エーリヒ・ケストナー作品のページ No.1


Erich Kastner  1899〜1974年 ドイツの作家。皮職人の息子としてドレースデンに生まれる。ライプチヒ大学でドイツ文学、歴史、哲学、フランス文学などを学ぶ。1928年「エーミールと探偵たち」により世界的な児童文学作家としての名声を確立。ナチス政権下での反戦作家としても有名。


1.エーミールと探偵たち

2.点子ちゃんとアントン

3.飛ぶ教室

4.エーミールと三人のふたご

5.ふたりのロッテ

6.動物会議

7.サーカスの小びと

8.小さな男の子の旅


雪の中の三人男、一杯の珈琲から、消え失せた密画、ケストナーの「ほらふき男爵」

→ ケストナー作品のページ No.2

 


 

1.

●「エーミールと探偵たち」● ★★★
 
原題:"Emil und Die Detektive" 




1928年発表

1953年09月
岩波少年文庫
2000年06月
新訂版
(640円+税)

1962年07月
ケストナー少年
文学全集第1巻
(岩波書店)


1999/12/25

児童文学の傑作、そして大人が読んでも間違いなく夢中になって読んでしまう本です。
主人公
エーミールは、一人でノイシュタットからおばあさんのいるベルリンまで列車で旅します。しかも、胸のポケットには、お母さんから言付かった140マルクという 大金を持って。
ところが、車中で眠り込んでしまったエーミールが目をさますと、お金がなくなっている! 犯人は同室にいた山高帽の男に違いない。エーミールの大追跡が始まります。
エーミールを助けるのは、ベルリンの街で知り合った警笛のグスタフ、教授君、ちびの火曜日君ほか、多くの子供たち。
犯人を追跡する彼らの作戦と行動は大人顔負けの見事なもの、大人のサスペンス小説と比べて、少しも遜色ありません。大人が読んでも楽しめるという理由は、この点にあります。
そして、少年たちの力で犯人逮捕を成し遂げてしまうという、その連帯感、行動力は、実に見上げたものです。

本書は、ケストナーにとって初めての小説であるだけに、いろいろな面白さが詰め込まれています。最初に主要な登場人物・場所が紹介されるのもユニークですし、エーミールの従姉妹ポニー・ヒュートヘンに対する少年たちの男の子らしい反応も、気持ちがわかるだけに愉快です。
エーミールとお母さんの関係は、ケストナー自身の母子関係をそのまま感じさせます。また、おばあさんのスピーチは素晴らしいの一言に尽きます。
本書は、児童文学の原点と言って良い作品だと思います。

 ※映画化 → 「エーミールと探偵たち」

   

2.

●「点子ちゃんとアントン」● ★★★
 原題:"Punktchen und Anton" 


1931年発表



2000年09月
岩波少年文庫

新訂版
(640円+税)

1962年07月
ケストナー少年
文学全集
第3巻
(岩波書店)

 

1996/12/29
2004/02/01

点子ちゃんは想像力豊かな、お金持ちの一人娘ですが、母親といえば着飾ってパーテイに行くことばかり夢中。一方、友達のアントンは勇敢な少年ですが、母一人子一人、母親は手術で退院したばかりで貧乏な境遇です。
ストーリィは、点子の家庭教師・アンダハルトが婚約者で泥棒のローベルトに貢ぐため、点子を連れ出して一緒に乞食の真似をさせたり、ローベルトが点子の家に泥棒に入るのを手伝ったり、というもの。
ストーリィだけを取り上げるなら、不自然な点もいろいろとありますが、そんなことは問題ではありません。それより、アントンと母親の関係が、ケストナー自身の母子関係を投影していることに注目されます。
その他、アントンが行く床屋の主人とか、
ベルタ、アントンの担任教師プレムゼル先生とか、悪餓鬼クレッペルバイン等、登場人物が多彩なことに 目を惹かれます。
本作品では、章毎にケストナーの子供たちに対する「反省」の言葉が挿入されていて、子供達に、大切なことを優しく説きあかしてくれています。

久しぶりに読み直すと、家庭環境・貧富の差に影響されることなく、点子アントンがしっかりとした親友関係を結んでいる素晴らしさに感動します。
大人の世界とは別に、子供は子供なりのきちんとした世界がある、というケストナーの主張を感じます。
物乞いの真似や、空想事を演じて愉快な点子はユニークな少女ですが、「ぼくは、あなたとくらべたって、恥ずかしくない人間です」と堂々と主張するアントンの誇りも素晴らしい。
ケストナー作品の素晴らしさを改めて感じます。(04/02/01)

※「点子」は、生まれて1年間小さかったことから、ルイーゼについた仇名

 ※映画化 → 「点子ちゃんとアントン」

 

3.

