三羽省吾作品のページ


1968年岡山県生。現在広告代理店勤務のコピーライター。2002年「太陽がイッパイいっぱい」にて第8回小説新潮長篇新人賞を受賞し、作家
デビュー。


1.
太陽がイッパイいっぱい

2.厭世フレーバー

3.イレギュラー

4.公園で逢いましょう。

5.路地裏ビルヂング

6.Junk【ジャンク】

7.ヘダップ!

8.刑事の血筋

  


    

1.

●「太陽がイッパイいっぱい」● ★★    小説新潮長篇新人賞


太陽がイッパイいっぱい画像

2002年11月
新潮社刊

(1300円+税)

2006年09月
文春文庫化


2003/01/05


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関西の三流私立大学の4回生・イズミを主人公とした青春ストーリィ。
当初は、彼女との海外旅行資金を貯めるのが目的で始めた工事現場でのバイト。しかし、汗をかいて働き、腹を空かせるというシンプルな生活に充足感を得たイズミは、彼女と別れた後も大学に行かないまま、「マルショウ解体」という零細解体屋でバイトを続けます。
とりわけどうということもないストーリィですが、オーソドックスで、少しのけれんもない展開。自然とストーリィを読まされてしまう、そんな手応えがとても気持ち良い。会話が関西弁であることの効果が大きいようです。
マッチョ系直情男のカンを筆頭に、マルヤマの親方、スプリンター系美男のクドウ、リストラ中年のハカセ等、マルショウ解体の仲間は実に個性的。そして、かつ等身大の人物であるところが、本作品の登場人物の良さ。それがそのまま社会の縮図になっていると言って、過言ではありません。
さらに、現代っ娘らしいメロンちゃん、ミヤコちゃんの登場が、恋あり喧嘩ありの青春ストーリィを盛り上げているのも嬉しい。

本書ストーリィがイズミの成長かつ再出発物語になっていることは、言うまでもないこと。
他にも青春小説は幾つもありますが、登場人物たちを身近に感じつつ、素直にストーリィに浸かってしまうところが本作品の魅力です。
※なお、本書題名は名作映画となった“太陽がいっぱい”から。目一杯という他に、限界ギリギリという意味のようです。

   

2.

●「厭世フレーバー」● ★★


厭世フレーバー画像

2005年08月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2008年08月
文春文庫化



2005/12/03



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題名と表紙絵を見ると手を出したくないなァと思ってしまいそうですが、そんな印象とは違って結構面白いのです。

主人公となるのは須藤家の家族5人各々。
この須藤家、実は悲惨な状況にあります。一家の主人である父親がリストラで会社をクビにされ、まもなく家族を捨てて出奔。
中学生のケイは突然高校へ行かないと言い出し、好きだった陸上部も辞めてしまう。高校生のカナは家族と顔を合わせたくないのか毎日深夜になるまで帰ってこない。前妻の子であるリュウは一人暮らしをしていたが実家に戻り大黒柱と期待されるものの、実は失業中。母親のは、呆けてしまった義父の世話をしながら毎日家で酒浸り、という状況。
とくにケイとカナは少しでも早く自活して家族とおさらばしたいと考えているのですが、バイト経験を経て世の中ままならぬことを早くも知ってしまう。
須藤家の置かれた状況は暗く、各々の生活もドン詰まりという感じなのですが、どこか明るくユーモラスなところがあります。たとえ顔を背け合おうとしても、各人が収まるべきところに収まり顔を合わせていれば、おのずと家族らしいまとまりが生まれる、そんな痛快さが本作品には感じられます。
唯川恵「恋せども、愛せどもとちょっと共通するところがありますが、大人も子供も大人になりきれないでいる稚気がある分、こちらの方が愉快。
また、脇役ではあるもののケイの同級生で不登校中の榎田という女の子、リョウの実母である芳子さんの人物造形もいい。部長代理という変な名前の猫も良いアクセントになっている。

表題に尻込みすることなく、是非手にとってみてください。そうすれば行く先に明るさが見えて楽しくなってくる筈です。

十四歳/十七歳/二十七歳/四十二歳/七十三歳

  

3.

