東野圭吾作品のページ No.1


1958年大阪府生、大阪府立大学電気工学科卒。85年「放課後」にて江戸川乱歩賞を受賞し、作家活動入り。「秘密」にて日本推理作家協会賞、2005年「容疑者Xの献身」にて 第134回直木賞、12年「ナミヤ雑貨店の奇蹟」にて第7回中央公論文芸賞、13年「夢幻花」にて第26回柴田錬三郎賞、14年「祈りの幕が下りる時」にて第48回吉川英治文学賞を受賞。


1.放課後

2.秘密

3.白夜行

4.超・殺人事件

5.サンタのおばさん

6.トキオ(文庫改題:時生)

7.容疑者Xの献身

8.流星の絆

9.聖女の救済

10.ガリレオの苦悩


新参者へ、麒麟の翼、真夏の方程式、ナミヤ雑貨店の奇蹟、禁断の魔術、祈りの幕が下りる時、沈黙のパレード

 → 東野圭吾作品のページ No.2

   


  

1.

●「放課後」● ★   第31回江戸川乱歩賞受賞


放課後画像

1985年09月
講談社刊

1988年07月
講談社文庫
(571円+税)


1999/06/15

私立女子高校を舞台にした殺人事件。主人公はその高校に勤める男性教師・前島
高校が舞台といっても、学園ミステリらしい若々しさは感じられません。むしろ、釈然としない印象をぬぐえませんでした。その主因は、語り手である主人公のもつ陰にあります。
他の教師に比べれば、生徒に対する偏見がないだけましとも言えますが、読者は彼に対して好意的であるべきなのか、それとも批判的であって良いのか。明らかなことは、私自身は人間として彼を好きになれない、ということです。
一方、面白みを感じる部分もあります。それは、主人公と女生徒、高原陽子、杉田恵子らとの距離関係。
とくに、ケイと通称される後者との関係は、教師と生徒の関係を越えた1対1の緊張関係が感じられます。危ないなあ、というところにちょっと気を惹かれます。
ストーリィ、および謎解きについては、最後まで釈然としないままでした。とくに最後の結末は、何をか言わんや、という気分。途中の伏線についても、こじつけがましさを感じてしまいます。所詮、好みの問題なのかもしれませんが。
なお、密室殺人という本格的謎解き小説であることが、受賞という評価に繋がったものと思います。

  

2.

●「秘 密」● ★★★


秘密画像

1998年09月
文芸春秋刊
(1905円+税)

2001年05月
文春文庫化



1999/06/27

妻と娘がバス事故で瀕死の重傷を負う。駆けつけた主人公・平介の前で妻は息を引き取る。一方、残された小学生の娘は奇跡的に意識を取り戻す。しかし、娘から最初に発せられたのは「あたしよ、あたし、直子なのよ」という言葉だった。
妻と娘を失った筈の主人公に残されたのは、人格の上では妻・直子でありながら、現実には娘・藻奈美。そんな主人公と妻の新たな生活を描くストーリィです。

当初、北村薫「スキップに類する作品のように伝え聞いていましたが、全く異なる作品と考えるべきだと思います。北村薫作品では、境遇が変わってしまった主人公の再生の物語であるのに対し、本作品はむしろ妻と娘に取り残された夫かつ父親を描くストーリィなのです。
娘=妻が挑むように新しい人生に適応していくのに対して、主人公にはそれを見守るしかない辛さが募っていくようです。
本ストーリィは、妻と娘どちらかの生の選択を強いられた時、夫が窮地の末に選びたくなるような結果であって、かえって苦痛をもたらすという、そんな物語のような気がします。したがって、中盤のストーリィは、当然に予想される展開であり、それ故に平凡な作品であるように感じられます。
そんな印象を吹き飛ばして鮮烈な余韻を残すのは、終盤の結末。そして更に最後の数頁です。その数頁にこそ、ミステリ作家としての東野さんの面目躍如、この作品の価値が篭められているように思います。
この最後のシーンは、いつまでも忘れられない。

  

3.

