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1.ゲームセットにはまだ早い 2.紺碧の果てを見よ 3.革命前夜 4.雲は湧き、光あふれて 5.神の棘 6.くれなゐの紐 7.エースナンバー−雲は湧き、光あふれてNo.2− 8.帝冠の恋 9.また、桜の国で 10.夏は終わらない−雲は湧き、光あふれてNo.3− |
夏の祈りは、夏空白花、荒城に白百合ありて |
惑星童話、キル・ゾーン、女子高サバイバル、女子高サバイバル−純情可憐編 |
「ゲームセットにはまだ早い」 ★★ | |
2017年04月
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スポーツ小説は多々ありますけれど、野球が何と言ってもダントツに多い。一番ポピュラーということもあるのでしょうけれど、一人一人の個性を出しやすいスポーツという点も大きいのではないかと思います。その中でも高校野球が特に多く、社会人野球(池井戸潤「ルーズヴェルト・ゲーム」)は変わり種と言うべきでしょう。 野球を楽しむというコンセプトは、野球を舞台にした人生ドラマをたっぷり楽しめるという本書の魅力に通じます。お薦め! |
「紺碧の果てを見よ」 ★★☆ | |
2018年08月
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関東大震災の日から敗戦の日まで。浦賀で育った兄と妹の2人を軸に、太平洋戦争を描き通した物語。 戦争を知らない世代である須賀さんがこうした戦争小説を書いたということに、まず鮮烈な思いを受けます。 ※海軍上層部に関する作品を読みたいと思われたら、阿川弘之「井上成美」がお薦め。ご参考までに。 |
3. | |
「革命前夜」 ★★☆ 大藪春彦賞 | |
2018年03月
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須賀作品は本書で3冊目ですが、クラブ野球、太平洋戦争、そして今回は音楽ものと、毎作まるで題材が異なるので困惑する気持ちが多分にありました。 冒頭、戸惑う部分が多かった所為か中々波に乗れなかったのですが、中盤に至ってようやく乗ってきました。前半ストーリィに乗れなかった理由は、そもそも主人公の気分にリンクしていたようです。 なお、東独崩壊という展開に、25年前に読んだノンフィクションの杉山隆男「きのうの祖国」を思い出しました。東独崩壊という出来事を単純に喜ぶ人ばかりではなかった事実に衝撃を受けた覚えがあります。 |
「雲は湧き、光あふれて」 ★★ |
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高校野球を題材にしたスポーツ小説、中編3篇。 中編ですから各篇描き尽くせていないという印象は拭えず、その点では物足りなさも感じますが、それはそれとして各篇の読後感は爽やかです。 「ピンチランナー」は、チームのスラッガー益岡が最後の甲子園を前に腰を故障。リハビリの結果1打席ぐらいは代打で出場できることとなり、その益岡と組み合わされたのが走塁センスチーム一である主人公の須藤。即ち、益岡が代打でヒットを放ったら即代走で出て必ずホームまで戻って来るというのがその役目。 しかし、ベンチ入り選手の二枠をそんな2人で奪ってしまって良いのか? 「甲子園への道」の主人公は、野球のことなどまるで疎い新人スポーツ記者の泉千納(ちな)。地区予選で有力校の東明の投手=木暮よりコールド負けしてしまった公立校・三ツ木の投手=月谷に興味を持ってしまった千納。そこから千納のスポーツ記者としての道は開けるのか。 「雲は湧き、光あふれて」は、甲子園大会出場を勝ち取ったものの、太平洋戦争の影響で大会が中止されるという悲哀を味わった野球部ナインを描いた篇。 若者たちの夢を自分たちのエゴで踏みつけして何の恥じることもないやり方は、やはり間違いであると思って止みません。 ※なお、本篇の題名は全国高等学校野球選手大会の歌「栄冠は君に輝く」の冒頭の言葉。 ピンチランナー/甲子園への道/「雲は湧き、光あふれて」 |
「神の棘」 ★★★ |
