重松清作品のページ No.


1963年岡山県生、早稲田大学教育学部卒。出版社勤務を経て作家活動。99年「ナイフ」にて第14回坪田譲治文学賞、「エイジ」にて第12回山本周五郎賞、2001年「ビタミンF」にて 第124回直木賞、10年「十字架」にて第44回吉川英治文学賞、14年「ゼツメツ少年」にて第68回毎日出版文化賞
を受賞。


ビフォア・ラン

四十回のまばたき

見張り塔からずっと

舞姫通信

幼な子われらに生まれ

ナイフ

定年ゴジラ

エイジ

10日曜日の夕刊


半パン・デイズ、カカシの夏休み、ビタミンF、さつき断景、リビング、隣人、口笛吹いて、セカンド・ライン、流星ワゴン、熱球

→ 重松清作品のページ No.2


かっぱん屋、小さき者へ、きよしこ、トワイライト、哀愁的東京、お父さんエラい!、きみの友だち、小学五年生、なぎさの媚薬4

→ 重松清作品のページ No.3


くちぶえ番長、青い鳥、永遠を旅する者、オヤジの細道、ブランケット・キャッツ、ブルーリバー、ツバメ記念日、
僕たちのミシシッピ・リバー、少しだけ欠けた月、サンタ・エクスプレス

→ 重松清作品のページ No.4


とんび、気をつけ、礼。、希望ヶ丘の人びと、ステップ、再会、十字架、きみ去りしのち、さすらい猫ノアの伝説、ポニーテール、峠うどん物語

 → 重松清作品のページ No.5


さすらい猫ノアの伝説2、空より高く、また次の春へ、ゼツメツ少年、赤ヘル1975、一人っ子同盟、どんまい

 → 重松清作品のページ No.6

  


 

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「ビフォア・ラン」● 


ビフォア・ラン画像

1991年8月KK
ベストセラーズ

1998年10月
幻冬舎文庫
(571円+税)

  

1998/12/14

重松さんの幻のデビュー作とか。私としては初めての重松作品なので、 残念ながら何の思い入れもありません。またひとつ、高校時代の最後を描く青春小説という印象です。
舞台は広島県の呉らしい。その公立高校3年・
永沢優が主人公。
陸上部の部活を止め、かといって受験勉強に身が入るでもない、移ろいの時期。Before Run という言葉は、まさにそんな時期にふさわしい響きがあります。
優、洋介、誠一の3人は、ノイローゼのため1年で退学した久保田まゆみの墓を建て、高校時代の思い出に仕立て上げていました。ところが、突然その本人が現れる。しかも優と仲が良かったという虚構の記憶を持って。
まゆみの登場をきっかけに、優ら3人・幼馴染の矢島紀子も交えて、お互いに逡巡する最後の一年が描かれます。懐かしくも、愚かしくも、せつなくもあるあの一年。
こうした小説は、自分自身の高校生活の思い出との距離感によって、感動度が異なると思います。私にとって本書は、あくまでひとつの青春物語。でも、井上ひさし「青葉繁れる」川西蘭「春一番が吹くまで」と同様、心の片隅にこれからもとどまっていく、そんな気がします。そうした清新さを備えた作品です。
※ちなみに、私にとって、高校時代の思い出を甦らせてくれた作品は、井上一馬「モーニング・レインでした。

  

3.

「四十回のまばたき」● 


四十回のまばたき画像

1993年11月
角川書店刊

2000年8月
幻冬舎文庫
(533円+税)

  

2000/08/14

もうひとつよく判らなかった、 という思いが残ります。
最近の重松作品は、胸のうちにすっと入り込んでくるようなものが多いのですが、この作品はまるで違います。どのように受け止めたらよいのか、ちょっと迷います。
主人公は、売れない翻訳家・
圭司。仕事をもつ妻・玲子が夫婦の生活を経済的に支えていましたが、突然事故死してしまいます。その上、圭司は玲子が不倫していた事実を知らされます。呆然とするまま、泣くこともできない圭司。そこに、寒くなると「冬眠」してしまう症状を抱える義妹・耀子が、例年どおりやってきます。しかも、父親の判らない子供を妊娠して。
この2人と、アメリカからやってきた粗暴な小説家
セイウチ”の3人を中心に、ストーリィは進みます。あたかも、3人はそれぞれに欠落部分を抱えた人間のようです。
何故玲子は不倫をしたのか、何故圭司は泣くことができないのか、何故耀子はそれまで手当たり次第に男と関係してきたのか。妊娠した耀子を抱え込むことは、圭司にとって良いことなのかどうか。
それらの問題を解くためには、家族とは何かという問題に突き当たらざるを得ないようです。
本書は、重松さんの思いを語るというより、読者に問題を突きつけた恰好の作品、と感じられます。

  

4 .