●「白夜行」● ★★


白夜行画像

1999年08月
集英社刊
(1900円+税)

2002年05月
集英社文庫化



1999/09/23

大阪の下町の空きビルで起きた殺人事件。そして、時代はオイルショックの頃。
何故こんな古い時期の話なのか?と思ったら、それは長い年月に渡るこのストーリィの、単なる幕開けに過ぎなかったのでした。
長い年月の中に、様々な人物がその場の主人公として登場します。
当初は、その舞台が入れ替わる如き転回に戸惑うものの、その背後に一貫して繋がる物語があることを、読者は徐々に感じさせられます。
その予感があるからこそ、この物語が多様に変化しても、読者は次第にこの作品に巻き込まれていきます。
隠された真実は何か。ひとつの推測が成り立つとともに、それをおぞましく思う、もう知りたくない、という気持ちが働きます。だからこそ読まずにいられない、それがこの作品の魔力でしょう。
それだけ、この作品は精緻な、そして完成度の高い小説と言えます。また、様々な時代の変遷、事件をストーリィの要素として取り込んでおり、東野さんの集大成と言って良い作品のような気がします。
ただ、私の場合、最初から背後の真相がある程度覗けていました。それは、過去にこれと似た小説を読んでいるからです。それは、有吉佐和子「悪女について」(新潮文庫)。随分以前の作品ですから時代背景はかなり異なりますが、本書は同小説より幅を広げ、現代的に、そして巧妙に発展させた小説、というように感じられます。
いずれにせよ秘密と並ぶ、読み応えある!作品です。

   

4.

●「超・殺人事件−推理作家の苦悩−」● 


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2001年06月
新潮社刊
(1400円+税)

2004年05月
新潮文庫化


2001/07/09

帯には「推理作家の舞台裏を描く、衝撃作。日本推理作家協会、助命覚悟!」という大袈裟な文句が続いています。
要は、推理作家の苦しさを、いろいろな角度からショートストーリィに纏め上げた短篇集です。推理作家の内側の事情がよく判ると言えば判るものであり、人気稼業とはいえ楽ではないんだよー、というのが東野さんの主張でしょうか。
とはいえ、それぞれ内容の濃い短篇集と思いきや、実際に読んでみるとナンセンスな面白さ、という傾向の方が強い本です。

冒頭の「超税金対策殺人事件」には思わず苦笑してしまいます。一方、「超高齢化社会殺人事件」「超長編小説殺人事件」には、笑うに笑えない、真実っぽいところがあります。
「超理系殺人事件」と「超犯人当て小説殺人事件」は、作中小説の形をとっており、ちょっと惑わされます。
ミステリ・ファンなら、気分転換あるいは一休みに、こんな短篇集を読んでも良いのでは、と思う一冊。

超税金対策殺人事件/超理系殺人事件/超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)/超高齢化社会殺人事件/超予告小説殺人事件/超長編小説殺人事件/魔風館殺人事件(超最終回・ラスト5枚)/超読書機械殺人事件

  

5.

●「サンタのおばさん」● ★★   画:杉田比呂美


サンタのおばさん画像

2001年11月
文芸春秋刊
(1333円+税)



2001/12/29

12月になると気になるのは、やはりクリスマス向けの本。
ミステリ系作家の東野さんが書いたクリスマス本となれば、どうしても興味がそそられます。
第一、題名からして面白そうではありませんか。
さて、ストーリィ。
クリスマスを前に、世界中から各国のサンタが集まり会議が開かれます。隠退するアメリカ・サンタが後継者候補として皆に紹介したのは、なんとジェシカという若い女性。
前回会議でちょっと問題になったのは、サンタクロースのイメージとアフリカ・サンタの肌の色という問題だったそうです(決して人種差別という問題ではなかったとの由)。しかし、若い女性のサンタというのは、さらに前代未聞! 
しかし、結局彼女はサンタとして皆に承認されます。その紛議の様子がまた楽しい。
“サンタ”を逆手にとった発想の面白さと、ジェシカと息子トミーの話、ジェシカのラブ・ロマンスが、本ストーリィの楽しさを盛り上げています。
ただし、私が一番魅力を感じたのは、杉田比呂美さんの画の楽しさです。
東野さんと杉田さんには申し訳ないのですが、ちょっと立ち読みするだけでも、十分楽しめる一冊です。

      

6.