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2015年08月
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5年前に刊行された作品の文庫化ですが、書評家の大矢博子さんの「展開も人物も驚くほどブラッシュアップされており、既刊と“格”が違う」という言葉を信じて読んだところ、大正解。 まさに歴史小説の傑作と言って間違いありません。 冒頭は1934年、ヒトラー率いるナチスが台頭し、教会弾圧が強まる一方にあるドイツが舞台。 家族を失うという悲劇を共に持つかつての学友2人、神に救いを見いだして修道士となったマティアス・シェルノ、対照的に弁護士という成功者の道を選んだアルベルト・ラーセンが再会するところからストーリィは始まります。しかし、実はアルベルト、教会弾圧のまさに実行部隊であるSS保安情報部所属。2人の道が今や大きく分かれたことが描かれます。 その冒頭から、ワクワクするような面白さ。 第二次大戦、ナチスドイツの非道極まる史実を背景にしているだけに不謹慎かもしれませんが、ナチスが凶暴化の一途を辿って行く過程を描いた歴史物語として面白さ、マティアスとアルベルトという正反対の道を辿る2人を対照的に描いた冒険的かつ運命的な物語の面白さに加え、人間とは・・・人間の魂とは・・・という根源的な洞察・追求を極めていく点で、読み応えたっぷり、終始ハラハラドキドキが絶えることなく、そして人間を語って実に深い処のある作品となっています。 なお、冒頭に登場しただけですぐ姿を消してしまうのですが、行き倒れていたマティアスを救い、アルベルトの実兄でもあるフランシスコ会の修道士テオドールが本ストーリィにおいて重要な存在になっています。なにしろ2人の道が分れる起点となった人物なのですから。 これだけでも十分に傑作なのですが、終盤、多少曖昧にされていた出来事の真相が明らかにされるという展開が待ち受けており、いったいこの作品はミステリだったのか?!と驚愕。 本書を読みながらずっと考えていたことは、西欧社会においてキリスト教とはどんな存在なのか。そして、ナチスドイツと軍国日本に共通点はあったのか、相違点は何だったのか。さらにまた、敗戦後の米軍の振舞いはどうだったのか、ということ。 面白さと考えさせられるという2つの面で、これだけの作品はそうあるものではありません。是非、お薦め! 序章/1.天使祝詞/2.燃えるがごとき憂慮をもって/3.恩寵の死/4.聖都/5.神の棘 |
「くれなゐの紐」 ★★ | |
2019年03月
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東京駅前には丸ビル、浅草には12階の凌雲閣がそびえた時代。 中学3年・15歳の鈴木仙太郎は停学処分〜夏休みという期間を利用して、自殺偽装して姿を消した長姉ハルを探す為、ひとり上京して凌雲閣の展望台に佇みます。 そこで出会ったのが、浅草六区を仕切る少女ギャング“紅紐団”の団長である千倉操。 生活の糧を得るには少女姿の方が便利と知った仙太郎は、姉を探す為もあり、操に懇願して紅紐団に入団します。もちろん女装し少女センとして。 凌雲閣という建物、少年ギャング団や少女ギャング団の存在。最後で本ストーリィの時代は大正12年と明らかにされるのですが、大正という時代がどんなものであったのか実感で知らず、まるでファンタジー世界での物語のように感じられます。 様々な理由で親元を離れ、詐欺や売春などで生きる少女たち、彼女たちを家族として守る存在である紅紐団・・・・。 そして壊滅したはずの少年ギャング団との闘争、丸ノ内を仕切る黒蝶団との闘争というストーリィは、思いの外の息もつかせぬ面白さです。 さしづめ、現実とは思えぬ世界に遊ぶ面白さ、と言えます。 その一方で、終盤に至り全体像が見えてきてはっきり感じられたことは、本ストーリィは主人公である鈴木仙太郎の冒険物語であるということ。 15歳の身でひとり上京、女装し、幾つものギャング団の幹部たちと渡り合い、姿を消した姉を探し出し、秘められていた陰謀に立ち向かい・・・・。 しかし、そこはやはり須賀しのぶさん。単なる冒険活劇物語の根底で、若い女性たちが自由に生きる道を選択できなかった時代の悲哀と苦衷を描き出しています。 架空世界における冒険活劇物語であると同時に、現代社会から遡り女性が自由に生きることが困難だった時代を描く社会要素を含んだ、読み応えたっぷりのストーリィ。お薦めです。 序章/1.浅草十二階/2.椿姫/3.花蛇/4.花売娘/5.白白明/終章 |
