佐伯泰英作品のページ No.3



21.鯖雲ノ城−居眠り磐音江戸双紙21.−

22.荒海ノ津−居眠り磐音江戸双紙22.−

23.万両ノ雪−居眠り磐音江戸双紙23.−

24.朧夜ノ桜−居眠り磐音江戸双紙24.−

25.「居眠り磐音江戸双紙」読本

26.白桐ノ夢−居眠り磐音江戸双紙25.−

27.紅花ノ邨−居眠り磐音江戸双紙26.−

28.石榴ノ蝿−居眠り磐音江戸双紙27.−

29.照葉ノ露−居眠り磐音江戸双紙28.−

30.冬桜ノ雀−居眠り磐音江戸双紙29.−


【作家歴】、陽炎ノ辻、寒雷ノ坂、花芒ノ海、雪華ノ里、龍天ノ門、雨降ノ山、狐火ノ杜、朔風ノ岸、遠霞ノ峠、朝虹ノ島

 → 佐伯泰英作品のページ No.1


無月ノ橋、探梅ノ家、残花ノ庭、夏燕ノ道、驟雨ノ町、蛍火ノ宿、紅椿ノ谷、捨雛ノ川、梅雨ノ蝶、野分ノ灘

 → 佐伯泰英作品のページ No.2


侘助ノ白、更衣ノ鷹(上下)、孤愁ノ春、尾張ノ春、姥捨ノ郷、紀伊ノ変、一矢ノ秋、橋の上、東雲ノ空、秋思ノ人

 → 佐伯泰英作品のページ No.4


春霞ノ乱、散華ノ刻、木槿ノ賦、徒然ノ冬、湯島ノ罠、空蝉ノ念、弓張ノ月、失意ノ方 、白鶴ノ紅、意次ノ妄、竹屋ノ渡、旅立ノ朝

 → 佐伯泰英作品のページ No.5


声なき蝉(上下)、恨み残さじ、剣と十字架、異郷のぞみし、未だ行ならず(上下)、異変ありや、風に訊け、名乗らじ、荒ぶるや、奔れ空也

 → 佐伯泰英作品のページ No.6

  ※ → 「居眠り磐音 江戸双紙」公式サイト
 


     

21.

●「居眠り磐音江戸双紙21. 鯖雲ノ城」● ★★


鯖雲ノ城画像

2007年01月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2007/11/03

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第21巻。

磐音おこんの乗った正徳丸は、30余日の航海を経てようやく関前湾に入ります。
風浦湊の船着場には国家老の坂崎正睦が、照埜(母)と伊代(妹)を伴って出迎え、嫡男・磐音の帰国とその傍らに寄り添うおこんの美形が合わさって衆目を集める。
この豊後関前藩、読了20巻を過ぎ今や読み手にとっても懐かしい故郷のような所です。その故郷をやっと目の前にする、そんな胸熱くなる思いは磐音とおこんだけに留まらず、読み手である私にとっても同じです。
※豊後関前藩への親しい思い、私にとって今や藤沢周平=海坂藩に匹敵します。本書は城下町の絵図付きなので、さらに愉しい。

おこんの美しさに皆が驚き、おこんは坂崎家に温かく迎え入れられて感動。そして、磐音の出奔という坂崎家にとっての大事件は6年を経てようやく落着し、坂崎家と親しい人々との間では一気に幸福感が盛り上がるというストーリィ。
その一方で、磐音が学んだ中戸信継道場は師の病気と諸星十兵衛道場の台頭もあって寂れた観が漂い、軌道にやっと乗ってきた藩物産事業についてはそれを乗っ取ろうとする中津屋文蔵と、文蔵と手を結んだ藩役人たちの暗躍ぶりが露になってくるという、暗部もある。
<宍戸文六騒乱>と<利高もの狂い>に続く三度目となる関前藩の危機を、正睦・磐音父子が中心になって解決するところが、本書のもうひとつの主ストーリィ。
最後は、今津屋の佐紀の好意を入れ、磐音とおこんの仮祝言が執り行われて大団円。

本書ストーリィの中で現代的な視点から私が注目したのは、磐音の父・正睦の勇気ある決断のこと。
関前藩の財政改善は中津屋文蔵の協力なくしては出来なかったという。それに感謝しつつも、それを基に利権を我が物にしようとする中津屋の所業は許さないという正睦の断固たる姿勢。
こうした経緯で癒着が始まり長年の不正に繋がるというパターンは、歴史上もまた現代においても、何度も繰り返されたことでしょう。不正を断つ勇気、上に立つ人は正睦を見習って心してもらいたいものだと思います。

白萩の寺/中戸道場の黄昏/三匹の秋茜/長羽織の紐/坂崎家の嫁

  

22.