●「イレギュラー」● ★★☆


イレギュラー画像

2006年05月
角川書店刊

(1200円+税)

2010年07月
角川文庫化



2006/08/27



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爽快きわまる高校野球ストーリィ。
野球小説でこれだけ爽快な気分を味わったのは、都立水商!後半とバッテリー以来です。最初から最後まで、どっぷりとハマリました。

片や選抜野球で甲子園を湧かせた私立圭真高校野球部、片や水害の被災で今も仮設住宅暮らしの蜷谷高校野球部
本書は、あらゆる点で対照的なこの両チーム、特に各々のバッテリーを主軸に展開していく高校&野球ストーリィです。
1回戦でノーヒット試合を達成しながらイレギュラーバウンドで惜しくも2回戦敗退したK高監督の結城は、自分のチームに欠けているものを感せざる得ない。一方、蜷高野球部監督の大木は、練習しようにもグラウンド確保もままならない状況。
その大木は、かつて結城が甲子園に出場した時の野球部監督。また、蜷高バッテリーにも興味をもつ結城は、大木に合同練習を申し出ます。憐憫かという大木に対し、K高が強くなるために蜷高野球部の力が必要だと結城は答える。さて、その真意は?

結城と大木、K高バッテリーの狭間&矢中と蜷高バッテリーのコーキ&モウ、さらには両校マネージャーの春菜琴子まで。
どちらに組みすることなく、好対照としながら両チームを描いていくその展開が、すこぶる気持ち良い。
さらに彼らを取り巻く仮設住宅暮らしの蜷谷村住民たち、そして町の商店街の大人たちの姿もとても気持ち良いのです。悪い人物も僅かながら登場しますが、その彼等までいつの間にか応援する側に加わってしまうのですから、とても楽しい。
きちんと練習を積み重ねているK高野球部に触れて蜷高ナインが意識を変えること、当初の反目を経て蜷高ナインと深く交流したことによって初めて被災地住民の苦労を知ること、野球部のピンチを商店街の皆が心を合わせて救う温かさ。
そんなサイドストーリィ要素もありますが、あくまで本作品は野球小説であり、それ故の気分良さなのです。
登場するどの人物たちも各々に個性的であり、かつ各々魅力的なのです。そのうえ思わず笑い出してしまう場面も幾度かあり。

小説の楽しさは、まず登場人物の魅力と次いでストーリィの面白さにあります。本書はその典型のような作品です。お薦め。

  

4.

●「公園で逢いましょう。」● ★★


公園で逢いましょう画像

2008年10月
祥伝社刊
(1429円+税)

2011年09月
祥伝社文庫化



2008/12/14



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ひょうたん公園”と呼ばれる公園に、赤ん坊や幼い子供たちを連れた母親たちは日課のように集う。どこでも見かけるような、母親と子供たちの姿です。
一見ごく普通で似通った母親たちの姿ですけれど、彼女たち各々全く違った人生を歩んできて今ここに来ている。

よく考えれば当然のことなのですが、得てしてなかなかそれに気づかないもの。
本書は、そんな公園に集う母親たち一人一人の人生を描き出した連作短篇集。

公園に集う母親仲間たちと一口に言っても、そこはそれぞれに個性もあり、お互い同士観察眼を駆使しています。
優しくて面倒見の良いダイちゃんママ。でも少し猾いところがあるとサトルくんママは言う。
そのダイちゃんママが評して曰く、派手好きでトラブルメーカーのアキちゃんママ、付け入られ体質のユウマくんママ、仕切りたがりのサトルくんママ、メールばかりしている羅々ママ、という顔ぶれ。
でも各々が歩んできた道のりは、そんな表面的な観察を越え、はるかに深く、波乱万丈だったりします。
一見穏やかな母親像から窺い知れない、母親になる前の彼女たちの姿が、何と鮮やかに蘇ることか。
本書を読み終えようとする最後、目の前にある彼女たちの姿、そしてこのコミュニティの姿が冒頭とはまるで違って見えることに気づくのは、きっと私だけではないでしょう。
とくに羅々ママを描いた「魔法使い」が抜群に好い!