「エースナンバー−雲は湧き、光あふれて−」 ★★☆ | |
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高校野球に題材を取った連作小説“雲は湧き、光あふれて”シリーズ第2弾。 高校生、部活スポーツ、そして野球と揃うと爽快なストーリィが予想され、本書もその例外ではありませんが、本シリーズに関しては試合での勝ち負けを突き抜けた痛快さを覚える処が何と言っても魅力。 連作という小説形式を取ることによって、特定の主人公に捉われることなく、俯瞰した視点を持てるところがそうした楽しさを味わえることに繋がっていると感じます。 「監督になりました」は、前作の2篇目「甲子園への道」に登場した公立高校・三ツ木が舞台で、前作以前のストーリィ。 野球に関しては全くド素人だというのに、転勤した途端いきなり野球部監督に指名された若い生物教師=若杉、27歳が主人公。中庸がモットーだったというのに、3年生選手の熱心さに引きずられ、いつしか熱血教師に変貌していくところが面白く、気分も好い。 「甲子園からの道」は、上記「甲子園への道」で主人公だった新人記者=泉千納(ちな)が主人公。甲子園取材チームに選ばれた千納、真夏の太陽が照りつける甲子園球場のアルプススタンドを一日中駆け登り降りします。 「主将とエース」は、再び三ツ木を舞台にした「甲子園への道」以降のストーリィ。主人公は、エース兼キャプテンとなった月谷悠悟と、昨年揉め事を起して退部したもの再び入部した笛吹龍馬の2人が主人公。 何はともあれ、野球部員の意識が変わり猛練習を始めたからと言ってそう簡単に強くなる訳ではない、という至極ごもっともな展開が、むしろ本作では楽しく快い。 今後のストーリィ展開がとても楽しみです。 監督になりました/甲子園からの道/主将とエース |
「帝冠の恋」 ★☆ | |
2016年09月
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バイエルン王国の王女ゾフィーは、オーストリア皇帝フランツ一世の皇帝妃となった姉カロリーネらに請われて、皇帝の跡継ぎの目されるオーストリア大公フランツ・カールに嫁ぎます。 ナポレオンによって神聖ローマ帝国が崩壊され、ハプスブルク家が支配するのはオーストリア帝国一国に縮小されたといっても、まだまだハプスブルク家の威光は大きなもの。 夫のフランツ・カールは冴えない凡人で家族から不評あったにもかかわらずゾフィーが結婚を応諾したのは、自ら第二のマリア・テレジアとなり、オーストリア帝国を盛り立てるという決意があったからこそ。 ところが嫁いですぐ開かれた舞踏会で、ゾフィーは運命的な出会いをします。その相手は、フランツ一世の娘でナポレオンの皇后となったマリー・ルイーズが産んだナポレオンの遺児=ライヒシュタット公爵フランツ。 ナポレオン勢力を警戒する宰相メッテルニヒによって監禁されるが如く行動を制限されて育ってきた少年。ゾフィーより6歳下の13歳ながら、その美貌と優雅さで一気の女性たちの関心を惹きつける一方、宮廷一の美貌と称される叔母ゾフィーに好意を寄せます。 オーストリア帝国を支える存在になろうとする大公妃ゾフィーの歩みと並行して、ゾフィーとフランツの運命的な恋を描くという絢爛な歴史絵巻。 2008年04月集英社コバルト文庫から刊行された作品を加筆修正しての再刊です。 ハプスブルク家といえば、藤本ひとみさんの傑作「ハプスブルクの宝剣」を思い出さずにはいられませんが、本書の時代はそれより後の時代ですから、比較して何となくこじんまりした印象は否めません。 それでも史実に即して描いた運命的な恋の行方、オーストリア宮廷における歴史絵巻は、読み応え十分です。 序/1.黄金の檻/2.鷲の子/3.希臘(ギリシャ)の王/4.天の軍勢/終章/香寿たつきインタビュー |
「また、桜の国で」 ★★☆ |
