柴崎友香
(しばさきともか)作品のページ No.2



11.寝ても覚めても

12.よそ見津々

13.ビリジアン

14.虹色と幸運

15.わたしがいなかった街で

16.週末カミング

17.よう知らんけど日記

18.星よりひそかに

19.春の庭

20.きょうのできごと、十年後


【作家歴】、きょうのできごと、青空感傷ツアー、ショートカット、フルタイムライフ、いつか僕らの途中で、その街の今は、また会う日まで、主題歌、星のしるし、ドリーマーズ

 → 柴崎友香作品のページ No.1


パノララ、かわうそ堀怪談見習い、千の扉、公園へ行かないか?火曜日に、つかのまのこと

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11.

●「寝ても覚めても」● ★★       野間文芸新人賞


寝ても覚めても画像

2010年09月
河出書房新社
(1500円+税)

2014年05月
2018年06月
河出文庫化



2010/10/05



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いつもの柴崎作品のように、ごく普通の若い女性の平凡な日々がずっと描かれていきます。カメラで写真を撮るのが好き、というのもいつもの柴崎作品の主人公らしい。

しかし、異なるのは、主人公=泉谷朝子の22歳から31歳までという、10年間という長い時の流れが描かれていること。
そして中身はというと、尽きぬ想いを描いた恋愛ストーリィ。

大阪、朝子は麦(ばく)という青年と恋仲になるが、彼は去ったきり朝子の元に戻らず。
そして、友人と共に東京に移った朝子は、東京で麦にそっくりな青年=亮平と出会う。麦の場合と違って友人たちは、朝子にとって理想的な恋人だと亮平との仲を喜んでくれる。しかし、朝子の胸の奥には未だ麦への思いがくすぶっていた・・・。

何気ない日常の繰り返し。ただ時間だけが経っていく。この中にどのような意味があるのかと思うものの、柴崎作品においてはその何でもない時間が居心地良いのです。
しかし、その平凡さ・平穏さが、最後の40頁くらいで突然はじけ飛んでしまう。そしてそのことによって読者は、朝子がどれだけ深く、熱い想いを胸の奥底に抱え込んでいたかを知るのです。
二転三転、とんでもない展開だと思うのですが、朝子が初めて堂々と自信をもって行動する。それは全て相手への想いの故。
その姿が圧巻、圧倒されるばかりです。

他の恋愛ストーリィとは趣を異にする、柴崎さんならではの恋愛ストーリィと言うべきでしょう。
凝縮された、最後の40頁くらいが本作品の総て。読み始めたら、最後の一頁まで必ず読み切ってください。

   

12.

●「よそ見津々」● ★★


よそ見津々画像

2010年09月
日経新聞社刊
(1500円+税)



2010/11/09



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柴崎さん初のエッセイ集。
カメラを片手に街を歩き回る、というのは柴崎作品に多く登場する主人公のキャラクターですが、柴崎さん自身を投影したものらしい。
そう感じるのが、冒頭の
「東京の木」および「希望の場所」に収録されたエッセイの数々。
日常のごくありふれた事々に関する思いを書き綴ったエッセイ集。陽だまりの中、ゆるやかでのんびりとした時間を歩みを感じるようで、居心地良く、自然と楽しい気分になる、という雰囲気あり。
柴崎さん、とくに場当たり的にバスに乗り、知らない街の景色を車窓から眺めるのが好きという。判る気がするなぁ。

大阪から東京に住まいを移してからのエッセイなので、東京の景色が中心。そしてそれを語る柴崎さんの文章は、関西弁。
でも柴崎さんの関西弁は、大阪を感じさせるというより、文章に柴崎さん特有の柔らかさを与えている、という効果が大きい。だから柴崎さんの文章、好きなのです。

小説ではなくエッセイなので、余計なことを考えず、ただその柔らかさに浸っていればいい。それだけで気分は、充分楽しいのです。
料理、ファッションに関するエッセイも、それなりに楽しい。料理は好きだけれど、整理整頓は苦手。4人分の料理はさっさと作れるが、一人分の料理を作るのは難しい。冷え症なので今の若い子たちのようなファッションはとてもできない等々。それらも、小説作品からは窺い知れない柴崎さん自身の特性なので、ファンとしては柴崎さん本人と語り合ったような気分になれます。
柴崎ファンには格好の一冊、お薦めです。

東京の木/希望の場所/料理は、てきとうに塩梅に/ファッションの、なんとなく/本と映画と/小説を書くこと

          

13.

