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1.はじまらないティータイム 2.東京ロンダリング 3.人生オークション 4.母親ウエスタン 5.アイビー・ハウス 6.彼女のための家計簿 7.ミチルさん、今日も上機嫌 8.三人屋 9.ギリギリ 10.復讐屋成海慶介の事件簿(文庫改題:その復讐、お預かりします) |
虫たちの家、失踪.com、ラジオ・ガガガ、ランチ酒、三千円の使いかた、DRY、おっぱいマンション改修争議、ランチ酒−おかわり日和−、まずはこれ食べて、口福のレシピ |
一橋桐子(76)の犯罪日記、サンドの女、ランチ酒−今日もまんぷく−、母親からの小包はなぜこんなにダサいのか、古本食堂、財布は踊る、老人ホテル、図書館のお夜食、喫茶おじさん、定食屋「雑」 |
古本食堂新装開店、あさ酒 |
●「はじまらないティータイム」● ★★ すばる文学賞 |
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「正しく努力すれば何ごとも成し遂げることができる」が信条の里美は、目をつけた相手(博昭)が既婚であるのも恐れず体当たり。妊娠に成功し、みごと結婚を手に入れます。そのうえ一戸建ても購入させ、幸せを手にしたと満足。 一方、そのあおりで離婚された佐智子は、他人の留守宅に忍び込んでは快感を得るという悪癖を蘇らせてしまう。 そんな佐智子に義理立てし、結婚式に出るなどとんでもないと拒否しているのが、博昭の伯母ミツエ。 そのミツエの娘である奈都子は、そこそこ幸せかと思いきや、実は不妊に悩んでいる。 そんな性格も置かれた状況もまるで異なる、4人の女性の物語。 複数の女性の物語といったら普通は3人でしょう。それなのに本作品は4人。それも、同世代3人+一人だけ中年という奇妙な組み合わせ。 ※なお、4人の女性の亭主3人(元を含む)、いずれも妻に対して無表情なところが共通しています。それだけでも女性たちに連帯感が生まれるのかもしれませんねぇ〜とは、亭主族の一人としての感想です。 |
●「東京ロンダリング Tokyo Laundering」● ★★ |
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2013年12月
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題名の「ロンダリング」とはどういう意味? 似た言葉に「マネーロンダリング」という言葉がありますが、関係があるのでしょうか? 不倫が発覚して離婚、行き場所を失ったりさ子が辿り着いて始めたのが、ロンダリングの仕事。 りさ子の有り様は、どん底で絶望的に感じられるかもしれませんが、むしろ彼女からはストイックで清廉な印象を受けます。 現代東京の中でこうした花が少しずつ開いていけばどんなに良いか。細やかで稀な美しさ、本作品の魅力はそこにあります。 |
●「人生オークション」● ★★ |
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2014年02月
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不倫の果てに相手の妻に対して傷害事件を起こしてしまい、その結果として離婚、生活の糧を得る当てもないままアパートでの侘しい一人暮らしとなった叔母=りり子。 アパート暮らしとなったものの引っ越し荷物は段ボール50個近くにも及び、蒲団を敷く場所もままならない状況。 もう1篇の「あめよび」は、雨の日の予備、という意味。 人生オークション/あめよび |
4. | |
●「母親ウエスタン A Western mother」● ★★☆ |
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2015年01月
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何と言っても題名が秀逸。「母親ウエスタン」とはよくもまぁ名付けたものです。 広美とは一体どんな女性なのか。人に尽くすことを生きる目的にしている女性なのか、それとも永遠の母性の持ち主なのか、それとも・・・。 1.彼はすぐに忘れた/2.電話は一度しかかかってこなかった/3.免許証を盗み見た/4.夜明けにロックを歌った/5.耳栓をおいていった/エピローグ |
5. | |
「アイビー・ハウス Ivy House」 ★★ |
