警察庁の刑事局長(警視監)という、いざとなれば警察に対し黄門様の印篭の如き強い後ろ盾をもっている。そんな得難い探偵像であれば、2作だけで終えるのは到底勿体無い、というのは当然のことでしょう。そのうえ“寅さん”におけるマドンナの如く、毎作若い女性が浅見の協力者としてストーリィを彩ります。読み手にとっては、まさに飽きることのない魅力です。
本作品に登場する娘・佐和は、中でも人気抜群の女性との由。

ストーリィは、過疎の村の出身者、伊勢湾台風という要素から水上勉作品(「霧と影」「飢餓海峡」)を思い出させられますが、題材は保険金詐取という現代的なもの。
作品の特徴としては、事件と推理、その一方で浅見光彦と稲田佐和の恋愛関係という2本立ての妙味というところでしょう。
佐和が他作品の女性と異なるのは、浅見光彦の佐和に対する思いを抱いた点。しかしそれは、浅見光彦が本作品をもって終わり、という想定あってのことでしょう。シリーズ化を考えていれば、おそらく最後の書き方は変わっていたことと思います。
本書を読んだ意味は、佐和という登場人物を知ったことにあります。

プロローグ/安全犯罪/破綻への序章/平家の里へ/高慢な蝶/愛と疑惑と/悲劇/第三の男/エピローグ

  

3.

●「遠野殺人事件」● ★☆

 

  
1983年06月
光文社刊

1987年04月
光文社文庫

1998年4月
第43版

 
2003/06/27

“旅情ミステリ”
事件は、岩手県遠野の名所・五百羅漢で、東京のOLが殺害されて見つかるところから始まります。そしてまた、同じ会社のOLが別の場所でやはり死体で発見され、警察は犯人の自殺という結論で事件を解決済にしようとします。
ところが、事件に素朴な疑問を感じたのが、殺害されたOL・河合貴代を慕っていた後輩OLの宮城留理子。若くて美人とはいうものの、全くの素人かつお嬢さん育ちの彼女が、ふとした疑問から事件の糸口を何度も開いていきます。
その留理子とコンビになるのが、地元遠野警察署の年配刑事・吉田。何度も安易な結論に納得しそうになりながら、相次ぐ留理子の指摘に背中を押されるように、地道な捜査を続けざるを得なくなるという役回りです。

本書は、柳田国男「遠野物語」で名高く、一度訪れたことがある故に懐かしい遠野を舞台に、留理子の社内ロマンスの行方を交えつつ、直観力と推理力に富んだ素人OLと、頭脳明晰ではないものの粘り強さが身上というベテラン刑事の組み合わせが興味尽きないミステリ。
ただし、共犯者の一人がすぐ判ってしまうのは、ちと残念。

    

4.

●「赤い雲伝説殺人事件」● 

 

  
1983年12月
廣済堂出版
1985年02月
廣済堂文庫

1986年07月
角川文庫

1993年03月
第34版

 

2003/05/18

“浅見光彦・伝説ミステリ”
素人画家・小松美保子の展示していた絵を買った老人。その絵は山口県の瀬戸内に望む寿島を、背景に赤い雲を取り入れて描いた美保子の意欲作。
ところが、その老人がホテルで死体となって発見されます。そして、何故か美保子の絵がなくなっていた。自殺か他殺か。
美保子の参加していた絵画グループに、浅見雪江が加わっていたことから、母親に命じられ、浅見が絵の探索に乗り出すという滑り出し。
そして、美保子と浅見が出向いた現地では、原発誘致をめぐる反対派と賛成派の対立が繰り広げられており、そんな中で地元出身の大物国会議員がホテルで死体となって発見されます。またもや自殺か他殺かはっきりしない状況。当然の如く、絵の探索=殺人事件の探索という成り行き。事件は原発誘致に絡むものなのか、そして美保子の絵はそれにどう関係するのか、が事件の鍵。

“浅見光彦”シリーズでは、毎度登場するヒロインが楽しみのひとつですが、その始まりとなったのが本作品とのこと。
しかし、このヒロイン、他のヒロインと違ってかなり積極的、浅見を置いて事件に飛び込んでいきますし、浅見にはっきりとした態度で迫ります。流石の浅見光彦もたじたじの有様。
その点において、記念すべき作品と言えるでしょう。

プロローグ/消えた絵/寿島/「巨人」死す/疑惑の群像/燃える島/滅びざるもの/エピローグ

  

5.