●「トキオ」● ★★
 
(文庫改題:時生)

 
トキオ画像
 

2002年07月
講談社刊
(1800円+税)

2005年08月
講談社文庫化



2002/08/31

主人公・宮本拓実の一人息子・時生は、遺伝性の病気で死を迎えようとしていた。そこに至り、拓実は妻の麗子に向かって、20年以上も前に、時生と出会ったことを語りだす。時生は時間を超えて、父親である自分に会いに来たのだと言う。
時は1979年、場所は浅草・花やしき(遊園地)。

堪え性がなく、何の仕事をやっても続かない拓実の前に、トキオ
と名乗る青年が現れます。それと同じくして、拓実の恋人・千鶴が姿を消す。ついに見放されたのかと思いきや、千鶴を探してヤクザらしい男たちが現れる。千鶴は何かの事件に巻き込まれたのか。拓実は、トキオと共に千鶴の行方を追いかけます。
しかし、トキオは何らかの意図をもって拓実に近づいたらしい。しきりに拓実を実母に会いに行かせようとします。
ストーリィの主筋は、タイムトラベルより、ノスタルジーを漂わせつつもサスペンス。同時に自分探し、自分を見つめ直すための旅でもあります。その辺りは秘密の作者でもある東野圭吾さんらしいところ。
千鶴探し・事件解明というストーリィの一方で、トキオ主導による、拓実の生まれた事情解明というストーリィがあります。この辺りはミステリ風味。
その間の拓実とトキオ、反発し合いながらも何故か離れ難いという2人のコンビ関係が、本書の魅力です。

ストーリィ自体はそれ程のものとは思いませんが、うまく盛り上げ、うまく纏め上げる、東野さんの上手さに脱帽。

     

7.

●「容疑者Xの献身」● ★★☆       直木賞

 
容疑者Xの献身画像
 

2005年08月
文芸春秋刊
(1600円+税)

2008年08月
文春文庫化



2006/02/23



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獲物は逃がさないと迫ってきた元夫の富樫を、衝動的に殺害してしまった靖子と娘の美里。同じアパートの隣室に住み、密かに靖子を愛していた数学教師の石神は、2人のために完璧なアリバイ工作を築き上げます。
警察は当然の如く被害者の元妻であった靖子に容疑をかけてきますが、石神の計算どおり母娘のアリバイは崩せない筈。
しかし、そこに立ちはだかったのが、草薙刑事の友人である大学助教授の湯川。奇しくも石神と湯川は、学生時代お互いに天才的な数学頭脳の持主、天才的な物理学頭脳の持主と認め合った間柄だった。

容疑をかけられた母娘、2人を追求する草薙刑事ら、母娘を救おうとする石神、石神の策略を見抜こうとする湯川、その湯川の言動に疑念をもつ草薙刑事という4すくみの対立構図が、まるでゲームのような面白さを高めてくれます。
数学の天才が作り上げた策略とは、如何なるものなのか。それを読者が知ることのできるのは、湯川の謎解きを待つほかありません。
石神と湯川、この2人の頭脳のひらめきが、本作品の魅力と言って間違いないでしょう。

なお、本作品については究極の恋愛小説という捉え方があるようですが、私はそうは思わない。人に一生の負い目を背負わせてしまうような愛は、独りよがりな愛だと思うからです(人間の感情は論理的な計算どおりにはいかないもの)。
とは言っても、湯川によって明らかにされる石神のとった策略とは、まさに驚天動地。とても予想のつくものではありません。
恋愛要素の是非は別としても、読み応えのある、すこぶる面白い一冊。お薦めです。

※映画化 → 容疑者Xの献身

     

8.

●「流星の絆」● ★☆

 
流星の絆画像
 

2008年03月
講談社刊

(1700円+税)

2011年04月
講談社文庫化



2010/01/17



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刊行当時かなり話題になっていた作品。
予約が多かったのでその時は読むのを見送りましたが、今回たまたますぐ借りることができたので、今さらとは思ったものの読んでみた次第。
ただ、当時高かった評価程には感じなかったなぁというのが率直な感想。

深夜に家を抜け出してペルセウス座流星群を見に行った、当時小学生の功一・泰輔・静奈の3兄弟妹が帰宅してみると、両親が惨殺されていた、というのが発端。いつか両親の仇をとってやる、というのが残された3人の誓い。
その14年後、3人は固い絆で結ばれたチームワークを生かして、詐欺師稼業に手を染めていた。そして新たな詐欺計画を練っていたところ、偶然にも犯人と思われる男を見つけてしまう。
どうやって犯人を警察に逮捕させるか、培った詐欺師のテクニックを駆使して3人の復讐劇が幕を開けます。
しかし、3人にとって誤算だったのは、静奈が仇の息子に惚れてしまったこと。

犯人をあぶり出すために3人が次々と仕掛ける罠、という展開がスリリング。そして最後には、3人が予想もしなかった真相が明らかになる、というストーリィ。
スリリングが減じるということはないまでも、途中から何となく真相が透けて見えてしまった、というところがちと残念。
むしろ私として興味を抱いたのは、一旦犯罪に手を染めた兄妹の末路が、真相が明らかになっとしてハッピーエンドに成り得るのか、という点。
そこをうまく収めたところが、東野圭吾さんの洒脱で上手いところ。ただし、かなり甘いオチかもしれないなぁ。

             

9.