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シェアルーム、シェアハウスという言葉を最近よく聞くようになりましたが、本書は二世帯住宅向けに建てられた一軒家をシェアして住んでいる2組の夫婦を描いた作品。 一軒家をシェア、そう簡単にいくものではないと思うのですが、夫側の2人は大学以来の親友で、偶々今は同じ会社勤め(片方は正社員の営業職、片方は週3日勤務の技術系派遣社員)。一方、妻側の2人は証券会社時代の先輩後輩という関係。 お互いにズレがあって当然なのですが、本書においてはそのズレ方が絶妙で面白い。そこで特徴的に感じられるのは、女性側は冷静で現実直視、それに対して男性側は体面にこだわり夢想がち。2組の夫婦に生じるさざ波はその軋みが表面化しただけ、と言えます。 ※この家に住み始めるとき不動産屋が「つたは家に悪い・・・」と呟いたというエピソードが冒頭で語られ、最後のその意味は明らかにされますが、本書内容を象徴する響きがありました。 |
6. | |
「彼女の家計簿」 ★★☆ |
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2016年07月
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主要な登場人物は、シングルマザーの里里(りり)32歳、訳有りで現在は女性支援のNPO代表を務める晴美42歳の2人。 戦中〜戦後という困難な時代に自分の生きるべき道に目覚めた一人の女性の姿が、折々に書き込まれた家計簿のメモから浮かび上がってきます。 本作品では、現代に生きる里里、そして晴美の人生と、戦中戦後を生きた加寿の人生がオーバーラップします。そしてそれは里里と晴美の2人だけに留まらず、里里の幼い娘=啓のこれからの人生にも影響を与えそうです。 |
7. | |
「ミチルさん、今日も上機嫌」 ★★ |
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2017年07月
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バブル時期に大学生〜OL時代を過ごし、その恩恵を享楽してきた山崎ミチル、自分の方が優位と思っていた恋人にいきなり別れを告げられてショック。 ストーリィ全体を通し、ミチルの回想という形をとって常にバブル時代との対照があります。とはいえ何故そこまでバブル時代に拘るのか。その理由に思い至った時、このストーリィの謎が判ります。 私もバブル時代を知っていますが、その分仕事に追いまくられ、バブル享楽には余り縁がなかったですね。 |
「三人屋」 ★★☆ |
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2018年02月
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ラプンツェル商店街にある元喫茶店だった「ル・ジュール」という店、現在は両親の後を継いだ志野原家の三姉妹が、それぞれ時間帯と業態を変えて引き続き営業中。 朝は、大学院生である三女=朝日が営む喫茶店、焼き立てパンと手作りジャムが美味いと好評。 昼は、既婚者である次女=桜井まひるが営む讃岐うどんや、こちらもうどんが美味いと好評。 そして夜は、長女=夜月が営むスナックで、漬物とお米がめっぽう美味いと評判。 それだけだと仲の良い三姉妹が各々の個性と都合を合わせての三業態経営と思えるところですが、実はまひると夜月はお互い口も利かないといった険悪状態にあり、三姉妹がバラバラ状態である結果がこの三業態と判ります。 各章は、三姉妹の周辺人物を題名としていますが、その中身はあくまで三姉妹を巡るドラマがミソ。それに加えて各周辺人物のドラマも並行して描き出すといったストーリィ構成です。 35歳、32歳、23歳と未だ若い三姉妹ですが、彼女たち一人一人のドラマもそれなりに読み応えがあります。朝日は未だとして、まひる、そして特に夜月についてはかなりドラマチック。 題名の「三人屋」は常連客たちによる異名ですが、本当に三人屋らしくなるのは、むしろ本ストーリィが終った後のことのようです。その意味で本書は、本書の後に始まる“本編”前の序章と言うべきストーリィ。 そう簡単に人生が順調に進む訳がない、その前には苦労があって当然、本作品はそんなメッセージを伝えるストーリィのように思えます。 ※三姉妹の周辺に登場する、男性たちの人物像も見逃せません。優柔不断だったりして弱々しいのです。でもそこに人間味があるからこそ、すこぶる美味しいストーリィに仕上がっている気がします。 「母親ウェスタン」以来、この辺りが原田ひ香さん、上手い! ※※三姉妹が提供する料理、味わってみたいなぁ。 1.森野俊生(26)の場合/2.三觜酉一(52)の場合/3.飯島大輔(36)の場合/4.桜井勉(32)の場合/5.志野原辰夫(故人)の場合 |
