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12.露の玉垣 13.闇の華たち 14.逍遥の季節 15.麗しき花実 16.脊梁山脈 17.トワイライト・シャッフル 18.太陽は気を失う |
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●「さざなみ情話」● ★ |
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2007年10月 2009年10月
2006/08/13
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女は、松戸の食売旅籠で女中の傍ら客に身体を売っているちせ。一方の男は高瀬舟で荷を運ぶ船頭の修次。船頭といっても舟は中古でまだ借金が残り、母妹の面倒をみて決して楽ではない。 ストーリィは2人が今の状況を堪え、気持ちを維持していくため懸命に支えあっている様子に終始しますので、正直言って読み手の方でもその鬱屈を共有せざるを得ません。 なお、脇ストーリィとなりますが、幼い頃に身体についた火傷痕のため嫁入りを諦めている修次の妹・やす、彼女の人生への対峙のしようが興味深い。そのまま別のストーリィとしても十分成り立ちうるて手応えを感じます。 |
●「露の玉垣」● ★★ |
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2010年07月
2007/07/05
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徳川治世下の外様大名で、唯一国替えを免れた越後の新発田藩。 本書の基になっているのは、家老役を勤めた溝口半兵衛長裕が1786年に書き始めた「世臣譜」。それは家臣の人間像にまで言及し、計19巻10冊にも及ぶ書物だったそうです。その世臣譜に名づけられた外題が「露の玉垣」だったとのこと。 本書の中でも印象に残ったのは、次の3篇。 乙路/新しい命/きのう玉蔭/晩秋/静かな川/異人の家/宿敵/遠い松原 |
●「闇の華たち」● ★★ |
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2011年12月
2009/05/16
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江戸時代、封建社会という中でしがらみに囚われ、武士は自由な生き方ができませんでした。 本短篇集、いつもながらに味わい深い作品ばかりですが、特にそうした女性たちの姿が印象的です。 ・「花映る」は、ふとした斬り合いの結果横死した親友の仇を討つことになった隼之助の、苦さ残る胸の内を描いた篇。そんな隼之助と、夫の急死の呆然としたまま虚ろな表情を浮かべる新妻=つきの胸中が対照的に描かれていて、秀逸な篇。 ・「冬の華」に登場する橘という女性も印象的。ストーリィに全く共通するところはありませんが、どこか「冬の標」の明世に通じる女性像を感じて得難い一篇です。 花映る/男の縁/悪名/笹の雪/面影/冬の華 |
●「逍遥の季節」● ★☆ |
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2012年03月
2009/09/29
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芸能や技術に拠って生きていこうとしつつも、男との宿縁あるいは恋情から自由ではいられない女たち。そんな女たちの姿を描き、凛とした気品を漂わせて味わい深い短篇集。 かつて直木賞を受賞した北原亞以子「恋忘れ草」。様々な職業に持つ江戸の女たちを描いて時代版キャリアウーマン小説といった観ある短篇集でしたが、本書と通じるところがあります。 そう感じていたのは、実は最後の2篇を読むまで。 竹夫人/秋野/三冬三春/夏草雨/秋草風/細小群竹/逍遥の季節 |
●「麗しき花実」● ★★ |
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2013年05月
2010/04/02
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松江で蒔絵師の一家に育った主人公、理野。 丹念に絵画、蒔絵という職人の姿、その世界を描いていく乙川さんの姿勢がとても印象的。 主人公である理野自身の視線もそうなのですが、本作品自体に、冷静かつ分析的な視線が常に保たれているように感じられます。それが本ストーリィを引き締めていて、快い。 |
16. | |
「脊梁山脈」 ★★☆ |
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2016年01月
2013/05/13
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乙川さんには珍しい、というより初の現代小説。とはいっても今現在ではなく、戦後すぐの時代。 戦後の混乱と復員兵というスタートから、戦後社会を背景に主人公が再び人生を取り戻していく過程を描く小説かと思いきや、本作品はまるで違った様相を見せ始めます。 様々な顔を見せる長篇小説。戦争の傷を心に背負った人々の姿だけでなく、木地師という職人たちの由来を調べて日本の古代史へと遡っていく部分は、趣向は違えど山の民を描いた「吉原御免状」等隆慶一郎作品を思い起こさせますし、佳江や多希子と関わる部分では川端康成「雪国」「伊豆の踊子」の面影を感じさせられます。 本書が特異な作品であることは間違いなく、それ故に戸惑う方もいれば、その抱える複層的な物語構造に興味尽きない方もいると思います。 月の夜/塞の神/蘇芳赤花/漂鳥/山路の菊/変身 |
17. | |
「トワイライト・シャッフル Twilight Shuffle And Other Stories...」 ★★☆ |
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2017年01月
2014/07/12
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ずっと時代小説を書いてきた乙川さんの、「脊梁山脈」に続く現代小説。 舞台は房総(千葉県)、海辺の街。主人公はずっとそこに住んでいた人もいれば、他の土地から移り住んできた人もいます。 |
18. | |
「太陽は気を失う The Sun Also Falls Into A Faint.」 ★☆ |
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定年退職、老齢、そうした人生の最終局面に差しかかり、残る人生を前にした時、人は何を思うのでしょうか。 本書は、そうした状況に至った人たちの姿を描いた短篇集。 人生の最終局面に至った時、ふと気づくと、自分の目の前には何も残っていなかった。その時人は、それまで歩んできた人生に後悔を覚えるのでしょうか。でも結局は、それしかなかったと思うの筈ではないか。 そしてそれより喫緊の問題は、これからの人生をどう送ればいいのか、ということ。悔恨、困惑、不安、等々。 人生の黄昏に至った時、予想もしなかった課題が目の前にぶらさがっていた。現代だからこそクローズアップされてきた問題であろうと思います。 定年退職して多くの時間を費やしてきた仕事を失う。子供はといえばもう独立している。夫婦で何か楽しもうと思っても、既に興味はかけ離れている・・・・。あるいは未だ独り身かもしれず、金銭的にも老後の生活に不安がある・・・・。 収録短篇は全部で14篇。本書の中には様々な人たちの姿、様々な人生が描かれています。 概ね感じたことは、男性より女性の方がその点では強く、単なる主婦よりは仕事を持っている女性の方が強い。何故ならば、することが今もあるから。 人生の黄昏を感じさせる短篇集だけに、うら寂しいものを感じてしまうのはやむを得ないことでしょう。 ※さて私自身はどうかと言うと、読書の楽しみがなくならない限り、そうしたことにはならないよなァと思っています。 太陽は気を失う/海にたどりつけない川/がらくたを整理して/坂道はおしまい/考えるのもつらいことだけど/日曜に戻るから/悲しみがたくさん/髪の中の宝石/誰にも分らない理由で/まだ夜は長い/ろくに味わいもしないで/さいげつ/単なる人生の素人/夕暮れから |