●「居眠り磐音江戸双紙22. 荒海ノ津」● ★☆


荒海ノ津画像

2007年04月
双葉文庫刊
(648円+税)

 

2007/11/10

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第22巻。

磐音おこんは、福岡藩(黒田氏)五十二万石を支える大商人・箱崎屋次郎平に招かれ、一月余り滞在した豊後関前城下を旅立って博多に立ち寄る。
本書は、博多での磐音+おこんの様子と、磐音+おこんがおらず寂しがる人々のいる江戸の様子を交互に描いた巻。

博多では、磐音は藩の剣術道場および前国家老の吉田久兵衛に歓迎され、おこんは箱崎屋の末娘=お杏に親しんでもらってあちこち案内されるといった、旅ならではの一幕。
そんな福岡でも、駆け落ちしようとする下士=猪俣と上役の娘=お咲の2人を助け、一方勝負を挑んできた武芸者3人を退けるという、いつもどおりの磐音の活躍が繰り広げられます。
ただし、本巻の魅力は、磐音を主役とする話より、江戸における品川柳次郎を主役とする話の方にこそあります。

品川家では当主と嫡男の両人ともが食売女に入れ込んで家を出て行ったままとなっており、品川家廃絶の危機が目前という状況。
そんな折り柳次郎が再会したのは、かつて北割下水で幼馴染だったものの、先方が学問所勤番組頭に出世して北割下水を出て行った椎葉家のお有
そのお有は好色な旗本の元に妾奉公に出されようとしている。お有と品川家の危機を、磐音が江戸にいない今、どうやって柳次郎が切り抜けるか、というのが本巻の見処。
柳次郎にとってのヒロインとなるこのお有、武家娘ではありますけれど、“ミニおこん”といった魅力を備えています。

隠居老人/博多便り/大股の辻/恋の芽生え/幸せ橋

  

23.

●「居眠り磐音江戸双紙23. 万両ノ雪」● ★☆


万両ノ雪画像

2007年08月
双葉文庫刊
(648円+税)

 

2007/11/11

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第23巻。

南町奉行所の笹塚与力が6年前に解決しきれなかった“万両の親方=大次郎”事件。
その6年前の事件の経緯から本巻はふたを開け、その大次郎が島抜けをし、盗んだ金を取り戻しに江戸に戻ってくるに違いない、というのが主となる騒動。
それにしても、磐音おこんが芝居もどきの活躍ぶりで2人の帰りを待ち望む皆の前に姿を現すとは、読み手を含め誰しも思いがけなかったこと。

磐音とおこんが江戸に帰着したのは大晦日。新年早々から2人はあちこちへ挨拶回りと慌しく過ごします。
佐々木家との養子縁組、来るべきおこんの速水家への養女入り、関前藩の藩主夫妻への挨拶と。
その渦中、大聖寺藩を飛び出してきた歌舞伎の如き武芸者との絡みがありますが、もはやユーモラスな展開というに留まります。
最後は尚武館の具足開き日に養子縁組が行なわれ、そのまま道場後継者たる磐音が正式に披露され、今津屋に戻ってきたところで男子誕生の知らせが待ち構えていて、本巻の大団円。

なお、本巻で一旦区切りをつけ、著者の佐伯さんは暫く休養をとるとのこと。
この“居眠り磐音”シリーズは最終的に全50巻ぐらいにはなりそうだとのこと。そうであるなら、ちょうどよいこの辺りでリフレッシュしてもらい、改めて“佐々木磐音”の物語が再出発することをファンとしても心待ちにしたいと思います。

「あとがき」はスペインの闘牛士をめぐる記。文中にも引用ありますが、ヘミングウェイ「危険な夏を思い出させられる一篇です。

明和八年のおかげ参り/安永六年の島抜け/子安稲荷の謎/元日の道場破り/跡取り披露/あとがき

   

24.