●「夏泊殺人岬」● ★☆

 

  
1983年12月
徳間書店
1987年06月
徳間文庫

1993年07月
講談社文庫

 

2003/05/23

あれッ、浅見光彦が登場しないと思ったら、本書は非シリーズ本。中程までずっと勘違いしたままでした。
“旅情ミステリ”。内田さんの長篇としては第10作目。

ストーリィは、三重県にある小さな、通称「椿神社」の神職の娘・江藤美香が、見知らぬ男から神職の名前を尋ねられるところから始まります。
その後、雅楽部の夏合宿で青森県の椿神社へやってきた美香は、例の男がここにも現れ、そして毒死したことを知り驚愕します。
自殺か他殺か。警察で殺人事件と疑うのは、地元の村上刑事ただ一人。
この地で雅楽器のをみごとに吹き鳴らす、謎めいた吉野という男性に惹かれた美香は、否応なく事件に関わっていくことになります。
本作品における探偵役は、女子学生・美香と、村上刑事および美香の先輩である佐々木青年の3人。
本書の魅力は、ミステリそのものより、神社、笙のもたらす雰囲気、そして事件を通じて、僅かの間にめざましく一人前の女性として成長した江藤美香の姿にあります。
読了後、あらためて冒頭の美香と、エピローグの美香を比べるとその差は歴然。それなりに楽しめる一冊です。

プロローグ/夏泊半島/笙を吹く娘/消える/伊勢から伊賀へ/美香の推理/「糸魚川」の謎/完全なる逃走/エピローグ

   

6.

●「津和野殺人事件」● ★☆

 

  
1984年10月
光文社刊

1988年10月
光文社文庫

1998年04月
第55版

 
2003/04/28

“浅見光彦・旅情ミステリ”
山陰の小京都・津和野。そこを訪れた人なら、朱塗りの鳥居が隙間なく並んだ神社を記憶に留めていることと思います。
本書は、その太鼓谷稲成神社の鳥居が重要な鍵となるミステリ。

行った筈のない津和野の赤いトンネル(上記鳥居のこと)を記憶の中に見つけた樋口久美は、娘の実加代に伴われて、謎を解くため津和野を訪れます。
一方、東京の染井霊園で発見された老人の殺人死体。発見者が母親の雪江だったことから、浅見は事件の解明を強引に母親から命じられます。そしてその津和野で、第2の殺人事件が起きたことから、浅見は急遽現地に向かいます。
母娘の記憶の謎を解こうとする旅と、事件を真相を解明しようとする浅見光彦の旅が、現地で交錯します。そして浅見の直感により、その2つの謎は同根のものとして、津和野の旧家・朱鷺本家にまつわる過去、そしてその結果としての現在の事件が解き明かされていきます。
本作品は、他の作品に増して、幾人もの女性が重要な鍵を握っています。女性的な津和野の印象に相応しい展開のようです。
それもあってちと感傷的なストーリィに仕上がっていますが、それがまた旅情を豊かにしていると感じられます。

プロローグ/染井霊園/神津家の秘密/赤いトンネル/乙女峠/消えたロザリオ/最後の殉教者/エピローグ

    

7.

●「白鳥殺人事件」● 

 

  
1985年06月
光文社刊

1989年02月
光文社文庫

1995年08月
第44版

 
2003/05/20

“浅見光彦・旅情ミステリ”
浅見に記事を依頼した菓子業界誌の社長が、浅見と一緒の取材旅行中にホテルで殺害されます。折りしも、製菓会社に対する悪質な恐喝事件が世間をにぎわしていた。
死んだ社長のダイイング・メッセージ「白鳥の...」とは何を指すのか。そしてそれは、誰に宛てたものなのか。
次いで、被害者と関わりがあると推測された人物までも、遺体となって発見されます。行きがかりから浅見が事件の真相解明に乗り出すという展開。
事件の謎は東京−大阪−岐阜県白鳥町と3ヶ所にまたがり、いつもの如く浅見が愛車ソアラを駆って飛び回ります。
本作品におけるヒロインは、死んだ社長の娘・芹沢玲子。このヒロインは事件そのものにはあまり関わらず、若さ、活力を浅見に強く印象づける女子学生という役回り。その点で登場人物としてはちょっと物足りず。
シリーズ中、珍しく大掛りな事件に展開するところが本作品の特徴。頁数のうえでも読みでがあります。

プロローグ/虫愛ずる娘/招かれざる探偵/もう一人の男/「六日祭」前夜の謎/白鳥の歌が聴こえる/双頭の虫は死ぬ/野望のシナリオ/エピローグ

   

8.

