中島京子作品のページ No.1


1964年東京都生、東京女子大学文理学部史学科卒。日本語学校職員、出版社勤務、フリーライターを経て、20
03年「FUTON」にて作家デビュー、野間文芸新人賞候補。10年「小さいおうち」にて 第143回直木賞、14年「妻が椎茸になるころ」にて第42回泉鏡花文学賞、15年「かたづの!」にて第3回河合隼雄物語賞・第28回柴田錬三郎賞・第4回歴史時代作家クラブ賞、同年「長いお別れ」にて第10回中央公論文芸賞ならびに第5回日本医療小説大賞を受賞。


1.
平成大家族

2.ハブテトルハブテトラン

3.エ/ン/ジ/ン

4.女中譚

5.小さいおうち

6.エルニーニョ

7.花桃実桃

8.東京観光

9.眺望絶佳

10.のろのろ歩け


かたづの!、長いお別れ、彼女に関する十二章、ゴースト、樽とタタン、夢見る帝国図書館

中島京子作品のページ bQ

 


   

1.

●「平成大家族」● ★★


平成大家族画像

2008年02月
集英社刊
(1600円+税)

2010年09月
集英社文庫化



2008/04/02



amazon.co.jp

現代だからこそ可笑しい、そんな家族風景を描いた長篇小説。

72歳になる元歯科医の緋田龍太郎は、妻と老いてボケた義母、30歳過ぎているというのにヒキコモリ状態の長男、という4人暮らし。
少なくとも普通に結婚して家を出て行った長女、次女はちゃんとした暮らしをしている筈、と安心していたら大間違い。
長女の夫は事業に失敗して自己破産、一家3人で転がり込んでくると思えば、次女までが離婚して戻ってくる、しかも夫とずっと別居状態だったというのに妊娠して・・・。
静かな暮らしに満足していた龍太郎でしたが、4人が転がり込んで一気に緋田家は大家族となり、静かな暮らしは破られる。しかもその理由はといえば、とても芳しいものではない。
うまくいっての大家族ならいざ知らず、うまくいかなかった結果としての大家族なのですから、龍太郎としては苦虫を潰したような気分にならざるを得ない。
そうした所以がいかにも現代的=“平成の大家族”ということなのでしょう。

そんな龍太郎をそっちのけで、大家族となった緋田家は(各自いろいろな問題を抱えつつも)それはそれで賑やかに回転し出し、龍太郎一人がその流れから置いてけぼりになっている観のあるところが愉快。
何だかんだと言いつつも、こうして実家を頼って安心して戻ってくる分だけ、幸せなことだろうと思うのです。
各章では、緋田家の一人一人が主人公となり、自らが抱え込んだ問題事が明かされるように描かれていきますが、所詮大家族の一員のことだと思うと、深刻になることなく、面白く読んでいられます。
所以がどうであろうと、大家族には大家族なりの良さがあることをユーモラスに描き出したストーリィ。楽しいです。

そういえば大家族の物語ってかなり久しぶり? いえいえ、破天荒ではあるものの小路幸也「東京バンドワゴンがあります。

    

2.

●「ハブテトルハブテトラン」● ★★


ハプテトルハブテトラン画像

2008年12月
ポプラ社刊
(1400円+税)



2009/04/05



amazon.co.jp

学級委員としての板ばさみに耐えられず不登校児となった小学5年生の大輔
両親は考えた末に、大輔を母親の故郷である広島県福山市松永の祖父母の元に預け、2学期を地元の小学校で過ごさせることに決める。
そして大輔は一人、広島空港に降り立ったのだが、迎えに来るはずの祖父母の姿はなく、代わりに現れたのは・・・・。

都会で精神的に参った大輔が、のどやかな松永の土地で、少年らしい健やかさと伸び伸びした精神を取り戻す、爽快な少年物語。
本書題名を聞くといったい何処の外国語?と思ってしまうのですが、備後弁で「ハブテトル」とは「すねている、むくれている」という意味だそうです。「ハブテトラン」はその否定形。

母親と同級生だったという担任の“魔女”ことオオガキ先生、すぐ大輔を遊びに誘い出すウメちゃん、大輔に目をつけたらしいオザヒロをはじめ、大輔が触れ合うどの人物もストレートなところが魅力。また、備後弁の会話も楽しい。
都会のようにヘンに考え巡らせないところが、裏表なく、伸び伸びとしてとても気持ちが好い。
その中でも、祖父母の親しいハセガワさんはとびきり異色。

本ストーリィ中でもっとも爽快な章は、前の小学校での悔いを晴らすべく、大輔が尾道から今治へと瀬戸内海を結ぶ橋(しまなみ海道)を自転車で渡っていく部分。竹内真「自転車少年記の爽快さを思い出せてくれます。
ウメちゃんらと大輔の交遊関係、今や都会の子供たちには稀な関係ではないかと思うのですが、とても勿体ない気がします。
同年代の友人や、東京では得られなかったような大人たちとの交流によって、大輔がしっかりとした少年へ成長した姿を最後に見れるところが嬉しい。
爽快な、少年小説の佳作。

 

3.