●「居眠り磐音江戸双紙24. 朧夜(ろうや)ノ桜」● ★★


朧夜ノ桜画像

2008年01月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2008/01/14

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第24巻。

冒頭、将軍家御典医にして蘭方医の桂川家4代目=甫周国瑞と因幡鳥取藩寄合職・織田宇多右衛門の息女=桜子の祝言に始まり、ついに佐々木磐音おこんの祝言の成就をもってして終わる巻。

しかし、そんな祝いの日においてさえ両者に襲い掛かる不埒者、刺客が登場するのですから、恒例のパターンとは言え、流石になんともはやと感じる次第。
ストーリィとしては、本シリーズ中格別に面白いという巻ではありませんが、ようやく念願かなっての磐音・おこんの祝言までの一切を語った巻として、最初から最後まで心浮き立つ雰囲気が充満していることがファンとしては嬉しい。
祝言といえばやはり主役は花嫁であって、おこんの門出を見送る人々の盛んな様子には演出過剰という気がしないでもないのですが、お祝い事として許すべしでしょう。第一、ファンとしては楽しさこそあれ、何の不満もないのですから。

2人の祝言の準備が着々と進む一方で、田沼家剣術指南役が西国をめぐって集めた伝説的な手練れ剣客5人が、磐音を倒すため江戸に送り込まれます。彼らとの5番勝負が始まる巻ともなっています。
とはいえ本巻の見処はやはり、今小町おこん、今や速水おこんの嫁入り周辺ごとに尽きます。
長らく本シリーズを愛読してきたファンだからこそ楽しい巻。

白梅屋敷の花嫁/偽銀遣い/小さ刀吉包/三味芳六代目/尚武館の嫁

 

25.

●「居眠り磐音江戸双紙読本跡継ぎ−居眠り磐音江戸双紙番外編−」● ★★


「居眠り磐音江戸双紙」読本画像

2008年01月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2008/01/15

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズのガイドブック。
そして、少女時代のおこん今津屋由蔵との出会いを描いた番外編「跡継ぎ」を収録した一冊。

本シリーズの舞台となる両国西広小路を中心とした地図、各巻のひと言紹介、年表が整理されているので、本シリーズを今度も楽しんでいくにはとても便利な一冊。

しかし、何といってもファンとして嬉しいのは、本シリーズ番外編として収録されている書下ろし中篇小説「跡継ぎ」の存在。
少女おこんと由蔵との偶然を描く序章、その1年後おこんが今津屋に奉公することが決まるまでの経緯と由蔵に振りかかってきた事件を描く2章の、計3章構成。
少女時代のおこんの様子、本ストーリィも魅力ありますが、主だった登場人物たちの先代らが登場しているのも楽しい部分です。
まず今津屋では先代吉右衛門が健在で、当代吉右衛門は総太郎と呼ばれ若旦那。その内儀=お艶もまだ若々しい。老分番頭も前の伴蔵が健在で、由蔵はその下の番頭にしか過ぎません。
また、今津屋が懇意にしている南町奉行所定廻り同心は、一郎太の父親である木下三郎助
鰻の蒲焼もまだ料理屋で食されるものには至っておらず、おこんと由蔵が食べるのは辻焼き鰻です。
少女時代のおこんの、しっかりしていて機転も利くその性分は、おそめ以上と思えます。
いずれにせよ、ファンにとって朧夜ノ桜と併せて読めば、楽しさこの上ない一冊です。

巻頭カラー口絵/地図で楽しむ「居眠り磐音江戸双紙」の世界/「居眠り磐音江戸双紙」シリーズの書名と巻数(書名の由来)/絵と図で見る「居眠り磐音江戸双紙」の世界
/特別書き下ろし中編時代小説「跡継ぎ」
/「居眠り磐音江戸双紙」登場人物一覧/江戸コラム「ようこそ「居眠り磐音江戸双紙」の世界へ」/著者インタビュー:創作の秘密/「居眠り磐音江戸双紙」名せりふ集/特別エッセイ「わが時代小説論」/「居眠り磐音江戸双紙」年表/「居眠り磐音江戸双紙」ミニ事典と索引

   

26.

