9月9日(占冠村 上トマム→新得) 
 全駅間歩き5日目(41.5km)

距離 着時 発時
宿屋 7:30
11 落合 13.1km 10:02 10:30
狩勝峠 9.8km 12:23 13:25
新内駅跡 7.5km 14:50 15:30
12 新得 11.1km 17:54
 今日は、上トマムから狩勝峠を越えて、
 十勝地方の西の玄関口・新得へ向かいます。

 トマム駅と新得駅を直線で結ぶと、
 両者の距離は20km弱しかありません。
 とはいえ、この区間では、
 鉄道も一般道路も峠越えが待っているため、
 両者を結ぶ距離はこれよりも長くなります。
 とりわけ、歩いてトマムから十勝地方へ向かうには、
 狩勝峠まで回り道をしなければならず、
 今日歩く距離も40kmを越える見込みです。

 狩勝峠は今回の最高地点であり、最後の難所でもあります。
 そのため、まず休憩もかねて根室本線の落合駅に立ち寄り、
 その後国道38号で狩勝峠を越え、十勝側に入って新内駅跡にも立ち寄ることにしました。


 歩行距離が40kmを越えるとなれば、
 もちろん朝から歩かないと途中で日が暮れてしまいます。
 宿屋の朝食は7時半からと聞いていたので、
 朝食食べてから出発したのでは、予定がカツカツになると思っていたのですが、
 今シーズンから朝食が6時半から食べられるようになったそうで、思ったよりも早く出発できそうです。

 天気はあいにくの曇り空です。
 関東で記録的な豪雨を降らせた雨雲がいよいよ近づいてくるようです。
 明日の雨は回避できそうに無いので、せめて今日だけでも最後まで天気が保つことを願います。



 
 予定より30分早くホテルを出発しました。
 歩き出してまもなく、上トマム集落の中心にさしかかりました。

 トマム駅から4km以上離れた所にある集落でしたが、
 思ったよりもしっかりした集落で、中心部には小中学校もありました。


 上トマムの集落を抜けて10分あまり歩いたところで、南富良野町に入りました。
 南富良野町に石勝線の駅はありませんが、2つの信号場があります。
 カントリーサインは、かなやま湖とカヤックでしょうか。

 市町村界といえば、川とか山とかわかりやすい場所にあることが多いのですが、
 ここの境界は荒れ地となった「平原」の中にありました。
 ところがこの地点も、実は勾配変更点になっています。
 よ〜く見ると、右写真の地点から緩やかな下り坂が始まっていますよね。

 しかも、これが太平洋側と日本海側を分ける分水嶺だったりします。
 もっとも、狩勝峠を越えればまた太平洋側に戻るわけですが。


 緩やかな下り坂が始まりました。
 道は、民家も無い深い森の中を下っていきました。


 深い森の中を30分ほど歩くと、シェルターが見えてきました。
 まもなく、石勝線の串内信号場が見えてきました。

 信号場は道路と並行していて、
 3本の列車が同時に交換・待避できる造りになっています。


 
 深い森を進みながら、石勝線の線路を何度かアンダークロスしました。

 こちらはずっと下り坂を下っていますが、
 だいたい同じ高さでアンダークロスするので、線路も下っていることが分かります。

 石勝線はこの先にある新狩勝トンネルで峠越えするため、
 最高地点は峠越えのトンネル・新狩勝トンネルの中と思われがちですが、
 実は、トマム駅を出てすぐの地点、第二串内トンネルの入口が最高地点なんだそうです。


 そして、いよいよここまで来ました。
 …といっても、この写真じゃ何がなんだか分かりませんね。

 右手に続く道は、新狩勝信号場へと続いています。
 新狩勝信号場は、新狩勝トンネル内に設けられた、石勝線と根室本線が合流する信号場です。
 石勝線の線路は、ここで根室本線に合流して、そのまま十勝地方へ向かいます。

 とはいえ、こちらはそのまま線路を追いかけることはできないので、
 今歩いている道をさらに北へ進まなければなりません。

 ここからは、落合駅へ向かう根室本線の線路に沿って進むことになります。
 目の前に見えている2つのガードも根室本線のものです。


 
 狩勝峠を越える国道38号が近づいてきました。

 国道38号を東に向かい、狩勝峠を越えるのが新得への最短ルートですが、
 1km弱寄り道するだけで、南富良野町の落合集落に立ち寄ることができます。
 狩勝峠に向かう前に、休憩もかねて落合集落に寄り道したいと思います。