●「エ/ン/ジ/ン」● ★★


エ/ン/ジ/ン画像

2009年02月
角川書店刊
(1800円+税)



2009/03/29



amazon.co.jp

本書題名を何のことと思われるでしょうか?
私はてっきり発動機のことと思ったのですが、さに非ず。主として“厭人(人嫌い)”、副次的に“猿人”。そして発動機とも無縁とは言えない題名。

契約を突然切られた契約社員の葛見隆一。たまたま届いた幼稚園30周年記念の同窓会案内状に誘い出されて出かけたところ、知り合ったのが蔵橋ミライという若い女性。
そのミライ、祖母が死に母親は認知症が進んで、父親のこと、自分が生まれた経緯が判らないという。なんとなくその手助けをし始めた隆一は、次々と変な人物たちに出会うこととなります。それはまた、学生運動・女性運動が盛んだった70年代という時代を再び眼前に蘇らせることでもあった、というストーリィ。

是非はともかくとして、それは社会のことに大勢の人間が熱くなった時代。しかし、何故今頃、また学生運動なのか。それは奥田英朗「オリンピックの身代金にも通じる疑問です。
もしかするとそれは、与野党共々どうしようもない程地に落ちた観ある日本の政治にただ絶望するだけでなく、僅かでも先に繋がる希望を見い出そうとする提言なのかな、と思います。
それを象徴するような存在が、主人公の葛見隆一。ただ漫然と日々を送り、恋人にも見放された彼が、ミライに近付こうとし、ミライのために何をすべきかを考え始めたことによって、彼は代わっていきます。

宇宙規模的の厭人だったというミライの父親を探し求めるうち、かつての特撮テレビ番組論へと行き着いたのには唖然としましたが、僅かな希望でも未来に繋いでいこうとするメッセージには納得です。
様々な社会問題を取り込み、紆余曲折して判り難い展開に仕上げたストーリィですが、二人称という構成のおかげで面白く読めました。
70年代を懐かしく思い出せる方に、特にお薦め。

  

4.

●「女中譚」● ★★


女中譚画像

2009年08月
朝日新聞出版
(1400円+税)

2013年03月
朝日文庫化



2009/09/02



amazon.co.jp

林芙美子、吉屋信子、永井荷風“女中小説”を現代に蘇らせた連作短篇集、とのこと。
メイドカフェが大人気の現代・東京のアキバ。その一軒に出入りする老婆。かつて若い頃、女中奉公をしていたのだという。
その老婆が自らの女中体験を思い出話として語る、という趣向の連作3篇。

“女中”と言っても、石坂洋次郎「風と樹と空と」に描いた若くて健康なお手伝いさんでなく、幸田文「流れる」のいぶし銀のような女中でもない。
荷風作品によくみかける、女給、女中、といった社会の底辺で生きる、ふしだらで、猥雑なところがあり、それでいて強かに生き抜いていく女たち、というイメージ。
どの篇も、そんな怪しげで懐かしさも覚えるレトロな雰囲気が、見事に再現されています。

林芙美子に捧げられた「ヒモの手紙」は、女給時代、悪質なヒモのような男と一緒になって、男に騙された女をさらに足蹴にしようとする顛末を描いたストーリィ。
吉屋信子に捧げられた「すみの話」は、日本人とドイツ人女性の夫婦とその娘という家庭に女中として仕えた時の話。
永井荷風に捧げられた「文士のはなし」は、荷風その人と思える麻布の変わり者文士に女中として雇われた時の話。

荷風作品を愛読していただけに、私としては「文士のはなし」が特に面白く、楽しかった。
いかにも永井荷風その人といった感じに加え、濹東綺譚に登場する以前に下女だったという女、実は主人公がモデルである、という趣向等々。

本作品を気に入るかどうかは、上記3人の作家が好きかどうか、読む人の好み次第と言えそうです。

ヒモの手紙/すみの話/文士のはなし

  

5.

