井上一馬著作のページ


1956年東京生、東京外国語大学卒。最初の翻訳書ボブ・グリーン「アメリカン・ビート」がベストセラーになる。


1.モーニング・レイン

2.自由ヶ丘物語

 


 

1.

「モーニング・レイン−十七歳の日記 1973−」● ★★




1992年5月
新潮社刊
(1359円+税)

 

1992/06/04

私自身の高校生活がそのまま甦ってくるような思いでした。
どの程度井上さん自身の高校生活だったのか判りませんが、舞台となる高校は都立立川高校。旧制ナンバースクールと呼ばれる一校です。
それだけに男子高校だった名残のバンカラさ、自由奔放さを持っていて、合唱や演劇コンクール、体育祭等の行事も盛んです。
私の通った高校も、ここと全く似通った雰囲気をもっていました。それだけに、この小説は私自身の高校生活と重なる部分がきわめて多いのです。もっとも、私には主人公のようなガールフレンドはできませんでしたが。
初恋、友情、クラブ活動、合唱祭、立川祭、受験戦争のこと等。
振りかえると、あの頃は本当に真剣で、やたら純真な夢を抱いていました。それが実現しなくても、現在の高校生活に比べ遥かに幸せだったような気がします。
ヘッセ「デミアン」等の小説に感動し、自分はどうあるべきか一所懸命に模索していました。
主人公と“
わっし”の交際は、喜びから嫉妬、拘束、反発へと移り変わります。本当に相手が好きになるというより、女の子を好きにならずにいられない衝動に基づいた恋愛だったからのような気がします。
19年後、仲間達のことは良くわかっている。しかし、
わっしのことは、その後どうなったか、今どうしているのかわからない。そんなものだろうという思いの中に、郷愁のような余韻が残ります。

 

2.

「自由ヶ丘物語」● ★★

 

1991年
新潮社刊

 

1991/07/29

好感のもてる一冊です。33才の翻訳家、井上さん自身の日常物語。
日吉のマンションに妻の“美智子さん”、2人の娘・沙里奈、友里奈の4人で住み、自由ヶ丘の仕事場に通う毎日。
一年間の日記の形をとった一冊ですが、井上さんの感じたこと、2人の娘への思いが、飾られることなくありのままに語られています。
子供がうまくできないと情けなく思ったり、その原因が自分の不器用さ・運動神経の鈍さによるものではないかと心配したり、父親の思いは変わらないものです。ただ、それを無駄なく短い文章でありのままに語ることができる、というのが、プロと素人との違いでしょうか。
こんな本が生まれるなら、未だ日本も東京も捨てたものじゃない、という気がします。

 


 

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