その象徴ともいえるのが、2人の幼児をほったらかしにしていつも携帯ばかりいじくっている羅々ママ
一見放り出しているようで、その実何を必死でやっていたのか。それぞれの母親像が何だかとても愛おしく感じられるようになる連作短篇集。
そんな中へ、幼い双子をバギーに乗せた父親が困惑しながら入り込むのはご愛嬌というもの。それが好い客観的視点になっているのが、このコミュニティを語って得難いところ。

春の雨/アカベー/バイ・バイ・ブラックバード/アミカス・キュリエ/魔法使い

  

5.

●「路地裏ビルヂング」● ★☆


路地裏ビルヂング画像

2010年07月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2013年01月
文春文庫化



2010/08/29



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大通りから数ブロック入った路地裏、築後半世紀は経っていそうな古い雑居ビル、“辻堂ビルヂング”。
6階建てなのに隣の5階建てより小さいし、一基しかないエレベーターはしょっちゅう故障、おまけにトイレもすぐ詰まる。
そんなオンボロビルに入居しているテナントといえば、怪しい通販会社だったりと、ビルに相応してショボイ。
特に1階に入居している食事処が凄い。年中看板を書き変えているうえに、極めつけに不味い。
そして何故か屋上には、道祖神の祠が・・・。

そんな辻堂ビルヂングを舞台に、そこに入居している会社等で働く人々を描いた連作短篇集。

怪しげな通販会社に入社した社員たちの様子を描く第1章を読む限りでは、とんだビル!?という感じなのですが、それでも読み続けていると、そこで働く人々皆、それなりの事情を抱えていると判ってきます。
さらに、そんな通販会社でさえ、冒頭の新入社員が長く続いている様子を見ると、それなりに良いところもあるのか、皆それぞれに頑張っているんだ、と言うべきなのか。
テナント相互間に共通するものなど何もないだろうと思っていたら、自警団が組成され、否応なしに交流の機会が生じる。もっとも肝心の自警団が何の役にも立たなかった、というのは噴飯ものですが。
ワイワイガヤガヤ、各々自分勝手にという様子は、差し詰め江戸時代の長屋付き合いのようなものか。
そう感じると、何となく温かな気持ちになってきます。
それなりに頑張り、それなりに人と触れ合っている内には、何かしら希望が生まれてくる、というように。
特に秀逸なのは、広告制作会社の営業マンを主人公にした第5章「風穴」の章。
30代くらい、黒髪のきれいな女性は何者なのか? そんな存在にもふと惹かれます。

道祖神/紙飛行機/サナギマン/空回り/風穴/居残りコースケ

               

6.

●「Junk【ジャンク】−毒にもなれない裏通りの小悪党−」● ★☆


Junk画像

2011年11月
双葉社刊

(1400円+税)

2014年09月
双葉文庫化



2011/12/07



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「ひょんなことから刑務所前の飯屋を切り盛りすることになる俺。味が評判を呼び人気店になる。だが、・・・」という紹介文に興味をそそられて読んだ一冊です。
いかにも連作小説風ネタではありませんか。
重松清「峠うどん物語とは舞台設定が違うとはいえ似たような・・・。
しかし本書、連作短篇小説ではなくして、中篇小説。それもちょっと問題ある主人公が、小悪党たちと関わるという趣向のストーリィ2篇。

「指」は、掏摸という悪癖をもった妻子あるサラリーマンが主人公。その腕をヘンに見込まれて掏摸グループの一員に引き込まれたばかりか、凶悪な置き引き集団と対決する羽目に。
プロとアマの違いを身をもって知ることになるのですが、主人公における、掏摸の才能とサラリーマンである実像とのギャップが可笑しい。

「飯」は、債権取立屋からの斡旋で、刑務所前の飯屋でバイトという口実の元に、ある受刑者の出所を見張るという仕事を引き受けたプータローが主人公。
飯屋の店主が倒れて緊急入院したことから店のキリモリを一人ですることになる。ちょっと工夫しただけなのに、あれよあれよという間に大繁盛。それでいいのか?
どうしようもない男だった筈の主人公が、思いもかけぬ場面で埋もれていた才能を発揮してしまう、でも・・・・という展開が楽しめます。これは、かなり愉快。
主人公を同居させている年上の恋人(?)、20年前に死んだ店主の妻という人物像が洒落ていて、女性のカッコ良さと男性の往生際の悪さが対照的でかなり楽しめます。


指/飯

          

7.