●「小さいおうち」● ★★       直木賞受賞


小さいおうち画像

2010年05月
文芸春秋刊
(1581円+税)

2012年12月
文春文庫化



2010/06/23



amazon.co.jp

女中譚に続く、女中ストーリィ。
語り手は、昭和5年、口減らしのため12歳で山形の農村から上京し、女中奉公を始めた布宮タキ
そのタキが14歳の時から仕えた、8歳年上の時子という美しい夫人とその子供=恭一との暮らしが、本ストーリィの中心。
晩年一人で暮らすタキが、平井家で女中をしていた時代の思い出をノートに書き残し、甥の次男である健史がそれを読むという形で、過去と現代を結ぶというのが本書の構成。

お手伝いさん”でなく“家政婦”でもない、「奉公」という言葉を付け加えるに相応しい、“女中”という呼称が一般的だった時代の話。
住み込んで家事一切を仕込まれ、主人家族とは一体。自分の居場所はここと思い定め、主人夫婦には忠誠心をもって仕え、一家の子供には愛情を降り注ぐ。
喩えは悪いかもしれませんが、今はもう絶滅した生物の化石を現代に蘇らせ、その生態を実際に目にする、といった楽しみがあります。
大伯母とその甥の次男という、世代を超えた2人の視点が本書にあるからこその味わいでしょう。

女中の目から、大東亜戦争の勃発、戦時中の社会の様子を描いている点も興味深いのですが、やはり惹かれるのは、タキが仕えた美人の奥様=時子の恋でしょう。
その恋の行方を危ぶむ気持ちの中に、タキの時子に対する思慕がなかったかどうか。    
近い過去の時代へタイムマシンで戻ったような面白さを味わえる一冊。

              

6.

●「エルニーニョ」● ★★


エルニーニョ画像

2010年12月
講談社刊
(1400円+税)

2013年12月
講談社文庫化


2011/01/11


amazon.co.jp

DV男の恋人から逃げ出し南国の町へやってきた21歳の女子大生=瑛(てる)。そしてもう一人、施設を逃げ出してきたらしい7歳の少年=ニノ
本書は、各々逃げる途中で偶然に出会った2人の、手を取り合っての逃走ストーリィ。

「エルニーニョ」とは、海水温の上昇により引き起こされる異常気象のことですが、元々はペルー沖の漁師たちがその奇妙な海水温の上昇を、幼子=イエス=エルニーニョと呼んだのが語源らしい。
世界中の気候を攪乱する小さな男の子エルニーニョは、本ストーリィにおいても皆を引きずり回して止まない、混血の孤児少年ニノにそっくりです。
ともあれ、ニノに引きずり回されるままとは言いながらも、2人の逃走劇は楽しい。公園から、店番も客も年寄りばかりという
「昔ながらの商店街」=子守商店街の砂糖販売店へ。そこから、灰色の男に追われて離島へ、そしてまた本土へ逆戻り、と。
また、節目節目で寓話的な小物語が挿入されているところが本作品のユニークなところ、面白さのひとつです。

何もかも捨てて逃げ出してみるもの一計、大事。
でも、逃げながら、今度どうしたらいいのか考えることもまた大事。
逃げ出すのは決して消極的な解決方法ではない、そんなメッセージを感じる作品です。
共に逃げ出す事情を抱えたテルとニノ、良いコンビです。

         

7.

●「花桃実桃」● ★★


花桃実桃画像

2011年02月
中央公論新社
(1500円+税)

2014年06月
中公文庫化

2011/03/18

amazon.co.jp

40代シングル、結婚歴なしという花村茜。父親の桃蔵が死去し、転がり込んできたのがボロアパート「花桃館」。しかもその花桃館、墓地に隣接していて、幽霊が出るという噂もあり。
ちょうど勤めていた会社からリストラ退職を勧告された茜、アパートに移り住んで自ら管理人となることを決めます。
そんな茜の、アパート管理人となったことを転機とする、人生再生ストーリィ。

どこかで読んだようなストーリィだなぁと思ったら、設定といいストーリィ展開といい、帚木蓬生「千日紅の恋人によく似ています。
しかし、帚木作品が優しさ、愛しさを伝えるストーリィであるのに対して、本作品は脱力系かつコミカル、ほのぼのさが基調。
花桃館の住人たちも、個性豊かというより、奇人ぶり豊かという具合です。

肩の力を抜いて、気軽に楽しく面白く、ほのぼのと茜の人生再生ストーリィを楽しめる作品。
帚木作品と併せ、読み比べてみるのも一興かと思います。

             

8.