●「居眠り磐音江戸双紙25. 白桐(しろぎり)ノ夢」● 


白桐ノ夢画像

2008年04月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2008/05/03

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第25巻。

磐音は今や江都一と言われる直心影流・尚武館佐々木道場の後継者、おこんはその新妻。
その点では本書は、新たな始まりとなる最初の巻と言えます。

新たな始まりであるのは結構なのですが、磐音の居場所はもはや江戸市中、深川六間堀の金兵衛長屋とも両国西広小路の今津屋ともいかず、神保小路の佐々木道場となります。
浪人暮らしの時のように自由自在な活躍ができないのは勿論のこと、今津屋やその老分=由蔵の出番が殆ど無くなってしまったところが寂しい。
また、今小町といわれた町娘時代と違って、武家の妻女となりかしこまってしまったおこんにも、もはやおきゃんな言動は期待できないというもの。

ストーリィとしては、殴られ屋稼業の浪人=向田源兵衛の登場、西の丸の将軍世子=家基に迫る田沼方乱破一味と磐音との闘い、竹村武左衛門の長女=早苗が家族のため奉公を決意するまでの経緯、等々。
その中で艶やかなのは、佐々木おえいとおこんの親子、今津屋佐紀品川幾代という女たちが揃っての船を使った深川見物。

殴られ屋/鰻の出前/武左衛門の哀しみ/西の丸の怪/穏田村の戦い

   

27.

●「居眠り磐音江戸双紙26. 紅花ノ邨(むら)」● 


紅花ノ邨画像

2008年07月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2008/08/03

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第26巻。

白鶴大夫=小林奈緒を身請けした山形の紅花大尽、前田屋内蔵助になにやら危難が降りかかっているらしい。そしてそれには山形藩が絡んでいるらしいとの急報を四郎兵衛から受けた佐々木磐音は、吉原会所の2人と共に、奈緒の幸せを守るべく、奥州路を山形へ向かうという巻。

藩主の江戸在勤中という留守を狙って首席家老が藩による紅花の専売制を導入しようとし、前田屋が紅花商人の陣頭に立って反対したため、押し込めに遭っているらしい。
専売制に反対する派もあり、藩を二分する騒動にもなりかねないという困難な事態。

道中での揉め事はともかく、割とあっけなく藩内騒動が片づいてしまうこと、磐音が幕府御側御用取次・速水左近の力を振りかざすような面なきにしもあらず、といった観があって、読了後の気分はあまりすっきりしない。
山形行きと並行して、磐音不在の江戸におけるおこんらの様子も描かれますが、中途半端なつけたしと感じるところあり。
磐音自身の危機を感じる場面のなかったことが、面白さを欠いた理由かもしれません。

老いた鶯/夜旅の峠/花摘む娘/籾蔵辻の変/半夏一ッ咲き

    

28.

●「居眠り磐音江戸双紙27. 石榴ノ蝿」● 


石榴ノ蠅画像

2008年09月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2008/10/25

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第27巻。

山形から帰った後の磐音らを描く巻。
とくに大きな事件が起こる訳でなく、山形から帰ったことの報告をしに磐音おこんと連れ立ち、今津屋、品川・竹村家地蔵蕎麦の竹蔵親分宮戸川の鉄五郎親方を訪れるという趣向で、満遍なくお馴染みの登場人物たちの様子を描いているという風になっています。
もちろん笹塚与力、木下一郎太同心、桂川国瑞・桜子夫婦、速水左近、天神鬚の百助ほか、川清船頭の小吉、長命寺桜餅の輝吉・おかよ夫婦まで登場。

考えてみれば磐音とおこんが神保小路の佐々木家に養子・嫁として入ってから3巻目。その点では、2人が佐々木家の人間として定着していく様子を描くことが本巻の主眼だったのかもしれません。ですから、小さな事件は幾つかあれど、大きな事件などそもそも不要なのでしょう。

長篇としての流れとしては、将軍世子である家基の江戸市中お忍び行に桂川国瑞、磐音、玲圓が協力して無事成し遂げる、というストーリィがあります。
一方、本巻での面白味は、元雑賀衆女忍びだった霧子の活躍。

紅板/利次郎の迷い/霧子の存在/二寸二分の見切り/お忍び船行

 

29.