「ヘダップ! HEADSUP! ★★☆


ヘダップ!

2016年11月
新潮社刊

(1600円+税)



2016/12/18



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当初読もうかどうしようか迷い、あまり期待しないようにと思いつつ読んだ本作でしたが、これが予想に反して大正解。
面白いという以上に、内容、読み応えとも実に濃い、スポーツ小説にして青年成長ストーリィ。

桐山勇、18歳。県立高校サッカー部でFW。そのダントツな才能故にジコチュー、自分本位という批判に晒されたものの、J1の古豪チームに内定していたが、ある事情から破談。声をかけてくれた町のクラブチームである「武山FC」に単年度アマチュア契約にて加入。同時にサポーターである地元スーパー店員となり、初めて実家を離れての寮生活。
ところが武山FC、勇をFWではなくボランチとして使ってみたいと・・・。

単なる青春成長ストーリィではありません。
JFLに入って初めて知る大人のサッカー世界、そして初めて経験する仕事、職場。それらがすべて一体となって勇のサッカー選手として、人間としての成長を問うていくストーリィ。
とかくこうしたストーリィだと、得てして井の蛙だった主人公が自分の力不足を痛感して改めて切磋琢磨するという展開になりがちですが、本書主人公の勇についてそのパターンは当て嵌まりません。むしろ予想を超えた才能を発揮して見せます。
でもそれだけはサッカーの試合に勝っていくことはできない。勝つためには何が必要か。
その点が、本書の面白さであり、秀逸なところ。

結末に至ったとき、読み手はそこに勇のみならず、成長したチームの姿も見出すことでしょう。
人間として、またサッカー選手としてのハイレベルな成長ストーリィ。しかも読み応え、面白さともたっぷり。お薦めです。

          

8.

「刑事の血筋 


刑事の血筋

2018年02月
小学館刊

(1500円+税)



2018/03/18



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三羽さんの警察小説とは、意外や意外。大丈夫かなぁと思うのと同時に、どんなストーリィを紡ぎ出すのかと興味も湧きます。

警察庁でキャリア警視である兄の
高岡剣が、県警本部のある疑惑を調査するため同県警に異動となり、故郷である津之神市に単身赴任で戻ってきます。
一方、3歳下の弟である
高岡守は、津之神西署の強行盗犯係に所属するノンキャリの巡査部長。

折も折、地域暴力団である
志道会の準構成員らしい若い男が殺害されて発見されます。すぐに県警主導で捜査本部が設置されますが、捜査は中々進まず。
剣と守の父親は叩き上げの刑事。在職中に癌で死去したが、その死去後に何故か汚職の噂が広まったという出来事あり。
兄の剣はこの異動を機会として、父親が汚名を負うことになった真相を明らかにしようとする密かな目的があった。
やがて兄弟2人の捜査は、一つの流れに収斂されていく・・・。

殺人事件の捜査、そしてその背後にある犯罪の解明という流れはまさに警察ものですが、本書はそれ以上に警察官による家族小説という印象が深い。
亡き父親への兄弟それぞれの思い、そりが合わなかった兄弟ですが捜査となれば協力もする。
その2人の行動に、元警官の女房である母親の
春江も協力し、また守、剣には彼らを支えるそれぞれの家族の存在がある、といったように。
そして事件の原因も、家族を大事にしたいという思いから生じたものだった。

ストーリィのテーマは十分理解できるし、面白い着目点とも感じましたが、警察小説としては今一つ物足りず、という感想。

    


  

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