ジャスパー・フォード作品のページ


Jasper Fforde 1961年英国ウェールズ生。高校卒業後映画の世界に飛び込むが、撮影助手を約10年勤めた後小説を書き始める。「文学刑事ザーズディ・ネクスト」がベストセラーとなり、シリーズ化。

 
1.文学刑事サーズデイ・ネクスト1
−ジェイン・エアを探せ!−

2.文学刑事サーズデイ・ネクスト2−さらば、大鴉−

3.文学刑事サーズデイ・ネクスト3−だれがゴドーを殺したの?−

 


 

1.

●「文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!」● ★★☆
 
原題:
"The Eyre Affair"      訳:田村源ニ




2001年発表

2003年10月
ソニー・マガジンズ刊
(1800円+税)

2005年09月
ヴィレッジ
ブックス化



2005/07/30



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英文学好きには堪えられない一冊。
ディケンズシェイクスピアブロンテ等々の名作が目白押しに登場してくるのですから。

舞台は1985年のイギリス。といっても、我々の世界とはちと異なる世界。ロシア帝国とのクリミア戦争は未だ続いていますし、空の旅はジェット機でなく飛行船で。また、イギリスはウェールズ共和国と敵対している、といった風。

本書の主人公は、サーズデイ・ネクストという36歳の独身女性。クリミア戦争の帰還兵で、現在は特殊な能力を必要とする特別捜査機関(通称:スペックオプス)の「S-37文学刑事局」に属する有能な文学刑事です。
そのサーズデイが対決する相手は、超人的な能力を持ち世界第三位の悪人と言われる、凶悪犯アシュロン・ヘイディーズ

事件の発端は、発明家であるサーズデイの伯父マイクロフトが本の中へ入ることのできる装置<文の門>を発明したこと。
アシュロンがそれに目をつけ、ディケンズ「マーティン・チャズルウィットの登場人物クウェイヴァリーを本の中から引きずり出して殺してしまうという暴挙に出る。
それを見せしめに、次は主人公マーティンを殺すぞとアシュロンは恐喝にかかります。
そしてサーズデイが奮闘の末漸くアシュロンに迫ると、アシュロンは何とC・ブロンテ「ジェイン・エアの世界に逃れてしまうのです。サーズデイもアシュロンを追って同小説の中へ。その中でサーズデイは、ロチェスターと協力してアシュロンと対決することになります。

ところがこの「ジェイン・エア」、私が昔読んだ結末とどうも違うようなのです。
それもその筈、小説の中でのサーズディとアシュロンの対決の結果、結末が変わってしまうのですから。
そして、ジェインとロチェスターの恋に絡むようにして、サーズデイ自身の恋も最後の最後で大逆転。
第32章〜第35章という最後の4章は、圧巻!という面白さです。

あえてストーリィを紹介してしまいましたが、 521頁とそれなりに分厚い一冊。予めストーリィを知っている方が読んでみよう!という気持ちになってもらえるのではないかと思うからです。
また、本書には楽しめるストーリィ要素が沢山ありますから、あらすじを知ったからといって決して楽しさが減るものでもありません。

困難に負けず、ハードなアクションを繰り広げるヒロイン、サーデイズ・ネクストが何といっても魅力。
難敵アシュロンも凄い。そして、そのアシュロンに立ち向かえるのはサーデイズ唯一人、という展開にはワクワクします。と言っても、彼女は決して鉄の女ではなく、失った恋の傷に今なお苦しんでいるという、女らしさも兼ね備えた若い女性です。

古典的英文学作品を題材に繰り広げられるストーリィも、英文学好きには堪らない楽しさ。是非続編も読みたいものです。
なお、「ジェイン・エア」は中学1年の時に一度読んだきり。本書を読んで無性に再読がしたくなりました。

    

2.