 国道38号を少し西へ歩いて、落合集落に入りました。

 集落の雰囲気は、昨年歩いた釧網線の緑集落と似た感じで、
 山奥の集落という言葉が似合う集落でした。
 郵便局に寄った後、駅へ向かいました。


 落合駅に着きました。
 もちろん、東京都新宿区にある駅のことではありません。
 ここまで石勝線の駅を歩いてきましたが、この駅は根室本線の駅です。

 かつては狩勝峠越えに備えた機関区も設けられていたこともあり、広い敷地を有しています。
 今となっては「だだっ広く」なってしまった感もあり、それが余計に山奥まで来たことを感じさせます。
 そんな静かな雰囲気の駅ですが、今日は駅の裏手でなにやら自然体験を行っていたようで、
 黄色い歓声が漏れ聞こえてきました。


 待合室で駅ノートを読んでいると、帯広行きの列車が到着しました。
 誰も降りないと思いきや、地元の方と思しき男性が一人降りてきました。


 
 落合駅のホーム端から新得方向を撮ってみました。

 現在の根室本線は、写真奥のトンネルを通って新狩勝トンネルへ向かいますが、
 新狩勝トンネルができる前は、実際に狩勝峠を越えて新得方面へと向かっていました。

 トンネルの手前から左方向に線路が延びているのが分かるでしょうか。
 現在は事業用車が進入するだけと思しき行き止まり線路ですが、
 これが狩勝峠を通過していた頃の根室本線の線路なんだそうです。


 いよいよ今回最後の難関、狩勝峠に挑みます。
 天気は相変わらず曇り空ですが、頂上までは保ってくれるはずです。


 いよいよ峠越え区間に入りました。
 緩やかな右カーブを抜けると、長いストレートが始まりました。

 この直線は、実に4km以上続きました。
 このあたりの登り坂は、登っているかも分からないくらい緩やかなものでした。
 30分以上こんな景色が続くので、ちょっとだるくなってしまいました。


 長い直線が終わり、緩やかなカーブが続くようになると、
 坂を登っているのがはっきりと分かるようになりました。

 とはいえ、3日目に嫌と言うほど味わった6〜7%といった急勾配ではないので、
 思っていたよりも楽に進むことができました。


 「谷」の向こうに狩勝峠が見えました。
 あの峠を越えた先には、間違いなく十勝地方が広がっています。

 とうとうここまでやって来ました。

 でも、あんな遠くまで行かなきゃいけないの?

 この「谷」、結構距離ありそうだよ。
 迂回するなんて、どんだけ歩かないといけないんだ??


 さて、目の前に立ちはだかる「谷」ですが、
 かつては、ここに根室本線(旧線)の狩勝信号場がありました。
 線路は、ここからトンネルで狩勝峠の直下を通過し、新得方面に向かったそうです。

 今となっては、うっそうとした森が覆い繁るばかりで、
 国道からはっきり分かる名残を見つけるのは難しいところですが、
 おそらく写真左下に見える築堤のような構造物は、旧線の線路跡だと思われます。


 頂上目指して、さらに国道を進みました。
 緩やかな上り坂を進みながら、谷を迂回しました。

 峠の頂上まであと一息です。
 身体が暑くなってきましたが、3日目のあの地獄に比べれば…。


 狩勝峠の頂上に到着しました。
 落合駅から10km近い道のりでしたが、
 峠の勾配がそれほどキツくなかったおかげで、一気にここまで歩くことができました。

 さすがに体中暑くなってしまいましたが、
 強い風が吹いていたおかげで、見る見るクールダウンしました…


 ん?強い風はもういいよ。
 ええっ、まだ吹き続けるの??
 ちょっと、それ寒すぎるんですけど。

 さっきまで暑かったのが嘘のように、今度は寒くなってしまいました。
 どこか屋内に逃げ込もうにも、ドライブインは閉鎖中。
 トイレってわけにもいかず、あずまやに飛び込むのが精一杯でした。
 フリースにさらに上着まで着込んだあげく、
 それでも寒いので、キャンプ用バーナーを取り出して、生湯を湧かす始末…。