「見張り塔からずっと」● ★★


見張り塔からずっと画像

1995年1月
角川書店刊

1999年9月
新潮文庫刊
(438円+税)

   

1999/10/19

現代の家族風景を描いた3篇を収録。
「カラス」は、バブル絶頂期に通勤2時間もかかる郊外にマンションを買った夫婦の、 その後の挫折感、空虚感を描いた作品。
「扉を開けて」は、漸く得た我が子が生後一年で突然死した後取り残された夫婦2人の、 寂寥感と危うさを描いた作品。
家庭をもち、住宅ローンを背負っている身から思うと、上記2作とも、僅かの違いで我が身のことになっていたかもしれないストーリィ。とても他人事とは思えません。誇張気味ということはあるのですが、決して絵空事ではないだけに、身につまされます。
なお、2作品とも主人公は夫の側。妻とは微妙に違いがあることがきちんと描かれていて、目を惹かれます。
「陽だまりの猫」は、上記2作品と異なり、若い妻が主人公。19才と早く結婚してしまっただけに、夫、姑から一人前と扱われず、自分を傍観的に眺める癖がついています。読み進むうち主人公に思わず肩入れしてしまうのですが、振り返ると、私自身がかつてこの夫と同様に振る舞っていたのではないかと思い、思わずうろたえてしまいました。
3作とも鋭く現実を穿っていて、重松さんの力量を感じさせるような一冊です

カラス / 扉を開けて / 陽だまりの猫

  

5.

「舞姫通信」● 

舞姫通信画像

1995年9月
新潮社刊

1999年4月
新潮文庫刊
(552円+税)


1999/10/14

主人公・宏海の双子の兄は5年前に自殺していた。そして、彼が教師として就職したばかりの私立女子校には、以前自殺した生徒を慕う「舞姫通信」が、継続的に生徒の間に配布されていた。一方、亡兄の恋人・佐智子は、心中失敗で一人生き残った若者・城真吾を、「自殺志願」のキャッチフレーズで新たにアイドルとして売り出そうとする。
本作品を通して中心になっているのは、自殺とは何なのか、生きることと何が違うのか、ということだと思います。また、生きること、自殺することが、まるで二者択一のように論じられている印象を受けます。
そこで、私の感想なのですが、禅問答のようで判らなかった、というのが正直なところです。本作品の評価は、「自殺」についての受け止め方、考え方によって、大きく変わることでしょう。私自身も自殺ということを考えたことは有りますが、二者択一のように考えたことはありませんし、考えたくもない、という気持ちです。
ただ、舞姫通信の部分については、ちょっと心を惹かれます。

  

6.

「幼な子われらに生まれ」● ★★


幼な子われらに生まれ画像

1996年7月
角川書店刊

1999年8月
幻冬舎文庫
(571円+税)

  

1999/09/28

とても切なくなるストーリィです。
主人公は、37才、普通のサラリーマン。別れた妻の元に娘が1人いますが、現在は再婚した妻の連れ子・娘2人との4人家族。
そんな中、妻が妊娠したことを契機に、家族の中に小波が立つようになります。家族とは何かという問題に、主人公が悩み、また迷うというストーリィです。
私自身にも2人の子供がいますが、実子ですから、主人公の苦しさがそのまま判る訳では有りません。しかし、その思いを想像すると、堪らなくせつなくなる気持ちが抑えきれません。主人公が過去への悔いから、今の家族を大事にしようと、精一杯努めているだけに。
今後、こうした家庭は増えていくのでしょう。その中では、家族の在り方より、父親の在り方がより問われていくように思われます。血の繋がった父子関係であれば、何の努力をしなくても父親然としていることができます。でも、こうした義理の父子関係ではどうでしょう。父親という存在が母親に比べて観念的なだけに、それだけ父親の努力が求められるように思います。
そうした父親の葛藤を、本書は象徴的に描いています。
重松さんは、家族関係に目をむけた作品が多くありますが、本書もそのひとつ。重松さんならでは視点を持った、名作だと思います。
今後も重松作品には惹きつけられそうです。

  

7 .

「ナイフ」● ★★     14回坪田譲治文学賞受賞


ナイフ画像

1997年11月
新潮社刊
(1700円+税)

2000年7月
新潮文庫化
(590円+税)

  

1999/06/20

題名だからということはないのですが、まさに胸にナイフを突きつけられた ような思いがしました。
今まで知らずに済んでいたことを、目の前に突きつけられた衝撃、それも逃げようもない、とでも言えば良いでしょうか。
6篇のストーリィからなる一冊ですが、中心は子供社会におけるいじめの生態。
大人から見れば単に「いじめ」ということなのですが、当人達の中ではまるで違ったものとして描かれています。虐待、差別がゲーム化している、ということです。普通に考えるのならば、同情や憐れみが一定の抑止力を持つのでしょうが、苛め側は勝手なゲームルールを作っていて、相手の気持ちを思いやるということを恥ずかしいことと定義し排除している。一方、苛められ側も卑怯な振舞いは反則になるというルールに拘束されている。我々が子供の頃にも多少そういったことはあったのですが、ゲームに興じるが如く全員がそれに参加してしまうことに底知れぬ恐ろしさを感じます。
自分に対することだったらまだ良い、でも自分の子供に対する仕打ちに対して親はどうすれば良いのでしょうか。
私の息子も今中学生、また小学校の時にいじめの対象になりがちだっただけに、他人事、小説事では済みません。
作品の出来不出来の如何を越えて、読み手に衝撃を与える一冊です。本書の内容から目を逸らさない為には、読んでみるしかありません。

ワニとハブとひょうたん池で/ナイフ/キャッチボール日和/エビスくん/ビタースィート・ホーム

  

8 .