●「文学刑事サーズデイ・ネクスト2 さらば大鴉」● ★★
 
原題:
"Lost in a Good Book"      訳:田村源ニ




2002年発表

2004年09月
ソニー・マガジンズ刊
(2000円+税)



2005/08/20



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前作に続くストーリィ。
前作での活躍のおかげで宣伝に利用される日々ですが、ランデンと結婚し妊娠も判って、サーズデイにとってはまずまず幸せな日々。
ところがとんでもないことが起こります。ジャック・シットの弟シット=ハウスが時間警備隊と組んでランデンを2歳の時の自動車事故で死なせてしまい、現世界からランデンが消え失せてしまう。シットの交換条件はただひとつ、ポオの詩「大鴉」の中からジャック・シットを連れ戻してくること。
邦訳の副題には「さらば大鴉」とありますが、本書ストーリィにおいて「大鴉」が関わるのは僅かな部分、コレ、本書内容を誤解させる副題です。

前作では、小説の世界の中に飛び込むというところに面白さがありましたが、本書では小説の中の登場人物たちが集まる“ジュリスフィクション”という世界が登場し、サーズデイはジュリスフィクションとサーズデイの現実世界を股に掛けて活躍します。

本書での圧巻は、ジュリスフィクションにおいてサーズデイのブックジャンプ指南役となるミス・ハヴィシャム(ディケンズ「大いなる遺産」)の人物像造形とその強面の活躍ぶり。
さらに、そのミス・ハヴィシャムと赤の女王(「不思議な国のアリス」)のライヴァル争いがあったり、サーズデイがカフカ「審判」の法廷に呼び出されたり、マイクロフト伯父「ギリシア語通訳」シャーロック・ホームズの兄として登場したりと、文学作品好きには堪えられない面白さが一杯です。

冒頭、ストーリィの波に乗るまでは本の厚さにげんなりしそうになりますが、ミス・ハヴィシャム登場後は楽しいばかり。本の厚さが、たっぷり楽しめるものとして逆に嬉しくなります。
オースティン「分別と多感」、シェイクスピア等々と数多くの文学作品が登場する楽しさ! 第3巻も是非読みたいものです。

 

3.

●「文学刑事サーズデイ・ネクスト3 だれがゴドーを殺したの?」● ★☆
 
原題:"The Well of Lost Plots"      訳:田村源ニ




2003年発表

2007年01月
ソニー・マガジンズ刊

上下
(各2600円+税)



2007/03/06



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前巻で愛する夫ランデンを根絶されたサーズデイは、さらなる敵の攻撃から我が身の安全を図るため、ブックワールド(本の中の世界)、その中でも売れそうもない小説「カバーシャム・ハイツ」の中に逃れます。
そこでミス・ヘヴィシャムの指導の下、ジュリスフィクション(物語の内容保護に努める保安機関)の見習い保安員となったサーズデイは、様々な小説の中でのトラブルに奔走・翻弄させられ続けることになります。

そうした展開の所為か本巻でのストーリィは散発的で、つまらないゴタゴタがあてどもなく続くばかり、という気がしてきます。とはいえ、ジュリスフィクションに関わるストーリィの一方でエイオーニスがサーズデイの記憶を操り、サーズデイの記憶の中からもランデンを消そうと触手を伸ばしてき、ついにサーズデイはランデンの記憶を失ってしまう。
兄アシュロンの復讐を成し遂げようとするエイオーニス・ヘイディーズとの対決、夫ライデン復活という本来の主ストーリィは遅々として進まず、今回はあまり面白くないなぁとため息せざるを得なくなります。

その一方、登場する作中人物はひきも切らず。
ジュリスフィクションのオフィスがオースティン「分別と多感内ノーランドパークに存在するとあってマリアンヌが登場しますし、他にもマクベスの三人の魔女、フォールスタッフ等々。「から騒ぎ」のベアトリスがベネディックに対して相変わらず舌鋒鋭いのは、彼女のファンとしては嬉しいところ。
この辺りでは、ミス・ヘヴィシャムが仲裁役を演じられた嵐が丘エドガー、キャサリン、イザベラらとヒースクリフの間に繰り広げられる猛烈なせめぎ合いを見れるところが、何といって魅力。
ただ、どの作中人物もほんの少し登場するだけで、本格的な脇役に至らないのが残念。

最後にサーズデイが奮闘し、“ウルトラワード”という新型OSを導入しようとしている一味に逆転勝利を収めるというスリリングな展開が楽しめますが、下巻も後半に至ってやっとということですから、もう待ちくたびれましたよ。


※“文学刑事サーズデイ・ネクスト”シリーズ続刊
第4巻:Something Rotten,    2004
 


  

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