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2019年12月
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1938年、日露混血の青年=棚倉慎は外務書記生としてワルシャワの在ポーランド日本大使館に着任します。 日本はかつて、ロシア革命と内乱で孤児となったポーランド人の子供たち(シベリア孤児)大勢に手を差し伸べたことがあり、ここワルシャワでは彼らが組織した「極東青年会」を中心に日本への親密感に満ちていた。 しかし、ナチスドイツによるポーランド侵攻、日独伊三国同盟の締結、日米開戦と、ポーランドと日本の友情をあくまで守ろうとする酒匂大使や慎ら大使館職員の意に反して激動の歴史は動いていく。 そうした中で慎は、日本に対するポーランドの友情を裏切らない証となるため、単身となっても最後までポーランドの人々の為に尽くそうと決意する。 ナチスドイツ侵攻、その後のソ連侵攻により第二次大戦後ソ連の衛星国となった等々最低限の知識は持っているつもりだったのですが、本ストーリィを読むとポーランドについて何も知らなかったのだなぁと恥じる思いがします。 そして、歴史としての知識ではなく、ナチスドイツ侵攻により虐殺され続けるという過酷な運命を負ったワルシャワ住民の姿をリアルなストーリィの中で見てしまうと、胸の張り裂けるような気がします。 もはや何の言葉も不要、ただただ本ストーリィに圧倒されるばかりです。 本書題名である「また、桜の国で」の意味は、うっすらと想像がつきますが、どういう状況で誰と誰との間で交わされたかが、とても重要なこと。是非、読んでみてください。 なお、本作を読んで既視感を抱いたのは、帚木蓬生「総統の防具」を思い出した故。ベルリン、ワルシャワという舞台の違い、またその視点に多少の違いはあっても、混血の日本人青年が欧州という現地でナチスドイツが行った非道の目撃者となるストーリィという点では共通するものを感じます。 私の中では並び立つ、忘れられない歴史小説の力作2篇です。 1.平原の国へ/2.柳と桜/3.開戦/4.抵抗者/5.灰の壁/6.バルカン・ルート/7.革命のエチュード/終章 |
「夏は終わらない−雲は湧き、光あふれて−」 ★★ |
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甲子園を目指す高校野球児たちを描いた“雲は湧き、光あふれて”シリーズの第3弾。 連作短篇小説という内容であった前2作と異なり、今回は長編ストーリィ。すなわち、甲子園を目指す最後の夏に向かい、いよいよ三ツ木高校野球部のナインたちが躍動します・・・の筈でしたが、中々思い通りにはいかないもの。 卒業した中村に代わって正捕手となった鈴江が試合中のプレーで自信を失い、もうボロボロ。それどころか、鈴江の状態は悪化するばかり。どうする若杉、月谷、そして主将の笛吹? 野球部小説というと、勝ってこそ、という展開の作品が多いのですが、本作はちょっと違うようです。 元々は公立高校の弱小野球部。いくら切磋琢磨し鍛え上げたからといって、相手もそれは同じこと。そう簡単には進みません。やった!と喜ぶことより、悔しい思いを噛み締めることの方が遥に多いナインたち。 むしろそうであって当たり前なのでしょう。全国高校野球大会で甲子園に出場できる高校など僅か一握り。大多数の高校野球部の部員たちは悔しい思いを胸にするのですから。 所詮過ぎ去ってしまえば、勝ち負けは一時だけのこと。それよりも、仲間同士がどこまで共鳴できるか、お互いにどこまで信頼し合えるか、それを試されるような時間が続きます。そこにこそ本作品の真骨頂がある、と言えるでしょう。 月谷悠悟、笛吹龍馬、鈴江弘毅たちの躓いたり、悪戦苦闘したりする姿が快感。また、マネージャーである瀬川茉莉の頑張りも見逃せません。 一方、必然的に、スポーツ記者である泉千納の出番が余りないところは、少々残念。 ※さて、本シリーズこれで完結なのでしょうか。それについては全く触れられていませんが。 |
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