「定年ゴジラ」● 

定年ゴジラ画像

1998年3月
講談社刊
(1800円+税)

2001年2月
講談社文庫化

1999/01/18

東京の西のはずれにあるニュータウン・くぬぎ台が舞台。
開発からニ十数年を経た現在、くぬぎ台の他の住人たちも主人公と同様に会社の定年を迎えていた。
家族や住宅ローンのため一所懸命働いてきた会社人間たち。さあ、定年となったら何をすれば良いのか。まず主人公がしたことは散歩。そして知り合ったのは、同じような定年者仲間。
サラリーマンであればいずれ迎えざるをえない人生の転機なのですが、そうおいそれと新しい生活に馴染むことなどできやしないでしょう。そんな彼らを見守る作者の目は温かい。
もはやニュータウンも開発当初の理想とはほど遠いものになりましたが、なんだかんだと言いつつ主人公らはこの街に溶け込み、そして会社人間の時とは違った幸せを見つけ出していくようです。
ニュータウンという同世代の住民が多い場所を舞台としていることから定年後という問題が際立ちますが、作者の語り口が明るいだけに悲観しないで済むような気がします。なんと言っても定年で人生が終わるわけではないのですから。

  

9.

「エイジ」● ★★         山本周五郎賞


エイジ画像

1999年2月
朝日新聞社刊
(1600円+税)

2001年7月
朝日文庫化

2004年7月
新潮文庫化

 
1999/08/25

主人公エイジは中学2年生。 父親は高校教師、姉のいる4人家族。
最初から、読んでいてピリピリするものが感じられました。
子供から大人に変わっていく入り口の年代。そして、大人が思う
良き少年でいることがカッコ悪いと思う一方、悪にもなりきれない中学生たち。なんとかバランスを維持しているという危うさが、エイジからは感じられます。
しかし、これはエイジだけの問題ではないでしょう。エイジはごく普通のひとりとして描かれているに過ぎません。(エイジが準優等生であることが、平均以上にその危うさを漂わせているとは思いますが)
そんな中で、エイジの住む桜ヶ丘ニュータウンに通り魔事件が起きます。そして通り魔が捕まってみると、犯人はエイジの目立たないクラスメイトでした。その事件以後、なんとなくクラスメイトのそれぞれに変化が生じるようです。
エイジには好きなものがふたつあります。クラスメイトの女子、そしてバスケ。でも、現在それらを思うに任せない。それが、エイジの危うさを重くしているようです。
ストーリィの点では、
「ナイフ」のように具体的な事件を書いた作品ではありません。しかし、一触即発するようなピリピリした緊迫感がある、 それがこの作品の特徴だと思います。
余人に真似できない、重松さんならではの独自の境地を示す典型的作品、そんな印象を受けます。重松ファンなら読んでおきたい作品です。

  

10.

「日曜日の夕刊」● ★★


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1999年11月
毎日新聞社刊
(1700円+税)

2002年7月
新潮文庫化

    

1999/12/15

とても温かなストーリィが詰まった短篇集です。心に温もりを感じる一冊です。
ごく普通の生活の中にある小さなドラマの数々。恋人、親子、家族、ありふれた関係の中に繊細な作者の目がキラリと光る、そんな印象を受けます。
かつて山口瞳さんは、ありふれた日常生活を守ることがどんなに大変なことか、その作品で語り続けました。本書を読んでいて、ふとそんな山口瞳さんの小説を思い出しました。
現代は、山口瞳さんが描いたような小さな家族の喜びが、古臭ァ〜イの一言のもとに、簡単に片づけられてしまう世の中になっているのかもしれません。そんな風潮の中で、本書は、決してそんなことはないんだ、大事なものは少しも変わらないんだ、と力強く訴えてくれているように思います。恥ずかしいけれどささやかな喜びを大事にしたい、と思っている人を、勇気づけてくれる作品だと感じます。
そう、まさに日曜日の夕方、夕刊がないから世間のことに振り回されず家族団欒にひたれる、という雰囲気のように。
気に入った作品を振り返ると、これまでの自分がそこに投影されているようです。「チマ男とガサ子」「サマーキャンプへようこそ」「後藤を待ちながら」「卒業ホームラン」
また、「さかあがりの神様」「後藤を待ちながら」「卒業ホームラン」は、子供の気持ちを父親の視点から描いているだけにことさら切ない気持ちになりました。とくに「さかあがりの神様」は、幼い娘の微妙な心をとらえていて、秀逸。

チマ男とガサ子/カーネーション/桜桃忌の恋人/サマーキャンプへようこそ/セプテンバー'81/寂しさ霜降り/さかあがりの神様/すし、食いねェ/サンタにお願い/後藤を待ちながら/柑橘系パパ/卒業ホームラン

    

読書りすと(重松清作品)

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