●「聖女の救済」● ★☆

 
聖女の救済画像
 

2008年10月
文芸春秋刊
(1619円+税)

2012年04月
文春文庫化



2008/11/09



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ガリレオの苦悩と同時刊行された、ガリレオもの長篇、第2作。
今回、女性刑事=内海薫、そして天才物理学者=湯川学准教授が挑む相手は女、そして完全犯罪。

事件は、IT企業の経営者=真柴義孝が自宅で毒殺されるというもの。最有力容疑者は、その直前に離婚を突きつけられた夫人の綾音ですが、彼女には前日から札幌の実家に里帰りしていたという絶対的なアリバイがある。
もっとも、ストーリィの冒頭で読み手には、綾音が夫を毒殺しようと決意したことが明らかにされています。
したがって、興味どころは、綾音はどうやって殺人を実行したのか、そして捜査陣はどう真相に迫るのか、に尽きるといって過言ではありません。
しかし、それだけでは長篇ストーリィにはなり得ないらしく、女の直感から綾音が怪しいと突き進む内海に対し、綾音に魅せられて彼女に容疑をかけたくないという心情に駆られる草薙刑事、論理的に事件に向き合った最後に「理論的には可能だが、実行は不可能」という結論に行き着く湯川、という3者構図を明瞭にしてストーリィは展開していきます。

本ストーリィで私が魅力を感じるのは、未だ映画での柴咲コウのイメージが残る女性刑事、内海薫。
女性ならでの視点、直感とはいえ、自らの直感を信じてトリックを見破ろうとするその姿には、古典的推理小説における職人肌の刑事の継承者という香りを感じます。
今回、順当な捜査を推し進めようとする草薙との比較において、その姿は際立っています。
ただ、最初から犯人が明らかになっているため、主眼は謎解きに絞られてしまっている故に、ストーリィへの満足度は今一歩。
本作品のトリックもまた、推理小説としては真に驚愕すべきものですが、容疑者Xの献身のような壮絶なドラマ性が感じられなかったのが残念。

   

10.

●「ガリレオの苦悩」● ★★

 
ガリレオの苦悩画像
 

2008年10月
文芸春秋刊
(1524円+税)

2011年10月
文春文庫化



2008/11/06



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“探偵ガリレオ”シリーズには「探偵ガリレオ」「予知夢」といった短篇集がありますけれど、私にとっては本書が初めて読むガリレオもの短篇集です。
読みたいと思ったのは、映画容疑者Xの献身が予想した以上に良かったから、に尽きます。

久しぶりに読んだ刑事事件もの本格ミステリ短篇集ということもあり、(久しぶりだからこそという面もあるのですが)結構楽しめました。
本書の主人公はもちろんガリレオ先生こと帝都大学准教授の湯川学ですけれど、私が魅力を感じるのはむしろ女性刑事=内海薫の存在。
この内海刑事がシャープでとても魅力的。勘の鋭さは捜査陣随一かと思うのですが、浮き上がっている、スタンドプレーと悪口を叩かれ、それを若干気にしていながらも事件へのこだわりを捨てない頑固さを持つという、若い女性刑事。
ホームズ役=湯川学とすれば、ちょうど彼女がワトソン役と言うべきでしょう。
映画では柴咲コウさんが演じていましたが、私の中では柴咲コウ=内海薫とぴったり収まっています。そのため、柴咲さんをイメージしながら読めたことが楽しかった。

本書収録5つの事件を湯川准教授があっさり謎解きしてしまう辺り、もちろん本格的推理小説といって間違いないのですが、私にとっては謎解きよりもむしろ犯人、あるいは犯人の身内が抱えている切ない心情を描いているところに本短篇集の魅力を感じました。その点、湯川准教授はむしろ脇役と言う方が相応しいのかもしれません。
技術的な謎解きだけではつまらない。やはり犯罪に関わった人々らの心情が描かれなくては、と思います。

落下る(おちる)/操縦る(あやつる)/密室る(とじる)/指標す(しめす)/攪乱す(みだす)

      

東野圭吾作品のページ No.2

   


 

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