●「ビリジアン」● ★★


ビリジアン画像

2011年01月
毎日新聞社刊
(1400円+税)

2016年07月
河出文庫化

2011/03/10

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各章、ある日の記憶、つまり「点」を描いているという風。
「点」が集まり、繋がることによって「面」になる。自分のこれまでの足跡、物語ができあがる、ということであると思います。

20の掌篇からなる作品ですが、主人公は一人、山田解という女の子。彼女の10歳から19歳までの、ある日・ある時が描かれています。
本書に描かれる「点」は、年代順に並べられている訳ではありません。順不同、つまりバラバラ。小学生の時、中学生、高校の時と、順番に捉われず前後します。
つまり、記憶を蘇らすのと同様、ある意味行き当たりばったりという風です。
だからこそ「点」が「面」になる、と感じます。

「面」は大切ですが、ひとつひとつの「点」も愛おしい。
ごくフツーの、何ということもない「点」たる日々。自分の人生への満足は、そんな愛しい日々の積み重ねによって成るものであるということを、本作品は伝えてくれます。
柴崎さんらしい、一冊。読後感は爽やかです。

黄色の日/ピーターとジャニス/火花1/火花2/片目の男/金魚/十二月/ピンク/アイスクリーム/ナナフシ/スウィンドル/赤/終わり/Fever/フィッシング/目撃者/白い目/赤の赤/船/Ray

                

14.

●「虹色と幸運」● ★★☆


虹色と幸運画像

2011年07月
筑摩書房刊
(1500円+税)

2015年04月
ちくま文庫化


2011/07/28


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本田かおり、水島珠子、春日井夏美という、高校〜大学時代からの友人という関係にある、30歳を越えたばかりの女性3人を主役にした長篇小説。

ドラマチックな出来事が起こる訳でもなく、ごく普通の日常が淡々と描かれていくところは、いつもの柴崎作品どおりの展開。
しかし、3人の女性を交互に、並行的に、バランス良く描いていて、さらに彼女たちの日常風景を1年間に亘り四季の移ろいと共に描いているところが、何とも素敵で楽しいのです。
もちろん3人、性格や今の仕事も違えば、独身・既婚、独身であっても恋人の有無と、年代以外は様々に異なっています。親友であっても人それぞれ人生には違いがあることをごく自然に描いているところに、本作品の普遍性を感じます。

小説のストーリィとはとかく急ぎ足、あるいは駆け足で展開していくものなのですが、本作品では散策ペースでじっくり歩いている、という感じ。
ですから、散歩しているような楽しさ、気分の良さ、空気の気持ち良さを感じるのです。さらに四季の変化も。
この辺り、柴崎さん、本当に上手い。柴崎さんだからこそ醸し出せる雰囲気、と言うべきでしょう。

人それぞれ、生き方もそれぞれ、本作品に描かれる3人の女性の1年間は、まさに人生の縮図と言えるのではないでしょうか。
穏やかな味わいをじっくり楽しめる一冊、お薦めです。

          

15.

●「わたしがいなかった街で」● ★★


わたしがいなかった街で画像

2012年06月
新潮社刊
(1400円+税)

2014年12月
新潮文庫化



2012/07/22



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柴崎友香作品といえば、あるがままの今を肯定するといった姿勢が基調でしたが、その点で本書は転機となる一冊ではないかと感じられます。
主人公の
平尾砂羽は36歳、離婚して3年経ち、結婚時から住んでいた錦糸町から世田谷区若林の新築マンションに引っ越したところから本ストーリィは始まります。
正社員にという話もありましたが、結局現在も契約社員のまま。恋人を追いかけて上京し結婚したものの、離婚した今となれば東京に残っている必要があるのか。関西で一人暮らしの実家に戻った方がいいのではないかという気持ちもあり。そんな砂羽がよくすることといえば、部屋で戦争や内戦のドキュメンタリー映画を観ること。

今までの肯定的な作品と異なり、このままでいいのか、という疑問が本作品では投げかけられています。
年月を重ねればこのままでいいのかという疑問が生まれるのも当然のこと。柴崎作品もようやくその時を迎えたのか、という思いです。
冒頭、砂羽の古い友人で場当たり的に暮していて平然としている
中井という男性が登場します。そして彼が間接的なつなぎ役となり、準主人公と呼んでいいのだろう、やはり古い仲間の妹で葛井夏という24歳の女性も登場。
その夏も砂羽と似ていて、まさに第二の砂羽という印象。でも彼女は中井に学んで、関心を惹かれれば全くの他人にもこだわりなく話しかけるという術を身に付けます。その点で夏は、砂羽の進化系というべき女性像と言って良いでしょう。

これまでの柴崎作品からみて転機と言える作品ですが、疑問と同時に希望もきちんと呈示されています。
その点で、柴崎ファンには読み逃せない一冊です。

わたしがいなかった街で/ここで、ここで

         

16.

