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1.都立水商! 2.ドスコイ警備保障 3.小森課長の優雅な日々(文庫改題:小森生活向上クラブ) 4.スパイ大作戦 6.遠い約束 |
●「都立水商!(おみずしょう)」● ★★★ |
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2006年03月
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東京都が遂に水商売(風俗営業)に関する専門教育を行う都立学校を設立、しかも場所は歌舞伎町。 初めて経験する水商売のための学校教育に、教える側も教わる生徒の側も、実に真剣に取り組みます。閉塞感漂う現在の高校教育を吹き飛ばしてしまうような、そんな痛快さ、爽快さに溢れた、若々しい小説。 |
●「ドスコイ警備保障」● ★★ |
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2006年09月
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ユーモア+感動ストーリィ、第2作目。 前作の「都立水商!」が破天荒な快作だったため、2作目の失速を心配したのですが、本書を読む限り心配は無用。 前作には及ばないまでも、相変わらずの可笑しさ、それに加えて爽快な感動ストーリィになっています。 廃業した力士の前途が多難なことは言うまでもないこと。 |
●「小森課長の優雅な日々」● ☆ |
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2008年10月
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「都立水商!」と「ドスコイ警備保障」が明朗かつ痛快なユーモア・ストーリィだっただけに期待して読んだのですが、率直に言って第3作は期待はずれ。山口瞳さんの出世作と似た題名ですけれど、内容は大違いです。
小森課長の最近のストレスは、部下の問題児社員と、通勤電車で乗り合わせるはた迷惑なブサイク女性。 想像の中で、こんなハタ迷惑な人間殺ってしまったら、と思ったことは一度や二度ではありませんが、やはり気持ちは良くないもの。かの池波正太郎さんも、「梅安」シリーズは殺人の話であるため余り多くは書けなかった、と言っていたらしい。 |
●「スパイ大作戦
MISSION
INPOSSIBLE」● ☆ |
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スパイものコメディですが、幾らなんでも度が過ぎると呆れる思いあり。 007、0011ナポレオン・ソロ、スパイ大作戦と、往年人気のあった映画あるいはTV番組の名前が次々と出てきますが、実際のスパイはそんなものではない、目立たない平凡な姿こそスパイの在り方というのは、陸軍中野学校生き残りの田畑明男。平凡な家庭の平凡なサラリーマンを装いつつ、実は活躍の機会を待ち続ける愛国心篤い日本人スパイ。 それにしてもナポレオン・ソロとかスパイ大作戦とか、読者がどれほど知っていることやら。しかも、CIA局員はキャプテン・ブルーに始まり、レッドとか、ブラウン、最後はピンクまで。これは“サンダーバード”の後の人形劇“キャプテン・スカーレット”のもじりだと思うのですが、知る人はもっと少ないでしょうねェ。 |
●「ミステリー通り商店街」● ★ |
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作家の三井大和が原稿締め切りを放り出したまま行方知れず。 元担当編集者だった鳥越英夫は、退職したにもかかわらず元勤務先の出版社に頼まれ、その行方を追うことになります。 三井大和作品をひどく批判している自称ネット書評家のブログが関係しているに違いないと確信した鳥越は、そのブログの主が電器店を営んでいる温水町へと向かいます。 ところがそこは、町おこしにミステリを掲げた“ミステリー商店街”。 ミステリ好きの商店主たちは、病死した老人のことまで執拗に殺人事件ではないかと疑い、仲間の奥さんまで平然と第一容疑者にしてしまうのですから、愉快。 軽いコメディと思っていたら、本当に殺人事件へと発展。商店主たちに背中を押されつつ、ついに鳥越は容疑者と対決します。 軽く楽しめるユーモア・ミステリ。疲れた時にどうぞ。 |
6. | |
「遠い約束 Long Good-bye...」 ★★ |
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和田企画創立10周年記念事業・東京地下鉄劇場の公演による舞台「遠い約束〜おじいさんのタイムカプセル」の単行本化。 2000年の初公演以来、全国で感動を呼んでいる名作舞台とのことです。室積さんが脚本・演出を担当。 昭和58年 4月、桜山小学校では学校創立百周年記念式典が行われようとしています。そこに来賓として呼ばれたのは、町出身の作家である林健一。 挨拶に登壇した林先生は、つい先ほど校門を入ってすぐの処にある桜の大木の根元から町場職員の松田俊一郎に掘り出してもらったタイムカプセルを手にしながら、在校生や関係者という聴講者に対して50年前の思い出を語り始めます。 それは、将来の夢を語り合いながら一緒にタイムカプセルを埋めた仲間4人のこと・・・・。 (※その一人が、松田俊一郎の祖父の弟である松田長次郎) 林先生を含む同級生5人は、将来の夢を語り合ったのです、飛行機パイロット、医者、みんなの友達でいること等、お互いの夢を一緒に喜びながら。 しかし、まもなく勃発した戦争により、一人、また一人と覚悟を決めながら戦地へ赴き、そして帰らぬ人となった・・・。 戦争の悲しさは、何度話を繰り返されようと胸痛むものですし、その無念さ、痛みは決して癒えるものではないと思います。 絶対に繰り返してはいけない、その思いを新たにさせられる一冊です。 |
