柴崎友香
(しばさきともか)作品のページ No.3



21.パノララ

22.かわうそ堀怪談見習い

23.千の扉

24.公園へ行かないか? 火曜日に


25.つかのまのこと

【作家歴】、きょうのできごと、青空感傷ツアー、ショートカット、フルタイムライフ、いつか僕らの途中で、その街の今は、また会う日まで、主題歌、星のしるし、ドリーマーズ

 → 柴崎友香作品のページ No.1


寝ても覚めても、よそ見津々、ビリジアン、虹色と幸運、わたしがいなかった街で、週末カミング、よう知らんけど日記、星よりひそかに、春の庭、きょうのできごと十年後

 → 柴崎友香作品のページ No.2

 


    

21.

「パノララ」 ★★


パノララ画像

2015年01月
講談社刊
(1800円+税)

2018年01月
講談社文庫化



2015/02/07



amazon.co.jp

部屋の更新料が支払えず困っていた主人公の田中真紀子28歳は、友人のイチローから勧められて、彼の家に間借りすることになります。
その家はコンクリート3階建の本館+黄色い木造2階建+鉄骨ガレージという奇妙な家。そして主人公が住むことになったのは、ガレージの上に乗っかった赤い小屋のような独立部屋。
家ばかりではなく住人も奇妙な人物ばかり。木村家の父親である
将春は全裸で人前に現れるし、母親は脇役で人気の女優=志乃田みすず。イチローの姉=、妹=絵波も一癖二癖あり、おまけに3人とも父親が違うのだという。

地味で平凡な主人公という設定はこれまでの柴崎作品と変わりありませんが、奇妙な家に奇妙な家族という設定は 400頁超という大部であることと合わせ、柴崎作品としては初めてと言って良いくらい珍しいもの。
しかし、読み進むうち、訳有りなのは何も木村一家の人々だけでなく、主人公自身の家族もかなり訳有りであることが、明らかになっていきます。

題名の「パノララ」とは、主人公がみすずから貰い受けたデジカメで時々写すパノラマ写真をもじったもののようです。
示唆された訳ではありませんが、本ストーリィを俯瞰して見ると本作品の内容が掴めてきます。
木村一家と田中一家を対照することができますし、ある意味で主人公とみすずは対極にある、と言えるでしょう。
居場所とは何か、自分の居場所はどうしたら見つけることができるのか、それらを問うたストーリィ。
そして結末はというと、完了形ではなく、現在進行形。
それは柴崎作品の現在および今後について語っているようで、これからの作品への期待心へと繋がります。

        

22.

「かわうそ堀怪談見習い ★★


かわうそ堀怪談見習い

2017年02月
角川書店刊

(1500円+税)



2017/03/19



amazon.co.jp

あの柴崎さんが“怪談”?と驚きました。
読んでみると、「恋愛小説家」という肩書で紹介されていることを知った主人公、今のような小説を書くのはやめようと決意。何故なら恋愛にあまり興味がないことに気付いたから。では何を書こうかといろいろ考えた末に、怪談を書くことにした、という次第。
ついては東京を離れ、中学時代に住んでいた区の隣、
かわうそ堀に引っ越す(なおこの地名、動物の獺ではないとのこと)。

といっても怪奇現象にまるで縁のない主人公(谷崎友希)が頼りにしたのは、中学時代に怪談語りが得意だった同級生で、結婚・離婚し今は実家の不動産業を手伝っている
西岡たまみ
そこから、たまみが語る不可思議な出来事や、たまみの紹介する人物に会って怪談話を聞く、また主人公自身が思い出した怪奇現象を書き連ねていく、というのが本書の構成。

怪談とは言っても、本作に怖さとか薄気味悪さは余り感じられません。それゆえに「怪談見習い」か?と思う処ですが、理由は専ら柴崎さんらしい語り口にある、と言って良いでしょう。
ありふれた日常を描いてきた柴崎さん、怪談さえも柴崎さんの世界に取り込んで語っている、という印象です。

ですから、少々怖いと思う出来事があっても、それはそれで日常出来事のひとコマとして、居心地よく感じられます。
題名に「怪談」とあっても、本作もまた柴崎友香さんの、愛おしい日常生活の世界なのです。

                  

23.