●「高千穂伝説殺人事件」● ★☆

 

  
1986年04月
角川書店刊

1987年11月
角川文庫

2000年08月
第58版

 
2003/04/29

“浅見光彦・伝説ミステリ”
高千穂というのは、九州の真ん中にあると言って良い場所。神話の舞台であると同時に、高千穂峡という風光明媚な観光場所があることで知られていますが、行くとなるとかなり不便。昔、私は熊本からバスで行き、やはりバスで延岡に抜けましたが、いやはや遠かった。
今回の舞台は、その高千穂町です。
本書のヒロインは、将来を嘱望されるヴァイオリニスト・本沢千恵子。冒頭浅見光彦は、その千恵子と非公式な見合いをさせられますが、その千恵子の父親が突如失踪してしまうことから、事件は幕を開けます。
父親失踪の理由を求めて高千穂へ向かう千恵子の密かな保護を依頼されたことから、浅見もまた事件に関わっていきます。
そして徐々に明らかになっていく真相は、神話の時代の出来事ではなく、終戦直後の秘められた出来事。
ストーリィ中、浅見がとかく千恵子の気を引くような口ぶりがちと気になるのと、警察の存在感が薄いのがちと残念。
しかし、高千穂にふさわしいストーリィ展開は、やはり“旅情ミステリ”というのに相応しい。充分に楽しみました。

プロローグ/二つの高千穂/失踪/神々の国へ/荒ぶる神/中佐の亡霊/疑惑の演出者/黄泉からの帰還/エピローグ

     

9.

●「小樽殺人事件」● 

 

  
1986年04月
光文社刊

1989年04月
光文社文庫

 

2003/05/24

“浅見光彦・旅情ミステリ”
4泊5日の取材旅行に招待された先の小樽、港に入る直前のフェリー船上から、海面に漂う死体を浅見が発見します。殺人事件の被害者は、地元名門の小山内家でやり手と評判だった長女。そして続いて起きた次女の縊死は、自殺か他殺か。
一方、本書ヒロインとなる津田麻衣子は、小山内家に嫁いだ姉の祥江を訪ねてきていて、義姉殺害という事件に巻き込まれます。
本作品における浅見は積極的。小樽の観光地取材より、遭遇した殺人事件の方に興味津々、思わず「両手をこすり合わせ」てしまうのですから、読者ながら苦笑せざるを得ません。そのうえ、警察の捜査現場にまで踏み込み、刑事と誤解させつつ、刑事以上の事情聴取をしてしまうというのですから、名探偵・浅見光彦のキャラクターが十分に発揮された一冊。
謎がどんどん膨らんでいく割りに、解明された真相は呆気ないものでしたが、両親を早く失った祥江、麻衣子という姉妹のストーリイが印象的。
なお、運河および古い倉庫群をどう扱うか、観光客誘致に悩む小樽の様子が巧みに描かれているところが、(今は昔の話ですけれど)注目点。

プロローグ/黒い揚羽蝶/ガラスの館/信州安曇野/青ひげ/あの人はもういない/最後の犠牲者/エピローグ

   

10.

●「日光殺人事件」● 

 

  
1988年02月
光文社刊

1990年11月
光文社文庫

1993年05月
第22版

1991年03月
角川文庫

  
2003/05/01

“浅見光彦・旅情ミステリ”
日光と言えば華厳の滝。本事件は、その華厳の滝から、2年前に行方不明となっていた地元資産家の次男・智秋次郎の白骨死体が発見されたことから始まります。
私の好きな日光は、華厳の滝より戦場が原、湯の滝、竜頭の滝なのですが、一般的にはやはり華厳の滝なのでしょうか。

浅見が本事件に関わることとなったのは、徳川家康の側近・天海僧正=明智光秀説、明智と智秋家の関わり合い有無(字を逆にすると似ている)という取材で日光を訪れていたため。ちなみに、この天海僧正=明智光秀説というのは、家康=影武者説と並んで昔からあるようで、隆慶一郎「吉原御免状もその説に立って書かれています。
死体で発見された智秋次郎が最後に残した言葉は「ニッコウで面白いものをみつけた」というもの。それが事件の真相を解く鍵になる訳ですが、事件の真相としては迫力不足かつ平凡なものと言わざるを得ません。また、日光と言っても、浅見が足繁く訪れたのは智秋牧場ですから、その点でも日光ファンにとっては物足りなさが残ります。
本作品のヒロインは、智秋家の孫娘である智秋朝子。彼女の存在感、魅力の薄さも心残り。

プロローグ/牧場のお嬢さん/鳥海山麓のニッコウ/西伊豆殺人事件/三十一文字の謎/宮中歌会始/逆転の発想/エピローグ

                       

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