●「東京観光」● ★☆


東京観光画像

2011年08月
集英社刊
(1400円+税)

2014年08月
集英社文庫化


2011/08/29


amazon.co.jp

私としては初めて読む、中島京子さんの短篇集。
内容としてはかなりバラバラ。というのも、ヤングアダルト向けに書いた短篇やら、恋愛あるいは旅に関する短篇、再生をテーマにした短篇と、それぞれ異なる趣向の下に書かれた短篇を一冊にまとめた、というのが本書なのですから。
悪く言えば手当たり次第、良く言えば、中島さん曰く「アソートボックス(各種味の取り合わせ箱)」というところです。
ただし、各テーマを基に中島京子さんが短篇を書くとこんな作品になるのか、というのがファンとしての読み処でしょう。

趣向で面白かったのは「植物園の鰐」「コワリョーフの鼻」
とくに、結婚7年目の夫婦が
ゴーゴリ「鼻」について語り合い、主人公である妻が苦し紛れに現代風の新解釈を繰り広げるところは、「鼻」既読者には必見、と言いたい。
「植物園の鰐」、ストーリィ的には全然異なるのですけれど、風変わりという点で
ドストエフスキー「鰐」を思い出させられて楽しい。

表題作「東京観光」は、田舎町の生保レディが主人公。好成績のご褒美に東京での3日間の研修に招かれた(うち一日は自由)という設定ですが、折角の東京だというのに・・・。
有りそうで有り得ないストーリィ?、かつ古風な感じが、いかにも中島京子さんらしい短篇という印象です。

植物園の鰐/シンガポールでタクシーを拾うのは難しい/ゴセイト/天上の刺青/ポジョとユウちゃんとなぎさドライヴウェイ/コワリョーフの鼻/東京観光

               

9.

●「眺望絶佳」● ★☆


眺望絶佳画像

2012年01月
角川書店刊
(1500円+税)

2015年01月
角川文庫化

2012/02/19

amazon.co.jp

東京スカイツリーが完成する今年=平成24年、東京スカイツリーと東京タワーの間でバトンタッチ、申し送りが行われるように交わされる往復書簡。
そしてその間に差し込まれた、眼下の東京で繰り広げられる、奇妙だったり、哀感があったり、また不思議な物語の数々、という趣向の短篇集。

東京に永い間立ち続け、都下に起きるドラマをずっと見続けてきたタワー、ツリーであってみれば、信じられないような物語もいろいろと観てきたはず、というのが前提にあるのでしょう。
物語の一つ一つに関しては、面白さを感じるものもあり、戸惑うものもあり、正直言ってよく判らんというものもあり、そこは様々。
前作
東京観光に連なる短篇集とも感じます。  

眺望良し。【往信】
アフリカハゲコウの唄/倉庫の男/よろず化けます/亀のギデアと土偶のふとっちょくん/今日はなんだか特別な日/金粉/おさななじみ/キッズのための英会話教室
眺望良し。【復信】

                  

10.

●「のろのろ歩け」● ★★


のろのろ歩け画像

2012年09月
文芸春秋刊
(1300円+税)

2015年03月
文春文庫化



2012/10/21



amazon.co.jp

北京、上海、台湾と、異国の地で女性主人公たちが味わった異国体験を綴った3篇。

北京は、中国初のファッション雑誌創刊に力を貸すため仕事でやってきた女性編集者の話。
上海は、駐在員となった夫の後から渡航して来ていきなり一人で家探しをする羽目になった若い妻の話。
台湾は、亡き母親が文通していた台湾のおじさん3人を訪ねる娘の話。
同じ中国系の地という点で共通していても、主人公の立場、訪問目的は各々異なり、各篇ストーリィの趣向も全く異なります。

それでも異国の地へ赴くというのは、私自身海外旅行へ行って帰ってきたばかりということもあって、心躍るところがあります。
国内旅行と違って、どんなことに出会うのか予想の付かない面があること、また自分がそれにどう向き合うかに制約がないという点において。

異国情緒、異国だからこその驚き、めぐり逢い、思わぬ発見という風味づけが効いていることも事実ですが、3篇それぞれ中篇ストーリィとして、えも言われぬ、存分な面白さあり。
なお、題名は北京で主人公が、陽気な屋台のおじさんから掛けられた言葉、
「漫漫走(マンマンゾウ)」(のんびり行けやの意味)から。
こうした小説を読むと海外旅行に出かけたくなりますね〜。そしてのんびり歩いて異国にある面白さをじっくり味わってみたい。

北京の春の白い服/時間の向こうの一週間/天燈幸福

             

 中島京子作品のページ bQ

      


   

to Top Page     to 国内作家 Index