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21.一橋桐子(76)の犯罪日記 22.サンドの女−三人屋− 23.ランチ酒−今日もまんぷく− 24.母親からの小包はなぜこんなにダサいのか 25.古本食堂 |
【作家歴】、はじまらないティータイム、東京ロンダリング、人生オークション、母親ウエスタン、アイビー・ハウス、彼女のための家計簿、ミチルさん今日も上機嫌、三人屋、ギリギリ、復讐屋成海慶介の事件簿 |
虫たちの家、失踪.com、ラジオ・ガガガ、ランチ酒、三千円の使いかた、DRY、おっぱいマンション改修争議、ランチ酒−おかわり日和−、まずはこれ食べて、口福のレシピ |
「一橋桐子(76)の犯罪日記」 ★★ | |
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題名からして如何にも一橋桐子は常習犯罪者、という雰囲気ですが、その主人公像はどこにでもいる平凡な老女。 ずっと両親の介護をしてきたため、独身でもはや身寄りはなく、今は清掃パートの仕事で暮らす。 その夫の死をきっかけに高校からの友人トモと一緒に暮らしていましたが、僅か3年でトモは死去、取り残されて初めて自分の寄る辺なさを感じている処。 刑務所に入れば衣食住の心配はなし、おまけに介護もしてくれるというTV報道を見て、それなら自分もと思ったのですが、そう簡単に都合よく犯罪を犯せるわけでもなく・・・・。 そうした一橋桐子・76歳の、割の良い罪を犯すための苦心譚。 どことなくユーモラスなストーリィなのですが、基にある介護プアの問題、現在そして今後の日本にとっては重たい問題です。 それなのにどこかのんびりした雰囲気があるのは、一橋桐子という老女の人柄の良さでしょう。 自分の過去を悔いて嘆いたりせず、今の境遇を誰の所為にもしていない。そして、誰に対しても誠実にきちんと向かい合う姿勢があります。 だからこそ結末には、心から安堵する思いです。 社会の一員である以上高齢者とはいえ、いや高齢者だからこそ、人と人の繋がりが大切なのだと、改めて感じさせられるストーリィ。 同時に、人と人の繋がりを保つことこそ社会の役割ではないかとも思います。単に金銭的な補助をしていれば良いということではない筈。 1.万引/2.偽札/3.闇金/4.詐欺/5.誘拐/最終章.殺人 |
「サンドの女−三人屋−」 ★★ | |
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「三人屋」の続編、前作から3年後。 美人三姉妹の三女=朝日が就職したため、朝の喫茶店と昼の讃岐うどん屋は営業終了。 今は朝日が焼いたパンを使った自家製の卵玉子サンドをシングルマザーとなった次女=まひるが売るというサンド屋に業態転換したところ、これが好評。なお、長女=夜月が夜に営むスナックはこれまでどおり、という状況です。 三人屋(通称)を中心舞台に、志野原家の美人三姉妹と常連客たちが織りなす身近な群像劇、という構成は前作どおり。 この「三人屋」の魅力は何と言っても、三姉妹と常連客たちのごちゃごちゃ感にあります。 目次構成から見てわかるとおり、一人一人の人生ドラマではあるのですが、主人公となる人物に三姉妹のいづれかと、他の登場人物が密接に絡みあっていて、要は「ごちゃごちゃ」なのです。 そのブレンド感が何と言っても良い!のです。 最終的に朝日の結婚が決まり、それに伴いまひるの生活も変わることとなり、夜月のスナックが残るといっても「三人屋」と周囲から呼ばれたこの店の特殊な有り様は、お終いのようです。 残念というより、変らないものは無いという点から、いっそ潔いと喝采を送りたい。 ・「近藤理人(26)の場合」:フケ専のゲイ。商店街の豆腐屋の愛人だったが、夜月のスナックを手伝うことに。 ・「中里一也(29)の場合」:受賞作以降、まるで作品が書けないでいる小説家。夜月の恋人に・・・。 ・「望月 亘(30)の場合」:格安携帯屋のワンオペ店長。まひるとセフレになるのですが・・・。 ・「加納 透(35)の場合」:朝日と結婚する予定なのですが、朝日に隠していることがあり・・・。 ・「飯島大輔(39)の場合」:前作から引き続き登場。今なお夜月のことが思いきれず・・・。 ・「森野俊生(29)の場合」:前作から引き続き登場。何やらもう一つピリッとしない人物なのですけど・・・。 近藤理人(26)の場合/中里一也(29)の場合/望月亘(30)の場合/加納透(35)の場合/飯島大輔(39)の場合/森野俊生(29)の場合 |
「ランチ酒−今日もまんぷく−」 ★★ | |