「ギリギリ」 ★★☆ | |
2018年11月
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シナリオライターの卵である健児は、同窓会で同級生のアイドルだった瞳と再会し、彼女を慰めようとする内にトントンと事態が進んで彼女と再婚。 一方、キャリアウーマンの瞳は、商社マンだった夫の一郎太が過労で突然死した後も心に重荷をずっと引きずっていたが、再会した元同級生の健児に癒され、きちんと主夫を務めてくれる有り難さに、瞳の方からアプローチして健児と再婚。 夫は既になく、一人息子の一郎太も突然死してしまい、ひとりぼっちになってしまった老女の静江。 瞳は静江との関係を最低限にしているが、何故か健児は静江と仲が良く、静江も健児を頼りにすることが多い。 そんな3人の微妙な関係を、代わる代わる各人の目から描く、新しい感覚の連作風疑似家族ストーリィ。 新しい家族の姿を描く小説作品が増えているように思いますが、本作品もまたそれに連なるストーリィかと感じます。 健児のキャラクター故でしょうか、瞳も静江も健児の優しさに救われているように思います。 しかし、本当にそれで良いのか、それだけで良いのか、それで終わってしまって良いのか。 優しくユーモアも感じるストーリィ展開を楽しんでいたところ、健児のシナリオ作品が注目されたことから、お互いの関係がギクシャクしていきます。それからの展開、結末には呆然。 しかし、そこへ至るまで流れ、各登場人物の心の動きを描く、原田ひ香さんの何と上手いことか! 予想もしない展開だっただけに尚のこと、原田さんの上手さに舌を巻きます。 人に慰められているだけではダメ、自分で立ち上がる力を持たなくてはいけないのだ、ということを本作品から教わった気がします。 一郎太の不倫相手だったという女性、健児の訳有りの母親の登場も見逃せません。特に後者が印象的で忘れられません。 人と人との関係を巧妙に描き出した逸品、お薦めです! アナログ/モヒート/スカイプ/シナリオ/ギリギリ |
「復讐屋成海慶介の事件簿」 ★★ |
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2018年07月 2024年12月
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毎回主人公のキャラクター設定に味のある趣向を凝らしてくれる原田ひ香さんですが、今回は「復讐屋・・・事件簿」と何やらハードボイルド風探偵ものを連想させる題名。 悔しい思い、何とか仕返しできないか、復讐できたらさぞスカッとするのではと思ったことは私自身、これまでに何度もあり。 依頼人に代わって復讐してくれるという商売、果たしてどんなやり方で復讐を?と思う処ですが、どうも本書に登場する復讐屋の成海慶介、読者が単純に考える復讐屋とはかなり趣を異にするようです。 何しろヤル気がない、依頼人から手付金を受け取るや否や「あなたの復讐はもう成し遂げられたも同然です」と明言するものの、「復讐するは我にあり」という言葉を引用、“我”すなわち神様のことであり、自分が手を出すものではないとうそぶく風。 そんなことでどんな復讐が果たされることやら。 本書の主人公は神戸美菜子。とくに美人ではないものの、元上場会社で秘書室勤務。仕事に精励していたものの、イケメン社員の人事評価アップにうまく利用された揚げ句に捨てられ、退職を余儀なくされたアラサー女性。復讐を依頼に成海事務所を訪れてきたものの、セレブしか相手にしないとケンもホロロに追い返されます。 そこでくじけないのが美菜代の面白さ。元社長秘書の経歴を元に自分を売り込み、成海事務所に押し掛け秘書。それにより、復讐屋凸凹コンビの誕生です。 本ストーリィを読んで思ったことは、復讐は一時的にスカッとするかもしれないが、相手が不幸にでもなればやはり寝覚めは悪いかもしれない。それより、自分がそれを忘れて幸せになることが最も意味ある復讐なのかも、と思った次第。 その意味で、考えさせられると同時に、充分楽しませてもらった事件もの連作短篇集。 1.サルに負けた女/2.オーケストラの女/3.なんて素敵な遺産争い/4.盗まれた原稿/5.神戸美菜代の復讐 |