●「居眠り磐音江戸双紙28. 照葉(てりは)ノ露」● ★☆


照葉ノ露画像

2009年01月
双葉文庫刊

(648円+税)

 

2009/02/04

 

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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第28巻。

本巻での目玉は、「酒乱の罪」「仇討ち」の2章にまたがるストーリィ。
南町同心・木下一郎太の出入りする旗本家=設楽家。酒乱の主人が妻女に暴力を振るっているところを止めようとした家臣が、偶発的な事故で主人を殺めてしまう。同郷の妻女は家臣が切腹しようとするのを止め、共に出奔するという事件が発生。
磐音と一郎太はさる所から頼まれ、遺子である13歳の小太郎の助勢として共に2人の後を追う、というストーリィ。
どう行動すべきか、どちらを選択すれば良いのか、設楽小太郎だけでなく磐音もまた決めねばならないという、生死をかけた闘いとはまた別の、緊迫をはらんだ章となっています。

それ以外の章については、格別のことはなし。長く続く「居眠り磐音江戸双紙」の一部を成すストーリィ、というに尽きます。
そんな中、お馴染みの登場人物の身の上に起きた変化がひととおり語られます。
まず、佐々木道場の門弟である“でぶ軍鶏”こと重富利次郎が実父の供をして国許である土佐へ向かって旅立ちます。
次いで懸案の竹村武左衛門が、の口利きと磐音の後押しあって磐城平藩下屋敷の門番という職にありつき、一家は同屋敷内の長屋に引越すこととなって、ようやくやれやれ。
それでも、柳次郎や磐音へ真摯に感謝するどころか、武左衛門の自分勝手な楽天的気性は少しも改まらず。
この武左衛門を見ていると、いつも藤沢周平「用心棒日月抄シリーズの細谷源太夫に比べてしまいます。源太夫に比べてどれだけ武左衛門の恵まれていることか。源太夫のように再び足を踏み外すことのないよう祈るばかりです。
そして、同心・木下一郎太。幼馴染の瀬上菊乃を伴って佐々木道場を訪れてくるという、微笑ましい一コマ。
暗雲が立ち込めてくるのは、次巻以降となるようです。

酒乱の罪/仇討ち/大川の月/真剣のこつ/四番目の刺客

  

30.

●「居眠り磐音江戸双紙29. 冬桜ノ雀」● 


冬桜ノ雀画像

2009年04月
双葉文庫刊

(648円+税)

  
2009/05/07

  
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“居眠り磐音江戸双紙”シリーズの第29巻。

田沼意次の手先となったのか、将軍世子=家基とその家基を支えようとする佐々木玲圓磐音父子の前に、伝説的な存在である剣客=タイ捨流丸目喜左衛門高継が孫のような娘に手を引かれる盲目の老剣士として剣技と妖術をもって立ち塞がります。その孫のような娘も相当な薙刀の遣い手。そればかりか、霧子が指摘するには忍びの技が入っているのではないかとのこと。
そんなストーリィが「盲目の老剣客」「加持祈祷」の2篇。磐音が家基の信頼を得て、妖術の世界でもまた闘います。

一方、江戸市中の捕物騒ぎに、笹塚孫一与力の勝手な囮作戦に磐音のみならず関前藩の新造船まで巻き込まれるのが「武左衛門の外泊」
もはや大名家の下屋敷門番となり真面目に働いていれば良いものを、相変わらずとらぬ狸の皮算用で竹村武左衛門がしゃしゃり出てきます。品川柳次郎はもはや顔を見せるだけだというのに。

余談として、磐音・おこんの夫婦がそろそろ子が欲しいという気持ちを強くするところが描かれており、それは読者も待ち望むところだろうと思います。

鼠志野の茶碗/盲目の老剣客/武左衛門の外泊/師走の話/加持祈祷

     

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