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「ランチ酒−おかわり日和−」に続く、シリーズ第3弾。 主人公の犬森祥子、相変わらず夜を徹しての見守り屋の仕事を続けており、仕事明けにはお酒と美味しい食事を満喫、という連作ストーリィ。 これが、本当に美味しそうなんですよね〜。これだけ美味しいメニューに出会えるのなら、それだけでも充分幸せ、と感じます。しかし、不安定な仕事なのですから、節約しなくて良いのかなぁとついつい余計な心配をしてしまいます。 ただ、その中でも着実に変化は生じています。 母娘の関係が改善した今、娘の明里から相談したいことがあるという連絡あり。実の母親として祥子は、娘のためを思ってきちんと明里に向かい合おうとします。 一方、以前に仕事で出会った角谷から食事に誘われ、その席できちんとお付き合いをしていきたい、という申し出を受けます。 酒、食事と気の合う相手ですが、角谷の仕事が定まらないところに不安もあり。 明里もどんどん成長していきますし、祥子だっていつまでも「離婚したばかりの女性」という立場に留まっていられる訳ではありません。 本巻では、前に向かって歩み出そう、そう祥子の気持ちが定まっていく経緯が描かれます。 バツイチ女性とその幼い娘との成長ストーリィ、まだまだ続きそうです。今後の展開が楽しみです。 第一酒:蒲田 餃子/第二酒:西麻布 フレンチ/第三酒:新大久保 サムギョプサル/第四酒:稲荷町 ピリヤニ/第五酒:新宿御苑前 タイ料理/第六酒:五反田 朝食ビュッフェ/第七酒:五反田 ハンバーグ/第八酒:池尻大橋 よだれ鶏/第九酒:銀座一丁目 広島風お好み焼き/第十酒:高円寺 天ぷら/第十一酒:秩父 蕎麦 わらじカツ/第十二酒:荻窪 ザンギ/第十三酒:広島 ビール/第十四酒:六本木 イタリアン/第十五酒:新橋 鰤しらす丼/第十六酒:末広町 白いオムライス |
「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」 ★★ | |
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本作の題名、含蓄があるなぁ、とまず感じます。 余計なものを大量にいろいろ送ってこられたらたしかに邪魔臭いのかもしれませんが、母親の娘に対する愛情が籠っていると感じられますし、そこに母親と娘の強い繋がりが感じられます。 (6篇中、5篇が女性主人公、娘なので) ・「上京物語」:盛岡第一の母親の反対を押し切って東京の短大に進学した吉川美羽。母親が送って来た段ボール箱には故郷の味がぎっしり。 ・「ママはキャリアウーマン」:損保会社に勤める夫に帯同して北海道に引っ越した新井莉奈。離婚して以来必死に働いてきた母の松永敬子は、莉奈にも働けと口煩い。札幌にやって来た母親と莉奈はついに激突。 ・「疑似家族」:石井愛華、同棲中の恋人である幸多にひとつ嘘をつき続けている。実家から送られてくる米や野菜、実はメルカリで購入したもの。 ・「お母さんの小包、お作りします」:5年にわたる不倫関係に夢破れ、群馬の実家に戻ってきた都築さとみ。母親のめぐみがやっているメルカリ・LINEでの自家野菜販売を手伝い始めますが、母親がさとみに言った言葉は・・・。 ・「北の国から」:広島の実家で一人暮らしをしていた父親が死去。内藤拓也は、毎年父親に昆布を送り続けてきた女性=槇恵子に事情を確かめる為、恋人の奈端菜と共に羅臼へ向かう。 ・「最後の小包」:長年母娘二人で生活してきたのに、母は54歳で突然再婚。義父となったまさおを受け容れられなかった後藤弓香はそれ以来母親と疎遠。しかし、その母親が急死したと連絡を受け駆け付けるが、相手のまさお一家が主導で葬儀が進められて行くことに反発し・・・。 1.上京物語/2.ママはキャリアウーマン/3.疑似家族/4.お母さんの小包、お作りします/5.北の国から/6.最後の小包 |
「古本食堂」 ★★ | |
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大叔父の鷹島滋郎が遺した神保町の小さな古書店が舞台。 とりあえずその店を引き継いだ大叔母の珊瑚と、その店を手伝う大学院生の美希喜の2人が共に主人公となり、鷹島古書店を訪れる様々な客たちと楽しい時間を作り出す連作ストーリィ。 神保町に古書店、大叔母と孫娘、と設定は何やら北村薫さんの世界のように感じてしまうのですが、古書以外に美味しいフードも加えられているのは、やはり原田ひ香さんの世界。 大叔母の珊瑚さん、古書店商売はまるで初めてという設定なのですが、本好きらしく、客の相談に対して適切な本を勧めている処が楽しい。 大学院で中古文学研究室に所属している美希喜は、今回初めて出会った関係にもかかわらず、良いコンビです。 かなりの年齢差があるというのに年代を越えて仲が良い、というのは楽しいですね。 それでも2人、胸の内にある思いを隠して、お互いに様子を窺っているという関係でもあるのですから、愉快です。 軽く読めて、ささやかに古書・グルメも楽しめる連作ストーリィ。気分転換には格好です。 「古本食堂」という題名、古本も売っている食堂? 古本屋の一角で食堂経営?と思ったのですが、要は神保町という町が、古書店も美味しいレストランもある“古本&食堂”のようなもの、ということらしいです。 なお、最終話に登場する丸谷才一「輝く日の宮」、そういえば読んだなぁと久しぶりに思い出しました。 第一話.「お弁当づくり ハッと驚く秘訣集」 小林カツ代著と三百年前のお寿司 第二話.「極限の民族」 本多勝一著と日本一のビーフカレー 第三話.「十七歳の地図」 樋口譲二著と揚げたてピロシキ 第四話.「お伽草子」とあつあつカレーパン 第五話.「馬車が買いたい!」 鹿島茂著と池波正太郎が愛した焼きそば 最終話.「輝く日の宮」 丸谷才一著と文豪たちが愛したビール |
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