●「週末カミング」● ★★


週末カミング画像

2012年11月
角川書店刊
(1400円+税)

2017年01月
角川文庫化



2012/12/19



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ごく普通の日常生活から大切なものを掴みだす、といった趣向の作品が多い柴崎さんですが、その中でも本書はとりわけ“ありふれた日常生活”という印象が強い。
本書はそんな作品8篇を収録した短篇集。

ありふれた日常生活の中にも“いいなァ”と感じる瞬間、時がそれなりにあるものです。本書では、訪れた先で感じた居心地の良さ、知り合いとの会話の中においてと、そこは様々。
気が付かなければそのまま見過ごしてしまいそうな、ホンのささやかな喜び、楽しさを取りこぼさず、大切に掬い上げている、といった印象の短篇集です。
読んでいてふと覚える共感、それに気づくこともまた楽しい。

結局、特別なことは何も起きないストーリィばかりですが、読み終えた後になって振り返る度に、ふっくらして、愛しいという思いが増してくる、そんな気がします。
考えてみればごく普通の人間にとって、何も特別なことが起きないこと、いつもの日常がいつものように繰り返されることの中にこそ、幸せがあるのではないでしょうか。
本書はそんなことに目を向けさせてくれる一冊です。
ちなみに表題は、各ストーリィが土〜日曜日の話として描いたものであるというところから。 お薦めです。

※今回柴崎さんの作品を読んでいて、片岡義男さんの作品とどこか通じるものがあるのではないか、とふと感じました。片岡作品は日常生活の中から洒落た時間、光景を引き出す風であるのに対し、柴崎作品はあくまで徹底してありふれた日常の時間、日々を大切なものとして描くという違いはありますが、ごく普通の日常生活を題材にしているという点において共通するものを感じた次第です。

鮭王子とハリウッド/ハッピーでニュー/つばめの日/なみゅぎまの日/海沿いの道/地上のパーティー/ここからは遠い場所/ハルツームにわたしはいない

       

17.

「よう知らんけど日記」 ★☆


よう知らんけど日記画像

2013年09月
京阪神エルマガジン社刊
(1700円+税)

2013/10/12

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柴崎さんが生活の中で実感したこと、身の回りで気になること等を、普段しゃべっているとおりそのまま大阪弁で書き綴っているWEBサイト「エルマガbooks」への連載記事を書籍化したもの、とのこと。
ちなみに上記サイトの「よう知らんけど日記」は現在も継続中、その冒頭には、
「よう知らんけど」は、関西人がさんざん全部見てきたかのように喋った最後に「絶対そうやって!・・・よう知らんけど」と付けるアレですよ、とあります。

柴崎作品の登場人物が基本的に関西人であることはいうまでもありませんが、皆々割りと静かな人物設定です。
しかし、実際の柴崎さんはこうなんかァ、まるっきり大阪人やないか、とつい引きずり込まれるように一言口にしてしまいたくなるお喋り風日記。
本書では、生の柴崎さんに出会うことができます。

東京に現在住んで大阪とをしばしば往ったり来たりしているからこそ、なおのこと大阪人風になってしまうのでしょうか。柴崎さん、これ程大阪人風とはなぁ・・・。(^^;)
柴崎さんファンであれば、それなりに楽しめる一冊です。

    

18.

「星よりひそかに」 ★★


星よりひそかに画像

2014年04月
幻冬舎刊
(1300円+税)


2014/05/01


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これが恋愛小説だったら、好きという気持ちを主体として物語られるのでしょう。
それが本書では、好きという感情が日常生活の外側に、まるで付けたしのようにぶら下がっている感じ。

人を好きという気持ちを割り切って考えることができたらきっと楽でしょう。逆に固執すれば苦しいし。
別に好きという気持ちがなくったって生きていける。実際、日常生活は好きという気持ちに関係なく回っていきますし。
本作品では、人を好きという感情を冷めた目で見ているところがあります。淡々としている、という風。
何でそんなややこしい感情をわざわざ持とうとするのだろう、という女子高生の一言には、結構共感できます。

柴崎さんらしい静かな口調による語らいの中に、(考え方次第なのでしょうけれど)ふとした可笑しさが入り混じる、そんな印象を受ける短篇集。
柴崎作品としては軽い方の作品だと思いますが、本書にも現れる柴崎さんの感性、好きなんだなぁ。


五月の夜/さっきまで、そこに/ほんの、ちいさな場所で/この夏も終わる/雨が止むまで/Too Late, Baby/九月の近況をお知らせします

      

19.