●「飛ぶ教室」●  ★★★
 原題:"Das fliegende Klassenzimmer"


1933年発表



1962年05月
ケストナー少年
文学全集第4巻
(岩波書店)




1983年01月
講談社文庫刊
2003年12月
新訂版
(495円+税)

2014年12月
新潮文庫化


1999/12/23


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私が子供の頃からの愛読書です。
改めて読んでも、その新鮮さ、感動は少しも変わりません。それどころか、反戦作家ケストナーの強いメッセージが感じられる作品です。ずっと読み続けられて欲しい名作だと思います。
本書を読み始めるや否や、すぅーっとケストナーの世界に引き込まれてしまう。その辺りは流石と言わざるを得ません。いかにケストナーが子供の気持ちを理解していたか、それ故のことと思います。

本書はクリスマスの物語。舞台はキルヒベルクにある高等中学校の寄宿舎です。
登場人物は、父親に捨てられた孤児で作家志望の
ヨーナタン・トロッツ(ジョニー)、優等生で絵が上手いけれど家が貧乏なマルチン・ターラー、腕力が強いけれどいつもお腹を空かしているマチアス・ゼルプマン、金持ちの子供だけれどチビで臆病のウリー・ジンメルン等の生徒たち。そして、彼らが慕う正義先生、禁煙さん
彼ら少年たちは、大人に負けず劣らず、それぞれに悩み、苦しみを抱えています。子供だからといって決してひとくくりにできる存在ではないし、一様に幸福だなどとは言えない人生を背負っています。しかし、彼らには“勇気”があります。それがこの作品の素晴らしい点です。“純真”とか“無垢”というありきたりな少年世界は、この作品では用無しなのです。
冒頭でケストナーは、「賢さを伴わない勇気は乱暴であり、勇気を伴わない賢さなどはくそにもなりません! 世界の歴史には、おろかな連中が勇気をもち、賢い人たちが臆病だったような時代がいくらもあります」と述べています。そんなケストナーの考えを、 本書は体現した作品です。
主人公たちは、ただ賢いだけでなく勇気をもち、そして他人の気持ちを察していたわる優しさを備えています。大人になってもそんな気持ちを失っていない存在が、正義先生、禁煙さんです。本書では、心から感動を覚える場面がいくつもあります。

なお、「飛ぶ教室」は彼らが演じるクリスマス劇の題名。「授業、現地検証になる」というジョニー創作による5幕劇です。

※映画化 → 「飛ぶ教室」 

   

4.

●「エーミールと三人のふたご」● ★★☆
 原題:"Emil und die drei Zwillinge"


1934年発表



2000年7月
岩波少年文庫
(680円+税)

1962年8月
ケストナー少年文学全集
第2巻
(岩波書店)

 


1996/12/14

エーミールと探偵たちの続編。
教授君がお祖母さんからバルト海岸沿いの別荘を相続し、招待されたエーミールら子供達が再び冒険をするという2年後のストーリイです。
何より感じることは、書かれているのは子供達のことですが、それは決して子供の世界のことではなく、大人とまったく同様の社会を子供たちが経験する、というストーリィだということです。つまり、言い換えれば、社会の出来事に大人も子供もないわけで、それにも拘らず子供達が工夫して難局を切り抜ける、というストーリィなのです。

登場人物は例によって、警笛のグスタフ、エーミールのいとこポニー・ヒュートヘンちびの火曜日君ハンス・シュマウフ。さらに曲芸一家である三人のバイロンが登場します。
今回、エーミールたちは「探偵たち」の映画上映のアイサツに登場して報酬をもらったり、新聞で募金を呼びかけたりして、困っている少年のために奮闘します。そして、多くの子供達が彼らに応えて協力します。
こういうことが普通に行われれば、理想的な社会だと思います。子供社会だけのことではなく、大人社会にも同じことが言えます。
また、最後の場面で登場するエーミールのおばあさんの言葉は感動的です。「自分は喜んで、しかも相手には黙っていっそう大きな犠牲を払いながら、(相手の)犠牲を感謝の心で受け容れるのは、容易なことではないよ」というもの。
素晴らしい、そして何より大事な人生教訓です。こんな言葉がさりげなくストーリイの中に織り込まれている、ケストナー作品の素晴らしさだと思います。

 

5.

●「ふたりのロッテ」● ★★★
 
原題:"Das doppelte Lottchen"




1949年発表

1962年5月
ケストナー少年
文学全集
第6巻
(岩波書店)


1995/03/12

まさに名作!と言いたい作品です
子供向けであっても、内容の豊かさ、真摯さは、大人にとっても無縁なものではありません。大人が子供に教えられる、というストーリィで、心が温かくなる一冊です。
夏季休暇で村にある子供に家に出かけた
ルイーゼは、そこで自分にそっくりな少女ロッテに出会います。やがて2人は自分たちが 双子であること、両親が離婚したことを知ります。
ふたりの意見が一致したのは、「あたしたちを半分に分けてよいかどうか、まずあたしたちに、たずねなくちゃいけなかったんだわ!」ということ。
休暇後、2人は入れ替わってそれぞれの家へ戻ります。ロッテはウィーンの父親の元へ。一方、ルイーゼはミュンヘンの母親の元へ。そこから後の愛情溢れるストーリィは、読んでのお楽しみです。
この作品の根底には、ケストナー自身の家庭状況、母親に偏向した事実があるように思います。自分と瓜二つの兄弟がいて、両親が揃った明るい家庭、ケストナーの理想である家庭観を見る思いがします。現代の、すぐ安易に離婚してしまう夫婦の多い状況下では、特に見直すに適した作品かもしれません。
ルイーゼとロッテの両親の離婚は、お互いに若く、幼かったためと説明されています。

 ※映画化 → 「ファミリー・ゲーム」

 

6.