7. | |
「都立水商! 1年A組」 ★★ |
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独創的過ぎて捧腹絶倒かつ感動尽きなしの、高校生成長&スポーツ小説の傑作「都立水商」の続編。 「都立水商」刊行から17年余、まさか続編が刊行されるとは思っても見なかっただけに、ファンとしては飛び上がりたいくらいの嬉しさです。 あれから何十年も経ち、主役となる水商生たちはもう子世代。 前作は高校生たちだけでなく教師たちも主人公でしたが、本作ではあくまで高校生たちが主体。その分、青春小説という雰囲気が際立っています。 本作で中心人物となるのは冨原淳史。中学時はいじめられっ子。カンニングの罪まで負わされ、すっかり学習意欲を失い、都立水商しか進学できる高校はないと言われてしまう。 そのため水商入学式にも行く気がしなかったが、それでもと登校した途端、担任の伊東先生からいきなり学級委員に指名され、同級に中村峰明、筒井亮太から「トミー」と呼ばれてすんなり友人関係。さらにセーラー服姿は超美少女、でも「ホモではない」と主張する他クラスの花井真太郎とも友達に。 そのうえ入学式での先輩たちの覇気溢れるパフォーマンスにすっかり魅了されてしまう。そこから・・・・。 登場する生徒たち、当然ながらにして前作に劣らず個性的で魅力いっぱい。それでも、ディスレクシア(識字障害)である中村峰明をはじめ、各人それぞれに辛い過去や状況を背負っていることが順次語られていきます。 それでも彼らが素直で、自然に振る舞えているのは、ここ水商だからこそでしょうか。 たとえ相手がどんな状況にあろうと、その長所を積極的に認め評価する、お互いに、そうしたことによって仲間として繋がっていく、水商の素晴らしさですね〜。 独創的なユーモア、そして友情、助け合い、成長という青春小説の魅力。最初から最後まで、たっぷり堪能しました。 ※上級生で輝きを発揮しているのは、生徒会長であるSMクラブ科の松岡尚美、その尚美を尊敬する野崎彩も同科でやはり生徒会メンバー。 ※前作の主要人物、その関係者が本作でも登場しているのも嬉しいこと。 伊東先生はベテラン教師で今も野球部監督。初代生徒会長にして同窓会会長である小田真理は、世界史の教師。 そして甲子園優勝メンバーである内山修の息子、吉野兄弟それぞれの2組の双子(2X2人)も野球部に入部・・・。 なお、本作題名は「1年A組」。是非「2年」「3年」篇も読みたいものです。室積さん、よろしくお願いします。 |
8. | |
「都立水商! 2年A組」 ★★☆ |
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このシリーズ、本当に良いなぁ、好きだなぁ。 荒唐無稽のフィクションですけれど、理屈なしに面白く、痛快かつ爽快で、何度も胸熱くなってしまう感動がありますから。 都立水商に進学してくる生徒は、何かしらの問題を抱えていることが多い。しかし、水商の先輩たちや教師も、世間常識的な枠に嵌めようとせず、その生徒の好い処を引っ張り出していく、そこが最大の魅力なのです。 さて本巻ストーリィ。 新型コロナ禍で、実習を行うことができず、特に3年生は就職を目前に控え焦燥感にかられます。 また、2年生は自分たちが中心となるべき様々なイベントを楽しむことができず、1年生は水商の楽しさを味わえず、という状況に追い込まれます。 一方、外野では、この際を捉え水商を廃校にすべきだという意見が現れ、生徒たちを心配させます。 本巻でも中心人物となるのは、前巻同様、冨原淳史。 今や中心となって活躍すべき2年生の生徒会役員とあって、野崎彩副会長らの信頼を受けながら、イベント中止の代替策を次々と企画し、実行していきます。その辺りの展開も楽しい。 そうした中、新たな生徒会役員として、呆れるくらい物知らずの田中由美、学習障害を抱えていて暗い夏目美帆という1年生が加わりますが、これが予想外の才能を発揮して大活躍。 一方、スポーツ面では、花野真太郎と城之内さくらが古武術を元にした指導を各スポーツ部へ実施、その中で徳永猛の息子=英雄をエースとして迎えた男子バスケットが躍進、ウィンターカップで勝ち進み、ついに・・・・。 これはもう「都立水商!」での、野球部の甲子園決勝における興奮を再び味わわせてくれます。 何はともあれ、楽しい作品が好きな方には、是非お薦め。 |
9. | |
「都立水商! 3年A組 卒業」 ★★☆ |
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生徒会長=冨原淳史らの学年もついに3年生。 本シリーズ最終巻であると同時に、「都立水商!」を含めての総決算、というべきストーリィだと思います。 以前として新型コロナ感染下の状況とあって、伝統イベントが様々に制約を受けている状況は変わりありません。 といっても、少しずつ動きも出てくるという訳で、制約を受けながらも復活したのが、楓光学園とのスポーツ交流会。 ラグビー部で山本樹里、野球部で内山渡や徳永英雄、吉野2兄弟が活躍を見せます。 そして夏の甲子園野球大会。さて・・・・。 閉校圧力がある一方で、「創立三十年記念式」が開催され、懐かし顔ぶれも姿を現します。 この辺りは「都立水商!」を読んでいないと感動には至らない処かもしれませんが。 そして、卒業を間近にしてそれぞれの針路も決まっていきます。 この辺り、水商ならではという処で、本当の個性的。 なお、淳史の後継者となる次期生徒会長、意外や意外で。 ストーリィ自体は“総集編”といった感じで特にどうこういう程のものではない、と思うのですが、所々で、実に良い言葉、感動的な言葉が目白押しに出てくるので、ついつい、胸を熱くさせられてしまいます。 そして最後の卒業式、何といっても圧巻でしょう。 笑いと涙、感動でいっぱいの最終巻。 最後、締めくくりの言葉は、やはりこれですかぁ。 気持ち良く読了。計4冊、たっぷり楽しませていただきました。作者の室積光さんに感謝です。 |