 ここのドライブインは営業していると思い込んでいたので、
 昼食もまともに食べることができず、非常食のドーナツをつまんで食べることに。

 頂上でゆとりの休憩…のはずが、
 寒さに凍える休憩時間になってしまいました。
 峠の頂上って、こんなに風が吹いているんですね。


 
 狩勝峠から眺めた十勝側の景色です。
 これを見たいがために、ここまで苦労して登ってきたんだよぉ。

 狩勝峠からの眺めは、新日本八景のひとつに数えられているそうです。
 さらに、ここを通過していた頃の根室本線の車窓は日本三大車窓のひとつに数えられていました。
 いずれも納得のすばらしい景色でした。

 欲を言うなら、スッキリ晴れて欲しかった。


 頂上からは、根室本線旧線の跡も見えます。
 線路1本分の路盤跡と、それに並行するように電柱も見えます。

 落合側の旧線跡は荒れ放題の場所が多いそうですが、
 十勝側は、線路跡に沿って狩勝トンネルの手前まで歩くことができるそうです。
 さすがに、今回歩いている時間はなさそうですが。


 ここからはいよいよ十勝地方です。
 あとは市街まで峠を下っていくだけとはいえ、
 目指す新得駅は、まだまだ20km近く先です。


 狩勝峠を越えると、まもなくシェルターが連続する区間に入りました。
 所々ぬかるんでいたんですけど、こういう歩車分離ゾーンがあるとやっぱり安心です。

 あれほど強く吹き荒れていた強風も、少し進むだけでたちまち気にならなくなりました。


 延々と下り坂が続きました。
 登りの時よりも、心持ち勾配が急だったような気がします。

 途中のPAからは、根室本線旧線の撮影地としても知られた「大カーブ」が見られたそうなんですが、
 それに気づいたときにはすでに通過してしまった後でした。


 途中で国道を外れ、こんな場所に寄り道しました。
 9600型SLが客車3両とともに静態保存されていました。


 ここは根室本線旧線の新内駅跡です。
 ホームと駅名標が当時を物語るように残されていました。

 「駅舎」は、廃止後に列車ホテルの事務所として造られたものだそうで、
 ホテル営業がなくなった現在は、土日営業のカフェとして使用されているそうです。
 そして、ホームに停車している機関車と客車が、その客室として使用されていたそうですが、
 現在は、やはり土日営業の記念館として使用されているそうです。

 今日は水曜日なので、どっちも営業していなかった。残念!


 現在、新内駅の近くにはサホロリゾートや保養施設があるくらいで、民家はほとんどありませんが、
 かつてはこの地区には数百人ほどの開拓移民が暮らしていたそうです。


 このまま新得へ下ろうかと思ったのですが、
 ちょっと時間に余裕がありそうだったので、エコトロッコを運転してみることにしました。
 所要時間は約6〜8分。これなら大丈夫です。

 何年か前、仁宇布で乗ったトロッコはバイクを運転するような感じでしたが、
 こちらは軌道用自転車をそのまま使用しているため、自転車に乗るような感じでした。
 それでも調子に乗っていると、そこそこスピードが出て、機械から注意されてしまいましたが(汗)。

 コースの終盤で新内駅のホームに進入しました。
 まさに列車を運転しているような気分です。


 運転後、エコトロッコの係員の方から狩勝峠越えの話を聞くことができました。
 現在の石勝線・根室本線は新狩勝トンネルを越えると、
 180度のカーブを2回切って新得駅へ向かっていますが、
 新線の構想段階では、道東道のように新得市街を経由しないルートが計画されていたそうです。
 町の衰退を懸念した新得町民から反対の声が上がり、現在のルートに変更されたそうです。
 あのカーブはてっきり短い距離で高さを稼ぐための処置とばかり思ってました。

 新内地区は地域の衰退も進んでいたことから、
 1966年の新線開通とともに鉄路からは切り離されてしまいましたが、
 もし現在まで駅があれば、「サホロ」とか名前を変えて、
 トマム駅のような立場の駅になっていたかもしれませんね。


 新内駅からは、「ポッポの道」を歩くことにしました。
 この道は、根室本線旧線の線路跡です。

 エコトロッコの係員から、歩くならオススメだけどクマには気をつけてと言われました。
 そう言われて歩き出すと、路上に黒い塊が転がっていました。
 もちろん、フンです。