●「動物会議」● ★★
 原題:"Die Konferenz der Tiere"




1949年発表

1962年6月
ケストナー少年
文学全集
第8巻
(岩波書店)

 

1999/12/27

絵本向けの3作品を収録。
表題作の
「動物会議」は、会議を繰り返すばかりで少しも物事を改善しない人間たちに業を煮やして、世界中の動物たちが集まって会議を行うという強烈な皮肉を含んだ作品。
ノアの箱舟の如く、いろいろな動物から代表が集まるのですが、その様子が動物ごとの特色をうまく捉えていて、とても楽しいです。また、その会議の目的は世界中の人間の子どもたちのためというのですから、ケストナーの熱い思いがそのまま伝わってきます。
会議の中心となるのは、ライオンのアロイス、象のオスカール、キリンのレオポルト
動物たちが人間たちに条約を締結させようと、圧力をかけるというストーリィもなかなかに面白いです。そして、漸く人間に契約させたというその条約は、
1.国境をなくす、2.軍隊・武器をすべてなくす、3.殺人科学は研究しない、4.役所と役人は最小限に減らす、5.今後一番良い待遇を受ける役人は教育者とする(以上要約)
というのですから、その時から少しも人間は前進していないと動物たちに指摘されても仕方ないようです。

動物会議       原題:Die Konferenz der Tiere” 1949
腕ながアツルール   原題:Arthur mit dem langen Arm” 1932
魔法をかけられた電話
 原題: “Das verhexte Telefon”

 

7.

●「サーカスの小びと」● ★★
 原題:"Der kleine Mann"

 

1963年発表

1964年8月
ケストナー少年
文学全集
別巻
(岩波書店)

 

1997/06/21

小びとのメックスヒェン・ピヒェルシュタイナーヨークス・フォン・ポークスとの友情を描くストーリィ。
メックスヒェンの両親(身長50cm前後)は、小人の村から出てきて、サーカス団に加わりましたが、エッフェル塔へ登った時に風に吹き飛ばされ行方不明。残されたメックスヒェンは、魔術師のヨークスに引き取られます。
メックスヒェンは、マッチ箱をベッド代わりにするくらいの小ささ。でも、メックスヒェンとヨークスのやり取りを聴いていると、楽しく、心がほのぼのとしてきます。ユーモアたっぷりの会話、紛れもない友情が感じられる2人の関係、それが本作品の魅力だと思います。
そんなメックスヒェンがヨークスと組んでサーカスの舞台へ登場すると、人気大沸騰。そうなると、メックスヒェンを誘拐する人間も出てきますが、ヤーコプという少年に助けられます。
2人を取り巻く人々も、とても気持ちが良いです。ヨークスの恋人であるトランポリン三姉妹のローザ・マルチパン嬢、サーカスの団長であるブラウゼウェッター氏
こんな人たちばかりの社会だったら、どんなに生活が楽しいことでしょう。
初期のケストナー作品に比べると、落ち着き過ぎているという気もしますが、その根底にあるものはなんら変わりありません。ケストナー作品の素晴らしさを感じるのみです。

 

8.

●「小さな男の子の旅」●  ★★




1927・29年発表

1996年1月
小峰書店刊
(1165円+税)


1999/12/26

ほんの一息で読めてしまう短篇2作です。 2作ともケストナー初期の作品で、母親に関わるストーリィです。本当に短いけれども、ケストナーらしさがキラリと光っていて感動を覚えます。
「小さな男の子の旅」は、少年フリッツが列車、市電を乗りついで、病院に入院しているお母さんを訪ねる話です。入院費のお金をしっかり持っている点に、エーミールを連想させられます。お母さんはしゅようの手術をしたばかりで、苦しそうな顔をして眠っています。母子の深い絆とフリッツの気丈さを感じさせられて、せつなくなります。
「おかあさんがふたり」 8歳のマーレーネのお母さんはもう亡くなっていますが、父親が再婚して新しい母親を迎えることになりました。他の5人の子どもたちはそのリスベートをすんなり迎え入れましたが、マーレーネはひとりお墓のところにいます。リスベートは彼女を迎えに行きますが、自分も母親が早く死に、ずっとひとりぼっちで不幸せだったと語ります。リスベートに対するマーレーネの仕草がとても優しくて、胸にジーンときます。幸せが大きいのは、二人のうちどちらなのでしょうか。

小さな男の子の旅  原題:“Ein kleiner Junqe unterwegs”
おかあさんがふたり 
原題:“Zwei Mutter und ein Kind”

 

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