「春の庭」 ★★☆             芥川賞


春の庭画像

2014年07月
文芸春秋刊
(1300円+税)

2017年04月
文春文庫化



2014/08/11



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柴崎作品には珍しく男性が主人公。
30代初めの
太郎は、3年前に離婚すると同時に美容師として働いていた舅経営の美容室も辞めて現在は小さな会社勤め。
その太郎が住むことになったのは、築31年という古いアパート。
ある日太郎は、同じアパートに住む女性の、まるで隣家に侵入せんとするような姿を見かけます。
それがきっかけとなり、太郎は同じアパートに住むその「
西」という女性、彼が「巳さん」と呼ぶ老婦人と言葉を交わすようになります。
その西曰く、隣の家は
写真集「春の庭」の舞台になった家なのだという。

男性主人公といい、隣の家を覗く西さんや巳さんという登場人物といい、これまでの作品より積極的な動きがあるのが印象的。
住民同士のちょっとした交流、西さんの隣家に対する関心に引きずられるようにして、主人公も通りかかった家々の佇まいに関心を持つようになる。この街が息づいているという感触がそこに生まれて楽しい。
特に強い思いではありませんが、人と人との交わり、家並みへの興味、そして現在だけでなく過去への思いも共存する、そんな雰囲気が好いなぁという思いは、柴崎さんが望むところのもののように感じます。

従来作品同様、特にこれといったドラマは何も展開しないストーリィですけれど、そこに家があり、住む人がいて、ひとつの街として息づいている、そんな姿が浮かび上がってくるのが秀逸。
なお終盤、主人公の姉が突如として登場し、ストーリィの雰囲気ががらりと変わるところが、予想外の楽しさ。

※候補4回目での芥川賞受賞となった所為か、出版社紹介文等では「集大成」という言葉がやたら聞こえますが、私は少々違和感を覚えます。
「集大成」という言葉からは、これで終わりといった印象を受けるのです。これまでの作品の積み重ねの延長上に本作品があるのは間違いないにしろ、柴崎さんはまだまだ発展していく作家であると思うからです。

         

20.

「きょうのできごと、十年後」 ★★☆


きょうのできごと、十年後画像

2014年09月
河出書房新社
(1400円+税)

2018年08月
河出文庫化



2014/10/26



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柴崎さん初の単行本作品きょうのできごとに登場した大学生たちの十年後、中沢がオープンしたカフェの5周年祝パーティをきっかけに再会した彼らの現在の様子を描くストーリィ。
女子2人+男子3人という5人=
けいと・真紀・かわち・中沢・正道+α各々を各章の主人公として、彼らが交錯するように過ごす一日の様子が描かれます。
その他、
西山、坂本という人物たちも再登場します。

私が「きょうのできごと」を読んだのは、柴崎作品としては3冊目。まだ十分に柴崎作品の良さ、魅力を読み取れていたとは言えない時期で、勿体なかったかなぁという思いをずっと引きずっていました。そういう思いがあったからこそ、彼等の十年後を描くという設定の本書を読めたことが嬉しい。

気楽な大学生生活から、社会に出てそれなりに年月を重ねてきた現在、彼らの言動の端々から10年という年月の重みが感じ取れます。
言わば、本作品に書かれていない彼らの10年が、大きくストーリィ投影されていると言って構わないでしょう。1
とにかく大学卒業後の10年という年月は本当に大きい。その後の人生の道筋、方向性を決めるものなのですから。彼らの中にもきっと、様々な逡巡、決断があった筈。

今回、たった一日の中、まるで学生時代に戻ったかのように交わされる遠慮ないトークを凄く良いと感じられたことが、とても嬉しい。


空の青、川の青(けいとのきょうのできごと)/あるパーティの始まりと終わり(真紀の〃)/休日出勤(かわちの〃)/おれの車(中沢の〃)/真夜中の散歩(誰かの〃)/小さな場所(正道の〃)

   

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