「千の扉 ★★


千の扉

2017年10月
中央公論新社

(1600円+税)



2017/11/09



amazon.co.jp

千歳、39歳。一ヶ月前に永尾一俊・35歳と結婚したばかり。
折しも都営団地で一人暮らしをしていた一俊の祖父である
日野勝男・85歳が体調を崩し、一俊の母親である圭子夫婦の家に一時的に同居することになります。
その間の留守番代わりということで、千歳と一俊が勝男の部屋に住むことになったという次第。
ついては勝男、大事な箱を同じ都営団地内に住む
高橋征彦という人に預けたままであり、千歳にその高橋さんを探し出して欲しいと頼みます。
それを半ば口実に、千歳は広大な都営団地の中をあちこちと歩き回ることになります。
※山手線内、35棟にも及ぶ広大な都営団地という舞台設定。

街中を歩き回る中でいろいろな景色が見えてくる、というのは柴崎作品に多い趣向ですが、本作がこれまでにない広がりを有しているのは、この団地に過去暮らし、あるいは現在も住んでいる人の小ドラマが次々と扉を開けるように繰り広げられる処。

ちょうど思い出すのは、
テジュ・コール「オープン・シティ。同作は主人公が街を歩き回る中で、過去の歴史的事実が眼前に浮かび上がってくるという趣向の作品でしたが、それと似て異なるのは、本作では都営団地に住んでいた人々のドラマが主眼に置かれているという点。
あたかも、街には人と人の住んだ足跡が刻み込まれている、街とはそこに住んだ集積であると語られている気がします。

千歳の視点だけに捉われているストーリィではなく、脈略ないまま突然過去のドラマにストーリィが移っていく、という構成。
最初こそ戸惑うところもありましたが、扉が唐突に開いて過去の時間が開くという展開は、時空を繋ぐトンネルを自在に行き来しているようで、むしろ楽しく感じられます。
柴崎さんの世界、ますます深まっているなぁと感じる次第。

                

24.
「公園に行かないか? 火曜日に Wanna go to the park,on Tuesday ★★


公園に行かないか? 火曜日に

2018年07月
新潮社刊

(1700円+税)



2018/08/24



amazon.co.jp

2016年、世界各国から作家や詩人たちが集まる、米国アイオワ大学の“インターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)”に柴崎さんは参加したそうです。
世界各国の作家たちと、言葉や思いが通じることもあれば通じないこともある、そんな3ヶ月の体験を元にした連作小説集。

これってエッセイ集では?と思う処ですが、そう出版社の紹介文に明記されているのですから、小説なのでしょうね。
でもそんなことは関係なく、実体験として伝わってくるものはあります。

知らない街をカメラを携えて歩き回る。そうしてその街の雰囲気を感じ取ろうとする。本書も、そんな柴崎さんらしさの延長にある作品と思います。

集まった中で一番英語が拙かったということはあるのかもしれませんが、様々な国の人たちの英語は聞き取りづらい、ネイティブな人たちの英語も聞き取るのが難しいというのは、経験して初めて知ることなのでしょうね。
一方、大リーグのワールド・シリーズに興奮しているのは主人公だけだったというのは可笑しい。

プログラムが終わり帰国する時の、ホッとする一方で寂しい気持ち、共感できます。
かつて若い頃、3週間にわたり一人でヨーロッパ各国を旅行した日程を終え帰国の途に着く時の気持ちは、まさに同じようなものでしたから。

柴崎さんの実体験に同行させてもらったような、そんなリアルな感覚を味わえる一冊です。


公園へ行かないか? 火曜日に/ホラー映画教室/It would begreat!/とうもろこし畑の七面鳥/ニューヨーク、ニ〇一六年十一月/小さな町での暮らし・ここと、そこ/1969 1977 1981 1985 そして2016/ニューオーリンズの幽霊たち/わたしを野球に連れてって/生存者たちと死者たちの名前/言葉、音楽、言葉

                    

25.
「つかのまのこと ★★


つかのまのこと

2018年08月
KADOKAWA刊

(1500円+税)


2019/01/09


amazon.co.jp

俳優の東出昌大をモデルにした写真家:市川織江の写真と、柴崎友香さんによる文章のコラボによる作品。

舞台は一軒の古い木造建ての民家、物語の主人公は何時からか分からないながらその家に長く住まう幽霊、という設定。
写真における東出さんは、その主人公たる幽霊に他なりません。

昔、私が子供の頃に暮らしたような民家、緑多い庭、その景色にどこかホッと、気持ちを和ませられる気持ちがします。
幽霊である主人公は、その家に住み暮らした人々の姿を見守り、また家の近所ではやはり自分と同じ幽霊と出会う。

自分が幽霊になったら、この家やそこに住む家族がこんな風に見えるのか、中々悪くないじゃない、と感じた次第。
少なくとも、座敷童が見るような景色とは違うんだろうなぁ(座敷童の場合はもっと住む人に関わるような気がします)。

こうした居心地の良を感じる空間こそ、柴崎友香さんの世界なのかもしれません。
読むのを先送りしていましたが、刊行後半年が過ぎて、図書館の順番待ちをしなくてもよくったところで読んだ次第です。

      

柴崎友香作品のページ No.1 へ   柴崎友香作品のページ No.

  


    

to Top Page     to 国内作家 Index