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「オープン・シティ Open City」 ★★☆ |
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本書の主人公ジュリアスは、ナイジェリア人の父親とドイツ人の母親の間に生まれ、ナイジェリアで成長した後に自力でアメリカの大学に進学し、現在は精神科医。 黄昏時、マンハッタンを散歩するようになった、というところから本ストーリィは語り出されます。 マンハッタンを彷徨しながら主人公が思索し、そこから語られる世界が驚くほど広がりをもっていく処が、本作の素晴らしさ。 マンハッタンの建物や記念物を目にした主人公は、そこにかつて先住民と植民地化の争いがあったこと、黒人奴隷の歴史と、過去の歴史に通じるものを見出します。 そして、母方の祖母を探しにブリュッセルへ出かけた主人公は、そこで西欧に夢を抱いてやってきたが挫折を味わっているというモロッコ人のファルークの打ち明け話を聞きます。 世界には、目に見えるもの以上の世界・歴史がその裏から広がっているのだと実感させられるストーリィ。 ナイジェリアでの少年時代、母親との確執、恩師の日系人であるサイトウ教授との再会、別れた恋人ナデージュへの消えぬ想い、何と世界には多くのものが満ち満ちていることでしょう。 時代、場所、人物を軽々と飛び越え思索的に語られるストーリィだけに、つぶさに読み取るのは正直言ってシンドイのですが、多少すっ飛ばしても本ストーリィがもたらす広がりを感じるのに不都合はありません。 作者は写真家としても活躍中とのこと。一瞬の風景からそこに封じ込まれた多くのものを読み取ろうとする写真手法に、本作は通じるものがあるのではないか、と思います。 |