 まだそんなに古くなさそうなフンでしたが、誰のフンなんでしょうか。
 気になって調べてみると、場合によってはヒグマがこんなフンをするんだそうです。

 ただ、馬のフンにも似ています。
 このあたりの乗馬クラブでは乗馬体験をやっていて、ここを通ることもあるそうなので…

 馬のフンだと信じることにします。


 しばらく足を進めると、
 小笹川橋梁にさしかかりました。
 土木遺産にも指定されてるアーチ橋です。

 遊歩道をずっと歩いていると、
 橋の表示がなければ見落としそうな場所ですが、
 橋の手前から下に降りることができて、
 レンガ積みのアーチ橋を眺めることができます。

 ただ、草がよく覆い繁っていて
 ちょっと歩くだけでもなかなか大変でした。
 それこそ、ヒグマがガバッと出てきても
 おかしくない雰囲気でした。
 
 
 小笹川橋梁を過ぎたあたりから、長い長い直線が始まりました。
 この直線は、新得駅の手前まで延々5km近くにわたって続きました。


 少し進むと、左手に鉄塔が見えました。
 これは無線鉄塔です。

 根室本線としての役割を終えた、新得−新内間の線路は、
 列車の走行実験を行う「狩勝実験線」として利用されることになりました。
 ここでは、様々な実験が行われ、実際に列車を脱線させるような実験も行われました。
 ここでの実験結果は、瀬戸大橋をはじめとした様々な鉄道線の敷設に活かされることになりました。

 脱線させるような列車に乗務員を乗せることはできなかったため、
 列車を自動操縦させたり、データを送受信したりするために、このような無線鉄塔を設けたそうです。


 直線を歩きはじめて30分が過ぎましたが、まだ終わりが見えませんでした。

 足下が土なので、足に当たるショックは小さいのですが、
 地面が意外とボコボコしているため、思ったよりも歩きにくく、
 写真を撮らずに歩いても、歩くスピードはなかなか上がりませんでした。

 時々牧草地が顔を覗かせるようになりましたが、
 景色の変化は乏しく、12分歩いて1kmという時間経過ばかりが気になるようになりました。
 日没までに新得駅に着けるのか、少し不安になりました。


 さらに30分歩いて、ようやく石勝線・根室本線の線路が見えてきました。
 新線と旧線がそろって川を渡りました。


 ようやくポッポの道を抜けると、新得市街が見えてきました。
 周囲はもう薄暗くなっていました。


 新得駅に着きました。
 なんとか真っ暗になる前に人里に降りてくることができました。

 新得駅の駅舎は、リゾート感を漂わせる西洋風の駅舎でした。
 新得町は北海道の重心にあたる場所ということで、
 駅前にはヤジロベェのモニュメントも設置されていました。

 ついにここまで来たという思いもあったからか、
 駅舎の入口が自動ドアだったことになぜか感動してしまいました。


 ホームに向かうと、ちょうど帯広行きの「スーパーとかち」が到着しました。
 写真がボケボケなのはご愛敬ということで。

 石勝線を歩くというペーパープランがついに現実のものになりました。
 待合室のベンチに腰を下ろすと、石勝線踏破の達成感がこみ上げてきました。
 ここを歩けたんだから、もうどこでも歩けるんじゃないかと思ってしまいました。

 そう思い出したとたん、疲れもどっと出てしまい、
 宿屋まではあと200メートルほど歩くだけにも関わらず、
 再び腰を上げるまでに10分近く時間がかかりました。



 そして、駅から5分ほど歩いて、今日の宿屋に着きました。
 コインランドリーがある宿と聞いていたので、早速洗濯しようと思ったのですが、
 今日は満室ということで、あいにく全部フル回転状態でした。
 じゃあ、時間を変えて…と思ったのですが、深夜帯は使用不可ということでこれも玉砕。
 仕方が無いので、汗を流した後に別の服に着替えることにしました。

 夕食後、近くの「新得町営浴場」に行くことにしました。
 ここは公衆浴場なんですが、お湯はトムラウシ温泉から運んできてるという「温泉」浴場です。

 宿屋への帰り道、額に雨粒がぽつっと当たりました。
 ここまでよく天気保ってくれたよ。


 クマ撃退スプレーやキャンプ用ガスといった「物騒な」品物はここで送り返すことにしました。
 送り返す品物を袋に入れると、やっぱり結構な重さでした。

 明日は全駅間歩き最終日。
 これなら明日は気楽に歩けそうです。


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